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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23B
管理番号 1073407
審判番号 不服2001-18470  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2003-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-10-15 
確定日 2003-02-18 
事件の表示 平成10年実用新案登録願第 5135号「切削インサート」拒絶査定に対する審判事件[平成11年 3月30日出願公開、実開平11- 49]について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 第1 手続の経緯・本件考案
本件出願は、平成2年9月6日の出願である特願平2-234630号を平成5年法律第26号による改正前の実用新案法第8条第1項の規定により平成10年6月29日に実用新案登録出願に変更したもの(パリ条約による優先権主張1989年9月7日、英国)であって、その請求項1、2に係る考案(以下「本件考案1、2」という。)は、平成12年4月5日付け手続補正書により補正された明細書及び願書に添付された図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1には以下のとおり記載されている。
「縦対称面を有し、実質的に矩形断面形状であり、全長に沿って延びている下方表面と、中央部分に沿って延びている上方表面と、前方、後方及び側部平面とを有する細長い本体部分と、
該本体部分と一体に形成されており、該上方表面の一端と隣接する前方及び後方平面との間にそれぞれ延びている反対向きの第1及び第2端部分とを具備し、
該第1端部分は、上記対称面に対して第1向きに傾斜している第1すくい面、該前方平面によって構成された第1前方逃げ面、該側部平面に対して角度をもって配置された第1の一対の側部逃げ面、該第1すくい面と該第1前方逃げ面との間に形成された第1前方切削縁、及び該第1すくい面と該側部逃げ面との間にそれぞれ形成された第1の一対の側部切削縁を有し、
該第2端部分が、上記対称面に対して反対方向に傾斜している第2すくい面、該後方平面によって構成された第2前方逃げ面、該側部平面に対して角度をもって配置された第2の一対の側部逃げ面、該第2すくい面と該第2前方逃げ面との間に形成された第2前方切削縁、及び該第2すくい面と該第2側部逃げ面との間にそれぞれ形成された第2の一対の側部切削縁を有し、
該第1及び第2の対の側部逃げ面が、該側部逃げ面と切削される溝の側面との間に間隙を形成するような大きさ及び向きのテーパを有し、
該上方及び下方表面が、該対称面に対して対称な係合手段を備えており、該係合手段が、縦方向に延びている溝によって構成されており、
該第1前方切削縁の中央点の垂線が、上記対称面に対して第1方向に角度αだけ傾斜しており、該第2前方切削縁の中央点の垂線が、上記対称面に対して第2の反対方向に角度αだけ傾斜しており、これによって、該第1及び第2前方切削縁が相対的に角度2αだけ傾斜しており、
該対称面が、上記端部切削縁の中央点を介して延びており、切削縁の各々を該対称面に対して非対称に傾斜している2つの部分に分割している
ことを特徴とする切削インサート。」

