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審決分類 |
審判 B26B 審判 B26B 審判 B26B |
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管理番号 | 1289625 |
審判番号 | 無効2014-400001 |
総通号数 | 176 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 実用新案審決公報 |
発行日 | 2014-08-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2014-01-10 |
確定日 | 2014-07-09 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第3175461号実用新案「樹脂製容器のカッター」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 実用新案登録第3175461号の請求項1ないし5に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件実用新案登録第3175461号は、平成23年11月21日に出願された実願2011-7261号に係るものであって、その請求項1ないし5に係る考案(以下、「本件考案1」ないし「本件考案5」という。)について、平成24年4月18日に設定登録がなされた。 これに対して、平成26年1月10日に、本件考案1ないし5に係る実用新案登録に対して、本件無効審判請求人(以下、「請求人」という。)である竜興化学工業株式会社により本件無効審判(無効2014-400001号)が請求されたものであり、当審は、平成26年2月6日付けで、本件無効審判被請求人(以下、「被請求人」という。)である二渡勇美及び株式会社一進研究所に対し、相当の期間を指定して、本件無効審判請求に対する答弁書提出の機会を与えたが、どちらの被請求人からも答弁書は提出されなかった。 そして、請求人は、平成26年4月23日付けで、本件について書面審理を希望する旨の上申書を提出し、両被請求人は、平成26年4月27日付けで、口頭審理に出席する意思も、答弁する意思もない旨の上申書を提出したため、当審は、平成26年5月1日付けで、本件の審理を職権により書面審理とする旨、通知した。 第2.本件考案 本件考案1ないし5は、その実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次のとおりのものである。 「 【請求項1】 末端部を開閉できるようにした対の脚を略「V」字型状に配した握り手体と、上記脚の一方の内側に突出させて設けたカッター体よりなることを特徴とする樹脂製容器のカッター。 【請求項2】 上記請求項1に記載の樹脂製容器のカッターにおいて、前記脚の一方が、他方に対して少なくとも90度以上旋回運動できるようにしたことを特徴とする樹脂製容器のカッター。 【請求項3】 上記請求項1に記載の樹脂製容器のカッターにおいて、前記握り手体の接続部より外方向に突出させかつ、衆知のコーヒー缶等の蓋部に設けられた開放手段の環状部分に挿入して開放できるようにした棒状物を設けたことを特徴とする樹脂製容器のカッター。 【請求項4】 上記請求項1に記載の樹脂製容器のカッターにおいて、前記握り手体の適宜個所に磁力体を設けたことを特徴とした樹脂製容器のカッター。 【請求項5】 上記請求項1に記載の樹脂製容器のカッターにおいて、前記脚の何れかの一方の脚の先端部正面に雄鉤突起を設けかつ、この雄鉤突起と係合できる雌鉤突起を他方の脚の先端部正面に設けたことを特徴とする樹脂製容器のカッター。」 第3.当事者の主張 1.請求人の主張する請求の趣旨及び理由の概要 (審判請求書第2ページ第10ないし12行。なお、行数は空白行を含めない。) 請求人の主張する請求の趣旨は、本件考案1ないし5についての実用新案登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めるものであり、その請求の理由の概要は、次の無効理由1ないし7のとおりである。 (1)無効理由1(本件考案2の明確性要件違反) (審判請求書第11ページ第8行ないし第12ページ下から第3行) 本件考案2について、実用新案登録請求の範囲の請求項2には、脚の一方が、「他方に対して少なくとも90度以上旋回運動できる」としか記載されていないことから、樹脂製容器のカッターの脚における、「90度以上旋回運動できる」ためにどのような構成を備えているのか明確でなく、この記載のままでは、樹脂製容器のカッターとしてのまとまりのある一つの技術的思想としての考案を明確に把握することはできない。 考案の詳細な説明を参酌しても、本件考案2は、「大型あるいは高さが高い容器であっても、該容器の縁に沿って移動させることで簡単安全に蓋部を開放させ、内容物を取り出すことができたのである。」(段落【0011】)との顕著な効果を奏するための脚の構成として、脚の一方が、「他方に対して少なくとも90度以上旋回運動できる」としか記載されていないことから、その「90度以上旋回運動できる」との構成が明確でなく、この記載のままでは、樹脂製容器のカッターとしてのまとまりのある一つの技術的思想としての考案を明確に把握することはできない。 したがって、本件考案2は、その実用新案登録請求の範囲が、「実用新案登録を受けようとする考案が明確であること」(明確性要件)との要件を満たしていない実用新案登録出願に対してなされたものであり、実用新案法第5条第6項第2号の規定に違反するものであって、その実用新案登録は、同法第37条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。 (2)無効理由2(本件考案2の実施可能要件違反) (審判請求書第12ページ下から第2行ないし第14ページ第12行) 本件考案2の「脚の一方が、他方に対して少なくとも90度以上旋回運動できる」について、本件考案2の明細書の考案の詳細な説明において、その「90度以上旋回運動できる」に関する具体的な構成等は何ら記載されていない。 