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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A01G
管理番号 1093257
審判番号 無効2003-35079  
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2004-04-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-03-05 
確定日 2004-02-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第2584336号実用新案「ハウス用結露水排出装置」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 登録第2584336号の実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯・本件考案
1 手続の経緯
平成 4年 9月 4日 出願
平成10年 8月28日 設定登録(実用新案登録第2584336号)
平成15年 3月 5日 審判請求(無効2003-35079号)
平成15年 6月 3日 答弁書
平成15年 9月26日 検証,証人尋問,口頭審理
平成15年10月30日 上申書(被請求人)
平成15年10月31日 審判請求理由補充書

2 本件考案
実用新案登録第2584336号(以下「本件実用新案登録」という。)の請求項1に係る考案(以下「本件考案」という。)は,本件実用新案登録明細書及び図面の記載からみて,その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「複数の柱体に所要数の屋根骨を掛け渡すとともにこの屋根骨に被覆シートを張設し,且つ,前記柱体の上端に排出用樋を設置するとともに前記屋根骨における前記排出用樋よりも上方に結露水用樋を設置し,この結露水用樋の底部に孔を形成するとともにこの孔に管部材の上端をつなげ,前記結露水用樋によって前記被覆シートの裏面に発生した結露水を集めるとともにこの管部材によって前記結露水用樋に溜まった結露水を排水するハウス用結露水排出装置において,
前記結露水用樋の孔を前記結露水用樋の下方から前記管部材の一端開口によって覆うとともにこの覆った状熊で前記管部材の上端開口縁部を前記結露水用樋に固定し,且つ,前記管部材の他端を前記排出用樋に開口させたことを特徴とするハウス用結露水排出装置。」

第2 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は,本件実用新案登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由として,本件考案は,出願前に公然実施をされた考案に基づいて,当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから,本件実用新案登録は,実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり,実用新案法第37条第1項第1号の規定により無効とされるべきである旨主張し,下記の証拠方法を提出している。

1-1 書証
甲第1号証 実用新案登録第2584336号公報
甲第2号証 仕入れ台帳
甲第3号証の1 見積書
甲第3号証の2 得意先元帳
甲第3号証の3 検甲第1号証を撮影した写真
甲第3号証の4 地図
甲第4号証 本件考案に対する拒絶理由通知
甲第5号証 実願昭60-15595号(実開昭61-131750号)のマイクロフィルム
甲第6号証 実公平2-12863号公報

参考図 検甲第1号証を説明するための図面

1-2 人証
証人 氏名 牧野啓
住所 愛知県宝飯郡一宮町大字江島字東貝戸13

1-3 検証物
検甲第1号証 証人牧野啓が所有するビニールハウス2棟
(所在地:愛知県宝飯郡一宮町江島地内)

2 被請求人の主張
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,下記の主張をし,下記の証拠方法を提出している。

