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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) E02F
管理番号 1059661
審判番号 審判1999-35615  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2002-07-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-10-29 
確定日 2002-05-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第2517415号実用新案「バックホウ」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 登録第2517415号の実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第一 手続の経緯

本件実用新案登録第2517415号の請求項1に記載された考案は、平成2年5月24日に出願された実願平2-54338号の出願を平成6年5月20日に実用新案法9条1項において準用する特許法44条1項の規定により分割して新たな出願とした実願平6-5562号出願に係るものであって、平成8年8月20日にその設定登録がなされ、実用新案登録異議の申立て(平成9年異議第72272号)がなされ、平成9年10月16日付けで取消理由通知がなされ、平成10年1月5日付けで意見書及び訂正請求書が提出され、平成10年5月12日付けで、「訂正を認める。実用新案登録第2517415号の実用新案登録を維持する。」との決定がなされた。
その後、本件無効審判の請求(平成11年審判第35615号)がなされ、平成13年5月24日付けで無効理由通知がなされ、平成13年8月6日付けで意見書及び訂正請求書が提出され、平成13年11月19日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成14年1月21日付けで意見書が提出された。

第二 当事者の主張の概要

一 請求人は、審判請求書において、「登録第2517415号実用新案の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」ことを請求の趣旨とし、無効理由を概ね次のように主張し、証拠方法として甲第1号証の1ないし甲第9号証の2を示す。
平成10年1月5日付け訂正請求書の請求項1に係る考案(本件考案)は、実用新案法第3条第2項に該当しいわゆる独立実用新案登録要件を満たさないことから、その訂正が適法になされたものではないものであり、平成10年法律第51号附則第13条により改正された、平成5年法律第26号附則第4条1項の規定によりなお効力を有するものとされ、同法附則第4条第2項の規定により読み替えられた、平成5年改正前の実用新案法第37条第1項第2号の2の規定に該当し、無効とすべきものである。(請求人は、本件考案は、いわゆる独立登録要件をみたさないから、特許法第123条第1項第8号の規定により、無効とすべきである旨主張するが、同号は、特許についての規定で、「その特許の願書に添付した明細書又は図面の訂正が(特許法)第126条第1項ただし書若しくは第2項から第4項(第134条第5項において準用する場合を含む。)又は第134条第2項ただし書の規定に違反してされたとき。」と規定するものであって、本件審判請求は実用新案登録を無効とするとの審決を求めるものであるから、請求人主張は上記のようなものと解される。)

二 被請求人は、審判事件答弁書において、乙第1号証及び乙第2号証を提出し、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」ことを答弁の趣旨として、本件考案は、実用新案法第3条第2項に該当せず、平成10年1月5日付けでした訂正請求は適法になされたものであって、請求人主張の無効理由は存在しない旨主張する。

第三 訂正拒絶理由通知について

一 平成13年11月19日付け訂正拒絶理由通知の概要

上記訂正拒絶理由通知の内容は、平成13年8月6日付け訂正請求書により訂正された実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された考案である
「【請求項1】旋回台(2)に運転部(4)とバックホウ装置(3)とを左右に並べて配置すると共に、前記運転部(4)とバックホウ装置(3)との間に前記運転部(4)とバックホウ装置(3)とを仕切る縦壁(6)を備え、この縦壁(6)を、前記バックホウ装置(3)側を透視可能な透明の板部材で構成された透視部(10)と、その透視部(10)の前後方向の両側辺位置に立設された前後一対の支柱部を備える周辺枠構成部分とから構成し、かつ、前記透視部(10)の下辺(10a)を前下がり状に形成するとともに、その下辺(10a)の下側で前記一対の支柱部の下端に至る該一対の支柱部どうしを繋ぐ下部壁面部分を設け、前記縦壁(6)の上端に屋根(7)を片持ち状に支持し前記運転部(4)側に延出してあるバックホウ。」(以下、訂正後の考案を訂正考案という。)
に対して、
引用例1:実願昭63-121167号(実開平2-42961号)のマイクロフィルム
引用例2:実願昭63-121916号(実開平2-42963号:本件事件の甲第7号証)のマイクロフィルム
引用例3:特開昭63-272820号公報(本件事件の甲第3号証、乙第2号証)
引用例4:実願昭58-137768号(実開昭60-45276号)のマイクロフィルム
を示して、訂正考案は、引用例1ないし引用例4に記載されたものに基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであって、実用新案法第3条第2項に該当し、訂正考案は実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものであるから、平成13年8月6日付け訂正請求書による訂正請求は、平成10年法律51号附則13条により改正され、平成5年法律26号附則第4条第1項の規定によりなお効力を有するものとされ、同法附則第4条第2項の規定により読み替えられた、平成5年改正前の実用新案法第40条第5項で準用する同法第39条第3項に規定する要件を満たさないものである、というものである。

