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審決分類 |
審判 G06F 審判 G06F 審判 G06F 審判 G06F |
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管理番号 | 1058318 |
審判番号 | 無効2001-40001 |
総通号数 | 30 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 実用新案審決公報 |
発行日 | 2002-06-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2001-01-16 |
確定日 | 2002-04-02 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第3058706号実用新案「卓上計算機」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 実用新案登録第3058706号の請求項1、3に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 実用新案登録第3058706号の請求項2に係る考案についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その3分の1を請求人の負担とし、3分の2を被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件実用新案登録第3058706号は、平成10年10月26日に実願平10-8935号として出願され、平成11年3月10日に設定登録(考案の数3)がなされたものである。 これに対して、平成13年1月16日に請求人ポリフレーム コンセプト(エイチケー) リミテッドより、本件実用新案登録を無効とするとの審決を求める本件審判の請求がなされ、平成13年3月26日に被請求人(実用新案登録権者)より、本件無効審判は成り立たないとの審決を求める答弁書が提出され、平成13年9月10日に請求人より弁駁書が提出されたものである。 さらに、平成13年10月17日に請求人が口頭審理陳述要領書を提出し、平成13年10月17日に口頭審理を実施して、請求人及び被請求人に陳述を行わせたものである。 2.本件実用新案登録 本件実用新案登録は、その明細書及び図面の記載における実用新案登録請求の範囲の請求項1乃至3に記載された以下のとおりのものである(以下、「本件考案1」乃至「本件考案3」という。なお、便宜上段落符号a乃至gを付加した。)。 【請求項1】 a.キャビネット本体(1)の液晶表示部カバー(2)を、該本体(1)の頭端部において前記液晶表示部カバー(2)の基部に設けたバネヒンジ部(3)を介して本体(1)の裏側へ所定角度だけ自動回転可能に装着し、 b.前記液晶表示部カバー(2)の留め具(4)を外すと、該カバー2が自動的に開くとともに本体(1)の頭部を自動的にプレスアップして傾斜支持するように構成した卓上計算機。 【請求項2】 c.液晶表示部カバー(2)の基部に設けたバネヒンジ部(3)が、バネ収納部(6)及びヒンジ鞘部(7)とで形成されるヒンジ筒(5)と、 d.前記バネ収納部(6)に収納するコイルバネ(8)と、 e.内端を該コイルバネ(8)と連係し且つ外端をキャビネット本体(1)側に枢支させて f.前記ヒンジ鞘部(7)に嵌装させるヒンジ軸(9)とから成り、前記ヒンジ鞘部(7)とヒンジ軸(9)の嵌装空間にグリース層(10)を形成してバネヒンジ部(3)の回転が動作緩慢に行なわれるようにした請求項1記載の卓上計算機。 【請求項3】 g.液晶表示部カバー(2)の留め具(4)の操作ボタン(4a)をキャビネット本体(1)の表面側に臨ませて成る請求項1又は2記載の卓上計算機。 3.審判請求人の主張(審判請求書の概要) 3-1.無効とすべき理由の概要 3-1-1.実用新案法第3条1項2号(公然実施)について 本件考案1乃至3は、甲第1号証乃至甲第14号証に示されるように、その実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されていたものである。 また、甲第1号証及び甲第15乃至18号証に示されるように、甲第15号証のカタログに掲載されていたプッシュアップ電卓(SCC7853)は、出願日前に購入し内部構造を知り得る状態にあり、本件考案1乃至3は、本件出願前公然実施されたものであるから実用新案法第3条第1項第2号の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、実用新案法第37条第1項第2号の規定により無効とすべきである。 3-1-2.実用新案法第3条第1項第3号(刊行物記載)について 本件考案1及び3は、本件出願前に頒布された甲第2号証に記載の考案または甲第15号証に記載の考案と同一であるから同条同項第3号の規定により、実用新案登録を受けることができないものであり、実用新案法第37条第1項第2号の規定により無効とすべきである。 3-1-3.実用新案法第3条第2項(容易性)について 本件考案1乃至3は、甲第2号証乃至甲第18号証で示された本件出願前公然実施された考案あるいは甲第2号証または甲第15号証に記載された考案と甲第19号証乃至甲第20号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、実用新案法第37条第1項第2号の規定により無効とすべきである。 3-1-4.実用新案法第5条第4項(記載不備)について 本件出願の考案の詳細な説明及び実用新案登録請求の範囲は当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に、更には実用新案登録を受けようとする考案が明確には記載されたものではなく、本件出願は実用新案法第5条第4項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、実用新案法第37条第1項第4号及び第6項の規定により無効とすべきである。 3-2.証拠 請求人が証拠方法として提出した甲第1乃至23号証は、以下のとおりである。 (A)甲第1号証:平成11年7月21日付けの株式会社日本シーシーエルからフジ・インターナショナル株式会社へのファクシミリ伝送書面 (B)甲第2号証:香港法人クリエイティブベストデベロップメントリミテッドの1998年度版カタログ、p.25 (C)甲第3号証:ポリフレーム社からクリエイティブベスト社への買注文書 (D)甲第4号証:クリエイティブベスト社からポリフレーム社への送り状(NO.7184) (E)甲第5号証:NNR航空運送状(NNRHK20703933) (F)甲第6号証:アドミラル産業(株)宛てのポリフレーム社の送り状(N0.25082TR) (G)甲第7号証:パッキングリスト (H)甲第8号証:クリエイティブベスト社からポリフレーム社へ発行された送り状(NO.7186) (I)甲第9号証:NNR航空運送状(NNRHK20705683) (J)甲第10号証:アドミラル産業(株)へのポリフレーム社の送り状(NO.25158TR) (K)甲第11号証:パッキングリスト (L)甲第12号証:アドミラル産業(株)が輸入した事実を示す証明書 (M)甲第13号証:アドミラル産業(株)によって1998年3月31日と同年4月4日こ輸入されたプレスアップ計算機とその構造を示す分解写真 (N)甲第14号証:英国意匠公報NO.2063785 (O)甲第15号証:株式会社サブヒロモリサプライヤー事業部の1997-98年度版カタログ、EXCITING COMMUNICATION TOOLS’97‐’98、P.22,23,33,47 (P)甲第16号証:株式会社サブビロモリサプライヤー事業部の1998‐99年度版カタログ、EXCITING COMMUNICATION TOOLS’98‐’99、P.15 (Q)甲第17号証:ヒロモリグループ会社概要 (R)甲第18号証:甲第15号証のカタログに掲載されているプレスアップ計算機(SCC7853)とその構造を示す分解写真 (S)甲第19号証:特開平7-158665号公報 (T)甲第20号証:特開平6-248841号公報 (U)甲第21号証:昭和58年1月30日に日刊工業新聞社から発行された図解機械用語辞典第2版第520頁 (V)甲第22号証:1997年4月18日に日刊工業新聞社から発行された特許技術用語委員会編特許技術用語集-類語索引・使用例付-初版第1刷第22頁、第82頁、第173頁 (W)甲第23号証:昭和51年12月1日に株式会社岩波書店から発行された広辞苑第2版補訂版第1052頁 3-3.具体的無効理由 3-3-1.実用新案法第3条1項2号(公然実施)についての主張 3-3-1-1.アドミラル産業株式会社ルート 3-3-1-1-1.本件考案1について 甲第3号証から甲第12号証によって、アドミラル産業株式会社によって香港ポリフレーム社から本件実用新案登録出願日前の1998年3月31日及び同年4月4日に輸入され、同年4月7日に株式会社コーエーに販売されたことが明らかな甲第2号証のカタログに示すプレスアップ計算機(C1349)は、甲第13号証に示すその分解写真及び甲第12号証の証明並びに甲第2号証のカタログなどで明らかにされた商品説明などから、 (ア)液晶表示部を覆うカバーを、計算機本体の頭端部に設けた捻りコイルばねを内蔵したヒンジ部を介して計算機本体の裏側へ所定角度だけ自動回転可能に装着し、(イ)係止爪で液晶表示部カバーを閉じた状態で保持し、(ウ)係止爪を外すように操作するだけで自動的に液晶表示部カバーが開かれると共に計算機本体の頭部側を自動的にプレスアップしてキーボード部分と液晶表示部とが同時に傾斜支持されるようしたものであること、(エ)しかも、プレスアップ動作は係合軸と液晶表示部カバーの軸受穴との間に充填されたグリースの粘性により緩慢に行われるものであることが明らかである。 したがって、本件考案1は、その出願前に公然実施されたものである。 (1)以下、詳細に本件考案1と甲第2号証に記載された計算機とを対比する。即ち、甲第2号証における計算機のキャビネット本体は、本件考案1の「キャビネット本体」に相当する。 また、甲第2号証における液晶表示部カバーは、本体の頭端部に設けたヒンジ部を中心に本体の裏側へ所定角度だけ自動回転可能に装着されているので、本件登録実用新案の「液晶表示部カバー」に相当する。 さらに、甲第2号証における計算機では、表面側に露出する係止爪の操作により液晶表示部カバーが自動的に開放するので、甲第2号証における係止爪は本件考案1の「留め具」に相当する。 したがって、甲第2号証の販売品番C1349の計算機は、本件考案1の「キャビネット本体」、「液晶表示部カバー」、「留め具」を備えている。 (2)そして、この販売品番C1349の計算機は、甲第3乃至12号証から明らかなように本件出願前に日本に輸入されて販売されている。 このことから、甲第2号証のクリエイティブベスト社のカタログは、C1349なる計算機が輸入・販売された1998年3月17日以前に配布されていたことが推定される。 (3)さらに、本件出願前に日本に輸入されて販売された販売品番C1349の計算機は、甲第2号証あるいは甲第12号証から明らかなように、テンキーの右上部に位置する係止爪を手前側にスライドさせるというワンタッチ操作を行っただけで、液晶表示部を覆っていた表示部カバーが自動的に開いて液晶表示部を露出させると共に持ち上げる動作を連続的に行うものである。 しかも、この表示部カバーの動作はゆっくりとしたものである。 また、計算機の裏側に最も回り込んだ表示部カバーは、液晶表示部を高く支持する脚として機能する。 したがって、甲第12号証における計算機のキャビネット本体と、表示部カバーと、係止爪とは、それぞれ本件考案の「キャビネット本体」、「液晶表示部カバー」、「留め具」に相当し、これに加えて、甲第12号証における計算機の表示部カバーは、本考案の本体の頭部を自動的にプレスアップして傾斜支持する表示部カバーに相当する。 よって、甲第12号証の計算機は、考案特定事項bを備えている。 (4)また、甲第12号証の計算機には「UK DESIGN REG. NO. 2063785」の文字が刻印されている。 これは英国意匠NO.2063785(甲第14号証)を意味している。 因みに、甲第14号証は本件出願前に発行されたものであるとともに、計算機の表示部カバーが本体の裏側で頭部を持ち上げた状態と閉じて液晶表示部を覆った状態とが開示されているものであり、甲第12号証のプレスアップ計算機とは単に色違いであることから、甲第12号証のプレスアップ計算機と同構造の色違いのプレスアップ計算機が英国意匠登録出願日前から生産され本件出願前の1997年に販売されていたことが推察される。 (5)さらに、この輸入されて販売された販売品番C1349の計算機の構造は、甲第13号証に示すとおりであって、この計算機は、甲第13号証の写真5等に示すように表示部カバーのヒンジ部には捻りコイルばね及び係合軸が内蔵されていると共に捻りコイルばねによって表示部カバーが開放方向に付勢されている。 したがって、甲第14号証における計算機のキャビネット本体と、表示部カバーと、係止爪とは、それぞれ本件考案の「キャビネット本体」、「液晶表示部カバー」、「留め具」に相当する。 これに加えて、甲第14号証における計算機の捻りコイルばね及び係合軸は、本件考案1の「バネヒンジ部」に相当する。 よって、甲第14号証の計算機は、考案特定事項aを備えることは明らかである。 (6)上述したように、本考案の卓上計算機は甲第2号証および甲第12号証に示される計算機と同じ物であるとともに、かかる甲第2号証および甲第12号証に示される計算機は甲第2乃至12号証に示されるように本考案の出願日前に甲第2号証のカタログに掲載され(その動きと共に)、かつ日本に輸入され販売されていた。 したがって、本件考案1は、その実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されていたものであり、実用新案法第3条第1項第2号の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 3-3-1-1-2.本件考案2について 本件考案1についての説明で述べたように、アドミラル産業株式会社によって輸入されかつ販売されたプレスアップ計算機(C1349)は、プレスアップ動作は係合軸と液晶表示部カバーの軸受穴との間に充填されたグリースの粘性により緩慢に行われるものであり、請求項2記載の考案と同一である。 (1)即ち、甲第12号証(及び甲第13号証)に記載された計算機と対比すると、甲第12号証における計算機の「表示部カバーの軸受穴」、「捻りコイルばね」、「係合軸」、「グリス」は、本件考案2の「バネ収容部及びヒンジ鞘部とで形成されるヒンジ筒」、「コイルバネ」、「ヒンジ軸」、「グリース層」に相当する。 しかも、甲第12号証に記載されるように、表示部カバーが自動的に開いて液晶表示部を露出させると共に持ち上げる動作はゆっくりとした動きであり、甲第14号証の計算機は、考案特定事項c乃至fを全て備えている。 (2)ここで、甲第12号証のプレスアップ計算機は、液晶標示部カバーからは独立した「バネ収容部」及び「ヒンジ鞘部」とを有していないが、この表示部カバーの軸受穴とその中に形成される底部とが捻りコイルバネの一端を固定して収容する「バネ収容部」及び捻りコイルバネの他端を計算機本体側に固定させる係合軸との間でグリースを充填する「ヒンジ鞘部」を有しており、液晶標示部の軸受穴がヒンジ筒を兼ねている構成となっている。 したがって、これらは技術思想は同一である。 よって、本件考案1がその実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されていたものであることに鑑みると、本件考案2もまたその実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されていたものであり、実用新案法第3条第1項第2号の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 3-3-1-1-3.本件考案3について 甲第2号証および甲第12号証に記載されたプレスアップ計算機の表面側に露出した係止爪の操作摘みは、本件登録実用新案の「操作ボタン」に相当する。 したがって、甲第2号証および甲第12号証の計算機は、考案特定事項gを備えている。 よって、本件考案1乃至2がその実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されていたものであることに鑑みると、本件考案3もまたその実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されていたものであり、実用新案法第3条第1項第2号の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 3-3-1-2.サブヒロモリルート 3-3-1-2-1.本件考案1について 甲第1号証及び甲第15号証から甲第18号証によって、実用新案権利者が自ら本件出願日前にサブヒロモリルートで販売していたとする本件考案にかかるプレスアップ計算機(SCC7853)は、権利者自ら認めているように、また甲第15号証に示すその動きを分解して示す写真及び商品説明、販売された商品などから明らかなように、 (ア)液晶表示部を覆うカバーを、計算機本体の頭端部に設けた捻りコイルばねを内蔵したヒンジ部を介して計算機本体の裏側へ所定角度だけ自動回転可能に装着し、 (イ)係止爪で液晶表示部カバーを閉じた状態で保持し、 (ウ)係止爪を外すように操作するだけで自動的に液晶表示部カバーが開かれると共に計算機本体の頭部側を自動的にプレスアップしてキーボード部分と液晶表示部とが同時に傾斜支持されるようしたものであること、 (エ)しかも、プレスアップ動作は係合軸と液晶表示部カバーの軸受穴との間に充填されたグリースの粘性により緩慢に行われるものであることが明らかである。 したがって、本件考案1はその出願前に公然実施されたものである。 しかも、甲第12号証のプレスアップ計算機と単に色違いの同じ計算機である。 (1)即ち、甲第1号証では、株式会社日本シーシーエルが本件考案に係る卓上計算機について本件出願前の1996年からサブヒロモリルートで販売していたことを認めている。 ここに記載されたサブヒロモリルートとは、甲第17号証に示すようにヒロモリグループの一つである株式会社サブヒロモリあるいは株式会社サブヒロモリサブライヤー事業部を経由したルートである。 そして、株式会社サブヒロモリサブライヤー事業部発行で本件出願前の1997年11月上旬より前に頒布されたと推定される甲第15号証には、本件考案の計算機と同じく液晶表示部カバーがヒンジ部を中心に自動的に回転して開くと共に本体頭部をプレスアップして傾斜支持するようにした卓上計算機が開示されている。 (2)甲第15号証の株式会社サブヒロモリサプライヤー事業部EXCITING COMMUNICATION TOOLSカタログ1997-1998年度版は、証拠の説明において詳述したように、甲第16号証の1998-99年度版カタログよりも前で、更に、このカタログに掲載されている商品・メタルドキュメントスタンド(HAC7869)やメタルペンスタンド(SOL7860)に関する「【’97年11月上旬より発売予定】」であると記載との関係で遅くとも1997年11月上旬よりも前(本件出願日より1年以上前)に発行・頒布されていたと推定され、同時に、プッシュアップ電卓(SCC7853)も、1997年11月上旬よりも前に購入可能な状態であったことは容易に推定できる。 (3)そして、この甲第15号証に開示されたプレスアップ計算機は、甲第18号証にその内部構造を示すように、甲第12号証のものと同一構造の単なる色違いの商品である。 (4)上述したように、本件考案1の卓上計算機は甲第15号証に示される計算機と同一であり、また本件考案の出願日前に購入され、知られ得る状態にあった。 