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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) F04C
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) F04C
管理番号 1102932
審判番号 無効2003-35461  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2004-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-11-09 
確定日 2004-08-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第2554812号実用新案「ベーン型気体圧縮機」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 登録第2554812号の実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1.手続の経緯
平成 3年 6月 7日 実用新案登録出願
平成 9年 8月 1日 実用新案権設定登録
平成10年 5月18日 異議申立
平成10年10月29日 訂正請求書
平成11年 3月 8日 手続補正書(訂正請求書の補正)
平成11年 4月28日 異議決定(訂正認容、登録維持)
平成15年11月 9日 無効審判請求書
平成16年 3月19日 答弁書
平成16年 5月28日 請求人口頭審理陳述要領書
平成16年 5月28日 被請求人口頭審理陳述要領書
平成16年 5月28日 口頭審理

2.本件考案
本件実用新案登録第2554812号の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、平成11年3月8日付け手続補正書によって補正された訂正明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「内周略楕円筒状のシリンダと、このシリンダの両側に取り付けられたフロントおよびリアサイドブロックと、これらのサイドブロックと上記シリンダによって形成されるシリンダ室内に回転自在に収納されたロータと、このロータに回転力を伝えるロータ軸と、このロータの半径方向に設けた複数のベーン溝に進退自在に挿入してある複数のベーンとを備え、上記フロントおよびリアサイドブロックにはロータ軸を挿通し得る孔が設けてあり、これが滑り軸受として前記ロータを回転自在に支持する一方、上記シリンダ、フロントサイドブロック、リアサイドブロック、ロータおよびベーンはアルミニウム-シリコン合金により形成され、ロータ軸は鉄系金属により形成され、ベーンには硬質粒子、または自己潤滑性流子を含有するニッケルを主体としたメッキが施されたベーン型気体圧縮機において、
気体として冷媒HFC-134aを使用すると共に、
上記シリンダの内壁面、フロントおよびリアサイドブロックの軸受面、あるいはロータのベーン溝壁面のうち少なくとも1つ以上にスズ、あるいは鉛、インジウム等の軟質金属のメッキ層を形成し、上記ベーンの摺動や上記ロータ軸の回転により、上記メッキ層を上記シリンダの内壁面、上記フロントおよび上記リアサイドブロックの軸受面、ならびに上記ロータのベーン溝壁面の各加工表面における初晶シリコン粒脱落によって形成されたくぼみ部分や加工目の深い所に強制的に押し込め、なじみ後に上記くぼみ部分または上記加工目の深い所に上記メッキ層を形成した軟質金属を残留させたことを特徴とするベーン型気体圧縮機。」

3.請求人の主張
これに対して、請求人株式会社豊田自動織機は、本件登録第2554812号実用新案の登録を無効とする、との審決を求め、その理由として、概略次のとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証?甲第10号証を提出している。
ア.実用新案登録請求の範囲の記載不備について
(a)上記実用新案登録請求の範囲の記載において、「上記シリンダの内壁面、フロントおよびリアサイドブロックの軸受面、あるいはロータのベーン溝壁面のうちの少なくとも1つ以上にスズ、あるいは鉛、インジウム等の軟質金属のメッキ層を形成し、上記ベーンの摺動や上記ロータ軸の回転により、上記メッキ層を上記シリンダの内壁面、上記フロントおよび上記リアサイドブロックの軸受面、ならびに上記ロータの溝壁面の各加工表面における初晶シリコン粒脱落によって形成されたくぼみ部分や加工目の深い所に強制的に押し込め、なじみ後に上記くぼみ部分または上記加工目の深い所に上記メッキ層を形成した軟質金属を残留させた」を「記載A」とすると、記載Aは経時的な行為を記載したものであり、物品の形状、構造または組合せに係る考案の構成に欠くことができない事項を記載したものではない。
(b)本件実用新案登録請求の範囲の記載から実用新案登録を受けようとする考案を明確に把握することはできない。
(c)したがって、 本件実用新案登録に係る出願の実用新案登録請求の範囲の記載は、実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでないから、実用新案法第5条第5項第2号の規定により登録を受けることができないものである。よって、本件実用新案登録は同法第37条第1項第3号(平成5年法律26号による改正前)により、無効とすべきである。
イ.本件考案の進歩性について
本件考案は、甲第1号証乃至甲第9号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。よって、本件実用新案登録は、同法第37条第1項第1号(平成5年法律第26号による改正前)により無効とすべきである。

