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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない H01C
管理番号 1041549
審判番号 審判1996-8663  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 1996-05-28 
確定日 1997-04-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の登録第2018215号実用新案「固定抵抗器」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 [1]手続の経緯
本件登録第2018215号実用新案(以下、本件登録実用新案という)は、昭和58年4月15日に出願した実願昭58-56863号の一部を平成2年1月19日に新たな実用新案登録出願としたものであって、出願公告(実公平5-32962号公報参照)後の平成6年5月24日に設定の登録が行われたものである。そして平成8年5月28日付けで本件登録実用新案に対して本件無効審判が請求され、それに対して平成8年9月30日付けで被請求人により審判事件答弁書及び訂正請求書が提出され、その後の平成9年1月20日付けで請求人より審判弁駁書が提出されたものである。
[2]請求人の主張
これに対して請求人は、甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、本件登録実用新案は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることが出来たものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることが出来ないものであり、その登録は同法第37条第1項第1号の規定により無効とすべきものであると主張している。
[3]被請求人の主張
一方被請求人は、請求人の主張に対して、請求人が提示した甲第1号証ないし甲第4号証に記載された考案は、本件登録実用新案の特徴とする新規な技術思想を何等開示ないし示唆するものではないから、請求人の主張は誤りであると主張している。
[4]証拠
(1)、 そして、請求人の提出した本件考案の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(米国特許第4207552号明細書、1980、6、10)には、「従来型の筒状の金属端子コネクター17は、端子ピン12と絶縁電線19の露出端18にクリンプされ、後者は、電源に接続される。コネクターは、その後Fig2の点線20で示す範囲でクリンプされる。コネクター17は、クリンプ操作後、端子ピンと接続電線の一端を電弧溶接することが望ましいことが判明しているが、これは常に必要と言うことではない。(公報第1欄下から2行目?同第2欄第12行目)」と記載され、
(2)、同甲第2号証(実願昭47-28501号(実開昭48-105038号)のマイクロフィルム)は、「固定抵抗器」に関し、「本考案は一端に両リード線を通す溝又は穴を設けた部分と、凹部を持つ磁器筐体に、抵抗体素子の両端に嵌合されたリード端子の一方のリード線をコの字状に折り曲げて凹部に収容するので一方向に2本のリード線を取り出す他は全部磁器筐体内に納まる。収容後凹部間隙には耐熱性充填材を注入して成形されるので機械的、電気的に安定した一方向リード型固定抵抗器である。(公報第1頁第19行目?同第2頁第7行目)」と記載され、
(3)、同甲第3号証(実願昭49-155861号(実開昭51-78935号)のマイクロフィルム)は、「筒形ヒューズ」の考案に関し、筒形端子2につき「1はガラス製の筒形例えば円筒状の保護管、2、2は筒形端子で、この筒形端子2、2は径大部3、3及びこれに連接する径小部4、4を一体に形成して成り、外周を電気的絶縁物5、5で被覆している。そして、前記筒形端子2、2は、その径大部3、3を前記保護管1の両端部外周に夫夫嵌合して接着等により固着している。6は可溶体としてのヒューズ線で、これは両端部を前記筒形端子2、2の径小部4、4の基端部側における開口部分に半田付けにより夫々固着し、以って両筒形端子2、2に電気的に接続している。7、7は前記筒形端子2、2に夫々接続されるリード線である。・・・まずリード線7、7の一端部の被覆を剥離して心線7a,7aを露出させ、各リード線7、7の一端部を各筒形端子2、2の径小部4、4内に夫々挿入し、然る後、圧着具(図示せず)にて各筒形端子2、2の径小部4、4をかしめ、以て各リード線7、7を各径小部4、4従って筒形端子2、2に電気的且つ機械的(抜脱不能)に接続するものである。(公報第3頁第8行目?同第4頁第10行目)」と記載され、
