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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
管理番号 1165609
審判番号 不服2006-11511  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-07 
確定日 2007-09-28 
事件の表示 実願2004-3071「改良した回転プレート式締付け装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年6月9日出願公開〕について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由
1.手続の経緯の概要

本願は、出願日が平成5年3月10日(パリ条約による優先権主張 1992年4月9日、フランス共和国)である特願平5-518030号を平成16年5月31日に実用新案登録出願に変更したものであって、平成18年3月3日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成18年6月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで実用新案登録請求の範囲を補正する手続補正(なお、平成18年6月14日付けで、手続補正書の方式に係る手続補正がなされている。)がなされ、さらに当審において同年10月18日(起案日)付けで拒絶理由通知を行ったところ、平成19年4月9日付けで意見書の提出がなされたものである。

2.本願考案

本願の請求項1ないし3に係る考案は、平成18年6月7日付けの手続補正書(同月14日付けの手続補正書(方式)により補正)により補正された実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし3に記載された、次のとおりのものと認める。

「【請求項1】自動車のブレーキ用締付け装置であって,少なくとも一方がその表面に垂直な軸線(6)を中心として回転移動するように駆動され得る実質的に平行な2枚のプレート(1,2)と、これらプレートの少なくとも一方に前記軸線から距離を置いて掘設した複数の案内キャビティ(13,14,15)と、前記キャビティ内に挿入され,前記2枚のプレート間に把持された対応する複数のボール(3,4,5)とから構成され,前記各案内キャビティがカムを形成し,最大深さの部分(7a)から前記プレートの表面(1a)まで前記回転移動の非ゼロ角にわたって単調に上昇する支承面を備えており、このキャビティの最大深さの部分(7a)が、対応するボールを単一の所定位置に保持する該ボール用のハウジングを形成し,このキャビティの深さの小さい部分が複数の交点(7c)において前記ハウジングに交わる傾斜路(7b)で構成され、一方において前記交点の直近傍では、前記ボールが前記ハウジングと共に第1の勾配の接線を形成し,他方において、前記傾斜路が前記第1の勾配よりも実質的に浅い第2の勾配を有していて,前記交点が勾配の不連続部に位置し,前記勾配の不連続部は、ボールが案内キャビティ内の最深部にある位置に直ぐ隣接していることを特徴とする締付け装置。
【請求項2】請求項1記載の締付け装置において,前記ハウジングが前記ボールの半径に類似した半径を有する球体の一部分の形状をなすことを特徴とする締付け装置。
【請求項3】請求項1記載の締付け装置において,前記ハウジングの形状が少なくとも部分的に円錐状であることを特徴とする締付け装置。」

3.刊行物に記載された事項及び考案

(1)刊行物1

これに対し、本願の優先日前に外国において頒布された刊行物である、英国特許出願公開第1343546号明細書(以下、「刊行物1」という。)には、「機械的作動装置を有するディスク・ブレーキ」(Disk Brake with a Mechanical Actuator) に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。