2-1 検証物に関する主張
(1) 甲第2号証,甲第3号証の1及び甲第3号証の2については,当時実際に請求人が作成したものであるのか否か及びそのような事実が存在したのか否か不明であり,信憑性に乏しいものである。このため,「甲号証により把握されるハウス用結露水排出装置」が本件考案の出願前に存在したという主張を裏付けるものとしては妥当でない。
甲第2号証においては,「アングル排水器」,「ドブ付アングル排水器」又は「アングル排水器ドブ付」とは如何なる構造のものか,また,本件考案とどのような関係があるのか不明である。
甲第3号証の3は,請求人によって平成15年2月5日に撮影されたものにすぎず,本件の出願前にこのビニールハウスがこのような状態で存在したのか否かについては不明であり,また,本件出願前に写真2及び写真4に示すような状態で実際に実施されていたか否かは不明である。
(2) 証人は,平成3年7月以降に建設したビニールハウス2棟は,本件考案と同様の手法により結露水の排出がおこなわれていたと証言しているが,同証言内容はにわかに措信できるものではない。
本件各証拠からすれば,証人のビニールハウス(以下「検証物」という。)には建設当時L鋼ジョイントにビニールホースが付いていなかった,または付いていたとしてもビニールホースの先端が谷樋に導かれていなかったということができる。
(i) 証人は,「被覆シート(ビニールフィルム)は請求人に張ってもらった。ホースは当初から付いていた。」と証言している。
しかしながら,請求人作成の見積書にはホースは記載されていない(甲第3号証の1)。
同見積書には小さなねじ1本まで計上されていることからしても,請求人が当初からL鋼ジョイントにホースを付けていたならば,見積書に記載されているはずである。
請求人が作成した他のビニールハウスの見積書にはL鋼ジョイントのほかにビニールホースと明記されているものがある。
以上からすれば,検証物には建設当初ビニールホースは取り付けられていなかったということができる。
なお,前記見積書には「ビニール張りは含まれていません」と記載され,被覆シートの取り付けは計上されていないが,証人はビニール張りは請求人にしてもらったと証言している。しかしながら,ビニール張り作業は通常10万円前後の費用がかかる作業であり,これを請求人が無償でおこなったとは考え難い。したがって,この点からしても,証人の証言は信用性に乏しいといえる。
(ii) 仮に,請求人が被覆シート(ビニールフィルム)を張ったとしても,参考図では,ビニールホースの端末がユーシートバネ(図の丸数字14)で固定され破線で表されている被覆シートの上(ハウス外面になる)を通っているのに対し,検証物は被覆シートの下を通ってビニールホースの端末が谷樋と妻面の間にこじ入れられている。
この点からしても,検証物においては,建設当初からではなく,それ以降ビニールホースが取り付けられ,その先端を谷樋に導いたことが窺われる。
(iii) 証人は,検証物西棟の谷樋下のトタンに穴が開いていること及びその穴が透明テープでふさがれていたことについて「検証当日まで知らなかった(気が付かなかった)。」と証言している。
しかしながら,上記トタンの穴は検証物西棟の出入口横に位置し,成人男性のほぼ目の高さ付近にあるものであり,毎日のようにビニールハウスに入っている証人が10数年もの間これに気付かないということは極めて不自然である。
これに関連して,被請求人において,証人尋問後,検証物が存する近隣地区にて調査したところ,乙第1号証(陳述書添付写真4・5)記載のとおり,検証物と同様に,谷樋下のトタンに穴が開き,その穴にビニールホースを差し込むことによりハウス外に結露水を排出する構造を有するビニールハウス2棟を発見した。
同ビニールハウスの各所有者の話によれば,(a)いずれも請求人が建設したビニールハウスであり,(b)谷樋下のトタンに穴を開けてホースを差し込むという排水方法も請求人が建設当初からおこなった,とのことであった。
上記事実からすれば,検証物西棟のトタンに開いていた穴も,請求人がビニールホースを差すために開けたものであり,実際かつてはその穴にホースが差し込まれていたと考えることが自然かつ合理的である。
このことは,検証物西棟に現在取り付けてあるビニールホースに,穴に差し込まれた際に出来たと思われる鋭利な傷がついていることからも明らかである。
なお,検証物東棟については谷樋下のトタンに穴が開いていない。
しかしながら,これは西棟においてホースを穴に差し込んだもののその不都合性に気づいたため,東棟においてはホース端末を谷樋と妻面ビニールの隙間にこじ入れたものと推察される(乙第1号証添付写真2参照)。
(iv) 証人は,「検証物を引き渡された際,L鋼ジョイントが付いていたことは知っていたが,その役割は知らなかった。L鋼ジョイントにはビニールホースが付いていた。」と証言している。
L鋼ジョイントは検証物上方の四方の隅に設置されているが,前記のトタンの穴にさえ気付かなかった証人がハウス内の作業時に通常視界に入らない(視線が向かない)位置に設置され,その役割さえ知らないL鋼ジョイント及びビニールホースの存在に気付いていたとすることは不自然であり,直ちに措信できるものではない。
(3) 上記(2)のとおり,証人の証言はその信用性に乏しいものであり,建設当時から検証物にビニールホースが付いていた,またはビニールホースの先端が谷樋に導かれていたということを認定することはできない。
よって,本件考案申請以前から,請求人が本件考案と同様の手法によりビニールハウスを建築していたという主張は認められない。