また、甲第15号証のカタログには、液晶表示部を覆うカバーを、計算機本体の頭端部を中心に計算機本体の裏側へ所定角度だけ自動回転可能に装着し、係止爪で液晶表示部カバーを閉じた状態で保持し、係止爪を外すように操作するだけで自動的に液晶表示部カバーが緩やかに開かれると共に計算機本体の頭部側を自動的にプレスアップしてキーボード部分と液晶表示部とが同時に傾斜支持されるようにする技術的思想がプレスアップ動作写真と説明とともに開示されている。 したがって、本件考案1は、その実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されていたものであり、実用新案法第3条第1項第2号の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 3-1-1-2-2.本件考案2について 本件考案1についての説明で述べたように、権利者自らがサブヒロモリルートで出願日前の1996年頃から販売したというプレスアップ計算機(C1349)は、プレスアップ動作は係合軸と液晶表示部カバーの軸受穴との間に充墳されたグリースの粘性により緩慢に行われるものであり、本件考案2と同一である。 (1)即ち、甲第18号証で明らかなように、甲第15号証に掲載されているプレスアップ計算機の「表示部カバーの軸受穴」、「捻りコイルばね」、「係合軸」、「グリス」は、本件登録実用新案の「バネ収容部及びヒンジ鞘部とで形成されるヒンジ筒」、「コイルバネ」、「ヒンジ軸」、「グリース層」に相当する。 しかも、甲第12号証に記載されるように、表示部カバーが自動的に開いて液晶表示部を露出させると共に持ち上げる動作はゆっくりとした動きである。 したがって甲第15号証のカタログに掲載されている甲第18号証の計算機は、考案特定事項c乃至fを全て備えている。 (2)ここで、甲第15乃至18号証のプレスアップ計算機は、液晶標示部カバーからは独立した「バネ収容部」及び「ヒンジ鞘部」とを有していないが、この表示部カバーの軸受穴とその中に形成される底部とが捻りコイルバネの一端を固定して収容する「バネ収容部」及び捻りコイルバネの他端を計算機本体側に固定させる係合軸との間でグリースを充填する「ヒンジ鞘部」を有しており、液晶標示部の軸受穴がヒンジ筒を兼ねている構成となっている。したがって、これらは技術思想は同一である。 よって、本件考案1がその実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されていたものであることに鑑みると、本件考案2もまたその実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されていたものであり、実用新案法第3条第1項第2号の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 3-1-1-2-3.本件考案3について 甲第15乃至18号証に記載されたプレスアップ計算機の表面側に露出した係止爪の操作摘みは、本件考案3の「操作ボタン」に相当する。 したがって、甲第15乃至18号証の計算機は、考案特定事項gを備えている。 よって、本件考案1乃至2がその実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されていたものであることに鑑みると、本件考案3もまたその実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されていたものであり、実用新案法第3条第1項第2号の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 3-3-2.実用新案法第3条1項3号(刊行物記載)についての主張 3-3-2-1.アドミラル産業株式会社ルート(クリエイティブベスト社のカタログ) 3-3-2-1-1.本件考案1について (1)本件考案1と甲第2号証に記載された計算機とを対比する。 即ち、甲第2号証における計算機のキャビネット本体は、本件考案1の「キャビネット本体」に相当する。 また、甲第2号証における液晶表示部カバーは、本体の頭端部に設けたヒンジ部を中心に本体の裏側へ所定角度だけ自動回転可能に装着されているので、本件登録実用新案の「液晶表示部カバー」に相当する。 さらに、甲第2号証における計算機では、表面側に露出する係止爪の操作により液晶表示部カバーが自動的に開放するので、甲第2号証における係止爪は本件考案1の「留め具」に相当する。 したがって、甲第2号証の販売品番C1349の計算機は、本件考案1の「キャビネット本体」、「液晶表示部カバー」、「留め具」を備えている。 (2)さらに、甲第2号証の計算機は、テンキーの右上部に位置する係止爪を手前側にスライドさせるというワンタッチ操作を行っただけで、液晶表示部を覆っていた表示部カバーが自動的に開いて液晶表示部を露出させると共に持ち上げる動作を連続的に行うものである。 しかも、この表示部カバーの動作はゆっくりとしたものである。 また、計算機の裏側に最も回り込んだ表示部カバーは、液晶表示部を高く支持する脚として機能する。 (3)上述したように、本考案の卓上計算機は甲第2号証に示される計算機と同じものであるとともに、かかる甲第2号証は、本考案の出願日前に頒布されたカタログである。 したがって、本件考案1は、その実用新案登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された考案であり、実用新案法第3条第1項第3号の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 3-3-2-1-2.本件考案3について 甲第2号証に記載されたプレスアップ計算機の表面側に露出した係止爪の操作摘みは、本件登録実用新案の「操作ボタン」に相当する。 したがって、甲第2号証に記載された計算機は、考案特定事項gを備えている。 よって、本件考案3もまたその実用新案登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された考案であるから、実用新案法第3条第1項第3号の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 3-3-2-2.サブヒロモリルート 3-3-2-2-1.本件考案1について (1)株式会社サブヒロモリサブライヤー事業部発行で本件出願前の1997年11月上旬より前に頒布されたと推定される甲第15号証には、本件考案の計算機と同じく液晶表示部カバーがヒンジ部を中心に自動的に回転して開くと共に本体頭部をプレスアップして傾斜支持するようにした卓上計算機が開示されている。 (2)甲第15号証の株式会社サブヒロモリサプライヤー事業部EXCITING COMMUNICATION TOOLSカタログ1997‐1998年度版は、証拠の説明において詳述したように、甲第16号証の1998‐99年度版カタログよりも前で、更に、このカタログに掲載されている商品・メタルドキュメントスタンド(HAC7869)やメタルペンスタンド(SOL7860)に関する「【’97年11月上旬より発売予定】」であると記載との関係で遅くとも1997年11月上旬よりも前(本件出願日より1年以上前)に発行・頒布されていたと推定される。 また、甲第15号証のカタログには、液晶表示部を覆うカバーを、計算機本体の頭端部を中心に計算機本体の裏側へ所定角度だけ自動回転可能に装着し、係止爪で液晶表示部カバーを閉じた状態で保持し、係止爪を外すように操作するだけで自動的に液晶表示部カバーが緩やかに開かれると共に計算機本体の頭部側を自動的にプレスアップしてキーボード部分と液晶表示部とが同時に傾斜支持されるようにする技術的思想がプレスアップ動作分解写真と説明と共に開示されている。 したがって、本件考案1は、その実用新案登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された考案であるから、実用新案法第3条第1項第3号の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 3-3-2-2-2.本件考案3について 甲第15号証に記載されたプレスアップ計算機の表面側に露出した係止爪の操作摘みは、本件考案3の「操作ボタン」に相当する。 したがって、甲第15号証の計算機は、考案特定事項gを備えている。 よって、本件考案3もまたその実用新案登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された考案であり、実用新案法第3条第1項第3号の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 3-3-3.実用新案法第3条2項(容易性)についての主張 3-3-3-1.アドミラル産業株式会社ルート 3-3-3-1-1.本件考案1について (ア)同一点 本件考案1と甲第12号証並びに甲第13号証に示された本件出願前に日本国内に輸入され販売されたプレスアップ計算機とを対比すると、甲第12号証における計算機の「テンキーや液晶表示部を有する電卓本体」、「液晶表示部を覆っているカバー」、「テンキーの右上部に位置する係止爪(ボタン)」は、それぞれ本件考案の「キャビネット本体」、「液晶表示部カバー」、「留め具」に相当する。 また、甲第12号証におけるプレスアップ計算機の表示部カバーは、表面にある係止爪を引くことにより自動的に開くと共にそのまま裏側に回り込んで計算機の頭部を持ち上げるものなので、本考案の本体の頭部を自動的にプレスアップして傾斜支持する液晶表示部カバーに相当する。 したがって、甲第12号証の計算機は、考案特定事項bを備えている。 また、甲第12号証の計算機は、ヒンジ部分に捻りコイルばね及び係合軸を備えている。 そして、この捻りコイルばねに回転力を蓄えておき、この蓄勢力を利用して表示部カバーの自動開放を行っている。よって、このヒンジ構造は、本考案の本体の裏側へ所定角度だけ自動回転可能に装着されたバネヒンジ部に相当する。 したがって、甲第12号証の計算機は、考案特定事項aを備えている。 (イ)相違点 本件考案1記載の考案と甲第12号証のプレスアップ計算機とでは実施例レベル程度の軽微な差異は有り得るが、液晶表示部を覆うカバーを計算機裏側へ回転させ計算機の液晶表示部側を持ち上げ、かつカバーを脚部として支持させるという本質的な技術的思想については相違しない。 (ウ)よって、本件本件考案1は、出願前公知の甲第12号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 因みに、権利者が出願日前にサブヒロモリルートで販売した甲第15号証に記載のプレスアップ計算機(SCC7853)も、甲第12号証のプレスアップ計算機と色違いの同じ構造であるため、同様にこの甲第12号証の公然実施ないし公然知られた考案からもきわめて容易に考案することができることは言うまでもない。 3-3-3-1-2.本件考案2について (ア)同一点 甲第12号証のプレスアップ計算機には、上述したように、考案特定事項a及びbに相当する「テンキーや液晶表示部を有する電卓本体」、「液晶表示部を覆っているカバー」、「テンキーの右上部に位置する係止爪(ボタン)」、「捻りコイルばね及び係合軸を備えヒンジ部分」などを備えている点で共通している。 しかし、ヒンジ軸を嵌装するヒンジ鞘7とバネ収納部6とを有していない点で相違している。 (イ)相違点 しかしながら、「係合軸」と「液晶表示部カバーの軸受穴」との間にはグリースが充填され、かつ「液晶表示部カバーの軸受穴」の中央の底部にはバネの巻き端を蕨め込む直線溝が形成されていることから、「係合軸」は本考案の「ヒンジ軸」、「液晶表示部カバーの係合軸が装入される側寄りの部分の軸受穴」は本考案の「ヒンジ鞘7」、「液晶表示部カバーの軸受穴のバネの巻き端を嵌め込む直線溝が形成されている底部並びにその周囲の軸受穴」は「バネ収容部」に相当し、甲第12号証のプレスアップ計算機の表示部カバーの軸受穴部分、捻りコイルばね、係合軸、グリースは、本件登録実用新案の「バネ収容部及びヒンジ鞘部とで形成されるヒンジ筒」、「コイルバネ」、「ヒンジ軸」、「グリース層」に相当する。 したがって、甲第12号証の構成において更に部品点数を増やして「バネ収容部及びヒンジ鞘部とで形成されるヒンジ筒」とすることは、特に技術的効果を奏するものではなく、設計的事項である。 よって、本件考案2は、出願前公知の甲第12号証に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 因みに、権利者が出願日前にサブヒロモリルートで販売した甲第15号証に記載のプレスアップ計算機(SCC7853)も、甲第12号証のプレスアップ計算機と色違いの同じ構造であるため、同様にこの甲第12号証の公然実施ないし公然知られた考案からも極めて容易に考案することができることは言うまでもない。 3-3-3-1-3.本件考案3について 甲第12号証におけるプレスアップ計算機の表面側に露出した係止爪の操作摘みは、本件登録実用新案の「操作ボタン」に相当する。 よって、本件本件考案3は、出願前公知の甲第12号証に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 因みに、権利者が出願日前にサブヒロモリルートで販売した甲第15号証に記載のプレスアップ計算機(SCC7853)も、甲第12号証のプレスアップ計算機と色違いの同じ構造であるため、同様にこの甲第12号証の公然実施ないし公然知られた考案からもきわめて容易に考案することができることは言うまでもない。 3-3-3-2.サブヒロモリルート 3-3-3-2-1.本件考案1について (ア)同一点 本件登録実用新案と甲第15号証に記載された計算機とを対比すると、甲第15号証における計算機の「電卓本体」、「液晶をカバーしているフタ」、「ボタン」は、それぞれ本件考案の「キャビネット本体」、「液晶表示部カバー」、「留め具」に相当する。 また、甲第15号証における計算機の表示部カバーは、「前面にあるボタンを押すと、液晶をカバーしているフタが自動的に開き、そのままクルリと回転して電卓本体を持ち上げ、使い易い角度でとまる。」という記載と、表示部カバーの開放動作を順に示す図と、計算機本体の裏側で脚として機能している写真とから、本考案の本体の頭部を自動的にプレスアップして傾斜支持する液晶表示部カバーに相当する。 したがって、甲第15号証の計算機は、考案特定事項bを備えている。 (イ)相違点 そして、甲第15号証では、本件考案の「バネヒンジ部」の構成は明示されてはいない。 しかしながら、この種の小型の計算機の表示部カバーを自動回転させる動力源としてばねを利用することは単なる設計的事項に過ぎない。 なぜなら、甲第15号証には表示部カバーが自動的に回転するという具体的な動作写真とその説明が記載されているので、ヒンジにおいてこの動作を実現しようとするには捻りバネの力で実現できる程度のことは、当業者によれば極めて容易に想到できるからである。 例えば、回転体のヒンジ部にコイルばねを内蔵させたバネヒンジの構成は出願前から公知なものであり、甲第19号証や甲第20号証などにも開示されている。 即ち、甲第19号証には、捻りコイルばね10をヒンジに組み込んでグローブボックスGを閉じる方向に付勢する技術が開示されている。そして、このヒンジ内部に粘性流体(シリコーンオイル)6を封入して回転抵抗を生じさせて回転側部材たるグローブボックスGの動きを緩やかにする技術が開示されている。 即ち、バネヒンジ回転動作を粘性流体の摩擦抵抗を利用して緩やかにする技術が開示されている。 また、甲第20号証には、折り畳み式電話機などに使用される蝶番1において、固定体2に対して回転体3をゆっくりと回転するようにした技術が開示されている。この蝶番1も所謂ヒンジであり、回転体3を所定の位置まで回転させるためのカム4に付勢するばね部材6が開示されている。 したがって、ヒンジ利用技術において、ばね部材により回転体が所定の位置まで回転させる構造は当業者によればきわめて容易に想到できる設計的事項に過ぎない。 よって、本件考案1は、出願前公知の甲第15号証あるいは甲第2号証記載の考案と甲第19号証あるいは甲第20号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 3-3-3-2-2.本件考案2について (ア)同一点 甲第15号証における計算機の「電卓本体」、「液晶をカバーしているフタ」、「ボタン」は、それぞれ本件考案の「キャビネット本体」、「液晶表示部カバー」、「留め具」に相当する。 また、甲第15号証における計算機の表示部カバーは、「前面にあるボタンを押すと、液晶をカバーしているフタが自動的に開き、そのままクルリと回転して電卓本体を持ち上げ、使い易い角度でとまる。」という記載と、表示部カバーの開放動作を順に示す図と、計算機本体の裏側で脚として機能している写真とから、本考案の本体の頭部を自動的にプレスアップして傾斜支持する液晶表示部カバーに相当する。 したがって、甲第15号証の計算機は、考案特定事項bを備えている。 ところが、「バネヒンジ」を備える点と、そのバネヒンジの構成について甲第15号証には記載がない。 (イ)相違点 しかしながら、甲第15号証に記載されている回転動作やその説明から、カバーと本体との間がヒンジ連結であることは容易に想到できる。 甲第19号証には、捻りコイルばね10をヒンジに組み込んでグローブボックスGを閉じる方向に付勢する技術が開示されている。 そして、このヒンジ内部に粘性流体(シリコーンオイル)6を封入して回転抵抗を生じさせて回転側部材たるグローブボックスGの動きを緩やかにする技術が開示されている。 即ち、バネヒンジ回転動作を粘性流体の摩擦抵抗を利用して緩やかにする技術が開示されている。 また、甲第20号証には、折り畳み式電話機などに使用される蝶番1において、固定体2と回転体3との間に粘性グリス9を封入してゆっくりと回転するようにした技術が開示されている。 この蝶番1も所謂ヒンジであり、回転体3を所定の位置まで回転させるためのカム4に付勢するばね部材6が開示されている。 したがって、ばね部材6により回転体3が所定の位置まで回転されるときに粘性グリス9の抵抗を受けてゆっくりと回転するようになる。 したがって、ヒンジ利用技術において、ばね部材により回転体が所定の位置まで回転させる構造は当業者によればきわめて容易に想到できる設計的事項に過ぎず、また回転体と固定体との間にグリースやシリコーンオイルなどの粘性物質を充填・介在させてその粘性を利用して回転体の回転抵抗を増し、緩やかに回転させることは既に甲第19号証や甲第20号証に開示されていることから、 これらを以てして本件考案2は極めて容易に想到できるものである。 因みに、甲第19号証における「筒体1」、「トーションスプリング10」、「ヘッドユニット7」、「シリコーンオイル6」は、本件考案の「バネ収容部及びヒンジ鞘部とで形成されるヒンジ筒」、「コイルバネ」、「ヒンジ軸」、「グリース層」に相当する。 したがって、甲第19号証には考案特定事項c乃至fが全て開示されている。 また、甲第20号証における「固定体2」、「ばね部材6」、「回転体3」、「粘性グリス9」は、本件考案の「バネ収容部及びヒンジ鞘部とで形成されるヒンジ筒」、「コイルバネ」、「ヒンジ軸」、「グリース層」に相当する。したがって、甲第20号証には考案特定事項c乃至fが全て開示されている。 よって、本件考案2は、出願前公知の甲第15号証ないし甲第2号証と甲第19号証あるいは甲第20号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 3-3-3-2-3.本件考案3について 甲第15号証には、液晶表示部を覆うカバーを前面にある「ボタン」を操作することによって自動的に開くことが指摘してある。したがって、甲第15号証の計算機は、考案特定事項gを備えている。 よって、本件本件考案3は、出願前公知の甲第15号証と甲第19号証あるいは甲第20号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 3-3-4.