(a)「本発明は、ディスク・ブレーキに関する。
ディスク・ブレーキは、自動車用として、在来のドラム・ブレーキと比較して多くの利点を有する。」(第1頁第12行-同第15行; 概要和訳文)
(b)「機械的な駐車用作動装置は、全体的に数字40にて示してあり、円形端部(circular end)44を備えたレバー42を有している。レバー42は、キャリパ18内部において、ピストン32の軸回りに回転可能であるとともに、該軸に沿って摩擦面14に対し接近及び離隔する運動も可能なように取り付けられている。このレバー42は、キャリパ・ハウジングから延び、車両の運転者室にある適当な作動装置(図示せず)に接続されたケーブル46により、第2図に実線で示した第一の位置ないしブレーキ解放位置、すなわち、レバー42がキャリパ・ハウジングに取り付けられたストッパ43に押し付けられている位置から、同じ第2図に破線で示した第二の位置ないしブレーキ作動位置まで、回転させることができる。全体を数字48にて示した、たわみ可能なねじりばねが、レバー42を前記第一の位置に向かって付勢する。当該レバー42の円形端部44の一側面には、間隔をあけて凹部(recesses)50が設けられており、該凹部50は、ハウジング20の端部に保持された部材54における対応する凹部52と、位置が合った状態になっている。第2図には、かかる凹部が3つ図示されているが、当業者には、適当な数の凹部50,52を設けることができることは、明らかであろう。第5図に示すように、凹部50,52のそれぞれには、駐車用作動装置が解放されたときに球体56が通常静止する(normally rest)、皿状部(dish-shaped portion)53が設けられている。この皿状部53の一側方からは、勾配の急な傾斜面(a sharply sloping ramp surface)55が延設され、勾配がより緩い別の傾斜面57(another ramp surface 57 having a lesser slope)へとつながっている。力伝達要素ないし球体56は、対となる凹部50,52の組のそれぞれに配設されている。」(第2頁第35行-第72行; 概要和訳文)
(c)「駐車ブレーキ力をかけるとき、ケーブル46が動かされ、レバー42が、第2図中実線で示した第一の位置から、同図中破線で示した第二の位置まで回動させられる。第5図に示したように、レバーが第一の位置ないしブレーキ解放位置にあるとき、凹部50,52は、軸方向において実質的に整列しているが、該駐車レバー42が第二の位置ないしブレーキ作動位置に向かって動かされるに従って、凹部50は、対応する凹部52との整列状態から脱する。したがって、球体56は、傾斜路(ramps)55及び57を上るように動かされ、その結果、前記レバーが回転体(rotor)12の方に向かって軸方向に動かされることになる。レバー42の軸方向移動は、延設部材(elongated member)58により、ピストン32に伝達される。よって、レバー42が回動されるに従って、摩擦子(friction element)28は、摩擦面14とブレーキ係合させられる。キャリパ18の部分24及び26を通じて作用する反力のために、ピストン32が摩擦面14に向けて移動するにつれ、摩擦子30もまた、摩擦面16とブレーキ係合することとなり、もって、ブレーキ力がかかることになる。
第5図を参照すると、傾斜路55の勾配は、傾斜路57の勾配よりも、はるかに大きいことがわかる。したがって、レバー42がわずかに回動しただけでも、該レバー42は、軸方向に相当な距離、運動をし、その結果、種々の部品の遊び(clearances)による『緩み』(“slack”) を、きわめて迅速に除去することができる。レバー42の回動が継続すると、球体56は傾斜路57を上がり、その結果、摩擦子28,30を対応する摩擦面14,16に対して、大きく増力して(with high force multiplication)押圧するようになる。」(第4頁第11行-同第49行; 概要和訳文)
(d)また、刊行物1の第5図からは、次の事項が看取される。すなわち、凹部50及び対応する凹部52において、皿状部53から、凹部50が形成される(レバー42の)円形端部44の表面及び対応する凹部52が形成される部材54の表面まで、レバー42が第一の位置ないしブレーキ解放位置から第二の位置ないしブレーキ作動位置に向かって回動されるに従って、球体56との接触部が単調に上昇する(前記円形端部44または部材54の表面を基準にして、単調に浅くなる)ような形状を有する支承面(勾配の急な傾斜面55及び勾配がより緩い別の傾斜面57からなる)が形成されている点である。

そうすると、上記の記載事項によれば、刊行物1には、以下の考案(以下、「刊行物1の考案」という。)が記載されているものと認められる。
「自動車のブレーキ用締付け装置であって、一方(レバー42の円形端部44(下記))がその表面に垂直な軸線(ピストン32の軸線)を中心として回転移動するように駆動され得る実質的に平行な2枚のプレート(レバー42の円形端部44,部材54)と、これらプレートに前記軸線から距離を置いて掘設した複数の凹部50(レバー42の円形端部44に掘設)及び対応する凹部52(部材54に掘設)と、前記凹部50及び対応する凹部52内に挿入され、前記2枚のプレート間に把持された対応する複数の球体56とから構成され、前記各凹部50及び対応する凹部52がカムを形成し、皿状部53から前記プレートの表面まで前記回転移動の非ゼロ角にわたって単調に上昇する支承面を備えており、この凹部50及び対応する凹部52の皿状部53が、対応する球体56を所定位置に保持する該球体56用のハウジングを形成し、この凹部50及び対応する凹部52の深さの小さい部分が前記ハウジングに交わる勾配の急な傾斜面55及び勾配がより緩い別の傾斜面57で構成されている締付け装置。」

