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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) E02F |
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管理番号 | 1055179 |
審判番号 | 審判1999-35541 |
総通号数 | 28 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 実用新案審決公報 |
発行日 | 2002-04-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1999-10-01 |
確定日 | 2002-03-04 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第2589386号実用新案「架線集材用ウインチを装着した油圧ショベル」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 実用新案登録第2589386号の請求項1ないし2に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第一 経緯 本件実用新案登録第2589386号は、平成4年7月24日に出願され(実願平4-57682号)、平成10年11月20日に実用新案登録され、平成11年10月1日にイワフジ工業株式会社より無効審判の請求がされ、平成12年1月17日付けで被請求人より審判事件答弁書が提出され、平成12年7月11日付けで請求人より審判事件弁駁書が提出され、平成12年9月18日付けで請求人及び被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、平成12年12月13日に特許庁審判廷において両当事者出席のもと、口頭審理及び証人(三木昌幸、今冨裕樹、及川雅之)調べが行われ、同日請求人より上申書が提出され、平成12年12月27日付けで無効理由が通知され、平成13年3月19日付けで意見書とともに訂正請求書が提出され、平成13年4月2日付けで審判被請求人より上申書が提出され、平成13年7月13日付けで請求人より審判事件弁駁書が提出され、平成13年8月28日付けで訂正拒絶理由通知がなされ、被請求人より平成13年11月5日付けで意見書及び手続補正書(1)、(2)が提出された。 第二 請求人の請求の趣旨、無効理由の概要及び被請求人の答弁の概要 1 請求人の請求の趣旨、無効理由の概要 請求人は、「本件登録実用新案は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求める。」ことを請求の趣旨とし、請求の理由として、本件実用新案登録の請求項1及び2に係る考案(以下、本件考案1及び2という。)についての実用新案登録を無効とすべき理由を概略次のように主張する。 (1)無効理由1:本件考案1及び2は、甲第4号証ないし甲第12号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案できたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定に違反し無効にすべきものである。 (2)無効理由2:本件考案1及び2は、甲第14号証ないし甲第18号証に記載されており(証人 三木昌幸、今冨裕樹、及川雅之)、公然実施されたものであるから、実用新案法第3条第1項第2号の規定に違反し無効にすべきものである。 2 被請求人の答弁の概要 被請求人は「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」ことを答弁の趣旨とし、答弁の理由を概略次のように主張する。 (1)無効理由1に対して:甲第4号証は公知文献ではなく、本件考案1は、甲第5号証ないし甲第7号証に記載されたものと同一ではなく、本件考案2は、甲第5号証ないし甲第12号証に記載されたものから当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。 (2)無効理由2に対して:甲第13号証ないし甲第18号証に示されたものは本件考案1の構成要件の一部を欠くから、本件考案1及び2と甲第13号証ないし甲第18号証に記載されたものは、同一の考案でもなく、また、それらに記載されたものから当業者がきわめて容易に考案できたものでもない。 