実用新案法第5条第4項(記載不備)についての主張 理由の要点 (1)本件考案は、請求項1によると、「液晶表示部カバー2は、バネヒンジ部3を介して本体1の頭端部に回転可能に取り付けられると共に、当該バネヒンジ部3の作用により自動的に開くとともに本体1の頭部を自動的にプレスアップして傾斜支持する」ように構成されている。 この「バネヒンジ部3」については、請求項1には「介して」とだけ記載されているだけであり、液晶表示カバー2とキャビネット本体に対してバネヒンジ部のどの部分がどのように取り付けられているのかという相互関係については記載されていない。 (2)そこで、このバネヒンジ部の構成について、請求項2の記載及び考案の詳細な説明と図面を参酌すると、「バネ収納部6及びヒンジ鞘部7とで形成されるヒンジ筒5」と、「バネ収納部6に収納されるコイルバネ8」と、「内端をコイルバネ8と連係すると共に外端をキャビネット本体1側部に枢支させてヒンジ鞘部7に嵌装させるヒンジ軸9」とから成るとされている。 すなわち、 ア.コイルバネ8がバネ収納部6に収納されること、 イ.ヒンジ軸9の内端がコイルバネ8に連係されること、 ウ.ヒンジ軸9の外端がキャビネット本体1側部に枢支されること、 エ.ヒンジ軸9がヒンジ鞘部7に嵌装されること の4点の構成が記載されている。 しかしながら、考案の詳細な説明と図面を参酌しても、バネヒンジ部3を構成する各部材とキャビネット本体並びに液晶表示部カバーの基部とが互いにどのような関係で構成されているのか明確とはなっていない。 つまり、バネ収納部6と液晶表示部カバー2あるいはキャビネット本体との関係、ヒンジ鞘部7と液晶表示部カバー2との関係、液晶表示カバー2とキャビネット本体1との関係が全く開示されておらず、本件出願の考案の詳細な説明は当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。 (3)ここで、「バネヒンジ」という用語は、甲第21号証の機械用語集やJIS工業用語大辞典などにも掲載されていないし、明細書中にも定義がないものであるが、「ヒンジ」という用語が甲第21号証によると「ピンなどを用いて、中心軸のまわりに互いに揺動できる構造の接合部分」を意味していることから、相対回転可能な回転部材と固定部材とを備え、その固定部材と回転部材との間に捻りばねを設けてその捻りばねに蓄えられた力で回転部材を捻りばねの蓄勢力を解放する方向に回転させる機能を備えようとしたものであると推測される。 しかしながら、本考案のバネヒンジ部に使用されるコイルバネが、どのようにして固定部材であるキャビネット本体と回転部材である液晶表示部カバーとに関連しているのか、実用新案登録請求の範囲並びに明細書や図面の記載からはその構成が不明であるため明確に理解できない。 即ち、コイルバネ8は、バネ収容部6に収容されかつヒンジ軸9の内端に連係されていると記載されている。ここで、連係」とは甲第22号証こよると「互いに繋がりをもつこと。繋ぎ付けること。」とありヒンジ軸9とコイルバネ8とが互いに繋がりをもつ状態であることは理解できる。 また、「収納」とは、甲第23号証によると「金品を受けおさめること。農作物などをとりいれること。」を意味する語であり、コイルバネをバネ収容部6は収める以外の意味を有しておらず、コイルバネがバネ収容部6によって固定されていると解釈することはできない。 しかも、コイルバネ8と連係するヒンジ軸9の外端はキャビネット本体1に枢支されていると記載されてる。 「枢支」の定義は明細書中にはなく、甲第23号証の広辞苑やその他の一般的な国語辞典、甲第21号証の機械用語集やJIS工業用語大辞典などにも掲載されていない造語いわゆる特許用語であると思われる。 その意味するところは、甲第22号証によると、「凹部と凸部で回動可能に支持すること。」とあることから、ヒンジ軸9はキャビネット本体1に対して回動可能に支持されていると解釈するのが妥当である。 さらに、ヒンジ軸9はヒンジ鞘部7に嵌装されていると記載されているが、「嵌装」とは甲第23号証などの国語辞典には載っていない造語であり、甲第22号証の特許用語集によると「嵌めた状態に備え付けること。」とある。 このため、ヒンジ軸9はヒンジ鞘部7に嵌めた状態に備え付けられていると解釈するのが妥当である。 しかし、ヒンジ軸9とヒンジ鞘部7との間にはグリース層10が形成されていることから両者が回転自在に嵌められていることは明らかであり、ヒンジ軸9とヒンジ鞘部7とが固定関係にないことは明らかである。 (4)また、本考案の明細書および図面の全体を参照しても、コイルバネ8の一端をキャビネット本体1側に、他端を液晶表示部カバー2側にそれぞれ回転不能に固定するという構成について一切記載が無く、またそれを想起させる示唆もない。 (5)したがって、このように構成されたバネヒンジ部3では、コイルバネ8は並びにこコイルバネ8と連係するヒンジ軸7は、いずれもキャビネット本体1と液晶表示部カバー2とに対しそれぞれ回転可能に支持されているだけであり、液晶表示部カバー2を回転させてもコイルバネ8が捻られて力が蓄えられないことは明らかであり、このバネヒンジ部3を利用して液晶表示部カバー2を回転させることはできない。 依って、本件出願の考案の詳細な説明は当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、また実用新案登録請求の範囲は実用新案登録を受けようとする考案を明確に記載しておらず、本件出願は実用新案法第5条第4項及び6項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。 4.審判被請求人の主張(答弁書の内容) 本件考案1乃至3は請求人が掲げた証拠の計算機とその構成が相違するものであるため本件考案1乃至3は新規性を有している。 また、本件考案1乃至3は請求人が掲げた証拠の計算機とその構成が大きく相違するものであるため当業者といえども証拠の計算機からでは本件考案1乃至3をきわめて容易に考案することが困難であり請求項1乃至3の考案は進歩性を有している。 さらに、本件考案の詳細な説明は当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載され、記載不備に該当しない。 以上のとおりであるから、本件考案は実用新案法第37条第1項第2号、実用新案法第37条第1項第4号の規定に該当せず、その実用新案登録を無効にすることはできない。 4-1.公然実施・刊行物記載について 4-1-1.アドミラル産業株式会社ルート 4-1-1-1.本件考案1の公然実施・刊行物記載について 本件考案1は実用新案登録請求の範囲に記載されているように、「キャビネット本体1の液晶表示部カバー2を、該本体1の頭端部において前記液晶表示部カバー2の基部に設けたバネヒンジ部3を介して本体1の裏側へ所定角度だけ自動回転可能に装着し、前記液晶表示部カバー2の留め具4を外すと、該カバー2が自動的に開くとともに本体1の頭部を自動的にプレスアップして傾斜支持するように構成した卓上計算機。」である。 従って、本件考案1の「バネヒンジ部3」も本件考案1の重要な構成要素である。 請求人は、甲第12号証の計算機の捻りコイルばね及び係合軸は本件考案1の「バネヒンジ部3」に相当すると主張するが前記「バネヒンジ部3」は考案の詳細な説明の欄に記載されているように「バネ収納部6及びヒンジ鞘部7とで形成されるヒンジ筒5と、前記バネ収納部6に収納するコイルバネ8と、内端を該コイルバネ8と連係し且つ外端をキャビネット本体1側部に枢支させて前記ヒンジ鞘部7に嵌装させるヒンジ軸9とから成る」ものである。即ち、前記「バネヒンジ部3」はバネ収納部6、ヒンジ鞘部7、ヒンジ筒5、コイルバネ8、ヒンジ軸9の5部材から構成されている。 従って、甲第12号証の計算機の捻りコイルばね及び係合軸と前記「バネヒンジ部3」とではその構成が大きく相違する。 このため、甲第12号証の計算機の捻りコイルばね及び係合軸が前記「バネヒンジ部3」に相当するという請求人の指摘は明らかに妥当性を欠くものである。 この結果、本件考案1は甲第2号証の計算機と相違するものであり、本件考案1は新規性を有し、実用新案法第37条第1項第2号に該当するものではない。 4-1-1-2.本件考案2の公然実施・刊行物記載について 本件考案2は実用新案登録請求の範囲に記載されているように、「液晶表示部カバー2の基部に設けたバネヒンジ部3が、バネ収納部6及びヒンジ鞘部7とで形成されるヒンジ筒5と、前記バネ収納部6に収納するコイルバネ8と、内端を該コイルバネ8と連係し且つ外端をキャビネット本体1側に枢支させて前記ヒンジ鞘部7に服装させるヒンジ軸9とから成り、前記ヒンジ鞘部7とヒンジ軸9の嵌装空間にグリース層10を形成してバネヒンジ部3の回転が動作緩慢に行われるようにした請求項1記載の卓上計算機。」である。 従って、前記「バネ収容部6」及び「ヒンジ鞘部7」も共に請求項2の重要な構成要素である。 請求人は、『甲第12号証の計算機は、独立した「バネ収容部」及び「ヒンジ鞘部」を有していないが、表示部カバーの軸受穴とその中に形成される底部とが捻りコイルバネの一端を固定して収容する「バネ収容部」及び捻りコイルバネの他端を計算機本体側に固定させる係合軸との間でグリースを充填する「ヒンジ鞘部」を有しており、液晶表示部の軸受穴がヒンジ筒を兼ねている構成となっているため、本件考案2の「バネ収容部」及び「ヒンジ鞘部」と同じ技術思想である。』と主張するが、請求人も認めるように本件考案2の「バネ収納部6」及び「ヒンジ鞘部7」は共に独立した部品である。 即ち、考案の詳細な説明及び図面図2にも記載されているように、前記バネ収納部6はコイルバネ8を収納する筒体で、前記ヒンジ鞘部7はヒンジ軸9が嵌装される筒体である。 従って、甲第12号証の計算機には本件考案2の構成要件である独立した「バネ収納部」及び「ヒンジ鞘部」は開示されていません。 この結果、本件考案2は新規性を有し、実用新案法第37条第1項第2号に該当するものではない。 4-1-1-3.本件考案3の公然実施・刊行物記載について 本件考案3は実用新案登録請求の範囲に記載されているように、「液晶表示部カバー2の留め具4の操作ボタン4aをキャビネット本体1の表面側に臨ませて成る請求項1又は2記載の卓上計算機」である。 