(4)、同甲第4号証(米国特許第3949189号明細書、1976、4、6)には、「熱伝達材料Hの断面形状は、チャンネルメンバー10内部空洞とパイプの部分11によって限定される領域と同じであり、空隙や空間を生じないようにする。(公報第2欄第34?39行目)」と記載されている。
[5]訂正事項
本件訂正の内容は、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第4条第1項の規定によりなおその効力を有し、同条第2項の規定によって読み替える旧実用新案法(以下、旧実用新案法という)第40条第2項第1及び3号の規定による実用新案登録請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、(1)実用新案登録請求の範囲の「抵抗接続部および電線接続部を背中合せに有する金属キャップにより抵抗素子と芯線を露呈させた被覆電線とを接合して抵抗器本体を構成し、その抵抗器本体を開口部面と反対側のパイプ等に取付けられる側の面の長手方向に端から端まで凹状の溝を有する矩形のセラミックケース内に挿入するとともに、前記開口部を絶縁材料で封止し、かつ前記セラミックケースの長手方向の端面より被覆電線のみを外部に引出した固定抵抗器。」の記載事項を、「抵抗接続部および電線接続部を背中合せに有する金属キャップにより抵抗素子と芯線を露呈させた被覆電線とを接合して抵抗器本体を構成し、その抵抗器本体を開口部面と反対側のパイプ等に取付けられる側の面の長手方向に端から端まで凹状の溝を有する矩形のセラミックケース内に挿入するとともに、前記開口部を絶縁材料で封止し、かつ前記セラミックケースの長手方向の両端面より被覆電線のみを外部に引出した固定抵抗器。」に訂正すると共に、(2)実用新案登録請求の範囲の訂正に合わせて、考案の詳細な説明の項の「端面」を「両端面」に訂正し、「連続的」及び「連続」を「直列」に訂正するものである。
[6]訂正事項の検討
本件登録実用新案の要旨を確定するため、本件訂正が旧実用新案法第40条第2項ただし書きに規定する範囲内においてなされ、同項第1及び3号に掲げる事項を目的とし、同条第5項において準用する旧実用新案法第39条第2項及び第3項の規定に適合するか否かについて検討すると、
1、旧実用新案法第40条第2項ただし書きの適否の検討
前記訂正が願書に添付された明細書及び図面に記載した事項の範囲内であるかについて検討すると、願書に添付された明細書及び図面の第4図ないし第6図には、セラミックケースの長手方向の両端面より被覆電線のみを外部に引出す構成が明りょうに記載され、又第6図には、セラミックケースに挿入された抵抗器本体を直列に接続する構成が明りょうに記載されており、前記訂正は、願書に添付された明細書及び図面に記載した事項の範囲内である。
2、旧実用新案法第40条第2項第1号及び第3号の適否の検討
実用新案登録請求の範囲に記載される「端面」を「両端面」に訂正することが実用新案登録請求の範囲の減縮を目的にしたものかを検討すると、用語「端面」は、用語「両端面」の上位に該当する用語であることは、明らかであるため、該訂正は、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的にするものである。
次いで、願書に添付された明細書に記載される「連続的」及び「連続」を「直列」に訂正することが明りょうでない記載の釈明を目的にしたものかを検討すると、「連続的」及び「連続」なる用語は、「リング状」及び「直列」等のいろいろな形状のものを包含する用語であり、必ずしも明りょうな用語ではなく、かつ第6図には、セラミックケース内に抵抗器本体を挿入したものを直列に接続する構成が明りょうに図示されていることをふまえると、「連続的」及び「連続」を「直列」に訂正することは、明りょうでない記載の釈明を目的にするものである。
3、旧実用新案法第39条第2項の適否の検討
前記訂正が実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものかを検討すると、実用新案登録請求の範囲の「端面」を「両端面」に訂正することは、前記1、に記載したように、願書に添付された明細書及び図面の第4図ないし第6図には、セラミックケースの長手方向の両端面より被覆電線のみを外部に引出す構成が明りょうに記載され、又第6図には、セラミックケースに挿入された抵抗器本体を直列に接続する構成が明りょうに記載されており、又、前記2、に記載のように実用新案登録請求の範囲の減縮を目的にしたものであるので、実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