2-2 本件考案に関する主張
(1) 本件考案に係る「ハウス用結露水排出装置」は,「複数の柱体に所要数の屋根骨を掛け渡すとともにこの屋根骨に被覆シートを張設し,且つ,前記柱体の上端に排出用樋を設置するとともに前記屋根骨における前記排出用樋よりも上方に結露水用樋を設置し,この結露水用樋の底部に孔を形成するとともにこの孔に管部材の上端をつなげ,前記結露水用樋によって前記被覆シートの裏面に発生した結露水を集めるとともにこの管部材によって前記結露水用樋に溜まった結露水を排水するハウス用結露水排出装置において,前記結露水用樋の孔を前記結露水用樋の下方から前記管部材の一端開口によって覆うとともにこの覆った状態で前記管部材の上端開口縁部を前記結露水用樋に固定し,且つ,前記管部材の他端を前記排出用樋に開口させた」技術的構成を有し,この構成に基づいて「ハウス設置後に結露水排出設備を設置する場合に,当該結露水用樋はその儘被覆シートを固定した状態で,即ち,入来のように結露水用樋を切断しその後連結することなく,結露水の排水設備を設置することができるとともに管部材で集めた結露水をハウスの屋外に排出することができるものである。よって,この結露水排出装置を使用すれば,ハウス設置後に結露水排出設備を設置するにあたって,被覆シートを傷めることなく,被覆シートの結露水の排水工事を簡易な作業で行うことができるとともに結露水によるハウス内の湿度上昇を簡易に防止することができる。」旨の技術的効果を奏するものである。
すなわち,本件考案に係る「ハウス用結露水排出装置」は,「結露水用樋に前記管部材(ビニールホース)の一端を繋ぎ,その他端を前記排出用樋に開口させた」ところに技術的特徴を有し,この特徴に基づいて「管部材(ビニールホース)で集めた結露水をハウスの屋外に排出することができる」ところに技術的効果の特徴を有するものである。
(2) 本件考案は,その登録以前に甲第4号証記載の理由によりいったんは拒絶査定されている。しかしながら,乙第6号証(審判請求理由補充書)記載のとおり,本件考案は,甲第4号証が引用する文献とは技術構成及び効果において顕著に異なり,引用文献に基づいて極めて容易に考案できるものではないため,拒絶査定は取り消され,実用新案登録された。したがって,引用文献記載の考案が公開ないし公告されていたことをもって,本件考案に進歩性が欠如しているということはできない。
(3) 本件考案について当業者が極めて容易に考案できるならば,何故に請求人は被請求人に先駆けて実施しなかったのか。請求人はその疑問に応えるべきである。乙第1号証(陳述書)に指摘したとおり,請求人が請け負ったビニールハウスについて,トタンの穴を利用している物件が現在も存在するばかりか,妻面から外に垂れ流している物件もある。本件考案が極めて容易に考案できなかったからこそ,請求人は本件考案を実施していないのであるし,被請求人による実用新案登録も認められたのである。

2-3 書証
乙第1号証 陳述書(宮野益人作成)
乙第2号証 審決(平成7年審判第17934号)
乙第3号証 手続補正書(平成10年1月20日提出)
乙第4号証 拒絶理由通知書(平成9年10月23日付け)
乙第5号証 特許庁審判官宛FAX原稿(平成9年7月31日)
乙第6号証 審判請求理由補充書(平成7年10月2日付け)
乙第7号証 上申書(平成7年10月2日付け)

第3 当審の判断
1 検甲第1号証について
平成15年9月26日,愛知県宝飯郡一宮町江島地内において,検甲第1号証のビニールハウス2棟(以下「検証物」という。)を検証した結果,検証物は,下記の構成(a)?(e)を有するものと認めることができる。
(a) 複数の柱体に所要数の屋根骨を掛け渡すとともに,この屋根骨の上方に離れて位置する様に谷樋に端部を固定された屋根用アーチパイプに被覆シートを張設したビニールハウスである。
(b) 柱体の上端に谷樋を設置するとともに屋根骨における谷樋よりも上方に結露水用樋を設置してある。
(c) 被覆シートの裏面に発生した結露水を,結露水用樋に集め,ビニールホースを介してハウス外に排出するように構成されている。
(d) 結露水用樋の底部に設けた孔を結露水用樋下方からL鋼ジョイトの一端開口によって覆うとともに,この覆った状熊でL鋼ジョイントの上端開口縁部を止めネジで結露水用樋に固定している。
(e) L鋼ジョイントに一端を固定されたビニールホースの他端が谷樋に開口されている。

2 公然実施をされた考案
請求人は,検証物が本件出願前に上記構成(a)?(e)を有していたと主張し,被請求人は,これを争うので,検証物の建設時期,建設当初の検証物の構成について検討し,如何なる考案が本件出願前に公然実施をされたといえるかについて究明する。

