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審決分類 |
審判 判定 審理一般(別表) 属さない(申立て不成立) F24C |
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管理番号 | 1056862 |
判定請求番号 | 判定2001-60097 |
総通号数 | 29 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 実用新案判定公報 |
発行日 | 2002-05-31 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2001-08-29 |
確定日 | 2002-03-08 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第2534886号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | (イ)号図面及びその説明書に示す「遠赤外線速暖ハロゲンヒータ AMー150」は、登録第2534886号実用新案の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1.請求の趣旨 本件判定請求の趣旨は、イ号図面に相当する甲第2号証の1乃至甲第2号証の4(写真)及びイ号の説明書に相当する甲第3号証(有限会社天美製作所発行の取扱説明書)に示す「遠赤外線速暖ハロゲンヒータ AMー150」(以下、「イ号物件」という。)は、実用新案登録第2534886号考案(以下、「本件考案」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。 第2.本件考案 本件考案は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであって、その構成並びに目的及び効果は、以下のとおりである。 1.本件考案の構成 本件考案の構成を分説すると、次のとおりである(以下、「構成要件A」などという。)。 A.横方向に遠赤外線を放射する素子と、 B.該素子の背面に設けた遠赤外線を反射する反射板とを有し、 C.脚によって支持して移送可能に構成した遠赤外線ヒーターにおいて、 D.前記反射板に後部ガードを設けるとともに前部ガードを設け、 E.該反射板を凹状となるように湾曲形成し、 F.該反射板の凹状部内における軸心位置に、前記素子として遠赤外線発熱コーティングを施した円筒状のハロゲン電球を頂部が前記反射板の周縁部から突出しないように設けた G.ことを特徴とする遠赤外線ヒーター。 2.本件考案の目的及び効果 本件考案は、本件明細書によれば、「【従来の技術】従来より、屋外作業場や工場内あるいはゴルフ練習場等において、空間を暖めることなく直接人体を暖めたいような所においては遠赤外線ヒーターが利用されている。 この遠赤外線ヒーターとしては、一般的に遠赤外域の赤外線を放射するシースヒーターを用いたものが利用されており、背面に設けた反射板により一方向へ遠赤外線を放射するよう構成されている。 【考案が解決しようとする課題】しかし、上記シースヒーターでは、電源投入時からの温度上昇が遅いため、作業場において暖房機能を発揮するまでの待ち時間が長く、そのため、ヒーターが所望の温度に上昇するまでの作業環境は悪かった。 また、熱源としての表面温度が低く、近接した位置における暖房能力には限界があった。 本考案は上記課題に鑑みて、温度上昇が早く、近接位置において十分な暖房能力を発揮する遠赤外線ヒーターを提供する」(本件明細書段落【0002】?同段落【0006】)ことを目的として、上記本件考案の構成を採用することにより、「本考案によれば、遠赤外線を放射する素子に遠赤外線発熱コーティングを施したハロゲン電球を使用したので、ハロゲン電球の電源投入時から発熱するまでの時間が短く電源投入時から遠赤外線発熱コーティングが遠赤外線を放射する。そのため、遠赤外線ヒーターとしての暖房機能を発揮するまでの時間を大幅に短縮することができる。」(同段落【0020】)、「また、ハロゲン電球を反射板の凹状部内に設けているため、ハロゲン電球から放射した遠赤外線が反射板により反射されて所定の方向へ放射されるので暖房効率が良く、ヒーターに近接した位置の暖房能力も大幅に向上する。」(同段落【0021】)、「更に、遠赤外線放射素子としてハロゲン電球を用いているため、発熱と共に光を照射して光源としても多少の機能を発揮する」(同段落【0022】)という効果を生じるものである。 第3.イ号物件 請求人が提出したイ号写真(甲第2号証の1乃至甲第2号証の4)及びイ号取扱説明書(甲第3号証)に記載された事項、並びにイ号物件の構成を補足的に説明するものとしてその採用を請求人も認める被請求人の提出した「イ号図面(第1図(概略断面図)、第2図(ハロゲンヒータの正面図))」及び「イ号写真及び図面の説明書」(いずれも、答弁書に添付された書類)に記載された事項からみて、イ号物件は、次のa乃至gからなる構成を備えたものとするのが相当である。なお、符号2・・・9a等は、便宜上、被請求人の提出したイ号図面に付されたものを用いた。 a.横方向に遠赤外線を放射する素子を有すること。 b.素子の背面に設けた遠赤外線を反射する反射板3を有すること。 c.支持脚6によって支持して移送可能に構成したこと。 d.反射板3に後部ガード2を設けるとともに前部ガード5を設けていること。 e.反射板3を凹状となるように湾曲形成していること。 f.