考案の詳細な説明の記載、及び図3、4の各記載を参照しても、本件考案2に係る「脚の一方が、他方に対して少なくとも90度以上旋回運動できる」に関する具体的な構成を把握することはできない。図3、4において、脚3に対する脚2の旋回運動が破線で示されているが、図3は平面説明図、図4は縦断面説明図であることから、これらの図面、考案の詳細な説明の記載のみからでは、その旋回運動を可能とするような構成を把握することはできない。 したがって、本件考案2は、その考案の詳細な説明が、「その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」(実施可能要件)との要件を満たしていない実用新案登録出願に対してなされたものであり、実用新案法第5条第4項の規定に違反するものであって、その実用新案登録は、同法第37条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。 (3)無効理由3(本件考案1の進歩性要件違反) (審判請求書第14ページ第13行ないし第18ページ第17行) 本件考案1は、甲第1号証(以下、「甲1」などという。)に記載された考案、及び周知慣用の技術手段に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、その実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (4)無効理由4(本件考案2の進歩性要件違反) (審判請求書第18ページ第18行ないし第21ページ下から第3行) 本件考案2は、甲1に記載された考案、周知慣用の技術手段、及び甲5に記載された考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、その実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (5)無効理由5(本件考案3の進歩性要件違反) (審判請求書第21ページ下から第2行ないし第25ページ第2行) 本件考案3は、甲1に記載された考案、周知慣用の技術手段、及び甲6に記載された考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、その実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (6)無効理由6(本件考案4の進歩性要件違反) (審判請求書第25ページ第3行ないし第28ページ第17行) 本件考案4は、甲1に記載された考案、及び各周知慣用の技術手段に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、その実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (7)無効理由7(本件考案5の進歩性要件違反) (審判請求書第28ページ第18行ないし第32ページ下から第7行) 本件考案5は、甲1に記載された考案、及び各周知慣用の技術手段に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、その実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 2.請求人の証拠方法 証拠方法として、審判請求書において以下の甲第1ないし10号証が提出されている。 甲第 1号証:実願昭46-46975号(実開昭48-6673号)のマイクロフィルム 甲第 2号証:実願昭63-160272号(実開平2-80497号)のマイクロフィルム 甲第 3号証:実願昭52-48565号(実開昭53-144471号)のマイクロフィルム 甲第 4号証:実願昭55-39338号(実開昭56-141113号)のマイクロフィルム 甲第 5号証:特開平9-253348号公報 甲第 6号証:実願昭54-118715号(実開昭56-38095号)のマイクロフィルム 甲第 7号証:特開2005-35657号公報 甲第 8号証:特開平11-1096号公報 甲第 9号証:実願平1-64699号(実開平3-3977号)のマイクロフィルム 甲第10号証:特開平9-754号公報 3.被請求人の主張 被請求人は、平成26年4月27日付け上申書において、本件について答弁する意思がない旨、述べている。 第4.無効理由1ないし2についての当審の判断 1.無効理由1(本件考案2の明確性要件違反) 請求人は、本件実用新案登録請求の範囲の請求項2における「脚の一方が、他方に対して少なくとも90度以上旋回運動できるようにしたこと」という記載からは、「90度以上旋回運動できる」ために、本件考案2がどのような構成を備えているのか明確に把握でない旨を主張している。 そこで、当該記載を検討すると、一般に「旋回」は、「ぐるりとまわること。ぐるぐるまわること。また、まわすこと。」(広辞苑第二版補訂版 昭和51年12月1日 岩波書店発行)をいうから、「90度以上旋回運動できる」とは、90度以上の角度にわたってまわる運動が可能であることを意味することは明らかであるし、当該運動は、角度の計測が可能な運動、すなわち回転中心が一定である円運動を前提としているといわざるを得ない。 そして、機械装置の技術分野において、一定の回転中心を有する円運動を実現する手段として、例えばピン軸を中心とするピボット運動手段や、いわゆるヒンジ手段など、複数の手段が存在することは、当業者にとって自明な事項といえる。 そうすると、本件実用新案登録請求の範囲の請求項2における「脚の一方が、他方に対して少なくとも90度以上旋回運動できるようにしたこと」という記載が、「少なくとも90度以上の角度にわたって回転中心が一定である円運動ができるようにしたこと」を意味し、そのような運動が可能な手段として、ピボット運動手段やヒンジ手段など、複数の手段が存在することが自明な事項であることから、本件実用新案登録請求の範囲の請求項2における「脚の一方が、他方に対して少なくとも90度以上旋回運動できるようにしたこと」という記載は、明確であり、実用新案法第5条第6項第2号の規定に違反するということはできない。 