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審決分類 審判    B09B
管理番号 1337102
審判番号 無効2014-400005  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-04-28 
確定日 2018-01-31 
事件の表示 上記当事者間の登録第3150628号「電子式低温加水分解装置」の実用新案登録無効審判事件についてされた平成26年12月16日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成27年(行ケ)第10024号、平成27年10月22日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。   
結論 登録第3150628号の実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件実用新案登録第3150628号に係る経緯の概要は、以下のとおりである。
平成21年 2月24日 実用新案登録出願(実願2009-1629号)
同 年 4月30日 設定登録
平成26年 4月28日 本件無効審判請求
同 年 6月18日 審判事件答弁書
同 年 7月 7日 審判事件答弁書(追加)
同 年 7月22日 審理事項通知書
同 年 9月 3日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同 年 9月 3日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同 年 9月17日 口頭審理
同 年 9月24日 上申書(被請求人)
同 年10月 2日 上申書(請求人)
同 年10月31日 上申書(2)(被請求人)
同 年12月16日 審決(請求不成立)
平成27年10月22日 審決取消訴訟判決(平成27年(行ケ)第10024号 審決取消)
平成28年 6月28日 上告受理申立て不受理決定
同 年 9月29日 上申書(3)(被請求人)

第2 本件登録実用新案
実用新案登録第3150628号の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)、実用新案登録請求の範囲及び図面(以下、「本件図面」という。)の記載から見て、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「鉄板などで作られた密閉容器のなかに攪拌装置と、密閉容器の底に多孔管と、密閉容器中の空気を送風機で吸引して密閉容器の底に取付けた多孔管から送り込める空気の循環装置と、その循環装置を介して電子化された空気を密閉容器に吹き込む電子化装置と、密閉容器の上部から資材を投入するための投入蓋と、密閉容器の底部から処理物を取り出すための取出蓋と、密閉容器から空気を排気するための排気管とを備えることを特徴とする電子式低温加水分解装置。」

第3 請求人及び被請求人の主張の概要
1.請求人の主張
請求人は、実用新案登録第3150628号考案の実用新案登録請求の範囲の請求項1に係る考案についての実用新案登録を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め(審判請求書1頁下から5行?末行)、次の無効理由1、2を主張している。

ア 無効理由1
甲第1号証(主引用例。以下、甲各号証及び乙各号証は、甲(乙)号証番号に対応して「甲1」、「乙1」などともいう。)に記載の反応器のオゾン供給手段に、周知・慣用技術の放電を利用したオゾン供給手段を適用し、甲1の反応器に代えて甲2記載の発酵槽を適用して、本件考案とすることは当業者にとってきわめて容易であることから、本件考案は実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、本件考案についての実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(第1回口頭審理調書の「請求人 3(2)ア」)。

イ 無効理由2
甲2(主引用例)に記載の発酵槽の空気循環装置に、甲3の電子化装置を設けて、本件考案とすることは当業者にとってきわめて容易であるから、本件考案は実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録をうけることができないものであり、本件考案についての実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(第1回口頭審理調書の「請求人 3(2)イ」))。

請求人は、証拠方法として、次の甲第1号証ないし甲第21号証を提出している。
[証拠方法]
甲第1号証:特開2004-359530号公報
甲第2号証:特開2002-356391号公報
甲第3号証:登録実用新案第3133388号公報
甲第4号証:特開2007-117946号公報
甲第5号証:特開平10-139576号公報
甲第6号証:特開2005-324179号公報
甲第7号証:日本化学会編「活性酸素種の化学」学会出版センター、1990年、表紙、3?5頁、8?15頁(「1 酸素および活性酸素種の物理学」斉藤烈、松浦輝男共著)
甲第8号証:東京地裁 平成26年(ワ)10522号 不正競争行為差止等請求事件の被告(本件の被請求人)平成26年7月9日付け審判事件答弁書
甲第9号証:実公平8-9137号公報
甲第10号証:特開昭56-45758号公報
甲第11号証:特開昭57-82106号公報
甲第12号証:特許庁電子図書館の特許分類検索による「放電によるオゾン製造方式」の検索結果(2014年8月29日作成)
甲第13号証:特許庁電子図書館の特許分類検索による「放電以外の手段によるオゾン製造方式」の検索結果(2014年8月29日作成)
甲第14号証:イケゾエFRPプロダクツ株式会社のウェブサイトに掲載されていたパンフレット「RADICALCASE/with SRR TECHNOLOGY」
甲第15号証:特開2005-144304号公報
甲第16号証:株式会社セイスイのウェブサイトに掲載されていた「水中でのセラミックの触媒機能に関して」と題する説明文(著者:東北大学工学研究科 名誉教授 西野徳蔵)(2014年9月2日印刷出力)
甲第17号証:登録実用新案公報第3143786号公報
甲第18号証:特開2003-305446号公報
甲第19号証:特開2008-253899号公報
甲第20号証:公郷生命工学研究所 技術士 平田俊道著「SRRによる有機物の分解と減容化」、平成21年7月23日、中部異業種間リサイクルネットワーク協議会(CRN)研究会・講演資料
甲第21号証:平成26年4月8日付けの平田須美江提出「刊行物等提出書」(特願2010-104362号)

なお、甲1から甲21の成立について、当事者間に争いはない。

2.被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、概ね、次のように主張している。

ア 本件考案について
本件考案は、電子化装置によって、活性酸素である一重項酸素(^(1)Δ_(g))と二重項酸素(・O^(2-))とを含み、オゾンは含まない「電子化された空気」によって、セルロースや多糖類などから単糖類、二糖類などの糖類を生産することができる、有機物を電子的に加水分解して低分子化する装置に関するものである(審判事件答弁書)。

本件考案は、「有機物を電子式に加水分解させる装置」に関するものであるが、「加水したものを分解する装置」でもあり、糖分(ブドウ糖)は、ヒドロキシラジカル(・OH^(-))の反応により分解されて炭酸ガスと水になり、この反応も、水が存在しないと起こらない酸化反応であるから、広義的に加水された状態の分解(加水分解)の一種であると理解されている(平成26年9月24日付け上申書5頁下から2行?6頁末行)。

イ 甲1記載の技術との対比
本件考案と甲1記載の技術とは、作動原理、構造、及び効果が異なる。
すなわち、甲1記載の技術のラジカル反応は、無機性廃棄物を触媒として、生ごみ等の有機性廃棄物をラジカル分解して堆肥化するものであり、本件考案の「電子式低温加水分解装置」の二重項酸素によるラジカル反応とは、目的、作用が異なる反応形態である(審判事件答弁書)。
甲1には、「酸素又は空気以外に、オゾンの存在は、活性酸素の発生源であるため、有機性廃棄物の分解には有効であり、反応器にオゾン供給手段を設けてもよい。」という記載があるものの、本件考案における二重項酸素はラジカル種であり、甲1記載の技術のオゾンはノンラジカル種であるから、それらの化学的性質と作用は異なったものである(審判事件答弁書)。

ウ 甲2記載の技術との対比
本件考案では、装置内の土壌微生物は死滅するので、堆肥などの発酵物を作り出すことはできず、本件考案と、甲2記載の有機廃棄物を発酵処理してコンポスト(堆肥)を得る微生物による有機廃棄物の発酵処理装置とは、対象技術分野が異なる(審判事件答弁書)。

エ 甲3記載の技術との対比
甲3の「空気の電子化装置」を工業的に活用する方法として考案された装置が本件考案であって、甲3には、本件考案の装置の構造や仕組みが記載されていない(審判事件答弁書)。
また、本件考案は、空気の電子化装置を空気導入管の途中(送風機の吸引側)に接続したことで、水とスーバーオキシドアニオンとの反応を高め、発生と共に瞬間的に消滅する活性酸素の酸化力を長寿命化することができることから、甲3から極めて容易に考案をすることができたものではない(審判事件答弁書(追加))。

オ 甲2に記載の発酵槽の空気循環装置に甲3の電子化装置を設けることについて
甲3には、甲3の電子化装置を甲2の発酵槽に組み合わせることは示唆されておらず、甲2の発酵槽に甲3の電子化装置を取り付ける動機付けはない(平成26年10月31日付け上申書(2))。

被請求人は、証拠方法として、次の乙第1号証ないし乙第4号証の2を提出し、さらに平成28年9月28日付け上申書(3)で、乙第5号証ないし乙第11号証を提出している。
[証拠方法]
乙第1号証:平田俊道作成の陳述書(平成26年6月13日付け)
乙第2号証:平田俊道作成の書類(平成26年9月3日作成)
乙第3号証:乙1の添付資料1の1?5頁と同じ
乙第4号証の1:イケゾエFRPプロダクツ株式会社のウェブサイトに掲載されていたパンフレット「RADICALCASE/with SRR TECHNOLOGY」(甲14及び「原理の訂正とお詫び」の頁)
乙第4号証の2:乙4の1の「文書のプロパティ」が表示された画面を印刷したもの
乙第5号証:審決取消訴訟における請求人の原告第1準備書面
乙第6号証:審決取消訴訟における請求人の原告第2準備書面
乙第7号証:審決取消訴訟における被請求人の準備書面(1)
乙第8号証:審決取消訴訟における被請求人の準備書面(2)
乙第9号証:審決取消訴訟における被請求人の準備書面(3)
乙第10号証:審決取消訴訟における被請求人の上告理由書
乙第11号証:審決取消訴訟における被請求人の上告受理申立理由書

なお、乙1から乙4の2の成立については、当事者間に争いはない。

第4 当審の判断
1.甲1?甲3について
(1)甲1について
(甲1の記載事項)
甲1には、「農業資材の製法及びその製法によって製造された農業資材」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。

ア 「【0001】【発明の属する技術分野】
本発明は、生ゴミ、畜産廃棄物、水産廃棄物等の有機性廃棄物を高速で堆肥化して、肥料、土壌改良剤等として利用される高品質の農業資材を製造する方法及びこれにより得られた高品質の農業資材に関する。」
イ 「【0013】
微生物による発酵分解以外の手段による生ゴミ等の有機性廃棄物の処理方法の1つとして、粘土・Fe錯体を使用する化学反応を利用する方法も提案されている(非特許文献1参照)。
【0014】
・・・(略)・・・
【非特許文献1】
活性型粘土-鉄錯体の循環農業への応用:北海道大学先端科学技術共同研究センター業績集,Vol.1, 119-124(1999)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
前記文献「活性型粘土-鉄錯体の循環農業への応用」には、下記の事項が記載されている:
-「活性型粘土-Fe錯体」が、「鉄-フタロシアニン錯体」と同様に、酸素分子から「活性酸素」を生成し、この「活性酸素」の高い反応性のため、有機物をラジカル化して、分解する;及び
-この一連の有機性廃棄物のラジカル分解反応は、下記の分解機構で表される。
分解機構
【化1】


【0016】
発明者らは、これまで、大部分が再利用されることなく廃棄されていたペーパースラッジ焼却灰及び石炭燃焼灰が、上記の「活性型粘土-Fe錯体」の機能と同様の機能を有することを新たに見出した。
【0017】
この知見に基づき、本発明は、生ゴミ、畜産廃棄物、水産廃棄物等の有機性廃棄物を、高速で、かつ悪臭を生ずることなく堆肥化して、肥料、土壌改良剤等として利用される高品質の農業資材を製造する方法及びその方法によって製造された農業資材を提供することを目的とする。」
ウ 「【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明によると、上記目的は、次のようにして達成される。
(1)生ゴミ、畜産廃棄物、水産廃棄物等の有機性廃棄物を、高速で、かつ悪臭を発生することなく堆肥化して、肥料、土壌改良剤等として利用される高品質農業資材を製造する方法において、前記有機性廃棄物に、ペーパースラッジ焼却灰、石炭燃焼灰及びこれらの混合物でなる群から選ばれる無機性廃棄物を添加し、得られた混合物を、空気の存在下、温度を30?90℃に維持しながら、攪拌することによって、前記有機性廃棄物を分解する。
・・・(略)・・・
(3)上記(1)又は(2)項において、有機性廃棄物と無機性廃棄物との混合物の撹拌を、温度40?65℃に維持しながら行う。
(4)上記(1)?(3)項のいすれかにおいて、有機性廃棄物と無機性廃棄物との混合物の撹拌を、空気に加えて、オゾンを供給しながら行う。」
エ 「【0022】
有機性廃棄物と無機性廃棄物とを混合した後、得られた混合物について、水分の調節を行う。混合物の水分含量は、一般に、40?80質量%、好ましくは、55?65質量%である。有機性廃棄物の分解反応では、水に溶解している酸素が活性化されるという理由から水分の存在は必須であが、水分含量が40質量%未満では、反応系が乾燥しすぎて、分解が進行せず、また、80質量%より大では、水分が多すぎて、反応器から排出される製品が湿潤しすぎており、次行程での乾燥処理において高温及び長時間の処理が必要となる。
【0023】
このようにしてペーパースラッジ焼却灰、石炭燃焼灰又はこれらの混合物を添加した有機性廃棄物を、攪拌機を備えた反応器に装入する。反応器は、さらに、反応器内部において有機性廃棄物の混合物を外部から加熱し、その温度を保持するための加熱保温装置を備えている。また、分解反応には、酸素の存在が必須であり、空気又は酸素の供給手段が設置してある。
【0024】
酸素又は空気以外に、オゾンの存在は、活性酸素の発生源であるため、有機性廃棄物の分解には有効であり、反応器にオゾン供給手段を設けてもよい。
【0025】
空気の供給量は、有機性廃棄物の混合物1Kg当たり、一般に、10?500L/分好ましくは 50?100L/分である。10L/分未満では、水に溶解する酸素量が少なく、500L/分より大では、反応混合物の温度を下げ、乾燥させすぎて分解反応を阻害することとなる。」
オ 「【0030】
このバッチ式反応器(1)は、両端で閉じられた横方向で長手の円筒状である反応器本体(2)からなる。反応器本体の一方の端部の上方部分には原料の装入口(3)が、他端の下方部分には分解生成物の取出口(4)が設けてある。さらに、反応器本体には、その中心軸方向に伸びる回転軸(5)が設置されており、この回転軸には、複数枚の撹拌羽根(6)が取り付けてあり、回転軸(5)の一端に取り付けられた駆動装置(7)によって回転軸(5)が回転される際、反応器本体内に装入された原料を攪拌する。
【0031】
また、反応器本体の外周には加熱ジャケット(8)が設けてあり、この加熱ジャケットは、外部に設けられた加熱熱源(図示していない)と連通しており、熱媒が加熱ジャケット(8)と加熱熱源との間を循環して、反応器本体内の原料を所定温度に加熱維持する。
【0032】
この反応器には、図示していないが、反応器本体内の温度を測定する温度計が設けられており、測定された温度に基づいて、反応器本体内の温度を所定値に維持するように加熱熱源を制御する加熱温度制御手段(図示していない)が設けられている。
【0033】
反応に際しては、予め、反応器(1)の外部において、有機性廃棄物に所定量の無機性廃棄物を混合し、水分を調節した後、得られた有機性廃棄物の混合物を、装入口(3)の上方から、ホッパ等の投入手段(図示していない)を介して、所定の量で反応器本体(2)内に装入する。反応器本体内では、装入された混合物は、回転軸(5)に取り付けられた撹拌羽根(6)によって攪拌されると共に、加熱ジャケット(8)を介して所定の温度に加熱される。撹拌の間、装入口(3)及び通気口(9)は、常時開放されており、通気可能な状態にある。必要であれば、通気口(9)に、さらに、脱臭装置や、集塵装置等を設置してもよい。また、分解生成物の取出口(4)は、撹拌の間、例えば、蓋によって閉じられている。
【0034】
装入された原料混合物は、空気の存在下、所定温度、例えば60℃に維持されると共に、攪拌される。この間に、無機性廃棄物が触媒となって、上記分解機構Iで表されるラジカル連鎖反応が生じ、有機性廃棄物がラジカル分解されて堆肥化される。」
カ 図1