二 訂正拒絶理由通知の妥当性について

1 本件実用新案登録出願前に公知の技術事項について

(1)引用例1:実願昭63-121167号(実開平2-42961号)のマイクロフィルム
引用例1には、
(ア)「第1図に示す(A)は小旋回型バックホーであり、(1)はクローラ式の走行部、(2)は旋回台、(3)は同旋回台(2)上に設けた運転部、(4)は同運転部(3)の側方において旋回台(2)上に上下回動自在に取付けた掘削装置である。運転部(3)には、走行操作レバー(5)や掘削装置操作レバー(6)等を設け、これらレバー(5)(6)の後方に座席(7)を配置している。(7’)は座席下方に配設した原動機部である。(8)は天蓋、(9)は掘削装置(4)側に立設した運転部(3)の側壁である。」(マイクロフィルムの明細書6頁15行?7頁6行)、
(イ)「また、第5図及び第6図中、(35)は、天蓋(8)のブーム(11)側角部に設けた土落下防止体であり、同土落下防止体(35)により、天蓋(8)上に落下した土砂等がブーム(11)や原動機部(7’)側に落下して、ブーム(11)や油圧ホース(26)等を損傷等するのを防止している。そして、天蓋(8)は、前高後低の傾斜面として、落下土砂等が後方へすべり落ちやすいようにしている。」(同明細書11頁3?11行)、
(ウ)第1図及び第4?6図、
が記載されており、特に第5図、第6図を参照すると、天蓋8は図面において左側がT型の部材に取り付けられており、このT型の部材は前後一対の支柱部の上部であって側壁9の上端において、天蓋8を支持していることから、梁部材ということができるものであって、上記記載から、引用例1には、
「旋回台に運転部とバックホー装置とを左右に並べて配置すると共に、前記運転部とバックホー装置との間に前記運転部とバックホー装置とを仕切る側壁を備え、この側壁を、前記バックホー装置側を透視可能な透視部と、その透視部の前後方向の両側辺位置に立設された前後一対の支柱部、および前記透視部の上辺側で前記両支柱部の上部に連なる梁部を備えた周辺枠構成部分とから構成し、さらに運転部を介して側壁とは反対側の運転部の側部後方位置に、側壁を構成する周辺枠構成部分の後の支柱部にほぼ対向して第3の支柱を立設し、前記側壁の上端に位置する梁部に連ねると共に第3の支柱により前記運転部側に延出した天蓋を支持してあるバックホー」
が記載されているものと認められる。
なお、引用例1の「(9)は掘削装置(4)側に立設した運転部(3)の側壁である。」(明細書7頁4?6行)との記載によると、運転部とバックホー装置との間に運転部とバックホー装置とを仕切る「側壁」が設けられるものであり、しかもその「側壁」は、引用例1が「小旋回形バックホーにおける掘削装置の土溜り防止構造」に関するものであって運転部側方に配置されるバックホー装置のブーム基端部に土砂が滞留する不具合を解消するものであるとの点からすると、その透視部がいわゆる素通しの構成ではなく、透視可能である何らかの部材で運転席への土砂等の侵入を防止する構成が当然に考慮されているものとするのが相当であり、上記のとおり認定した。