従って、本件考案3は本件考案1又は本件考案2の考案が前提になっている。 このため、上述したように本件考案1及び本件考案2が新規性を有している以上、例え甲第2号証、甲第12号証の計算機に本件考案の操作ボタン4aに該当する「係止爪の操作摘み」が設けられていても、本件考案3は甲第2号証、甲第12号証に開示された計算機と相違する。 この結果、本件考案3は新規性を有し、実用新案法第37条第1項第2号に該当するものではない。 4-1-2.サブヒロモリルート 4-1-2-1.本件考案1の公然実施・刊行物記載について 本件考案1は実用新案登録請求の範囲に記載されているように、「キャビネット本体1の液晶表示部カバー2を、該本体1の頭端部において前記液晶表示部カバー2の基部に設けたバネヒンジ部3を介して本体1の裏側へ所定角度だけ自動回転可能に装着し、前記液晶表示部カバー2の留め具4を外すと、該カバー2が自動的に開くとともに本体1の頭部を自動的にプレスアップして傾斜支持するように構成した卓上計算機。」である。 即ち、本件考案1の「バネヒンジ部3」は本件考案1の重要な構成要素である。 請求人は、甲第15号証の計算機は甲第12号証の計算機と同一構造であると主張する。 しかし、アドミラル産業(株)ルートで輸入販売された計算機との新規性の対比の欄でも述べたが、前記「バネヒンジ部3」は考案の詳細な説明の欄に記載されているように「バネ収納部6及びヒンジ鞘部7とで形成されるヒンジ筒5と、前記バネ収納部6に収納するコイルバネ8と、内端を該コイルバネ8と連係し且つ外端をキャビネット本体1側に枢支させて前記ヒンジ鞘部7に嵌装させるヒンジ軸9とから成る」ものである。即ち、前記「バネヒンジ部3」はバネ収納部6、ヒンジ鞘部7、ヒンジ筒5、コイルバネ8、ヒンジ軸9の5部材から構成されている。 従って、甲第15号証の計算機の捻りコイルばね及び係合軸と前記「バネヒンジ部3」はその構成が大きく相違し、甲第15号証の計算機の捻りコイルもまね及び係合軸が前記「バネヒンジ部3」に相当するという請求人の指摘は明らかに妥当性を欠くものである。 この結果、甲第15号証の計算機と本件考案1は相違するものであり、本件考案1は新規性を有し、実用新案法第37条第1項第2号に該当しない。 4-1-2-2.本件考案2の公然実施・刊行物記載について 本件考案2は実用新案登録請求の範囲に記載されているように、「液晶表示部カバー2の基部に設けたバネヒンジ部3が、バネ収納部6及びヒンジ鞘部7とで形成されるヒンジ筒5と、前記バネ収納部6に収納するコイルバネ8と、内端を該コイルバネ8と連係し且つ外端をキャビネット本体1側に枢支させて前記ヒンジ鞘部7に嵌装させるヒンジ軸9とから成り、前記ヒンジ鞘部7とヒンジ軸9の嵌装空間にグリース層10を形成してバネヒンジ部3の回転が動作緩慢に行われるようにした請求項1記載の卓上計算機。」である。 従って、前記「バネ収納部6」及び「ヒンジ鞘部7」は共に請求項2の構成要素である。 請求人は、『甲第12号証の計算機は、独立した「バネ収容部」及び「ヒンジ鞘部」を有していないが、表示部カバーの軸受穴とその中に形成される底部とが捻りコイルバネの一端を固定して収容する「バネ収容部」及び捻りコイルバネの他端を計算機本体側に固定させる係合軸との間でグリースを充填する「ヒンジ鞘部」を有しており、液晶表示部の軸受穴がヒンジ筒を兼ねている構成となっているため、本件請求項2の「バネ収容部」及び「ヒンジ鞘部」と同じ技術思想である。』と主張するが、本件考案2の「バネ収納部6」及び「ヒンジ鞘部7」は共に独立した部品であると共に本件考案2の重要な構成要素である。 従って、甲第15号証の計算機に本件考案2の構成要素である独立した「バネ収納部」及び「ヒンジ鞘部」が設けられていない以上、本件考案2は新規性を有し、実用新案法第37条第1項第2号に該当するものではない。 4-1-2-3.本件考案3の公然実施・刊行物記載について 本件考案3は実用新案登録請求の範囲に記載されているように、「液晶表示部カバー2の留め具4の操作ボタン4aをキャビネット本体1の表面側に臨ませて成る請求項1又は2記載の卓上計算機」である。 従って、本件考案3は本件考案1又は本件考案2が前提になっている。 このため、上述しましたように本件考案1及び本件考案2が新規性を有している以上、例え甲第15号証の計算機に本件考案の操作ボタン4aに該当する「係止爪の操作摘み」が設けられていても、本件考案3は甲第15号証に開示された計算機と相違する。 この結果、本件考案3は新規性を有し、実用新案法第37条第1項第2号に該当するものではない。 4-2.進歩性について 4-2-1.アドミラル産業株式会社ルート 4-2-1-1.本件考案1について 本件考案1は実用新案登録請求の範囲に記載されているように、「キャビネット本体1の液晶表示部カバー2を、該本体1の頭端部において前記液晶表示部カバー2の基部に設けたバネヒンジ部3を介して本体1の裏側へ所定角度だけ自動回転可能に装着し、前記液晶表示部カバー2の留め具4を外すと、該カバー2が自動的に開くとともに本体1の頭部を自動的にプレスアップして傾斜支持するように構成した卓上計算機。」である。 請求人は、「甲第12号証の計算機はヒンジ部分に捻りコイルばね及び係合軸を備えており、この捻りコイルばねに回転力を蓄えておき、この蓄勢力を利用して表示部カバーの自動開放を行っている。 よって、このヒンジ構造は.本考案の本体の裏側へ所定角度だけ自動回転可能に装着されたバネヒンジ部に相当する」と主張する。 しかし、本件請求項1の「バネヒンジ部3」は考案の詳細な説明の欄に記載されているように「バネ収納部6及びヒンジ鞘部7とで形成されるヒンジ筒5と、前記バネ収納部6に収納するコイルバネ8と、内端を該コイルバネ8と連係し且つ外端をキャビネット本体1側に枢支させて前記ヒンジ鞘部7に嵌装させるヒンジ軸9とから成る」ものである。 即ち、前記「バネヒンジ部3」はバネ収納部6、ヒンジ鞘部7、ヒンジ筒5、コイルバネ8、ヒンジ軸9の5部材から構成されている。 従って、甲第12号証の計算機の捻りコイルばね及び係合軸と本件請求項1の「バネヒンジ部3」の構成は大きく相違し、甲第12号証の計算機の捻りコイルばね及び係合軸が前記「バネヒンジ部3」に相当するという請求人の指摘は明らかに妥当性を欠くものである。 この結果、当業者といえども甲第12号証の計算機に基づいてきわめて容易に本件考案1を考案することは困難であり、甲第12号証の計算機に基づいて当業者がきわめて容易に本件考案1の考案を考案できるとすると小発明を積極的に保護する実用新案制度の存在意義を没却することになると思料する。 従って、本件考案1は進歩性を有し、実用新案法第37条第1項第2号に該当するものではない。 4-2-1-2.本件考案2について 本件考案2は実用新案登録請求の範囲に記載されているように、「液晶表示部カバー2の基部に設けたバネヒンジ部3が、バネ収納部6及びヒンジ鞘部7とで形成されるヒンジ筒5と、前記バネ収納部6に収納するコイルバネ8と、内端を該コイルバネ8と連係し且つ外端をキャビネット本体1側に枢支させて前記ヒンジ鞘部7に服装させるヒンジ軸9とから成り、前記ヒンジ鞘部7とヒンジ軸9の嵌挿空間にグリース層10を形成してバネヒンジ部3の回転が動作緩慢に行われるようにした請求項1記載の卓上計算機。」である。 従って、前記「バネ収納部6」及び「ヒンジ鞘部7」も共に請求項2の重要な構成要素である。 請求人は、『甲第12号証の計算機は「テンキーや液晶表示部を有する電卓本体」、「液晶表示部を覆っているカバー」、「テンキーの右上部に位置する係止爪(ボタン)」、「捻りコイルばね及び係合軸を備えヒンジ部分」などを備えている点で共通するが、ヒンジ軸を嵌装するヒンジ鞘7とバネ収納部6とを有していない点で相違する。 しかし、甲第12号証の計算機の「係合軸」と「液晶表示部カバーの軸受穴」との間にはグリースが充填され、かつ「液晶表示部カバーの軸受穴」の中央の底部にはバネの巻き端を嵌め込む直線溝が形成されていることから、「係合軸」は本件考案の「ヒンジ軸」、「液晶表示部カバーの係合軸が装入される側寄りの部分の軸受穴」は本件考案の「ヒンジ鞘7」、「液晶表示部カバーの軸受穴のバネの巻き端を嵌め込む直線溝が形成されている底部並びにその周囲の軸受穴」は本件考案の「バネ収容部」にそれぞれ相当し、甲第12号証の計算機の表示部カバーの軸受穴部分、捻りコイルばね、係合軸、グリースは、本考案の「バネ収容部及びヒンジ鞘部とで形成されるヒンジ筒」、「コイルバネ」、「ヒンジ軸」、「グリース層」に相当する。』と主張するが、請求人も認めるように甲第12号証の計算機には本件考案2の「コイルバネ8を収容するバネ収納部6」及び「ヒンジ軸9が嵌装されるヒンジ鞘部7」は開示されていない。 従って、甲第12証の計算機には本件考案2の重要な構成要素である独立した「バネ収納部」及び「ヒンジ鞘部」は開示されていない以上、当業者といえども甲第12号証の計算機に基づいて「きわめて」容易に本件考案2を考案することは困難である。 また、甲第12号証の計算機に基づいて当業者がきわめて容易に本件請求項2を考案できるとすると小発明を積極的に保護する実用新案制度の存在意義を没却させることになると思料する。 従って、本件考案2は進歩性を有し.実用新案法第37条第1項第2号に該当するものではない。 4-2-1-3.本件考案3の進歩性対比 本件考案3は実用新案登録請求の範囲に記載されているように、「液晶表示部カバー2の留め具4の操作ボタン4aをキャビネット本体1の表面側に臨ませて成る本件考案1又は2記載の卓上計算機」である。 従って、本件考案3は本件考案1又は本件考案2が前提になっている。 このため、上述したように本件考案1及び本件考案2が進歩性を有している以上、例え甲第12号証の計算機に係止爪の操作摘みが設けられていても、本件考案3は進歩性を有している。 従って、本件考案3は進歩性を有し、実用新案法第37条第1項第2号に該当するものではない。 4-2-2.サブヒロモリルート 4-2-2-1.