2.無効理由2(本件考案2の実施可能要件違反) 請求人は、本件の考案の詳細な説明及び図面に「90度以上旋回運動できる」に関する具体的な構成等は何ら記載されていない旨を主張している。 そこで、本件の考案の詳細な説明及び図面を参照すると、段落【0015】、段落【0020】ないし【0021】、及び図3ないし4には、以下の記載がある。 「 【0015】 【図1】本案樹脂製容器カッターの一実施例の全体斜視図。 【図2】握り手体の一部縦断面図。 【図3】他の実施例の握り手体の一部平面説明図。 【図4】同縦断面説明図。 【図5】他の実施例の握り手体の一部縦断面図。」 「 【0020】 図2および3に示した実施例の考案は、衆知の高さの高い「焼きそば」パックや比較的大幅のレトルトバック(6)を開放する樹脂製容器のカッターの実施例で、上記脚(2)(3)接続端の脚の一方を他方に対して少なくとも90度以上旋回運動できるようにしたものである。 【0021】 従って上記の「焼きそば」のパックの蓋を開放させるときは、両脚(2)(3)を90度開き、露出したカッター体(5)を焼きそばパックの縁に押し込み、同縁に沿って移動させることで簡単安全に蓋部を開放させ、内容物を取り出すことができるのである。」 (なお、段落【0020】の「図2および3」という記載は、「図3および4」の誤記と認める。) 図3 ![]() 図4 ![]() これらの記載を総合すると、図3の平面説明図には、左側の「○」を中心として、脚2と脚3とが角度をなしてずれていることが図示されているから、図3に示された実施例では、ピン軸を中心とするピボット運動手段が示されていると解することができる。また、図4の縦断面説明図には、左側の「○」を中心として、脚2と脚3とが約90度の角度をなしていることの図示があるから、図4に示された実施例では、いわゆるヒンジ手段が示されていると解することができる。また、これらのピボット運動手段やヒンジ手段が、いずれも「少なくとも90度以上旋回運動できるようにしたもの」であることは、明らかであるから、本件考案の詳細な説明及び図面に「90度以上旋回運動できる」に関する具体的な構成は記載されているということができ、本件考案の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができない程度に明確かつ十分に記載されていないということはできない。 したがって、本件の考案の詳細な説明は、実用新案法第5条第4項の規定に違反するものとはいえない。 第5.無効理由3ないし7についての当審の判断 1.各甲号証の記載事項、各甲号証記載の考案、及び各甲号証記載の技術的事項 (1)甲1の記載事項、及び甲1考案 ア.明細書第1ページ第4ないし8行 「中央部に於て折曲して形成した板バネの相対向する端縁部内面に、夫々内方に向つて膨出する突隆部を設けると共に、一方の突隆部に切刃を突設せしめ、他方の突隆部の前記切刃に対応する位置に刃受用凹陥部を設けて成る簡易カツター」 イ.明細書第1ページ第10ないし16行 「本考案は、婦人、子供等にあつても、極めて容易、安全且確実に、ビニール袋、紙袋等の袋体を開口することのできる簡易カツターに関する。 近年、菓子、食料品特にヒートパツクと称して、料理済みのカレー、シチユー等をビニール袋、ポリエチレン製袋等に一定量宛収容して販売する方法が盛んに普及し各方面に於て採用されている。」 ウ.明細書第3ページ第9ないし17行 「1は板バネで、燐青銅板を中央に於て曲折せしめたものである。然しこれは特に燐青銅板に限られるものではない。2,2は突隆部で、前記板バネ1の相対向する端縁部内面にあつて内方に向つて膨出せしめてある。3は切刃で、尖鋭な三角形状となしてあり、その少くとも一側に刃4を形成する。前記切刃3を一方の突隆部2に突設せしめ、これと相対向する他方の突隆部2には切刃に対応する位置に刃受用凹陥部5を設けてある。」 エ.明細書第4ページ第11行ないし第5ページ第1行 「斯かる構成から成る本考案簡易カツターの使用に当つては、先ず開口すべきビニール袋等の袋体10を両突隆部2,2間に挿入し、板バネ1の拡圧力に抗して親指と人差指とを近づけると、切刃3は袋体10を貫通して刃受用凹陥部中に嵌合する。 そして、両突隆部2,2の頂面が袋体10を挟持して衝合される。 然る後、本考案カツターを移動させるか又はカツターを持つた手を固定して袋体を他方の手で引張ることにより、切刃3の刃4により袋体10を開口することができる。」 オ.第1図 ![]() カ.第2図 ![]() キ.甲1考案 上記カ.に示す第2図を参照すると、中央に於いて曲折せしめた板バネ1の形状は、略「V」字型状であるといえる。 以上の摘記事項ア.ないしカ.及び認定事項を、技術常識をふまえて、本件考案1の記載に沿って整理すると、甲1には、次に示す考案(以下、「甲1考案」という。)が記載されているということができる。 「相対向する端縁部内面にある突隆部2、2を衝合できるように中央に於いて略「V」字型状に曲折せしめた板バネ1と、一方の突隆部2に突設させて設けた切刃3よりなる簡易カッター。」 (2)甲2の記載事項 ア.明細書第1ページ第5ないし10行 「細長い合成樹脂板を中央より折曲して主体1を形成し、両端2,2aの中央をRを施して指が自然と中央に位置できて、指の力を中央に集中し、且つ刃3は折曲線を施して一連に形成した刃を切断して2枚3a,3bを背か合わせにして取付け、押圧5にて固着して成る開封器。」 イ.明細書1ページ第18行ないし第2ページ第1行 「本考案は、はさみのように刃が出ていて危険で刃が表になくて封筒が開封でき、常に開いていて即座に使用ができる開封器を提供せんとするにある。」 ウ.明細書第2ページ第11ないし16行 「第1図は斜視図で主体1を、合成樹脂を中央より折曲して形成するもので、型により形成する。両端2,2aは外面を夫々一定の長さ肉厚に形成し、中央をRに彎曲して指の力が中央に集中できるように形成し、一方の内側には刃3を取付ける。」 (3)甲3の記載事項 なお、以下に摘示する甲3の記載事項において、<※1>及び<※2>の部分には、次の図形が入る。 <※1>の図形 ![]() <※2>の図形 ![]() ア.