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審決分類 審判    A45D
審判    A45D
管理番号 1271041
審判番号 無効2012-400002  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-04-23 
確定日 2013-02-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第3156963号実用新案「化粧品容器用漏れ止め構造」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第3156963号の請求項1乃至6に係る登録実用新案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件実用新案登録第3156963号(以下「本件実用新案登録」という。)は、平成21年10月27日に出願された実願2009-7622号に係り、平成22年1月6日にその請求項1乃至6に係る登録実用新案について実用新案権の設定登録が行われた。
本件無効審判は、本件実用新案登録について、平成24年4月23日に、無効審判請求人 株式会社コーセー(以下「請求人」という。)が、「本件実用新案登録の請求項1乃至6に係る登録実用新案は無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」として請求したものであって、被請求人 株式会社Unit JAPAN(以下「被請求人」という。)は、平成24年6月18日付けで答弁書を提出している。
これらを当審において審理し、その審理の結果を実用新案法第41条において準用する特許法第153条第2項に規定により平成24年9月14日付けで無効理由通知書として通知したところ、被請求人から同年10月19日付けで意見書が提出された。
その後、平成24年12月10日に行った口頭審理において、請求人は、平成24年11月26日付けで提出した口頭審理陳述要領書のとおり、また、被請求人は、平成24年11月26日付け口頭審理陳述要領書及び当該口頭審理において提出した陳述書のとおり、それぞれ陳述を行った。

第2 本件登録実用新案
本件登録実用新案は、本件実用新案登録の願書に添付した実用新案登録請求の範囲の請求項1乃至6に記載されている次のとおりのものである。(以下それぞれを「本件登録実用新案1」乃至「本件登録実用新案6」といい、これらをまとめて「本件登録実用新案」という。)
「【請求項1】
本体と、ブラシロッドと、ビンと、を含む化粧品容器用漏れ止め構造であって、
前記本体は、収容空間を有し、前記収容空間には、電源ユニットと、前記電源ユニットと電気的に連接するモータと、連結具と、が設けられ、前記連結具は、前記本体の内部に回動可能に設けられ、前記モータに駆動可能であり、
前記ブラシロッドは、一端が前記連結具と同軸し前記連結具に連結され、他端にブラシヘッドが設けられ、
前記ビンは、液体収容チェンバーと、前記ビンの一端に設けられる開口と、を有し、前記ブラシロッドは前記開口を経由して前記液体収容チェンバーに挿入される一方、
前記ブラシロッドに密封ブッシュが設けられ、前記本体と前記ビンを結合するときには、前記密封ブッシュの前縁が前記開口に密着されることを特徴とする、化粧品容器用漏れ止め構造。
【請求項2】
前記モータと前記連結具の間には、更に、減速手段が設けられることを特徴とする、請求項1に記載の化粧品容器用漏れ止め構造。
【請求項3】
前記本体の側面にレールが設けられ、前記レールにスイッチが摺動可能に設けられ、前記スイッチは前記レールに沿って摺動し、これにより、前記スイッチは前記電源ユニットのオン・オフを切替えることができることを特徴とする、請求項1に記載の化粧品容器用漏れ止め構造。
【請求項4】
前記減速手段には、幾何形状断面シャフトが設けられ、前記連結具の末端には、幾何形状穴が設けられ、前記幾何形状断面シャフトが前記幾何形状穴に挿入され、そうすると、前記幾何形状断面シャフトは前記連結具と同期に回転することができることを特徴とする、請求項2に記載の化粧品容器用漏れ止め構造。
【請求項5】
前記ブラシヘッドは、マスカラ又はグロスを付けるためのブラシであることを特徴とする、請求項1に記載の化粧品容器用漏れ止め構造。
【請求項6】
更に、内ねじ付きブッシュを含み、前記内ねじ付きブッシュは、前記本体の前端に設けられ、内ねじを有し、
前記開口の外面に外ねじが設けられ、前記外ねじが前記内ねじ付きブッシュの内ねじと螺合し、前記開口の内面に樹脂ブッシュが設けられ、前記ブラシロッドが前記樹脂ブッシュを経由して前記液体収容チェンバーに挿入し、前記本体と前記ビンを結合するときには、前記密封ブッシュの前縁が前記樹脂ブッシュに密着されることを特徴とする、請求項1に記載の化粧品容器用漏れ止め構造。」