4.被請求人の主張
一方、被請求人カルソニックコンプレッサー製造株式会社、カルソニックカンセイ株式会社は、本件無効審判の請求は成り立たない、との審決を求め、その理由として、概略次のとおり主張している。
ア.実用新案登録請求の範囲の記載不備について
(a)本件考案は物品の形状、構造または組み合わせに係る考案である。
本件考案の「ベーンの摺動やロータ軸の回転により、メッキ層をシリンダの内壁面、フロントおよびリアサイドブロックの軸受面、ならびに上記ロータのベーン溝壁面の各加工表面における初晶シリコン粒脱落によって形成されたくぼみ部分や加工目の深い所に強制的に押し込め、なじみ後に上記くぼみ部分または上記加工目の深い所に上記メッキ層を形成した軟質金属を残留させた」の記載は、その結果得られる「シリンダの内壁面、フロントおよびリアサイドブロックの軸受面、ならびに上記ロータのベーン溝壁面の各加工表面に初晶シリコン粒脱落によって形成されたくぼみ部分や加工目、および、上記くぼみ部分や加工目の深い所に(強制的に押し込め、なじみ後に)残留させた(メッキ層を形成した)軟質金属」という特定の物品の形状、構造を容易かつ明確に把握させるものである。
(b)審判請求人の「本件考案は明確に把握できない」という主張は、何の根拠もない主張である。
イ.本件考案の進歩性について
本件審判請求人の主張は、甲第1号証?甲第9号証、特に甲第6号証?甲第9号証の各文献の全体の課題、構成、作用効果を把握することなく、部分部分を断片的に取り上げ、これらを本件考案の部分と対応させ、無理にこじつけた理由で、本件考案の部分が甲号証の組み合わせから当業者が容易に考え付く、だから本件考案は、甲第1号証?甲第9号証からきわめて容易に考案できた、というものである。部分的、断片的対応による個々の主張に対しては、それらの主張がことごとく当を得ていないことは、明らかであるが、なお、仮に、これらの個々の主張が個別に妥当なものである場合であっても、甲第1号証?甲第9号証のいずれか、または、これらの組み合わせから、本件考案の全体構成、作用効果を示唆するものが読み取れないのであるから、甲第1号証?甲第9号証の故に本件考案に進歩性がないという議論は成り立ち難い。

5.甲第1号証?甲第8号証
甲第1号証(特開昭64-73185号公報)には、「ベーン型圧縮機」に関して、次の事項が記載されている。
ア.「(問題点を解決するための手段)
本発明はベーン型圧縮機の摺動面を有する部品をアルミニウム合金化するに当り発生する問題点を解消するため次のような構成とした。
先ず、摺動上の問題を解決するために次のような材料と表面処理の組合せを主要部品について行なった。
シリンダブロックの材質はADC-12、AC8AやAC8B等のなかから適宜採用することができる。シリンダブロックの表面処理は、ベーンの頂面と摺接する内周面に鉄又はニッケルを主体とするめっき層を設ける。
ローターは、サイドプレート及びベーン側面との摺動特性と、軸との結合強度、及びベーンを収容する溝底の強度並びに製造面(熱間押出性、セレーション部の結合性)の要求特性を満足するためSiを多く含有するアルミニウム合金とした。特に好ましくは、Si:10?18重量%、Cu:2?8重量%、Mg:0.1?2.0重量%を必須の成分とし、残部が実質的にAlによりなる化学組成を有し且つ基地中のSi粒子の大きさが平均粒径で3μm以上である組織を有しT6もしくはT7処理をしシリンダブロック及びベーンとの熱膨張係数の差が3×10^(-6)/℃以下のものを使用する。
サイドプレートはアルミニウム合金からなり、且つ少なくともローターとベーンとが摺動接触する面に鉄又はニッケルを主体とするめっき層を2?100μm設けたものとする。
ベーンは、本体をシリンダブロック及びローターと熱膨張係数の差が3×10^(-6)/℃以下のアルミニウム合金とし、更にローターの溝部壁面と摺動する側面に鉄又はニッケルを主体とするめっき層を2?100μm設けたものとする。