(甲1に記載された考案)
上記摘示事項イによれば、甲1には、「微生物による発酵分解以外の手段による生ゴミ等の有機性廃棄物の処理方法」について、「ペーパースラッジ焼却灰及び石炭燃焼灰」を用いたものが記載され、それは【化1】で示された「分解機構」の「粘土・Fe錯体」と同様な機能を有しており、酸素分子から生成された「活性酸素」による反応によって、有機物をラジカル化して分解するものであるということが記載されている。
そして、上記摘示事項ウによれば、甲1には、「生ゴミ、畜産廃棄物、水産廃棄物等の有機性廃棄物を、高速で、かつ悪臭を発生することなく堆肥化して、肥料、土壌改良剤等として利用される高品質農業資材を製造する方法において、前記有機性廃棄物に、ペーパースラッジ焼却灰、石炭燃焼灰及びこれらの混合物でなる群から選ばれる無機性廃棄物を添加し、得られた混合物を、空気の存在下、温度を30?90℃に維持しながら、攪拌することによって、前記有機性廃棄物を分解すること」が記載されている。
また、上記摘示事項エの【0022】の「有機性廃棄物の分解反応では、水に溶解している酸素が活性化されるという理由から水分の存在は必須」という記載によれば、甲1に記載された【化1】で示された「分解機構」による酸素分子から生成された活性酸素は、水に溶解している酸素が活性化されたものであって、気体状態の酸素が活性化されるものではないことは明らかである。
そして、上記摘示事項エの【0024】の「酸素又は空気以外に、オゾンの存在は、活性酸素の発生源であるため、有機性廃棄物の分解には有効であり、反応器にオゾン供給手段を設けてもよい。」という記載から、上記「有機性廃棄物の分解反応」においては、活性酸素の発生源としてオゾンの存在は有効であって、オゾンから活性酸素が発生すること、及び、甲1記載の反応器にオゾン供給手段を設けてもよいことがわかる。

また、上記摘示事項エ、オから、当該高品質農業資材を製造する方法において用いられる「バッチ式反応器(1)」について、
「両端で閉じられた横方向で長手の円筒状である反応器本体(2)からなるバッチ式反応器(1)において、
反応器本体には、
一方の端部の上方部分には原料の装入口(3)と、
他端の下方部分には、撹拌の間、蓋によって閉じられる、分解生成物の取出口(4)と、
反応器本体の内部には、
脱臭装置や、集塵装置等を設置してもよい通気口(9)とが設けられ、
その中心軸方向に伸びる回転軸(5)が設置されており、この回転軸には、複数枚の撹拌羽根(6)が取り付けてあり、
反応器本体に装入された原料の攪拌は、回転軸(5)の一端に取り付けられた駆動装置(7)によって回転軸(5)が回転することで行われ、
さらに、反応器本体には、
分解反応に必要な空気又は酸素の供給手段と、
活性酸素の発生源であるオゾンを供給するオゾン供給手段とが備えられ、
反応器本体の外周には加熱ジャケット(8)が設けてあり、熱媒が加熱ジャケット(8)と加熱熱源との間を循環して、反応器本体内の原料を所定温度に加熱維持し、
反応器本体内の温度を測定する温度計が設けられており、測定された温度に基づいて、反応器本体内の温度を所定値に維持するように加熱熱源を制御する加熱温度制御手段が設けられている」ということができる。

また、上記摘示事項オによれば、当該高品質農業資材を製造する方法では、
「水分が調節された有機性廃棄物と無機性廃棄物の混合物を、装入口(3)の上方から、ホッパ等の投入手段を介して、所定の量で反応器本体(2)内に装入し、
反応器本体内では、装入された混合物は、回転軸(5)に取り付けられた撹拌羽根(6)によって攪拌されると共に、加熱ジャケット(8)を介して所定の温度に加熱され、撹拌の間、装入口(3)及び通気口(9)は、常時開放されていて、通気可能な状態にあって、無機性廃棄物が触媒となって、有機性廃棄物がラジカル分解される」ものであるということができる。

以上のことから、甲1には、次の考案(以下、「甲1考案」という。)が記載されているといえる。
「両端で閉じられた横方向で長手の円筒状である反応器本体を有するバッチ式反応器において、
反応器本体には、
一方の端部の上方部分には原料の装入口と、
他端の下方部分には、撹拌の間、蓋によって閉じられる、分解生成物の取出口と、
反応器本体の内部には、
脱臭装置や、集塵装置等を設置してもよい通気口とが設けられ、
その中心軸方向に伸びる回転軸が設置されており、この回転軸には、複数枚の撹拌羽根が取り付けてあり、
反応器本体に装入された原料の攪拌は、回転軸の一端に取り付けられた駆動装置によって回転軸が回転することで行われ、
さらに、反応器本体には、
分解反応に必要な空気又は酸素の供給手段と、
活性酸素の発生源であるオゾン供給手段とが備えられ、
水分が調節された有機性廃棄物と無機性廃棄物の混合物を、装入口の上方から、ホッパ等の投入手段を介して、所定の量で反応器本体内に装入し、
反応器本体内では、装入された混合物は、回転軸に取り付けられた撹拌羽根によって攪拌されると共に、加熱ジャケットを介して所定の温度に加熱され、撹拌の間、装入口及び通気口は、常時開放されていて、通気可能な状態になっており、
無機性廃棄物が触媒となって、水に溶解した酸素分子とオゾン供給手段からのオゾンから生成される活性酸素と有機性廃棄物を反応させてラジカル分解するバッチ式反応器。」

(2)甲2について
(甲2の記載事項)
甲2には、「有機廃棄物の発酵処理装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機廃棄物(例えば、下水,屎尿,産業排水,ディスポーザ等から発生する脱水汚泥、畜産,屠場廃棄物、一般家庭から排出される厨芥,残飯、農産廃棄物、コーヒ滓,ゼラチン滓等の工業廃棄物)を好気性微生物により発酵処理(発酵,醸成)してコンポストを得る場合に好適する有機廃棄物の発酵処理装置に関するものである。」
イ 「【0002】
【従来の技術】この種の発酵処理装置にあっては、一般に、開放型の発酵槽が使用されているが、発酵処理に伴う異臭(アンモニア臭)の発生による周辺環境の悪化を招く虞れがあり、これを防止するために格別の消臭設備,脱臭設備が必要となり、ランニンコスト,イニシャルコストが高騰する不都合があった。
【0003】
そこで、本発明者は、先に、密閉型の発酵槽を使用した発酵処理装置を開発した。かかる発酵処理装置にあっては、発酵槽内の上下部に吸気管及び送気管を配置して、発酵槽内を空気循環による好気雰囲気に保持させることにより、アンモニア臭の発生等を防止しつつ良好な発酵処理を行いうる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このような密閉型の発酵槽を使用して、発酵槽の上部から吸気すると共に下部から送気するようにした場合、送吸気による空気循環が継続されるに伴って、発酵槽内における被処理物の下層部分と上層部分との保湿分布(水分分布)が極端に不均一となり、発酵,醸成を効果的に行い得ないといった問題があった。さらに、吸気管を含む配管内部に被処理物の一部が侵入して堆積したり、極端な場合には配管を閉塞する虞れがあり、発酵槽内を適正な好気雰囲気に保持することができず、頻繁なメンテナンス作業が必要とされ、その結果、発酵から醸成に至る発酵処理を効率よく効果的に行うことができないといった問題もあった。
【0005】本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、密閉型の発酵槽を使用することによる利点を担保しつつ、その欠点を排除することにより、有機廃棄物の発酵処理を効率よく効果的に行うことができる発酵処理装置を提供することを目的とするものである。」
ウ 「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の目的を達成すべく、水平軸線回りで回転操作自在であり、第1回転位置及びこれから180度回転(反転)した第2回転位置に選択的に固定保持される密閉状の発酵槽と、発酵槽内に固定配置された一対の送吸気管であって、発酵槽を第1回転位置に位置させたときにおいて発酵槽の回転軸線を通過する水平面より上方に位置する第1送吸気口群を有する第1送吸気管及び下方に位置する第2送吸気口群を有する第2送吸気管と、発酵槽を第1回転位置に保持させたときにおいて第1送吸気口群から吸気した空気を第2送吸気口群から発酵槽に循環供給させると共に、発酵槽を第2回転位置に保持させたときにおいて第2送吸気口群から吸気した空気を第1送吸気口群から発酵槽に循環供給させる空気循環機構と、を具備することを特徴とする有機廃棄物の発酵処理装置を提案する。」
エ 「【0010】図1?図8に示す実施の形態にあっては、本発明の発酵処理装置が、発酵槽1と、発酵槽1を水平軸線回りで回転操作する回転操作機構2と、発酵槽1内に固定配置された第1及び第2送吸気管3,4と、発酵槽1内を好気雰囲気に保持する空気循環機構5とを具備してなる。
オ 「【0011】発酵槽1は、図1?図8に示す如く、円筒状の周壁11とその両端部を閉塞する円板状の前後壁12,13とからなる密閉状のものである。各側壁12,13の中心部には円筒状のシール部14,15が固着されており、各側壁12,13の外面部にはシール部14,15と同心をなす大径円筒状の支持部16,17が突設されている。なお、周壁11の適所には、図示していないが、被処理物(有機廃棄物及び好気性微生物を含む菌体)及び処理物(コンポスト)を給排するための開閉口が設けられている。また、前後壁12,13には、図1?図8に示す如く、発酵槽1の補強を兼ねて、発酵槽1の軸線に平行状に延びる複数の攪拌翼18…が固着されている。」
カ 「【0014】すなわち、第1送吸気管3は、図1?図5に示す如く、・・・(略)・・・各送吸気パイプ35には下方に開口する複数の第1送吸気口38…が形成されている。
【0015】また、第2送吸気管4は、図1?図5に示す如く、・・・(略)・・・各送吸気パイプ45には上方に開口する複数の第1送吸気口48…が形成されている。
【0016】空気循環機構5は、発酵槽1を第1回転位置に保持させたときにおいて第1送吸気口群38…から吸気した空気8を第2送吸気口群48…から発酵槽1に循環供給させると共に、発酵槽1を第2回転位置に保持させたときにおいて第2送吸気口群48…から吸気した空気8を第1送吸気口群38…から発酵槽1に循環供給させるものであり、・・・(略)・・・」
キ 「【0021】送風機54は、発酵槽1が第1回転位置又は第2回転位置に保持されたときにおいて作動されて、発酵槽1内を好気雰囲気に保持させるべく空気8を循環させる。すなわち、発酵槽1が第1回転位置に保持された状態では、図1?図5に示す如く、発酵槽1内の空気8を第1送吸気口38…から第1送吸気管3及び吸気孔51を経て吸気路53bに吸気し、更に送気路53a、送気孔52及び第2送吸気管4を経て第2送吸気口48…から発酵槽1内に送気させるようになっている。また、発酵槽1が第2回転位置に保持された状態では、図6?図8に示す如く、発酵槽1内の空気8を第2送吸気口48…から第2送吸気管4及び吸気孔51を経て吸気路53bに吸気し、更に送気路53a、送気孔52及び第1送吸気管3を経て第1送吸気口38…から発酵槽1内に送気させるようになっている。なお、送風機54によって発酵槽1内に送気される空気量は、被処理物6の発酵処理条件に応じて適宜に設定される。」
ク 「【0023】外気取り入れ口56は、図1に示す如く、凝縮器55より下流側における循環路部分(吸気路部分)に設けられている。外気取り入れ口56から循環路53に外気(新鮮空気)を導入することにより、発酵槽1内における空気汚染を回避して適正な好気雰囲気に保持するように工夫されている。」
ケ 「【0025】余剰空気排出路59は、図1に示す如く、送気路53aにおける送風機54と空気加熱器57との間に接続されている。外気取り入れ口56から循環路53への外気導入により発酵槽1には必要以上の空気8が送気されることになるが、余剰空気排出路59は、かかる外気導入により余剰となった余剰空気8bを発酵槽1及び循環路53で形成される空気循環系外に排出して、発酵槽1への送気量を適正に保持するためのものである。」
コ 「【0026】以上のように構成された発酵処理装置によれば、次のようにして有機廃棄物の発酵処理つまりコンポスト化を好適に行うことができる。
【0027】まず、発酵槽1に所定量の被処理物6を供給する。すなわち、発酵槽1に、被発酵原料である有機廃棄物(一般に、下水,屎尿,産業排水,ディスポーザ等から発生する脱水汚泥、畜産,屠場廃棄物、一般家庭から排出される厨芥,残飯、農産廃棄物、コーヒ滓,ゼラチン滓等の工業廃棄等)と好気性の発酵菌(例えば、放線菌等の高温発酵型の浄化菌)とを、被発酵原料の性状(含水量等)に応じて、所定の配合比率で供給する。
【0028】そして、モータ25を駆動させて発酵槽1を回転させることにより、被発酵原料と菌体とを混合する。・・・(略)・・・
【0029】・・・(略)・・・発酵槽1内への送気量を適正に維持しつつ発酵,醸成に最適な好気雰囲気を確保する。
・・・(略)・・・
【0033】発酵槽1を反転させることによって、反転前後における発酵,醸成条件が変化せず、水分分布の均一化を効果的に行うことができ、発酵から醸成に至る一連のコンポスト化処理を効率良く効果的に行うことができる。」
サ 「【0044】また、攪拌翼18は、発酵処理前における被発酵原料と菌体との発酵槽1の回転による混合作用を効果的に行うために設けておくことが好ましいものであるが、その形状等は発酵処理条件等に応じて任意に設定することができる。」
シ 図1


ス 図2


セ 図3


ソ 図5


(甲2記載の考案)
上記摘示事項アによれば、甲2には、有機廃棄物を好気性微生物により発酵処理してコンポストを得る場合に好適する有機廃棄物の発酵処理装置が記載されている。
上記摘示事項ウによれば、上記発酵処理装置は、密閉型の発酵槽を使用し、発酵槽内の上下部に吸気管及び送気管を配置して、発酵槽内を空気循環による好気雰囲気に保持させることにより、アンモニア臭の発生等を防止しつつ良好な発酵処理を行いうるものである。
上記摘示事項エによれば、上記発酵処理装置は、発酵槽1と、発酵槽1を水平軸線回りで回転操作する回転操作機構2と、発酵槽1内に固定配置された第1及び第2送吸気管3,4と、発酵槽1内を好気雰囲気に保持する空気循環機構5とを具備してなる。
上記摘示事項オによれば、上記発酵処理装置は、被処理物及び処理物を給排するための開閉口を備えている。
上記摘示事項クによれば、上記発酵処理装置は、外気取り入れ口56を備えている。
上記摘示事項ケによれば、上記発酵処理装置は、外気導入により余剰となった余剰空気8bを発酵槽1及び循環路53で形成される空気循環系外に排出して、発酵槽1への送気量を適正に保持する余剰空気排出路59を備えている。
上記摘示事項ウによれば、上記発酵槽1は、水平軸線回りで回転操作自在であり、第1回転位置及びこれから180度回転(反転)した第2回転位置に選択的に固定保持される。
上記摘示事項オによれば、上記発酵槽1には、複数の撹拌翼18が固着されている。
上記摘示事項キによれば、送風機54は、発酵槽1が第1回転位置又は第2回転位置に保持されたときにおいて作動されて、発酵槽1内を好気雰囲気に保持させるべく空気8を循環させる。
上記摘示事項キによれば、上記発酵槽1が第1回転位置に保持された状態では、発酵槽1内の空気8を第1送吸気口38から第1送吸気管3及び吸気孔51を経て吸気路53bに吸気し、更に送気路53a、送気孔52及び第2送吸気管4を経て第2送吸気口48から発酵槽1内に送気させるようになっていて、
発酵槽1が第2回転位置に保持された状態では、発酵槽1内の空気8を第2送吸気口48から第2送吸気管4及び吸気孔51を経て吸気路53bに吸気し、更に送気路53a、送気孔52及び第1送吸気管3を経て第1送吸気口38から発酵槽1内に送気させるようになっている。
上記摘示事項カによれば、上記第1送吸気管3の上記第1送吸気口38は、送吸気パイプ35に複数設けられ、同様に、上記第2送吸気管4の上記第2送吸気口48は、送吸気パイプ45に複数設けられている。