第3 請求人の主張する無効理由
本件実用新案登録について、請求人が主張する無効理由の概要は以下のとおりであって、請求人は証拠方法として甲第1?21号証を提出している。
1 無効理由1(甲第1号証を主引例とした場合)
(1)本件登録実用新案1、本件登録実用新案2及び本件登録実用新案5は、甲第1号証に記載された考案と同一であるから、実用新案法第3条第1項第3号の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
(2)本件登録実用新案3及び本件登録実用新案4は、甲第1号証に記載された考案と同一であるか、甲第1号証に記載された考案及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法第3条第1項第3号または同第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
(3)本件登録実用新案6は、甲第1号証に記載された考案及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
(4)上記(1)乃至(3)のとおり、本件登録実用新案1乃至6に係る実用新案登録は、実用新案法第3条の規定に違反してされたものであるから、実用新案法第37条第第1項第2号の規定に該当し無効とされるべきものである。

2 無効理由2(甲第2号証を主引例とした場合)
(1)本件登録実用新案1、本件登録実用新案2及び本件登録実用新案5は、甲第2号証に記載された考案と同一であるから、実用新案法第3条第1項第3号の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
(2)本件登録実用新案3、本件登録実用新案4及び本件登録実用新案6は、甲第2号証に記載された考案及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
(3)上記(1)及び(2)のとおり、本件登録実用新案1乃至6に係る実用新案登録は、実用新案法第3条の規定に違反してされたものであるから、実用新案法第37条第第1項第2号の規定に該当し無効とされるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:国際公開第2006/132459号
甲第2号証:韓国登録実用新案第20-0356837号公報
甲第3号証:特開平4-269904号公報
甲第4号証:登録実用新案第3153588号公報
甲第5号証:特開2009-183341号公報
甲第6号証:特開2005-95531号公報
甲第7号証:特表2008-504945号公報
甲第8号証:登録実用新案第3135131号公報
甲第9号証:登録実用新案第3082502号公報
甲第10号証:特開2007-215987号公報
甲第11号証:特開2005-29243号公報
甲第12号証:特開2004-290300号公報
甲第13号証:実公平3-27532号公報
甲第14号証:特表2007-520249号公報
甲第15号証:実公昭63-18979号公報
甲第16号証:特許第3001838号公報
甲第17号証:特開2004-173946号公報
甲第18号証:特開2004-587号公報
甲第19号証:特許第4342021号公報
甲第20号証:特開平11-4714号公報
甲第21号証:特開平9-308524号公報

第4 当審において通知した無効理由
当審において審理した結果について職権に基づいて平成24年9月14日付けで通知した理由の概要は以下のとおり(以下「無効理由3」という。)である。

1 無効理由3
(1)本件登録実用新案1、本件登録実用新案2及び本件登録実用新案5は、刊行物1に記載された考案であるから、実用新案法第3条第1項第3号に該当し、実用新案登録を受けることができないものである。
(2)本件登録実用新案3、本件登録実用新案4及び本件登録実用新案6は、刊行物1に記載された考案及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
(3)上記(1)及び(2)のとおり、本件登録実用新案1乃至6に係る実用新案登録は、実用新案法第3条の規定に違反してされたものであるから、実用新案法第37条第第1項第2号の規定に該当し無効とされるべきものである。

刊行物1:韓国登録実用新案第20-0356837号公報(請求人が提出した甲第2号証)

第5 被請求人の主張
これら無効理由1乃至3に対する被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。
本件登録実用新案1乃至6は、いずれも甲第1号証、甲第2号証または刊行物1に記載された考案ではなく、甲第1号証、甲第2号証または刊行物1に記載された考案及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものでもなく、本件登録実用新案1乃至6に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第1項第3号または同第2項の規定に違反してされたものではないから、実用新案法第37条第1項第2号の規定に該当せず、無効とされるべきものではない。

第6 当審の判断
以下、無効理由3について検討する。

1 刊行物に記載されている事項
当審で通知した無効理由に引用され、本件実用新案登録の出願前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。
(1)「