(2)引用例2:実願昭63-121916号(実開平2-42963号:本件事件の甲第7号証)のマイクロフィルム
引用例2には、
(ア)「旋回台(4)の上に運転部(5)を設け、同運転部(5)の側方に掘削装置(B)を上下昇降自在に取付け、さらに、同装置(B)のブーム(7)を左右に移動させ、バケット(9)を運転部(5)の上方に上昇させるように構成した小旋回型バックホーにおいて、同運転部(5)の上方に設けたキャノピールーフ(C)の前部を下方に向けて傾斜状に形成すると共に、同ルーフ(C)の傾斜面(C-1)に透明板(23)を張設して運転部(5)より掘削装置(B)を視認する為の窓部(24)を構成したことを特徴とする小旋回型バックホーにおけるキャノピールーフ構造。」(同明細書実用新案登録請求の範囲)、
(イ)「第1図の全体側面図において、Aは本考案に係る小旋回型バックホーを示し、同バックホーAは、左右一対のクローラ1を装備した走行フレーム2の略中央部に旋回基台3を立設している。さらに、旋回基台3の上面には、旋回台4を旋回自在に載設し、同旋回台4の上面左側部に運転部5、その後方に原動機M等を収納したボンネット6を配設し、運転部5の側方、すなわち、同旋回台4の略中央部に掘削装置Bの基端部を上下回動自在に枢着している。」(同明細書5頁12行?6頁1行)、
(ウ)「また、かかる運転部5には、前部に操作スタンド17を立設して上面に各種操作レバー18を傾動自在に立設し、後部に座席19を配設している。さらに、運転部5の上方には、キャノピールーフCを配設しており、同ルーフCは、運転部5の右側前後端と、座席19の左側に、それぞれ立設した前支柱20、後支柱21、左支柱22によって支持されている。本考案は、第2図に示すように、かかるキャノピールーフCの前部を下方に傾斜させて、同ルーフCの前部に昇降するバケット14が通過する為の空間を形成している。従って、掘割装置Bのバケット14を上昇した際に、同バケット14とキャノピールーフCとの接触を回避すると共に、バケット14等を大きく作動して円滑な操作を行うべく構成している。また、かかるキャノピールーフCの傾斜面C-1には、アクリル製の透明板23を張設して窓部24が形成されており、同窓部24によって運転部5の作業者が上方に作動した掘削装置Bを確認しながらその操作を行うものである。なお、25は窓部24のガードであり、同ガード25は、キャノピールーフCの傾斜面C-1に沿って前後方向に取付けて掘削土が円滑に滑り落ちるようにしている。かかる構造により、キャノピールーフCは、その上に落下した掘削土を傾斜面C-1に沿って運転部5の前方に滑り落とし、掘削土の堆積による窓部24の閉塞を防止すべく構成している。また、キャノピールーフCの傾斜面C-1に設けた窓部24は、運転部5の作業者に対して略直面状態になり、可及的に視界を拡げると共に、窓部24を構成する透明板23が光を反射しないようにしている。」(同明細書7頁3行?8頁16行)、
(エ)第1?4図、
が記載されており、これらによると、引用例2には、