又「連続的」及び「連続」を「直列」に訂正する箇所は、考案の詳細な説明の項であり、かつ該訂正が実用新案登録請求の範囲の記載事項に影響を及ぼすものではないため、実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4、旧実用新案法第39条第3項の適否の検討
実用新案登録請求の範囲を減縮する訂正の結果、訂正後における実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案が実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができるものか検討すると、
4-1、訂正登録実用新案の考案(以下、訂正考案という)の要旨は、訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「抵抗接続部および電線接続部を背中合せに有する金属キャップにより抵抗素子と芯線を露呈させた被覆電線とを接合して抵抗器本体を構成し、その抵抗器本体を開口部面と反対側のパイプ等に取付けられる側の面の長手方向に端から端まで凹状の溝を有する矩形のセラミックケース内に挿入するとともに、前記開口部を絶縁材料で封止し、かつ前記セラミックケースの長手方向の両端面より被覆電線のみを外部に引出した固定抵抗器。」
4-2、訂正考案と甲第2号証のものとの対比
イ、訂正考案の明細書には、目的に関し、「従来、固定抵抗盗に被覆電線を接続して使用する場合、第1図のように一般の固定抵抗器1より外部に出ている端子2に、被覆電線3を結線した端子2に適合挿入できる接続金具4を介して接続している。ところが、この接続部分の絶縁性や耐湿性を確保するため、第2図のように接続部分に絶縁チューブ5を被せ、さらにその上に耐湿性保護材料6を塗布しており、この接続作業に多大な費用を要している。
本考案は、前記従来の欠点を除去するものであり、抵抗素子は従来の技術が使用でき、しかも簡単な構成で抵抗素子と被覆電線を接続することができ、さらに抵抗素子と被覆電線の接続部がセラミックケースの中に絶縁保護されているので、外部で接続作業をする不便を改善し、併せて安価に固定抵抗器と被覆電線が接続できるようにすることを目的としている。また、セラミックケースに凹状の溝を設けることにより、パイプに固定抵抗器を容易にしかも確実に取付けられることをも目的としている。(訂正明細書第1頁第16?第29行目)」と記載され、その効果につき、「本考案の固定抵抗器によれば、金属ギャップを介して抵抗素子と被覆電線が接続されているので従来のような接続金具を用いる必要がない。また、本考案の固定抵抗器によれば、セラミックケースの開口部面と反対側のパイプに取付けられる面の長手方向に端から端まで凹状の溝を有し、かつこの溝の長手方向に平行にセラミックケースの端面より被覆電線のみが外部に出ているので、固定抵抗器をパイプに取付金具で固定する場合、被覆電線が邪魔にならず取付性が良好である。 しかも、被覆電線がパイプの長手方向と平行であるので、線の引き廻しが最短でよく経済的であり、さらにパイプ途中で被覆電線を保持することも容易で、配線美化にも貢献する。(訂正明細書第3頁第8?第16行目)」と記載されている。
ロ、これら記載に基づけば、本件考案は、抵抗素子と被覆電線の接続時の技術的問題並びに固定抵抗器をパイプに取り付ける際の技術的問題を解決するという課題のもと、実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用し、前記特有の効果を奏するものであり、訂正考案と比較するための近接技術としては、抵抗体1とリード線3とを接続する端子2を有し、磁器筺体5内に充填剤によって封止される技術を開示する甲第2号証記載のものが他のものに比べ適正であるため、訂正考案と甲第2号証記載のものとを比較する。
ハ、甲第2号証記載の端子2については、「抵抗体1の両端に嵌合される」としか記載されていないが、図面の形状及び端子としての機能を併せみれば、該端子2は、具体的形状は異なるも訂正考案の「金属キャップ」に相当し、また磁器筐体5は、特に第1図(A)及び(B)、さらには第2図(B)によれば、訂正考案の「開口部を有する矩形のセラミックケース」に相当するため、両者は、「抵抗接続部および電線接続部を有する金属キャップを備えた抵抗器本体からなり、その抵抗器本体を、開口部を有する矩形のセラミックケース内に挿入するとともに、前記開口部を絶縁材料で封止し、前記セラミックケースの長手方向の端面より電線のみを外部に引出した固定抵抗器。」の点で一致し、次の3点で相違する。