(このような従来のマスカラブラシの問題点を解決するために、多数の電動式マスカラが案出されており、例えば、図1に示されているように、従来の電動式マスカラにおいては、睫毛の化粧をするときに、蓋体(1)の外部に位置したロータリ式スイッチ(2)を回転させて作動させると、乾電池(3)の電源がモータ(4)に供給されてモータ(4)が回転を開始し、モータ(4)の動力が、図示されていない回転軸に設置されたピニオンギア及び減速ギアなどを介して軸体(5)に伝達されることより、軸体(5)が回転する。
このように軸体(5)が回転すると、軸体(5)に設置されたブラシ(6)が連動し、軸体(5)と一緒に連動するブラシ(6)を睫毛に当てると、睫毛が自動的に巻き上げられて睫毛の化粧が行われることになる。)」(第2頁第18?24行、訳文は請求人提出のものを援用した。)

(2)「

(しかしながら、図1に示されている従来の電動式マスカラにおいては、密閉部材(7)は、マスカラの揮発を防止すると同時に、容器(8)からブラシ(6)を抜き出すときに、ブラシに過度に付着しているマスカラ溶液を除去する役割を果たしており、マスカラ内容物の揮発性が高いため、蓋体(1)を容器(8)に装着するときに、密閉部材(7)が圧着する程度にしっかりと装着した場合にのみ、マスカラ内容物の揮発を防止することができる。しかしながら、軸体(5)と密閉部材(7)の間は、わずかに接触しているのみであり、しっかりと圧着密閉されてはおらず、マスカラ内容物が容易に揮発して硬くなってしまうという問題点があった。)」(第2頁第25?29行、訳文は請求人提出のものを援用した。)

(3)「

(図2には、本考案による電動式マスカラの揮発を防止するための実施例の組立断面図が図示されており、図2においても、図1と同じ参照番号は同じ部品を示すため、これらの詳細な説明は省略する。
本考案は、蓋体(1)をマスカラの容器(8)に閉じたときに軸体(15)の密閉片(151)が密閉部材(7)を押圧してマスカラ溶液の揮発成分が外に揮発されないようにされており、さらに密閉力を高めるためには、密閉部材(7)に固い輪(7a)を設定して圧力が集中するようにして密閉力を高めることもできる。)」(第3頁第7?11行、訳文は当審による邦訳である。)

(4)上記記載事項(1)乃至(3)の記載からみて、刊行物1には、電動式マスカラにおけるマスカラの揮発を防止するための構造が記載されているといえる。

(5)上記記載事項(1)乃至(3)に関連して、図2には、蓋体(1)は収容空間を有し、該収容空間には、乾電池(3)と、該乾電池(3)の電源が供給されるモータ(4)と、が設けられる点が示されている。

(6)上記記載事項(1)の「モータ(4)の動力が、図示されていない回転軸に設置されたピニオンギア及び減速ギアなどを介して軸体(5)に伝達される」及び図2の記載からみて、蓋体(1)の収容空間に設けられ、蓋体(1)の内部に回動可能に設けられ、モータ(4)によって駆動可能であり、軸体(15)の一端に同軸して連結される部材(以下、「連結部材」という。)は、刊行物1に記載されているに等しい事項といえる。また、軸体(15)の他端にはブラシ(6)が設置されているといえる。

(7)上記記載事項(1)乃至(3)に関連して、図2には、容器(8)は、液体収容チェンバーと、容器(8)の一端に設けられる開口と、を有し、軸体(15)は開口を経由して液体収容チェンバーに挿入される点が示されている。

(8)上記記載事項(2)及び(3)に関連して、図2には、蓋体(1)を容器(8)に閉じたときには、マスカラ溶液の揮発成分が外に揮発されないように軸体(15)の密閉片(151)の前縁が開口に設けられた密閉部材(7)を押圧する点が示されている。

(9)上記記載事項(1)の「モータ(4)の動力が、図示されていない回転軸に設置されたピニオンギア及び減速ギアなどを介して軸体(5)に伝達される」及び図2の記載からみて、モータ(4)と連結部材の間に減速ギアが設けられる点は、刊行物1に記載されているに等しい事項といえる。