第2 引用例記載の考案乃至技術的事項
1 引用例1記載の考案
原査定の拒絶の理由に引用された本件出願の優先権主張日前に日本国内で頒布された刊行物である特公昭57-55521号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のとおり記載されている。
(1)特許請求の範囲
「1 すくい面が平面視において略四角形状とされており、そのすくい面の少なくとも一対の対向する2辺が主切刃稜とされ、一の主切刃稜によって切削する際にその主切刃稜に隣接する2辺にバックテーパが附与されてなるクランプバイト用チップにおいて、前記主切刃稜を、一方の主切刃稜側から他方の主切刃稜側へ向かう側面視において交叉するように、互いに傾斜させたことを特徴とするクランプバイト用チップ。」
(2)第1頁右欄第37行?第2頁左欄第11行
「以下第6図乃至第13図を参照して本発明の実施例を説明する。第6図乃至第10図に示すチップ10の上面はその略中央部で前すくい面11と後すくい面12とに2分され、各すくい面11、12は底面13に対して互いに逆方向に傾斜しねじれた状態に成形されており、この前すくい面11と前逃げ面14とが成す前主切刃稜15と、後すくい面12と後逃げ面16とが成す後主切刃稜17とは、前主切刃稜15側から後主切刃稜17側へ向かう側面視において交叉するように、互いに傾斜し、この各切刃稜15、17に主切刃が形成されている。」
(3)第2頁左欄第15?28行
「第6図乃至第10図中18は右第1横逃げ面であつて、前主切刃稜15を水平にした際にバックテーパαおよび横逃げ角β(第9図、第10図参照)をとれるように前逃げ面14の右上方(第6図においては左上方)の頂点P_(1)から斜め後方に向けて切り落とされて成形されたものであり、また19は右第2横逃げ面であつて、後主切刃稜17を水平にした際にバックテーパをとれるように後逃げ面16の右下方(第6図においては左下方)の頂点P_(2)から斜め前方に向けて切り落とされて成形されたものである。これら横逃げ面18、19が形成された面と反対側の面は、これら各横逃げ面18、19と同様な横逃げ面が形成されている。すなわち、左第1横逃げ面20が、・・・頂点P_(3)から斜め前方に向けて切り落とされて成形され、また左第2横逃げ面21が、・・・頂点P_(4)から斜め後方に向けて切り落とされて成形されている。」
(4)第2頁左欄第42行?右欄第36行
「第9図および第10図は上記の如く成形されたチップ10の使用状態を示す図であって、前主切刃が形成された前主切刃稜15が図示しない旋盤に取り付けられた被削物(図示せず)の回転中心軸線と平行になるようにチップ10がシャンク22に取り付けられている。この状態で旋盤の刃物台(図示せず)を移動させてシャンク22を被削物に向けて前進させると、被削物は前主切刃の幅(第9図および第10図中のB)だけ切り込まれる。一方、前主切刃が形成された前主切刃稜15と後主切刃が形成された後主切刃稜17とは互いに逆向きに傾斜するように成形されており、かつチップ10は前主切刃稜15が被削物の回転中心軸線と平行になるようにシャンク22に取り付けられているため、後主切刃稜17の前主切刃稜15を含む水平面への投影線の長さ、すなわち、被削物の回転中心軸線を含む水平面上における後切刃稜17の幅(第9図および第10図中のC)は切削幅Bよりも小さい。したがって、切削が進行して後主切刃稜17が切削された被削物のみぞ内、あるいは被削物の外周面より内側へまで突込まれたときに後主切刃は被削物と干渉することはなく、チップ10を前後を逆にしてシャンク22に取り付ければ、後主切刃は前主切刃と同様な未使用切刃として使用することができる。・・・
また、第11図に示すチップ10aにおいて、すくい面11a、12aと左右の横逃げ面18a、20aとが成す前記稜23、24をも主切刃として成形すれば4切刃形チップと成すことができる。」

また、第9図には、チップ10の前主切刃稜15、後主切刃稜17の傾斜に関して以下の技術的事項が記載されていると認める。
前主切刃稜15の中央点の垂線及び後主切刃稜17の中央点の垂線がそれぞれ一点鎖線で示されていること。
上記2つの垂線が交叉する点をとおる直線がさらに別の一点鎖線で示され、上記2つの垂線が、該一点鎖線(以下、本件考案1との対比の都合上、「直線A」という。)から互いに時計回り、反時計回り方向に同じ角度だけ傾斜していること。

上記記載事項及び図面の記載からみて、引用例1には、以下の考案が記載されていると認める。
底面13、前すくい面11、後すくい面12、前逃げ面14、後逃げ面16、横逃げ面18?21及び底面13から横逃げ面18?21の間の平面から構成されたクランプバイト用チップにおいて、前すくい面11と前逃げ面の14とが成す前主切刃稜15の中央点の垂線が、直線Aを含む第9図の紙面垂直方向の面に対して、時計回り方向に所定角度傾斜し、後すくい面12と後逃げ面16とが成す後主切刃稜17の中央点の垂線が、直線Aを含む第9図の紙面垂直方向の面に対して、反時計回り方向に前記所定角度傾斜しており、これにより、前主切刃稜15と後主切刃稜17が相対的に前記所定角度の2倍傾斜しているクランプバイト用チップ。