▲1▼訂正考案は、抵抗器本体を、「抵抗接続部および電線接続部を背中合せに有する金属キャップにより抵抗素子と芯線を露呈させた被覆電線とを接合して構成し」ているのに対し、甲第2号証記載のものは、「抵抗接続部および電線接続部を有する金属キャップにより、金属キャップと抵抗素子を嵌合し、金属キャップとリード線とを接続して構成し」ている点。
▲2▼訂正考案のセラミックケースは、「開口部面と反対側のパイプ等に取付けられる側の面の長手方向に端から端まで凹状の溝を有する」のに対し、甲第2号証記載のものは、そのような構成を有しない点。
▲3▼訂正考案は、「セラミックケースの長手方向の両端面より被覆電線のみを外部に引出し」ているのに対し、甲第2号証記載のものは、「セラミックケースの長手方向の一端面よりリード線のみを外部に引出し」ている点。
ニ、訂正考案と甲各号証との検討
ニ-1、一般に、ある発明の進歩性を、ある引用例に記載されたものに他の引用例に記載される技術を適用することによって判断する場合には、それぞれの引用例に記載される技術の関連性等、動機づけの有無が重要な要素となることは、広く知られた事項である(特許庁発行「特許・実用新案審査基準」、第II部特許要件、第2章新規性進歩性、2、5進歩性の判断の手法、第12?13頁参照)。
ニ-2、そこで相違点について検討すると、甲第1号証記載のものは、前記[4](1)記載のとおりであるところ、コネクター17は、2つの部材を背中合せに有する金属キャップに相当するが、2つの部材は、一方は芯線を露呈させた被覆電線ではあるが、他方は抵抗素子とは異なる端子ピン12であり、例え2つの部材を接合によって接続するものであったとしても、訂正考案が抵抗素子と芯線を露呈させた被覆電線との接続に関するものであり、訂正考案と比べ技術分野を異にするものであると共に、両者間に動機づけとなる技術的関連性を認めることはできない。即ち甲第1号証記載のものは、前記相違点1のごく一部の構成を有するものにすぎず、該甲第1号証記載のコネクター17に関する技術を甲第2号証記載の端子2に転用することが当業者にとってきわめて容易であると言うことは出来ない。
甲第3号証記載のものを検討すると、甲第3号証記載のものは、前記[4](3)記載のとおりであるところ、甲第2号証記載のものを抵抗素子と電線との接続具としてとらえ、甲第3号証記載の筒形端子2の技術的関連性をみた場合、ヒューズ線6が抵抗素子であり、且つその明細書に記載される「6は可溶体としてのヒューズ線で、これは両端部を前記筒形端子2、2の径小部4、4の基端部側における開口部分に半田付けにより夫々固着し、以って両筒形端子2、2に電気的に接続している。(公報第3頁第14?18行目)」の事項に基づけば、筒形端子2を抵抗素子と電線との接続具とみなし得るため、甲第2号証記載の端子2との置換可能性について考えてみると、筒形端子2は、訂正考案の「金属キャップを抵抗接続部および電線接続部を背中合せにする」という構成は有しているが、抵抗素子とキャップとの接続手段で相違している。この相違は、甲第2号証記載のものが嵌合によって接続される抵抗素子を対象にしているのに対し、甲第3号証記載のものは半田付けによって接続されるヒューズ線を対象にすることに起因するものであり、本質的な相違である。即ち、特に甲第3号証記載のものは、ヒューズに関するものであり、その抵抗素子は細線から形成され、そのために半田付けという接続手段を採用しているのである。言ってみれば、甲第3号証記載の筒形端子2は、ヒューズ特有のキャップであり、該キャップを抵抗素子との接続手段が異なる他の抵抗素子のキャップとして使用することは、他の証拠、例えばヒューズ線をキャップに接合によって接続する手段が周知技術であるというような証拠が存しない以上、当業者にとって容易想到であるということが出来ない。
即ち甲第3号証記載のものは、前記相違点1のごく一部の構成を有するものにすぎない。
又、甲第1号証記載のものの一部と甲第3号証記載のものの一部とを甲第2号証記載のものに転用することにより相違点1を構成できるかについては、それぞれの技術の一体性及び動機づけの不存在等に基づけば、その余地はないものである。
