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審決分類 審判 全部無効 4項(134条6項)独立特許用件 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) F23D
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) F23D
審判 全部無効  訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) F23D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) F23D
管理番号 1073405
審判番号 審判1999-35775  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2003-04-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-12-22 
確定日 2003-02-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第1858417号実用新案「気化管式燃焼装置」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 登録第1858417号の実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1.手続の経緯
実用新案登録第1858417号は、昭和59年10月11日に実用新案登録出願され、平成2年8月7日に出願公告され、平成3年7月10日に設定登録がなされたものであり、その後、平成7年12月27日に別件無効審判の請求がなされ、その答弁の期間である平成8年4月23日に訂正請求がなされ、平成9年1月24日に、訂正を認め、同審判の請求は成り立たない旨の審決がなされて、同審決は確定している。本件は、平成11年12月22日に、審判請求人ダイニチ工業株式会社より実用新案登録無効審判の請求がなされたものであり、本件実用新案登録に対して平成13年10月31日付けで合議体より、無効理由が通知され、その指定期間内である平成13年12月26日に、訂正請求がなされ、合議体より訂正拒絶理由が通知されたものである。

2. 請求された審判
2-1 請求人の主張
請求人ダイニチ工業株式会社は、請求人と本件実用新案登録との利害関係を立証するために、
甲第30号証として、「平成11年(ワ)第24433号事件の訴状及び添付目録」
を提出している。
そして、請求人は、「ダイニチブルーヒーター FA-261」及び「ビーバーファンヒーターPH262」として実施された考案の構成を立証するとともに、刊行物に記載され考案を立証するために、
甲第1号証として、「ダイニチブルーヒーター 取扱説明書・注意書」
甲第13号証として、「ビーバーファンヒーターPH262 取扱説明書・注意書」
を提出し、前記甲第1、13号証の印刷、納品の時期を立証するために、
甲第10号証として、「3条印刷株式会社作成の証明書」
甲第17号証として、「3条印刷株式会社作成の証明書」
を提出し、「ダイニチブルーヒーター FA-261」の構造並びに保守上の作用効果を立証するために、
甲第5号証として、「ダイニチブルーヒーター FA-261 FA-325 FA-525 (販売店用テキスト)」
を、
「ビーバーファンヒーターPH262」の構造並びに構造に係る保守上の作用効果を立証するために、
甲第15号証として、「ビーバーファンヒーター 気化式石油温風暖房機 60年度冬期技術資料」
をそれぞれ提出するとともに、「ダイニチブルーヒーター FA-261」の販売の事実及び販売の時期を立証するために、
甲第2号証として、「ダイニチ工業株式会社の売上伝票(昭和59年8月18日付)」
甲第3号証として、「ダイニチ工業株式会社の売上伝票(昭和59年8月20日付)」
甲第4号証として、「(株)カネタ馬場長に係るダイニチ工業株式会社の売上一覧(昭和59年8月1日?9月30日)」
甲第12号証として、「電波新聞 昭和59年8月21日」
甲第19号証として、「<59年度>ダイニチコマーシャル実施一覧」
を提出するとともに、「ビーバーファンヒーターPH262」の販売の事実及び販売の時期を立証するために、
甲第14号証として、「三菱重工エアコン販売(株)に係るダイニチ工業株式会社の売上一覧(昭和59年8月1日?9月30日)」
を提出し、前記甲第2?4号証に記載される取引の事実、及び、同取引と前記甲第1,5号証の関係を立証するために、
甲第6号証として、「株式会社カマヤ作成の証明書」
甲第7号証として、「ユアサ商事株式会社北陸支店住設建材部作成の証明書」
甲第8号証として、「株式会社カネタ馬場長作成の証明書」
を、前記甲第4,8号証に記載される取引の存在をさらに立証するとともに、前記甲第1号証が頒布された事実を立証するために、
甲第9号証として、「加藤昭吾作成の証明書」
を、前記甲第14号証に記載される取引の事実、及び、同取引と前記甲第13,15号証の関係を立証するために、
甲第16号証として、「三菱重工冷熱機材株式会社作成の証明書」、
を提出し、さらに、「ダイニチブルーヒーター FA-261」の構造及び前記甲第1号証の頒布と「ダイニチブルーヒーター FA-261」の取引との関係を立証するために、
甲第11号証として、「吉井久雄、花野哲行、本間勤志作成の宣誓書」
を、「ビーバーファンヒーターPH262」の構造及び前記甲第13号証の頒布と「ダイニチブルーヒーター FA-261」の取引との関係を立証するために、
甲第18号証として、「吉井久雄、花野哲行、本間勤志作成の宣誓書」
を提出し、加えて、前記甲第11号証の宣誓書中販売開始の日付に係る誤りを陳述するために、
甲第31号証として、「吉井久雄、花野哲行、本間勤志作成の陳述書」
を提出して、さらに、
証人 吉井久夫
証人 花野哲行
証人 本間勤志
証人 佐々木英吉
証人 武田義章
証人 菅家春雄
証人 長縄修
の尋問を申請し、以上各証拠より「ダイニチブルーヒーター FA-261」及び「ビーバーファンヒーターPH262」が本件に係る出願の出願前に公然実施されたことは明らかである旨主張し、さらに、「ダイニチブルーヒーター FA-261」及び「ビーバーファンヒーターPH262」の構造を説明するために、
甲第20号証として、「吉井雅栄作成の書面 公知の石油ファンヒータ(イ)」
甲第21号証として、「吉井雅栄作成の書面 公知の石油ファンヒータ(ロ)」
甲第22号証として、「吉井雅栄作成の書面 販売製品(FA-261)の現品写真」
甲第23号証として「吉井雅栄作成の書面 FA-261参考平面見取図」
甲第24号証として「吉井雅栄作成の書面 PH262参考平面見取図」
甲第26号証として「吉井雅栄作成の書面 販売製品(FA-261)の気化器(気化管),電磁ポンプ,ソレノイドの交換方法説明図(側面説明図,正面説明図)」
甲第47号証として、「【FA-261正面説明図】」
甲第48号証として、「【FA-261説明斜視図】」
甲第47号証として、「【FA-261説明分解斜視図】」
を提出し、それら構造と本件に係る考案との関係を説明するために、
甲第25号証として「吉井雅栄作成の書面 本考案の実施例と販売製品(FA-261,PH262)との比較解説用平面見取図」
を提出し、加えて、本件明細書の実用新案登録請求の範囲に記載される「ほぼ横一列に配設」を解釈するために、
甲第32号証として、「平成7年第28111号審判事件の平成8年9月9日付け審尋書写し」、
甲第33号証として、「平成7年第28111号審判事件の平成8年9月9日付け審尋書に対する平成8年11月25日付け回答書写し」
甲第34号証として、「平成7年第28111号審判事件審決書写し」
を提出して、概略以下の主張をなしている。