明細書第1ページ第5ないし9行 「<※1>形の樹脂の一方の先端部において、肉厚部から内側に向けて開口する<※2>状の窪みを穿設し、該窪み中に刃先が内側を向くように刃体を挿装し、これを別途設けた押し込み部品により固着すべく成した簡易カッター」 イ.明細書第1ページ第11ないし12行 「本考案は、菓子,食品類を封入したビニール袋等の開封用簡易カツターに関し、」 ウ.明細書第3ページ第8ないし13行 「図中1は刃体であり、2は該刃体1の刃先である。3は該刃体1を取り付けるべき<※1>形の樹脂本体、4は該樹脂本体3に刃体1を取り付ける際にこれを固定する為の縦断面<※2>形の押し込み部品、5は刃体1及び押し込み部品4を挿装する為の窪みである。」 (4)甲4の記載事項 ア.明細書第1ページ第4ないし14行 「プラスチツク製のU字状の弾性板の両先端部に圧着体を一体に形成し、この一方の圧着体の圧着面の先端部寄りの中心に切刃を圧着面より少し突出せしめて設けた開封用カツターにおいて、この圧着体の先端部寄り中心に抜け止め嵌着凹部を形成し、一方プラスチツク製にして、抜け止め嵌着凹部内に抜け止め状態で丁度良く嵌着される駒に嵌着溝を縦設し、この嵌着溝に三角形状の切刃を頂部を上向きにして嵌着し、この駒を圧着体の先端部より抜け止め嵌着凹部内に接着剤を介して嵌着止した事を特徴とする開封用カツター。」 イ.明細書第2ページ第2ないし6行 「最近台紙に商品を載置し、この商品をプラスチツク薄板で被着する包装が多用されている。 本考案はかかるる包装台紙を簡単に開封して商品を取り出すことが出来る便利な開封用カツターに係る」 (5)甲5の記載事項及び甲5考案 ア.第1欄第2ないし7行 「全体が細長く形成され、先端に袋のカッタ-部を有し、該カッタ-部から二本の細長い柄部が間隔をあけて平行に延び、両方の柄部を側方から押圧したときに柄部自身の弾性によって柄部の先端同士が圧接して袋を挾むことができる特徴とするレトルト食品の袋用オ-プナ-」 イ.第1欄第10ないし11行 「本発明は、レトルト食品の袋を切り開けるためのオ-プナ-に関する。」 ウ.第1欄第44行ないし第2欄第16行 「【発明の実施の態様】次に本発明の実施の態様を図面に従って説明する。本発明は、ほぼ同形状の板部1,2を重ね合わせ、その上部においてヒンジ3により開閉可能に結合して成る。一方の板部1は柄部4の先端にカッタ-部5が設けられている。カッタ-部5はU字形のスリット6を設けることにより平面に対して揺動可能な揺動片7が形成されている。揺動片7の表面には指当てボタン8が設けられ、内面には切断刃9が装着されている。また、ヒンジ3に沿って係止突起10が一体に設けられている。 【0007】他方の板部2は柄部11の先端にカッタ-部12が設けられている。このカッタ-部12は切断刃を有せず、突壁で囲われた窪み13が設けられている。両カッタ-部5,12でレトルト食品の袋14を挾んで指当てボタン8を押圧したときに、揺動片7が内方へ揺動して切断刃9が窪み13に入り込み、切断刃9と窪み13が協働して袋14を切り開ける作用をなす。また、ヒンジ3に沿って係止孔部15が設けられ、係止突起10と協働して板部1,2を閉じた状態で固定する作用をなす。係止突起10と係止孔部15の係止状態はいつでも解除することができ、更に再び係止することができるから、板部1,2を開いて内面を掃除することができる。」 エ.図1 ![]() オ.図5 ![]() カ.図8 ![]() キ.甲5考案 上記オ.に摘示する図5には、板部1、2を開いた状態が示されており、ヒンジ3を中心とする開き角度は180度であるといえる。 また、上記ウ.に摘示する「ヒンジ3により開閉可能」という記載における開閉動作は、「旋回運動」にほかならない。 以上の摘記事項ア.ないしカ.及び認定事項を、技術常識をふまえて、本件考案2の記載に沿って整理すると、甲5には、次に示す考案(以下、「甲5考案」という。)が記載されているということができる。 「開閉できるようにした対の板部1、2を有し、上記板部の一方の内側に突出させて設けた切断刃9よりなるレトルト食品の袋用オープナーにおいて、前記板部の一方が、他方に対して180度旋回運動できるようにしたレトルト食品の袋用オープナー。」 (6)甲6の記載事項及び甲6考案 ア.明細書第1ページ第5ないし13行 「中央部に栓抜用孔11を有し一端に缶蓋抉じ開け用舌片12を他端に刃部13を突設した栓抜体Aと、この栓抜体Aの刃部13を収納する把つ手兼用ホルダーBとからなり、上記栓抜体AはホルダーB上より刃部13を貫通する固定用螺子30によつて該ホルダーBに螺締できるように構成し、かつ上記ホルダーBには刃部13の挿入反対側端に開口し刃部13の刃先部位に達する切溝21を設けてなる開封具。」 イ.明細書第1ページ第15行ないし第2ページ第14行 「本考案は開封具、主に台所にて飲食品を収納したビン、缶、袋を開口するための開封具に係るものである。 近時、レトルト食品及び食品の袋詰めが普及したため、台所にて袋を切るハサミが台所必需品となつている。しかし、このハサミは意外と収納スペースを要するもので、引出し内でハサミが開いてホーク・スプーン等の他の引出し内収納物と絡まり合つてしまう等の欠点を有している。 そこで、本考案は上記欠点にかんがみなされたもので、袋の開封をハサミに変えてナイフ状刃物で行なわしめ平面的でコンパクトな開封具を製造せんとしたものである。また、本考案は上記袋の開封に加え、栓抜及び缶蓋抉じ開け用にも兼用できる多目的な開封具を製造せんとしたものである。」 ウ.明細書第3ページ第3行ないし第4ページ第10行 「栓抜体Aは、中央部に栓抜用孔11を有するとともに、一端には缶蓋抉じ開け用舌片12を他端には刃部13を突設してなる。 上記栓抜体Aは、その刃部13を後述ホルダーBの一端より挿入して該ホルダーB内に収納され、該ホルダーBに保持される。なお、栓抜体AとホルダーBとの連結は、ホルダーB内に刃部13を収納した後、該ホルダーB上より刃部13を貫通する固定用螺子30によつて、栓抜体AがホルダーBに螺締されるようになつている。 ホルダーBは、前述のごとく一端より栓抜体Aの刃部13を挿入収納できるようになつているとともに、栓抜の把つ手として兼用できる形状になつている。