次に、アルミニウム合金製ローターとシャフトの結合構造上の問題を解決するため、次の構成とした。前記組成と熱膨張係数を有するアルミニウム合金製ローターは、内周面に3段以上の順次内径の異なるはめ合い部が設けられていて、前記シャフトが鋼製であり、はめ合い部の両端部側では圧入によるしまりばめの状態で結合され、残るはめ合い部では鋼製シャフトの外周面にセレーションが設けられており、シャフトの外周面のセレーションの凹部に前記ローターが喰込み且つしまりばめの状態で結合されている構造とした。」(第3頁右下欄第14行?第4頁右上欄第17行)
イ.「(発明の実施例)
実施例-1
先ず、ベーン型圧縮機の構造について第1図、第2図を用いて説明する。図中にて、楕円形の内周面を有するシリンダブロック1の前後開部一対のサイドプレート2a、2bが固定されて圧縮機本体が構成されている。
この圧縮機本体3内には、円筒状のローター4が配置されており、このローター4の鋼製シャフト5が結合されている。この鋼製シャフト5は前記のサイドプレート2a、2bの軸受部6a、6bに支持され、且つ端部から駆動力を受け入れるようになっている。前記ローター4には放射方向に向けて5箇所にベーンを収納するベーン溝7が設けられ、それぞれのベーン溝にはベーン8が出没自在に挿入されている。」(第7頁左上欄第5?20行)
ウ.「めっき層としては鉄又はニッケルを主体とする理由は、ベーン材質の高Siアルミニウム合金と組合せての摺動特性が、硬質クロムめっきのような他の組合せの場合よりも優れていることによる。」(第4頁左下欄第16?20行)
「第3表;ベーン材として、Si含有量17.0%」(第8頁右上欄)
エ.「ローターに使用する合金は以上の要求と摺動上の要求からSi:10?18重量%、Cu:2?8重量%、Mg:0.1?2.0重量%を必須の成分とし、残部が実質的にAlによりなる化学組成を有し、且つ基地中のSi粒子の大きさが3μm以上である組織を有し」(第5頁右上欄第13?17行)
「第2表;ローター材として、Si含有量11.6%」(第8頁右上欄)
オ.「サイドプレートはAC8A(注:Si含有量11?13%)やADC12(注:Si含有量9.6?12%)のような低廉な鋳造合金で構成し、」(第6頁左上欄第3?4行、注は当合議体により追記)
カ.「第1表;シリンダブロック材(AC8B)として、Si含有量12.0%」(第7頁右下欄)
キ.「又ローターは熱間押出後、機械加工して製造されるが、」(第5頁左下欄第6?7行)
ク.「シリンダブロックとして、T6処理を行なった金型鋳造アルミニウム合金材(AC8B)を用意し、機械加工して所定の形状とした。」(第7頁左下欄第18?20行)
ケ.「サイドプレートはAC8A材でT6処理後所定寸法に機械加工した後、」(第8頁左下欄7?8行)
コ.「又ニッケルや鉄をベースとし微細なセラミックス粉末(Si_(3)N_(4),SIC等)をベース中に分散させためっき層でも同等の結果が得られる。」(第6頁左上欄第12?14行)
上記記載事項ア?カによると、甲第1号証には、
「内周略楕円筒状のシリンダブロック1と、このシリンダブロック1の両側に取り付けられたサイドプレート2a,2bと、これらのサイドプレート2a,2bと上記シリンダブロック1によって形成されるシリンダ室内に回転自在に収納されたローター4と、このロータ-4に回転力を伝えるシャフト5と、このローター4の半径方向に設けた複数のベーン溝7に進退自在に挿入してある複数のベーン8とを備え、上記サイドプレート2a,2bにはシャフト5を挿通し得る孔が設けてあり、これが軸受部6a,6bとして前記ローター4を回転自在に支持する一方、上記シリンダブロック1、サイドプレート2a,2b、ローター4およびベーン8はアルミニウム-シリコン合金により形成され、シャフト5は鋼により形成され、ベーン8にはローター4の溝部壁面と摺動する側面に鉄又はニッケルを主体としたメッキが施されたベーン型気体圧縮機において、
上記シリンダブロック1の内壁面、およびサイドプレート2a,2bのローター4,ベーン8と摺動する内側面に鉄又はニッケルを主体とするメッキ層を形成したベーン型気体圧縮機。」
の考案が記載されていると認められる。