(10)上記記載事項(1)の「軸体(5)と一緒に連動するブラシ(6)を睫毛に当てると、睫毛が自動的に巻き上げられて睫毛の化粧が行われることになる。」の記載からして、ブラシ(6)は、マスカラを付けるためのものであるといえる。

以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には 次の考案(以下「引用考案」という。)が記載されている。
「蓋体(1)と、軸体(15)と、容器(8)と、を含む電動式マスカラにおけるマスカラの揮発を防止するための構造であって、
前記蓋体(1)は、収容空間を有し、前記収容空間には、乾電池(3)と、前記乾電池(3)の電源が供給されるモータ(4)と、連結部材と、が設けられ、モータ(4)と連結部材の間には、減速ギアが設けられ、前記連結部材は、前記蓋体(1)の内部に回動可能に設けられ、前記モータ(4)によって駆動可能であり、
前記軸体(15)は、一端が前記連結部材と同軸し前記連結部材に連結され、他端にマスカラを付けるためのブラシ(6)が設置され、
前記容器(8)は、液体収容チェンバーと、前記容器(8)の一端に設けられる開口と、を有し、前記軸体(15)は前記開口を経由して前記液体収容チェンバーに挿入される一方、
前記軸体(15)に密閉片(151)が設けられ、前記蓋体(1)を前記容器(8)に閉じたときには、マスカラ溶液の揮発成分が外に揮発されないように前記軸体(15)の前記密閉片(151)の前縁が前記開口に設けられた密閉部材(7)を押圧し、
蓋体(1)の外部に位置したロータリ式スイッチ(2)を回転させて電動式マスカラを作動させる、
電動式マスカラにおけるマスカラの揮発を防止するための構造。」

2 本件登録実用新案1と引用考案との対比、検討・判断
(1)対比
ア 本件登録実用新案1と引用考案とを対比すると、その意味、構造または機能からみて、引用考案の「電動式マスカラにおけるマスカラの揮発を防止するための構造」は本件登録実用新案1の「化粧品容器用漏れ止め構造」に相当し、以下同様に、「蓋体(1)」は「本体」に、「軸体(15)」は「ブラシロッド」に、「容器(8)」は「ビン」に、「乾電池(3)」は「電源ユニット」に、「乾電池(3)の電源が供給されるモータ(4)」は「電源ユニットと電気的に連接するモータ」に、「モータ(4)によって駆動可能であり」は「モータに駆動可能であり」に、「ブラシ(6)」は「ブラシヘッド」に、「設置され」は「設けられ」に、それぞれ相当する。

イ 引用考案の「連結部材」は、その意味、構造または機能からみて、本件登録実用新案1の「連結具」に相当する。
なお、この点につき、被請求人は「刊行物1(甲2)の中で主張するあらゆる先行技術と比較して、「連結具、ブラシロッド、減速手段及び幾何形状断面シャフトはそれぞれ独立した部品である」ことは疑いなく進歩性と特許性を有しており、当該実用新案権部分の権利は剥奪されるべきではありません。」(平成24年11月26日付け口頭審理陳述要領書第2頁第15?18行)と主張しているが、本件登録実用新案1における「連結具」は、「前記本体は、収容空間を有し、前記収容空間には、・・・連結具と、が設けられ、前記連結具は、前記本体の内部に回動可能に設けられ、前記モータに駆動可能であり、前記ブラシロッドは、一端が前記連結具と同軸し前記連結具に連結され」るものなのであって、本件実用新案登録の願書に添付した明細書の段落【0015】に「前記ブラシロッド20と前記連結具15は一体成形されるものでもよい。」と記載されていることも踏まえれば、「連結具、ブラシロッド、減速手段及び幾何形状断面シャフトはそれぞれ独立した部品である」と限定的に解釈すべき理由はないから、当該主張は上記相当関係についての判断に影響を与えるものではなく、採用できない。