また、このホルダーBには、刃部13の挿入反対側端に開口し刃部13の刃先部位に達する切溝21を設けてなり、該切溝21内に図示しない袋の端部を挿入して刃部13の刃先で袋端部を切断することができるようになつている。 本案開封具は、上記のごとき構造よりなるため、ホルダーBを把つ手として、缶蓋を抉じ開け、また王冠の栓抜として使用できる。 また、袋の端を切り取るには、切溝21内に袋の端部を挿入して袋又は本案開封具を動かせば、刃先で袋の端部を切り取ることができる。」 エ.第1図 ![]() オ.第2図 ![]() カ.甲6考案 以上の摘記事項ア.ないしオ.を、技術常識をふまえて、本件考案3の記載に沿って整理すると、甲6には、次に示す考案(以下、「甲6考案」という。)が記載されているということができる。 「ホルダーBと、ホルダーBに設けた栓抜体A及び刃部13よりなる開封具において、栓抜体Aより外方向に突出させかつ、缶蓋を抉じ開けることができるようにした缶蓋抉じ開け用舌片12を設けた開封具。」 (7)甲7の記載事項及び甲7記載の技術的事項 なお、甲7の記載箇所の指摘においては、行数は空白行を含む。 ア.第2ページ第16行 「本発明は、袋を開封するためのカッターに関するものである。」 イ.第2ページ第39ないし44行 「以下、本発明の第一実施例について図1、2、3、4、5、6を用いて説明する。図1、2のように上押え板(1)と下押え板(2)が連結部(3)を介して弾性を有して折り曲げ可能に構成された挟持体の内側の対向する位置にそれぞれ突出し先端に凹凸のあるゴム製の袋固定部(4)を設け、それと同じ高さの上方に向いたカッター刃(5)を内側先端部に設け、下押え板(2)外面に磁石(7)を備えた構造となっている。本発明は以上の構造よりなる。」 ウ.第3ページ第1ないし5行 「磁石(7)は冷蔵庫などの金属部にはりつけて保管するためものであり、指掛け(8)は使用時の落下防止と本発明の開閉を機能的にするものである。又、図3、4は本発明の他の実施例であり押え板内面側端部にもカッター刃(4)を備え、側面には磁石(7)を外面に指掛け(8)を設けたものである。」 エ.甲7記載の技術的事項 以上の摘記事項ア.ないしウ.を、技術常識をふまえて整理すると、甲7には、次に示す技術的事項(以下、「甲7記載の技術的事項」という。)が記載されているということができる。 「カッターに磁石を取り付け、冷蔵庫などの金属部にはりつけて保管すること。」 (8)甲8の記載事項及び甲8記載の技術的事項 ア.第1欄第2ないし12行 「ばねまたは素材自体の弾性を用いて対向する板の間にビニールや紙等のシート状物品を挟むクリップであって、対向する板の一方に該板を貫通する切込みにより舌状の部分が形成してあり、この舌状の部分にクリップ内部を向いた、不使用時には挟み込み面に達せず使用時には達する長さの刃が設けてあるとともに、対向する板それぞれの先端部が該板よりも厚くなっているか、または先端部が折り返しになっていて該刃を挿入する孔が設けられているカッター付きクリップ。 【請求項2】 永久磁石を取り付けた請求項1に記載のカッター付きクリップ。」 イ.第1欄第17ないし19行 「この発明は、食品入りビニール袋や封筒の開封および開封後の保存に用いるカッター付きクリップに関する。」 ウ.第3欄第1ないし3行 「対向部2には永久磁石14が設備してあり、クリップを冷蔵庫等の金属面に固定できるようになっている。」 エ.第3欄第19ないし20行 「使用しないときは磁石により冷蔵庫等の表面に付けておけば無くすこともない。」 オ.甲8記載の技術的事項 以上の摘記事項ア.ないしエ.を、技術常識をふまえて整理すると、甲8には、次に示す技術的事項(以下、「甲8記載の技術的事項」という。)が記載されているということができる。 「カッター付きクリップに永久磁石を取り付け、使用しないときは冷蔵庫等の表面に付けておくこと。」 (9)甲9の記載事項及び甲9記載の技術的事項 ア.明細書第1ページ第4ないし14行 「対向面の向い合う位置にチューブ状外被の外径に適合する横断面半円形状のガイド溝をそれぞれ有し、一端側において枢支結合される一対のアームと、これらアームの各ガイド溝にあって該アーム間を閉じたときにチューブ状外被の周方向にわたってほぼ肉厚分だけ切り込み、剥離の際にはチューブ状外被の切込面を刃先の裏側で端末方向に押圧する片刃状の対の切刃と、前記一対のアームの他端側に設けられ剥離時にそれらアームを閉じた状態に保持するロック手段を備えるチューブ状外被の剥離器。」 イ.明細書第1ページ第17ないし19行 「この考案は、多層チューブの外層やケーブルの保護外被などのチューブ状外被を剥ぎ切るための剥離器に関する。」 ウ.明細書第6ページ第8行ないし第7ページ4行 「図示のチューブ状外被の剥離器1では、一対のアーム2,3がピン4を支点とする相互の開閉が可能となるようにその一端側においてピン4により枢着されると共に、アーム2,3のそれぞれ他端側にはフック5と掛止ピン6がロック手段として設けられ、これにより両アーム2,3は閉じた状態(第2図)に保持されるようになっている。なお、この実施例では、両アーム2,3間にバネ(図示せず)を介在させて、アーム2,3が常時は開くように付勢されている。 さらに、両アーム2,3の対抗面2a,3aには、剥離すべきチューブ状外被の外径に適合するニ組の横断面半円形状のガイド溝2b,2c,3b,3cがそれぞれ対向位置に形成され、そしてこれらガイド溝2b,2c,3b,3cには、凹状半円形の刃先を有するニ組の切刃7,7と8,8がそれぞれ対向するように配置されている。」 エ.甲9記載の技術的事項 以上の摘記事項ア.ないしウ.を、技術常識をふまえて整理すると、甲9には、次に示す技術的事項(以下、「甲9記載の技術的事項」という。)が記載されているということができる。 「相互の開閉が可能な一対のアーム2、3の対向面2a、3aに切刃7、7を配置したチューブ状外被の剥離器において、アーム2、3にそれぞれフック5と掛止ピン6をロック手段として設けること。」 (10)甲10の記載事項及び甲10記載の技術的事項 ア.