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審決分類 |
審判 A46B 審判 A46B |
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管理番号 | 1055170 |
審判番号 | 無効2000-40013 |
総通号数 | 28 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 実用新案審決公報 |
発行日 | 2002-04-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2000-06-08 |
確定日 | 2001-05-23 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第3064130号実用新案「狭窄部内を塗装可能なハケ」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 実用新案登録第3064130号の請求項1、3に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 実用新案登録第3064130号の請求項2、4に係る考案についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その100分の50を請求人の負担とし、100分の50を被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 (1)本件実用新案登録第3064130号の請求項1乃至4に係る考案は、平成11年5月20日に出願され、平成11年9月8日にその考案について実用新案登録の設定登録がされたものである。 (2)これに対し、平成12年6月8日に請求人大塚刷毛製造株式会社より本件の請求項1乃至4に係る考案の実用新案登録について無効審判の請求がなされた。 2.本件考案 本件の請求項1乃至4に係る考案は、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の請求項1乃至4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】毛部と、該毛部を保持する柄部とからなるハケであって、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が、鋭角であることを特徴とする狭窄部内を塗装可能なハケ。 【請求項2】毛部と、該毛部を保持する柄部とからなるハケであって、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が、30?80°であることを特徴とする狭窄部内を塗装可能なハケ。 【請求項3】毛部と、該毛部を保持する柄部とからなるハケであって、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が鋭角であるとともに、前記柄部は、毛部の側面後側を囲繞保持する筒状保持部を有し、その筒状保持部の先端側の周縁は、毛部の先端面に対して平行であることを特徴とする狭窄部内を塗装可能なハケ。 【請求項4】毛部と、該毛部を保持する柄部とからなるハケであって、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が30?80° であるとともに、前記柄部は、毛部の側面後側を囲繞保持する筒状保持部を有し、その筒状保持部の先端側の周縁は、毛部の先端面に対して平行であることを特徴とする狭窄部内を塗装可能なハケ。」 3.請求人の主張 請求人大塚刷毛製造株式会社は、本件の請求項1乃至4に係る考案についての実用新案登録を無効とする、との審決を求め、その理由として、 (1)本件の請求項1乃至4に係る考案は、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである、 (2)さらに、本件の請求項1乃至4に係る考案は、甲第3号証乃び甲第4号証によって本件出願前に公然知られた考案であり、実用新案法第3条第1項の規定により実用新案登録を受けることができないものである、 旨主張し、証拠方法として下記の甲第1号証乃至甲第4号証を提出している。 甲第1号証:実願昭48-124075号(実開昭50-69067号)のマイクロフィルム 甲第2号証:実願昭62-68195号(実開昭63-178530号)のマイクロフィルム 甲第3号証:カタログ「STORCH Die 3.Hand Des Malers」(STORCHWERKE GmbH、 Copyright by STORCHWERKE 1996 )写し(抜粋) 甲第4号証:雑誌「Brushwork」(Airstream Communicationn Ltd.、 1998年発行)の写し(抜粋) 4.被請求人の主張 一方、被請求人は、 (1)本件の請求項1乃至4に係る考案と甲第1号証乃至甲第4号証に記載された考案とは構成効果において明らかに相違するから、本件の請求項1乃至4に係る考案は、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることができない、 (2)本件の請求項1乃至4に係る考案と甲第3号証及び甲第4号証により本件出願前に公然知られた考案とは構成効果において明らかに相違する、 旨主張している。 