本件考案1について 本件考案1のバネヒンジ部3」は考案の詳細な説明の欄及び図面に記載されているように「バネ収納部6及びヒンジ鞘部7とで形成されるヒンジ筒5と、前記バネ収納部6に収納するコイルバネ8と、内端を該コイルルバネ8と連係し且つ外端をキャビネット本体1側に枢支させて前記ヒンジ鞘部7に嵌装させるヒンジ軸9とから成る」ものである。 従って、本件考案1の前記「バネヒンジ部3」と請求人が指摘する甲第19号証や甲第20号証に示されるバネヒンジとではその構成が大きく相違する。 この結果、当業者といえども甲第15号証の計算機及び甲第19号証や甲第20号証のバネヒンジに基づいて「きわめて」容易に本件考案1を考案することは困難であり、甲第15号証の計算機及び甲第19号証や甲第20号証に基づいて当業者がきわめて容易に本件考案1を考案できるとすると小発明を積極的に保護する実用新案制度の存在意義を没却することになると思料する。 従って、本件考案1は進歩性を有し、実用新案法第37条第1項第2号に該当するものではない。 4-2-2-2.本件考案2について 本件考案2は実用新案登録請求の範囲に記載されているように、「液晶表示部カバー2の基部に設けたバネヒンジ部3が、バネ収納部6及びヒンジ鞘部7とで形成されるヒンジ筒5と、前記バネ収納部6に収納するコイルバネ8と、内端を該コイルバネ8と連係し且つ外端をキャビネット本体1側に枢支させて前記ヒンジ鞘部7に嵌装させるヒンジ軸9とから成り、前記ヒンジ鞘部7とヒンジ軸9の嵌装空間にグリース層10を形成してバネヒンジ部3の回転が動作緩慢に行われるようにした請求項1記載の卓上計算機。」である。 即ち、本件考案2の「バネヒンジ部3」は本件考案2の重要な構成要素である。 請求人は上述したように、「第15号証に記載されている回転動作やその説明から、カバーと本体との間がヒンジ連結であることは容易に想到できる。また、以前から公知である甲第19号証や甲第20号証などにもヒンジ利用技術が開示されている」と主張する。 しかし、本件考案2の「バネヒンジ部3」は「バネ収納部6及びヒンジ鞘部7とで形成されるヒンジ筒5と、前記バネ収納部6に収納するコイルバネ8と、内端を該コイルバネ8と連係し且つ外端をキャビネット本体1側に枢支させて前記ヒンジ鞘部7に嵌装させるヒンジ軸9とから成る」ものである。 従って、本件考案2の前記「バネヒンジ部3」と請求人が指摘する甲第19号証や甲第20号証に示されるバネヒンジとではその構成が大きく相違する。 この結果、当業者といえども甲第15号証の計算機及び甲第19号証や甲第20号証のバネヒンジに基づいて「きわめて」容易に本件考案2を考案することは困難であり、甲第15号証の計算機及び甲第19号証や甲第20号証に基づいて当業者がきわめて容易に本件考案2を考案できるとすると小発明を積極的に保護する実用新案制度の存在意義を没却することになると思料する。 従って、本件考案2は進歩性を有し、実用新案法第37条第1項第2号に該当するものではない。 4-2-2-3.本件考案3について 本件考案3は実用新案登録請求の範囲に記載されているように、「液晶表示部カバー2の留め具4の操作ボタン4aをキャビネット本体1の表面側に臨ませて成る請求項1又は2記載の卓上計算機」である。 従って、本件考案3は本件考案1又は本件考案2が前提になっている。 このため、上述しましたように本件考案1及び本件考案2が進歩性を有している以上、例え甲第15号証の計算機に「液晶表示部を覆うカバーを前面にある「ボタン」を操作することによって自動的に開くことが指摘されている。」記載があっても、本件考案3の考案は進歩性を有している。 従って、本件考案3は進歩性を有し、実用新案法第37条第1項第2号に該当するものではない。 4-3.記載不備について 明細書には「キャビネット本体1の液晶表示部カバー2を、該本体1の頭端部において前記液晶表示部カバー2の基部に設けたバネヒンジ部3を介して本体1の裏側へ所定角度だけ自動回転可能に装着する。 このバネヒンジ部3は、バネ収納部6及びヒンジ鞘部7とで形成されるヒンジ筒5と、前記バネ収納部6に収納するコイルバネ8と、内端を該コイルバネ8と連係し且つ外端をキャビネット本体1側部に枢支させて前記ヒンジ鞘部7に嵌装させるヒンジ軸9とから成り、前記ヒンジ鞘部7とヒンジ軸9の嵌装空間にグリースを充填してグリース層を形成する」記載がある。 また、乙第1号証にも図面左側から図面右側に向ってヒンジ軸9、ヒンジ鞘部7、コイルバネ8、バネ収納部6が分解状態で明瞭に示されている。しかも、ヒンジ軸9とヒンジ鞘部7の間に「→」、ヒンジ鞘部7とコイルバネ8の間に「→」、コイルバネ8とバネ収納部6の間に「→」の矢印記号がそれぞれ記載されている。このことは前記ヒンジ軸9、ヒンジ鞘部7、コイルバネ8、バネ収納部6の組付位置関係を示すものである。 しかも、コイルバネ8が収納されるバネ収納部6の内部右側にはコイルバネ8の右端が固定される溝部が明瞭に図示され、ヒンジ鞘部7に挿入されるヒンジ軸9の右端には前記コイルバネ8の左端が固定される溝部が明瞭に図示されている。また、前記バネ収納部6の右端には液晶表示部カバー2の基部内部に形成された仕切板部の孔に嵌り込む突起が図示され、バネ収納部6の左端内部には前記ヒンジ鞘部7の右端部が嵌り込めるように少しだけ内径を大きくした拡径部が図示されている。 さらに、キャビネット本体1の右側には前記液晶表示部カバー2の基部に挿入される突起部が図示され、この突起部と前記液晶表示部カバー2の基部の間には点線が記載され取付関係を示している。 また、キャビネット本体1の左側には前記ヒンジ軸9の左端に突設された突起部が挿入する孔が図示され、この孔とヒンジ軸9の左端の突起部との間には点線が記載され取付関係を示している。 従って、液晶表示部カバー2あるいはキャビネット本体1との関係、ヒンジ鞘部7と液晶表示部カバー2との関係,液晶表示部カバー2とキャビネット本体1との関係は明細書及び図面に開示されているものと思料する。 この結果、当業者であれば考案の詳細な説明及び図面に基づいて本件考案を実施することができ、明確かつ十分に記載されていないという請求人の主張は妥当性を欠くものである。 5.当審の判断 5-1.公然実施・刊行物記載・進歩性について 5-1-1.請求人が証拠により立証しようとした事実 (ア)甲第2号証(香港法人クリエイティブベストデベロップメントリミテッドの1998年度版カタログ)の第25頁には、「C1349」なる電卓が記載されており、そこには、「指で操作すると、液晶表示部カバーが開かれるとともに、計算機本体の頭部側を自動的にプレスアップしてキーボード部分と液晶表示部とが同時に傾斜支持されるようした」点が図示されているものであり、該カタログは、発行年度を示す表示から本件考案出願前に頒布されたものである。 (イ)甲第3乃至11号証は、「C1349」若しくは「HDF.223S」なる電卓の買付注文書、送り状、NNR航空運送状及びパッキングリストであり、当該「C1349」若しくは「HDF.223S」なる電卓が本件出願前、香港から日本国内に輸入されていたものである。 (ウ)甲第12号証は、「HDF223S」なるプレスアップ計算機を輸入したアドミラル産業株式会社代表取締役那須雅彦が「本件出願前に当該プレスアップ計算機を香港のポリフレーム コンセプト(エイチケー) リミテッドから輸入し、日本国内の株式会社コーエー東京営業所に納品したこと及びその機能及び動作」について証明するものである。 また、甲第14号証の本件出願前に頒布された英国意匠登録公報の登録番号「UK DESINE REG NO.2063785」が甲第12号証に貼付した写真のプレスアップ計算機にあり、この点からも甲第12号証で証明するプレスアップ計算機が本件出願前公然実施されていたものである。 (エ)甲第13号証は、甲第12号証でアドミラル産業株式会社代表取締役那須雅彦が本件出願前公然と実施されていたと証明したプレスアップ計算機の構造の分解写真である。(オ)本件考案出願前に頒布された甲第15号証「株式会社サブヒロモリサプライヤー事業部の1997-98年度版カタログ、EXCITING COMMUNICATION TOOLS’97-’98’」の第22及び23頁には、「A.プッシュアップ電卓SSC7853」が記載され、「指で操作すると、液晶表示部カバーが開かれるとともに、計算機本体の頭部側を自動的にプレスアップしてキーボード部分と液晶表示部とが同時に傾斜支持されるようした」点が図示されている。 このカタログは、甲第16号証にあるように毎年発行され、甲第17号証は、これを発行した「ヒロモリグループの株式会社サブヒロモリ及び株式会社サブリロモリサプライヤーが本件出願前に存在していた」ことを立証するものである。 (カ)甲第18号証は、甲第15号証の「A.プッシュアップ電卓SCC7853」の分解写真であり、その構造を明らかにするものである。 5-1-2.両当事者に争いのない点 Press Up Calculator C1349(プレスアップ計算機C1349)及びプッシュアップ電卓SCC7853が、本件出願前公然と実施された若しくは、本件出願前頒布された刊行物に記載されたものである点と、Press Up Calculator C1349(プレスアップ計算機C1349)及びプッシュアップ電卓SCC7853が (ア)液晶表示部を覆うカバーを、計算機本体の頭端部に設けた捻りコイルばねを内蔵したヒンジ部を介して計算機本体の裏側へ所定角度だけ自動回転可能に装着し、 (イ)係止爪で液晶表示部カバーを閉じた状態で保持し、 (ウ)係止爪を外すように操作するだけで自動的に液晶表示部カバーが開かれると共に計算機本体の頭部側を自動的にプレスアップしてキーボード部分と液晶表示部とが同時に傾斜支持されるようにしたものであり、 (エ)しかも、プレスアップ動作は係合軸と液晶表示部カバーの軸受穴との間に充填されたグリースの粘性により緩慢に行われるものである 点については、争いがない。(口頭審理調書、請求人の提出した審判請求書及び弁駁書、被請求人の提出した答弁書における主張参照。) 上記(ア)乃至(エ)からなる構成を備えたものを引用考案と称する。 5-2-1.