反射板3の凹状部内における軸心位置に外方に至る程細くなる円錐状突起部8を設け、この突起部8の先端には、外方に至るほど太くなりその前端部外周に先端フランジ9aを突設した中空円錐状碍子9を取付け、該中空円錐状碍子9の先端フランジ9aの内面に、コーテイングを施していないリング状に形成したハロゲンヒータランプ4を反射板の周縁部から突出した状態で設けていること。 g.遠赤外線速暖ハロゲンヒーターであること。 なお、イ号物件が上記構成を備えていることについては、請求人及び被請求人の間に争いはない(第1回口頭審理調書)。 第4.対比、判断 1.イ号物件の各構成が、本件考案の構成を充足するか否かの判断 (1)イ号物件における「遠赤外線速暖ハロゲンヒータ」は本件考案の「遠赤外線ヒータ」に相当し、イ号物件が、本件考案の構成要件A乃至E及びGを充足することは明かであり、また、この点について、請求人及び被請求人の間に争いはない(第1回口頭審理調書)。 (2)しかしながら、イ号物件のハロゲンヒータランプ、すなわちハロゲン電球は、反射板3の凹状部内における軸心位置に外方に至る程細くなる円錐状突起部8を設け、この突起部8の先端には、外方に至るほど太くなりその前端部外周に先端フランジ9aを突設した中空円錐状碍子9を取付け、該中空円錐状碍子9の先端フランジ9aの内面に、コーテイングを施していないリング状に形成したハロゲンヒータランプ4を反射板の周縁部から突出した状態で設けたものであり(イ号物件の構成f)、反射板の凹状部内における軸心位置に、遠赤外線発熱コーティングを施した円筒状のハロゲン電球を頂部が前記反射板の周縁部から突出しないように設けた本件考案におけるハロゲン電球の構成(本件考案の構成要件F)とは、そのハロゲン電球の形状・構造及びハロゲン電球の取付・配置において異なっていること(以下、「本件相違部分」という。)は明かであり、また、この点について、請求人及び被請求人の間に争いはない(第1回口頭審理調書)。 (3)したがって、イ号物件は、本件考案の構成要件Fを充足しない。 2.均等の判断 次に、請求人は、上記本件相違部分について、いわゆる均等の適用を主張しているので、この点について検討する。 2-1 請求人の主張 (1)本質的部分について 請求人は、「本件考案は、屋外作業場や工場あるいは室内等において、空間を暖めることなく直接人体を素早く暖めたい時に利用するものとして、横方向にハロゲン電球から放射される遠赤外線発熱を、ハロゲン電球の背面に設けた反射板に集中させ前一方向に放射させる構成が最大の特徴である。」(判定請求書第6頁15?18行)とし、ハロゲン電球の形状・構造及びハロゲン電球の取付・配置については、本質的部分ではない旨主張している。 (2)同一目的・作用効果について 請求人は、「ハロゲン電球が円筒形状と中空円錐状碍子に環状となる差違は、反射板の軸心位置における遠赤外線発熱放射量にすぎず、反射板から前一方向に遠赤外線の発熱放射がされることはいずれも同じである。したがって、かかる形状の差違により、作用効果に格別の差違が生じるものではない。」(判定請求書第6頁下から3行?同第7頁2行)とし、甲第4号証乃至甲第6号証(イ号物件の写真)を提出し、イ号物件は、本件考案と同一目的・作用効果を生じるものである旨主張している。 (3)置換容易性 請求人は、「本件考案とイ号の「ハロゲンヒータ」の構成において、構成と配設構成の違いを除けば、電球としては同一であり、本件考案の反射板と電源ボックスを挿通するソケットを抜脱し、その後に「円錐状突起」を取付け、前部に「ハロゲンヒータ」を添着した「中空円錐状碍子」を取付け配線接続すればイ号と同じものとなり置換が容易である。」(請求人の提出した口頭審理陳述要領書第6頁15?19行)と主張し、甲第7号証(本件考案の反射板で挿通するソケット設置部分を示す写真)を提出している。 2-2 被請求人の主張 (1)本質的部分について 被請求人は、「本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、乙第3号証(合議体注:本件出願の公開公報)の出願当初の構成要件にアンダーライン部分の構成が加えられた。これは、拒絶理由通知において、引用例として乙第2、3号証(合議体注:乙第1、2号証の誤記。乙第1号証:実開昭63ー82109号公報、乙第2号証:実開平4ー12288号公報)が提示され、これらの引用例との構成上の差違を出すために限定されたものである。逆に言えば、この追加された構成があるからこそ、考案としての進歩性が認められたのであり、「ハロゲン電球」は、横方向に遠赤外線を放射する円筒状のものであり、これに遠赤外線発熱コーティングが施され、反射板の凹状部内における軸心位置に設けられている、「ハロゲン電球の頭部」は、反射板の周縁部から突出しないように設けられていること、は作用効果から判断しても、正に本件考案の本質的部分であることが明らかであって、決して拡張解釈の許されない構成である。しかも本件考案は、円筒状のハロゲン電球に遠赤外線発熱コーティングを施して、遠赤外線のみを放射する遠赤外線ヒーターであること、もまた本質的部分であることは前述した通りである。」(被請求人の提出した口頭審理陳述要領書第7頁2?17行)と主張している。 (2)同一目的・作用効果について 被請求人は、イ号物件は、従来のヒータと比較して、本件考案同様、暖房機能を発揮するまでの時間が短縮できる、暖房効率が良く、ヒータに近接した位置の暖房能力も向上する、光源としても多少の機能を発揮するという作用効果を奏することは認めるが、イ号物件は、上記構成fを有することにより、「イ号では、ハロゲンヒーターが前面に露出しておらず、中空円錐状碍子のフランジ9aの内側に取付けられているので、前部ガード5とで二重の安全効果がある。