主張1
「ダイニチブルーヒーターFA-261」と、それと同一の構造を有する「ビーバーファンヒーターPH262」とは、本件に係る出願の出願前に販売されることにより公然実施されたものであり、本件に係る考案は、それら公然実施された考案と同一である。
また、甲第1号証及び甲第13号証は、「ダイニチブルーヒーターFA-261」及び「ビーバーファンヒーターPH262」の販売とともに頒布されたものであり、本件に係る考案は、それらに記載された考案である。
さらに、本件に係る考案は、上記公然実施された考案、及び、甲第1,13号証に記載された考案と差異を有するとしても、それらに基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

主張2
本件実用新案登録請求の範囲の記載は、「ほぼ横一列」と記載するが、考案の詳細な説明に記載された考案は、ほぼ横一列とは言えない考案のみが開示されており、考案の構成に欠くことのできない事項のみを記載するものではない。

以上に加えて、請求人は、電磁ポンプ等の配置に係る公知技術を立証するために、
甲第27号証として、「実願昭56-110821号(実開昭58-15144号)のマイクロフィルム」
甲第28号証として、「実願昭58-24040号(実開昭59-130927号)のマイクロフィルム」
甲第29号証として、「実願昭57-116662号(実開昭59-23573号)のマイクロフィルム」
を提出するとともに、気化管とノズルとの構成関係に係る技術を立証するために、
甲第35号証として、「実願昭54-37742号(実開昭55-141713号)のマイクロフィルム」
甲第36号証として、「特公平1-44962号公報」
甲第37号証として、「実公昭61-19289号公報」
甲第38号証として、「実願昭58-83214号(実開昭59-191030号)のマイクロフィルム」
甲第39号証として、「実公平2-32982号公報」
甲第40号証として、「実願昭61-31155号(実開昭62-142618号)のマイクロフィルム」
甲第41号証として、「実公平8-582号公報」
甲第42号証として、「実願平4-166号(実開平5-61610号)のCD-ROM」
甲第43号証として、「シャープ製品の写真」
甲第44号証として、「日立製品の写真」
甲第45号証として、「長府製品の写真」
甲第46号証として、「松下製品の写真」
を提出して、概略以下の主張をなしている。

主張3
本件に係る考案は、本件に係る出願の出願前に、「ダイニチブルーヒーターFA-261」又は、「ビーバーファンヒーターPH262」として公然実施された考案に、甲第27?29号証に示される電磁ポンプ等の配置に係る公知の技術を適用して、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

したがって、本件実用新案登録は、平成5年法律第26号附則第4条第1項の規定により、なおその効力を有するとされる、改正前の実用新案法第37条第1項第1号及び同法同条同項第3号の規定に該当するので、無効とすべきものである。

なお、上記に加えて、上記の理由の正当性を主張するために、請求人は、
甲第50号証として、「東京地裁民事部第46部 平成11年(ワ)第24433号判決(速報)」
甲第51号証として、「陳述書(写し)」
を提出している。

