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審決分類 |
審判 判定 同一 属する(申立て不成立) A45D |
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管理番号 | 1300577 |
判定請求番号 | 判定2014-600054 |
総通号数 | 186 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 実用新案判定公報 |
発行日 | 2015-06-26 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2014-11-09 |
確定日 | 2015-05-16 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第3116256号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号の現物の繰り出し容器は、登録第3116256号実用新案の技術的範囲に属する。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 本件判定の請求の趣旨は、イ号の現物の繰り出し容器(以下これを「イ号物件」という。)は、登録実用新案第3116256号に係る考案の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。 第2 手続の経緯及び本件考案 1 手続の経緯 平成17年 8月30日 本件実用新案登録出願 (実願2005-7112号) 平成17年10月19日 設定登録 (実用新案登録第3116256号) 平成26年11月 9日 請求人・太田悦嗣による本件判定請求 平成26年12月11日 被請求人・洽興塑膠廠股▲ふん▼有限公司 宛て判定請求書副本送付 平成27年 1月26日 請求人手続補正書提出 平成27年 4月23日 当審による審尋 平成27年 4月28日 請求人手続補正書提出 2 本件考案 本件登録実用新案3116256号の実用新案登録請求の範囲の請求項1及び2に係る考案(以下「本件考案1」及び「本件考案2」という。また、これらをまとめて単に「本件考案」ということがある。)は、明細書、実用新案登録請求の範囲及び図面の記載からみて、構成要件ごとに分説すると(以下「構成要件A」などという。)次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 A 主に内管を含み、 B 該内管底部は回転台と相互に連結し、 C 該内管両側にはそれぞれスライド槽を形成し、外側に嵌設する嵌合管上の螺旋導入槽に対応し、 D 該内管の中空内部には口紅本体を設置する充填台を組合せ、該内管の回転により口紅の昇降を形成し、 E 該内管底部と該回転台が相互に接続する周囲縁上には、数個の突出配列する弾性係合固定片を等分に設置し、 F 該嵌合管により外側を覆う時、該係合固定片の突出により、嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し、該2個の管面間は適当な間隙を保持し、一定の摩擦阻害力を達成し、円滑な回転制御を確保する G ことを特徴とする口紅ケース内管の回転制御構造。 【請求項2】 H 前記弾性係合固定片は薄片状で適当な高さの突出設計を呈し、挿入組立て後は適当に傾斜湾曲し緊密に固定される構造を形成することを特徴とする請求項1記載の口紅ケース内管の回転制御構造。」 上記認定において、本件実用新案登録請求の範囲の請求項1には「・・・数個の突出排列する弾性係合固定片・・・」と記載されているが、「突出排列」は「突出配列」の明らかな誤記と認め、上記のように本件考案1を認定した。 また、上記分説は当審にて付したものである。 第3 イ号物件等 1 請求人が提出した証拠方法 (1)証拠方法の概要 請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 甲1号証 イ号図面の写し 甲2号証 株式会社大阪環境技術センターによる「分析結果報告書」 甲3号証 株式会社ジェイアール西日本伊勢丹の領収書の写し 甲4号証 イ号物件 甲5号証 口紅容器 甲6号証 判定2010-600036号の判定書の写し なお、甲4号証のイ号物件には写真撮影報告書も添付されている。