甲第2号証(特開平2-130272号公報)には、「斜板式圧縮機」に関して、次の事項が記載されている。
サ.「[発明が解決しようとする課題]
ところで、冷媒ガスが圧縮機外へ洩れたりした場合には、冷媒ガス中に含まれる油の絶対量が減少する。そのような条件下で斜板式圧縮機を駆動すると潤滑性能が低下し、その結果摩擦発熱による高温化のため最悪の場合はシューと斜板との間で焼付きが生じるという問題がある。また液化した冷媒ガスを圧縮したりするような場合にも潤滑性能が低下し、同様の問題が生じる。本発明は、このような過酷な条件下で使用した場合にも焼付きを防止することを課題とするものである。
[課題を解決するための手段]
発明の斜板式圧縮機は、軸と平行に設けられた複数個のシリンダボアをもつシリンダブロックと、シリンダブロック内に回転自在に保持された回転軸と、回転軸に固定されたシリンダブロック内で回転する斜板と、シリンダボア内に摺動自在に配置されたピストンと、ピストンと斜板との間に摺動自在に介在し斜板の回転によりピストンを往復運動させるシューと、で構成される斜板式圧縮機において、
斜板はアルミニウム又はアルミニウム合金を母材とし斜板の少なくともシューと摺接する表面には銅、ニッケル、亜鉛、鉛、インジウムの中から選ばれる少なくとも一種の金属と錫とを含む表面被覆層をもつことを特徴とする。
・・(略)・・。
本発明において、斜板の形状は従来と同様であり、アルミニウム又はアルミニウム合金を母材としている。アルミニウム合金としては、例えばAl-高Si系合金、Al-Si-Mg系合金、Al-Si-Cu-Mg系合金、又はSiを含まないAl合金を使用できる。
この母材材料としては硬質粗大粒子をマトリックス中に含むものを用いるのが望ましい。ここで、硬質粗大粒子とは、硬度がHv300以上、より好ましくはHv600以上で、平均粒径が20?100μmのものをいい、例えば初晶シリコンがある。このような母材材料として代表的なものにアルジル合金がある。アルジル合金はSi含有率が13?30重量%程度と共晶組成以上のシリコン含有量をもち、マトリックス中に初晶シリコンを有する。アルジル合金は優れた摺動特性を有し、厳しい摺動条件で使用される斜板の母材として特に適している。
・・(略)・・。
この表面被覆層は、銅、ニッケル、亜鉛、鉛、インジウムの中から選ばれる少なくとも一種の金属と錫とを含んでいる。錫のみから表面被覆層形成した場合には摩擦係数は低下するが、錫の特性から比較的軟質となり摩耗しやすい。」(第2頁左上欄第6行?同頁右下欄第11行)
シ.「(実施例1)
・・(略)・・。
本実施例の斜板式圧縮機に用いられた斜板3は、第1図に要部断面図を示すように、シリコンを17重量%含有したアルジル合金を母材とする斜板本体30と、斜板本体30の全表面に形成された表面被覆層31とにより構成されている。斜板本体30には初晶シリコン30aが散在している。この表面被覆層31は錫と亜鉛の共析メッキ層である。
・・(略)・・。
(実施例4)
本実施例は斜板3の表面被覆層31の構成が異なること以外は実施例1と同様である。すなわち錫酸カリウムを6重量%、硫酸インジウムを0.005重量%含有する水溶液を用い、実施例1と同様にして斜板本体30表面に錫とインジウムの共析メッキ層からなる表面被覆層31を形成した。・・(略)・・。
(実施例5)
本実施例は斜板3の表面被覆層31の構成が異なること以外は実施例1と同様である。すなわち錫酸カリウムを6重量%、硫酸鉛を0.007重量%含有する水溶液を用い、実施例1と同様にして斜板本体30表面に錫と鉛の共析メッキ層からなる表面被覆層31を形成した。・・(略)・・。
(比較例)
本比較例は斜板3の表面被覆層31の構成が異なること以外は実施例1と同様である。すなわち錫酸カリウムを6重量%含有する水溶液を用い、実施例1と同様にして斜板本体30表面に錫単独のメッキ層からなる表面被覆層31を形成した。・・(略)・・。
(従来例)
表面被覆層をもたないこと以外は実施例1と同様の斜板を用いた。」(第3頁右上欄第15行?第4頁右上欄第14行)
ス.「(試験例)
上記した実施例1?実施例6、比較例および従来例に係る斜板の摩擦特性を評価した。相手材としてはSUJ2鋼製シューを選び、摩擦摩耗試験装置を用いて、乾燥状態で荷重10kg回転数1000rpmの条件で摩擦係数を測定した。測定は4回行ない、結果を第2図に示す。
第2図より表面被覆層31をもつ実施例の斜板は、従来例の斜板に比較して摩擦係数が低下していることが明らかである。・・(略)・・。なお、比較例の斜板も低い摩擦係数を示している。」(第4頁右上欄第15行?同頁左下欄第7行)
セ.「しかし比較例の斜板は表面被覆層の硬度が低く、実施例の斜板に比べて早期に摩耗することがわかっている。」(第4頁左下欄第7?9行)
ソ.「表面被覆層にはさらにフッ素樹脂粉末、二硫化モリブデン粉末、カーボン粉末、窒化ホウ素粉末などの固体潤滑剤を共存させることが好ましい。このようにすれば摩擦抵抗を一層ちいさくすることができる。」(第3頁左上欄第7?11行)