したがって、本件考案1及び2は、実用新案法第3条第1項第2号及び同条第2項の規定に該当せず、無効とされるべきものではない。 第三 平成13年11月5日付け手続補正書(1)による補正について 1 被請求人は、平成13年11月5日付けで手続補正書(1)を提出し、平成13年3月19日付けでした訂正請求書を補正しており、実用新案登録請求の範囲については、次のように補正している。 「【請求項1】上部旋回体(2)に揺動自在に付設されたブーム(4)、アーム(5)等の作業機を有し、かつ、上部旋回体(2)にドラムが付設される集材用ウインチ(10)を用いて架線集材作業を行う集材用ウインチを装着した油圧ショベルにおいて、 ブーム(4)及びアーム(5)に捩じりトルクが加わることがないようにするためアーム(5)の先端部の下面に完全固定ではなく、ドラム側のワイヤ(24,24-24)の張力により滑車(14,13-12)が当該ワイヤ(24、24-24)の略方向に向くような状態になるブラケット(11)を介して吊着されている滑車(14、13-12)と、 前記滑車(14、13-12)とドラム(15、16)の幅方向中心とを結んだ滑車・ドラム間の直線(D)と、 ドラム(15、16)の軸中心線(B)とが略直角になるように配置された集材用ウインチ(10)とを具備し、 ドラム(15,16)に、上記滑車(14、13-12)を介して、ワイヤ(24、24-24)を巻き込んだり、巻き出したりするときにワイヤ(24、24-24)が許容フリートアングル(α)内に収まるようにしたことを特徴とする架線集材用ウインチを装着した油圧ショベル。」 を、 「【請求項1】上部旋回体(2)に揺動自在に付設されたブーム(4)、アーム(5)等の作業機を有し、かつ、上部旋回体(2)にドラムが付設される集材用ウインチ(10)を用いて架線集材作業を行う集材用ウインチを装着した油圧ショベルにおいて、 ブーム(4)及びアーム(5)に捩じりトルクが加わることがないようにするためアーム(5)の先端部の下面に固定されているブラケット(11)に吊着され、ドラム側のワイヤ(24,24-24)の張力により当該ドラム側のワイヤ(24,24-24)の略方向に向くようにされる滑車(14、13-12)と、 前記滑車(14、13-12)とドラム(15、16)の幅方向中心とを結んだ滑車・ドラム間の直線(D)と、ドラム(15、16)の軸中心線(B)とが略直角になるように配置された集材用ウインチ(10)とを具備し、 ドラム(15,16)に、上記滑車(14、13-12)を介して、ワイヤ(24、24-24)を巻き込んだり、巻き出したりするときにワイヤ(24、24-24)が許容フリートアングル(α)内に収まるようにしたことを特徴とする架線集材用ウインチを装着した油圧ショベル。」 と補正する。 2 しかしながら、上記補正は、訂正請求書において訂正した実用新案登録請求の範囲を、滑車について、「ブーム(4)及びアーム(5)に捩じりトルクが加わることがないようにするためアーム(5)の先端部の下面に完全固定ではなく、ドラム側のワイヤ(24,24-24)の張力により滑車(14,13-12)が当該ワイヤ(24、24-24)の略方向に向くような状態になるブラケット(11)を介して吊着されている滑車(14、13-12)」から、「ブーム(4)及びアーム(5)に捩じりトルクが加わることがないようにするためアーム(5)の先端部の下面に固定されているブラケット(11)に吊着され、ドラム側のワイヤ(24,24-24)の張力により当該ドラム側のワイヤ(24,24-24)の略方向に向くようにされる滑車(14、13-12)」 と補正するものであるから、軽微な瑕疵の補正にとどまらず、訂正請求書による訂正の内容を変更するものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものである。 したがって、平成13年11月5日付け手続補正書(1)による訂正請求書の補正は認められない。 第四 訂正請求について 1 上記のように平成13年11月5日付け手続補正書(1)による訂正請求書の補正は認められないので、平成13年3月19日付けの訂正請求書において、訂正された事項について検討する。 