そうすると、甲2には、
「上下部に吸気管及び送気管を配置して、空気循環機構5によって発酵槽1の内部の空気を循環して好気雰囲気に保持させて、アンモニア臭の発生等を防止して、有機廃棄物を好気性微生物により発酵処理してコンポストを得る有機廃棄物の発酵処理装置において、
被処理物及び処理物を給排するための開閉口と、
外気取り入れ口56と、
外気導入により余剰となった余剰空気8bを発酵槽1及び循環路53で形成される空気循環系外に排出して、発酵槽1への送気量を適正に保持する余剰空気排出路59とを備え、
発酵槽1は、密閉状であり、水平軸線回りで回転操作自在であって、第1回転位置及びこれから180度回転した第2回転位置に選択的に固定保持され、
発酵槽1には、複数の攪拌翼18が固着され、
発酵槽1が第1回転位置又は第2回転位置に保持されたときにおいて作動される、発酵槽1内を好気雰囲気に保持させるべく空気8を循環させる送風機54を備え、
発酵槽1が第1回転位置に保持された状態では、発酵槽1内の空気8を、送吸気パイプ35に複数設けられた第1送吸気口38から第1送吸気管3及び吸気孔51を経て吸気路53bに吸気し、さらに送気路53a、送気孔52及び第2送吸気管4を経て、送吸気パイプ35に複数設けられた第2送吸気口48から発酵槽1内に送気させるようになっていて、
発酵槽1が第2回転位置に保持された状態では、発酵槽1内の空気8を第2送吸気口48から第2送吸気管4及び吸気孔51を経て吸気路53bに吸気し、更に送気路53a、送気孔52及び第1送吸気管3を経て第1送吸気口38から発酵槽1内に送気させるようになっている発酵処理装置」(以下、「甲2考案」という。)が記載されている。

(3)甲3について
(甲3の記載事項)
甲3には、「空気の電子化装置」(考案の名称)について、次の記載がある。
ア 「【0001】
本考案は、空気中の酸素分子を電磁的に励起させ、一重項酸素などの活性化酸素を発生させるための電子化装置に関する。」
イ 「【0007】
特許文献1:特許2149501号公報
【0008】
この発明では、高圧電流を流した放電針で紫外線を発光させ、放電筒のなかでマイナスイオン(60?70%)とオゾン(30?40%)を発生させるものである。特に、この発明では放電筒に酸化チタン合金を使うことにより紫外線発光で照射される光エネルギーが酸化チタン合金に作用して電子的に励起され、オゾンとマイナスイオンが発生する仕組みになっている。」
ウ 「【考案が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、先の技術により放電筒から放出される活性化空気を大気中に取り出すと放電筒から発生するオゾン濃度が高いと環境的に問題となる。」
エ 「【0010】
この種の装置が脚光を浴びているのは気相オゾンが光分解によって電子励起状態の酸素原子となり、その励起状態にある酸素原子と水分子が反応してヒドロキシ-ラジカルが生成されることである。ヒドロキシ-ラジカルは、その強力な酸化力により水中や大気中の汚染物質を酸化するので、水質浄化、悪臭分解、土壌汚染物質の除去、ダイオキシン分解などに活用することができる。」
オ 「【0011】
しかし、この種の活性化空気を大気中に放散させると活性化空気中に残留するオゾンの影響が心配されるため、解放的に使用することが難しかった。
そこで、本考案はオゾンを発生させないで、空気を電子的に電子化させ、磁力を掛けて励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させる装置を提供することを課題とする。」
カ 「【0017】
一般的に、高電圧を流した放電針から電子が発生することは知られている。また、空気に磁力を作用させると磁化空気といって、空気中の酸素および窒素原子の外殻電子が励起されて一時的に高エネルギー状態になることが知られている。
しかし、高電圧を流した放電針から発生する電子に磁力線を作用させると空気中の酸素原子が励起されて、一重項酸素などの活性酸素種が発生することは知られていない。
本考案は、その仕組みを見出す実験の結果から体験的に得たものである。その仕組みにより発生する活性酸素は秒単位で消滅する非常に短命なもので、発生すると同時に瞬時に消滅するのでオゾンのような有害性はない。したがって、大気中や水中、土中などの開放された環境下での有機物の分解、脱臭、脱色などの化学操作として活用するに都合がよいものである。」
キ 「「実施形態の効果」
【0025】
この実施形態によれば、・・・(略)・・・空気中の酸素分子を電磁的に励起させて一重項酸素などの活性酸素種を含んだ空気(ロ)が発生する。この仕組みによって発生する活性酸素の半減期は数秒間程度と非常に短命であるため、大気中に放散しても残留することはなく、通常の三重項酸素に戻った空気は人体に悪影響を与えない。また、先の背景技術で説明したTiO_(3)と光触媒機構によって発生する活性酸素種のような有害なオゾンガスを発生させることがないので環境的に安全である。」
ク 「【0028】
本考案に関わる空気の電子化装置は、発生する活性酸素を活用してヒドロキシ-ラジカルを生成することができるので、極めて酸化力が強いヒドロキシ-ラジカルを活用して有機物を酸化し、分解するラジカル反応装置として工業的に利用することが可能である。従って炭化水素の重合、縮合、酸化などの化学反応や有機物の加水分解、発酵促進、低分子化、ガス化、脱臭、殺菌、脱色など、産業上の利用可能性を有する。」

(甲3記載の技術)
これらの記載によれば、甲3に記載された「空気の電子化装置」は、空気中の酸素を励起して、活性化酸素を発生させるものであり(ア)、発生した活性酸素は、有機物を酸化し、分解するものであって、炭化水素の重合、縮合、酸化などの化学反応や有機物の加水分解、発酵促進、低分子化、ガス化、脱臭、殺菌、脱色などに利用可能である(ク)ことがわかる。

2.甲4?甲21の記載事項
(1)甲4
甲4には、「有機物分解処理方法およびその装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項4】
フリーラジカル反応を利用して有機物を分解する有機物分解処理装置であって、
発生させた磁場の中に空気を通過させる磁場発生手段と、
前記磁場の中を通過した前記空気に対して第1セラミックを用いて活性酸素を生成する活性酸素生成手段とを備えることを特徴とする、有機物分解処理装置。」

(2)甲5
甲5には、「堆肥製造装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、堆肥製造槽を用いて堆肥を製造する装置に関し、特に、堆肥処理槽内部に垂直に配置する多数本の給気パイプを給気系と排気系のグループに分けて、製造中の堆肥に大量に空気を供給して、堆肥醗酵を促進させる堆肥製造装置に関する。」
「【0008】
【発明の実施の形態】・・・(略)・・・前記上部フレームの上には、堆肥処理槽全体をカバーするような上部カバー部材3を配置し、堆肥処理槽の周囲全体を外気に対して密閉できるように、建屋の内部に収容するようにして構成している。また、前記堆肥処理槽10は鉄板等の板部材と、補強用の鉄骨部材とを組み合わせた箱型に構成し、・・・(略)・・・」

(3)甲6
甲6には、「有機物を発酵させて発酵物を生成するための発酵処理装置」(【0001】)について、次の記載がある。
「【請求項1】
被処理物を発酵させるための密閉構造の発酵槽を有する有機物発酵処理装置において、該発酵槽は外部空気が自然流入するための開口部を有し、かつ該発酵槽を構成する壁部の少なくとも一部は、間に空間部が形成された二重構造体であって、・・・(略)・・・」
「【0022】
・・・(略)・・・ 本発明においては、該二重構造体を構成する部材として、保温性を確保するために、断熱性のものに限らず、後述のように、ステンレスとか鉄のような熱伝導性の高いものでも使用することができる。」

(4)甲7
甲7には、次の記載がある。
「・OHによる酸化のもう一つの特徴は,これがラジカル連鎖の開始反応となり,次式に示すラジカル反応を誘発することである.
・OH+RH→H_(2)O+R・ 開始
R・+O_(2)→RO_(2)・ }伝播
RO_(2)・+RH→ROOH+R・ 」(14頁下から5行から末行)
「・OHによる水素引き抜きにより生成するラジカルの隣によい脱離基があると,ただちに水による加水分解が起る.」(15頁7?8行)

(5)甲8
甲8は、本件無効審判事件と異なる訴訟事件(東京地方裁判所 平成26年(ワ)第10522号不正競争行為差止請求事件)の被告(本件無効審判事件の被請求人)が提出した答弁書であり、被告の答弁が記載されている。

(6)甲9
甲9には、「オゾン発生器」(考案の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】 導電性を有する筒状電極と、
該筒状電極の一方の開口部の外側に一定の間隔をもって配置されると共に前記筒状電極の略中心に位置付けられる導電性を有する針状電極と、
前記筒状電極と針状電極間に直流の高電圧を印加する高電圧発生装置と、
からなり、
前記筒状電極と針状電極に前記高電圧を印加することによりイオン及びオゾンを発生すると共に前記筒状電極の他方の開口部から外方に向かって流出する前記イオン及びオゾンを含む風を発生することを特徴とするオゾン発生器。」
「【0002】
【従来の技術】従来のオゾン発生器は、主としてセラミック電極とタングステン線電極との組み合わせによりオゾンを発生させ、電動ファンを使用してオゾンを流出させるものであった。」

(7)甲10
甲10には、「オゾン発生装置などの気体反応装置は放電によって気体中の電子を加速して気体分子を衝撃し、解離もしくは励起させて化学反応を起させるものである。」(2頁左上欄1?4行)という記載がある。

(8)甲11
甲11には、「従来、対置した電極に高圧電流を印加して放電を発生せしめ、もって、電極間の空気にオゾンを生成せしめることが知られており」(1頁左下欄13?15行)という記載がある。

(9)甲12
甲12によれば、特許庁電子図書館の特許分類検索による「放電によるオゾン製造方式」の検索(テーマコード:4G042、検索式:CA01)を2014年8月29日に実行したところ、ヒット件数が「3019」であったことがわかる。

(10)甲13
甲13によれば、特許庁電子図書館の特許分類検索による「放電以外によるオゾン製造方式」の検索(テーマコード:4G042、検索式:CA02+CA03+CA04+CA05)を2014年8月29日に実行したところ、ヒット件数が「806」であったことがわかる。

(11)甲14
甲14には、次の記載がある。
「ラジカルケースの特徴は、従来法に加え処理槽内を活性酸素で満たします。これにより活性酸素も直接、有機廃棄物を化学的に分解し、さらに有用バクテリア群が活躍しやすい環境を作り出します。」(4頁中欄「システムの原理」の項の3?5行)
「SRRより連続的、大量に作り出される活性酸素(フリーラジカル)はその強い反応性で有機物の分子結合を分解します。また殺菌力が高く腐敗菌などの嫌気性細菌などを殺菌し繁殖を抑えます。」(5頁2?4行)

(12)甲15
甲15には、次の記載がある。
「【0012】
本発明に係る汚泥分解・水質浄化剤は、少なくとも酸化チタンを含む多孔質セラミック粒体に微生物を含浸させたものであり、酸化チタンを光触媒として酸化分解作用及び微生物による増殖、有機物の酸化分解作用により汚泥を低減し水質を浄化する。」
「【0016】
酸化チタン(粒径7?10ナノメートル)に光が当たると、その表面には電子と正孔が発生し、電子は酸素を還元してスーパーオキサイドイオンをつくり、正孔は水分を酸化して水酸基ラジカルをつくる。スーパーオキサイドと水酸基ラジカルは総称して活性酸素と呼ばれ、強力な酸化分解作用をもつ。この力で、汚泥分解・水質浄化剤の表面に付着した汚泥を分解し臭いも消す。」
「【0019】
また、微生物によれば、その増殖反応により有機物を酸化分解して、微生物の活動エネルギーと生物体の増殖に使われる。そのため、有機物が酸化してエネルギー準位の低い有機酸化物が順次生成し、次第に粉末化して最終的には二酸化炭素にまで分解され汚泥の量を少なくすることができる。・・・(略)・・・微生物環境の改善、有用な微生物の活性化などから、悪臭成分であるアンモニアや硫化水素などの発生そのものを低減させるので、結果として脱臭効果が現れ、有用な微生物が活性化されるため、汚水処理能力があがり、水質改善に寄与し、・・・。」

(13)甲16
甲16において、「水中でのセラミックの触媒機能に関して」と題する説明文には、次の記載がある。
「5.活性酸素が有機汚泥に働き、微生物に影響を与えない理由
活性酸素の発生は微量であるが、コンスタントに発生する。
微生物は、たとえ、それでダメージを受けて死滅しても大量に存在する内の一部であり、それ以上に成長、増殖するので、結果としてプラスマイナスを考えると増加する。
有機物や有機性汚泥は、微量でもコンスタントに発生する活性酸素によって酸化され、減少していく。」(5頁32?38行)

(14)甲17
甲17には、「空気中の酸素分子を電磁的に励起させることにより、一重項酸素などの活性酸素を発生させる空気の感熱型電子化装置によって、都市ゴミなどの廃棄物、木材などのバイオマス資材、石炭、プラスチックなどを低温でガス化する装置」(【0001】)として用いられる「箱形をした鉄製の密閉容器の底面に感熱型電子化装置を取り付け、該感熱型電子化装置の上面を多孔板で多い、密閉容器の上面にガス化処理する資材を投入するための開閉できる投入蓋と排気口を設け、さらに、密閉容器の側面底部に開閉できる灰の取出蓋を設けたものをガス化装置とし、該ガス化装置に都市ゴミなどの可燃性廃棄物、木材などのバイオマス資材、石炭、プラスチックなどを充填して、感熱型電子化装置に空気を供給することにより発生する電子化空気によって該充填物を200℃以下で分解し、ガス化することを特徴とする低温ガス化装置」(【請求項1】)において、「多孔板6は、本体1に投入される投入物(ロ)を受け止めて感熱型電子化装置2に直接触れることを防ぎ、かつ感熱型電子化装置から噴気される電子化空気(ホ)が本体1の底面全域に拡散して均一に吹き上げられる整流坂の役割を果たすものである。」(【0023】)ことが記載され、「図1の実施形態では、本考案者が既に考案している、実用新案登録第136471号の感熱型電子化装置を使用するものであるが、自由電子と一重項酸素、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカルなどの極めて酸化力が強い活性酸素を発生させる機能をもった装置であれば同様の形態と機能を作り出すことができる。そのような電子化装置を該考案の感熱型電子化装置に換えて実施形態にしてもよい。」(【0027】)という記載もある。

(15)甲18
甲18には、「有機廃棄物(・・・(略)・・・)を好気性微生物により発酵処理(発酵,醸成)して堆肥(コンポスト)を得る場合に好適使用される有機廃棄物の発酵処理装置」(【0001】)において、「送気機構3は、図1及び図2に示す如く、本体容器5の底壁5aに形成した適当数の送気孔15…と、本体容器5の底壁5aに取付けた風箱16と、送風機(コンプレッサ,ブロワ等)17と、送風機17から導かれた送気管18と、送気管18の下流端部を風箱16の送気口16aに着脱自在に連結するコネクタ19とを具備し」(【0010】)と記載されている。

(16)甲19
甲19には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、有機系の廃棄物を微生物処理するのに適した撹拌処理装置に関する。」
「【0023】
処理空間23内の空気と循環空隙24内の空気は、空気循環装置60により互いに循環させてある。
空気循環装置60は、ポンプ61により吸引管62を通して処理空間23内の空気を取込んで送出管63を通して循環空隙24に吹き込み、そして、循環空隙24に吹き込んだ空気を、処理空間23と循環空隙24とを連通させてある環流管64で循環空隙24から処理空間23内に戻す。」

(17)甲20
甲20には、「SRRによる有機物の分解と減容化」と題し、次の記載がある。
「1.SRRについて
SRRとは、Super Radical Reactorの略称です。SRRは活性酸素種を活用して有機物を分解する技術であり、含水性有機物を即時的に加水分解するのが特徴です。」(1頁5?7行)
「3.分解の操作
市販の生ごみ発酵機にSRRエンジンを取り付けたような構造の反応器を作ります。」(2頁中央「3.分解の操作」の項の1?2行目)

(18)甲21
甲21には、次の記載がある。
「文献1に記載の発明と文献2に記載の発明は、何れも有機性廃棄物を堆肥化するものであり技術分野が共通するから、文献1に記載の発明に文献2に記載の「発酵槽の上部から吸気すると共に発酵槽の底部に設けた給気管から送気して発酵槽内を空気循環させる循環路」を組み合わせることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。」(2頁36?41行)

3.無効理由1について
(1)本件考案と甲1考案との対比
本件考案と甲1考案とを対比する。
本件考案の「密閉容器」と甲1考案の「反応器本体」とは、「容器」である点で共通する。
甲1考案の「有機性廃棄物」、「分解生成物」及び「分解生成物の取出口」を閉じる「蓋」は、本件考案の「資材」、「処理物」及び「容器の底部から処理物を取り出すための取出蓋」にそれぞれ相当する。
甲1考案の「回転軸」、「撹拌羽根」及び「駆動装置」からなる、反応器本体内に挿入された原料を攪拌するものは、本件考案の「攪拌装置」に相当する。
また、甲1考案の「脱臭装置や、集塵装置等を設置してもよい通気口」には、脱臭装置や、集塵装置が設けられるのであるから、反応器本体内部からの気体が排出される経路であって、本件考案の「排気管」に相当する。
甲1考案の「原料の装入口」は、本件考案の「資材を投入するための」投入部である点で共通する。
また、甲1考案の「有機性廃棄物を活性酸素と反応させてラジカル分解するバッチ式反応器」と、本件考案の「電子式低温加水分解装置」とは、「分解装置」である点で共通する。