甲第3号証(化学工業 VOL.41 NO.9 1990年9月号「フロン代替物開発の展望」)には、次の事項が記載されている。
タ.「カーエアコン等の冷媒CFC12の代替としてHCFC22も考えられるが,コンプレッサーの吐出圧力・吐出温度などの問題により,HFC134aが最も有力な候補となっているものの,HFC134aをその代替冷媒として使用するに際しての問題点がすべて解決されたわけではない。最も大きな問題は,その構造中に塩素原子を含んでいないことから起因する潤滑油としの相溶性の問題である。従来のハイドロカーボン系潤滑油では,HCFC134aとの相溶性が十分でなく,HFC134aの極性が大きいことから,同じ極性の大きいグリコール油(PAG油)を代替の潤滑油として,開発,評価が進められている。が,潤滑性,水分混入時の安定性,電気絶縁性など解決すべき問題も多い。」(第15頁右欄第14?27行)

甲第4号証(日本潤滑学会第34期全国大会(富山)予稿集(1989)「フロン雰囲気における摩擦摩耗特性 D・9」)には、次の事項が記載されている。
ナ.「成層圏におけるオゾン層破壊の問題から,CCl_(2)F_(2)のような全てハロゲンで置換されたフロンの使用が規制されることになった。現在カーエアコン,冷蔵庫の冷媒として,この規制対象となるフロン12(CCl_(2)F_(2))が用いられており,この代替品として例えば分子中にClを含まないR134a(CF_(3)CH_(2)F)が有望視されている。ところで従来のフロンの場合,分子中に存在するClが極圧剤として働き,摺動部の焼付きや摩耗防止に役立っていた。これに対してClを含まないフロンでは,この効果が期待出来ず,潤滑上不利になることが予想される。そこで本報では,この点を明確にするために各種フロン雰囲気における摩擦摩耗特性を検討した。」(第185頁 1.緒言)
ニ.「3.1 各種フロン気体中における摩擦特性
各フロンの圧力4kgf/cm^(2)中における鉄系試験片同志の摩擦特性を図2,3に示した。分子中にClを含まないR134a及びClの少ないフロンであるR142b気体中では,短時間に摩擦を増大し,焼付きに到っている。・・(略)・・。
次に浸硫窒化処理したFC材と無処理FC材との摩擦特性を行ない,その結果を図5に示した。この表面処理によりR134a気体中でも焼き付かず,大幅な摩擦特性の改善効果が認められ,Clを含まないフロン雰囲気での摩擦では,表面処理が有効であることが分かった。
図6にはSi含有Al材とFC材を組合せた摩擦特性を示した。摩擦係数は大きく変動しているが,Si含有Alのせん断強度が鉄系材料に比較して低いことによると思われるが,R134a気体中でもいわゆる焼付きは認められなかった。」(第186頁 3.結果と考察)
ヌ.「フロン雰囲気における摩擦摩耗特性を検討し、以下の知見を得た。
(1)フロン気体中の摩擦は、フロンの種類によって大きく異なり、分子中にClを有するフロンの場合,Clに基ずくと考えられるある程度の潤滑性が認められる。一方分子中にClを持たないフロンは,活性が乏しく激しい摩耗を生じる。この場合には自己潤滑性の有る摺動材が必要になる。
(2)フロン液中に僅かな油が加わると摩擦摩耗特性は著しく改善される。特に分子中にClを持たないフロンの摩擦では,油の共存が重要であり,摩擦面の潤滑処理あるいは油切れを防止する必要がある。」(第188頁 4.結言)

甲第5号証(社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集901 1990-5「032 HFC134a雰囲気における摩擦摩耗現象」)には、次の事項が記載されている。
ハ.「1987年9月にモントリオール議定書が採択されて以来、カーエアコン用冷却媒体のCFC12を含む5種類のクロロフルオロカーボン(CFC)が特定フロンとして世界的に消費または生産が規制されることとなった。このCFC12に対する代替品としてハイドロフルオロカーボンHFC134aが本命視されている。しかしHFC134aはその化学構造上、従来冷媒CFC12が持つ摺動面への塩化物生成の効果(図1)がなくなり、エアコンサイクル中のコンプレッサーの耐久性に大きな影響を与えることが考えられる。そこで、この点を明確にするためにHFC134a雰囲気の下で単体摩擦実験を試み、その摩擦摩耗特性をCFC12のものとの比較により検討したので報告する。」(第141頁 1.はじめに)
ヒ.「HFC134a雰囲気下での摩擦摩耗特性を単体摩擦試験より検討した結果、次のことが明らかになった。
(1)HFC134a雰囲気下では、従来のCFC12雰囲気に比べ材料の摩耗が大きい。
(2)HFC134a雰囲気下では大きな凝着摩耗形態を示す。これは、HFC134aの不活性な性質によるものと思われる。」(第144頁 4.まとめ)

甲第6号証(特開昭61-153286号公報)には、「平軸受類およびその製造方法」に関して、次の事項が記載されている。
マ.「本発明によれば、金属裏張り(metal backing)、アルミニウムをベースとした軸受合金層およびニッケル中間層なしの犠牲的なすずのみの被覆層から成る平軸受、すなわち、その軸受合金は、1?11重量%のシリコン、8?35重量%のすずおよび0.2?3重量%の銅から成り、残部は、アルミニウム(およびアルミニウムに附随する不純物)であり、そのすず被覆の厚みは、1?30μmである平軸受を提供する。
犠牲的なすず層は、初期の稼動、例えば、数時間後、擦り切れて、下方の軸受材をむき出しにするため、ニッケル中間層の欠如が最も重要である。
好ましくは、すず被覆は、硫酸すず溶液中で電気メッキにより与えられる光沢のない沈殿物である。しかしながら、さらに好ましくは、この方法は、合金層により堅固に結合するすず層を形成しやすいために、すずは、すず酸ナトリウム溶液中に浸漬することにより沈着する。すず層は犠牲的であるが、軸受が稼働時(runnig-in)用に組立てられるまで、その位置に残るほど十分に強固に取り付けなければならない。」(第2頁左下欄第13行?同頁右下欄第13行)

甲第7号証(特開昭59-221479号公報)には、「斜板式コンプレッサ」に関して、次の事項が記載されている。
ヤ.「この斜板式コンプレッサにおいて、斜板、シュー等はアルミニウムやアルミニウム合金が使用されている。例えば、摺動条件のきびしい斜板には、シリコンを17?25%と共晶組成以上含有させたアルミニウム-高シリコン合金が使用されている。シリコン含有率を17?25%と高くした場合には、シリコンを共晶組成以上含有することから、硬質粗大粒子である初晶シリコンが母材の内部にも生じており、表面に生じた硬質の初晶シリコンによって耐摩耗性が優れたものとなる。
然しながら、この場合には表面加工方法によっては、第1図に示すように、表面に生じている硬質粗大粒子である初晶シリコン1が表面から脱落することがある。」(第2頁左上欄第17行?同頁右上欄第11行)