「旋回台に運転部とバックホー装置とを左右に並べて配置し、運転部の上方にはキャノピールーフを配設し、同キャノピールーフの前部の下方傾斜面にアクリル製の透視可能な透明の板部材で構成された透明板を設けたバックホー」
が記載されているものと認められる。
(3)引用例3:特開昭63-272820号公報(本件事件の甲第3号証、乙第2号証)
引用例3には、
(ア)「本発明は、・・・小旋回を必要とする全旋回式バックホー等の掘削運搬車両に関するものである。」(同公報1頁左下欄15?18行)、
(イ)「第1図、第2図、第3図において、1は車両、2は車体フレーム、3はバックホー、4は旋回台、5は車体フレーム2の後部に配設した荷台、6は荷台リンク装置、7は走行装置である。バックホー3は、車体フレーム2の前部で、運転席18の斜め前方に設置される。」(同2頁右上欄12?17行)、
(ウ)「第2図は第1図の側面図」(同3頁左上欄13行)、
(エ)第1?8図、
が記載されており、特にその第2図には、掘削運搬車両の側面図が記載されており、運転席18とバックホー3との間に、図において運転席18の左側から上部にかけて屋根が記載されており、運転席18の右側には、当該屋根の下には何も記載されていない。ここで、第2図が第1図(掘削運搬車両の正面図)における側面図を表しており、断面図でないことを考慮すると、当該屋根は図において運転席の左側においてのみ支持され右側は支持されていない、いわゆる片持ちの状態で支持されていると考えられる。したがって、引用例3には、
「旋回台に運転席とバックホー装置とを左右に並べて配置すると共に、前記運転席とバックホー装置との間に前記運転席とバックホー装置とを仕切る部材を備え、その部材の上端に前記運転席側に延出した屋根を片持ち状に支持してあるバックホー」
が記載されているものと認められる。
(4)引用例4:実願昭58-137768号(実開昭60-45276号)のマイクロフィルム
引用例4には、
(ア)「本考案は、ブルドーザやドーザショベル等の建設車両の運転席を覆う屋根に関するものである。」(明細書2頁2?4行)、
(イ)「3はこの運転席2の上方を覆う屋根であり、この屋根3は屋根本体4と、これを支える支柱5・5とからなっている。支柱5・5は運転席2の後両側に立設されており、その上端部は第2図に示すようにフレーム6にて連結されている。そしてこのフレーム6にはアーム7・7が前方へ突出して設けてある。」(明細書3頁4?11行)、
(ウ)「屋根本体4の下側壁には支柱5・5の上部構成部材、すなわちフレーム6及びアーム7・7が嵌合する支柱受溝10・・・・が設けてある。」(明細書4頁2?6行)、
(エ)「上記構成において、屋根本体4は、この屋根本体4の支柱受溝10を支柱5・5の上部構成部材に嵌合することにより支柱5・5に固定される。」(明細書5頁2?5行)、
(オ)第1図?第7図、
が記載されており、特に第1図及び第2図を参照すると、引用例4には、
「ブルドーザやドーザショベル等の建設車両の運転席を覆う屋根本体4を、支柱5、フレーム6、アーム7により片持ち状に支持し、屋根本体4はフレーム6の上に嵌合して設けた構造。」
が記載されていると認められる。