2-2 被請求人の答弁
被請求人三菱電機株式会社は、請求人の主張に対して、概略以下のとおりである。
本件審判は、本件に係る考案を「ダイニチブルーヒーターFA-261」と同一またはそれからきわめて容易に考案をすることができた旨主張するものであり、その審決が確定している平成7年審判28111号と同一の事実、同一の証拠に基づくものであって、審判を請求することができないものである。
また、本件明細書中に記載される実施例は、気化管とノズルが完全に前後方向に重複して配置されるものではなく、ほぼ横一列に配置されるものであるから請求人の主張2は、失当である。
さらに、「ダイニチブルーヒーターFA-261」又は、「ビーバーファンヒーターPH262」は、本件に係る考案の構成中「その本体内前面のスペースに前記気化管、ノズル、電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列に配設すること」以外の構成を備え、本件に係る出願の出願前に公知となった事実を争うのものではないから、請求人が申請した証人尋問を行う必要ない旨主張した上で、それらのものは、機能部品を横一列に配置することにより、部品の修理・交換を容易にするとの技術思想を有するものではなく、本件に係る考案が、それらに係る考案と同一であることはないばかりではなく、それらに係る考案から当業者が容易に考案をすることができたものとはなり得ない。
そして、甲第27?29号証にも、同技術思想は何等開示されていないので、本件に係る考案をそれらに基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたとすることはできず、請求人の主張1,3は失当である。
なお、請求人は、3-1に記載する訂正を請求するとともに、3-3,4-2の主張をなしている。

2-3 被請求人が主張する一事不再理の主張についての判断
請求人の主張中、主張1は、「ビーバーファンヒーターPH262」に係る証拠が付加されているとしても、請求人の主張中にもあるように「ダイニチブルーヒーターFA-261」と「ビーバーファンヒーターPH262」とは、その立証する考案としては同一のものであり、甲第1,13号証に記載される考案もそれらと同一の考案というべきものであるから、その限りにおいては、被請求人が主張するように平成7年審判28111号と同一の事実、同一の証拠に基づくものであって、同主張に対して審理を行うべきではないと認められるとしても、平成7年審判28111号は、本件に係る考案を「ダイニチブルーヒーターFA-261」と同一またはそれからきわめて容易に考案をすることができた旨主張するものであるのに対して、本件審判請求は、「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案に甲第27?29号証に記載された公知の技術を適用することにより、本件に係る考案は、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであること及び明細書の記載の不備に係る主張を含むものであり、それら平成7年審判28111号において主張されていない事実及び証拠に基づく新たな主張の審理をなさずに、本件審判請求自体を請求をすることができないものとすることは妥当とは認められないから、本件審判請求自体を請求をすることができないとする被請求人の主張は採用しない。

3.訂正の適否
3-1 被請求人が求める訂正
被請求人が求める訂正は、下記のとおりである。

3-1-1 実用新案登録請求の範囲について
訂正事項a
願書に添付した明細書(以下、「登録明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲に記載の
「液体燃料を気化する気化管と、・・その本体内前面側のスペースに前記気化管、ノズル、電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設したことを特徴とする気化管式燃焼装置。」を、
「液体燃焼を気化する気化管と、・・その本体内前面側のスペースに前記気化管、ノズル、ソレノイド、電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設し、かつ、前記電磁ポンプを前記ソレノイドの右方に位置して設けたことを特徴とする気化管式燃焼装置。」
と訂正する。

3-1-2 考案の詳細な説明について
訂正事項b
登録明細書第2頁22行?23行に記載の
「このスペースに気化管、ノズル、電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設したものである。」を、
「このスペースに気化管、ノズル、ソレノイド、電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設し、かつ、前記電磁ポンプを前記ソレノイドの右方に位置して設けたものである。」
と訂正する。

訂正事項c
登録明細書第3頁19行?20行に
「サービス性が向上できる。」を、
「サービス性が向上できる。特に、電磁ポンプをソレノイドの右方に位置して設けたので、電磁ポンプの故障で部品を交換する場合に作業に手間がかからない。」
と訂正する。

3-2 合議体が通知した訂正拒絶理由の概要
平成14年3月29日付けで合議体が通知した、訂正拒絶理由は、概略以下のとおりである。
平成13年12月26日付けでなした訂正の請求は、実用新案登録請求の範囲の記載を添付された訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に訂正することを含むものであり、全文訂正明細書の実用新案登録請求の範囲に記載の、「液体燃焼を気化する気化管」は、「液体燃料を気化する気化管」の誤記と認める。
訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実用新案登録請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではなく、同訂正による訂正後の考案は、以下のとおりのものとなる。
「液体燃料を気化する気化管と、この気化管に連通するノズルと、このノズルから噴出する気化ガスを燃焼させるバーナーと、液体燃料を気化管に送る電磁ポンプと、液体燃料を収容したカートリッジタンクを本体内に配設してなる気化管式燃焼装置において、前記カートリッジタンクを本体内背面側にその厚さの薄い方を本体の奥行側にして配設し、その本体内前面側のスペースに前記気化管、ノズル、ソレノイド、電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設し、かつ、前記電磁ポンプを前記ソレノイドの右方に位置して設けたことを特徴とする気化管式燃焼装置。」(以下、「訂正考案」という。)