甲第8号証(特開昭59-188087号公報)には、「回転圧縮機の回転スリーブ」に関して、次の事項が記載されている。
ラ.「回転スリーブ6のアルマイト処理後の外周面6bの研磨仕上げ加工により、Si粒子19が外周面6b(陽極酸化被膜17の表面)に露出する。
このSi粒子19は、つぎに説明する脱Si処理により除去する。
脱Si処理は、研磨仕上げ加工による物理的処理と、Si粒子19を溶出させる化学的処理から成っており、Al-Si系合金中のSi含有量が多い場合には研磨加工によって殆んど除去される。」(第3頁右上欄第2?10行)
リ.「回転スリーブ6はAl-Si系合金で形成して、内周面および外周面6bに硬質アルマイト処理を施し、外周面について脱Si処理をした。Al-Si系合金の組成の詳細を表1に示す。」(第3頁右下欄第20行?第4頁左上欄第3行)
ル.「表1;Si含有量12%」(第4頁左上欄)

6.第1回口頭審理調書
平成16年5月28日になされた口頭審理において作成された第1回口頭審理調書の陳述の要領のうち、両当事者の確認事項は、次のとおりである。
(1)シリコン粒脱落によって形成された「くぼみ部分」や「加工目」には、深いものも浅いものもある。
(2)請求項1に係る考案について、シリコン粒脱落によって形成された「くぼみ部分」又は「加工目」は、そのいずれかが少なくとも形成されるものである。
(3)請求項1に係る考案の「加工目」は、通常の仕上げ加工によって形成されるものである。

7.対比
本件考案と甲第1号証記載の考案とを対比すると、甲第1号証記載の考案の「シリンダブロック1」は本件考案の「シリンダ」に相当し、以下同様に、「サイドプレート2a,2b」は「フロントおよびリアサイドブロック」に、「ローター4」は「ロータ」に、「シャフト5」は「ロータ軸」に、「ベーン溝7」は「ベーン溝」に、「ベーン8」は「ベーン」に、「軸受部6a,6b」は「滑り軸受」に、それぞれ、相当し、また、甲第1号証記載の考案の「シャフト5を形成する鋼」は「鉄系金属」であるから、両者は、
「内周略楕円筒状のシリンダと、このシリンダの両側に取り付けられたフロントおよびリアサイドブロックと、これらのサイドブロックと上記シリンダによって形成されるシリンダ室内に回転自在に収納されたロータと、このロータに回転力を伝えるロータ軸と、このロータの半径方向に設けた複数のベーン溝に進退自在に挿入してある複数のベーンとを備え、上記フロントおよびリアサイドブロックにはロータ軸を挿通し得る孔が設けてあり、これが滑り軸受として前記ロータを回転自在に支持する一方、上記シリンダ、フロントサイドブロック、リアサイドブロック、ロータおよびベーンはアルミニウム-シリコン合金により形成され、ロータ軸は鉄系金属により形成され、ベーンにはニッケルを主体としたメッキが施されたベーン型気体圧縮機。」
の点で一致し、次の点で相違する。
〔相違点1〕
本件考案は、ベーンに施されたニッケルを主体としたメッキが、硬質粒子、または自己潤滑性流子を含有するのに対し、甲第1号証記載の考案は、ベーンに施されたニッケルを主体としたメッキが、硬質粒子、または自己潤滑性流子を含有するのか否か不明である点。
〔相違点2〕
本件考案は、気体として冷媒HFC-134aを使用するのに対し、甲第1号証記載の考案は、気体として何を使用するのか不明である点。
〔相違点3〕
本件考案は、上記シリンダの内壁面、フロントおよびリアサイドブロックの軸受面、あるいはロータのベーン溝壁面のうち少なくとも1つ以上にスズ、あるいは鉛、インジウム等の軟質金属のメッキ層を形成し、上記ベーンの摺動や上記ロータ軸の回転により、上記メッキ層を上記シリンダの内壁面、上記フロントおよび上記リアサイドブロックの軸受面、ならびに上記ロータのベーン溝壁面の各加工表面における初晶シリコン粒脱落によって形成されたくぼみ部分や加工目の深い所に強制的に押し込め、なじみ後に上記くぼみ部分または上記加工目の深い所に上記メッキ層を形成した軟質金属を残留させたのに対し、甲第1号証記載の考案は、上記シリンダの内壁面、およびフロントおよびリアサイドブロックのロータ,ベーンと摺動する内側面に鉄又はニッケルを主体とするメッキ層を形成した点。