2 引用例2記載の技術的事項
同じく特開平1-115504号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の技術的事項が記載されていると認める。
(1)特許請求の範囲
「1.頂部及び底部面と、前部、後部、及び一対の側部周囲面とを有する実質的に多角形の形状の金属切削インサートであって、前部切削縁は、頂部面と前部周囲面の交差において形成されて、第1及び第2側部切削縁は、それぞれ、該頂部面と2つの側部周囲面の交差において形成され、そして、チップ形成手段が、該切削縁によって規定された領域内の頂部面に位置する金属切削インサートにおいて、頂部及び底部面は、それぞれ、凸状及び凹状配置であることを特徴とする金属切削インサート。」
(2)第3頁左下欄第1?10行
「今、発明による切削インサート11の1つの実施態様の詳細な説明のために、図面の第2図と第3図を参照する。
図面に見られた如く、切削インサートは、実質的に凸状の頂部面12aと実質的に凹状の底部面12bを有する多角形本体から成る。さらに、インサートは、前部及び後部周囲面13aと13bと、側部周囲面14aと14bを有する。頂部及び底部面12aと12bは、V形断面の縦に伸長する凹状キー溝15aと15bを形成される。」
(3)第2頁右下欄第18行?第3頁左上欄第3行
「さらに、第2?4図は、凹状キー溝15aと15bを提供されたインサート11を示すが、インサートは、同様に、工具保持器のあごに形成された対応するキー溝内に嵌合するように適合された1つ又は2つの凸状キーイング・リブを提供されることが、認識される。」

また、第1?4図には、切削インサートの形状に関して、以下の技術的事項が記載されいると認める。
側部周囲面の頂部面及び前部周囲面又は後部周囲面に接する部分が、側部周囲面の他の部分に対して角度を有すること。
切削インサートが、頂部及び底部面と、前部、後部、及び一対の側部周囲面により、実質的に矩形断面形状に構成されていること。

第3 対比
本件考案1と引用例1記載の考案を対比する。
第1に、引用例1記載の考案は「クランプバイト用チップ」と表現されているが、「切削インサート」の一種であることは当業者に明らかである。
第2に、引用例1記載の考案における「底面13」、「前すくい面11」、「前逃げ面14」、「横逃げ面18?21」及び「底面13から横逃げ面18?21の間の平面」から構成される部分は、チップ全体に対しての位置からみて、本件考案1における「本体部分と一体に形成され」た「第1端部分」に相当し、引用例1記載の考案における「底面13」、「後すくい面12」、「後逃げ面16」、「横逃げ面18?21」及び「底面13から横逃げ面18?21の間の平面」から構成される部分は、同様に、本件考案1における「本体部分と一体に形成され」た「第2端部分」に相当する。
第3に、引用例1記載の考案における「直線Aを含む第9図の紙面垂直方向の面」が、本件考案1における「縦対称面」に相当し、「前主切刃両15」、「後主切刃稜17」(本件考案1における「第1前方切削縁」、「第2前方切削縁」に相当する。)の各々を非対称に傾斜している2つの部分に分割するものであることは、当業者に明らかである。
第4に、引用例1記載の考案における「所定角度」が本件考案1における「角度α」に相当することも、当業者に明らかである。

したがって、両者は以下の点で一致する。
縦対称面を有し、全長に沿って延びている下方表面と、前方平面、後方平面とを有する細長い本体部分と、該本体部分と一体に形成されており、前方及び後方平面に向かって延びている反対向きの第1及び第2端部分とを具備し、
該第1端部分は、上記対称面に対して第1向きに傾斜している第1すくい面、該前方平面によって構成された第1前方逃げ面、該第1すくい面と該第1前方逃げ面との間に形成された第1前方切削縁を有し、
該第2端部分が、上記対称面に対して反対方向に傾斜している第2すくい面、該後方平面によって構成された第2前方逃げ面、該第2すくい面と該第2前方逃げ面との間に形成された第2前方切削縁を有し、
該第1前方切削縁の中央点の垂線が、上記対称面に対して第1方向に角度αだけ傾斜しており、該第2前方切削縁の中央点の垂線が、上記対称面に対して第2の反対方向に角度αだけ傾斜しており、これによって、該第1及び第2前方切削縁が相対的に角度2αだけ傾斜しており、
該対称面が、上記端部切削縁の中央点を介して延びており、切削縁の各々を該対称面に対して非対称に傾斜している2つの部分に分割している切削インサート。
そして、以下の点で相違する。
相違点1:本件考案1では、切削インサートは実質的に矩形断面形状であるのに対し、引用例1記載の考案では、そのような形状ではない点。
相違点2:本件考案1では、第1すくい面及び第2すくい面と側部平面との間に、それぞれ、一対の側部逃げ面を側部平面に対して角度をもって配置し、該第1すくい面及び該第2すくい面と該一対の側部逃げ面との間に、それぞれ、一対の側部切削縁を形成し、さらに、該一対の側部逃げ面は、切削される溝の側面との間に間隙を形成するような大きさ及び向きのテーパを有しているのに対し、引用例1記載の考案では、側部逃げ面と切削される溝の側面との関係が明らかでない点。
相違点3:本件考案1では、切削インサートの第1すくい面と第2すくい面の間に、上方表面を構成する中央部分を設け、該上方表面と下方表面に縦対称面に対して対称な係合手段を設けているのに対し、引用例1記載の考案では、そのような構成を備えていない点。