第1欄第2ないし13行 「先端部分に対向させて設けたカッタ刃とチューブ受け部とを有し、基端において回動可能に枢支さればねによって先端が所定の角度開口するように付勢された一対のボディを備え、これらのボディに設けた押切部相互の押圧によってカッタ刃がチューブ受け部に載置したチューブを切断するチューブカッタにおいて、 上記一対のボディに、チューブの切断位置においてこれらのボディの先端を閉口状態にロックするロック機構を設け、 上記ロック機構によるロックを解除するためのロック解除片を、押切部を押圧する指の腹が当接する位置に設けた、ことを特徴とするロック機構付きチューブカッタ。」 イ.第1欄第34ないし36行 「本発明は、一対のボディの先端を閉口状態にロックするためのロック機構を有するチューブカッタに関するものである。」 ウ.第5欄第16ないし26行 「押切部29における刃取付部32と対向する箇所には、幅方向の全部にチューブ受け部36が形成されており、このチューブ受け部36は、正面視ほぼV字状で受け部36と同じ幅のチューブ載置部36aと、幅方向中央のカッタ刃33の刃が挿入される刃受け溝37とを備えている。また、ボディ23には、ロックレバー38とガイドバー39,39(図7も参照)が立設されている。このロックレバー38は、可撓性を有する脚部40と、その先端のロック解除片41とを備え、ロック解除片41の表面(押圧面)は、先端側が10?20度傾斜して低くされている。」 エ.第7欄第13ないし22行 「本発明のチューブカッタは、押切部の押圧によってチューブを切断すると、ロック機構が作動してボディの先端が閉口状態にロックされるために、ロック操作が簡単で熟練度に関係なくロック忘れがないので、作業者の不注意な取扱による受傷を確実に防止することができる。また、ロック機構を、押切部を押圧する指の腹で押圧できる位置に設けたことによって、ロック解除のためにカッタを持ち替えたりする必要がないので、ロックの解除操作が容易で、ロック解除のための作業者の負担も殆どない。」 オ.甲10記載の技術的事項 以上の摘記事項ア.ないしエ.を、技術常識をふまえて整理すると、甲10には、次に示す技術的事項(以下、「甲10記載の技術的事項」という。)が記載されているということができる。 「回動可能な一対のボディの先端部分にカッタ刃を有するチューブカッタにおいて、ボディの先端を閉口状態にロックするためのロック機構を設けること。」 2.無効理由3(本件考案1の進歩性要件違反) (1)本件考案1と甲1考案との対比 上記第2.に示す本件考案1と、上記1.(1)キ.に示す甲1考案とを対比すると、甲1考案の「相対向する端縁部内面にある突隆部2、2」が、本件考案1の「末端部」に相当することは明らかであり、同様に「衝合できるように」が「開閉できるように」に相当する。 また、上記1.(1)エ.に摘示する「板バネ1の拡圧力に抗して親指と人差指とを近づける」という記載からみて、甲1考案の「板バネ1」は、少なくとも親指と人差し指とで支えられるから、甲1考案の「中央に於いて略「V」字型状に曲折せしめた板バネ1」は、本件考案1の「対の脚を略「V」字型状に配した握り手体」に相当する。 また、甲1考案の「一方の突隆部2に突設させて設けた切刃3」が、本件考案1の「脚の一方の内側に突出させて設けたカッター体」に相当することは明らかである。 そして、甲1考案の「簡易カッター」は、「カッター」という点で、本件考案1の「樹脂製容器のカッター」と共通する。 以上から、本件考案1と甲1考案とは、以下の点で一致し、また相違する。 <一致点> 両考案は、いずれも「末端部を開閉できるようにした対の脚を略「V」字型状に配した握り手体と、上記脚の一方の内側に突出させて設けたカッター体よりなるカッター」である点。 <相違点1> 本件考案1のカッターは、「樹脂製容器のカッター」であるのに対して、甲1考案のカッターは、「簡易カッター」である点。 (2)相違点1の判断 本件考案1における「樹脂製容器のカッター」という特定は、カッターの使用対象を樹脂製の容器に限定する意味であることは、文言上明らかである。 そして、甲1考案のカッターは、上記1.(1)エ.に示すように、主に袋体を開口する用途に用いられるところ、上記1.(1)イ.には「近年、菓子、食料品特にヒートパツクと称して、料理済みのカレー、シチユー等をビニール袋、ポリエチレン製袋等に一定量宛収容して販売する方法が盛んに普及し各方面に於て採用されている」と記載されているから、甲1考案の簡易カッターが開口しようとする袋体には、料理済みのカレー、シチュー等を一定量ずつ収容したビニール袋、ポリエチレン製袋が含まれると解することができ、ビニール袋、ポリエチレン製袋が、樹脂製の容器であることは技術常識である。 以上から、甲1考案の「簡易カッター」の使用対象を「樹脂製容器」に限定して、本件考案1と同様に「樹脂製容器のカッター」とすることは、当業者がきわめて容易に想到できた事項である。 (3)無効理由3のまとめ 以上のとおりであるから、本件考案1は、甲1考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、その実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 3.無効理由4(本件考案2の進歩性要件違反) (1)本件考案2と甲1考案との対比 上記第2.に示すとおり、本件考案2は本件考案1を引用する考案であるから、本件考案2と甲1考案とを対比すると、両考案は、上記2.(1)に示す<一致点>で一致し、<相違点1>で相違するほかに、以下の点で相違する。 <相違点2> 本件考案2のカッターは、「脚の一方が、他方に対して少なくとも90度以上旋回運動できるようにした」ものであるのに対して、甲1考案のカッターは、そのようなものではない点。 (2)各相違点の判断 ア.相違点1 相違点1については、上記2.(2)に説示するとおり、甲1考案の「簡易カッター」の使用対象を「樹脂製容器」に限定して、本件考案2と同様に「樹脂製容器のカッター」とすることは、当業者がきわめて容易に想到できた事項である。 イ.相違点2 上記1.(5)キ.に示す甲5考案と本件考案2とを対比すると、甲5考案の「切断刃9」が、本件考案2の「カッター体」に相当することは明らかである。