ここで、訂正考案と「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案とを対比すると、両考案は、
液体燃料を気化する気化管と、この気化管に連通するノズルと、このノズルから噴出する気化ガスを燃焼させるバーナーと、液体燃料を気化管に送る電磁ポンプと、液体燃料を収容したカートリッジタンクを本体内に配設してなる気化管式燃焼装置において、前記カートリッジタンクを本体内背面側にその厚さの薄い方を本体の奥行側にして配設し、その本体内前面側のスペースに前記気化管、ノズル、ソレノイド等の機能部品をほぼ横一列にして配設した気化管式燃焼装置
の考案である点で一致し、下記相違点で相違している。
相違点
訂正考案では、本体内前面側のスペースに気化管、ノズル、ソレノイド、電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設し、かつ、電磁ポンプをソレノイドの右方に位置して設けたのに対し、「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案では、本体内前面側のスペースに気化管、ノズル、ソレノイド等の機能部品をほぼ横一列にして配設しているが、上記スペース内で気化器の前方に電磁ポンプが設けられており、本体内前面側のスペースに気化管、ノズル、電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設したといい得るか明らかでなく、また電磁ポンプをソレノイドの右方に位置して設けられてはいない点。
しかしながら、本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物である
引用文献1:特開昭55-68533号公報
引用文献2:実願昭57-157451号(実開昭59-63609号)のマイクロフィルム
引用文献3:実願昭57-116662号(実開昭59-23573号)のマイクロフィルム
を参酌すると、上記相違点は、引用文献1?3の記載から当業者がきわめて容易に想到し得たものである。
そして、訂正考案が奏する作用、効果は、「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案、及び引用文献1?3に記載の考案から当業者がきわめて容易に予測できたものである。
したがって、訂正考案は、「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案、及び引用文献1?3に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第3条第2項の規定により、その出願の際独立して、実用新案登録を受けることができるものとは認められないので、上記訂正の請求は拒絶すべきものである。

3-3 訂正に係る被請求人の主張
被請求人は、上記訂正に関して、「液体燃焼を気化する気化管」は、「液体燃料を気化する気化管」の誤記とする認定について何らの争いをなすものではなく、訂正は、実用新案登録請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正後の考案は、電磁ポンプをソレノイドの右方に位置して設けたものであるから、電磁ポンプの故障で部品を交換する場合に手間がかからないものであって、その出願の際独立して実用新案登録を受けることができるものである旨主張し、さらに、訂正拒絶理由通知に対して、概略以下の主張をなしている。
訂正拒絶理由に引用される、引用文献3(実願昭57-116662号(実開昭59-23573号)のマイクロフィルム)には、電磁ポンプをソレノイドの右方に配置することは開示されておらず、「ダイニチブルーヒーターFA-261」は、気化器とソレノイドとの間に空間がなく、電磁ポンプをソレノイドの右方に配置すると本体の巾が大きくなり、当業者にとってそのような配置の採用をはとうてい推考できるものではない。
技術常識として電磁ポンプは気化器の近くにあるべきであり、「ダイニチブルーヒーターFA-261」において、気化器の前方にある電磁ポンプをあえてソレノイドの右方に移動させることは容易に想到し得る事項ではない。
さらに、「ダイニチブルーヒーターFA-261」は、気化器の前方に機能部品の中で背の高い電磁ポンプを配置するものであって、修理点検の作業を容易にするものではなく、訂正後の考案は、「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案及び訂正拒絶理由通知に引用された引用文献1?3に記載されたものに基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたとされるべきものではない。

3-4 訂正の適法性の判断
3-4-1 訂正事項aの訂正の目的、実用新案登録請求の範囲の変更・拡張、新規事項の追加の有無
訂正事項aによれば、実用新案登録請求の範囲に記載される構成である「機能部品」の例示として、願書に添付した明細書中に記載された「ソレノイド」を追加するとともに、同じく実用新案登録請求の範囲に記載される構成である、「電磁ポンプ」と「ソレノイド」の位置に関して、願書に添付した明細書に、「図に示すように電磁ポンプ(3)はソレノイド(8)の右方に位置して設けてあり、バーナー(10)、ノズル(6)、ソレノイド(8)と装置本体内の前面側に位置させてほぼ横一列に配設されている。」と記載される技術的事項により限定するものであって、訂正事項aは、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正と認められ、また実用新案登録請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
なお、訂正のなされた明細書中に記載される実施例は、気化管とノズルが完全に前後方向に重複して配置されるものではなく、ほぼ横一列に配置されるものと解されるから、請求人の主張する明細書の記載の不備は認められない。

3-4-2 訂正考案の独立登録要件
訂正事項aは、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、以下、その独立登録要件について検討する。

3-4-2-1 訂正考案
平成13年12月26日付け訂正請求書により訂正後本件明細書中実用新案登録請求の範囲に記載の、「液体燃焼を気化する気化管」は、「液体燃料を気化する気化管」の明らかな誤記と認められるので、同明細書の記載には、請求人の主張する記載の不備は認められず、訂正後の本件に係る考案は、3-2記載の「訂正考案」に要旨があるものと認める。