2 訂正の内容 審判の被請求人である実用新案登録権者は、平成13年3月19日付けの訂正請求書において、実用新案登録請求の範囲について、実用新案登録請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的として次のように訂正している。 「【請求項1】上部旋回体(2)に揺動自在に付設されたブーム(4)、アーム(5)等の作業機を有し、かつ、上部旋回体(2)にドラムが付設される集材用ウインチ(10)を用いて架線集材作業を行う集材用ウインチを装着した油圧ショベルにおいて、 ブーム(4)及びアーム(5)に捩じりトルクが加わることがないようにするためアーム(5)の下面に吊着した滑車(12,13,14)と、 前記滑車(12,13-14)とドラム(15,16)幅方向中心とを結んだ滑車・ドラム間の直線(D)と、ドラム(15,16)軸中心線(B)とが略直角になるように配置された集材用ウインチ(10)とを具備することを特徴とする架線集材用ウインチを装着した油圧ショベル。 【請求項2】 ドラム(15,16)にワイヤ(24)を巻き込んだり、巻き出したりするときにワイヤ(24)が許容フリートアングル(α)内に収まるように、アーム(5)の下面に滑車(12,13,14)を吊着したことを特徴とする請求項1記載の架線集材用ウインチを装着した油圧ショベル。」 を、 「【請求項1】上部旋回体(2)に揺動自在に付設されたブーム(4)、アーム(5)等の作業機を有し、かつ、上部旋回体(2)にドラムが付設される集材用ウインチ(10)を用いて架線集材作業を行う集材用ウインチを装着した油圧ショベルにおいて、 ブーム(4)及びアーム(5)に捩じりトルクが加わることがないようにするためアーム(5)の先端部の下面に完全固定ではなく、ドラム側のワイヤ(24,24-24)の張力により滑車(14,13-12)が当該ワイヤ(24、24-24)の略方向に向くような状態になるブラケット(11)を介して吊着されている滑車(14、13-12)と、 前記滑車(14、13-12)とドラム(15、16)の幅方向中心とを結んだ滑車・ドラム間の直線(D)と、 ドラム(15、16)の軸中心線(B)とが略直角になるように配置された集材用ウインチ(10)とを具備し、 ドラム(15,16)に、上記滑車(14、13-12)を介して、ワイヤ(24、24-24)を巻き込んだり、巻き出したりするときにワイヤ(24、24-24)が許容フリートアングル(α)内に収まるようにしたことを特徴とする架線集材用ウインチを装着した油圧ショベル。」 と訂正する。 (以下、平成13年3月19日付の訂正請求を本件訂正請求といい、訂正された請求項1に記載された考案を本件訂正考案という。) 3 訂正の要件 本件実用新案登録出願は平成4年7月24日されたものであり、無効審判は平成11年10月1日に請求されたものであるから、訂正請求は、平成10年法律第51号附則第3条の規定により従前の例によるとされ、平成5年法律第26号第4条第1項の規定により従前の例によるとされ、同条第2項の規定により読み替えられ、さらに平成10年法律第51号附則第13条により改正された実用新案法(以下、単に実用新案法という。)第40条第2項ただし書きの要件である (1)願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内で、 (2)実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするもの、 (3)誤記の訂正を目的とするもの、 (4)明りょうでない記載の釈明を目的とするもの、 また、同条第5項で準用する同法第39条第2項及び同第3項の要件である (5)実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならず、 (6)実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とする場合は、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができるものでなければならない、 の各要件を満たすことを要するので以下検討する。 