また、レトルト食品の袋が樹脂製であることは、技術常識であるから、甲5考案の「レトルト食品の袋用オープナー」は、本件考案2の「樹脂製容器のカッター」に相当する。また、甲5考案の「開閉できるようにした対の板部1、2」は、「開閉できるようにした対の脚」という点で、本件考案2の「末端部を開閉できるようにした対の脚を略「V」字型状に配した握り手体」と共通し、甲5考案の「180度旋回運動できるようにした」ことが、本件考案2の「少なくとも90度以上旋回運動できるようにした」ことに相当することは、明らかである。 そうすると、甲5考案を本件考案2の用語を用いて表現すると、 「開閉できるようにした対の脚を有し、上記脚の一方の内側に突出させて設けたカッター体よりなる樹脂製容器のカッターにおいて、前記脚の一方が、他方に対して少なくとも90度以上旋回運動できるようにした樹脂製容器のカッター。」 ということができ、「脚の一方が、他方に対して少なくとも90度以上旋回運動できるようにした」ことは、甲5考案に示されている。 そして、甲1考案の簡易カッターの使用対象には、上記2.(2)に説示するとおり、料理済みのカレー、シチュー等を一定量ずつ収容したビニール袋、ポリエチレン製袋が含まれているところ、これらの袋は、甲5考案でいう「レトルト食品の袋」にほかならないから、甲1考案の簡易カッターと、甲5考案のレトルト食品の袋用オープナーとは、その使用対象が共通している。 また、甲5考案のレトルト食品の袋用オープナーは、上記1.(5)ウ.に摘示する記載からみて、脚に相当する板部1、2を開くことにより、その内面を掃除することができるものであるところ、甲1考案の簡易カッターの使用対象はレトルト食品の袋であって、当業者であれば、食品に接する機会のある甲1考案の簡易カッターを清潔な状態に保つように考慮するはずであるから、甲1考案の簡易カッターに甲5考案を適用しようと試みるはずである。 したがって、甲1考案のカッターにおいて、脚の一方が、他方に対して少なくとも90度以上旋回運動できるようにしたことは、甲1考案及び甲5考案に基づいて、当業者がきわめて容易に想到できた事項である。 (3)無効理由4のまとめ 以上のとおりであるから、本件考案2は、甲1考案及び甲5考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、その実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 4.無効理由5(本件考案3の進歩性要件違反) (1)本件考案3と甲1考案との対比 上記第2.に示すとおり、本件考案3は本件考案1を引用する考案であるから、本件考案3と甲1考案とを対比すると、両考案は、上記2.(1)に示す<一致点>で一致し、<相違点1>で相違するほかに、以下の点で相違する。 <相違点3> 本件考案3のカッターは、「握り手体の接続部より外方向に突出させかつ、衆知のコーヒー缶等の蓋部に設けられた開放手段の環状部分に挿入して開放できるようにした棒状物を設けた」ものであるのに対して、甲1考案のカッターは、そのようなものではない点。 (2)各相違点の判断 ア.相違点1 相違点1については、上記2.(2)に説示するとおり、甲1考案の「簡易カッター」の使用対象を「樹脂製容器」に限定して、本件考案3と同様に「樹脂製容器のカッター」とすることは、当業者がきわめて容易に想到できた事項である。 イ.相違点3 上記1.(6)カ.に示す甲6考案と本件考案3とを対比すると、甲6考案の「刃部13」が、本件考案3の「カッター体」に相当することは明らかである。 また、甲6考案の「開封具」は、「少なくとも袋を開封する器具」という点で、本件考案2の「樹脂製容器のカッター」と共通する。 また、甲6考案の「缶蓋を抉じ開けることができるようにした缶蓋抉じ開け用舌片12」は、缶の蓋を開放するという機能からみて、本件考案3の「衆知のコーヒー缶等の蓋部に設けられた開放手段の環状部分に挿入して開放できるようにした棒状物」に相当する。 そうすると、甲6考案を本件考案3の用語を用いて表現すると、 「ホルダーと、ホルダーに設けた栓抜体及びカッター体よりなる少なくとも袋を開封する器具において、栓抜体より外方向に突出させかつ、衆知のコーヒー缶等の蓋部に設けられた開放手段の環状部分に挿入して開放できるようにした棒状物を設けた少なくとも袋を開封する器具。」 ということができ、「衆知のコーヒー缶等の蓋部に設けられた開放手段の環状部分に挿入して開放できるようにした棒状物」は、甲6考案に示されている。 そして、上記1.(6)イ.に示すように、甲6考案は、「レトルト食品及び食品」を収容した袋の開封具であって、その解決課題の一つは、「袋の開封に加え、栓抜及び缶蓋抉じ開け用にも兼用できる多目的な開封具」を提供することである。これに対して、甲1考案の簡易カッターの使用対象は、上記2.(2)で説示するように、料理済みのカレー、シチュー等を一定量ずつ収容したビニール袋、ポリエチレン製袋、すなわちレトルト食品の樹脂袋であるから、甲1考案の簡易カッターと甲6考案の開封具とは、レトルト食品の袋を開封する器具として共通する。 甲1考案の簡易カッターにおいても、缶蓋抉じ開け用にも兼用できれば、それだけ利便性が高まることは明らかであるから、甲1考案及び甲6考案に接した当業者であれば、甲1考案の簡易カッターに、甲6考案の「衆知のコーヒー缶等の蓋部に設けられた開放手段の環状部分に挿入して開放できるようにした棒状物」を適用しようと試みるはずである。 したがって、甲1考案のカッターに「握り手体の接続部より外方向に突出させかつ、衆知のコーヒー缶等の蓋部に設けられた開放手段の環状部分に挿入して開放できるようにした棒状物を設け」るように構成したことは、当業者がきわめて容易に想到できた事項である。 (3)無効理由5のまとめ 以上のとおりであるから、本件考案3は、甲1考案及び甲6考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、その実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 5.