ここで、本件考案の「電子化された空気を密閉容器に吹き込む電子化装置」は、「電子化された空気を密閉容器に吹き込む」ものであるが、技術常識に照らしても、「電子化された空気」とはどのようなものであるのかは、直ちには判然としないものの、本件考案では、「電子化装置」について特段の特定があるとは認められないことから、明細書に記載された「電子化装置41」に限られるものではなく、本件考案の「電子化装置」は、空気に対して電気を用いて何らかの作用をもたらすような装置を全て包含するものというべきである。
また、本件明細書の「本考案は、空気中の酸素分子を電磁的に励起させることにより、スーパーオキシドなどの活性酸素を発生させる空気の電子化装置によって、生ゴミなどの有機廃棄物、野菜くずなどの農産廃棄物、木材や紙、パルプなどのバイオマス資材を低温で加水分解する装置に関する。」(【0001】)という記載に照らせば、本件考案の「電子化装置」は、空気中の酸素分子から活性酸素を発生させる装置を包含するといえる。
そして、甲1考案の「オゾン供給手段」は、活性酸素の発生源であるオゾンを供給するものであって、結果的に活性酸素を供給する手段であるということができることから、甲1考案の「オゾン供給手段」は、酸化反応器本体内部に、活性酸素を供給する手段である点で、本件考案の「電子化装置」と共通する。

そうすると、本件考案と甲1考案とは、
「容器の中に攪拌装置と、容器の上部から資材を投入するための投入部と、容器の底部から処理物を取り出すための取出蓋と、容器から空気を排気するための排気管と、容器内部に活性酸素を供給する手段とを備えた分解装置。」である点で一致し、次の相違点1?4で相違する。

(相違点1)
有機性廃棄物の分解について、本件考案は、「低温加水分解」であるのに対し、甲1考案は、「所定の温度」に加熱されている、ラジカル分解である点。

(相違点2)
活性酸素を供給する手段について、本件考案は、空気の電子化装置であるのに対し、甲1考案は、無機性廃棄物とオゾン供給手段であって、オゾン供給手段によって供給されるオゾンは活性酸素ではなく、活性酸素の発生源である点。

(相違点3)
容器について、本件考案では、「鉄板などで作られた密閉容器」であり、該「密閉容器」に「投入蓋」を有しているのに対し、甲1考案の反応器は、原料の装入口には、蓋は備えておらず、装入口が常時開放されていて密閉されていない点。

(相違点4)
本件考案は、「密閉容器中の空気を送風機で吸引して密閉容器の底に取付けた多孔管から送り込める空気の循環装置」を備えていて、電子化された空気の密閉容器への吹き込みは、「その循環装置を介して」行われるのに対し、甲1考案は、そのような空気の循環装置は備えておらず、オゾンの供給がどのように行われるのか不明な点。

(2)相違点についての判断
(相違点1について)
まず、本件考案の「低温加水分解」における「低温」と、甲1考案における「所定の温度」とが実質的な相違点であるかについて、検討する。
本件考案に係る実用新案登録出願の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0010】、【0011】、【0013】および【0034】には、「・・・本考案者が考案した空気の電子化装置を用いて、この装置から発生する活性酸素種を含む空気を野菜屑に吹き付けて攪拌したところ、20?60℃程度の低い温度で加水分解されることが分った。」(【0010】)、「しかし、本考案によって60℃程度の低い温度でセルロースが加水分解するのであれば、・・・」(段落【0011】)、「資材は20?60℃程度の常温下で可溶化してドロドロの状態になる。」(【0013】)、「したがって、この実施形態によれば100℃以下の低温度で有機化合物を加水分解できるので、・・・」(段落【0034】)と記載されていることから、本件考案の「低温加水分解」の「低温」とは、「100℃以下」、特に「20?60℃程度」であるといえる。
一方、上記「1.(1)(甲1の記載事項)」の「摘示事項ウ」によれば、甲1考案における「所定の温度」は「30℃?90℃」、特に「40?65℃」であり、また、「摘示事項オの【0034】」には、「60℃」に加熱されている実施の態様が記載されている。
よって、甲1考案の「ラジカル分解」時の温度は、「30℃?90℃」としても、本件考案の「低温加水分解」における「100℃以下」の範囲に含まれるし、実施の態様で用いられている「60℃」は、本件考案の「20?60℃程度」に含まれるから、「相違点1」における有機性廃棄物の分解温度の点は、本件考案と甲1考案との実質的な相違点でない。

この点につき被請求人は、上申書(3)とともに提出された乙7の第8?第11頁、乙8の第1?第3頁にて、「発明や考案において規定される温度条件は、その発明や考案の操作条件に係るもの」であり、本件考案の「低温」とは、超臨界装置、亜臨界装置、濃硫酸煮沸装置などの従来の高温高圧下で熱分解される加水分解装置と比較して、100℃以下の低温で有機物が分解できることを表現したものであるのに対し、甲1考案は「堆肥」の製造に係るものであり、技術常識によれば、「堆肥」とは有機性廃棄物を「微生物」によって分解した肥料であるから、甲1考案で生じている反応は純粋なラジカル反応ではなく、微生物の関与する「発酵」であり、その温度条件は、ペーパースラッジ焼却灰や石炭燃焼灰を触媒としてラジカル連鎖反応を起こさせるために適した温度範囲であるとともに、微生物の繁殖に適した温度領域であって、単に温度範囲が数値的に近似していることをもって、本件考案と甲1考案とで、温度条件につき差異がないとはいえないと主張している。
しかしながら、「1.(1)(甲1の記載事項)」の「摘示事項イの【0013】」によれば、甲1考案は、微生物による発酵分解「以外」の手段による生ゴミ等の有機性廃棄物の処理方法の1つとして、「摘示事項イの【0015】及び【0016】」に記載された「ラジカル分解反応」を用いるものであり、その結果、「摘示事項イの【0017】」に記載されているように、「堆肥化」が行われるものであるから、「堆肥」という用語が使用されていることをもって、甲1考案で生じている反応が、微生物の関与する「発酵」であるとはいえない。
よって、上記主張は採用できない。

次に、本件考案の「加水分解」と、甲1考案の「ラジカル分解」とが実質的な相違点であるかについて、検討する。
本件明細書には、「加水分解」の具体的な反応式等の記載はないが、被請求人は、【0010】、【0024】、【0033】、【0034】および【0037】の、「そこで、本考案者は活性酸素種の高エネルギー的に作用するラジカル反応が生ごみや野菜屑などに含まれる有機物、木質や紙、パルプなどの有機物の加水分解に活用できるのではないかと考えた。そこで、本考案者が考案した空気の電子化装置を用いて、この装置から発生する活性酸素種を含む空気を野菜屑に吹き付けて攪拌したところ、20?60℃程度の低い温度で加水分解されることが分った。」(【0010】)、「・・・そして、電子化空気(b)と空気導入配管12によって本体1の上部から導かれる槽内空気(c)と混ざり合って多孔管15から本体1の内部で攪拌羽根4により攪拌される処理資材(ロ)と接触して槽内空気(c)の強い酸化力によって加水分解される。」(【0024】)、「・・・熱的に解離し難い共有結合であっても、スーパーオキシド(・O^(2-))やヒドロキシルラジカル(HO・)などのラジカルな自由電子を持った活性酸素種では、その強い酸化力によって低い温度でも解離させることができる。・・・
したがって、この実施形態によれば100℃以下の低温度で有機化合物を加水分解できるので、鉄板などの加工しやすい材質をもって装置を製作することができ、・・・」(【0033】、【0034】)、「本考案の装置では、植物体や動物体などの有機化合物をスーパーオキシド(・O^(2-))やヒドロキシルラジカル(HO・)などの活性酸素種による強い酸化力で加水分解するものであるが、・・・」(【0037】)との記載、及び、「ヒドロキシルラジカルの生成と反応」が「水が存在していないと起こりえない反応」であるという、平成26年9月24日付け上申書の第6頁第17?18行の主張によれば、本件考案における「加水分解」とは、「ヒドロキシルラジカル」による「有機性廃棄物」の「分解」を含む、「広義的に加水された状態の分解(加水分解)」であるといえる。
これに対し、「1.(1)(甲1の記載事項)」の「摘示事項イの【化1】」によれば、甲1考案における「有機性廃棄物」の「分解」機構は、「・OH」(ヒドロキシルラジカル)による分解反応が含まれており、本件考案と同じく「広義的に加水された状態の分解(加水分解)」が行われているといえるから、本件考案の「加水分解」と、甲1考案の「ラジカル分解」とは、実質的な相違点でない。

この点につき被請求人はさらに、上申書(3)とともに提出された乙7の第11?第15頁、乙8の第3?第7頁にて、「加水分解」とは、「1分子の化合物に水1分子が反応して、2分子の化合物を生成する反応のこと」であるとし、本件考案の「加水分解」とは、有機物の炭素結合をヒドロキシルラジカル(・OH)によって解離し、解離された部分の炭素にヒドロキシルイオン(OH^(-))及びプロトン(H^(+))が結合して、2分子の有機物が作られるから、本件考案ではこれをもって「ヒドロキシルラジカルによる加水分解」と称しているものであること、及び、「1.(1)(甲1の記載事項)」の「摘示事項イの【化1】」に記載された「ヒドロキシルラジカル」による反応は、「RH(有機物)」から「H」を離脱させる「脱水素反応」であることを述べた上で、本件考案の「ヒドロキシルラジカル」が、「空気の電子化装置」から供給される「スーパーオキシドラジカル(・O_(2)^(-))」から発生するのに対して、甲1考案の「ヒドロキシルラジカル」は、ペーパースラッジ焼却灰や石炭燃焼灰を触媒として生成するものであるから、方法的に全く異なったものであって、技術的共通性が認められないと主張している。
しかしながら、本件考案においては、「電子化された空気」の供給源として「電子化装置」が特定され、有機性廃棄物の分解が行われる装置が「電子式低温加水分解装置」と特定されているのみで、「加水分解」に寄与する「ヒドロキシルラジカル」の発生方法は特定されていないから、本件考案が、甲1考案と「方法的に全く異なったもの」であって、「技術的共通性が認められない」とはいえない。
また、本件明細書には、「加水分解」の具体的な反応式等の記載はなく、平成26年9月24日付け上申書第6頁に記載された、「ヒドロキシルラジカル」による酸化反応が、「含水物または加水された状態の有機物」でないと起こらないことから、当該反応は「広義的に加水された状態の分解(加水分解)の一種である」という主張をあわせて考慮すれば、本件考案の「加水分解」が、「有機物の炭素結合をヒドロキシルラジカル(・OH)によって解離し、解離された部分の炭素にヒドロキシルイオン(OH^(-))及びプロトン(H^(+))が結合して、2分子の有機物が作られる反応」であると限定して解釈することはできない。
さらに、「1.(1)(甲1の記載事項)」の「摘示事項イの【化1】」には、有機物である「RH」は、反応により最終的に「無定型炭素」となることが記載されており、「ヒドロキシラジカル」の存在下で「R・」は「無定型炭素」まで分解されると解されるが、上記乙7の第11?第15頁、乙8の第3?第7頁によれば、この分解反応は炭素の長鎖化合物である「R」部分に含まれる「有機物の炭素結合(C-C)」を、「ヒドロキシルラジカル(・OH)によって解離」する反応を含むものであり、当該「解離」が「水」の存在下で行われることを考慮すれば、その過程において、「解離された部分の炭素」には、「ヒドロキシルイオン(OH^(-))及びプロトン(H^(+))」が結合するから、「2分子の有機物が作られる反応」も生じているといえる。
よって、本件考案の「加水分解」と、甲1考案の「ラジカル分解」とは、実質的に異なる分解反応を意味するものであるとはいえない。
したがって、相違点1は実質的なものでない。

(相違点2)について
本件明細書の【0007】、【0010】、【0023】及び【0024】の、「・・・一重項酸素などの活性酸素種を発生させる空気の電子化装置・・・」(【0007】、【0010】)、「・・・一重項酸素などの活性酸素種を含んだ電子化空気(b)が発生する。」(【0023】)、「この電子化装置14によって活性酸素種を発生させるためには・・・」(【0024】)との記載によれば、本件考案の「電子化装置」は、技術的意味に判然としないところはあるものの、少なくとも空気中への「電子放出」を伴う処理を行うことにより、「活性酸素」を生成する装置であるといえる。
一方、本件明細書の【0035】には、「自由電子と一重項酸素、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカルなどの極めて酸化力が強い活性酸素を発生させる機能をもった装置であれば同様の形態と機能を作り出すことができる。そのような電子化装置を該考案の感熱型電子化装置に換えて実施形態にしてもよい。」とも記載されており、ここで「ヒドロキシルラジカル」は、「水」が存在していないと起こりえない反応により生成されるものであって(被請求人の平成26年9月24日付け上申書第6頁等参照。)、空気中への「電子放出」により生成されるものでないから、本件考案は、「電子化装置」で直接的に「活性酸素」を生成する態様に限定されず、「電子化装置」で空気中への「電子放出」を伴う処理が行われた後、「容器」内で「水」と反応させて有機性廃棄物の分解反応に用いる「活性酸素」が生成される態様を含むといえる。
ここで、甲1考案における「オゾン」は、「活性酸素の発生源」であるから、「1.(1)(甲1の記載事項)」の「摘示事項イの【化1】」に記載された、有機性廃棄物の分解反応に寄与する「活性酸素」となるといえるし、また水の存在下では、自己分解したオゾンが水の解離成分である水酸イオン(OH^(-))と反応し、過酸化水素の解離成分である「HO_(2)^(-)」となって過酸化水素が生成され、該過酸化水素がさらにオゾンと反応して、活性酸素である「ヒドロキシルラジカル」を生成することが一般に知られていることから、甲1には、「電子化装置」に相当する「オゾン発生手段」で「オゾン」を生成し、該「オゾン」が容器内で「活性酸素」となる態様が記載されているといえる。
そして、「2.(7)甲10」等に記載されているように、空気中への「電子放出」を伴う装置を用いることにより、「オゾン」が生成されることは周知・慣用技術であるから、甲1考案において、空気中への「電子放出」を伴う「オゾン発生手段」を用いて「オゾン」を生成し、該「オゾン」を容器内で「水」と反応させて「活性酸素」として、有機性廃棄物の分解反応が行われるようにすることは、当業者が極めて容易になし得ることである。

この点につき被請求人は、平成26年6月18日付け審判事件答弁書の第11?12頁、平成26年9月3日付け口頭審理陳述要領書の第8?9頁、平成26年9月24日付け上申書の第7、9頁及び、上記乙7の第15?16頁にて、本件考案の「空気」の「電子化装置」は、被請求人が実用新案権者である甲3記載の「空気の電子化装置」であって、オゾンを生成しないものであるから、オゾンを含む空気を供給し、触媒作用によりヒドロキシルラジカルを発生させる甲1考案のオゾン供給手段とは、作用機序の点でまったく異なり、技術的に共通性はないと主張する。
しかしながら、前記したとおり、本件明細書の【0035】には、「自由電子と一重項酸素、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカルなどの極めて酸化力が強い活性酸素を発生させる機能をもった装置であれば同様の形態と機能を作り出すことができる。そのような電子化装置を該考案の感熱型電子化装置に換えて実施形態にしてもよい。」との記載があり、本件考案の空気の電子化装置は、「活性酸素」を生成するものであれば、「オゾンを生成しないもの」に限定されるものではない。
また、上記乙7の第16頁及び乙8の第7頁では、オゾン単独ではヒドロキシルラジカルを生成する能力がなく、過酸化水素との反応又は紫外線照射により、ヒドロキシルラジカルが発生する機序を活用することが不可欠であるところ、本件考案にはそのような仕組みや工夫が備わっていない点についても主張するが、前記のとおり「ヒドロキシルラジカル」は、オゾンが水との反応によっても生成されるものであって、甲1考案の有機性廃棄物の分解反応では、「水」の存在下で反応が行われるものであるから、甲1考案にヒドロキシルラジカルが発生する仕組みが備わっていないという主張も採用できない。
したがって、本件考案の相違点2に係る考案特定事項は、甲1考案及び甲10記載の周知・慣用技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案し得たものである。