4 願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内か (1)本件訂正考案の構成要件「ブーム(4)及びアーム(5)に捩じりトルクが加わることがないようにするためアーム(5)の先端部の下面に完全固定ではなく、ドラム側のワイヤ(24,24-24)の張力により滑車(14,13-12)が当該ワイヤ(24、24-24)の略方向に向くような状態になるブラケット(11)を介して吊着されている滑車(14、13-12)」は、訂正により新たに構成要件の一部になった構成であるが、文意が明確でなく、ブーム(4)及びアーム(5)に捩じりトルクが加わることがないようにするための構成として、次の2通りに解することができる。 (ア)ブラケット(11)を介して吊着されている滑車(14,13-12)が、アーム(5)の先端部の下面に完全固定ではなく、当該滑車がドラム側のワイヤ(24,24-24)の張力により当該ワイヤ(24、24-24)の略方向に向くような状態になる構成、 (イ)ブラケット(11)がアーム(5)の先端部の下面に完全固定ではなく、当該ブラケット(11)を介して吊着されている滑車(14,13-12)がドラム側のワイヤ(24,24-24)の張力により当該ワイヤ(24、24-24)の略方向に向くような状態になる構成。 そして、訂正された明細書を検討しても、本件訂正考案はいずれの構成を有するものか明確でないため、本件訂正考案は2つの態様を含むものとして検討する。 (2)本件訂正前の実用新案登録の明細書及び図面には、滑車及びブラケットとアームとの取り付け構造に関して次の記載が認められる。 (ア)実用新案登録請求の範囲 「・・ブーム(4)及びアーム(5)に捩じりトルクが加わることがないようにするためアーム(5)の下面に吊着した滑車(12,13,14)と、・・・」 (イ)段落番号0005 従来の技術に関して、「・・・上部旋回体2に揺動自在に装着されているブーム4の右側位置に設置すると共に、滑車31、32をブーム4の右側面に固着したブラケット30に吊着する構成がとられた。」 (ウ)段落番号0008 課題を解決するための手段において、「・・・ブーム4及びアーム5に捩じりトルクが加わることがないようにするためアーム5の下面に吊着した滑車12、13、14と、・・・」 (エ)段落番号0010及び0012 実施例について、「・・・作業機アーム5の下面で巻き込み、巻き出しをするときにワイヤ24がフリートアングルの許容範囲内に収まるように、アーム先端付近の下面に取付ブラケット11を介して3個の滑車12、13、14を吊着する。」、 「・・・滑車はアームの下面にあるため、作業機ブームやアームに比較的大きな捩じりトルクが加わることはない。・・・」 (オ)段落番号0013及び0014 考案の効果について、「・・・本考案は、集材用ウインチを装着した油圧ショベルのアームの下面に滑車を吊着し、上部旋回体の右側前部に、滑車とドラムとを結んだ直線が許容フリートアングル内になるように集材用ウインチを上部旋回体上で傾けて装着したため、ウインチ作業時にブームやアームに捩じりトルクが加わることはなく、ワイヤを乱巻きすることもなく、安定した作業ができる。 また、滑車をアームの先端付近の下面に吊着することにより、より高い位置から集材をすることが可能な架線集材用ウインチを装着した油圧ショベルが得られる。」 (カ)本件考案の実施例を示す図面の図1及び図2において、アーム先端部の下面に取付ブラケット11を介して3つの滑車が取り付けられている。また、図1において、3つの滑車はワイヤ24とほぼ平行になるようにアーム5に対して少し傾斜して示され、ブラケットはアーム5に対して平行に示されている。 (3)以上より、本件実用新案登録の明細書及び図面においては、滑車については、アームの下面に取付ブラケット11を介して、ワイヤ24とほぼ平行になるようにアーム5に対して少し傾斜して吊着された構造が、また、ブラケットについては、アームの下面に取り付けられている構造が記載されていると認められるものの、本件訂正考案のように、滑車またはブラケットが、アームの下面に完全固定ではなく吊着されて取り付けられた構造や、滑車がワイヤの張力によってワイヤの方向を向くようになることは記載されておらず、また、そのような構造や作用を示唆する記載も認められない。 したがって、上記(1)に記載した本件訂正考案の(ア)または(イ)のいずれの態様も記載されているとは認められず、本件訂正考案のように訂正することを含む本件訂正は、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。 (訂正明細書中における、アームと滑車またはブラッケットとの取り付け構造を、訂正した請求項と整合するように訂正した部分も当然に明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。) 