2-1 検証物の建設時期
(1) 証人牧野啓(以下「証人」という。)は,検証物の建設時期に関し,検証物西棟(以下「西棟」という。)は平成4年の1月頃,検証物東棟(以下「東棟」という。)は西棟より1か月ぐらい後に完成した旨証言した。
また,証人は,検証物の建設資金に関し,自己資金がほぼ2割,近代化資金が8割であり,農協から振り込んだ旨証言した。
(2) 甲第3号証の1(見積書)には,平成3年7月17日に,請求人が証人に対し,「イシグロスチールハウス」の建設工事を,工事金額720万円,消費税21万6千円で見積もったことが記載されており,同号証に記載されたハウスの大きさに係る「間口6M×2連×2棟,奥行51M」との寸法,暖房機工事に係る「FOH400」との機種型番は,検証結果と一致する(検証調書の添付写真8?11,26)。
(3) 甲第3号証の2(得意先元帳)には,平成4年5月27日,イシグロスチールハウス1シキ,金額720万円,消費税21万6千円,農協へ振替と記載されている。
(4) 上記証言と検証結果及び甲号証の記載を総合すると,検証物は,証人の求めに応じ,甲第3号証の1の見積書の仕様に基づいて請求人が建設したものであり,東棟は西棟より約1か月遅れて完成したが,両棟は,遅くとも,平成4年5月27日までに完成し,証人に引き渡されたものと認められ,これに反する証拠はない。