ニー3、甲第4号証記載のものを検討すると、甲第4号証記載のものは、前記[4](4)記載のとおりであるところ、甲第4号証記載の熱伝達材料Hの形状は、熱伝達効果を最大限発揮するための形状として、パイプPと接する部分の形状をパイプPとの間で空隙や空間を生じさせない形状としているのであり、訂正考案のセラミックケースで言うならば、その開口部面をパイプに当接させるものに他ならず、相違点2の構成と明らかに異なり、また他に何等かのケースをパイプに取り付けるに際し、相違点2のような凹状の溝をケース面に設けるような技術が公知である等の事実、別言すれば、甲第4号証記載の技術に基づき相違点2が容易想到であるとする動機づけとなる事実はなく、甲第4号証記載のものから即前記相違点2が容易想到であるとすることはできない。
即ち、本件考案は、被覆電線を特に採用することにより、相違点1からなる抵抗器本体を構成するとともに、該抵抗器本体を相違点2からなるセラミックケース内に挿入することにより固定抵抗器を成している、別言すれば、相違点1及び2からなる事項を有機的に結合することにより固定抵抗器を構成するものであり、これら事項についてはいずれの証拠にも開示又は示唆されておらず、そのため、更に相違点3を検討するまでもない。
なお、請求人は、実用新案登録請求の範囲に記載される事項をA、B、Cに3分節し、各事項につき論じているが、その内容は、例えばAの一部の事項は、甲第1号証に記載されており、Aの他の事項は、甲第2、3号証に記載されており、それらの技術を寄せ集めれば、前記Aの事項は構成でき、Bについては、甲第2号証のものと主要部は実質的に同一であり、僅かに相違する凹状の溝の有無の相違は、甲第4号証記載のものから容易であるる等の主張に終始しており、各証拠に記載される技術を寄せ集めることができるとする動機づけについては明確な理由を述べているとは思えず、ましてや本件考案の固定抵抗器は、前述したように各事項を有機的に結合してなるものであり、細かい事項が各証拠に開示されるとしても即それらの技術を寄せ集めれば本件考案が構成できるとすることは出来ないことは前述したとおりである。
そのため訂正考案は、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができるものである。
よって訂正請求は、所定の要件を充足するため当該請求を認める。
[7]本件考案に対する判断
1、本件考案の要旨は、訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて、訂正後の実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「抵抗接続部および電線接続部を背中合せに有する金属キャップにより抵抗素子と芯線を露呈させた被覆電線とを接合して抵抗器本体を構成し、その抵抗器本体を開口部面と反対側のパイプ等に取付けられる側の面の長手方向に端から端まで凹状の溝を有する矩形のセラミックケース内に挿入するとともに、前記開口部を絶縁材料で封止し、かつ前記セラミックケースの長手方向の両端面より被覆電線のみを外部に引出した固定抵抗器。(以下、本件考案という)」
2、甲号証の記載事項
甲第1号証ないし甲第4号証の記載事項については、前記[4]の項参照。
3、請求人の主張に対する検討
この理由は、本件考案は、甲第1号証ないし甲第4号証記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるというものである。
そこで、本件考案と甲第1号証ないし甲第4号証記載のものとを比較検討すると、本件考案が前記訂正後の考案と同じであるところから、訂正後の考案と甲第1号証ないし甲第4号証記載のものとを比較検討した前記[6]3(旧実用新案法第39条第3項の適否の検討)の項に記載したとおりのものとなる。
従って、本件考案は、甲第1号証ないし甲第4号証記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることが出来たものであるとすることが出来ない。
また、他に本件考案を拒絶するべき理由を発見することもできない。
[8]分割出願の適否について
請求人は、審判弁駁書において、
1、「セラミックケースの開口部面と反対側のパイプに取付けられる面の長手方向に端から端まで凹状の溝を有し、かつこの溝の長手方向に平行にセラミックケースの端面より被覆電線のみが外部に出ているので、固定抵抗器をパイプに取付金具で固定する場合、被覆電線が邪魔にならず取付性が良好である。しかも、被覆電線がパイプの長手方向と平行であるので、線の引き廻しが最短でよく経済的であり、さらにパイプ途中で被覆電線を保持することも容易で、配線美化にも貢献する。」という効果に関する事項は、元の出願の明細書に記載されておらず、分割の要件を満たしていない。