3-4-2-2 訂正拒絶理由通知に引用された「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案
以下、訂正拒絶理由通知に引用された考案である「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案について検討する。

3-4-2-2-1 「ダイニチブルーヒーターFA-261」の販売について
請求人が甲第12号証として提出した「電波新聞 昭和59年8月21日」によれば、同新聞の発行当時、ダイニチ工業株式会社のブルーヒータなる製品として「FA-261」の「シルバー、イエロー、レッド」が存在していたとされている。
そして、甲第2号証、甲第3号証として提出した「ダイニチ工業株式会社の売上伝票」及び甲第4号証として提出した「ダイニチ工業株式会社の売上一覧」によれば、「ブルーヒーター FA-261(シルバー)」30台が昭和59年8月18日に(株)カマヤへ販売されたとされ、「ブルーヒーター FA-261(シルバー)」19台及び「ブルーヒーター FA-261(イエロー)」4台が昭和59年8月20日に湯浅商事(株)富山支店へ販売されたものとされている。この甲第2号証に併せて記載される「ブルーヒーター FM-712」、「ブルーヒーター FM-722」及び「ブルーヒーターFA-325S(モクメ)」について、それぞれ対応すると解すべきものが甲第12号証にも記載されること、甲第12号証及び甲第2、3号証がともにダイニチ工業株式会社に係るものであることより、甲第2、3号証に記載される「ブルーヒーター FA-261(シルバー)」は、甲第12号証に記載されるダイニチ工業株式会社のブルーヒータなる製品である「FA-261」の「シルバー」とすることが自然であり、甲第2、3号証に記載される取引は、請求人が甲第6、7号証として提出した「各証明書」からみて甲第2,3号証に記載のとおりなされたものと認められるから、本件に係る出願の出願前にダイニチ工業株式会社が「ダイニチブルーヒーターFA-261」なる製品を販売していたものと認める。

3-4-2-2-2 「ダイニチブルーヒーターFA-261」の構成について
甲第6,7号証によれば、上記の「ダイニチブルーヒーターFA-261」の販売にあたり、「ダイニチブルーヒーターFA-261」には、請求人が提出した甲第1号証の「ダイニチブルヒーター 取扱説明書・注意書」が添付され、同じく提出された甲第5号証である「ダイニチブルーヒーター FA-261 FA-325 FA-525(販売店用テキスト)」が併せて配布されたされており、甲第1号証が添付されていたことは、甲第1号証表紙に「このたびはダイニチ気化式石油ストーブを、お買い上げいただきまして、ありがとうございました。」と記載されることの趣旨とも合致しており、甲第2、3号証に記載される台数からみて、(株)カマヤ及び湯浅商事及び(株)富山支店は、自身が記載された商品を使用するために購入したと解するよりは、それらを販売するために購入したと解することが自然であり、甲第5号証が「販売店用テキスト」と表記されることを併せ勘案すれば、「ブルーヒーター FA-261」には、甲第1号証の「ダイニチブルーヒータ取扱説明書・注意書」が添えられ、かつ、これらの取引にあたり、「ダイニチブルーヒーター FA-261 FA-325 FA-525(販売店用テキスト)」が併せて配布されたものと認められる。
甲第5号証の「ダイニチブルーヒーター(FA-261、FA-325、FA-525)販売店用テキスト」の販売店への配布が頒布に当たるか否かはさておき、甲第1,5号証の記載趣旨からみて、上記販売された製品である「ダイニチブルーヒーターFA-261」は、甲第1号証の「ダイニチブルーヒーター取扱説明書・注意書」、及び、甲第5号証の「ダイニチブルーヒーター(FA-261、FA-325、FA-525)販売店用テキスト」に記載される構成を有するものと認められる。
なお、被請求人は、「ダイニチブルーヒーターFA-261」が、甲第1号証の「ダイニチブルーヒーター取扱説明書・注意書」、及び甲第5号証の「ダイニチブルーヒーター(FA-261、FA-325、FA-525)販売店用テキスト」に記載の構成を有することについては、争っていない。