2-2 建設当時の検証物の構成
(1) 上記1で認定した検証物の構成(a)?(e)のうち,構成(a),(b),(d)は,ビニールハウスの鉄骨構造に係るものであり,建設後,変更を加える余地がほとんどないものであるから,検証物は,建設当時から,構成(a),(b),(d)を有していたと認められる。この点は,被請求人も認めている(第1回口頭審理及び証拠調べ調書)。
(2) しかしながら,被請求人は,建設当時から検証物にビニールホースが付いていた,またはビニールホースの先端が谷樋に導かれていたこと,即ち,検証物が建設当時から上記構成(c),(e)を有していたことを争うので,これらの点について検討する。
(i) ビニールホースの存在について
(ア) 被請求人は,
請求人作成の見積書(甲第3号証の1)には,小さなネジ1本まで計上されているのに,ビニールホースは記載されていないこと,
請求人が作成した他のビニールハウスの見積書には,L鋼ジョイントのほかにビニールホースと明記されているものがあること,
を根拠として,検証物には建設当初ビニールホースは取り付けられていなかったと主張する。
(イ) 確かに,甲第3号証の1には,ビニールホースは記載されていない。
しかしながら,検証物において,L鋼ジョイントのみを設置し,これにビニールホースを取り付けなければ,結露水がL鋼ジョイントの開口からビニールハウス内に滴下することとなるところ,検証物は,結露がビニールハウス内に滴下しないように結露水用樋を設置し,結露を結露水用樋に導くものであるから,結露水を,わざわざ,ビニールハウス内に滴下させる構成を採用することは想定し難い。しかも,検証物の裏側では,L鋼ジョイントは,温風暖房機の上方に位置しており(検証調書の添付写真25,27),結露水がL鋼ジョイントの開口から滴下すれば,結露水が温風暖房機の上に滴下することなり,好ましくないことはきわめて容易に推測できるから,L鋼ジョイントのみを設置する構成を採用することは,技術常識からみても考え難い。
(ウ) そして,結露水をホースを介して排出することは,検証物の見積書(甲第3号証の1)が作成された平成3年7月17日より以前の平成2年4月10日に頒布された刊行物である甲第6号証に記載されており,また,本件実用新案登録明細書(甲第1号証)にも,【従来の技術】として,「従来におけるこの種の排出装置にあっては,結露水用樋内の結露水を集めるにあたって,かかる結露水用樋に連結用樋をつなげ,この連結用樋からゴムホース等によって雨水用樋に排出していた。」(甲第1号証2欄7?10行)と記載されていることからみて,結露水をビニールホースを介して排出することは,特別の事情がない限り,結露水排出装置を備えるビニールハウスにおいて,通常採用される構成であったと認められる。
このことは,検証物の建設時期以前(平成元年?平成3年)に施工された事例として被請求人が提示する【施工例の1】,【施工例の2】のいずれのビニールハウス(乙第1号証)においても,結露水をビニールホースを介して排出する構成が採用されていることからも裏付けられる。
(エ) してみると,ビニールホースを用いないとする特別の事情が認められない本件検証物には,建設当初から,結露水をビニールホースを介して排出する構成,即ち,L鋼ジョイントにビニールホースが取り付けられた構成が採用されていたと認めるのが合理的である。
なお,仮に,被請求人が主張するように,請求人が作成した他のビニールハウスの見積書に,ビニールホースが明記されているものの存在が立証されたとしても,見積もりにないものをサービスで付ける等のことも通常行われているから,見積書へのビニールホースの記載の有無によって上記認定が左右されるものではない。
(ii) ビニールホースがハウス外に出る配置について
(ア) 被請求人は,
西棟の谷樋下のトタンに穴が開いていること,
西棟に現在取り付けてあるビニールホースには,穴に差し込まれた際に出来たと思われる鋭利な傷がついていること,
検証物が存する近隣地区で請求人が建設したビニールハウス2棟では谷樋下のトタンに穴を開けてホースを差し込むという排水方法を建設当初から行っていたこと,
を根拠に,西棟のトタンに開いていた穴も,請求人がビニールホースを差すために開けたものであり,実際かつてはその穴にホースが差し込まれていたと主張する。
(イ) また,請求人は,
東棟については谷樋下のトタンに穴が開いていないが,これは,西棟においてホースを差し込んだものの,その不都合性に気づいたため,東棟においてはホース端末を谷樋と妻面ビニールの隙間にこじ入れたものであるとも主張する。
(ウ) 検討するに,西棟には,被請求人が主張するとおり,谷樋下のトタンに穴が開いているが,東棟のトタンには,穴が開いていないのであるから,東棟のビニールホースがトタンの穴に差し込まれていたということはあり得ない。
そして,ビニールハウスにおいて,発生した結露水をビニールハウス外に排出することは,検証物の見積書(甲第3号証の1)が作成された平成3年7月17日より以前の昭和61年8月18日に頒布された刊行物である甲第5号証にも記載されているように,結露水排水装置を有するビニールハウスにおける通常の構成である。
してみると,東棟のビニールホースは,被請求人も主張するように,谷樋とビニールシートとの間に配置されて,結露水をビニールハウス外に排出する構成であったと認めるのが合理的である。
したがって,西棟のビニールホースの配置がどのようなものであったかに拘わらず,検証物において,L鋼ジョイントに取り付けられたビニールホースは,谷樋とビニールシートとの間に配置されていたと認めることができる。
(エ) 被請求人は,西棟のトタンに開けられた穴を論拠に,ビニールホースがハウス外に出る構成について縷々主張するので,西棟のビニールホースの配置について検討するに,西棟のトタンに開けられた穴の位置は,被請求人が提示する【施工例の1】,【施工例の2】(乙第1号証の添付写真2-1?2-6,5-1?5-3)の各ビニールハウスのトタンに開けられた穴の位置とほぼ同じであると認められる。
そして,これら【施工例の1】,【施工例の2】のビニールハウスでは,トタンに開けられた穴にビニールホースを差し込むという配置が採用されていると認められる。
してみると,西棟において,トタンに開けられた穴は,ビニールホースを差し込むために開けられたものであると推認することもできる。
(オ) しかしながら,このことを以て,本件の出願前に,西棟のビニールホースがトタンに開けられた穴に差し込まれた配置のままであったと認めることは,東棟のトタンに穴が開けられておらず,東棟のビニールホースは,谷樋とビニールシートとの間に配置されていたと認められることからみて適当でない。
上記2-1(4)で認定したとおり,西棟と東棟は,完成時期に約1か月の差があるものの,両棟は,1つの見積書(甲第3号証の1)の仕様に基づいて建設されたのであるから,西棟と東棟で,ビニールホースの配置について異なる構成とする合理的理由もない。
してみると,東棟のビニールホースを設置した段階で,被請求人も主張するように,西棟において,ビニールホースをトタンの穴に差し込む構成の不都合性に気付き,西棟においても,ホースを谷樋とビニールシートとの間に配置する構成に変更したことは十分考えられる。
即ち,西棟において,当初は,乙第1号証の【施工例の1】,【施工例の2】の各ビニールハウスと同様に,ビニールホースをトタンに開けられた穴に差し込む配置であったが,東棟が完成し,検証物が請求人から証人へ引き渡された時には,西棟のビニールホースは,東棟と同様に,谷樋とビニールシートとの間に配置されていたと認めることができる。
被請求人は,現在,西棟に取り付けてあるビニールホースに鋭利な傷がついていると主張するが,上記認定を左右するものではない。
(iii) ビニールホースの端部と谷樋との関係について
(ア) 証人は,建設当初は,透明のビニールホースが設置されており,ホースの先は,谷樋に到達していたと証言し,また,現在,検証物に取り付けてあるビニールホースは,証人が取り替えたものであり,証人宅にあった適宜なものであると証言したが,これを直接裏付ける証拠はない。
(イ) 検討するに,上記(i)で認定したとおり,西棟と東棟のL鋼ジョイントには,ビニールホースが取り付けられており,上記2-1(4)で認定したとおり,西棟と東棟の完成時期に約1か月の差があるものの,両棟は,1つの見積書(甲第3号証の1)の仕様に基づいて建設されたのであるから,両棟のビニールホースには,同一の素材を使用するのが常識的である。
ところが,現在,検証物に取り付けられているビニールホースを見ると,西棟のビニールホースは,色はブルー,外形は17mm,内径は12.5mmであり,L鋼ジョイントに弾性的に填めた構成であるのに対し,東棟のビニールホースは,色はグリーン,外形は22.5mm,内径は15.5mmであり,L鋼ジョイントに外填めした外周を針金で締め付け固定した構成であり(検証結果,写真18,21,7,29,30,33),西棟と東棟のビニールホースは,色,外径,内径,L鋼ジョイントとの接続部の構成のいずれにおいても相違している。
(ウ) してみると,現在,検証物に取り付けてあるビニールホースが建設当初のものであるとすることは,きわめて不合理であり,西棟のビニールホース若しくは東棟のビニールホースのいずれか,又は,両棟のビニールホースが取り替えられたと認めるのが合理的である。
(エ) そして,一般に,既設の部品を補修のために取り替える場合,特別の事情がない限り,既設の部品の設置状態のとおり配設するのが通常であり,本件検証物において,建設当初のビニールホースを取り替える際に,建設当初と異なる配置とする特別の事情も認められないから,建設当初,検証物に取り付けられていたビニールホースは,現在,検証物に取り付けられているビニールホースと同様な設置状態,即ち,ビニールホースの端部が谷樋に開口した状態であったと認めるのが合理的である。
このことは,甲第5号証に,上向溝形材3に流入した結露水を,合掌材8の上面に設けた水滴流下溝15を介して,支柱11の上端に配設した結露水集合排出溝13に排出すること,即ち,結露水用樋に流入した結露水を支柱の上端に配設した樋に排出することが記載され,また,上記(i)で指摘したように,本件実用新案登録明細書(甲第1号証)に,「結露水用樋内の結露水を集めるにあたって,かかる結露水用樋に連結用樋をつなげ,この連結用樋からゴムホース等によって雨水用樋に排出」することが【従来の技術】であると記載されていることとも整合する。
(iv) 証言の信用性について
(ア) 被請求人は,
甲第3号証の1の見積書に,「ビニール張りは含まれていません」と記載され,通常10万円前後の費用がかかる被覆シートの取り付け費が計上されていないのに,証人が「被覆シート(ビニールフィルム)は請求人に張ってもらった。ホースは当初から付いていた。」と証言したこと,
西棟のトタンに開けられた穴は,西棟の出入口横に位置し,成人男性のほぼ目の高さ付近にあり,毎日のようにビニールハウスに入っている証人が10数年もの間これに気付かないことは極めて不自然であるのに,証人が「検証当日まで知らなかった(気が付かなかった)。」と証言したこと,
証人は,前記トタンの穴に気付かず,L鋼ジョイントの役割さえ知らなかったのに,「検証物を引き渡された際,L鋼ジョイントが付いていたことは知っていた。L鋼ジョイントには透明のビニールホースが付いていた。」との証言したこと,
を根拠に,証人の証言は,信用性に乏しいと主張する。
(イ) 検討するに,「被覆シートは請求人に張ってもらった」,「検証当日まで,西棟のトタンの穴に気付かなかった」等の証言内容を裏付ける証拠はなく,証言の一部に不自然さが感じられないわけではない。
しかしながら,「ホースは当初からついていた」,「検証物を引き渡された際,L鋼ジョイントが付いていた」等,検証物の主要な構成に係る証言は,上記のとおり,検証結果や書証の裏付けがあり,従来技術や技術常識とも整合するものである。
したがって,検証物の主要な構成に係る証言は,全体として,信用できるものであり,被請求人が指摘することをもって証言の信用性を否定することはできない。
(3) 以上,上記(1)及び(2)(i)?(iv)の検討結果を総合すると,建設当時の検証物は,上記1で認定した構成(a)?(e)の全てを有していたと認めるのが相当である。