(写真撮影報告書を本判定書の末尾に示す。) また、平成27年4月28日手続補正書にて、平成23年(行ケ)10381号審決取消訴訟事件の判決の写し及び同事件の上告受理申立不受理の決定調書の写しが添付されている。 2 請求人の主張 (1)イ号物件に関する請求書の記載 請求人は、平成26年11月9日付け判定請求書に、イ号の現物(甲4号証)及びその写真撮影報告書写を添付しているが、イ号説明書は添付していない。しかし、平成27年1月26日付け手続補正書により補正された判定請求書において、イ号説明書に相当するところの以下の記載がある。(なお、以下において、行数は空行を含まない。) 「(4)イ号物件の説明(現物について) イ号物件は口紅等を収容する化粧料容器であって、次の構成を有している。尚、(イ号部件現物(当審注:「イ号物件現物」の誤記)(甲4号証)は、2012年5月17日、株式会社ジェイアール西日本伊勢丹で購入した。領収書(甲3号証)) (4-1)上下方向に2本のスリットが設けられた筒状の内側部材で、水平方向に突出する変形可能な突片部が非等分位置に設けられ、突片部より下方には径方向にせり出した土台部を有する。 (4-2)内周面に上下方向に2本の螺旋状妬凹部(当審注:「螺旋状凹部」の誤記)が設けられ、下部には突片部に当接する係合面が設けられた筒状の外側部材を有する。 (4-3)内側部材は外側部材内に相対回転可能に収納され、係合面が設けられた外側部材の下部は、内側部材の土台部に対向配置されている。 (4-4)2つの凸部を側面に有する筒状の皿部材を有する。 (4-5)皿部材は内側部材に収納され、皿部材の2つの凸部は内側部材のそれぞれのスリットを貫通し、外側部材の螺旋状凹部に係合する。 (4-6)上記(5)の構造を有することにより、外側部材に対して内側部材を相対回転させることにより皿部材は内側部材内を螺旋状凹部に沿って上下方向に移動する。 (4-7)内側部材の4つの突片部は容易に変形させることが出来るもので、内側部材に外側部材部材(当審注:「外側部材」の誤記)に収容する際に、突変部は外側部材に下方向に押し倒され変形している。 (4-8)押し倒された内側部材の4つの突片部は、内側部材が外側部材に収納されている状態において、外側部材の係合面に当接し、変形しかつ折れ曲がっている。 (4-9)外側部材の内周面に当接しかつ押し倒され変形して折れ曲がっている内側部材の4つの突片部は、内側部材が外側部材から取りは出された(当審注:「取り出された」の誤記)時においても折れ曲がっている。また、突片部の内側部材近傍には応力が作用した痕跡が見られる。 ![]() (4-10)内側部材の表面には潤滑剤が塗布されている。(甲2号証) (4-11)外側部材には、外周面を形成するアルミ製の管部材が被せられている。」(平成27年1月26日付け手続補正書第2ページ第1行?第3ページ末行) (2)イ号物件の本件実用新案の技術範囲の属否に関する主張 ア イ号物件の突片部の形状について 本件考案1の構成要件Fは、「該嵌合管により外側を覆う時、該係合固定片の突出により、嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し、該2個の管面間は適当な間隙を保持し、一定の摩擦阻害力を達成し、円滑な回転制御を確保することを特徴とする」というものであるところ、イ号物件では、内側部材の4つの突片部は、嵌設時に外側部材(回転台)に押し倒され、外側部材(回転台)の内周面に当接しかつ折れ曲がっており、内側部材が外側部材から取り出された時においても折れ曲がっている。また、突片部の内側部材近傍には応力が作用した痕跡が見られることから、突片部が外側部材(回転台)を持ち上げ、管面間の適当な間隙を保持することはない。 弾性サポートを得るには、応力を加えた場合には、ひずみ、除荷すれば元の寸法(形状)に戻る必要があるが、イ号物件の突片部は、除荷しても折れ曲がったままで復元することはない。 参考として提出した、甲5号証では、突片部は嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し、該2個の管面間は適当な間隙を保持し、一定の摩擦阻害力を達成し、円滑な回転制御を確保する事が確認できる。突片部は、内側部材が外側部材([回転台]から取り出された時においても元の形状に復元され、管面間の適当な間隙を保持し続け弾性サポートを継続することが確認出来る。弾性サポートを得るには、甲5号証で確認できる様に、突片部に応力を加えた場合には、ひずみ、除荷すれば元の寸法(形状)に戻る必要がある。(判定請求書第7ページ第8?