(相違点3)について
「密閉」は「隙間なく閉じること」を意味する用語であるが、本件明細書には、容器の密閉性についての記載はなく、容器を「密閉容器」としたことの作用効果についての記載もないから、本件考案の「密閉容器」の密閉性の程度は不明である。
また、本件考案のように、「密閉容器から空気を排気するための排気管」を備え、完全に「隙間なく閉じ」られたものでない「容器」に対しても、「密閉容器」という用語が用いられることは慣用されており、また、当該「密閉容器」の「資材」を投入する投入口に、「投入蓋」を設けることも、周知・慣用技術に過ぎない(必要であれば1.(14)甲17の【請求項1】、図1等参照。)。
一方、「1.(1)(甲1の記載事項)」の「摘示事項エの【0025】」によれば、甲1考案では、反応器に対して「有機性廃棄物の混合物1Kg当たり」、「10?500L/分好ましくは 50?100L/分」の供給量で空気が供給されるものであるから、甲1考案の反応器には、供給された空気に対応する量の空気を排出するための排気手段が必要であるといえるが、「1.(1)(甲1の記載事項)」の「摘示事項カの図1」には、排気手段についての記載はない。
ここで、「1.(1)(甲1の記載事項)」の「摘示事項カの図1」には、「空気又は酸素の供給手段」及び「オゾン供給手段」の記載もないから、(ア)「空気又は酸素の供給手段」及び「オゾン供給手段」は、「原料の装入口」又は「通気口」のいずれかに接続される、(イ)図示されずに「原料の装入口」及び「通気口」とは別に設けられている、のいずれかであるが、(ア)の場合、「原料の装入口」又は「通気口」の「空気又は酸素の供給手段」及び「オゾン供給手段」が接続されない側が、反応器に供給された量に対応する空気を排出するための、本件考案の「排気管」に相当する排気手段となっているといえるし、(イ)の場合、「原料の装入口」及び「通気口」の両方が、本件考案の「排気管」に相当する排気手段となっているといえる。
よって、甲1考案の反応器は、「排気管」で外部と「通気可能」な程度の密閉性を有しているから、本件考案の「密閉容器」に相当する。
そして、甲1考案において、「原料の装入口」を、「空気又は酸素の供給手段」及び「オゾン供給手段」に接続したり、排気手段として用いたりしない場合に、「蓋」を設けてふさぐことは周知・慣用技術に過ぎない(必要であれば1.(14)甲17の【請求項1】、図1等参照。)から、「密閉容器」を備えているといえる甲1考案において、「原料の装入口」を、「空気又は酸素の供給手段」及び「オゾン供給手段」に接続したり、排気手段として用いたりせずに、「原料の装入口」に「蓋」が設けられた構造を採用することは、当業者が極めて容易になし得ることである。

この点につき被請求人は、上記乙7の第18?20頁にて、本件考案の「密閉容器」は、槽内空気を強制的に循環させることによって、流速(線速度)を速め、処理資材を加水分解させる「極めて短命な活性酸素」の作用を高めること、湿度の高い槽内空気を電子化空気と反応させて、長命で保存性も高い「過酸化水素」を生成するには、槽内空気を槽外へ逃がさないように、「容器」を「密閉」構造にすることが重要であることを主張している。
しかしながら、本件明細書には、【0030】に密閉すること自体の記載はあるが、そのような目的から密閉容器を採用する旨の記載はなく、上記主張は明細書に基づかないものであるから、採用できない。
また、仮に本件明細書に、密閉容器を採用する目的についての記載があったとしても、甲1考案であっても、オゾンから有機物の分解に使用する「活性酸素」を生成し、当該「活性酸素」により有機物分解をさせる十分な時間を与えるためには、「オゾン」や「活性酸素」を含む気体を槽外へ散逸させない工夫は必要だから、気体が散逸しない程度の密閉性を与えることに格別な困難性はないし、(相違点4について)に記載のとおり、槽内空気を「循環」することは当業者がきわめて容易になし得たことであり、むしろ槽内空気の「循環」を目的とするのであれば、「密閉容器」は当業者であれば当然に採用する手段であるといえるから、この点は本件考案の容易想到性の判断を左右するものでない。
したがって、本件考案の相違点3に係る考案特定事項は、甲1考案及び甲17記載の周知・慣用技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案し得たものである。

(相違点4について)
上記「1.(1)(甲1に記載された考案)」の「摘示事項エの【0022】?【0025】」によれば、甲1考案で分解反応に用いる酸素は、有機性廃棄物と無機性廃棄物との混合物中の水分に溶解した形で供給されるものであるから、有機性廃棄物の効率的な分解のために、上記混合物中の水分に溶解した酸素の量が多い方が望ましいことは、当業者にとって明らかである。
一方、上記「1.(2)(甲2に記載された考案)」の「摘示事項ア」、「摘示事項イの【0002】」及び「摘示事項ク」に記載されているように、甲2考案は、密閉型の発酵槽を使用した発酵処理装置において、発酵槽の上下部に複数の開口を有する吸気管及び送気管を配置し、循環路に送風機及び外気取り入れ口を設け、発酵槽内を空気循環による好機雰囲気に保持する空気循環機構である。甲2考案の空気循環機構を用いた場合には、発酵槽の下部に配置された送気管から送出された空気が有機性廃棄物を通過するから、有機性廃棄物中の水分に空気中の酸素を溶解させる上で好都合であることは、当業者であれば容易に理解できることである。
そうすると、甲1考案において、分解反応を促進するために、有機性廃棄物と無機性廃棄物との混合物中の水分に溶解する酸素量を多くして、甲2考案の空気循環機構を採用して相違点4に係る本件考案の構成とすることは、きわめて容易であるといえる。
「1.(1)(甲1に記載された考案)」の「摘示事項エの【0025】」には、「空気の供給量は、有機性廃棄物の混合物1Kg当たり、一般に、10?500L/分好ましくは 50?100L/分である。10L/分未満では、水に溶解する酸素量が少なく、500L/分より大では、反応混合物の温度を下げ、乾燥させすぎて分解反応を阻害することとなる。」との記載があるが、この記載は、空気の供給量の許容範囲を定めた物に過ぎず、当業者が、この記載に基づき、甲1考案において、空気の供給方法は通気口からのものに限定されているとか、通気口からの空気のみでその供給量が十分なものとされていると理解するとはいえない。

この点につき被請求人はさらに、本件考案における空気の循環は、槽内空気の流速(線速度)を速めたり、過酸化水素の生成をもたらせることが目的であり、空気の溶解量を増やすためのものではない旨を主張する(乙7の第20頁)が、本件明細書にはそのような目的から空気を循環させる旨の記載はなく、当該主張は明細書に基づかないものであるから、採用できない。
また、被請求人は、甲1考案は微生物を利用したものではなく、微生物の発酵処理に適した好機雰囲気を保持する課題は存しないから、甲2考案を組み合わせる動機づけはない旨、主張するが、空気循環による好気雰囲気を保持することによって有機性廃棄物中の水分に溶解する酸素量を多くするとの技術事項を適用するに当たり、有機性廃棄物の分解機序が相違することは、その適用の妨げとなるものではないから、当該主張は採用できない。
なお、甲2考案は被処理物の保湿分布を均一にして処理反応を均一かつ効率的に起こさせるという技術課題を直接の対象とするものであり(「1.(2)(甲2に記載された考案)」の「摘示事項イの【0004】」)、この課題の解決のため、甲2考案は、発酵槽内の上下部に吸気管及び送気管を配置して、発酵槽内を空気循環による好気雰囲気に保持させていた従来技術に加えて、上記保湿分布の均一との技術課題の観点から、発酵槽内の上下部にあるパイプに送吸気を兼ねさせて、発酵槽を上下に反転操作できるようにしたものである。そうすると、空気循環による好気雰囲気を保持するための空気循環機構を適用するに当たり、保湿分布の均一化のための機構を必ずしも要するものでないことは、当業者であれば甲2から容易に読み取ることができる。したがって、甲1考案に保湿分布を均一にするという技術課題がないからといって、甲1考案に甲2考案の空気循環機構を適用することが妨げられるものではない。
したがって、本件考案の相違点4に係る考案特定事項は、甲1考案及び甲2記載の技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案し得たものである。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件考案は、甲1考案、甲2記載の技術及び周知・慣用技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案し得たものである。

4.無効理由2について
(本件考案と甲2考案との対比・判断)
(1)対比
本件考案と甲2考案とを対比する。
甲2考案の「攪拌翼18」、「有機廃棄物」及び「空気循環機構5」は、本件考案の「攪拌装置」、「資材」及び「空気の循環装置」にそれぞれ相当する。
そして、本件考案では、「密閉容器」に関して、「鉄板などで作られた」という限定があるものの、該限定は、「密閉容器」を作る素材として「鉄板」を例示したものにすぎないと認められ、「密閉容器」について特段、特定しているものとは認められないことから、甲2考案の「密閉状の発酵槽1」は、本件考案の「鉄板などで作られた密閉容器」に相当する。
また、甲2考案は、「第1送吸気管3」及び「第2送吸気管4」は、それぞれ、「送吸気パイプ35に複数設けられた第1送吸気口38」及び「送吸気パイプ45に複数設けられた第2送吸気口48」を備えており、「送吸気パイプ35」及び「送吸気パイプ45」のいずれも、「密閉状の発酵槽1」の底部に位置した時に、複数の送吸気口によって、空気8の送気を行うものであるから、甲2考案の「送吸気パイプ35」及び「送吸気パイプ45」は、本件考案の「密閉容器の底に取り付けた多孔管」に相当する。
そして、甲2考案の「外気導入により余剰となった余剰空気8bを発酵槽1及び循環路53で形成される空気循環系外に排出して、発酵槽1への送気量を適正に保持する余剰空気排出路59」は、発酵槽1には直結されていないものの、結果的には、「密閉状の発酵槽1」から余剰空気を排出するものであるから、本件考案の「密閉容器から空気を排気するための排気管」に相当する。

そうすると、本件考案と甲2考案とは、「鉄板などで作られた密閉容器のなかに攪拌装置と、密閉容器の底に多孔管と、密閉容器中の空気を送風機で吸引して密閉容器の底に取付けた多孔管から送り込める空気の循環装置と、密閉容器から空気を排出するための排気管を備える装置」である点で一致し、次の相違点1の2及び2の2の点で相違する。

(相違点1の2)
本件考案は、「電子式低温加水分解装置」であって、「循環装置を介して電子化された空気を密閉容器に吹き込む電子化装置」を備えているのに対し、甲2考案は、有機廃棄物の発酵処理装置であって、本件考案のような電子化装置は備えていない点。

(相違点2の2)
本件考案は、「密閉容器の上部から資材を投入するための投入蓋と、密閉容器の底部から処理物を取り出すための取出蓋」を備えているのに対し、甲2考案は、被処理物及び処理物を給排するための共通の開閉口しか備えていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、まず、相違点1の2について検討する。

(相違点1の2について)
甲3記載の「空気の電子化装置」(以下、「甲3装置」という。)における有機廃棄物の分解機序は、スーパーオキシド(・O_(2)^(-))やヒドロキシルラジカル(HO・)などのラジカルな自由電子をもった活性酸素種を発生させ、その強い酸化力によって、植物体や動物体などの有機化合物を分解するもの(【0011】【0016】【0028】)と認められる。これに対して、甲2考案の有機性廃棄物の分解機序は、好気性微生物による発酵処理である。しかるところ、甲3装置により生成された活性酸素による分解作用は、有機物で構成されている微生物に対しても及ぶことが自明であるから、好気性微生物を利用する甲2考案の分解機序に対して有益な効果をもたらすか否かは明らかではなく、甲2考案の分解機序に甲3記載の「空気の電子化装置」による分解機序を加えることは、阻害要因があるといえる。
したがって、上記相違点1の2に係る本件考案の考案特定事項は、甲2考案及び甲3記載の技術に基いて、当業者がきわめて容易に想到し得たということはできない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、相違点2の2について検討するまでもなく、本件考案は、甲2考案及び甲3記載の技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案し得たものとすることはできない。

(4)請求人の主張について
請求人は、上記相違点1の2に関連して、次のように主張している。
ア 「動機付けについて検討すると、甲第3号証には、「本考案に関わる空気の電子化装置は、発生する活性酸素を活用してヒドロキシ-ラジカルを生成することができるので、極めて酸化力が強いヒドロキシ-ラジカルを活用して有機物を酸化し、分解するラジカル反応装置として工業的に利用することが可能である。従って炭化水素の重合、縮合、酸化などの化学反応や有機物の加水分解、発酵促進、低分子化、ガス化、脱臭、殺菌、脱色など、産業上の利用可能性を有する。」(段落【0028】・・・)との記載がある。
甲第3号証に記載の空気の電子化装置を、有機物を酸化・分解するラジカル反応装置として利用し、有機物の加水分解に用いるには、加水分解を起こさせるための水分調整を行う必要があるから、水分を閉じ込めるための反応槽と、水分を均一に保つための機構が必要になる。この点について、甲第2号証には、「このような密閉型の発酵槽を使用して、発酵槽の上部から吸気すると共に下部から送気するようにした場合、送吸気による空気循環が継続されるに伴って、発酵槽内における被処理物の下層部分と上層部分との保湿分布(水分分布)が極端に不均一となり、発酵、醸成を効果的に行い得ないといった問題があった」(段落【0004】)との技術的な課題が記載され、反応槽内全体の保湿分布を均一に保つことができる構成が開示されている。
以上のとおり、甲第3号証には、空気の電子化装置をラジカル反応装置として利用することの示唆がされており、ラジカル反応装置として利用する際の課題と甲第2号証に記載の発酵槽との解決課題とが共通しているから、甲第3号証に記載の「電子化装置」を甲第2号証に記載の発酵槽において空気循環機構5に設けることの動機付けが存在していることは、明らかである。」(口頭審理陳述要領書26頁5?26行)
イ 「仮に、甲第3号証に記載の考案は、ラジカル反応を利用するものであって、甲第2号証に記載の発酵処理とは、有機物分解処理の機序が異なるとしても、有機性廃棄物の分解処理としての技術分野は共通している上、被処理物に均一に空気を供給して処理槽内の保湿成分を均一に保つことができる処理槽としては、ラジカル反応槽であっても発酵槽であっても技術的な差異はない。」(口頭審理陳述要領書26頁27行?27頁2行)
ウ 「本件登録実用新案の考案者の一人である平田俊道氏は、平成21年7月中部異業種間リサイクルネットワーク協議会研究会の講演資料である「SRRによる有機物の分解と減容化」(甲20号証)において、本件登録実用新案に係る装置を「市販の生ごみ発酵機にSRRエンジンを取り付けたような構造の反応器を作ります」(2頁2行)と紹介している。この「SRRエンジン」とは、甲第3号証に記載の「空気の電子化装置」のことであるから、本件考案は、甲第3号証に記載の「空気の電子化装置」を、生ごみ発酵機(例えば、甲第2号証に記載の「有機廃棄物の発酵処理装置」)に取り付けるだけで、きわめて容易に得られることが示されている。
したがって、本件登録実用新案は、甲第2号証及び甲第3号証に記載の考案に基いて実用新案登録出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。」(口頭審理陳述要領書27頁3行?27頁14行)
エ 「甲第3号証には「本考案に関わる空気の電子化装置は・・・(略)・・・有機物の加水分解、発酵促進、低分子化、ガス化、脱臭、殺菌、脱色など、産業上の利用可能性を有する。」(段落【0028】、下線は請求人が付した)との記載があり、甲第3号証に記載の「電子化装置」を甲第2号証に記載の発酵槽に組み合わせることの示唆がなされている。
甲第17号証の段落【0027】にも、甲第3号証に記載の「電子化装置」を有機物の処理槽である密閉容器に組み合わせることの示唆がなされている。」(平成26年10月2日付け上申書2頁5?12行)