2-3 公然実施をされた考案
(1) 上記2-1で認定したとおり,検証物は,本件出願前の遅くとも平成4年5月27日までに建設され,請求人から証人へ譲渡されたものであるから,本件出願前に公然実施をされたものであり,上記2-2で認定したとおり,次の構成を有するものである。
(a) 複数の柱体に所要数の屋根骨を掛け渡すとともに,この屋根骨の上方に離れて位置する様に谷樋に端部を固定された屋根用アーチパイプに被覆シートを張設したビニールハウスである。
(b) 柱体の上端に谷樋を設置するとともに屋根骨における谷樋よりも上方に結露水用樋を設置してある。
(c) 被覆シートの裏面に発生した結露水を,結露水用樋に集め,ビニールホースを介してハウス外に排出するように構成されている。
(d) 結露水用樋の底部に設けた孔を結露水用樋下方からL鋼ジョイトの一端開口によって覆うとともに,この覆った状熊でL鋼ジョイントの上端開口縁部を止めネジで結露水用樋に固定している。
(e) L鋼ジョイントに一端を固定されたビニールホースの他端が谷樋に開口されている。
(2) してみると,下記の考案が本件出願前に公然実施をされたと認めることができる(以下,この考案を「公然実施考案」という。)。
「複数の柱体に所要数の屋根骨を掛け渡すとともに,この屋根骨の上方に離れて位置する様に谷樋に端部を固定された屋根用アーチパイプに被覆シートを張設したビニールハウスにおいて,
柱体の上端に谷樋を設置するとともに屋根骨における谷樋よりも上方に結露水用樋を設置し,
被覆シートの裏面に発生した結露水を,結露水用樋に集め,ビニールホースを介してハウス外に排出する様に構成し,
結露水用樋の底部に設けた穴を結露水用樋下方からL鋼ジョイントの一端開口部によって覆うとともに,この覆った状態でL鋼ジョイントの上端開口縁部を止めネジで結露水用樋に固定し,
L鋼ジョイントに一端を固定されたビニールホースの他端が谷樋に開口されたハウス用結露水排出装置。」