末行) イ イ号物件の突片部の配置について 本件考案1の構成要件Eは、「数個の突出排列する弾性係合固定片を等分に設置」されているというものであるところ、イ号物件の突片部は、以下に示す図面からも明らかなとおり、中心から等分の位置ではなく、アンバランスな位置に配置されている。 ![]() 本件考案1の構成要件Eにおける「等分に設置」との文言での限定は、弾性係合固定片が等間隔に設けなければ効果を発揮しないことを意味するものと解されるが、上記の図面における突片部の距離は、明らかに「等分に設置」ではなく、かかる配置をもって「等分に設置」されているなどと言うことは到底できない。 弾性係合固定片が「等分に設置」で発揮される効果は、円滑な回転制御を確保することであり、弾性係合固定片を等分に設ける事が、唯一、均等で一定の弾性サポートを成し遂げる手段であり、かかる構成をとることで、円滑な回転制御を確保し、円滑な回転制御を確保する為に従来使用されていた潤滑剤を一切使用しない主たる作用効果を得ることが出来る。従って、弾性係合固定片は等分に設けられなければならない。 前掲の甲1号証のE-E線断面図を見ると分かるように、突片部の中心を結んだ線の交わる角度は、110度と70度であり、明らかにアンバランスな配置になっているし、突片部間の距離で見ても、幅の広い部分の間隔は、幅の狭い部分の間隔の約1 . 7倍もある。本件考案1の構成要件Eに「等分に設置」との明確な記載がされたのは、突片部の距離が相等しくなっていないと、均等に摩擦を吸収できず、スムーズな回転昇降が実現できないためであり、嵌設時の2個の管面間の間隙を均等に保持し、2個の管間の均等な弾性サポートを形成することが出来なくなることで本件実用新案の所望する作用効果を奏することができなくなってしまう。突片部がアンバランスに設けられた形態では、摩擦を均等に吸収することはできず、本件考案の作用効果を達成することはできない。(判定請求書第8ページ下から7行?第9ページ下から4行) ウ イ号物件の作用効果について 本件考案は、潤滑剤の塗布による様々な悪影響に鑑み(明細書段落【0002】)、内筒に、弾性係合固定片を設けることで、一定の摩擦係数を維持し、回転昇降の円滑性を保つようにした考案であるが、かかる構成を採用することで、従来使用されていた潤滑剤の塗布を省き、「口紅の使用における安全性と回転操作の快適性を大幅に向上させることができる」との作用効果を有するものである(段落【0005】)。 そのため、イ号物件が本件考案の技術範囲に属するのであるとすれば、本件容器には潤滑剤が使用されていないはずであるが、市場に流通している口紅に使用されているイ号物件の内筒にはすべて潤滑剤が塗布されている(甲2号証)。 以上のとおり、イ号物件は、潤滑剤が塗布されていることから、「潤滑剤を一切使用する必要がなく、口紅本体の使用が安全で衛生的となる」という本件考案の作用効果を奏しない。(判定請求書第11ページ第5?18行) 第4 被請求人の主張 本件判定請求に対し、被請求人に期間を指定して答弁の機会を与えたが、答弁書は提出されなかった。 第5 当審の判断 1 請求人提出証拠方法等について (1)請求人提出書類における記載事項 上記請求人証拠方法のうち、甲1号証ないし甲3号証及び甲6号証には以下の事項が記載されている。 ア 甲1号証 甲1号証は、「SUZHOU SHYA HSIN PLASTIC CO.,LTD」社による「LANCOME」社発注の「AG/B MECHANISUM ASSEMBLY」なる製品の製図図面であり、特にその第5ページに、請求人が主張する突起部の配置が示されている。 ![]() イ 甲2号証 甲2号証は、株式会社大阪環境技術センターによる、口紅容器(色番305、製造番号62H801)に付着した油状物質のFT-IR分析結果報告書であり、鉱物油が塗布された可能性がある旨記載されている。 ウ 甲3号証 甲3号証は、株式会社ジェイアール西日本伊勢丹の領収書の写しであり、2012年5月17日に「ランコムの口紅 305 62H801」を購入した旨記載されている。 エ 甲6号証 甲6号証は、特許第4356901号(「繰り出し容器」)に係わる判定事件の判定の写しである。 2 イ号の現物について 請求人はイ号物件として、イ号の現物とその写真撮影報告書を提出しているところ、当審においてイ号の現物(「甲4号証」)について以下の事項を確認した。 (1)イ号現物の概要 イ号物件は、銀色の紙箱に収容された口紅の黒い上蓋及び黒い底蓋、並びに口紅の繰り出し容器である。 (2)銀色の紙箱 銀色の紙箱には、「ランコム ルージュ 305 ROSE MOUSSELINE ローズ ムスリーヌ <口紅>」との表記がある。