そこで、甲第1,5号証の記載を検討する。
甲第5号証の「ダイニチブルーヒーター(FA-261、FA-325、FA-525)販売店用テキスト」を参酌すると、その第3,4頁には、
気化器は、灯油を気化する旨記載され、かつ、気化器は、セラミックヒーターとパイプ状の気化器本体を有し、気化器本体の先端(バーナー側)にはノズルを有し、送られてきた油を気化ガスとする旨記載されており、「ダイニチブルーヒーターFA-261」の構成として、
(a)液体燃料である灯油を気化するパイプ状の気化器本体と、
(b)気化器本体に連通するノズルと、
を把握することができる。
甲第1号証の「ダイニチブルーヒーター取扱説明書・注意書」の第7頁の「●構造図」には、気化器の一方にはバーナー及び点火プラグが記載され、バーナーにより気化ガスを燃焼させることは明らかであるから、「ダイニチブルーヒーターFA-261」の構成として、
(c)このノズルから噴出する気化ガスを燃焼させるバーナー、
を把握することができる。
甲第1号証の「ダイニチブルーヒーター取扱説明書・注意書」の表紙には「解放式石油ストーブ」と記載され、その第7頁の「●構造図」には、カートリッジタンク及び電磁ポンプが図示されており、甲第5号証の「ダイニチブルーヒーター(FA-261、FA-325、FA-525)販売店用テキスト」の表紙には、「気化式石油ファンヒーター」と記載され、その第2頁には、カートリッジタンクに灯油が収容される旨及び電磁ポンプは、気化器に灯油を送る旨記載されているから、「ダイニチブルーヒーターFA-261」の構成として、
(d)液体燃料をパイプ状の気化器本体に送る電磁ポンプと、
(e)液体燃料を収容したカートリッジタンクと、
(f)(a)?(e)を本体内に配設してなる気化式石油ファンヒーターの燃焼装置
を把握することが可能である。
さらに、甲第1号証の「ダイニチブルーヒーター取扱説明書・注意書」の第11頁に記載された図面(A)(B)からみて、操作盤フタの後側に記載された円形が右部分に図示される長方形の部材がカートリッジタンクを収納する収納空間を覆うフタであると認められ、これに、甲第1号証の「ダイニチブルーヒーター取扱説明書・注意書」第7頁の「●構造図」に図示されるカートリッジタンクを併せみれば、「ダイニチブルーヒーターFA-261」の構成として、
(g)カートリッジタンクを本体内背面側にその厚さの薄い方を本体の奥行側にして配設すること
が把握できる。
また、甲第5号証の「ダイニチブルーヒーター(FA-261、FA-325、FA-525)販売店用テキスト」の第3,4頁には、
バーナーの反対側にはノズルを開閉するバルブ芯棒を駆動する電磁コイルが図示され、ノズル、気化器本体、電磁コイルを横一列にして配設することが記載されており、甲第1号証の「ダイニチブルーヒーター取扱説明書・注意書」の第7頁の「●外観図」、「●構造図」からみて、その正面視左側にバーナー、燃焼室等を配し、正面視右側の背面側にカートリッジタンクを、その前側に電磁ポンプ、気化器等が配されている旨記載され、これらが燃焼装置を構成することは明らかであるので、「ダイニチブルーヒーターFA-261」の構成として、
(h)本体内前面側でカートリッジタンクの前側のスペースに、ノズル、気化器本体から成る気化器、電磁コイルを横一列にして配設し、
(i)上記スペース内であって、気化器の前方に電磁ポンプを設けた
(j)燃焼装置。
を把握できる。

3-4-2-2-3 「ダイニチブルーヒーターFA-261」として公然実施された考案
3-4-2-2-2に記載のとおり、「ダイニチブルーヒーターFA-261」は、上記(a)?(j)の構成を具備しており、「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案として
液体燃料である灯油を気化するパイプ状の気化器本体と、気化器本体に連通するノズルと、このノズルから噴出する気化ガスを燃焼させるバーナーと、液体燃料をパイプ状の気化器本体に送る電磁ポンプと、液体燃料を収容したカートリッジタンクと、を本体内に配設してなる気化式石油ファンヒーターの燃焼装置において、
カートリッジタンクを本体内背面側にその厚さの薄い方を本体の奥行側にして配設し、本体内前面側でカートリッジタンクの前側のスペースに、ノズル、気化器本体から成る気化器、電磁コイルを横一列にして配設し、上記スペース内であって、気化器の前方に電磁ポンプを設けた燃焼装置
の考案を認めることができ、3-4-2-2-1に記載のとおり販売されたことにより、同考案は、本件に係る出願の出願前に公然実施されたものと認める。
なお、請求人が申請した各証人尋問は、「ダイニチブルーヒーターFA-261」、「ビーバーファンヒーターPH262」について、実質的に上記3-4-2-2-1,2に認定する事実を立証するためのものであり、同事実は、それを行うまでもなく上記のとおり他に提出された証拠より認められるものであり、それらの証拠調べの必要性は必ずしも認められず、しかも、被請求人は同事実を積極的に認めることを理由として、その証拠調べを実施する必要がない旨主張しており、それらの証拠調べは実施しない。