本件考案では、ハロゲン電球の前方から発せられた熱や光は、反射板に当らず直接前方所定位置に放射されるで強烈であるが、イ号では、前方へ放射される熱や光はフランジで遮られ、後方への放射された熱と光は一旦反射板に撥ね返ってから前方所定位置に至るので、熱と光は攪拌されることになって比較的マイルドとなる。」(被請求人の提出した口頭審理陳述要領書第5頁15?22行)という独自の作用効果を有する旨主張している。 (3)置換容易性 被請求人は、イ号物件のハロゲン電球は、本件考案のハロゲン電球とは、基本的な形状・構造に相違があり、本件考案の構成要件Fをイ号物件の構成fに置き換えることを、当業者が容易に想到し得るものではない旨主張している。 2-3 当審の判断 (1)最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡)は、特許請求の範囲に記載された構成中に相手側製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、(2)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された製品と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である、と判示している。 (2)そこで、イ号物件が本件考案と均等なものであるか否かについて、上記最高裁判決の判示に基づいて、以下検討する。 (2-1)上記でいう特許発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明の作用効果を生じるための部分、換言すれば、上記異なる部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分を言うものと解するのが相当であるとされている。すなわち、明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち、当該特許発明特有の作用効果を生じさせる技術的思想の中核をなす特徴的部分が当該特許発明の本質的部分と理解されるべきである。 (2ー2)これを本件についてみると、本件考案特有の作用効果は、本件明細書によれば、「遠赤外線を放射する素子に遠赤外線発熱コーティングを施したハロゲン電球を使用したので、ハロゲン電球の電源投入時から発熱するまでの時間が短く電源投入時から遠赤外線発熱コーティングが遠赤外線を放射する。そのため、遠赤外線ヒーターとしての暖房機能を発揮するまでの時間を大幅に短縮することができる。」(本件明細書段落【0020】)、「また、ハロゲン電球を反射板の凹状部内に設けているため、ハロゲン電球から放射した遠赤外線が反射板により反射されて所定の方向へ放射されるので暖房効率が良く、ヒーターに近接した位置の暖房能力も大幅に向上する。」(本件明細書段落【0021】)、「更に、遠赤外線放射素子としてハロゲン電球を用いているため、発熱と共に光を照射して光源としても多少の機能を発揮する」(本件明細書段落【0022】というものであり、本件考案は、本件明細書の記載からみて、この本件考案の特有の効果を生じせしめるために、遠赤外線を放射する素子に遠赤外線発熱コーティングを施したハロゲン電球を使用し、ハロゲン電球を反射板の凹状部内に設けた構成を採用したものであるといえる。 そうすると、上記本件相違部分であげた本件考案の構成要件F、すなわち、該反射板の凹状部内における軸心位置に、前記素子として遠赤外線発熱コーティングを施した円筒状のハロゲン電球を頂部が前記反射板の周縁部から突出しないように設けた構成は、本件考案の特徴的部分、すなわち、本質的部分であるということができる。 なお、本件の出願の審査過程において、請求人が平成8年10月16日に手続補正書とともに提出した意見書の(3)の第3段落には、「つまり、これら引用例1、2のいずれにも、本願考案の特徴的構成である、移動可能に構成した遠赤外線ヒータにおいて、遠赤外線コーテイングしたハロゲン電球の形状とその熱を効率よく反射させるようにする構成、について何ら記載も示唆もされていない」と記載されており、請求人は、本件考案の構成要件Fが本件考案の特徴的な部分である旨を主張しており、上記構成を本質的部分として認識していたといえる。 (2ー3)そして、イ号物件が、ハロゲン電球の形状・構造及びハロゲン電球の取付・配置において本件考案と構成を異にしていることは、上記第4.1.(2)において認定判断したとおりであり、イ号物件は、本件考案とは本質的部分において相違するというべきである。 (2ー4)したがって、均等の他の要件(2)乃至(5)を判断するまでもなく、イ号物件が本件考案と均等なものであるとすることはできない。 第5.むすび 以上のとおりであるから、イ号物件は、本件登録実用新案の技術的範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2002-02-26 |
出願番号 | 実願平5-29063 |
審決分類 |
U
1
2・
0-
ZB
(F24C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 粟津 憲一 |
特許庁審判長 |
大槻 清寿 |
特許庁審判官 |
滝本 静雄 長浜 義憲 |
登録日 | 1997-02-13 |
登録番号 | 実用新案登録第2534886号(U2534886) |
考案の名称 | 遠赤外線ヒーター |
代理人 | 永田 良昭 |