2 訂正考案と、引用例1に記載されたものとの対比、判断

(1)対比
訂正考案と引用例1に記載されたものとを対比すると、両者は、
「旋回台に運転部とバックホウ装置とを左右に並べて配置すると共に、前記運転部とバックホウ装置との間に前記運転部とバックホウ装置とを仕切る縦壁を備え、この縦壁を、前記バックホウ装置側を透視可能な透視部と、その透視部の前後方向の両側辺位置に立設された前後一対の支柱部を備える周辺枠構成部分とから構成し、かつ、前記透視部の下辺を前下がり状に形成するとともに、その下辺の下側で前記一対の支柱部どうしを繋ぐ下部壁面部分を設け、前記縦壁の上端に屋根を支持し、前記運転部側に延出してあるバックホウ」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1
訂正考案においては、その透視部を、「透明の板部材で構成された透視部」としているのに対し、引用例1に記載されたものにおいては、その構成が明確でない点。
相違点2
訂正考案においては、屋根を支持するのに、「縦壁の上端に屋根を片持ち状に支持し前記運転部側に延出し」た構成としているのに対し、引用例1に記載されたものにおいては、「さらに運転部を介して側壁とは反対側の運転部の側部後方位置に、側壁を構成する周辺枠構成部分の後の支柱部にほぼ対向して第3の支柱を立設し、」そして、「側壁の上端と第3の支柱により天蓋を支持し、前記運転部側に延出し」た構成としている点。
相違点3
訂正考案においては、縦壁の一対の支柱部どうしを繋ぐ下部壁面部分を、「その下辺(10a)の下側で前記一対の支柱部の下端に至る」下部壁面構成としているのに対し、引用例1に記載されたものにおいては、縦壁の一対の支柱部どうしを繋ぐ下部壁面部分が認められるものの、当該下部壁面部分が一対の支柱部の下端に至る部分まで設けられているかどうか明確ではない点。
(2)相違点に対する検討
(ア) 相違点1について
引用例2によると、「旋回台に運転部とバックホー装置とを左右に並べて配置し、運転部の上方にはキャノピールーフを配設し、同キャノピールーフの前部の下方傾斜面にアクリル製の透視可能な透明の板部材で構成された透明板を設けたバックホー」が開示されている。
訂正考案は、引用例1に記載されたものにおける透視部の具体的構成として、引用例2におけるアクリル製の透明板におけるような、透視可能な透明の板部材の構成を採用したものに相当するが、このようなことは、引用例1及び2が何れも訂正考案におけるバックホウとは同一の技術に関するものであること、さらに引用例1に記載されたものに、引用例2に記載された技術事項を適用・組み合わせることを阻害する特段の要因もないことを考慮すると、当業者であれば、格別の困難性を伴うことなくきわめて容易になし得た程度のことである。
(イ)相違点2について
訂正考案は、引用例1に記載されたものにおけるようなバックホーにおいて、縦壁の上端に位置する梁部に連ねて運転部側に延出した屋根を支持する構成として、3本の柱により支持する構成に代えて片持ち状に支持する構成を採用したものに相当する。
しかしながら、引用例3には、「旋回台に運転席とバックホー装置とを左右に並べて配置すると共に、前記運転席とバックホー装置との間に前記運転席とバックホー装置とを仕切る部材を備え、その部材の上端に前記運転席側に延出した屋根を片持ち状に支持してあるバックホー」が開示されており、また、屋根を設けるに当たり、訂正考案のように、「屋根を片持ち状に支持し、前記運転部側に延出」する構成は、上記引用例4にも記載されているようにブルドーザやドーザショベル等の建設車両の運転席を覆う屋根において、本件考案出願前に周知の事項にすぎない。
そして、引用例1、引用例3、引用例4が何れも訂正考案におけるバックホウと同一の技術分野の建設車両に属するものであること、さらに引用例1に記載されたものに、引用例3、引用例4に記載された技術事項を適用・組み合わせることを阻害する特段の要因もないことを考慮すると、訂正考案の相違点2に係る構成とすることは、当業者であれば格別の困難性を伴うことなくきわめて容易になし得た程度のことである。
(ウ)相違点3について
訂正考案においては、縦壁の一対の支柱部どうしを繋ぐ下部壁面部分を、「その下辺(10a)の下側で前記一対の支柱部の下端に至る」下部壁面構成としているのに対し、引用例1に記載されたものにおいては、縦壁の一対の支柱部どうしを繋ぐ下部壁面部分が認められるものの、当該下部壁面部分が一対の支柱部の下端に至る部分まで設けられているかどうか明確ではないが、引用例1に記載された側壁9は、落下土砂等が運転席に侵入するのを防止する機能を有するものであるから、当該下部壁面部分がその下端部において大きな開口部を形成するようになっているとは考えにくい。