5.甲各号証に記載の事項 請求人の提出した上記甲第1号証乃至甲第4号証には、それぞれ、次の事項が記載されている。 (1)甲第1号証 上記甲第1号証には、刷毛に関し、図面とともに、「二つの割状把持部(1)に支持壁(2)(2’)を前後に有する毛束挿着用下向き凹陥部(3)を形成せる合成樹脂製柄杆(A)を設け、該凹陥部(3)に毛束(B_(1))の基部を金属帯板(B_(2))等で結束固着せしめた毛束体(B)を挿入固定して成る刷毛。」(実用新案登録請求の範囲)であること、「図面において、(1)は柄杆(A)における二つ割状把持部であって前後に支持壁(2)(2’)をもつ毛束挿着用下向き凹陥部(3)が形成されている。」(第2頁14行?第3頁2行)こと、「(B)は毛束体であって毛束(B_(1))の基部を金属帯板(B_(2))等で挟圧結束し、該部に接着剤を流し込んで固着成形される。」(第3頁14行?第4頁1行)こと、「而してこの毛束体(B)の結束基部を前記柄杆(A)における把持部(1)の下向き凹陥部(3)に装着すれば・・・刷毛が構成できるものである。」(第4頁2?9行)ことが記載されている。 また、その第1乃至3図の記載からみて、毛束(B_(1))の先端面は側面視弧を描くように曲面に形成されていること、毛束(B_(1))の幅方向の一側面と毛束(B_(1))の先端面のなす角度が鋭角とされていることが窺える。 (2)甲第2号証 上記甲第2号証には、ダミ分け塗装用刷毛に関し、図面とともに、「塗装用刷毛において、刷毛毛束(2)の毛足長さを刷毛前端部(3)から後方に向かうに従って順次短く仕上げるとともに、刷毛毛束(2)の厚みも刷毛根本部(4)から刷毛先端部(5)へ向かうに従って順次薄く仕上げたことを特徴とするダミ分け塗装用刷毛である。」(実用新案登録請求の範囲)こと、「刷毛の前端部は幅細の上に厚みも非常に薄く仕上げられている本案では、入り隅の境界線上に刷毛先をピッタリと当てがうことが容易になった他、刷毛腹や後方部の短く仕上げてある為に、出隅部にも毛足がくい込まず刷毛が撥ねて隣接部を汚すことも皆無に成ったので・・・容易にダミ分け塗装が出来ることになった。」(第4頁16行?第5頁5行)こと、「刷毛の前先部を筆のように細作りにした新規性によって、最も難作業とされる入り隅部のダミ分け塗装でも、刷毛先が入り隅の境界線によくフィットして隣接部を汚さずに手際よいダミ分けが容易化された効果は大きい。」(第6頁3?7行)ことが記載されている。 (3)甲第3号証 甲第3号証のその第2頁には、1996年(平成8年)に著作権が発生したことが示されており、その第72頁には、「2Flach-Pinsel-Profi-Qualitat」、「3Fassaden-Pinsel-Profi-Qualitat」、「4Flach-Lackier-Pinsel-Premium-Qualitat」との記載とともに、各ハケの斜視外観写真が示されており、この斜視外観写真からみて、上記甲第3号証に示された各ハケは、毛部と、該毛部を保持する柄部とからなるハケであって、柄部は、毛部の側面後側を囲繞保持する筒状保持部を有し、毛部の先端面がほぼ平坦状にされたものであることが窺える。 (4)甲第4号証 上記甲第4号証の第46頁には、「GUARNTEED MATCH our ferrules fit our handles」の記載とともに、ハケの平面視外観写真が示されており、この平面視外観写真の記載からみて、上記甲第4号証に示されたハケは、毛部と、該毛部を保持する柄部とからなるハケであって、柄部は、毛部の側面後側を囲繞保持する筒状保持部を有するものであることが窺える。 6.当審における判断 6-1 本件の請求項1に係る考案について (1)本件出願前に頒布された上記甲第1号証には、上記甲第1号証に記載された事項からみて、毛束(B_(1))と、合成樹脂製柄杆(A)とからなる刷毛であって、柄杆(A)の二つ割状把持部(1)に前後に支持壁(2)(2’)をもつ毛束挿着用下向き凹陥部(3)を形成するとともに、毛束(B_(1))の基部は金属帯板(B_(2))により挟圧結束して毛束体(B)とし、毛束挿着用下向き凹陥部(3)に毛束体(B)の結束基部を挿着した刷毛が記載されている。また、上記したように、上記甲第1号証に記載された刷毛は、毛束(B_(1))の先端面が側面視弧を描くように曲面に形成され、毛束(B_(1))の幅方向の一側面と毛束(B_(1))の先端面のなす角度は鋭角とされている。 (2)そこで、本件の請求項1に係る考案と上記甲第1号証に記載されたものを対比すると、上記甲第1号証に記載された「毛束(B_(1))」、「合成樹脂製柄杆(A)」、「刷毛」は、それぞれ、本件の請求項1に係る考案の「毛部」、「柄部」、「ハケ」に相当し、また、甲第1号証に記載された合成樹脂製柄杆(A)の二つ割状把持部(1)には、前後に支持壁(2)(2’)をもつ毛束挿着用下向き凹陥部(3)が形成され、該毛束挿着用下向き凹陥部(3)に、毛束(B_(1))の基部を金属帯板(B_(2))により挟圧結束した毛束体(B)の結束基部を挿着するものであり、甲第1号証に記載された合成樹脂製柄杆(A)は、毛束を保持しているといえる。 