実用新案登録権者(審判被請求人である訂正請求人)は、図1及び図2において滑車がワイヤ24の略方向を向いた構成になっていることを根拠に、滑車はブラケットに対して完全に固定されていないことは明細書または図面の記載から明らかである旨主張する(平成13年4月2日付上申書4頁ないし8頁)が、上記したように、明細書または図面には滑車がブラケットに対して完全に固定されていない旨の記載や、滑車がワイヤの張力によってワイヤの方向を向くようになる旨の記載はなく、図1において滑車がアームまたはブラケットに対してワイヤの平行になるように傾斜した状態が示されているとしても、図示の状態は、滑車がブラケットに対して傾斜して(固定して)取り付けられた状態を示していることも十分に考えられ、実用新案登録権者の主張するように、滑車がブラケットに対して完全固定ではなく、ワイヤの張力によってワイヤの方向を向くようになっていることが示されているとすることはできない。 (4)よって、本件訂正請求による訂正は、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではない 5 以上のように、平成13年3月19日付けの訂正請求は、少なくとも実用新案法第40条第2項ただし書きの上記要件(1)を満たさないものであって、これを適法な訂正請求とすることはできない。 第五 本件考案について 1 本件考案1及び2の認定 上記のように平成13年3月19日付けの訂正請求は適法な訂正請求とは認められないので、本件考案は、登録時の明細書及び図面の記載からみてその実用新案登録請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 上部旋回体(2)に揺動自在に付設されたブーム(4)、アーム(5)等の作業機を有し、かつ、上部旋回体(2)にドラムが付設される集材用ウインチ(10)を用いて架線集材作業を行う集材用ウインチを装着した油圧ショベルにおいて、 ブーム(4)及びアーム(5)に捩じりトルクが加わることがないようにするためアーム(5)の下面に吊着した滑車(12,13,14)と、 前記滑車(12,13-14)とドラム(15,16)幅方向中心とを結んだ滑車・ドラム間の直線(D)と、ドラム(15,16)軸中心線(B)とが略直角になるように配置された集材用ウインチ(10)とを具備することを特徴とする架線集材用ウインチを装着した油圧ショベル。 【請求項2】 ドラム(15,16)にワイヤ(24)を巻き込んだり、巻き出したりするときにワイヤ(24)が許容フリートアングル(α)内に収まるように、アーム(5)の下面に滑車(12,13,14)を吊着したことを特徴とする請求項1記載の架線集材用ウインチを装着した油圧ショベル。」 (以下、請求項1及び2に記載された考案を本件考案1及び2という。) 2 本件考案の目的、作用効果について 本件考案は、従来、架線集材用ウインチを装着した油圧ショベルにおいて、集材用ウインチを上部旋回体の右側前方(運転室の反対側の前方)で、かつ上部旋回体に揺動自在に装着されているブームの右側位置に設置すると共に、滑車をブームの右側面に固着したブラケットに吊着する構成がとられていたが、滑車をブームの片側に大きくオーバハングして吊着したため、ウインチ作業時にブームに大きな捩じりトルクが作用し、強度上の問題が発生するという問題認識のうえ、構造が簡単で、作業機に捩じりトルク等、無理な力の加わることのない架線集材用ウインチを装着した油圧ショベルを提供することを目的として実用新案登録請求の範囲に記載した構成としたものであって、当該構成としたことによって、ウインチ作業時にブームやアームに捩じりトルクが加わることはなく、ワイヤを乱巻きすることもなく、安定した作業ができると共に、滑車をアームの先端付近の下面に吊着することにより、より高い位置から集材をすることが可能な架線集材用ウインチを装着した油圧ショベルが得られるという作用効果を奏することができるものである(段落番号0005、0006、0007、0013、0014参照)。 3 本件考案1及び2についての無効理由の概要 本件考案1及び2については、平成12年12月27日付けで無効理由が通知されており、当該通知における無効の理由の概要は、本件実用新案登録の出願前に頒布された次の刊行物を示して、本件考案1及び2は、いずれも、刊行物1、刊行物2の写真に記載されたもの及び周知の技術的事項から当業者がきわめて容易に考案できたものであるから、実用新案法第3条第2項に該当し、実用新案登録を受けることができないものであるというものである。 (ア)刊行物1:「機械化林業」第462号(平成4年5月号)25頁ないし32頁(平成4年5月15日、社団法人林業機械化協会発行)(審判請求人提出の甲第7号証) (イ)刊行物2:「機械化林業」第457号(平成3年12月号)1頁ないし7頁(平成3年12月15日、社団法人林業機械化協会発行)(審判請求人が平成12年12月13日付け上申書に添付した参考資料1) (ウ)刊行物3:「林業架線作業主任者教本」36頁ないし43頁、106頁ないし107頁(平成元年3月27日、林材業労災防止協会発行)(審判請求人提出の甲第8号証) (エ)刊行物4:実願平1-127604号(実開平3-64986号)のマイクロフィルム(審判請求人提出の甲第12号証) 4 本件考案1について (1)刊行物1に記載された技術的事項について 刊行物1の27頁の右上の図-2の写真には、25頁ないし30頁の記載を参酌すると、上部旋回体に揺動自在に取り付けられたブーム、アームと、アームに取り付けられたバケット、グラップル等の作業機を有するパワーショベルが示されており、ブームの右側にはドラムを装着したウィンチ、左側には運転席が設けられ、ウィンチからの索(ワイヤロープ)はアーム先端部近傍に設けられた滑車を介して前方に伸びている状態が示されている。そして、このパワーショベルは図-5、図-6に示すように、索(ワイヤロープ)により架線集材作業にも利用されるものである。また、このパワーショベルは油圧ショベルであることは明らかである。 (2)対比、判断 (2-1)本件考案1と刊行物1に記載されたものとを対比すると、両者は、 「上部旋回体に揺動自在に付設されたブーム、アーム等の作業機を有し、かつ、上部旋回体にドラムが付設される集材用ウインチを用いて架線集材作業を行う集材用ウインチを装着した油圧ショベルにおいて、 アームに吊着した滑車と、集材用ウインチとを具備することを特徴とする架線集材用ウインチを装着した油圧ショベル。」(注:符号を省略)、 である点で一致し、次の点で相違していると認められる。 相違点1:本件考案1では、アームに設けられた滑車は、「ブーム及びアームに捩じりトルクが加わることがないようにするためアームの下面に吊着」しているのに対し、刊行物1に記載されたものでは、滑車はアームの下面に吊着されているかどうか不明である点。 相違点2:本件考案1では、「滑車とドラム幅方向中心とを結んだ滑車・ドラム間の直線と、ドラム軸中心線とが略直角になるように配置され」ているのに対し、刊行物1に記載されたものは、そのように配置されているのかどうか不明である点。 (2-2)相違点に対する検討 (ア)相違点1について 本件考案1は、従来の架線集材用ウインチを装着した油圧ショベルにおいては、滑車をブームの右側面に固着したブラケットに吊着し、滑車をブームの片側に大きくオーバハングして吊着していたため、ウインチ作業時にブームに大きな捩じりトルクが作用し、強度上の問題が発生するという問題を解決するために、アームの下面に滑車を吊着することによって、ブーム及びアームに捩じりトルクが加わることがないようにしたものと認められるが、集材用ウインチを装着した油圧ショベルにおいて、アームの下面に滑車を吊着することは、上記刊行物2の3頁右上の写真(以下、単に刊行物2の写真という。)に記載されている(当該写真には、油圧ショベルのアームの下面に滑車が吊着されていることは、口頭弁論において被請求人も認めるところである。)。 そして、刊行物1に記載された滑車の吊着構造に換えて、上記刊行物2の写真に記載された滑車の吊着構造を適用すれば、本件考案1と同様に、ブーム及びアームに捩じりトルクが加わることがないようになることは当然である。 また、刊行物1に記載されたものも刊行物2に記載されたものもともに集材用の油圧ショベルにかかる技術分野に属するものであるから、刊行物1に記載された滑車の吊着構造に換えて、刊行物2の写真に記載された滑車の吊着構造を適用することは、当業者にとってきわめて容易に想到できた事項にすぎない。 (イ)相違点2について 相違点2については、刊行物3に、集材装置としてワイヤロープを用いる場合に、「ワイヤロープは、ドラムに乱巻きにならないように整然と巻き取らなければならないが、そのためには、集材機は元柱または向柱等に取り付ける直近のガイドブロックに正対して、これからドラムの巻き幅の15?20倍以上離れ、2°以内(なるべく1°30′以内)のフリートアングルが得られるようにすることが必要である。」