2、原出願の実用新案登録請求の範囲において、「圧接により接合」と記載されていたが、分割出願においては単に「接合」と補正しており、実質的に実用新案登録請求の範囲を拡大しており補正違反である。
との2点を主張しているので検討すると、
1の点については、原出願の公告公報には、円弧状の溝に関し、「セラミックケースに凹状の円弧の溝を設けることは、パイプに本抵抗器を容易にしかも確実に取付けられることを目的としている。(公報第2欄第21?24行目)」、「又、セラミックケースの一側面に、本抵抗器を取付けるパイプの径に合う円弧状の溝を設けてもよい。(公報第3欄第11?13行目)」及び「又、円弧状の曲面を有する凹部をケースに設けた場合はパイプに安定して取付けられる。(公報第4欄第13?14行目)」の記載、更には第5図、第6図の記載が認められ、これらの記載に基づけば、前記指摘の作用効果を奏するであろうことは、当業者にとって充分推認し得るものであり、該事項が挿入されているとしても、その分割出願が原出願に記載された事項の範囲外の事項を含むものではなく、分割要件に違反するものでもない。
次に2の点については、確かに分割出願は、原出願のものに比べて実用新案登録請求の範囲を拡大したものとなってはいるが、接合手段として原出願に記載のない新たな手段をその明細書で特定しているわけではなく、その記載のみを以て即分割要件に違反するとすることは出来ない。
[9]むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件登録実用新案を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
発明の名称 (54)【考案の名称】
固定抵抗器
(57)【実用新案登録請求の範囲】
抵抗接続部および電線接続部を背中合せに有する金属キャップにより抵抗素子と芯線を露呈させた被覆電線とを接合して抵抗器本体を構成し、その抵抗器本体を開口部面と反対側のパイプ等に取付けられる側の面の長手方向に端から端まで凹状の溝を有する矩形のセラミックケース内に挿入するとともに、前記開口部を絶縁材料で封止し、かつ前記セラミックケースの長手方向の両端面より被覆電線のみを外部に引出した固定抵抗器。
【考案の詳細な説明】
産業上の利用分野
本考案は絶縁性や耐湿性が強く要求される分野に使用される固定抵抗器に関し、特に凍結防止用としてパイプ等に取付けられる固定抵抗器に関するものである。
従来例の構成とその問題点
従来、固定抵抗器に被覆電線を接続して使用する場合、第1図のように一般の固定抵抗器1より外部に出ている端子2に、被覆電線3を結線した端子2に適合挿入できる接続金具4を介して接続している。ところが、この接続部分の絶縁性や耐湿性を確保するため、第2図のように接続部分に絶縁チューブ5を被せ、さらにその上に耐湿性保護材料6を塗布しており、この接続作業に多大な費用を要している。
考案の目的
本考案は前記従来の欠点を除去するものであり、抵抗素子は従来の技術が使用でき、しかも簡単な構成で抵抗素子と被覆電線を接続することができ、さらに抵抗素子と被覆電線の接続部がセラミックケースの中に絶縁保護されているので、外部で接続作業をする不便を改善し、併せて安価に固定抵抗器と被覆電線が接続できるようにすることを目的としている。また、セラミックケースに凹状の溝を設けることにより、パイプに固定抵抗器を容易にしかも確実に取付けられることをも目的としている。
考案の構成
本考案の固定抵抗器は、抵抗接続部および電線接続部を背中合せに有する金属キャップにより抵抗素子と芯線を露呈させた被覆電線とを接合して抵抗器本体を構成し、その抵抗器本体を開口部面と反対側のパイプ等に取付けられる側の面の長手方向に端から端まで凹状の溝を有する矩形のセラミックケース内に挿入するとともに、前記開口部を絶縁材料で封止し、かつ前記セラミックケースの長手方向の両端面より被覆電線のみを外部に引出したものである。
このような構成によると、簡単な構成で抵抗素子と被覆電線を接続できる。しかも、固定抵抗器を開口部を有する矩形のセラミックケースに挿入し開口部を絶縁材料で封止し、セラミックケースより被覆電線部のみ外部に出すことによって、絶縁性や耐湿性が確保できる等、固定抵抗器の取扱い性がすこぶる良くなる。
実施例の説明
以下本考案の一実施例の固定抵抗器を図面を参照して説明する。第3図は本実施例における固定抵抗器を構成する抵抗器本体である。
第3図においては7は金属キャップで、大きい口径を有する抵抗接続部7aおよび小さい口径を有する電線接続部7bが背中合わせに一体成形されている。抵抗素子8の両端部には、金属キャップ7の抵抗接続部7aが挿入され、圧接部7a’で圧接されて取付けられている。また、金属キャップ7の電線接続部7bには被覆電線9が挿入され、圧接部7b’で被覆電線9の露呈された芯線10が圧接されて取付けられている。