(2)刊行物2

また、同じく本願の優先日前に外国において頒布された刊行物である、米国特許第3765511号明細書(以下、「刊行物2」という。)には、「自転車用ディスク・ブレーキ装置」(Disc Brake Device for Bicycles)に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。

(e)「この発明は、車両用のディスク・ブレーキ装置、なかんずく、自転車用のディスク・ブレーキ装置に関する。」(第1欄第3行-第4行; 概要和訳文)
(f)「第20図?第22図に示される第2実施例では、ブレーキ本体部2及び3は、シム31が両ブレーキ本体部間に挟まれた状態で、両ブレーキ本体部の孔を貫通するボルト4及びナット27により、一体化されている。 ・・・ 右側ブレーキ本体部2の中心孔12bの周囲には、複数の半円状凹部12c(図示の実施例では3個)が等間隔に配設されている。これら半円状凹部12cには鋼球14が嵌入されており、当該鋼球14における、凹部12cから突出している半円部は、回転カム(rotary cam)16と係合している。本実施例において、回転カム16には、その裏面16cにおいて、ブレーキ本体部2の凹部12cと対向して、半円状の凹部(semi-circular cavities)16dが等間隔に配設されており、当該カム16がブレーキ本体部2の凹陥部(depressed portion)12に嵌装されたときに、球状の凹部(spherical cavities)を形成するようにしている。これらの半円状凹部16dは、第27図?第29図に示すように、斜面(inclined surfaces)16eを通じて、背面の平坦面16cに、それぞれ接続している。回転カム16の前面には、円形の凹陥部16fが設けられ、当該凹陥部16fに摩擦パッド6がねじ40により固着されている。」(第4欄第20行-第59行; 概要和訳文)
(g)第27図ないし第29図、特に第29図からは、回転カム16において、上記の半円状凹部16dと斜面16eとが、それらの交点が勾配の不連続部となるようにされている構成が看取される。

4.対比・判断

本願の請求項1に係る考案(以下、「本願考案1」という。)と刊行物1の考案とを対比すると、上記3.(1)により、刊行物1の考案における「凹部50及び対応する凹部52」は本願考案1における「案内キャビティ(13,14,15)」に相当し、同様に、「球体56」は「ボール(3,4,5)」に、「皿状部53」は「最大深さの部分(7a)」にそれぞれ相当するものと認められる。そうすると、本願考案1と刊行物1の考案とは、本願考案1の用語に従えば、
「自動車のブレーキ用締付け装置であって,少なくとも一方がその表面に垂直な軸線(6)を中心として回転移動するように駆動され得る実質的に平行な2枚のプレート(1,2)と、これらプレートの少なくとも一方に前記軸線から距離を置いて掘設した複数の案内キャビティ(13,14,15)と、前記キャビティ内に挿入され,前記2枚のプレート間に把持された対応する複数のボール(3,4,5)とから構成され,前記各案内キャビティがカムを形成し,最大深さの部分(7a)から前記プレートの表面(1a)まで前記回転移動の非ゼロ角にわたって単調に上昇する支承面を備えており、このキャビティの最大深さの部分(7a)が、対応するボールを所定位置に保持する該ボール用のハウジングを形成し,このキャビティの深さの小さい部分が前記ハウジングに交わる締付け装置。」
である点で一致し、次の点において相違している。

相違点1: 本願考案1では、キャビティの最大深さの部分(7a)が、対応するボールを単一の所定位置に保持する該ボール用のハウジングを形成しているのに対し、刊行物1の考案では、凹部50及び対応する凹部52の皿状部53が、対応する球体56を所定位置に保持する該球体56用のハウジングを形成しているものの、「単一の」所定位置に保持するか否かまでは、必ずしも明確ではない点。