また、写真撮影報告書の銀紙箱と整合しない点は見当たらなかった。 (3)黒い上蓋及び底蓋 黒い上蓋及び底蓋は、口紅の繰り出し容器の外ケースである。底蓋の底部には銀色の円状部分があり、「305 62H801」との刻印がある。また、写真撮影報告書の黒い上蓋及び底蓋と整合しない点は見当たらなかった。 (4)口紅の繰り出し容器(下線は理解の便のため付した。) ア 口紅の繰り出し容器は、金色の円管状部材(以下「金色円管状部材」という。)、白色の円管状部材(以下「白色円管状部材」という。)、及び、白色円管状部材の内部の円筒状部材(以下「内部円筒状部材」という。)からなる。 イ 金色円管状部材は、白色円管状部材の外側に嵌設可能であり、その状態で、相対回転及び軸方向移動が可能である。 ウ 金色円管状部材には、その内周面に螺旋状凹部が設けられている。 エ 白色円管状部材は、底の台状部分と管状部分とからなり、管状部分には、2本のスリットが対称位置に形成されており、それぞれのスリットの両端はL字状に短く曲がっている。 オ 白色円管状部材には、その底の台状部分付近の管状部分の周囲縁上に4個の突出配列する樹脂製の突片部が一体に設けられている。突片部の周方向長さはいずれも4mm程度であり、それらの配列は互いに直交する2本の軸線のそれぞれに対して線対称ではあるが、円周状の4分割角度(90°)位置ではなく、甲1号証の5ページの図(上記1(1)ア)に類似した位置に配列されている。 カ 4つの突片部は、白色円管状部材外面と金色円管状部材内面の間隙より高い厚さを有し、いずれも台状部分側に変形して折れ曲がっている。 キ 内部円筒状部材は、白色円管状部材の内部に挿入されており、内部円筒状部材の外周面の対称位置に2箇所小さな円柱状凸部が形成されている。該円柱状凸部は、白色円管状部材のスリット内でスライド可能とされている。 ク 内部円筒状部材の円柱状凸部の直径は、金色円管状部材内周面の螺旋状凹部の幅より少し小さくなっている。 ケ 内部円筒状部材には、赤色の粘着状物質が多く付着している。 コ 上記項目アないしケに関して、写真撮影報告書の口紅の繰り出し容器と整合しない点は見当たらなかった。 3 当審によるイ号物件の認定 上記2のイ号の現物の確認から、技術常識を踏まえれば、イ号物件に関し、さらに以下の事項が認められる。 サ 上記項目2(4)ケの内部円筒状部材に付着した「赤色の粘着状物質」は口紅材料と認められるから、内部円筒状部材は、口紅本体を設置するものということができる。 シ 上記項目2(4)ウの「金色円管状部材」の「内周面」に設けられた「螺旋状凹部」と、上記項目2(4)キの「白色円管状部材のスリット内でスライド可能」な「内部円筒状部材の外周面の」「円柱状凸部」とに関し、上記項目2(4)クにあるように、円柱状凸部の直径が金色円管状部材内周面の螺旋状凹部の幅より少し小さいことを、機構学上の常識を踏まえれば、白色円管状部材の回転により口紅(本体を設置する内部円筒状部材)が昇降するものと認められる。 そこで、上記「2 イ号の現物について」の各項目並びに上記認定事項サ及びシを総合すれば、イ号物件は、本件考案1に照らし、前記第2の2に記載の本件考案1の分説AないしGに対応させて、以下のaないしgの構成を具備するものと認められる(以下「構成a」などという。)。 「a 主に白色円管状部材を含み、 b 該白色円管状部材底部は台状部分と相互に連結し、 c 該白色円管状部材両側にはそれぞれスリットを形成し、外側に嵌設する金色円管状部材上の螺旋状凹部に対応し、 d 該白色円管状部材の中空内部には口紅本体を設置する内部円筒状部材を組合せ、該白色円管状部材の回転により口紅の昇降を形成し、 e 該白色円管状部材底部と該台状部分が相互に接続する周囲縁上には、4個の突出配列する樹脂製の突片部が互いに直交する2本の軸線のそれぞれに対して線対称ではあるが円周上の4分割角度ではない位置に一体に設けられ、 f 4つの樹脂製の突片部は、白色円管状部材外面と金色円管状部材内面の間隙より高い厚さを有し、いずれも台状部分側に変形して折れ曲がっている、 g 口紅ケースの白色円管状部材の回転制御構造。」 4 当審の対比・判断 (1)本件考案1 イ号物件が本件考案1の構成要件AないしGを充足するか否かについて、構成要件Aをイ号物件の構成aに、構成要件Bを構成bに、の如く対応させて、対比検討する。 ア 構成要件AないしD及びGについて イ号物件の「白色円管状部材」が本件考案1の「内管」に相当することはその機能及び技術常識に照らして明らかであり、以下同様に、「台状部分」は「回転台」に、「スリット」は「スライド槽」に、「金色円管状部材」は「嵌合管」に、「螺旋状凹部」は「螺旋導入槽」に、「内部円筒状部材」は「充填台」に相当することも明らかである。 