8.当審の判断
上記〔相違点1〕?〔相違点3〕について検討する。
〔相違点1〕について
甲第1号証には、上記記載事項コによると、「ニッケルメッキ中に硬質粒子を含有する」技術事項が、甲第2号証には、上記記載事項ソによると、「表面被覆層中に自己潤滑性粒子を含有する」技術事項が、それぞれ記載されている。
そうすると、甲第1号証記載の考案において、甲第1号証、甲第2号証記載の上記技術事項を勘案して、「ベーンに施されたニッケルメッキ中に硬質粒子、または自己潤滑性粒子を含有する」ように構成することは、当業者が適宜なし得るものと認められる。
〔相違点2〕について
甲第3号証?甲第5号証には、上記記載事項タ、上記記載事項ナ、上記記載事項ハによると、「カーエアコン等に用いられる圧縮機の気体として冷媒HFC-134aを使用する」技術事項が記載されている。
そうすると、甲第1号証記載の考案において、甲第3号証?甲第5号証記載の上記技術事項を勘案して、「気体として冷媒HFC-134aを使用する」ように構成することは、当業者が適宜なし得るものと認められる。
〔相違点3〕について
A.最初に、本件考案の「上記シリンダの内壁面、フロントおよびリアサイドブロックの軸受面、あるいはロータのベーン溝壁面のうち少なくとも1つ以上にスズ、あるいは鉛、インジウム等の軟質金属のメッキ層を形成した」点について、検討する。
甲第2号証には、上記記載事項サ?スによると、苛酷な条件下で使用した場合にも焼付きを防止することを目的として、アルミニウム-シリコン合金を母材とする斜板の少なくとも鋼製シューと摺接する表面に、「錫とインジウムの共析メッキ層からなる表面被覆層を形成する」技術事項(実施例4)、「錫と鉛の共析メッキ層からなる表面被覆層を形成する」技術事項(実施例5)、及び「錫単独のメッキ層からなる表面被覆層を形成する」技術事項(比較例)が記載され、従来例の表面被覆層をもたない斜板に比較して摩擦係数が低下すると記載されている。また、甲第6号証には、上記記載事項マによると、「アルミニウム-シリコン合金の表面にスズのメッキ層を形成する」技術事項が記載されており、しかも、このような技術事項は、周知の技術事項(必要なら、平成10年5月18日付け異議申立で引用された特開昭50-77232号公報の第1頁左下欄第15行?同頁右下欄第6行の「本発明はアルミニユウムけい素系過共晶多元アルミニユウム合金よりなる機素部材の仕上げられた機械的摺動面に対して・・(略)・・メッキ金属として、Fe、Ag、Pb、Sn、Zn、Cu、Ni、等の単体金属又はこららの合金、を共晶アルミニユウム固溶体表面に電着して、・・(略)・・改良に関する。」なる記載、参照)と認められる。
一方、甲第3号証?甲第5号証には、上記記載事項タ、上記記載事項ナ?ヌ、上記記載事項ハ,ヒによると、気体として冷媒HFC-134aを使用すると、すなわちClを含まないフロンを使用すると、潤滑上不利になることが記載され、さらに甲第4号証には、上記記載事項ニによると、Clを含まないフロン雰囲気での摩擦では、表面処理が有効であると記載されている。
そうすると、甲第1号証記載の考案において、甲第2号証?甲第6号証記載の上記技術事項、及び上記周知の技術事項を勘案して、鉄系金属により形成されたロータ軸との摺動面である「フロントおよびリアサイドブロックの軸受面」、若しくはニッケルメッキが施されたベーンとの摺動面である「ロータのベーン溝壁面」にスズのメッキ層を形成することは、当業者が格別困難なく想到し得るものと認められる。また、甲第1号証記載の考案において、シリンダの内壁面にスズのメッキ層を形成する点については、シリンダの内壁面に形成されたニッケルを主体としたメッキをベーン頂面に施すように変更することが、当業者が適宜なし得る設計的事項と認められるから、この点は、甲第2号証?甲第6号証記載の上記技術事項、及び上記周知の技術事項を勘案して、当業者が格別困難なく想到し得るものと認められる。
なお、メッキ層を形成する軟質金属として、スズに代えて、鉛、インジウムを選択することは、メッキ層を形成する軟質金属として、鉛、インジウムを採用することが周知の技術事項(甲第2号証の上記記載事項サ?ス、上記特開昭50-77232号公報の第1頁左下欄第15行?同頁右下欄第6行の記載、参照)であることに鑑みれば、当業者が適宜なし得るものと認められる。
B.次に、本件考案の「上記ベーンの摺動や上記ロータ軸の回転により、上記メッキ層を上記シリンダの内壁面、上記フロントおよび上記リアサイドブロックの軸受面、ならびに上記ロータのベーン溝壁面の各加工表面における初晶シリコン粒脱落によって形成されたくぼみ部分や加工目の深い所に強制的に押し込め、なじみ後に上記くぼみ部分または上記加工目の深い所に上記メッキ層を形成した軟質金属を残留させた」点について検討する。