しかしながら、以下のとおり、請求人の上記主張は採用することができない。

(アに係る主張について)
甲3には、「空気の電子化装置」を、ラジカル反応装置として利用することが可能であり、有機物の発酵促進等に用いることが記載されている(摘示事項クの【0028】)ものの、有機物の発酵促進に用いる場合に、反応槽(発酵槽)のような限定的な空間内での発酵に対して「空気の電子化装置」を用いることについての記載や示唆があるとは認められない。
そして、甲3には、「本考案は、・・・その仕組みにより発生する活性酸素は秒単位で消滅する非常に短命なもので、発生すると同時に瞬時に消滅するのでオゾンのような有害性はない。したがって、大気中や水中、土中などの開放された環境下での有機物の分解、脱臭、脱色などの化学操作として活用するに都合がよいものである。」(摘示事項カの【0017】)と記載されていることから、甲3の「空気の電子化装置」は、有機物の発酵促進に用いる場合であっても、反応槽内の発酵というよりも、むしろ、解放された環境下での発酵促進に使用されることが意図されているというべきである。
そうすると、請求人の主張は、甲3の「空気の電子化装置」の利用には、水分を閉じ込めるための反応槽が必要であることを前提とするところ、上述したように、甲3の「空気の電子化装置」は、反応槽内の発酵に使用されることを意図したものとはいえないことから、請求人の上記主張(ア)は採用することができない。
なお、甲17の【0027】にも、甲3の「空気の電子化装置」についての記載があるが、これを有機物の発酵処理槽に用いることについての記載も示唆も見出すことができない。

(イ?エに係る主張について)
甲2考案は、発酵槽1に、有機廃棄物と好気性の発酵菌とを、被発酵原料の性状(含水量等)に応じて、所定の配合比率で供給され(摘示事項コの【0027】)、発酵槽1内への送気量を適正に維持しつつ発酵,醸成に最適な好気雰囲気を確保して(同【0029】)、発酵槽1を反転させることによって、反転前後における発酵、醸成条件を変化させない(同【0033】)ようにすることで、有機物の発酵処理を好適に行うようにしたもの(同【0026】)ということができる。
そうすると、仮に、請求人が主張するように、甲2考案の発酵処理と甲3のラジカル反応が、有機物の分解処理としての技術分野が共通し(イ)、甲2考案に甲3の「空気の電子化装置」を取り付けることが可能であって(ウ)、甲3の「空気の電子化装置」によって電子化された空気が発酵処理を促進する(エ)ものだとしても、甲2考案の発酵、醸成に最適な好気雰囲気を確保し、発酵、醸成条件を変化させないようにした発酵槽1内に、発酵処理を促進させることで、発酵、醸成条件を変化させることが明らかな、甲3記載の「空気の電子化装置」による空気を送り込むことを採用することには、動機付けがないばかりか、阻害要因があるというべきである。

したがって、請求人の上記主張(イ?エ)は採用することができない。

5.まとめ
以上のとおり、本件実用新案登録の請求項1に係る考案は、甲1考案、甲2記載の技術及び周知・慣用技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから実用新案法第3条第2項の規定により、その考案について実用新案登録を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件実用新案登録の請求項1に係る考案は、実用新案法第37条第1項第2号の規定に該当するので、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
(参考)平成26年12月16日付け審決(第1次審決)は以下のとおりである。
「無効2014-400005

神奈川県厚木市泉町8番8号
請求人 浅岡 敬一郎
東京都新宿区四谷3丁目7番地 かつ新ビル5階 中野特許事務所
代理人弁理士 中野 圭二
神奈川県横須賀市公郷町5丁目91番地
被請求人 有限会社 公郷生命工学研究所
東京都港区赤坂6丁目3番13号 赤坂二和ビル5F 赤坂総合法律事務所
代理人弁護士 大嶋 芳樹
東京都港区赤坂6丁目3番13号 赤坂二和ビル5F 赤坂総合法律事務所
代理人弁護士 大嶋 勇樹

上記当事者間の実用新案登録第3150628号考案「電子式低温加水分解装置」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理 由
第1 手続の経緯
本件実用新案登録第3150628号に係る経緯の概要は、以下のとおりである。
平成21年 2月24日 実用新案登録出願(実願2009-1629号)
同 年 4月30日 設定登録
平成26年 4月28日 本件無効審判請求
同 年 6月18日 審判事件答弁書
同 年 7月 7日 審判事件答弁書(追加)
同 年 7月22日 審理事項通知書
同 年 9月 3日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同 年 9月 3日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同 年 9月17日 口頭審理
同 年 9月24日 上申書(被請求人)
同 年10月 2日 上申書(請求人)
同 年10月31日 上申書(2)(被請求人)

第2 本件登録実用新案
実用新案登録第3150628号の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)、実用新案登録請求の範囲及び図面(以下、「本件図面」という。)の記載から見て、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「鉄板などで作られた密閉容器のなかに攪拌装置と、密閉容器の底に多孔管と、密閉容器中の空気を送風機で吸引して密閉容器の底に取付けた多孔管から送り込める空気の循環装置と、その循環装置を介して電子化された空気を密閉容器に吹き込む電子化装置と、密閉容器の上部から資材を投入するための投入蓋と、密閉容器の底部から処理物を取り出すための取出蓋と、密閉容器から空気を排気するための排気管とを備えることを特徴とする電子式低温加水分解装置。」

第3 請求人及び被請求人の主張の概要
1.請求人の主張
請求人は、実用新案登録第3150628号考案の実用新案登録請求の範囲の請求項1に係る考案についての実用新案登録を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め(審判請求書1頁下から5行?末行)、次の無効理由1、2を主張している。
ア 無効理由1
甲第1号証(主引用例。以下、甲各号証及び乙各号証は、甲(乙)号証番号に対応して「甲1」、「乙1」などともいう。)に記載の反応器のオゾン供給手段に、周知・慣用技術の放電を利用したオゾン供給手段を適用し、甲1の反応器に代えて甲2記載の発酵槽を適用して、本件考案とすることは当業者にとってきわめて容易であることから、本件考案は実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、本件考案についての実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(第1回口頭審理調書の「請求人 3(2)ア」)。
イ 無効理由2
甲2(主引用例)に記載の発酵槽の空気循環装置に、甲3の電子化装置を設けて、本件考案とすることは当業者にとってきわめて容易であるから、本件考案は実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録をうけることができないものであり、本件考案についての実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(第1回口頭審理調書の「請求人 3(2)イ」))。

請求人は、証拠方法として、次の甲第1号証ないし甲第21号証を提出している。
[証拠方法]
甲第1号証:特開2004-359530号公報
甲第2号証:特開2002-356391号公報
甲第3号証:登録実用新案第3133388号公報
甲第4号証:特開2007-117946号公報
甲第5号証:特開平10-139576号公報
甲第6号証:特開2005-324179号公報
甲第7号証:日本化学会編「活性酸素種の化学」学会出版センター、1990年、表紙、3?5頁、8?15頁(「1 酸素および活性酸素種の物理学」斉藤烈、松浦輝男共著)
甲第8号証:東京地裁 平成26年(ワ)10522号 不正競争行為差止等請求事件の被告(本件の被請求人)平成26年7月9日付け審判事件答弁書
甲第9号証:実公平8-9137号公報
甲第10号証:特開昭56-45758号公報
甲第11号証:特開昭57-82106号公報
甲第12号証:特許庁電子図書館の特許分類検索による「放電によるオゾン製造方式」の検索結果(2014年8月29日作成)
甲第13号証:特許庁電子図書館の特許分類検索による「放電以外によるオゾン製造方式」の検索結果(2014年8月29日作成)
甲第14号証:イケゾエFRPプロダクツ株式会社のウェブサイトに掲載されていたパンフレット「RADICALCASE/with SRR TECHNOLOGY」
甲第15号証:特開2005-144304号公報
甲第16号証:株式会社セイスイのウェブサイトに掲載されていた「水中でのセラミックの触媒機能に関して」と題する説明文(著者:東北大学工学研究科 名誉教授 西野徳蔵)(2014年9月2日印刷出力)
甲第17号証:登録実用新案公報第3143786号公報
甲第18号証:特開2003-305446号公報
甲第19号証:特開2008-253899号公報
甲第20号証:公郷生命工学研究所 技術士 平田俊道著「SRRによる有機物の分解と減容化」、平成21年7月23日、中部異業種間リサイクルネットワーク協議会(CRN)研究会・講演資料
甲第21号証:平成26年4月8日付けの平田須美江提出「刊行物提出書」(特願2010-104362号)
なお、甲1から甲21の成立について、当事者間に争いはない。

2.被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、概ね、次のように主張している。
ア 本件考案について
本件考案は、電子化装置によって、活性酸素である一重項酸素(1Δg)と二重項酸素(.O2-)とを含み、オゾンは含まない「電子化された空気」によって、セルロースや多糖類などから単糖類、二糖類などの糖類を生産することができる、有機物を電子的に加水分解して低分子化する装置に関するものである(審判事件答弁書)。
本件考案は、「有機物を電子式に加水分解させる装置」に関するものであるが、「加水したものを分解する装置」でもあり、糖分(ブドウ糖)は、ヒドロキシラジカル(・OH-)の反応により分解されて炭酸ガスと水になり、この反応も、水が存在しないと起こらない酸化反応であるから、広義的に加水された状態の分解(加水分解)の一種であると理解されている(平成26年9月24日付け上申書5頁下から2行?6頁末行)。
イ 甲1記載の技術との対比
本件考案と甲1記載の技術とは、作動原理、構造、及び効果が異なる。
すなわち、甲1記載の技術のラジカル反応は、無機性廃棄物を触媒として、生ごみ等の有機性廃棄物をラジカル分解して堆肥化するものであり、本件考案の「電子式低温加水分解装置」の二重項酸素によるラジカル反応とは、目的、作用が異なる反応形態である(審判事件答弁書)。
甲1には、「酸素又は空気以外に、オゾンの存在は、活性酸素の発生源であるため、有機性廃棄物の分解には有効であり、反応器にオゾン供給手段を設けてもよい。」という記載があるものの、本件考案における二重項酸素はラジカル種であり、甲1記載の技術のオゾンはノンラジカル種であるから、それらの化学的性質と作用は異なったものである(審判事件答弁書)。
ウ 甲2記載の技術との対比
本件考案では、装置内の土壌微生物は死滅するので、堆肥などの発酵物を作り出すことはできず、本件考案と、甲2記載の有機廃棄物を発酵処理してコンポスト(堆肥)を得る微生物による有機廃棄物の発酵処理装置とは、対象技術分野が異なる(審判事件答弁書)。
エ 甲3記載の技術との対比
甲3の「空気の電子化装置」を工業的に活用する方法として考案された装置が本件考案であって、甲3には、本件考案の装置の構造や仕組みが記載されていない(審判事件答弁書)。
また、本件考案は、空気の電子化装置を空気導入管の途中(送風機の吸引側)に接続したことで、水とスーバーオキシドアニオンとの反応を高め、発生と共に瞬間的に消滅する活性酸素の酸化力を長寿命化することができることから、甲3から極めて容易に考案をすることができたものではない(審判事件答弁書(追加))。
オ 甲2に記載の発酵槽の空気循環装置に甲3の電子化装置を設けることについて
甲3には、甲3の電子化装置を甲2の発酵槽に組み合わせることは示唆されておらず、甲2の発酵槽に甲3の電子化装置を取り付ける動機付けはない(平成26年10月31日付け上申書(2))。

被請求人は、証拠方法として、次の乙第1号証ないし乙第4号証の2を提出している。
[証拠方法]
乙第1号証:平田俊道作成の陳述書(平成26年6月13日付け)
乙第2号証:平田俊道作成の書類(平成26年9月3日作成)
乙第3号証:乙1と同じ
乙第4号証の1:イケゾエFRPプロダクツ株式会社のウェブサイトに掲載されていたパンフレット「RADICALCASE/with SRR TECHNOLOGY」(甲14及び「原理の訂正とお詫び」の頁)
乙第4号証の2:乙4の1の「文書のプロパティ」が表示された画面を印刷したもの
なお、乙1から乙4の2の成立について、当事者間に争いはない。

第4 当審の判断
1.甲1?甲3について
(1)甲1について
(甲1の記載事項)
甲1には、「農業資材の製法及びその製法によって製造された農業資材」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。
ア 「【発明の属する技術分野】
本発明は、生ゴミ、畜産廃棄物、水産廃棄物等の有機性廃棄物を高速で堆肥化して、肥料、土壌改良剤等として利用される高品質の農業資材を製造する方法及びこれにより得られた高品質の農業資材に関する。」
イ 「【0013】
微生物による発酵分解以外の手段による生ゴミ等の有機性廃棄物の処理方法の1つとして、粘土・Fe錯体を使用する化学反応を利用する方法も提案されている(非特許文献1参照)。
【0014】
・・・(略)・・・
【非特許文献1】
活性型粘土-鉄錯体の循環農業への応用:北海道大学先端科学技術共同研究センター業績集,Vol.1, 119-124(1999)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
前記文献「活性型粘土-鉄錯体の循環農業への応用」には、下記の事項が記載されている:
-「活性型粘土-Fe錯体」が、「鉄-フタロシアニン錯体」と同様に、酸素分子から「活性酸素」を生成し、この「活性酸素」の高い反応性のため、有機物をラジカル化して、分解する;及び
-この一連の有機性廃棄物のラジカル分解反応は、下記の分解機構で表される。
分解機構
【化1】

【0016】
発明者らは、これまで、大部分が再利用されることなく廃棄されていたペーパースラッジ焼却灰及び石炭燃焼灰が、上記の「活性型粘土-Fe錯体」の機能と同様の機能を有することを新たに見出した。」
ウ 「【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明によると、上記目的は、次のようにして達成される。
(1)生ゴミ、畜産廃棄物、水産廃棄物等の有機性廃棄物を、高速で、かつ悪臭を発生することなく堆肥化して、肥料、土壌改良剤等として利用される高品質農業資材を製造する方法において、前記有機性廃棄物に、ペーパースラッジ焼却灰、石炭燃焼灰及びこれらの混合物でなる群から選ばれる無機性廃棄物を添加し、得られた混合物を、空気の存在下、温度を30?90℃に維持しながら、攪拌することによって、前記有機性廃棄物を分解する。
・・・(略)・・・
(4)上記(1)?(3)項のいすれかにおいて、有機性廃棄物と無機性廃棄物との混合物の撹拌を、空気に加えて、オゾンを供給しながら行う。」
エ 「【0022】
有機性廃棄物と無機性廃棄物とを混合した後、得られた混合物について、水分の調節を行う。混合物の水分含量は、一般に、40?80質量%、好ましくは、55?65質量%である。有機性廃棄物の分解反応では、水に溶解している酸素が活性化されるという理由から水分の存在は必須であが、水分含量が40質量%未満では、反応系が乾燥しすぎて、分解が進行せず、また、80質量%より大では、水分が多すぎて、反応器から排出される製品が湿潤しすぎており、次行程での乾燥処理において高温及び長時間の処理が必要となる。
【0023】
このようにしてペーパースラッジ焼却灰、石炭燃焼灰又はこれらの混合物を添加した有機性廃棄物を、攪拌機を備えた反応器に装入する。反応器は、さらに、反応器内部において有機性廃棄物の混合物を外部から加熱し、その温度を保持するための加熱保温装置を備えている。また、分解反応には、酸素の存在が必須であり、空気又は酸素の供給手段が設置してある。
【0024】
酸素又は空気以外に、オゾンの存在は、活性酸素の発生源であるため、有機性廃棄物の分解には有効であり、反応器にオゾン供給手段を設けてもよい。
【0025】
空気の供給量は、有機性廃棄物の混合物1Kg当たり、一般に、10?500L/分好ましくは 50?100L/分である。10L/分未満では、水に溶解する酸素量が少なく、500L/分より大では、反応混合物の温度を下げ、乾燥させすぎて分解反応を阻害することとなる。」
オ 「【0030】
このバッチ式反応器(1)は、両端で閉じられた横方向で長手の円筒状である反応器本体(2)からなる。反応器本体の一方の端部の上方部分には原料の装入口(3)が、他端の下方部分には分解生成物の取出口(4)が設けてある。さらに、反応器本体には、その中心軸方向に伸びる回転軸(5)が設置されており、この回転軸には、複数枚の撹拌羽根(6)が取り付けてあり、回転軸(5)の一端に取り付けられた駆動装置(7)によって回転軸(5)が回転される際、反応器本体内に装入された原料を攪拌する。
【0031】
また、反応器本体の外周には加熱ジャケット(8)が設けてあり、この加熱ジャケットは、外部に設けられた加熱熱源(図示していない)と連通しており、熱媒が加熱ジャケット(8)と加熱熱源との間を循環して、反応器本体内の原料を所定温度に加熱維持する。
【0032】
この反応器には、図示していないが、反応器本体内の温度を測定する温度計が設けられており、測定された温度に基づいて、反応器本体内の温度を所定値に維持するように加熱熱源を制御する加熱温度制御手段(図示していない)が設けられている。
【0033】
反応に際しては、予め、反応器(1)の外部において、有機性廃棄物に所定量の無機性廃棄物を混合し、水分を調節した後、得られた有機性廃棄物の混合物を、装入口(3)の上方から、ホッパ等の投入手段(図示していない)を介して、所定の量で反応器本体(2)内に装入する。反応器本体内では、装入された混合物は、回転軸(5)に取り付けられた撹拌羽根(6)によって攪拌されると共に、加熱ジャケット(8)を介して所定の温度に加熱される。撹拌の間、装入口(3)及び通気口(9)は、常時開放されており、通気可能な状態にある。必要であれば、通気口(9)に、さらに、脱臭装置や、集塵装置等を設置してもよい。また、分解生成物の取出口(4)は、撹拌の間、例えば、蓋によって閉じられている。
【0034】
装入された原料混合物は、空気の存在下、所定温度、例えば60℃に維持されると共に、攪拌される。この間に、無機性廃棄物が触媒となって、上記分解機構Iで表されるラジカル連鎖反応が生じ、有機性廃棄物がラジカル分解されて堆肥化される。」
カ 図1