そうすると、本件考案の相違点3に係る構成のように、下部壁面部分を縦壁の一対の支柱部の「下端に至る」部分まで設けることは、当業者が必要により配慮すべき設計的事項にすぎず、当業者であれば格別の困難性を伴うことなくきわめて容易になし得た程度のことにすぎない。
(3)平成14年1月21日付け意見書に対して
(ア)本件被請求人は、平成14年1月21日付け審判事件意見書において、
a.相違点2に関して、引用例3に記載された事項、特に図面には「屋根を片持ち状に支持する」技術は開示されておらず、「屋根を片持ち状に支持する」との認定は第2図に固執した判断であって、明細書の記載、第1図ないし第3図を総合すれば、屋根の支持に関しては、片持ちとも両持ちともいえないものであると認定するのが妥当である旨
b.相違点3に関して、引用例1に記載されたものは、下部壁面部分を座席7の座部の上あたりで途切れそうな状態にあり、支柱間の前後に亘って広く広がっているとはいえないし、第1図の壁面部分にはブーム支持ブラケット10が示されていることから、下部壁面部分には上下に長い開口部が設けられているのであって、相違点3の判断は妥当でない旨主張する。
(イ)しかしながら、被請求人の上記主張aについては、引用例3において、
(i) 第1図ないし第3図は、細部においては、一部製図法に則り正確に記載されていない部分も存するものの、運搬車両の全体を示す図面としては概ね正確に記載されており、
(ii) 屋根を支持する部材は第2図に示された側面図においてのみ記載されていて、
(iii) 同図において、屋根を支持する部材は目立つ部材であって、この支持部材が運転席の左右の両方に設けられている場合に、図面上右側に設けられている支持部材を欠落して記載するとは考えにくい
ことから、屋根は片持ちの状態で支持されていると理解され、また、そのように解しても
(iv) 第3図のように、図面上左側に設けられている支持部材のみで屋根を支持する構成としても何ら不都合がなく、
(v) 明細書の記載や第1図、第3図の記載と何ら矛盾しない
のであって、明細書の記載、第1図ないし第3図を総合的かつ合理的に理解すれば、引用例3には「屋根を片持ち状に支持する」技術が開示されていると認められるのであって、被請求人の主張は採用できない。
また、被請求人の主張bについては、引用例1の第1図の支柱間の下部には、被請求人のいうようにブーム支持ブラケット10及び第1枢支ピン14が記載されているものの、同図に示されたブーム支持ブラケット10の形状は、第2図に示されたブーム支持ブラケット10の形状と大きく異なっており、第1枢支ピン14近傍のみが記載されているにすぎず、さらに、支柱間の下部に被請求人のいうように何も設けられていない大きな開口となっているとすれば、第1図においてブーム支持ブラケット10、下部土溜り防止板22の全体や、ブーム11、ブーム作動用シリンダ17の一部が記載されていなければならないところ、そのようには記載されていないことから、第1図及び第2図を合理的に判断すれば、支柱間の壁面部分の下部にはほぼ全体にわたり透視可能でない壁面が設けられ、この壁面部分に何らかの理由により小さな開口または透視可能な部分が設けられ、この小さな開口または透視可能な部分から第1図に示されるようにブーム支持ブラケット10の一部及び第1枢支ピン14が見えるようになっているものと理解される(このことは、引用例2も同様である。)。
したがって、引用例1において、第1図の支柱間の下部は大きな開口となっているのではなく、小さな開口または透視可能な部分があるものの全体にわたって大きな壁面(下部壁面部分)が設けられていると認められ、被請求人の主張は採用できない。
(4)まとめ
そして、全体として、訂正考案によってもたらされる効果も、引用例1ないし引用例4にそれぞれ記載された事項から、当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。
したがって、訂正考案は、引用例1ないし引用例4に記載されたものに基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであって、実用新案法第3条第2項に該当し、訂正考案は実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。