3-4-2-3 対比判断
本件訂正考案と「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案とを比較すると、「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案の「パイプ状の気化器本体」、「ノズル」、「バーナー」、「電磁ポンプ」、「カートリッジタンク」、「電磁コイル」は、その機能に照らして訂正考案における「気化管」、「ノズル」、「バーナー」、「電磁ポンプ」、「カートリッジタンク」、「ソレノイド」にそれぞれ相当し、「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案の燃焼装置は、パイプ状の気化器本体を用いるものであって、気化管式燃焼装置と認められるから、両考案は、
液体燃料を気化する気化管と、この気化管に連通するノズルと、このノズルから噴出する気化ガスを燃焼させるバーナーと、液体燃料を気化管に送る電磁ポンプと、液体燃料を収容したカートリッジタンクを本体内に配設してなる気化管式燃焼装置において、前記カートリッジタンクを本体内背面側にその厚さの薄い方を本体の奥行側にして配設し、その本体内前面側のスペースに前記気化管、ノズル、ソレノイド等の機能部品をほぼ横一列にして配設した気化管式燃焼装置
の考案である点で一致し、下記の点で両考案は、相違している。
相違点A
訂正考案では、本体内前面側のスペースに気化管、ノズル、ソレノイド、電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設し、かつ、電磁ポンプをソレノイドの右方に位置して設けたのに対し、「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案では、本体内前面側のスペースに気化管、ノズル、ソレノイド等の機能部品の一部は、ほぼ横一列にして配設しているが、上記スペース内で気化器の前方に電磁ポンプが設けられており、また電磁ポンプをソレノイドの右方に位置して設けられてはいない点。

以下、上記相違点Aについて検討する。
訂正拒絶理由通知に引用された引用文献1である特開昭55-68533号公報には、
「第6図に示す仕切板51の下部に設けたガス制御ユニット73は、ガスコック63、ガスガバナ64、電磁弁65A、65Bの順に一列に配置し、配置台74へ組込んだもので、ガス制御部品を一つのユニットにし、かつ、すべて本体右側面から部品の取付取外しを可能にしてある。」(第2頁右下欄2行?7行)
と記載されると共に、
「第4図は本実施例の電子レンジ付強制熱循環式ガスオ-ブンの右側面図であり、ボディ右側面板は、前記上下仕切板51の部分で上下に分割された側面板A71、側面板B72からなり、各々に取り外しできる構成で・・」(第2頁右下欄7行?12行)
と記載されている。
上記の記載中「取り外し」が、修理点検等に係る事項を意味することは明らかであり、これら記載及び図面の記載からみて、引用文献1には、
電子レンジ付強制熱循環式ガスオーブンにおいて、その外面を側面板で取り外し可能に覆い、取り外し可能な側面板に対して、ガスコック63、ガスガバナ64、電磁弁65A、65Bの順に横一列に配置し、その外面を側面板で取り外すことにより、修理点検等の作業を容易とする
考案が記載されるものと認める。
そして、「ダイニチブルーヒーターFAー261」においても、「ダイニチブルーヒーター(FAー261、FAー325、FAー525)販売店用テキスト」第10?14頁の記載からみて、本体内前面側のスペースに設けられた空間に配置された気化管、ノズル、ソレノイド等の機能部品を前面板を取り外して、修理等を行うものと認められ、しかも、一般に、修理等を行い易い配置とすることは、技術分野を問わず要求される技術課題の一である。
してみると、修理点検等の作業を容易とする引用文献1に記載の、取り外し可能な側面板に対して、横一列に配置する技術を「ダイニチブルーヒーターFAー261」に係る考案に適用すべき動機付けは、技術分野を問わず要求される一般的技術課題にあるというべきであり、横一列に配置するにあたり、その配置される部材相互の左右方向の配置関係は、当業者が適宜決定すべき設計上の事項に属するものと認められるから、上記相違点Aは、「ダイニチブルーヒーターFAー261」に係る考案の取り外す面である前面板に対して機能部品を横一列に配置する引用文献1に記載される技術を適用して、当業者がきわめて容易になしえたものと認める。
そして、訂正考案が奏する作用、効果は、製品「ダイニチブルーヒーターFAー261」に係る考案、及び引用文献1記載の考案から予測される以上の格別のものとは認められない。
したがって、訂正考案は、「ダイニチブルーヒーターFAー261」に係る考案、及び引用文献1記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。
なお、被請求人は、「ダイニチブルーヒーターFAー261」の内部には、電磁ポンプをソレノイドの右方に位置する空間はなく、横一列に配置することはできない旨主張しているが、訂正考案は、その構成として「横一列に配置」することを採用したことにより、横幅をより短縮できるものではなく、かつ、通常製品の設計を行うにあたり、寸法を決定するために考慮すべき事項の一として、内部に収納すべきものの大きさがあることは、特段の例示を待つまでもない事項であるから、「ダイニチブルーヒーターFAー261」に係る考案の取り外す面である前面板に対して機能部品を横一列に配置する引用文献1に記載される技術を適用するにあたり、必要な寸法に設計することは、当業者にとって何らの困難性を伴う事項とは認められない。
よって、訂正考案は、実用新案法第3条第2項の規定により、その出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。

3-5 むすび
以上のとおり、平成13年12月26日付けで被請求人が行った訂正請求は、平成5年法律第26号附則第4条第2項の規定により読み替えられた実用新案法第40条第5項により準用する、実用新案法第39条第3項に規定する要件を満たしていないから、上記訂正の請求は認められない。
4. 本件実用新案登録の無効事由
4-1 合議体が通知した無効理由
合議体が平成13年10月31日付けで通知した、無効理由は、概略以下のとおりである。
本件に係る考案は、本件に係る出願の出願前に公然実施された「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案、及び、特開昭55-68533号公報、実願昭57-157451号(実開昭59-63609号)のマイクロフィルムに記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、同考案に係る実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきものである。