(甲1に記載された考案)
上記摘示事項イによれば、甲1には、「微生物による発酵分解以外の手段による生ゴミ等の有機性廃棄物の処理方法」について、「ペーパースラッジ焼却灰及び石炭燃焼灰」を用いたものが記載され、それは【化1】で示された「分解機構」の「粘土・Fe錯体」と同様な機能を有しており、酸素分子から生成された「活性酸素」による反応によって、有機物をラジカル化して分解するものであるということが記載されている。
そして、上記摘示事項ウによれば、甲1には、「生ゴミ、畜産廃棄物、水産廃棄物等の有機性廃棄物を、高速で、かつ悪臭を発生することなく堆肥化して、肥料、土壌改良剤等として利用される高品質農業資材を製造する方法において、前記有機性廃棄物に、ペーパースラッジ焼却灰、石炭燃焼灰及びこれらの混合物でなる群から選ばれる無機性廃棄物を添加し、得られた混合物を、空気の存在下、温度を30?90℃に維持しながら、攪拌することによって、前記有機性廃棄物を分解すること」が記載されている。
また、上記摘示事項エの【0022】の「有機性廃棄物の分解反応では、水に溶解している酸素が活性化されるという理由から水分の存在は必須」という記載によれば、甲1に記載された【化1】で示された「分解機構」による酸素分子から生成された活性酸素は、水に溶解している酸素が活性化されたものであって、気体状態の酸素が活性化されるものではないことは明らかである。
そして、上記摘示事項エの【0024】の「酸素又は空気以外に、オゾンの存在は、活性酸素の発生源であるため、有機性廃棄物の分解には有効であり、反応器にオゾン供給手段を設けてもよい。」という記載から、上記「有機性廃棄物の分解反応」においては、活性酸素の発生源としてオゾンの存在は有効であって、オゾンから活性酸素が発生すること、及び、甲1記載の反応器にオゾン供給手段を設けてもよいことがわかる。

また、上記摘示事項エ、オから、当該高品質農業資材を製造する方法において用いられる「バッチ式反応器(1)」について、
「両端で閉じられた横方向で長手の円筒状である反応器本体(2)からなるバッチ式反応器(1)において、
反応器本体には、
一方の端部の上方部分には原料の装入口(3)と、
他端の下方部分には、撹拌の間、蓋によって閉じられる、分解生成物の取出口(4)と、
反応器本体の内部には、
脱臭装置や、集塵装置等を設置してもよい通気口(9)とが設けられ、
その中心軸方向に伸びる回転軸(5)が設置されており、この回転軸には、複数枚の撹拌羽根(6)が取り付けてあり、
反応器本体に装入された原料の攪拌は、回転軸(5)の一端に取り付けられた駆動装置(7)によって回転軸(5)が回転することで行われ、
さらに、反応器本体には、
分解反応に必要な空気又は酸素の供給手段と、
活性酸素の発生源であるオゾンを供給するオゾン供給手段とが備えられ、
反応器本体の外周には加熱ジャケット(8)が設けてあり、熱媒が加熱ジャケット(8)と加熱熱源との間を循環して、反応器本体内の原料を所定温度に加熱維持し、
反応器本体内の温度を測定する温度計が設けられており、測定された温度に基づいて、反応器本体内の温度を所定値に維持するように加熱熱源を制御する加熱温度制御手段が設けられている」ということができる。

また、上記摘示事項オによれば、当該高品質農業資材を製造する方法では、
「水分が調節された有機性廃棄物と無機性廃棄物の混合物を、装入口(3)の上方から、ホッパ等の投入手段を介して、所定の量で反応器本体(2)内に装入し、
反応器本体内では、装入された混合物は、回転軸(5)に取り付けられた撹拌羽根(6)によって攪拌されると共に、加熱ジャケット(8)を介して所定の温度に加熱され、撹拌の間、装入口(3)及び通気口(9)は、常時開放されていて、通気可能な状態にあって、無機性廃棄物が触媒となって、有機性廃棄物がラジカル分解される」ものであるということができる。

以上のことから、甲1には、次の考案(以下、「甲1考案」という。)が記載されているといえる。
「両端で閉じられた横方向で長手の円筒状である反応器本体を有するバッチ式反応器において、
反応器本体には、
一方の端部の上方部分には原料の装入口と、
他端の下方部分には、撹拌の間、蓋によって閉じられる、分解生成物の取出口と、
反応器本体の内部には、
脱臭装置や、集塵装置等を設置してもよい通気口とが設けられ、
その中心軸方向に伸びる回転軸が設置されており、この回転軸には、複数枚の撹拌羽根が取り付けてあり、
反応器本体に装入された原料の攪拌は、回転軸の一端に取り付けられた駆動装置によって回転軸が回転することで行われ、
さらに、反応器本体には、
分解反応に必要な空気又は酸素の供給手段と、
活性酸素の発生源であるオゾン供給手段とが備えられ、
水分が調節された有機性廃棄物と無機性廃棄物の混合物を、装入口の上方から、ホッパ等の投入手段を介して、所定の量で反応器本体内に装入し、
反応器本体内では、装入された混合物は、回転軸に取り付けられた撹拌羽根によって攪拌されると共に、加熱ジャケットを介して所定の温度に加熱され、撹拌の間、装入口及び通気口は、常時開放されていて、通気可能な状態になっており、
無機性廃棄物が触媒となって、水に溶解した酸素分子とオゾン供給手段からのオゾンから生成される活性酸素と有機性廃棄物を反応させてラジカル分解するバッチ式反応器。」

(2)甲2について
(甲2の記載事項)
甲2には、「有機廃棄物の発酵処理装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機廃棄物(例えば、下水,屎尿,産業排水,ディスポーザ等から発生する脱水汚泥、畜産,屠場廃棄物、一般家庭から排出される厨芥,残飯、農産廃棄物、コーヒ滓,ゼラチン滓等の工業廃棄物)を好気性微生物により発酵処理(発酵,醸成)してコンポストを得る場合に好適する有機廃棄物の発酵処理装置に関するものである。」
イ 「【0002】
【従来の技術】この種の発酵処理装置にあっては、一般に、開放型の発酵槽が使用されているが、発酵処理に伴う異臭(アンモニア臭)の発生による周辺環境の悪化を招く虞れがあり、これを防止するために格別の消臭設備,脱臭設備が必要となり、ランニンコスト,イニシャルコストが高騰する不都合があった。
【0003】
そこで、本発明者は、先に、密閉型の発酵槽を使用した発酵処理装置を開発した。かかる発酵処理装置にあっては、発酵槽内の上下部に吸気管及び送気管を配置して、発酵槽内を空気循環による好気雰囲気に保持させることにより、アンモニア臭の発生等を防止しつつ良好な発酵処理を行いうる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このような密閉型の発酵槽を使用して、発酵槽の上部から吸気すると共に下部から送気するようにした場合、送吸気による空気循環が継続されるに伴って、発酵槽内における被処理物の下層部分と上層部分との保湿分布(水分分布)が極端に不均一となり、発酵,醸成を効果的に行い得ないといった問題があった。さらに、吸気管を含む配管内部に被処理物の一部が侵入して堆積したり、極端な場合には配管を閉塞する虞れがあり、発酵槽内を適正な好気雰囲気に保持することができず、頻繁なメンテナンス作業が必要とされ、その結果、発酵から醸成に至る発酵処理を効率よく効果的に行うことができないといった問題もあった。
【0005】本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、密閉型の発酵槽を使用することによる利点を担保しつつ、その欠点を排除することにより、有機廃棄物の発酵処理を効率よく効果的に行うことができる発酵処理装置を提供することを目的とするものである。」
ウ 「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の目的を達成すべく、水平軸線回りで回転操作自在であり、第1回転位置及びこれから180度回転(反転)した第2回転位置に選択的に固定保持される密閉状の発酵槽と、発酵槽内に固定配置された一対の送吸気管であって、発酵槽を第1回転位置に位置させたときにおいて発酵槽の回転軸線を通過する水平面より上方に位置する第1送吸気口群を有する第1送吸気管及び下方に位置する第2送吸気口群を有する第2送吸気管と、発酵槽を第1回転位置に保持させたときにおいて第1送吸気口群から吸気した空気を第2送吸気口群から発酵槽に循環供給させると共に、発酵槽を第2回転位置に保持させたときにおいて第2送吸気口群から吸気した空気を第1送吸気口群から発酵槽に循環供給させる空気循環機構と、を具備することを特徴とする有機廃棄物の発酵処理装置を提案する。」
エ 「【0010】図1?図8に示す実施の形態にあっては、本発明の発酵処理装置が、発酵槽1と、発酵槽1を水平軸線回りで回転操作する回転操作機構2と、発酵槽1内に固定配置された第1及び第2送吸気管3,4と、発酵槽1内を好気雰囲気に保持する空気循環機構5とを具備してなる。
オ 「【0011】発酵槽1は、図1?図8に示す如く、円筒状の周壁11とその両端部を閉塞する円板状の前後壁12,13とからなる密閉状のものである。各側壁12,13の中心部には円筒状のシール部14,15が固着されており、各側壁12,13の外面部にはシール部14,15と同心をなす大径円筒状の支持部16,17が突設されている。なお、周壁11の適所には、図示していないが、被処理物(有機廃棄物及び好気性微生物を含む菌体)及び処理物(コンポスト)を給排するための開閉口が設けられている。また、前後壁12,13には、図1?図8に示す如く、発酵槽1の補強を兼ねて、発酵槽1の軸線に平行状に延びる複数の攪拌翼18…が固着されている。」
カ 「【0014】すなわち、第1送吸気管3は、図1?図5に示す如く、・・・(略)・・・各送吸気パイプ35には下方に開口する複数の第1送吸気口38…が形成されている。
【0015】また、第2送吸気管4は、図1?図5に示す如く、・・・(略)・・・各送吸気パイプ45には上方に開口する複数の第1送吸気口48…が形成されている。
【0016】空気循環機構5は、発酵槽1を第1回転位置に保持させたときにおいて第1送吸気口群38…から吸気した空気8を第2送吸気口群48…から発酵槽1に循環供給させると共に、発酵槽1を第2回転位置に保持させたときにおいて第2送吸気口群48…から吸気した空気8を第1送吸気口群38…から発酵槽1に循環供給させるものであり、・・・(略)・・・」
キ 「【0021】送風機54は、発酵槽1が第1回転位置又は第2回転位置に保持されたときにおいて作動されて、発酵槽1内を好気雰囲気に保持させるべく空気8を循環させる。すなわち、発酵槽1が第1回転位置に保持された状態では、図1?図5に示す如く、発酵槽1内の空気8を第1送吸気口38…から第1送吸気管3及び吸気孔51を経て吸気路53bに吸気し、更に送気路53a、送気孔52及び第2送吸気管4を経て第2送吸気口48…から発酵槽1内に送気させるようになっている。また、発酵槽1が第2回転位置に保持された状態では、図6?図8に示す如く、発酵槽1内の空気8を第2送吸気口48…から第2送吸気管4及び吸気孔51を経て吸気路53bに吸気し、更に送気路53a、送気孔52及び第1送吸気管3を経て第1送吸気口38…から発酵槽1内に送気させるようになっている。なお、送風機54によって発酵槽1内に送気される空気量は、被処理物6の発酵処理条件に応じて適宜に設定される。」
ク 「【0023】外気取り入れ口56は、図1に示す如く、凝縮器55より下流側における循環路部分(吸気路部分)に設けられている。外気取り入れ口56から循環路53に外気(新鮮空気)を導入することにより、発酵槽1内における空気汚染を回避して適正な好気雰囲気に保持するように工夫されている。」
ケ 「【0025】余剰空気排出路59は、図1に示す如く、送気路53aにおける送風機54と空気加熱器57との間に接続されている。外気取り入れ口56から循環路53への外気導入により発酵槽1には必要以上の空気8が送気されることになるが、余剰空気排出路59は、かかる外気導入により余剰となった余剰空気8bを発酵槽1及び循環路53で形成される空気循環系外に排出して、発酵槽1への送気量を適正に保持するためのものである。」
コ 「【0026】以上のように構成された発酵処理装置によれば、次のようにして有機廃棄物の発酵処理つまりコンポスト化を好適に行うことができる。
【0027】まず、発酵槽1に所定量の被処理物6を供給する。すなわち、発酵槽1に、被発酵原料である有機廃棄物(一般に、下水,屎尿,産業排水,ディスポーザ等から発生する脱水汚泥、畜産,屠場廃棄物、一般家庭から排出される厨芥,残飯、農産廃棄物、コーヒ滓,ゼラチン滓等の工業廃棄等)と好気性の発酵菌(例えば、放線菌等の高温発酵型の浄化菌)とを、被発酵原料の性状(含水量等)に応じて、所定の配合比率で供給する。
【0028】そして、モータ25を駆動させて発酵槽1を回転させることにより、被発酵原料と菌体とを混合する。・・・(略)・・・
【0029】・・・(略)・・・発酵槽1内への送気量を適正に維持しつつ発酵,醸成に最適な好気雰囲気を確保する。
・・・(略)・・・
【0033】発酵槽1を反転させることによって、反転前後における発酵,醸成条件が変化せず、水分分布の均一化を効果的に行うことができ、発酵から醸成に至る一連のコンポスト化処理を効率良く効果的に行うことができる。」
サ 「【0044】また、攪拌翼18は、発酵処理前における被発酵原料と菌体との発酵槽1の回転による混合作用を効果的に行うために設けておくことが好ましいものであるが、その形状等は発酵処理条件等に応じて任意に設定することができる。」
シ 図1

ス 図2

セ 図3

ソ 図5

(甲2記載の考案)
上記摘示事項アによれば、甲2には、有機廃棄物を好気性微生物により発酵処理してコンポストを得る場合に好適する有機廃棄物の発酵処理装置が記載されている。
上記摘示事項ウによれば、上記発酵処理装置は、密閉型の発酵槽を使用し、発酵槽内の上下部に吸気管及び送気管を配置して、発酵槽内を空気循環による好気雰囲気に保持させることにより、アンモニア臭の発生等を防止しつつ良好な発酵処理を行いうるものである。
上記摘示事項エによれば、上記発酵処理装置は、発酵槽1と、発酵槽1を水平軸線回りで回転操作する回転操作機構2と、発酵槽1内に固定配置された第1及び第2送吸気管3,4と、発酵槽1内を好気雰囲気に保持する空気循環機構5とを具備してなる。
上記摘示事項オによれば、上記発酵処理装置は、被処理物及び処理物を給排するための開閉口を備えている。
上記摘示事項クによれば、上記発酵処理装置は、外気取り入れ口56を備えている。
上記摘示事項ケによれば、上記発酵処理装置は、外気導入により余剰となった余剰空気8bを発酵槽1及び循環路53で形成される空気循環系外に排出して、発酵槽1への送気量を適正に保持する余剰空気排出路59を備えている。
上記摘示事項ウによれば、上記発酵槽1は、水平軸線回りで回転操作自在であり、第1回転位置及びこれから180度回転(反転)した第2回転位置に選択的に固定保持される。
上記摘示事項オによれば、上記発酵槽1には、複数の撹拌翼18が固着されている。
上記摘示事項キによれば、送風機54は、発酵槽1が第1回転位置又は第2回転位置に保持されたときにおいて作動されて、発酵槽1内を好気雰囲気に保持させるべく空気8を循環させる。
上記摘示事項キによれば、上記発酵槽1が第1回転位置に保持された状態では、発酵槽1内の空気8を第1送吸気口38から第1送吸気管3及び吸気孔51を経て吸気路53bに吸気し、更に送気路53a、送気孔52及び第2送吸気管4を経て第2送吸気口48から発酵槽1内に送気させるようになっていて、
発酵槽1が第2回転位置に保持された状態では、発酵槽1内の空気8を第2送吸気口48から第2送吸気管4及び吸気孔51を経て吸気路53bに吸気し、更に送気路53a、送気孔52及び第1送吸気管3を経て第1送吸気口38から発酵槽1内に送気させるようになっている。
上記摘示事項カによれば、上記第1送吸気管3の上記第1送吸気口38は、送吸気パイプ35に複数設けられ、同様に、上記第2送吸気管4の上記第2送吸気口48は、送吸気パイプ45に複数設けられている。