3 対比・判断
(1) 本件考案と公然実施考案を対比すると,公然実施考案の「谷樋」,「L鋼ジョイントとビニールホース」が本件考案の「排出用樋」,「管部材」にそれぞれ対応するから,両者は,
「複数の柱体に所要数の屋根骨を掛け渡すとともに被覆シートを張設し,且つ,前記柱体の上端に排出用樋を設置するとともに前記屋根骨における前記排出用樋よりも上方に結露水用樋を設置し,この結露水用樋の底部に孔を形成するとともにこの孔に管部材の上端をつなげ,前記結露水用樋によって前記被覆シートの裏面に発生した結露水を集めるとともにこの管部材によって前記結露水用樋に溜まった結露水を排水するハウス用結露水排出装置において,
前記結露水用樋の孔を前記結露水用樋の下方から前記管部材の一端開口によって覆うとともにこの覆った状熊で前記管部材の上端開口縁部を前記結露水用樋に固定し,且つ,前記管部材の他端を前記排出用樋に開口させたことを特徴とするハウス用結露水排出装置。」
の点で一致し,下記の点で相違する。
〔相違点〕本件考案は,「屋根骨に被覆シートが張設」されるのに対し,公然実施考案では,「屋根骨の上方に離れて位置する様に谷樋に端部を固定された屋根用アーチパイプに被覆シートを張設」している点。
(2) 上記相違点について検討するに,結露水用排出樋を有するビニールハウスにおいて,屋根骨にビニールを張設することは,甲第6号証に記載されており,公然実施考案において,「屋根骨の上方に離れて位置する様に谷樋に端部を固定された屋根用アーチパイプに被覆シートを張設」する構成に代えて,「屋根骨に被覆シートが張設」される構成を採用することは,当業者がきわめて容易になし得ることである。
(3) 本件考案の奏する作用効果についてみても,公然実施考案及び上記甲第6号証に記載された事項から,当業者が予測し得る程度のものである。
(4) したがって,本件考案は,公然実施考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