三 むすび

以上のとおりであるから、平成13年8月6日付け訂正請求書による訂正請求は、平成10年法律第51号附則第13条により改正され、平成5年法律第26号附則第4条第1項の規定によりなお効力を有するものとされ、同法附則第4条第2項の規定により読み替えられた、平成5年改正前の実用新案法第40条第5項で準用する同法第39条第3項に規定する要件を満たさないものであって、平成13年11月19日付けでした訂正拒絶理由通知は妥当なものである。

第四 無効理由について

一 平成13年5月24日付け無効理由通知の概要

上記無効理由通知の内容は、平成13年8月6日付け訂正請求書による訂正が認められないことから、平成10年1月5日付け訂正請求書によって訂正された実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された考案である
「【請求項1】旋回台(2)に運転部(4)とバックホウ装置(3)とを左右に並べて配置すると共に、前記運転部(4)とバックホウ装置(3)との間に前記運転部(4)とバックホウ装置(3)とを仕切る縦壁(6)を備え、この縦壁(6)を、前記バックホウ装置(3)側を透視可能な透明の板部材で構成された透視部(10)と、その透視部(10)の前後方向の両側辺位置に立設された前後一対の支柱部を備える周辺枠構成部分とから構成し、かつ、前記透視部(10)の下辺(10a)を前下がり状に形成するとともに、その下辺(10a)の下側で前記一対の支柱部どうしを繋ぐ下部壁面部分を設け、前記縦壁(6)の上端に屋根(7)を片持ち状に支持し前記運転部(4)側に延出してあるバックホウ。」
(以下、この考案を本件考案という。)に対して、
引用例1:実願昭63-121167号(実開平2-42961号)のマイクロフィルム、
引用例2:実願昭63-121916号(実開平2-42963号:甲第7号証)のマイクロフィルム、
引用例3:特開昭63-272820号公報(甲第3号証、乙第2号証)
を示して、本件考案は、引用例1?3に記載されたものに基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件実用新案登録は、(異議申立時の平成10年1月5日付け訂正請求書による)訂正後の実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案(注:本件考案)が実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものであり、その訂正が適法になされたものではないものであり、平成10年法律第51号附則第13条により改正された、平成5年法律第26号附則第4条1項の規定によりなお効力を有するものとされ、同法附則第4条第2項の規定により読み替えられた、平成5年改正前の実用新案法第37条第1項第2号の2の規定に該当し、無効とすべきものである、というものである。

二 無効理由通知の妥当性について

1 本件実用新案登録出願前に公知の技術事項について

(1)引用例1:実願昭63-121167号(実開平2-42961号)のマイクロフィルム
引用例1には、「第三」、「二」、「1」、(1)に記載した事項が記載されていると認められる。
(2)引用例2:実願昭63-121916号(実開平2-42963号:本件事件の甲第7号証)のマイクロフィルム
引用例2には、同(2)に記載した事項が記載されていると認められる。
(3)引用例3:特開昭63-272820号公報(本件事件の甲第3号証、乙第2号証)
引用例3には、同(3)に記載した事項が記載されていると認められる。