甲第1号証の上記記載事項キ,ク,ケによると、甲第1号証記載の考案の「シリンダ、フロントおよびリアサイドブロック、ロータ」は機械加工されているものであり、機械加工は少なくとも摺動面に形成されるという当該技術分野の技術常識に鑑みれば、「シリンダの内壁面、フロントおよびリアサイドブロックの軸受面、ロータの溝壁面」に機械加工が施され、「加工目」が形成されているものと認められる(「シリンダ、フロントおよびリアサイドブロック、ロータ」の機械加工について、必要なら、平成10年5月18日付け異議申立において引用された特開昭64-8383号公報の第4頁右下欄第10?12行の「またシリンダブロックは、金型鋳造で製造し、機械加工により仕上げられるが」なる記載、第5頁右下欄第3?4行の「またローターは熱間押出後、機械加工して製造されるが」なる記載、第8頁左下欄第11?14行の「これら押出素材を切断後T6の熱処理を行い所定形状にしたあと鋼製シャフトと結合させローター外径、溝部、ローター端面の仕上げ加工を行った。」なる記載、第9頁左下欄第17?18行の「サイドプレートは、AC8A材でT6処理後、所定寸法に機械加工したあと」なる記載、参照)。そして、本件考案の「加工目」は、通常の仕上げ加工によって形成されるものである(6.第1回口頭審理調書における「両当事者の確認事項(3)」参照)から、甲第1号証記載の機械加工によって形成される「加工目」は、本件考案の「加工目」に相当するものと認められる。
一方、甲第7号証の上記記載事項ヤ、甲第8号証の上記記載事項ラ?ルによると、甲第1号証記載の考案の「シリンダの内壁面、フロントおよびリアサイドブロックの軸受面、ロータの溝壁面」には、機械仕上げ加工によるシリコン粒脱落によるくぼみ部分が形成されているものと認められる。
そして、上記「加工目」、「シリコン粒脱落によるくぼみ部分」に深い所や浅い所が形成されていると認められる(6.第1回口頭審理調書における「両当事者の確認事項(1)」参照)。
そうすると、上記Aで検討したように、シリンダの内壁面、フロントおよびリアサイドブロックの軸受面、あるいはロータのベーン溝壁面のうち少なくとも1つ以上にスズのメッキ層を形成した状態とし、その後ベーン型圧縮機を駆動運転すると、ベーンの摺動やロータ軸の回転により、上記メッキ層は、シリンダの内壁面、フロントおよびリアサイドブロックの軸受面、ならびにロータのベーン溝壁面に形成されたくぼみ部分や加工目の深い所に押し込まれるものであり、なじみ後に上記くぼみ部分または上記加工目の深い所に残留するものと認められる。
なお、上記くぼみ部分または上記加工目の深い所以外の部分でのスズのメッキ層が残留しにくいことは、甲第2号証の上記記載事項セ、及び甲第6号証の上記記載事項マから明らかである。また、メッキ層を形成する軟質金属として、鉛、インジウムを選択したときにも、メッキ層が、くぼみ部分や加工目の深い所に押し込まれ、なじみ後に上記くぼみ部分または上記加工目の深い所に残留することは、その性状から当業者が格別困難なく類推し得るものと認められる。
C.したがって、甲第1号証記載の考案において、「上記シリンダの内壁面、フロントおよびリアサイドブロックの軸受面、あるいはロータのベーン溝壁面のうち少なくとも1つ以上にスズ、あるいは鉛、インジウム等の軟質金属のメッキ層を形成し、上記ベーンの摺動や上記ロータ軸の回転により、上記メッキ層を上記シリンダの内壁面、上記フロントおよび上記リアサイドブロックの軸受面、ならびに上記ロータのベーン溝壁面の各加工表面における初晶シリコン粒脱落によって形成されたくぼみ部分や加工目の深い所に強制的に押し込め、なじみ後に上記くぼみ部分または上記加工目の深い所に上記メッキ層を形成した軟質金属を残留させる」ように構成することは、甲第1号証?甲第8号証記載の技術事項、及び周知の技術事項に基いて当業者が格別困難なく想到し得るものと認められる。

また、本件考案の効果は、甲第1号証記載の考案、甲第1号証?甲第8号証記載の技術事項、及び周知の技術事項から当業者が予測し得る程度のものである。

なお、請求人の主張する無効事由ア(実用新案登録請求の範囲の記載不備)については、無効事由イ(本件考案の進歩性)によって、本件考案の登録は、無効とすべきものであるから、その判断を行うまでもない。

9.むすび
以上のとおりであるから、本件考案は、甲第1号証記載の考案、甲第1号証?甲第8号証記載の技術事項、及び周知の技術事項に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件考案に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、実用新案法第41条によって準用する平成5年法改正前の特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第89条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2004-06-21 
結審通知日 2004-06-23 
審決日 2004-07-06 
出願番号 実願平3-42801 
審決分類 U 1 112・ 534- Z (F04C)
U 1 112・ 121- Z (F04C)
最終処分 成立    
前審関与審査官 村本 佳史大久保 好二  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 清田 栄章
飯塚 直樹
登録日 1997-08-01 
登録番号 実用新案登録第2554812号(U2554812) 
考案の名称 ベーン型気体圧縮機  
代理人 櫻井 義宏  
代理人 和田 成則  
代理人 和田 成則  

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