さらに、上記甲第1号証に記載された毛束の先端面は側面弧視を描くように曲面に形成されているが、毛束の曲面をなす先端面と毛束の幅方向の一側面とのなす角度は鋭角となっている。 なお、被請求人は、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面との間のなす角度が鋭角であることは、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面の双方を平面とすることにより成り立つものであり、本件の請求項1に係る考案における毛部の幅方向の一側面と毛部の先端面は、いずれも平面である旨主張するが、本件の請求項1には、幅方向の一側面と毛部の先端面とを平面で構成することについては何ら記載されておらず、また、上記甲第1号証に示されるように、毛部の先端面が曲面であっても、毛部の幅方向の一側面と毛部の先端面との間のなす角度を鋭角とすることができるというべきであり、本件の請求項1に係る考案における毛部の幅方向の一側面と毛部の先端面は、いずれも平面であると限定して解釈する根拠がないから、被請求人の主張は採用できない。 そうすると、本件の請求項1に係る考案と上記甲第1号証に記載された考案は、毛部と、該毛部を保持する柄部とからなるハケであって、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が、鋭角であるハケの点で一致し、次の点で相違する。 本件の請求項1に係る考案は狭窄部内を塗装可能なハケであるのに対し、上記甲第1号証に記載された考案はその点が明らかでない点。 (3)上記相違点について検討する。 本件出願前に頒布された上記甲第2号証に記載されたダミ分け塗装用刷毛は、刷毛毛束の毛足長さを刷毛前端部から後方に向かうに従って順次短く仕上げるとともに、刷毛毛束の厚みも刷毛根本部から刷毛先端部へ向かうに従って順次薄く仕上げて構成したものであり、上記甲第2号証に記載された刷毛前端部は、刷毛毛束の毛足長さを刷毛前端部から後方に向かうに従って順次短く仕上げられていることからみて、毛束の先端面に対し鋭角状になっているといえる。 そして、上記甲第2号証に記載されたものは、上記構成により、刷毛の前端部は幅細の上に厚みも非常に薄く仕上げられているため、入り隅の境界線上に刷毛先をピッタリと当てがうことが容易になるとともに、刷毛腹や後方部の短く仕上げてあるために、出隅部にも毛足がくい込まず刷毛が撥ねて隣接部を汚すことも皆無に成り、また、刷毛の前先部を筆のように細作りにしたよって、刷毛先が入り隅の境界線によくフィットして隣接部を汚さずに手際よいダミ分けが容易化されるものであるから、上記甲第2号証に記載されたものは、入り隅に刷毛がフィットするように、刷毛前端部を毛束の先端面に対し鋭角状にすることにより、本件の請求項1に係る考案同様、入り隅の塗装を容易に行えるようにしたものといえる。 そうすると、上記甲第1号証に記載されたハケおいて、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度を鋭角にした部分を利用して、入り隅等の狭い部分を塗装するようにすることは、上記甲第2号証に記載された事項を参酌すれば、当業者であればきわめて容易に想到し得る程度のことといえるから、上記相違点であげた本件の請求項1に係る考案の構成は、格別のものとはいえない。 なお、本件の請求項1に係る考案の効果も、上記甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項から予測できる程度のものであって、格別のものではない。 (4)したがって、本件の請求項1に係る考案は、上記甲第1号証及び甲第2号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、本件の請求項1に係る考案についての実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものである。 6-2 本件の請求項2に係る考案について (1)本件の請求項2に係る考案は、本件の請求項2に記載された「毛部と、該毛部を保持する柄部とからなるハケであって、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が、30?80°であることを特徴とする狭窄部内を塗装可能なハケ」を構成とし、本件明細書に記載された「毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が、30?80°とされているので、開口面積が狭くしかも深い溝や孔の内部、またはスペースが狭くてハケの動きが制約される個所の入隅部を一層容易かつ確実に塗装することができる。」(本件明細書段落【0018】)という効果を奏するものである。また、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度を30?80°としたのは、本件明細書に記載された「この角度(θ)が80°を超えると、前記した縁部(5)を十分に突出させることができず、縁部(5)を狭窄部(7)の奥深くまで挿入できないことがある。逆に、この角度(θ)が30°未満であると、緑部(5)近傍の形状が細くなり過ぎる。