無効理由6(本件考案4の進歩性要件違反) (1)本件考案4と甲1考案との対比 上記第2.に示すとおり、本件考案4は本件考案1を引用する考案であるから、本件考案4と甲1考案とを対比すると、両考案は、上記2.(1)に示す<一致点>で一致し、<相違点1>で相違するほかに、以下の点で相違する。 <相違点4> 本件考案4のカッターは、「握り手体の適宜個所に磁力体を設けた」ものであるのに対して、甲1考案のカッターは、そのようなものではない点。 (2)各相違点の判断 ア.相違点1 相違点1については、上記2.(2)に説示するとおり、甲1考案の「簡易カッター」の使用対象を「樹脂製容器」に限定して、本件考案4と同様に「樹脂製容器のカッター」とすることは、当業者がきわめて容易に想到できた事項である。 イ.相違点4 上記1.(7)エ.に示す甲7記載の技術的事項や、上記1.(8)オ.に示す甲8記載の技術的事項に例示するように、カッターに永久磁石を取り付けて、カッターを使用しない際に永久磁石を介して冷蔵庫などの金属部にカッターをはり付けておくことは、従来から周知の技術的事項である。 そして、甲1考案の簡易カッターは、カレー、シチュー等を一定量ずつ収容したビニール袋、ポリエチレン製袋を使用対象とするものであるから、食品を保存する冷蔵庫が近接する環境で使用されるということができ、使用しないときには冷蔵庫等の金属面に固定して保管することができれば、利便性がより向上することは明らかである。 したがって、甲1考案及び上記周知の技術的事項に接した当業者であれば、甲1考案の簡易カッターに永久磁石、すなわち磁力体を設けようと試みるはずであるし、カッターのどの部分に磁力体を設けるかは、適宜に決定すればよい程度の事項であるから、甲1考案のカッターの「握り手体の適宜個所に磁力体を設けた」構成とすることは、当業者がきわめて容易に想到できた事項である。 (3)無効理由6のまとめ 以上のとおりであるから、本件考案4は、甲1考案及び周知の技術的事項に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、その実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 6.無効理由7(本件考案5の進歩性要件違反) (1)本件考案5と甲1考案との対比 上記第2.に示すとおり、本件考案5は本件考案1を引用する考案であるから、本件考案5と甲1考案とを対比すると、両考案は、上記2.(1)に示す<一致点>で一致し、<相違点1>で相違するほかに、以下の点で相違する。 <相違点5> 本件考案5のカッターは、「脚の何れかの一方の脚の先端部正面に雄鉤突起を設けかつ、この雄鉤突起と係合できる雌鉤突起を他方の脚の先端部正面に設けた」ものであるのに対して、甲1考案のカッターは、そのようなものではない点。 (2)各相違点の判断 ア.相違点1 相違点1については、上記2.(2)に説示するとおり、甲1考案の「簡易カッター」の使用対象を「樹脂製容器」に限定して、本件考案5と同様に「樹脂製容器のカッター」とすることは、当業者がきわめて容易に想到できた事項である。 イ.相違点5 上記1.(9)エ.に示す甲9記載の技術的事項や、上記1.(10)オ.に示す甲10記載の技術的事項に例示するように、開閉する部材の対向面に刃を有する器具において、開閉する部材にロック手段を設けることは、従来から周知の技術的事項であるし、ロック手段として、甲9記載の技術的事項に例示する「フック5と掛止ピン6」、すなわち雄鉤突起と係合できる雌鉤突起が存在することも、周知の技術的事項である。 そして、甲1考案の簡易カッターは、開閉する部材である板バネ1の内面に切刃3を有しているから、上記の周知の技術的事項に接した当業者であれば、甲1考案の簡易カッターに雄鉤突起や雌鉤突起からなるロック手段を適用しようと試みるはずであるし、それらのロック手段を、開閉する部材である板バネ1のどの部分に設けるかは、当業者が適宜に決定すればよい程度の事項にすぎない。 したがって、甲1考案のカッターの脚の何れかの一方の脚の先端部正面に雄鉤突起を設けかつ、この雄鉤突起と係合できる雌鉤突起を他方の脚の先端部正面に設けるように構成したことは、当業者が極めて容易に想到できた事項である。 (3)無効理由7のまとめ 以上のとおりであるから、本件考案5は、甲1考案及び上記の各周知の技術的事項に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、その実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 第6.むすび したがって、本件考案1ないし本件考案5は、いずれも実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、その実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、実用新案法第41条が準用する特許法第169条第2項においてさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-05-14 |
結審通知日 | 2014-05-16 |
審決日 | 2014-05-30 |
出願番号 | 実願2011-7261(U2011-7261) |
審決分類 |
U
1
114・
121-
Z
(B26B)
U 1 114・ 537- Z (B26B) U 1 114・ 536- Z (B26B) |
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
石川 好文 |
特許庁審判官 |
久保 克彦 刈間 宏信 |
登録日 | 2012-04-18 |
登録番号 | 実用新案登録第3175461号(U3175461) |
考案の名称 | 樹脂製容器のカッター |
代理人 | 幸長 保次郎 |
代理人 | 赤堀 孝 |
代理人 | 特許業務法人スズエ国際特許事務所 |
代理人 | 梶井 良訓 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 山本 雄介 |