2 本件考案と、引用例1に記載されたものとの対比、判断

(1)対比
本件考案と引用例1に記載されたものとを対比すると、両者は、「旋回台に運転部とバックホウ装置とを左右に並べて配置すると共に、前記運転部とバックホウ装置との間に前記運転部とバックホウ装置とを仕切る縦壁を備え、この縦壁を、前記バックホウ装置側を透視可能な透視部と、その透視部の前後方向の両側辺位置に立設された前後一対の支柱部を備える周辺枠構成部分とから構成し、かつ、前記透視部の下辺を前下がり状に形成するとともに、その下辺の下側で前記一対の支柱部どうしを繋ぐ下部壁面部分を設け、少なくとも、前記縦壁の上端に屋根を支持し、前記運転部側に延出してあるバックホウ」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1
本件考案においては、その透視部を、「透明の板部材で構成された透視部」としているのに対し、引用例1に記載されたものにおいては、その構成が明確でない点。
相違点2
本件考案においては、屋根を支持するのに、「縦壁の上端に屋根を片持ち状に支持し、前記運転部側に延出し」た構成としているのに対し、引用例1に記載されたものにおいては、「さらに運転部を介して側壁とは反対側の運転部の側部後方位置に、側壁を構成する周辺枠構成部分の後の支柱部にほぼ対向して第3の支柱を立設し、」そして、「側壁の上端と第3の支柱により天蓋を支持し、前記運転部側に延出し」た構成としている点。
(2)判断
(ア)相違点1について
引用例2によると、「旋回台に運転部とバックホー装置とを左右に並べて配置し、運転部の上方にはキャノピールーフを配設し、同キャノピールーフの前部の下方傾斜面にアクリル製の透視可能な透明の板部材で構成された透明板を設けたバックホー」が開示されている。
本件考案は、引用例1に記載されたものにおける透視部の具体的構成として、引用例2におけるアクリル製の透明板におけるような、透視可能な透明の板部材の構成を採用したものに相当するが、このようなことは、引用例1及び2が何れも本件考案におけるバックホウとは同一の技術に関するものであること、さらに引用例1に記載されたものに、引用例2に記載された技術事項を適用・組み合わせることを阻害する特段の要因もないことを考慮すると、当業者であれば、格別の困難性を伴うことなくきわめて容易になし得た程度のことである。
(イ)相違点2について
本件考案は、引用例1に記載されたものにおけるようなバックホーにおいて、縦壁の上端に位置する梁部に連ねて運転部側に延出した屋根を支持する構成として、3本の柱により支持する構成に代えて片持ち状に支持する構成を採用したものに相当する。
しかしながら、引用例3には、「旋回台に運転席とバックホー装置とを左右に並べて配置すると共に、前記運転席とバックホー装置との間に前記運転席とバックホー装置とを仕切る部材を備え、その部材の上端に前記運転席側に延出した屋根を片持ち状に支持してあるバックホー」が開示されており、また、屋根を設けるに当たり、本件考案のように、「屋根を片持ち状に支持し、前記運転部側に延出」する構成は、例えば、実願昭58-137768号(実開昭60-45276号)のマイクロフィルムにも記載されているようにブルドーザやドーザショベル等の建設車両の運転席を覆う屋根において、本件考案出願前に周知の事項にすぎない。
そして、引用例1、引用例3が本件考案におけるバックホウとは同一の技術分野の建設車両に属するものであること、さらに引用例1に記載されたものに、引用例3及び上記周知の事項に記載された技術的事項を適用・組み合わせることを阻害する特段の要因もないことを考慮すると、本件考案の相違点2に係る構成とすることは、当業者であれば格別の困難性を伴うことなくきわめて容易になし得た程度のことである。
(3)まとめ
そして、全体として、本件考案によってもたらされる効果も、引用例1ないし引用例3及び周知の事項にそれぞれ記載された事項から、当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。
したがって、本件考案は、引用例1ないし引用例3及び周知の事項に記載されたものに基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであって、実用新案法第3条第2項に該当し、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものであり、平成10年1月5日付けでした訂正が適法になされたものではない。

三 まとめ

以上のように、平成13年5月24日付けでした無効理由通知は妥当であって、本件実用新案登録は、平成10年1月5日付けでした訂正が、平成6年法律第116号附則第9条第2項の規定により準用され、同第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項の規定によりさらに準用される平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に違反してなされたものであって、実用新案登録を受けることができないものであり、平成10年法律第51号附則第13条により改正された、平成5年法律第26号附則第4条1項の規定によりなお効力を有するものとされ、同法附則第4条第2項の規定により読み替えられた、平成5年改正前の実用新案法第37条第1項第2号の2の規定に該当し、無効とすべきものである。
また、審判費用の負担については、実用新案法第41条の規定により準用し、特許法第169条第2項の規定によりさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2002-03-12 
結審通知日 2002-03-15 
審決日 2002-03-26 
出願番号 実願平6-5562 
審決分類 U 1 112・ 121- ZB (E02F)
最終処分 成立    
前審関与審査官 安藤 勝治  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 鈴木 憲子
鈴木 公子
登録日 1996-08-20 
登録番号 実用新案登録第2517415号(U2517415) 
考案の名称 バックホウ  
代理人 荒垣 恒輝  
代理人 荒垣 恒輝  
代理人 北村 修一郎  
代理人 荒垣 恒輝  
代理人 荒垣 恒輝  

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