この場合、緑部(5)近傍の毛に十分な量の塗料を含浸させることかできない。含浸させる塗料の量が十分でないと、塗装の際に縁部(5)近傍の塗科がすぐに不足し、塗装作業を効率よくできない恐れがある。また、角度(θ)が30°未満であると、狭窄部(7)以外の被塗装面、例えば平坦面を塗装しにくくなる。平坦面等の狭窄部(7)以外の被塗装面を塗装する際には、毛部(1)の先端面(4)が使用される。ところが、前記した角度(θ)が30°未満であると、塗装の際に柄部(2)を被塗装面に対して大きく傾斜させる必要が生じて、塗装しにくくなるのである。」(本件明細書段落【0010】)ことによる。 (2)これに対し、上記甲第1号証には、上記6ー1(2)で検討したように、毛部と、該毛部を保持する柄部とからなるハケであって、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が、鋭角であるハケが記載されている。 しかしながら、上記甲第1号証に記載されたハケは、上記甲第1号証の第2図を実測すれば、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が、請求人が主張するように、75°になっているといえないこともないが、この第2図は模式図であり、しかも、上記甲第1号証には、該角度を75°にすることについては何ら記載されておらず、上記第2図は、該角度が単に鋭角になっていることを示しているにすぎないというべきであり、上記甲第1号証に記載された毛部は、狭窄部及び平坦面のいずれの塗装も容易にするために、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度を30?80°とした本件の請求項2に係る考案の毛部とは、その構成及び機能が相違している。 また、上記甲第1号証には、本件の請求項2に係る考案のように狭窄部及び平坦面のいずれの塗装も容易に行えるようにするために、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度を30?80°としたことについて示唆する記載もないから、上記甲第1号証に記載されたものから、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度を30?80°とした本件の請求項2に係る考案の構成を当業者がきわめて容易に想到し得たとすることができない。 (3)上記甲第2号証には、ダミ分け塗装用刷毛に関し、刷毛毛束の毛足長さを刷毛前端部から後方に向かうに従って順次短く仕上げるとともに、刷毛毛束の厚みも刷毛根本部から刷毛先端部へ向かうに従って順次薄く仕上げ、これにより、本件の請求項2に係る考案同様、入り隅の塗装を容易に行えるようにした点が記載されているが、上記甲第2号証には、本件の請求項2に係る考案のように、狭窄部及び平坦面のいずれの塗装も容易にするために、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度を30?80°にすることについては何ら記載されておらず、本件の請求項2に係る考案の毛部とは、その構成及び機能が相違しているといえる。 また、上記甲第2号証には、狭窄部の塗装を容易に行えるようにしたことは記載されているが、本件請求項2に係る考案のように狭窄部及び平坦面のいずれの塗装も容易に行えるようにするために、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度を30?80°ことについて示唆する記載もないから、上記甲第2号証に記載されたものから、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度を30?80°とした本件の請求項2に係る考案の構成を当業者がきわめて容易に想到し得たとすることはできない。 (4)上記甲第3号証は、1996年(平成8年)に著作権が発生したことからみて、少なくとも、本件の出願日である平成11年5月20日以前には頒布されていたとすることができる。 そして、上記甲第3号証の第72頁に「2Flach-Pinsel-Profi-Qualitat」、「3Fassaden-Pinsel-Profi-Qualitat」、「4Flach-Lackier-Pinsel-Premium-Qualitat」との記載とともに示された各ハケは、毛部と、該毛部を保持する柄部とからなるハケであって、柄部は、毛部の側面後側を囲繞保持する筒状保持部を有し、毛部の先端面がほぼ平坦状にされたものであるといえるが、上記甲第3号証には、上記甲第3号証におけるハケの毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が鋭角をなし、しかも、その該角度が30?80°であるとすることを窺わせる記載はない。 なお、請求人は、「4Flach-Lackier-Pinsel-Premium-Qualitat」との記載とともに示されたハケは、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が鋭角にされている旨主張するが、上記甲第3号証の第72頁にはハケの斜視外観写真が掲載されているだけであり、この斜視外観写真をもって、上記角度が鋭角であると直ちにいうことはできない。 (5)本件の出願前に頒布された上記甲第4号証には、毛部と、該毛部を保持する柄部とからなるハケであって、柄部は、毛部の側面後側を囲繞保持する筒状保持部を有するハケが記載されているが、上記甲第4号証の上記平面視外観写真は、毛部先端部の一側面側が欠落して掲載されており、その部分の形状を特定することができないから、上記甲第4号証におけるハケの毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が鋭角であるとも、また、その角度が30?80°であるともすることができない。 (6)以上のように、上記甲第1号証乃至甲第4号証に記載されたハケの毛部は、いずれも、本件の請求項2に係る考案のように毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度を30?80°にすることについては何ら記載されておらず、また、それを示唆する記載もないから、本件の請求項2に係るハケの毛部と上記甲第1号証乃至甲第4号証に記載された各ハケの毛部とは、その構成及び機能が相違しており、本件の請求項2に係る考案は、上記甲第1号証乃至甲第4号証に記載された考案であるとすることができない。 (7)また、上記6-1で検討したように上記甲第1号証に記載されたハケおいて、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度を鋭角にした部分を利用して、入り隅等の狭い部分を塗装するようにすることは、上記甲第2号証に記載された事項を参酌すれば、当業者であればきわめて容易に想到し得る程度のことといえる。 しかしながら、上記6-2(2)及び(3)で検討したように上記甲第1号証に記載されたものあるいは上記甲第2号証に記載されたものから、本件の請求項2に係る考案の毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度を30?80°とした構成を当業者がきわめて容易に想到し得たとすることができないし、また、上記甲第3号証乃至甲第4号証の記載からは、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度を鋭角にするということが窺うことができないから、上記甲第1号証乃至甲第4号証に記載されたものをどのように組み合わせても、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が30?80°であるとした本件の請求項2に係る考案の構成を当業者がきわめて容易に想到し得たとすることができない。 そして、本件の請求項2に係る考案は、上記構成を採用することにより、上記した格別の作用効果を奏するものである。 (8)したがって、本件の請求項2に係る考案は、上記甲第3号証及び甲第4号証によって、本件の出願前に公然知られた考案であるとすることも、また、上記甲第1号証乃至甲第4号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとすることもできない。 6-3 本件の請求項3に係る考案について (1)本件の請求項3に係る考案と上記甲第1号証に記載された考案を、上記6-1で検討したと同様に対比すると、上記甲第1号証に記載された「毛束(B1)」、「合成樹脂製柄杆(A)」、「刷毛」は、それぞれ、本件の請求項1に係る考案の「毛部」、「柄部」、「ハケ」に相当し、また、甲第1号証に記載された合成樹脂製柄杆(A)の二つ割状把持部(1)には、前後に支持壁(2)(2’)をもつ毛束挿着用下向き凹陥部(3)が形成され、該毛束挿着用下向き凹陥部(3)に、毛束(B_(1))の基部を金属帯板(B_(2))により挟圧結束した毛束体(B)の結束基部を挿着するものであり、甲第1号証に記載された合成樹脂製柄杆(A)は、毛束を保持し、毛束挿着用下向き凹陥部(3)は、毛部の側面後側を保持する保持部といえる。 さらに、上記甲第1号証に記載された毛束の先端面は側面弧視を描くように曲面に形成されているが、毛束の曲面をなす先端面と毛束の幅方向の一側面とのなす角度は鋭角となっているといえる。 なお、本件の請求項3に係る考案における毛部の幅方向の一側面と毛部の先端面は、いずれも平面である旨の被請求人の主張は、上記6-1(2)で検討したように採用できない。 そうすると、本件の請求項3に係る考案と上記甲第1号証に記載された考案は、毛部と、該毛部を保持する柄部とからなるハケであって、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が鋭角であるとともに、柄部は、毛部の側面後側を保持する保持部を有するハケの点で一致し、次の点で相違する。 イ.本件の請求項3に係る考案は、狭窄部内を塗装可能なハケであるのに対し、上記甲第1号証に記載された考案は、その点が明らかでない点。 ロ.本件の請求項3に係る考案は、毛部の側面後側を囲繞保持する保持部が筒状保持部であり、その筒状保持部の先端側の周縁は、毛部の先端面に対して平行であるのに対し、上記甲第1号証に記載された考案は、毛部の側面後側を囲繞保持する保持部が二つ割状把持部(1)に設けた前後に支持壁(2)(2’)をもつ毛束挿着用下向き凹陥部(3)から構成されている点。 (2)そこで、上記相違点イ、ロについて検討する。 [相違点イについて] 上記6-1(3)で検討したように、上記甲第1号証に記載されたハケを、本件の請求項2に係る考案のように狭窄部内を塗装可能なハケとすることは、上記甲第2号証の記載からみて、当業者がきわめて容易に想到し得る程度のことである。 [相違点ロについて] 上記甲第3号証には、上記6-2(3)で検討したように、毛部の側面後側を囲繞保持する保持部を筒状保持部とすること、毛部の先端面をほぼ平坦状に形成することが記載されており、また、上記甲第4号証には、上記6-2(4)検討したように、毛部の側面後側を囲繞保持する保持部を筒状保持部とすることが記載されている。 そうすると、ハケの分野において、毛部の保持部を筒状に形成すること、毛部の先端面を平坦状に形成することは、ハケを製造する際、当業者が適宜選択し得る事項といえるから、上記甲第1号証に記載されたハケに、上記甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項を適用して、保持部を筒状に形成するとともに、毛部の先端面を平坦状に形成することは、当業者であればきわめて容易になし得ることといえる。そして、このように形成することにより、筒状保持部の先端側の周縁が、毛部の先端面に対して平行になることは、当業者にとって明らかなことである。 なお、本件の請求項3に係る考案の効果も、上記甲第1号証乃至甲第4号証に記載された事項から予測できる程度のものであって、格別のものはない。 (3)したがって、本件の請求項3に係る考案は、上記甲第1号証乃至甲第4号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、本件の請求項3に係る考案についての実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものである。 6-4 本件の請求項4に係る考案について (1)本件の請求項4に係る考案は、本件の請求項4に記載された構成とすることにより、本件明細書に記載された「開口面積が狭くしかも深い溝や孔の内部を一層容易かつ確実に塗装することができる。また、毛部の腰の強さを、毛部の幅方向の各個所において等しくできるので、毛部の先端面によって塗装を行う場合に、塗装厚さを均一にすることが容易となる。」(本件明細書段落【0020】)という効果を奏するものである。また、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度を30?80°とした根拠は、上記6-2(1)で指摘したとおりである。 (2)そこで、本件の請求項4に係る考案と甲第1号証乃至甲第4号証に記載されたものを対比、検討する。 本件の請求項4に係る考案において、毛部と、該毛部を保持する柄部とからなるハケであって、柄部は、毛部の側面後側を囲繞保持する筒状保持部を有し、その筒状保持部の先端側の周縁は、毛部の先端面に対して平行とし、狭窄部内を塗装可能にした点は、上記6-3で検討したように、上記甲第1号証乃至甲第4号証に記載されたものから、当業者がきわめて容易になし得る程度のものといえる。 しかしながら、本件の請求項4に係る考案において、毛部の幅方向の一側面と該毛部の先端面のなす角度が30?80°であるとした構成は、上記6-2で検討したように、上記甲第1号証乃至甲第4号証に記載されたものをどのように組み合わせても当業者がきわめて容易に想到し得たとすることができないものである。 そして、本件の請求項4に係る考案は、上記構成を採用することにより、上記した格別の作用効果を奏するものである。 (3)したがって、本件の請求項4に係る考案は、上記甲第3号証及び甲第4号証によって、本件の出願前に公然知られた考案であるとすることも、また、上記甲第1号証乃至甲第4号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとすることもできない。 7.むすび 以上のとおりであるから、本件の請求項1に係る考案及び請求項3に係る考案についての実用新案登録は、いずれも、実用新案法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 また、本件の請求項2に係る考案及び請求項4に係る考案についての実用新案登録は、請求人の主張及び証拠方法によっては、無効とすることができない。 審判に関する費用については、実用新案法第41条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人及び被請求人の双方において負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2001-03-12 |
結審通知日 | 2001-03-23 |
審決日 | 2001-04-10 |
出願番号 | 実願平11-3485 |
審決分類 |
U
1
111・
121-
ZC
(A46B)
U 1 111・ 111- ZC (A46B) |
最終処分 | 一部成立 |
特許庁審判長 |
大槻 清寿 |
特許庁審判官 |
滝本 静雄 岡田 和加子 |
登録日 | 1999-09-08 |
登録番号 | 実用新案登録第3064130号(U3064130) |
考案の名称 | 狭窄部内を塗装可能なハケ |
代理人 | 嶋 宣之 |
代理人 | 清原 義博 |