そうすると、イ号物件の構成aないしd及びgは、それぞれ本件考案1の構成要件AないしD及びGと一致するから、イ号物件は構成要件AないしD及びGを充足する。 イ 構成要件E及びFについて 上記アにて指摘したように、イ号物件の「白色円管状部材」及び「台状部分」は、それぞれ本件考案1の「内管」及び「回転台」に相当する。 そして、イ号物件の「4個」は本件考案1の「数個」に相当するものであることは明らかであり、同様に、「突片部」は「固定片」に、「一体に設けられ」は「設置し」に相当することも明らかである。 次に、 (i)イ号物件の「白色円管状部材外面と金色円管状部材内面の間隙より高い厚さを有し」「台状部分側に変形して折れ曲がっている」「樹脂製の突片部」が、構成要件Eの「弾性係合固定片」に相当するか、 (ii)イ号物件の「白色円管状部材外面と金色円管状部材内面の間隙より高い厚さを有し、いずれも台状部分側に変形して折れ曲がっている」「4つの樹脂製の突片部」が、構成要件Fの「嵌合管により外側を覆う時、該係合固定片の突出により、嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し、該2個の管面間は適当な間隙を保持し、一定の摩擦阻害力を達成し、円滑な回転制御を確保する」なる要件を充足するか、 (iii)イ号物件の「突片部が互いに直交する2本の軸線のそれぞれに対して線対称ではあるが円周上の4分割角度ではない位置に設けられ」ることが、構成要件Eの「固定片を等分に設置」することに相当するか、につき検討する。 (ア)技術的意義 まず、本件考案1の「弾性係合固定片」及び「等分に設置」の技術的意義について検討すべく、実用新案法第26条において準用する特許法第70条第2項の規定に基づいて本件明細書及び図面を参照すると、そこには以下の記載がある。 「【0001】 本考案は一種の口紅ケース内管の回転制御構造に関する。特に一種の口紅内管底部の環状周囲面上に適当に突出する数枚の弾性係合固定片を設置し、嵌合管底部と相互に嵌設後は適当な係合状態を呈し、嵌合管はオーバーハング設置を形成し、口紅充填台との間は適当な間隙を具え、口紅の回転力を一致させ円滑な昇降操作を確保可能で、潤滑剤を一切使用する必要がないため、口紅本体の使用が安全で衛生的となる口紅ケース内管の回転制御構造に係る。 ・・・(中略)・・・ 【0004】 上記課題を解決するため、本考案は下記の口紅ケース内管の回転制御構造を提供する。 それは主に口紅内管底部の環状周囲面上に適当に突出する数枚の弾性係合固定片を設置し、嵌合管底部と相互に嵌設後は適当な係合状態を呈し、該内管を回転操作する時には一定の摩擦係数を維持し、管体の真円度不足による回転の偏りを改善することができ、潤滑剤を一切使用する必要がないため、口紅本体の使用が安全で衛生的となり、製品の品質を効果的に向上させることができることを特徴とする口紅ケース内管の回転制御構造である。 【考案の効果】 【0005】 上記のように、本考案は内管と回転台間の管面上に直接弾性係合固定片を等分に配置し、嵌合管に穿設後、自然に定位、組合され、口紅ケース内管と螺旋嵌合管間の安定的な組立てを実現し、口紅ケース管面の変形により生じる様々な欠点を改善することができる。さらに、潤滑剤の塗布を省くことができるため、口紅の使用における安全性と回転操作の快適性を大幅に向上させることができる。」 上記明細書の記載において、「適当な係合状態」、「適当な間隙」、「一定の摩擦係数を維持」など、「適当」あるいは「一定」との表現が繰り返されていることから、本件考案1の「弾性係合固定片」に求められる「弾性」は、これらの機能を果たし得る程度で足りることが読み取れる一方、それ以上に強度な弾力や復元力を必須とする根拠は、本件明細書中に見当たらない。 たしかに、本件考案1の「弾性係合固定片」については、「弾性」の部材であることが求められている上、「嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し、該2個の管面間は適当な間隙を保持し、一定の摩擦阻害力を達成し、円滑な回転制御を確保する」ものである以上、かかる機能を果たすだけの弾性を有することが求められていると解される。しかし、上記したように嵌設時の変形の痕跡を全く残さないほどの復元力を有することは、これを必須の構成とする文言上の根拠はない。 