4-2 無効理由に対する被請求人の主張
被請求人は、3.に述べた訂正を前提として、本件に係る考案は、燃焼装置全体を小型コンパクトにでき、持ちはこびが容易にできるという効果があり、機能部品を本体前部に集中することができるため、修理や部品交換が容易に行え、特に、電磁ポンプをソレノイドの右に位置して設けたので、電磁ポンプの故障で部品を交換する場合に手間がかからないという効果を奏するものであるから、引用された考案に基づいて、本件に係る考案をきわめて容易に考案をすることができたとすることはできない旨主張している。

4-3 本件の考案
2.に述べたとおり、平成13年12月26日付けで被請求人が行った訂正請求は認められず、本件明細書に記載される実施例は、気化管とノズルを前後方向に完全に重複して配置するもののみを技術思想として開示するものではなく、ほぼ横一列に配置されるものと解されるから、実用新案登録請求の範囲に記載される「ほぼ横一列」なる構成が考案の詳細な説明に記載されていないことを論拠とする請求人の明細書の記載の不備に係る主張は採用しない。
したがって、本件考案の要旨は、願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの、
「液体燃料を気化する気化管と、この気化管に連通するノズルと、このノズルから噴出する気化ガスを燃焼させるバーナーと、液体燃料を気化管に送る電磁ポンプと、液体燃料を収容したカートリッジタンクを本体内に配設してなる気化管式燃焼装置において、前記カートリッジタンクを本体内背面側にその厚さの薄い方を本体の奥行側にして配設し、その本体内前面側のスペースに前記気化管、ノズル、電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設したことを特徴とする気化管式燃焼装置。」(以下、「本件考案」という。)
に要旨があるものと認める。

4-5-2 無効理由通知に引用された考案
合議体が無効理由通知に引用した「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案は、3-4-2-2-1?3に述べたとおり、
液体燃料である灯油を気化するパイプ状の気化器本体と、気化器本体に連通するノズルと、このノズルから噴出する気化ガスを燃焼させるバーナーと、液体燃料をパイプ状の気化器本体に送る電磁ポンプと、液体燃料を収容したカートリッジタンクと、を本体内に配設してなる気化式石油ファンヒーターの燃焼装置において、
カートリッジタンクを本体内背面側にその厚さの薄い方を本体の奥行側にして配設し、本体内前面側でカートリッジタンクの前側のスペースに、ノズル、気化器本体から成る気化器、電磁コイルを横一列にして配設し、上記スペース内であって、気化器の前方に電磁ポンプを設けた燃焼装置。
なる構成を有するものとして、本件に係る出願の出願前に公然実施されたものと認める。
また、同じく引用された本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物である特開昭55-68533号公報には、3-4-2-3に述べたとおり、
電子レンジ付強制熱循環式ガスオーブンにおいて、その外面を側面板で取り外し可能に覆い、取り外し可能な側面板に対して、ガスコック63、ガスガバナ64、電磁弁65A、65Bの順に横一列に配置し、その外面を側面板で取り外すことにより、修理点検等の作業を容易とする
考案が記載されるものと認める。

4-5-3 対比判断
ここで、本件考案と、ダイニチ工業株式会社が製造し、販売した製品「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案とを比較すると、
相違点B
本件考案では、本体内前面側のスペースに気化管、ノズル、電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設したのに対し、「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案では、本体内前面側のスペースに気化管、ノズル等の機能部品をほぼ横一列にして配設しているが、上記スペース内で気化器の前方に電磁ポンプが設けられており、本体内前面側のスペースに気化管、ノズル、電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設したといい得るか明らかでない点。
相違点Bについて検討すると、2-4-2-3に検討したとおり、この点は、特開昭55-68533号公報に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易になし得た事項と認められるから、相違点Bは、格別の事項とは認められない。
したがって、本件考案は、本件に係る出願の出願前に公然実施されたダイニチ工業株式会社が製造し、販売した製品「ダイニチブルーヒーターFA-261」に係る考案及び特開昭55-68533号公報に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、本件実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。

5. むすび
以上のとおり、本件実用新案登録は、平成5年法律第26号附則第4条第1項の規定により、なおその効力を有するとされる、改正前の実用新案法第37条第1項第1号の規定に該当するので、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2002-11-25 
結審通知日 2002-11-28 
審決日 2002-12-24 
出願番号 実願昭59-153414 
審決分類 U 1 112・ 537- ZB (F23D)
U 1 112・ 121- ZB (F23D)
U 1 112・ 007- ZB (F23D)
U 1 112・ 856- ZB (F23D)
最終処分 成立    
前審関与審査官 河合 厚夫  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 長浜 義憲
櫻井 康平
登録日 1991-07-10 
登録番号 実用新案登録第1858417号(U1858417) 
考案の名称 気化管式燃焼装置  
代理人 吉井 剛  
代理人 吉井 雅栄  
代理人 近藤 恵嗣  

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