4 本件考案に関する被請求人の主張について
4-1 本件考案の技術的特徴について
(1) 被請求人は,本件考案に係る「ハウス用結露水排出装置」は,「結露水用樋に前記管部材(ビニールホース)の一端を繋ぎ,その他端を前記排出用樋に開口させた」ところに技術的構成の特徴を有し,この特徴に基づいて「管部材(ビニールホース)で集めた結露水をハウス屋外に排出することができる」ところに技術的効果の特徴を有するものである旨主張する。
(2) しかしながら,被請求人が本件考案の技術的特徴と主張する構成は,上記2でも指摘したように,本件実用新案登録明細書(甲第1号証)には,【従来の技術】として記載されており,本件考案が考案される以前からのものである。
そして,本件実用新案登録明細書(甲第1号証)には,【考案が解決しようとする課題】として,「しかしながら,かかる従来ビニールハウスの構造にあっては,ハウス設置後に,前記連結用樋を設置する場合には,前記結露水用樋を所定間隔切り取り,この切り取った空間部に前記連結用樋を介在させなければならないため,即ち,作業にあたって,前記結露水用樋を一旦切断し,その後連結するため,当該結露水用樋に固定されている被覆シートを部分的にせよ取り外さねばならず,この結果,設置工事に手間がかかるという不都合を有した。」と記載され,【考案の効果】として,「ハウス設置後に結露水排出設備を設置する場合に,当該結露水用樋はその儘被覆シートを固定した状態で,即ち,入来(「従来」の誤記と認める。)のように結露水用樋を切断しその後連結することなく,結露水の排水設備を設置することができるとともに管部材で集めた結露水をハウスの屋外に排出することができるものである。」と記載されている。
してみると,本件考案の技術的特徴は,被請求人が主張するような【従来の技術】に係る構成の点にあるのではなく,【従来の技術】の連結用樋を用いる構成に代えて,結露水用樋に形成した穴を管部材の一端開口により覆う構成を採用した点にあるというべきである。
(3) なお,この「結露水用樋に形成した穴を管部材の一端開口により覆う」という本件考案の技術的特徴の観点から検討すると,本件考案のホースを雨水用樋に排出する部分の構成は,従来技術をそのまま採用しているのであるから,検証物において,ビニールホースの端部が谷樋に開口していたか否かに関わりなく,結露水用樋に形成した穴をL鋼ジョイントで覆い,ビニールホースで排水する構成が採用されていたという事実だけからでも,本件考案はきわめて容易に推考できたということができる。
即ち,ビニールホースは,L鋼ジョイントから結露水を排水ためのものであり,排水である以上,ビニールハウスの構造,樋の位置等を勘案して,適宜な部分に排水するのは当然のことであるから,検証物のL鋼ジョイントと谷樋の位置関係からみて,ビニールホースの端部を谷樋に開口させることは,当業者であれば,きわめて容易になし得ることであるということができる。
(4) いずれにしても,被請求人の主張は,採用できない。

4-2 本件考案が登録された経緯について
(1) 被請求人は,本件考案は,甲第4号証が引用する文献とは技術構成及び効果において顕著に異なり,引用文献に基づいてきわめて容易に考案できるものではないため,拒絶査定は取り消され,実用新案登録されたから,引用文献記載の考案が公開ないし公告されていたことをもって,本件考案に進歩性が欠如しているということはできない旨主張する。
(2) しかしながら,本件審判請求において,請求人が主張する無効理由は,本件考案は,公然実施をされた考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたというものであり,甲第4号証で引用された文献に記載された考案と対比して,本件考案の容易想到性を主張するものではない。
(3) 被請求人の主張は,前提において誤りであり,採用できない。

4-3 本件考案と請求人の実施について
(1) 被請求人は,請求人が請け負ったビニールハウスには,トタンの穴を利用している物件が現在も存在するばかりか,妻面から外に垂れ流している物件もあり,本件考案が極めて容易に考案できなかったからこそ,請求人は本件考案を実施していないのであるし,被請求人による実用新案登録も認められたのである旨主張する。
(2) しかしながら,乙第1号証で被請求人が指摘するビニールハウスが存在するとしても,これらのビニールハウスは,検証物の建設以前のものであり,上記2-2で認定した検証物の構成を否定する証拠にはならない。
また,請求人が本件考案に類似する検証物を,本件出願前に実施していることは,上記2のとおりである。
そして,本件実用新案登録が認められたことと,本件審判請求が成り立つか否かは,上記4-2と同様に無関係である。
(3) 被請求人の主張は,いずれも採用できない。

第4 むすび
以上のとおり,本件考案に係る実用新案登録は,実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり,平成5年改正前の実用新案法第37条第1項第1号に該当し,無効とすべきものである。
審判費用の負担については,実用新案法第41条の規定により準用され,特許法第169条第2項の規定によりさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2003-12-12 
結審通知日 2003-12-17 
審決日 2004-01-07 
出願番号 実願平4-68580 
審決分類 U 1 112・ 121- Z (A01G)
最終処分 成立    
前審関与審査官 郡山 順  
特許庁審判長 小林 信雄
特許庁審判官 徳永 民雄
辻本 泰隆
登録日 1998-08-28 
登録番号 実用新案登録第2584336号(U2584336) 
考案の名称 ハウス用結露水排出装置  
代理人 野末 祐司  
代理人 森 泰比古  
代理人 杉田 智樹  
代理人 大石 康智  

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