第4 当審の判断
そこで、上記相違点1?3について検討する。
1 相違点1について
頂部及び底部面と、前部、後部、及び一対の側部周囲面により、実質的に矩形断面形状に切削インサートを構成したものは、引用例2に記載されているように周知のものであるから、引用例1記載の考案において、切削インサートを実質的に矩形断面形状とすることは、当業者であれば、きわめて容易に想到したことである。
2 相違点2について
引用例2記載の切削インサートにおける「側部周囲面の頂部面及び前部周囲面又は後部周囲面に接する部分」、「側部周囲面の他の部分」が、本件考案1における「側部逃げ面」、「側部平面」に相当することから、すくい面と側部平面との間に、一対の側部逃げ面を側部平面に対して角度をもって配置し、該すくい面と該側部逃げ面との間に、一対の側部切削縁を形成した切削インサートは、引用例2に記載されているといえる。
また、側部逃げ面の形状を、切削される溝の側面との間に切削屑等が詰まらないように設計することは、当業者であれば当然のことである。
したがって、引用例1記載の考案において、引用例2記載の技術事項を適用し、第1すくい面及び第2すくい面と側部平面との間に、それぞれ、一対の側部逃げ面を側部平面に対して角度をもって配置し、該第1すくい面及び該第2すくい面と該一対の側部逃げ面との間に、それぞれ、一対の側部切削縁を形成し、さらに、該一対の側部逃げ面は、切削される溝の側面との間に間隙を形成するような大きさ及び向きのテーパを有するようにすることは、当業者であれば、きわめて容易に想到したことである。
3 相違点3について
引用例2には、切削インサートを保持具に保持するために、「頂部及び底部面12aと12b」(本件考案1における「上方表面及び下方表面」に相当する。)に「V形断面の縦に伸長する凹状キー溝15aと15b」(本件考案1における「縦対称面に対して対称な係合手段」に相当する。)を形成することが記載されている。
そして、引用例1記載の考案においても、切削インサートを何らかの手段により保持具に保持しなければならないことから、切削インサートの保持のための機構として、引用例2記載の技術事項を適用することは、当業者であれば、きわめて容易に想到したことである。
なお、審判請求人は、引用例1記載の考案は、「形状を大きくすることなく」ということを考慮して、意図的に中間部分がない構成を有する旨主張するが、引用例1記載の考案は、後主切刃が被削物と干渉しないことによって形状が大きくなることを防止したものであって、中間部分がない構成を意図するものとは認められない。

本件考案1の効果については、引用例1記載の考案及び引用例2記載の技術的事項から当業者が予測することができる程度のものであって格別なものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件考案1は、引用例1記載の考案及び引用例2記載の技術的事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により、実用新案登録を受けることができないので、本件考案2について判断するまでもなく、本件出願は、拒絶すべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
審理終結日 2002-09-02 
結審通知日 2002-09-10 
審決日 2002-09-27 
出願番号 実願平10-5135 
審決分類 U 1 8・ 121- Z (B23B)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 間中 耕治  
特許庁審判長 小林 武
特許庁審判官 高山 芳之
加藤 友也
考案の名称 切削インサート  
代理人 小田島 平吉  

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