本件考案1について 本件考案1と引用考案とを対比すると、引用考案における「計算機本体」、「液晶表示部を覆うカバー」、「計算機本体の頭端部」、「捻りコイルばねを内蔵したヒンジ部」及び「係止爪」は、それぞれ本件考案1の「キャビネット本体」、「液晶表示部カバー」、「本体の頭端部」、「バネヒンジ部」及び「留め具」に相当し、引用考案においても係止爪を外すように操作するだけで自動的に液晶表示部カバーが開かれると共に計算機本体の頭部側を自動的にプレスアップしてキーボード部分と液晶表示部とが同時に傾斜支持されるようしたものであり、本件考案1の液晶表示部カバーの留め具を外すと、該カバー2が自動的に開くとともに本体の頭部を自動的にプレスアップして傾斜支持するという機能を備えたものであって、両者の間に差異はない。 被請求人は、答弁書において「バネヒンジ部」は考案の詳細な説明の欄に記載されているように「バネ収納部6及びヒンジ鞘部7とで形成されるヒンジ筒5と、前記バネ収納部6に収納するコイルバネ8と、内端を該コイルバネ8と連係し且つ外端をキャビネット本体1側部に枢支させて前記ヒンジ鞘部7に嵌装させるヒンジ軸9とから成る」ものであり、前記「バネヒンジ部3」はバネ収納部6、ヒンジ鞘部7、ヒンジ筒5、コイルバネ8、ヒンジ軸9の5部材から構成されている」(被請求人、答弁書第第3頁第7乃至20行、第6頁第19乃至第7頁第2行。)旨主張し、口頭審理においても「バネヒンジ部の構造において相違する」(口頭審理調書)旨主張するが、本件考案1においては、バネヒンジの構成につき特段の限定をしているものではなく、単に「液晶表示部カバーの留め具を外すと、該カバー2が自動的に開くとともに本体の頭部を自動的にプレスアップして傾斜支持するという機能を備えたもの」でしか無く、この点において引用考案と差異がないのであるから、被請求人の主張は採用できない。 したがって、その余の理由を考慮するまでもなく本件考案1は、本件出願前公然実施された考案であって、実用新案法第3条第1項2号の規定により登録を受けることができないものである。 5-2-2.本件考案2について 本件考案2と引用考案とを対比すると、本件考案2のバネヒンジ部が「バネ収納部(6)及びヒンジ鞘部(7)とで形成されるヒンジ筒(5)と、前記バネ収納部(6)に収納するコイルバネ(8)と、内端を該コイルバネ(8)と連係し且つ外端をキャビネット本体(1)側に枢支させて前記ヒンジ鞘部(7)に嵌装させるヒンジ軸(9)とから成り、前記ヒンジ鞘部(7)とヒンジ軸(9)の嵌装空間にグリース層(10)を形成し」たものであるのに対し、引用考案のものは、「捻りコイルばねを内蔵し、グリースが係合軸と液晶表示部カバーの軸受穴との間に充填された」ものである点で相違し、本件考案1において述べた点を考慮すれば、その余の点で一致する。 当該相違点につき検討する。 両者の間に該相違が存在することは、両当事者の間に争いはない(口頭審理調書)。 よって、当該相違点につき検討する。 請求人の主張は、口頭審理調書、審判請求書及び弁駁書によれば、 (ア)相違点は、甲第19乃至20号証等に記載されているように本件出願前公知技術であるというものと、 (イ)当該相違点の構成による作用効果が格別のものでは無く、当該相違は、当業者が適宜に行う設計的事項であるというものである。 当該請求人の主張を詳細に検討する。 (ア)本件出願前の公知技術か否かの点については、甲第19乃至20号証には、「ヒンジダンパー」乃至「蝶番装置」が記載され、シリコーンオイルないしは粘性グリスをバネヒンジ内の狭い空間に保持する点は、記載されているものの甲第19号証のものにおいては、ロータに溝を形成し、甲第20号証のものにおいては、固定体と回転体の間にグリスを設けているものの、本件考案2に記載されているように「バネヒンジ部」を、「バネ収納部及びヒンジ鞘部とで形成」した点と「ヒンジ鞘部とヒンジ軸の嵌装空間にグリース層を形成し」た点については、記載がない。 したがって、甲第19乃至20号証及びその余の証拠をもってしてもこの点が本件出願前の公知技術であるとすることはできないから、請求人の主張は採用しない。 (イ)作用効果の点についての請求人の主張は、口頭審理調書及び弁駁書によれば、「液晶表示部カバー2の筒部を中程が大きくなった樽状の筒にデザインしたときに、適切なグリース充填空間を形成するためにヒンジ鞘部7を独立部材にして設けることは、特別の思考を要することなく当業者が必要に応じ適宜決定できる設計的事項であり、しかも、従来は液晶表示部カバーの筒部の内壁と一体化されていたヒンジ鞘部を独立させたことによる特有の効果については、本件明細書に一切記載されていない。 また、バネ収容部6は、コイルバネ8を収容するために設けられたものであり、バネ収容部6はコイルバネ8を収容するだけの機能しか有しておらず、被請求人による答弁書を参照してもそれ以上の技術的事項は開示されていない。 一方、公知のプレスアップ計算機では、液晶表示部カバーの筒部により捻りコイルも収容しているが、この計算機を見た当業者であれば、液晶表示部カバー2の筒部を中央部が膨らんだ樽型とした場合に、コイルバネ8が変形するのを防ぐため、適切な内径を有する独立したバネ収容部6を設けることは適宜選択し得るものであり、本件考案2は公知プレスアップ計算機において部品点数を少なくし合理化したバネ収容部を単に複雑な構成とした技術の単なる複雑化に過ぎない。」というものである。 しかしながら、ヒンジ鞘部7を独立部材にして設けることは、業者が必要に応じ適宜決定できる設計的事項であるという点と、バネ収容部を単に複雑な構成とした技術の単なる複雑化に過ぎないという点については、これを明確に示す証拠が無く、また、明細書の段落【0011】に記載されているように「ヒンジ鞘部7とヒンジ軸9の嵌挿空間にグリースを充填してグリース層を形成する」のであるから、特段の記載がないとしても、「グリースが少量で済む」という効果は、自明の事項であって、実質的に明細書中に記載があるものである。 したがって、本件考案2の構成による格別な作用効果がないという請求人の主張は採用できない。 よって、請求人の主張するように、本件考案2が引用考案からきわめて容易に考案をすることが出来たものであるとすることはできない。 5-2-3.本件考案3について 本件考案3は、本件考案1または2を引用した上で「液晶表示部カバー(2)の留め具(4)の操作ボタン(4a)をキャビネット本体(1)の表面側に臨ませて成る」点を限定した考案であるが、本件考案1を引用したものについては、「5-2-1.本件考案1について」において述べたように、本件考案1が本件出願前公然実施されたものであり、また、甲第2、12乃至15号証の計算機に「液晶表示部を覆うカバーを前面にある「ボタン」を操作することによって自動的に開くことが指摘されている」点については、請求人及び被請求人において争いがないのであるから、(被請求人の提出した答弁書、第5頁第20乃至23行、第8頁第29行乃至第9頁第3行、第17頁第14乃至17行。)本件考案3もまた本件出願前公然実施された考案と同一であるといわざるを得ないのであって、被請求人の主張は、採用できない。 したがって、その余の理由を考慮するまでもなく本件考案3は、本件出願前公然実施された考案であって、実用新案法第3条第1項2号の規定により登録を受けることができないものである。 5-3.明細書の記載不備について 請求人の主張は、口頭審理での陳述によれば、要するに「本件考案の構成ではヒンジの両側が回転するので捻れができない。したがって、明細書記載の作用効果を奏さない。」(口頭審理調書)というものである。 本件明細書の【考案の詳細な説明】には、【考案の実施の形態】として、「バネヒンジ部3は、バネ収納部6及びヒンジ鞘部7とで形成されるヒンジ筒5と、前記バネ収納部6に収納するコイルバネ8と、内端を該コイルバネ8と連係し且つ外端をキャビネット本体1側部に枢支させて前記ヒンジ鞘部7に嵌装させるヒンジ軸9とから成」るものである(段落【0011】の記載。)と記載されており、「キャビネット本体1の表面側に臨む留め具4の操作ボタン4aを外すと、液晶表示部カバ?2が緩慢動作により自動的に開くとともに本体1の頭部が緩慢動作で自動的にプレスアップして傾斜支持するように構成した卓上計算機」(段落【0012】の記載。)であるのであるから、コイルバネが捻られた状態で液晶表示カバーが閉じられており、コイルバネの捻られた力を利用して液晶表示カバーが開く動作を行うものであって、請求人の主張のように「ヒンジの両側が回転する」ものではあり得ない。 「枢支」なる用語の用い方には、適切でない点もあるとしても、明細書の記載全般及び請求人の提出した甲第19乃至20号証に記載された当該技術に係る一般技術を考慮すれば、本件考案の明細書が当業者が実施できないほど不明瞭であるとすることはできない。 したがって、請求人の主張は採用できず、実用新案法第5条第4項に係る不備はない。 6.まとめ 以上のとおりであって、本件考案1と3については、審判請求人の主張する理由及び証拠方法により無効とする。 本件考案2については、無効とすることはできず、審判請求は、成り立たない。 審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その3分の1を請求人の負担とし、3分の2を被請求人の負担とする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2001-11-02 |
結審通知日 | 2001-11-07 |
審決日 | 2001-11-20 |
出願番号 | 実願平10-8935 |
審決分類 |
U
1
111・
113-
ZC
(G06F)
U 1 111・ 112- ZC (G06F) U 1 111・ 121- ZC (G06F) U 1 111・ 531- ZC (G06F) |
最終処分 | 一部成立 |
特許庁審判長 |
川嵜 健 |
特許庁審判官 |
片岡 栄一 吉村 宅衛 |
登録日 | 1999-03-10 |
登録番号 | 実用新案登録第3058706号(U3058706) |
考案の名称 | 卓上計算機 |
代理人 | 若林 拡 |
代理人 | 村瀬 一美 |