相違点2: 本願考案1では、キャビティの深さの小さい部分が複数の交点(7c)において前記ハウジングに交わる傾斜路(7b)で構成され、一方において前記交点の直近傍では、前記ボールが前記ハウジングと共に第1の勾配の接線を形成し、他方において、前記傾斜路が前記第1の勾配よりも実質的に浅い第2の勾配を有していて、前記交点が勾配の不連続部に位置し、前記勾配の不連続部は、ボールが案内キャビティ内の最深部にある位置に直ぐ隣接しているのに対し、刊行物1の考案では、凹部50及び対応する凹部52の深さの小さい部分が、球体56用のハウジングに交わる勾配の急な傾斜面55及び勾配がより緩い別の傾斜面57で構成されていることが記載されているものの、皿状部53で形成される上記の球体56用のハウジングと勾配の急な傾斜面55との間、及び、その勾配の急な傾斜面55と勾配がより緩い別の傾斜面57との間では、勾配が連続的に変化しており(刊行物1の第5図を参照)、勾配が不連続部を有することからなる、上記本願考案1の構成は備えていない点。

以下、上記各相違点について検討する。

〈相違点1について〉
まず、上記相違点1について検討する。刊行物1には、上記3.(1)(b)にて摘記したように、皿状部53について、「駐車用作動装置が解放されたときに球体56が通常静止する(normally rest)」と記載されている。この記載は、駐車用作動装置の解放状態において、凹部50及び対応する凹部52の皿状部53が、対応する球体56を所定位置に、その動きを拘束して保持することを意味するから、当該皿状部53が、対応する球体56を単一の所定位置に保持するハウジングを形成することを、少なくとも示唆しているということができる。そうすると、刊行物1に接した当業者であれば、皿状部53を、対応する球体56を単一の所定位置に保持するハウジングを形成するようにして、上記相違点1に係る本願考案1の構成とすることは、きわめて容易に想到し得たものというべきである。

〈相違点2について〉
次に、上記相違点2について検討する。
一般に、機械装置を構成するカム部材において、カムの形状は、当該カム部材により実現しようとする動作に加え、カムの面を加工してその形状を形成する際の加工容易性・費用等を勘案しつつ、当業者が適宜設計上の最適化を行うものである。してみれば、既述のような、皿状部53で形成される球体56用ハウジング、勾配の急な傾斜面55、及び、勾配がより緩い別の傾斜面57の連続により構成されるカム(回転運動についてのカム)が開示された刊行物1に接した当業者であれば、皿状部53で形成される球体56用ハウジングと勾配の急な傾斜面55との間や、その勾配の急な傾斜面55と勾配がより緩い別の傾斜面57との間で、曲面を形成して勾配が連続的となるように加工する代わりに、勾配が不連続となるようにする程度のことは、当業者であれば、格別な創作力を要することなく、きわめて容易に想到し得たものというべきである。
そして、刊行物1の考案において、皿状部53で形成される球体56用ハウジングと傾斜路としての傾斜面55,57との間の交点で、勾配が不連続となるようにした場合には、ボールとしての球体56に関し、「一方において前記交点の直近傍では、前記ボールが前記ハウジングと共に第1の勾配の接線を形成し、他方において、前記傾斜路が前記第1の勾配よりも実質的に浅い第2の勾配を有していて、前記交点が勾配の不連続部に位置し、前記勾配の不連続部は、ボールが案内キャビティ内の最深部にある位置に直ぐ隣接」した構成となる(また、傾斜面55と傾斜面57との間で勾配が不連続となるようにした場合も同様である)から、結局、刊行物1に接した当業者であれば、上記相違点2に係る本願考案1の構成を想到することは、きわめて容易になし得たものと認められる。
なお、さらに付言すれば、上記3.(2)に記したように、上記刊行物2には、刊行物1の考案と同じく車両のディスク・ブレーキの技術分野にあって、回転カム16において半円状凹部16dと斜面16eとの交点が勾配の不連続部となるようにした構成が示されている。このことに鑑みても、刊行物1の考案において、回転カムを構成する部分に勾配の不連続部を形成することに、技術的困難性の存在を認めることはできない。