ウ 引用考案の「密閉片(151)」は、その意味、構造または機能からみて、本件登録実用新案1の「密封ブッシュ」に相当し、以下同様に、「蓋体(1)を容器(8)に閉じたとき」は「本体とビンを結合するとき」に、「マスカラ溶液の揮発成分が外に揮発されないように軸体(15)の密閉片(151)の前縁が開口に設けられた密閉部材(7)を押圧する」は「密封ブッシュの前縁が開口に密着される」に、それぞれ相当する。
なお、これらの点につき、被請求人は「図5(本考案の第2実施例の化粧品用漏れ止め構造の組合状態の断面図)の示すように、密封ブッシュ31とブラシロッド20は二つの独立した部品となることが可能で、」(同口頭審理陳述要領書第3頁第20?22行)と主張しているが、本件登録実用新案1における「密封ブッシュ」は、「前記ブラシロッドに密封ブッシュが設けられ」るものなのであって、本件実用新案登録の願書に添付した明細書の段落【0018】に「前記ブラシロッド20に密封ブッシュが一体に成形され」と記載されていることも踏まえれば、「密封ブッシュ31とブラシロッド20は二つの独立した部品となる」と限定的に解釈すべき理由はないから、当該主張は上記相当関係についての判断に影響を与えるものではなく、採用できない。

エ そこで、本件登録実用新案1の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
(一致点1)
「本体と、ブラシロッドと、ビンと、を含む化粧品容器用漏れ止め構造であって、
前記本体は、収容空間を有し、前記収容空間には、電源ユニットと、前記電源ユニットと電気的に連接するモータと、連結具と、が設けられ、前記連結具は、前記本体の内部に回動可能に設けられ、前記モータに駆動可能であり、
前記ブラシロッドは、一端が前記連結具と同軸し前記連結具に連結され、他端にブラシヘッドが設けられ、
前記ビンは、液体収容チェンバーと、前記ビンの一端に設けられる開口と、を有し、前記ブラシロッドは前記開口を経由して前記液体収容チェンバーに挿入される一方、
前記ブラシロッドに密封ブッシュが設けられ、前記本体と前記ビンを結合するときには、前記密封ブッシュの前縁が前記開口に密着されることを特徴とする、化粧品容器用漏れ止め構造。」

(2)検討・判断
したがって、引用考案と本件登録実用新案1とは一致し、両者に相違する点はないから、本件登録実用新案1は引用考案である。

3 本件登録実用新案2と引用考案との対比、検討・判断
(1)対比
本件登録実用新案2と引用考案とを対比すると、その意味、構造または機能からみて、引用考案の「減速ギア」は本件登録実用新案2の「減速手段」に相当し、両者は上記一致点1に加え、「モータと連結具の間には、更に、減速手段が設けられる」点で一致する(以下「一致点2」という。)。

(2)検討・判断
したがって、引用考案と本件登録実用新案2とは一致し、両者に相違する点はないから、本件登録実用新案2は引用考案である。

4 本件登録実用新案3と引用考案との対比、検討・判断
(1)対比
本件登録実用新案3と引用考案とを対比すると、両者は上記一致点1で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点3)
本件登録実用新案3では「前記本体の側面にレールが設けられ、前記レールにスイッチが摺動可能に設けられ、前記スイッチは前記レールに沿って摺動し、これにより、前記スイッチは前記電源ユニットのオン・オフを切替えることができる」のに対して、引用考案は「蓋体(1)の外部に位置したロータリ式スイッチ(2)を回転させて電動式マスカラを作動させる」ものであって、上記のような構成は有していない点。

(2)検討・判断
電動式マスカラの技術分野において、本体の側面にレールが設けられ、レールにスイッチが摺動可能に設けられ、スイッチはレールに沿って摺動し、これにより、スイッチは電源ユニットのオン・オフを切替えることができるよう構成することは、周知の技術事項(例えば、登録実用新案第3153588号公報(請求人が提出した甲第4号証)の段落【0026】、図1?図3、特開2009-183341号公報(請求人が提出した甲第5号証)の段落【0012】、段落【0041】、図4、特開2005-95531号公報(請求人が提出した甲第6号証)の段落【0014】、図1、図5を参照)である。
したがって、引用考案において、蓋体(1)の外部に位置したロータリ式スイッチ(2)を回転させて電動式マスカラを作動させることに換えて、電動式マスカラという共通の技術分野に属し、電動式マスカラを作動させるという共通の機能を有するスイッチに係る上記周知の技術事項を採用し、上記相違点3に係る本件登録実用新案3の考案特定事項のようにすることは、当業者がきわめて容易に想到し得たことであり、そのように構成することによる作用効果も、引用考案及び上記周知の技術事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