また、本件考案1は、「数個」の「弾性係合固定片」は「等分に設置」としているところ、上記機能を生じるための構成であることに照らせば、「弾性係合固定片」間の距離に、上記機能を阻害しない範囲内での差異がある場合までを除外する趣旨とは解されない。 そうすると、構成要件E及びFにおける「弾性係合固定片」及び「等分に設置」の技術的意義は、「該内管底部と該回転台が相互に接続する周囲縁上」の軸方向位置に、等しい距離あるいは上記機能を害しない範囲の周方向位置に複数個設置され、「該嵌合管により外側を覆う時、該係合固定片の突出により、嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し、該2個の管面間は適当な間隙を保持し、一定の摩擦阻害力を達成し、円滑な回転制御を確保する」という機能を果たし得るだけの弾性を有する係合固定片及びその配置であると解される。 (イ)構成要件E及びFの要件(i)ないし(iii)の充足性について 次に、イ号物件の「突片部」は「樹脂製」(構成e及びf)であるところ、それらは「台状部分側に変形して折れ曲がっている」(構成f)ものではあるが、白色円管状部材を金色円管状部材に挿入すると、該「樹脂製の突片部」は「白色円管状部材外面と金色円管状部材内面の間隙より高い厚さを有」するのであるから、折れ曲がった状態での樹脂の弾性力により、金色円管状部材の内壁に弾性的に接触するものと認められる。 そして、そのような樹脂の弾性的な接触により、白色円管状部材の外壁と金色円管状部材外側部材の内壁との間に隙間を作り、弾性サポートとしての効果が得られ、また、樹脂の弾性力に起因する垂直抗力により、2管の間に一定の摩擦阻害力が発生することも、技術常識を踏まえれば理解できる。 また、イ号物件の4個の突片部は、隣接する突片部間の距離は、厳密な等間隔にはなっていない。しかし、4個の突片部は、内側部材の長手軸に対して直交し、かつ、互いに直交する2本の軸線のそれぞれに対して線対称に設けられており、一方の軸線からの距離が他方の軸線からの距離より離れているにとどまることから、それぞれの突片部にかかる摩擦力はほぼ等しく、内側部材の外壁と外側部材の内壁とで隙間がなく直接接触する部分が生じたり、回転の際にいずれかの突片部にのみ特に大きな摩擦力がかかり上記機能を損なうほど偏った配置となったりしているわけではない。 このように考えると、イ号物件は、その「樹脂製の突片部」が構成要件Eにおける「弾性係合固定片」に相当し(上記要件(i))、構成要件Fにおける「該嵌合管により外側を覆う時、該係合固定片の突出により、嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し、該2個の管面間は適当な間隙を保持し、一定の摩擦阻害力を達成し、円滑な回転制御を確保する」との機能を果たしており(上記要件(ii))、4個の「突片部」は、「等分に設置」されているといえる(上記要件(iii))から、イ号物件は構成要件E及びFを充足すると解するのが相当である。 ウ 請求人の主張について 請求人は、イ号物件の口紅容器に潤滑油が塗布されていることから、イ号物件は、「潤滑剤を一切使用する必要がなく、口紅本体の使用が安全で衛生的となる」という本件考案の作用効果を奏しない旨主張する(上記第3の2(2)ウ)。 しかし、本件考案1は、潤滑剤を使用することなく円滑な回転制御を確保することをその課題とするものの、実用新案登録の請求の範囲において、「潤滑剤を使用しないこと」が構成要件とされているものではないから、請求人の主張には理由がない。 エ 小括 よって、イ号物件は、本件考案1の構成要件AないしGを全て充足するから、イ号物件は本件考案1の技術的範囲に属する。 第6 むすび 以上のとおりであるから、イ号物件、すなわちイ号の現物の繰り出し容器は、本件考案の技術的範囲に属する。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
![]() |
判定日 | 2015-05-14 |
出願番号 | 実願2005-7112(U2005-7112) |
審決分類 |
U
1
2・
1-
YB
(A45D)
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最終処分 | 不成立 |
特許庁審判長 |
山口 直 |
特許庁審判官 |
関谷 一夫 長屋 陽二郎 |
登録日 | 2005-10-19 |
登録番号 | 実用新案登録第3116256号(U3116256) |
考案の名称 | 口紅ケース内管の回転制御構造 |