また、本願考案1の奏する作用効果(プレートの回転変位や締付け装置の入力負荷に対するブレーキ締付け力の特性の変更、ブレーキ操作開始時における機械的間隙の調節、製造の容易化等)について検討しても、かかる作用効果は、刊行物1の考案並びに該刊行物1及び刊行物2の記載事項から、当業者が本願の優先日時点において予測し得た範囲のものであると認められる。

よって、本願考案1は、刊行物1及び2に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により、実用新案登録を受けることができないものである。

5.意見書における審判請求人の主張について

審判請求人は、平成19年4月9日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)において、上記相違点1に関し、概略、次のような主張を行っている。
刊行物1の第5図の記載からみて、球体56の周囲の、凹部50,52との間には、間隙(審判請求人が刊行物1の第5図を拡大して参照符号A1,A2を記入した、意見書の「参考図」において、その符号A1,A2が指示している箇所)が設けられている。刊行物1のブレーキは、その第4頁第16行?第19行に記載されているように、ブレーキ解放位置では凹部50,52は軸方向に「実質的に」整列させられているにすぎず、凹部50,52が軸方向に正確には整列されていないため、第5図に示されるような上記間隙が必要である。このように、刊行物1では、ブレーキを確実に機能させるために積極的に球体56の周囲に間隙(A1,A2)を設け、球体56が自ら適当な位置に移動できることを許容している。したがって、刊行物1の構成は、本願考案におけるような、ボールを単一の所定位置に保持するハウジングの形成を示唆しているということはできない。
しかしながら、特許出願に添付された図面は、実寸法を反映したものとは限らず、むしろそうでないほうが一般的であるのであるから、かかる図面において、部材間に微小な空白部分が存在したとしても、それに何らの説明も加えられていないならば、当該図面が実寸法を反映したものであることが注記されている等の、特段の事情がない限り、そのような空白部分を直ちに「間隙」ということはできないのであって、まして、「積極的に ・・・ 間隙 ・・・ を設け」ているなどということはできない。(なお、かかる空白部分をいうならば、本願の図4における、ボール3とハウジングとの間にも認めることができる。) 審判請求人は、かかる間隙の存在の根拠として、上記のように、刊行物1に、ブレーキ解放位置では凹部50,52が軸方向に「実質的に」整列させられている (are in substantial axial alignment) との記載があることを挙げ、そこから、凹部50,52が軸方向に正確には整列されていないとし、よって、間隙が必要であるとしている。しかし、さきに摘記したように、刊行物1には、「当該レバー42の円形端部44の一側面には、間隔をあけて凹部50が設けられており、該凹部50は、ハウジング20の端部に保持された部材54における対応する凹部52と、位置が合った状態になっている (are aligned)。」(上記3.(1)の摘記事項(b)を参照)と、「実質的に」に相当する語のない記載がなされている箇所もあり、同刊行物の一部箇所に上記「実質的に」の語があることをもって、凹部50,52が軸方向に正確には整列されていないとし、上記間隙が必要であると結論するのは、妥当性を欠くといわなければならない。
このように、上記間隙についての審判請求人の主張は、その前提において、既に首肯できないものであるが、たとい、上記間隙の存在自体は審判請求人の主張するとおりであると仮定したとしても、かかる間隙はきわめて小さいものであって、上記4.における相違点1に係る判断には、影響するものではない。すなわち、刊行物1には、既に摘記したように、「第5図を参照すると、傾斜路55の勾配は、傾斜路57の勾配よりも、はるかに大きいことがわかる。したがって、レバー42がわずかに回動しただけでも、該レバー42は、軸方向に相当な距離、運動をし、その結果、種々の部品の遊びによる『緩み』を、きわめて迅速に除去することができる。」(上記3.(1)の摘記事項(c)を参照)と記載されている。ここで、仮に審判請求人のいう間隙が存在したとしても、かかる間隙は、きわめて小さいものでない限り、「レバー42がわずかに回動」したときの回動は当該間隙のために吸収されてしまうことになるから、「レバー42がわずかに回動しただけでも、 ・・・ 種々の部品の遊びによる『緩み』を、きわめて迅速に除去する」といったことは、不可能ということになる。よって、刊行物1の上記記載事項と矛盾しないためには、上記間隙は、たとい存在したとしても、「遊び」ないし「緩み」のきわめて迅速な除去に影響しない程度の、きわめて小さいものでなければならない。そして、当該刊行物1に、皿状部53について、「駐車用作動装置が解放されたときに球体56が通常静止する」との記載がなされていることは、前説示のとおりである。そうすると、凹部50及び対応する凹部52の皿状部53が、対応する球体56を単一の所定位置に保持するハウジングを形成することを、刊行物1が少なくとも示唆しており、刊行物1に接した当業者であれば、皿状部53を、対応する球体56を単一の所定位置に保持するハウジングを形成するように構成することは、きわめて容易に想到し得たものというべきである、との判断には影響しない。