5 本件登録実用新案4と引用考案との対比、検討・判断
(1)対比
本件登録実用新案4と引用考案とを対比すると、両者は上記一致点1及び上記一致点2で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点4)
本件登録実用新案4では「前記減速手段には、幾何形状断面シャフトが設けられ、前記連結具の末端には、幾何形状穴が設けられ、前記幾何形状断面シャフトが前記幾何形状穴に挿入され、そうすると、前記幾何形状断面シャフトは前記連結具と同期に回転することができる」のに対して、引用考案ではそのような限定がなされていない点。

(2)検討・判断
引用考案において、減速ギアと連結部材の連結態様は、当業者が適宜設計し得る事項である。また、マスカラの技術分野において、2つの部材を同期して回転するように連結するに際して、幾何形状断面シャフト及び幾何形状穴の組み合わせからなる連結態様を用いることは、周知の技術事項(例えば、国際公開第2006/132459号(請求人が提出した甲第1号証)の段落[62]、段落[81]、図8、図10、特開2009-183341号公報(請求人が提出した甲第5号証)の段落【0039】、段落【0040】、図1?図3、登録実用新案第3135131号公報(請求人が提出した甲第8号証)の段落【0007】、図1を参照)であって、2つの部材のいずれに幾何形状断面シャフト及び幾何形状穴を設けるかは、当業者が適宜選択し得る事項にすぎない。
したがって、引用考案において、減速ギアと連結部材の連結態様として、マスカラという共通の技術分野に属する上記周知の連結態様を採用し、減速ギアに幾何形状断面シャフトを、連結部材に幾何形状穴をそれぞれ設けることとし、上記相違点4に係る本件登録実用新案4の考案特定事項のようにすることは、当業者がきわめて容易に想到し得たことであり、そのように構成することによる作用効果も、引用考案及び上記周知の技術事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

6 本件登録実用新案5と引用考案との対比、検討・判断
(1)対比
本件登録実用新案5と引用考案とを対比すると、両者は上記一致点1に加え、「ブラシヘッドは、マスカラ又はグロスを付けるためのブラシである」点で一致する(以下「一致点5」という。)。

(2)検討・判断
したがって、引用考案と本件登録実用新案5とは一致し、両者に相違する点はないから、本件登録実用新案5は引用考案である。

7 本件登録実用新案6と引用考案との対比、検討・判断
(1)対比
刊行物1の「密閉部材(7)は、マスカラの揮発を防止すると同時に、容器(8)からブラシ(6)を抜き出すときに、ブラシに過度に付着しているマスカラ溶液を除去する役割を果たしており」の記載(上記「1」の記載事項(2)参照)、及び図2の記載からみて、引用考案の「密閉部材(7)」は、容器(8)の開口の内面に設けられるブッシュであるとともに、軸体(15)は「密閉部材(7)」を経由して液体収容チェンバーに挿入されるものであるといえ、また、引用考案は「蓋体(1)を容器(8)に閉じたときには、マスカラ溶液の揮発成分が外に揮発されないように軸体(15)の密閉片(151)の前縁が開口に設けられた密閉部材(7)を押圧する」ものであることから、本件登録実用新案6と引用考案とは、「開口の内面にブッシュが設けられ、ブラシロッドがブッシュを経由して液体収容チェンバーに挿入し、本体とビンを結合するときには、密封ブッシュの前縁がブッシュに密着される」点で共通する。
そこで、本件登録実用新案6と引用考案とを対比すると、両者は上記一致点1に加え、「開口の内面にブッシュが設けられ、ブラシロッドがブッシュを経由して液体収容チェンバーに挿入し、本体とビンを結合するときには、密封ブッシュの前縁がブッシュに密着される」点(以下「一致点6」という。)で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点6-1)
本件登録実用新案6では「更に、内ねじ付きブッシュを含み、前記内ねじ付きブッシュは、前記本体の前端に設けられ、内ねじを有し、前記開口の外面に外ねじが設けられ、前記外ねじが前記内ねじ付きブッシュの内ねじと螺合」するのに対して、引用考案ではそのような明示がなされていない点。
(相違点6-2)
開口の内面に設けられるブッシュが、本件登録実用新案6では「樹脂ブッシュ」であるのに対し、引用考案では材質が限定されていない点。