(107頁10行ないし19行)と記載され、ここでガイドブロックは滑車であり、集材機がこのガイドブロックに「正対」するとは、ガイドブロックに正しく向くこと、つまり集材機のドラムの軸線と、ガイドブロックと集材機のドラムとを結んだ直線とが直交することを意味していること、また、刊行物4に、「自走式クレーン」に関するものであるが、第2図、第3図には自走式クレーンの旋回台3に油圧駆動ウィンチ6と伸縮ブーム4が設けられ、伸縮ブーム4の先端寄りに取り付けられたガイド滑車9と油圧駆動ウィンチ6との間に滑車10を介してワイヤーロープ7が設けられており、「9は・・・ガイド滑車であって、前記油圧駆動ウィンチ6のドラム6Aから引き出され伸縮ブーム4先端に吊り下ろしたフックブロック8に到るワイヤーロープ7のフリートアングル支点となるものである。・・・油圧駆動ウィンチ6のウィンチドラム6Aの支軸6Bは、平面視(第3図)においてウィンチドラム6Aのドラム幅方向中間位置と前記滑車9を結んだ直線12に対して直交している。支軸11も、前記直線12に対して直交している。」(明細書6頁16行ないし7頁10行)と記載されているように、ワイヤロープをドラムに巻き込んだり、ドラムから巻き戻す場合に、ドラムの軸線とワイヤロープとを直交させることは、本件考案の出願前において、集材用のワイヤロープの巻き込み・巻き戻しに限らず、ワイヤロープの巻き込み・巻き戻しの技術において周知の事項であった。 したがって、本件考案1の相違点2に記載した構成のように「滑車とドラム幅方向中心とを結んだ滑車・ドラム間の直線と、ドラム軸中心線とが略直角になるように配置」することは、本件考案の出願前に周知の技術的事項であって、この点は当業者が当然配慮すべき設計的事項にすぎない。 (3)まとめ よって、本件考案1は、刊行物1、刊行物2の写真に記載されたもの及び周知の技術的事項から当業者がきわめて容易に考案できたものであるから、実用新案法第3条第2項に該当するものである。 5 本件考案2について 本件考案2は、本件考案1を「ドラムにワイヤを巻き込んだり、巻き出したりするときにワイヤが許容フリートアングル内に収まるように、アームの下面に滑車を吊着した」(符号は省略)と限定したものである。 しかしながら、例えば上記した刊行物3にも記載されているように、ドラムにワイヤロープを巻き込んだり巻き出したりするときに、ワイヤロープが2°以内(なるべく1°30′以内)のフリートアングル(いわゆる許容フリートアングル)以内に収まるようにすることは、集材用のワイヤロープの巻き込み・巻き戻しに限らず、ワイヤロープの巻き込み・巻き戻しの技術において周知の技術的事項であったことから、本件考案2の上記限定した構成は、当業者が当然配慮すべき設計的事項にすぎない。 したがって、本件考案2は、刊行物1、刊行物2の写真に記載されたもの及び周知の技術的事項から当業者がきわめて容易に考案できたものであるから、実用新案法第3条第2項に該当するものである。 第六 まとめ 以上のように、本件考案1及び2に係る実用新案登録は、いずれも実用新案法第3条2項の規定に違反してなされたものであって、実用新案登録を受けることができないものであり、実用新案法37条1項1号の規定に該当し、無効とすべきものである。 また、審判費用の負担については、実用新案法第41条の規定により準用し、特許法第169条第2項の規定によりさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2001-12-27 |
結審通知日 | 2002-01-07 |
審決日 | 2002-01-21 |
出願番号 | 実願平4-57682 |
審決分類 |
U
1
112・
121-
Z
(E02F)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 深田 高義 |
特許庁審判長 |
田中 弘満 |
特許庁審判官 |
鈴木 憲子 中田 誠 |
登録日 | 1998-11-20 |
登録番号 | 実用新案登録第2589386号(U2589386) |
考案の名称 | 架線集材用ウインチを装着した油圧ショベル |
代理人 | 丹羽 宏之 |
代理人 | 橋爪 良彦 |
代理人 | 野口 忠夫 |