審判請求人はまた、意見書において、上記相違点2に関し、刊行物1は、どこに勾配の不連続部を設けるべきかについて明確に記載していないと主張するとともに、刊行物2も、勾配を不連続にすることについては特に説明をしていないとし、続いて、刊行物2に記載された具体的な構成に関して、カム16の凹部16dが本願考案のキャビティとは形状も機能も異なる等、種々の主張を展開することにより、相違点2に係る判断への反論を行っている。
しかしながら、上記3.(1)の摘記事項(b)等にて摘記するとともに上記4.の相違点2に係る検討でも述べたように、刊行物1には、「皿状部53」、並びに、「勾配の急な傾斜面55」及び「勾配がより緩い別の傾斜面57」が明記されており、これらにより構成されるカム(回転運動についてのカム)が開示されているのであるから、皿状部53と傾斜面55との間や、勾配の異なる両傾斜面55及び57の間(接続部分)で勾配が不連続となるようにする程度のことは、一般にカムの形状は前説示のとおり当業者が適宜設計上の最適化を行うものであることにもかんがみれば、当業者であれば、格別な創作力を要することなく、きわめて容易に想到し得たものというべきである。そして、刊行物2については、上記4.の相違点2に係る検討においても、平成18年10月18日(起案日)付けの当審による拒絶理由通知の該当箇所においても、回転カムを構成する部分に勾配の不連続部を形成することに技術的困難性がないことを示す、付加的な説示のために引用したにすぎない。したがって、刊行物2に記載された具体的な構成に関する審判請求人の種々の主張は、当を得たものではなく、相違点に係る判断に影響するものでもない。
審判請求人は、意見書において、さらに、刊行物2の記載事項と本願の請求項に係る考案とを対比して、刊行物2に記載のものは一方のプレートであるカム16だけが回転する装置であって、プレートの磨耗が生じやすく効率が低いといった問題があるところ、プレートの少なくとも一方が回転移動されうる本願考案では、そのような問題点を改善することができる旨も主張する。
しかしながら、刊行物2の引用趣旨は右説示のとおりであり、加うるに、本願考案1は、「・・・ 少なくとも一方が ・・・ 回転移動するように駆動され得る実質的に平行な2枚のプレート ・・・」(本願の請求項1)との構成を備えるものであって、一方のプレートのみが回転する装置も包含するのであるから、上記の主張は、失当というほかはない。

叙上のとおりであるから、意見書における審判請求人の主張は、採用することができない。

6.むすび

以上の次第で、本願考案1(本願の請求項1に係る考案)は、刊行物1及び2に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであって、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
そして、本願の請求項1に係る考案が実用新案登録を受けることができないものである以上、本願の請求項2及び3に係る考案について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2007-05-07 
結審通知日 2007-05-08 
審決日 2007-05-21 
出願番号 実願2004-3071(U2004-3071) 
審決分類 U 1 8・ 121- WZ (F16H)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 小原 一郎谿花 正由輝  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 岩谷 一臣
大町 真義
考案の名称 改良した回転プレート式締付け装置  
代理人 小林 泰  
代理人 山崎 幸作  
代理人 増井 忠弐  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  
代理人 社本 一夫  

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