(2)検討・判断
(相違点6-1について)
マスカラの技術分野において、本体の前端に内ねじ付きブッシュを設けるとともに、開口の外面に外ねじを設けて、外ねじが内ねじ付きブッシュの内ねじと螺合するよう構成することは、周知の技術事項(例えば、特開2007-215987号公報(請求人が提出した甲第10号証)、特開2005-29243号公報(請求人が提出した甲第11号証)、特開2004-290300号公報(請求人が提出した甲第12号証)、実公平3-27532号公報(請求人が提出した甲第13号証)、特表2007-520249号公報(請求人が提出した甲第14号証)、実公昭63-18979号公報(請求人が提出した甲第15号証)を参照)である。
刊行物1の図2には、蓋体(1)が装着される容器(8)の開口の外面に外ねじのような部材を設ける様態が図示されているところ、引用考案において、マスカラという共通の技術分野に属する上記周知の技術事項を適用し、蓋体(1)の前端に内ねじ付きブッシュを設けるとともに、容器(8)の開口の外面に外ねじを設けて、外ねじが内ねじ付きブッシュの内ねじと螺合するよう構成し、上記相違点6-1に係る本件登録実用新案6の考案特定事項のようにすることは、当業者がきわめて容易に想到し得たことである。

(相違点6-2について)
引用考案において、密閉部材(7)の材質は、当業者が適宜設計し得る事項である。また、マスカラの技術分野において、ビンの開口の内面に設けられるブッシュの材質を「樹脂」とすることは、周知の技術事項(例えば、特開2005-29243号公報(請求人が提出した甲第11号証)の段落【0014】、段落【0015】、実公平3-27532号公報(請求人が提出した甲第13号証)の第2欄第20?22行、実公昭63-18979号公報(請求人が提出した甲第15号証)の第3欄第9?12行、特許第3001838号公報(請求人が提出した甲第16号証)の段落【0036】、段落【0051】、特開2004-173946号公報(請求人が提出した甲第17号証)の段落【0010】を参照)である。
したがって、引用考案において、密閉部材(7)の材料として上記周知の「樹脂」を選択し、上記相違点6-2に係る本件登録実用新案6の考案特定事項のようにすることは、当業者がきわめて容易に想到し得たことである。

そして、本件登録実用新案6による効果も、引用考案及び上記周知の技術事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

8 まとめ
以上のとおり、本件登録実用新案1、本件登録実用新案2及び本件登録実用新案5は、刊行物1に記載された考案であるから、実用新案法第3条第1項第3号に該当し、実用新案登録を受けることができないものである。また、本件登録実用新案3、本件登録実用新案4及び本件登録実用新案6は、刊行物1に記載された考案及び周知の技術事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。

第7 むすび
以上のとおり、本件実用新案登録の請求項1、2及び5に係る考案(本件登録実用新案1、本件登録実用新案2及び本件登録実用新案5)についての実用新案登録は、実用新案法第3条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、本件実用新案登録の請求項3、4及び6に係る考案(本件登録実用新案3、本件登録実用新案4及び本件登録実用新案6)についての実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものであるから、いずれも実用新案法第37条第1項第2号の規定に該当し無効とされるべきである。
審判に関する費用については、実用新案法第41条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審決日 2012-12-21 
出願番号 実願2009-7622(U2009-7622) 
審決分類 U 1 114・ 113- Z (A45D)
U 1 114・ 121- Z (A45D)
最終処分 成立    
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 関谷 一夫
高田 元樹
登録日 2010-01-06 
登録番号 実用新案登録第3156963号(U3156963) 
考案の名称 化粧品容器用漏れ止め構造  
代理人 加藤 恭子  
代理人 辰巳 忠宏  
代理人 宮川 美津子  
代理人 中塚 隆志  
代理人 江口 昭彦  
代理人 田中 崇公  
代理人 石堂 瑠威  

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