以上のように、金属キャップ7により抵抗素子8と被覆電線9とが接合されることによって、抵抗器本体が構成されている。
次に、第4図に示すように、この抵抗器本体を開口部を有する矩形のセラミックケース11に挿入し、開口部を絶縁材料14で封止し、被覆電線15のみをセラミックケース11の長手方向の両端面より外部に引出している。
このようにすれば、金属キャップ7の抵抗接続部7aと電線接続部7bを介して、抵抗素子8と被覆電線9が接続されるので、従来のように複雑な方法で接続する必要がなく大変便利である。次に、第5図に示すようにパイプ等に取付けやすいようにセラミックケース11の開口部面と反対側のパイプ等に取付けられる側の面にパイプ径に適合する円弧状で凹状の溝12が長手方向に端から端まで設けられている。さらに、第4図に示すように、開口面には取付金具がずれないようにする凹状の切欠き部13を設けることにより、本実施例の固定抵抗器が構成されている。
また、第6図は本実施例の固定抵抗器を被覆電線を介して多数個直列に結線した例を示す。
考案の効果
以上のように本考案の固定抵抗器によれば、金属キャップを介して抵抗素子と被覆電線が接続されているで従来のような接続金具を用いる必要がない。また、本考案の固定抵抗器によれば、セラミックケースの開口部面と反対側のパイプに取付けられる面の長手方向に端から端まで凹状の溝を有し、かつこの溝の長手方向に平行にセラミックケースの端面より被覆電線のみが外部に出ているので、固定抵抗器をパイプに取付金具で固定する場合、被覆電線が邪魔にならず取付性が良好である。しかも、被覆電線がパイプの長手方向と平行であるので、線の引き廻しが最短でよく経済的であり、さらにパイプ途中で被覆電線を保持することも容易で、配線美化にも貢献する。
【図面の簡単な説明】
第1図は従来の固定抵抗器と被覆電線の接続を示す斜視図、第2図は従来の固定抵抗器と被覆電線の接続後の絶縁および耐湿性の処置を示す一部切欠斜視図である。第3図は本考案の一実施例における抵抗器本体の正面図であり、第4図は同実施例における固定抵抗器の斜視図である。第5図は同実施例における固定抵抗器の斜視図、第6図は同実施例の固定抵抗器を被覆電線により、多数個直列に結線した一例を示す図である。
1…固定抵抗器、2…端子、3…被覆電線、4…接続金属、5…絶縁チューブ、6…耐湿性保護材料、7…金属キャップ、7a…抵抗接続部、7b…電線接続部、7a’…圧接部、7b’…圧接部、8…抵抗素子、9…被覆電線、10…芯線、11…セラミックケース、12…溝、13…切欠き部、14…絶縁材料、15…被覆電線。
訂正の要旨 (1)実用新案登録請求の範囲の「端面」を、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として『両端面』と訂正する。
(2)平成5年3月1日付け手続補正書第3頁第11行目(公報第3欄第6行目)の「端面」を、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として『両端面』と訂正する。
(3)同書第4頁第19?20行目(公報第3欄第33行目)の「端面」を、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として『両端面』と訂正する。
(4)同書第5頁第14行目(公報第4欄第8行目)の「連続的」を、明りょうでない記載の釈明を目的として『直列』と訂正する。
(5)同書第6頁第19行目(公報第4欄第33行目)の「連続」を、明りょうでない記載の釈明を目的として『直列』と訂正する。
審理終結日 1997-02-19 
結審通知日 1997-02-28 
審決日 1997-03-12 
出願番号 実願平2-3968 
審決分類 U 1 112・ 121- YA (H01C)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 下野 和行小林 秀美  
特許庁審判長 玉城 信一
特許庁審判官 早野 公恵
深井 弘光
登録日 1994-05-24 
登録番号 実用登録第2018215号(U2018215) 
考案の名称 固定抵抗器  
代理人 金平 隆  
代理人 大橋 公治  
代理人 役 昌明  
代理人 平野 雅典  
代理人 役 昌明  
代理人 大橋 公治  
代理人 平野 雅典  

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