そうすると、甲2には、
「上下部に吸気管及び送気管を配置して、空気循環機構5によって発酵槽1の内部の空気を循環して好気雰囲気に保持させて、アンモニア臭の発生等を防止して、有機廃棄物を好気性微生物により発酵処理してコンポストを得る有機廃棄物の発酵処理装置において、
被処理物及び処理物を給排するための開閉口と、
外気取り入れ口56と、
外気導入により余剰となった余剰空気8bを発酵槽1及び循環路53で形成される空気循環系外に排出して、発酵槽1への送気量を適正に保持する余剰空気排出路59とを備え、
発酵槽1は、密閉状であり、水平軸線回りで回転操作自在であって、第1回転位置及びこれから180度回転した第2回転位置に選択的に固定保持され、
発酵槽1には、複数の攪拌翼18が固着され、
発酵槽1が第1回転位置又は第2回転位置に保持されたときにおいて作動される、発酵槽1内を好気雰囲気に保持させるべく空気8を循環させる送風機54を備え、
発酵槽1が第1回転位置に保持された状態では、発酵槽1内の空気8を、送吸気パイプ35に複数設けられた第1送吸気口38から第1送吸気管3及び吸気孔51を経て吸気路53bに吸気し、さらに送気路53a、送気孔52及び第2送吸気管4を経て、送吸気パイプ35に複数設けられた第2送吸気口48から発酵槽1内に送気させるようになっていて、
発酵槽1が第2回転位置に保持された状態では、発酵槽1内の空気8を第2送吸気口48から第2送吸気管4及び吸気孔51を経て吸気路53bに吸気し、更に送気路53a、送気孔52及び第1送吸気管3を経て第1送吸気口38から発酵槽1内に送気させるようになっている発酵処理装置」(以下、「甲2考案」という。)が記載されている。

(3)甲3について
(甲3の記載事項)
甲3には、「空気の電子化装置」(考案の名称)について、次の記載がある。
ア 「【0001】
本考案は、空気中の酸素分子を電磁的に励起させ、一重項酸素などの活性化酸素を発生させるための電子化装置に関する。」
イ 「【0007】
特許文献1:特許2149501号公報
【0008】
この発明では、高圧電流を流した放電針で紫外線を発光させ、放電筒のなかでマイナスイオン(60?70%)とオゾン(30?40%)を発生させるものである。特に、この発明では放電筒に酸化チタン合金を使うことにより紫外線発光で照射される光エネルギーが酸化チタン合金に作用して電子的に励起され、オゾンとマイナスイオンが発生する仕組みになっている。」
ウ 「【考案が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、先の技術により放電筒から放出される活性化空気を大気中に取り出すと放電筒から発生するオゾン濃度が高いと環境的に問題となる。」
エ 「【0010】
この種の装置が脚光を浴びているのは気相オゾンが光分解によって電子励起状態の酸素原子となり、その励起状態にある酸素原子と水分子が反応してヒドロキシ-ラジカルが生成されることである。ヒドロキシ-ラジカルは、その強力な酸化力により水中や大気中の汚染物質を酸化するので、水質浄化、悪臭分解、土壌汚染物質の除去、ダイオキシン分解などに活用することができる。」
オ 「【0011】
しかし、この種の活性化空気を大気中に放散させると活性化空気中に残留するオゾンの影響が心配されるため、解放的に使用することが難しかった。
そこで、本考案はオゾンを発生させないで、空気を電子的に電子化させ、磁力を掛けて励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させる装置を提供することを課題とする。」
カ 「【0017】
一般的に、高電圧を流した放電針から電子が発生することは知られている。また、空気に磁力を作用させると磁化空気といって、空気中の酸素および窒素原子の外殻電子が励起されて一時的に高エネルギー状態になることが知られている。
しかし、高電圧を流した放電針から発生する電子に磁力線を作用させると空気中の酸素原子が励起されて、一重項酸素などの活性酸素種が発生することは知られていない。
本考案は、その仕組みを見出す実験の結果から体験的に得たものである。その仕組みにより発生する活性酸素は秒単位で消滅する非常に短命なもので、発生すると同時に瞬時に消滅するのでオゾンのような有害性はない。したがって、大気中や水中、土中などの開放された環境下での有機物の分解、脱臭、脱色などの化学操作として活用するに都合がよいものである。」
キ 「「実施形態の効果」
【0025】
この実施形態によれば、・・・(略)・・・空気中の酸素分子を電磁的に励起させて一重項酸素などの活性酸素種を含んだ空気(ロ)が発生する。この仕組みによって発生する活性酸素の半減期は数秒間程度と非常に短命であるため、大気中に放散しても残留することはなく、通常の三重項酸素に戻った空気は人体に悪影響を与えない。また、先の背景技術で説明したTiO_(3)と光触媒機構によって発生する活性酸素種のような有害なオゾンガスを発生させることがないので環境的に安全である。」
ク 「【0028】
本考案に関わる空気の電子化装置は、発生する活性酸素を活用してヒドロキシ-ラジカルを生成することができるので、極めて酸化力が強いヒドロキシ-ラジカルを活用して有機物を酸化し、分解するラジカル反応装置として工業的に利用することが可能である。従って炭化水素の重合、縮合、酸化などの化学反応や有機物の加水分解、発酵促進、低分子化、ガス化、脱臭、殺菌、脱色など、産業上の利用可能性を有する。」

(甲3記載の技術)
これらの記載によれば、甲3に記載された「空気の電子化装置」は、空気中の酸素を励起して、活性化酸素を発生させるものであり(ア)、発生した活性酸素は、有機物を酸化し、分解するものであって、炭化水素の重合、縮合、酸化などの化学反応や有機物の加水分解、発酵促進、低分子化、ガス化、脱臭、殺菌、脱色などに利用可能である(ク)ことがわかる。

2.甲4?甲21の記載事項
(1)甲4
甲4には、「有機物分解処理方法およびその装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項4】
フリーラジカル反応を利用して有機物を分解する有機物分解処理装置であって、
発生させた磁場の中に空気を通過させる磁場発生手段と、
前記磁場の中を通過した前記空気に対して第1セラミックを用いて活性酸素を生成する活性酸素生成手段とを備えることを特徴とする、有機物分解処理装置。」
(2)甲5
甲5には、「堆肥製造装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、堆肥製造槽を用いて堆肥を製造する装置に関し、特に、堆肥処理槽内部に垂直に配置する多数本の給気パイプを給気系と排気系のグループに分けて、製造中の堆肥に大量に空気を供給して、堆肥醗酵を促進させる堆肥製造装置に関する。」
「【0008】
【発明の実施の形態】・・・(略)・・・前記上部フレームの上には、堆肥処理槽全体をカバーするような上部カバー部材3を配置し、堆肥処理槽の周囲全体を外気に対して密閉できるように、建屋の内部に収容するようにして構成している。また、前記堆肥処理槽10は鉄板等の板部材と、補強用の鉄骨部材とを組み合わせた箱型に構成し、・・・(略)・・・」
(3)甲6
甲6には、「有機物を発酵させて発酵物を生成するための発酵処理装置」(【0001】)について、次の記載がある。
「【請求項1】
被処理物を発酵させるための密閉構造の発酵槽を有する有機物発酵処理装置において、該発酵槽は外部空気が自然流入するための開口部を有し、かつ該発酵槽を構成する壁部の少なくとも一部は、間に空間部が形成された二重構造体であって、・・・(略)・・・」
「【0022】
・・・(略)・・・本発明においては、該二重構造体を構成する部材として、保温性を確保するために、断熱性のものに限らず、後述のように、ステンレスとか鉄のような熱伝導性の高いものでも使用することができる。」
(4)甲7
甲7には、次の記載がある。
「・OHによる酸化のもう一つの特徴は,これがラジカル連鎖の開始反応となり,次式に示すラジカル反応を誘発することである.
・OH+RH→H2O+R・ 開始
R・+O2→RO2・ }伝播
RO2・+RH→ROOH+R・ 」(14頁下から5行から末行)
「・OHによる水素引き抜きにより生成するラジカルの隣によい脱離基があると,ただちに水による加水分解が起る.」(15頁7?8行)
(5)甲8
甲8は、本件無効審判事件と異なる訴訟事件(東京地方裁判所 平成26年(ワ)第10522号不正競争行為差止請求事件)の被告(本件無効審判事件の被請求人)が提出した答弁書であり、被告の答弁が記載されている。
(6)甲9
甲9には、「オゾン発生器」(考案の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】 導電性を有する筒状電極と、
該筒状電極の一方の開口部の外側に一定の間隔をもって配置されると共に前記筒状電極の略中心に位置付けられる導電性を有する針状電極と、
前記筒状電極と針状電極間に直流の高電圧を印加する高電圧発生装置と、
からなり、
前記筒状電極と針状電極に前記高電圧を印加することによりイオン及びオゾンを発生すると共に前記筒状電極の他方の開口部から外方に向かって流出する前記イオン及びオゾンを含む風を発生することを特徴とするオゾン発生器。」
「【0002】
【従来の技術】従来のオゾン発生器は、主としてセラミック電極とタングステン線電極との組み合わせによりオゾンを発生させ、電動ファンを使用してオゾンを流出させるものであった。」
(7)甲10
甲10には、「オゾン発生装置などの気体反応装置は放電によって気体中の電子を加速して気体分子を衝撃し、解離もしくは励起させて化学反応を起させるものである。」(2頁左上欄1?4行)という記載がある。
(8)甲11
甲11には、「従来、対置した電極に高圧電流を印加して放電を発生せしめ、もって、電極間の空気にオゾンを生成せしめることが知られており」(1頁左下欄13?15行)
(9)甲12
甲12によれば、特許庁電子図書館の特許分類検索による「放電によるオゾン製造方式」の検索(テーマコード:4G042、検索式:CA01)を2014年8月29日に実行したところ、ヒット件数が「3019」であったことがわかる。
(10)甲13
甲13によれば、特許庁電子図書館の特許分類検索による「放電以外によるオゾン製造方式」の検索(テーマコード:4G042、検索式:CA02+CA03+CA04+CA05)を2014年8月29日に実行したところ、ヒット件数が「806」であったことがわかる。
(11)甲14
甲14には、次の記載がある。
「ラジカルケースの特徴は、従来法に加え処理槽内を活性酸素で満たします。これにより活性酸素も直接、有機廃棄物を化学的に分解し、さらに有用バクテリア群が活躍しやすい環境を作り出します。」(4頁中欄「システムの原理」の項の3?5行)
「SRRより連続的、大量に作り出される活性酸素(フリーラジカル)はその強い反応性で有機物の分子結合を分解します。また殺菌力が高く腐敗菌などの嫌気性細菌などを殺菌し繁殖を抑えます。」(5頁2?4行)
(12)甲15
甲15には、次の記載がある。
「【0012】
本発明に係る汚泥分解・水質浄化剤は、少なくとも酸化チタンを含む多孔質セラミック粒体に微生物を含浸させたものであり、酸化チタンを光触媒として酸化分解作用及び微生物による増殖、有機物の酸化分解作用により汚泥を低減し水質を浄化する。」
「【0016】
酸化チタン(粒径7?10ナノメートル)に光が当たると、その表面には電子と正孔が発生し、電子は酸素を還元してスーパーオキサイドイオンをつくり、正孔は水分を酸化して水酸基ラジカルをつくる。スーパーオキサイドと水酸基ラジカルは総称して活性酸素と呼ばれ、強力な酸化分解作用をもつ。この力で、汚泥分解・水質浄化剤の表面に付着した汚泥を分解し臭いも消す。」
「【0019】
また、微生物によれば、その増殖反応により有機物を酸化分解して、微生物の活動エネルギーと生物体の増殖に使われる。そのため、有機物が酸化してエネルギー準位の低い有機酸化物が順次生成し、次第に粉末化して最終的には二酸化炭素にまで分解され汚泥の量を少なくすることができる。・・・(略)・・・微生物環境の改善、有用な微生物の活性化などから、悪臭成分であるアンモニアや硫化水素などの発生そのものを低減させるので、結果として脱臭効果が現れ、有用な微生物が活性化されるため、汚水処理能力があがり、水質改善に寄与し、・・・。」
(13)甲16
甲16において、「水中でのセラミックの触媒機能に関して」と題する説明文には、次の記載がある。
「5.活性酸素が有機汚泥に働き、微生物に影響を与えない理由
活性酸素の発生は微量であるが、コンスタントに発生する。
微生物は、たとえ、それでダメージを受けて死滅しても大量に存在する内の一部であり、それ以上に成長、増殖するので、結果としてプラスマイナスを考えると増加する。
有機物や有機性汚泥は、微量でもコンスタントに発生する活性酸素によって酸化され、減少していく。」(5頁32?38行)
(14)甲17
甲17には、「空気中の酸素分子を電磁的に励起させることにより、一重項酸素などの活性酸素を発生させる空気の感熱型電子化装置によって、都市ゴミなどの廃棄物、木材などのバイオマス資材、石炭、プラスチックなどを低温でガス化する装置」(【0001】)において、「多孔板6は、本体1に投入される投入物(ロ)を受け止めて感熱型電子化装置2に直接触れることを防ぎ、かつ感熱型電子化装置から噴気される電子化空気(ホ)が本体1の底面全域に拡散して均一に吹き上げられる整流坂の役割を果たすものである。」(【0023】)ことが記載され、「図1の実施形態では、本考案者が既に考案している、実用新案登録第136471号の感熱型電子化装置を使用するものであるが、自由電子と一重項酸素、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカルなどの極めて酸化力が強い活性酸素を発生させる機能をもった装置であれば同様の形態と機能を作り出すことができる。そのような電子化装置を該考案の感熱型電子化装置に換えて実施形態にしてもよい。」(【0027】)という記載もある。
(15)甲18
甲18には、「有機廃棄物(・・・(略)・・・)を好気性微生物により発酵処理(発酵,醸成)して堆肥(コンポスト)を得る場合に好適使用される有機廃棄物の発酵処理装置」(【0001】)において、「送気機構3は、図1及び図2に示す如く、本体容器5の底壁5aに形成した適当数の送気孔15…と、本体容器5の底壁5aに取付けた風箱16と、送風機(コンプレッサ,ブロワ等)17と、送風機17から導かれた送気管18と、送気管18の下流端部を風箱16の送気口16aに着脱自在に連結するコネクタ19とを具備し」(【0010】)と記載されている。
(16)甲19
甲19には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、有機系の廃棄物を微生物処理するのに適した撹拌処理装置に関する。」
「【0023】
処理空間23内の空気と循環空隙24内の空気は、空気循環装置60により互いに循環させてある。
空気循環装置60は、ポンプ61により吸引管62を通して処理空間23内の空気を取込んで送出管63を通して循環空隙24に吹き込み、そして、循環空隙24に吹き込んだ空気を、処理空間23と循環空隙24とを連通させてある環流管64で循環空隙24から処理空間23内に戻す。」
(17)甲20
甲20には、「SRRによる有機物の分解と減容化」と題し、次の記載がある。
「1.SRRについて
SRRとは、SuperRadicalReactorの略称です。SRRは活性酸素種を活用して有機物を分解する技術であり、含水性有機物を即時的に加水分解するのが特徴です。」(1頁5?7行)
「3.分解の操作
市販の生ごみ発酵機にSRRエンジンを取り付けたような構造の反応器を作ります。」(2頁中央「3.分解の操作」の項の1?2行目)
(18)甲21
甲21には、次の記載がある。
「文献1に記載の発明と文献2に記載の発明は、何れも有機性廃棄物を堆肥化するものであり技術分野が共通するから、文献1に記載の発明に文献2に記載の「発酵槽の上部から吸気すると共に発酵槽の底部に設けた給気管から送気して発酵槽内を空気循環させる循環路」を組み合わせることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。」(2頁36?41行)

3.無効理由1について
(1)本件考案と甲1考案との対比
本件考案と甲1考案とを対比する。
本件考案の「密閉容器」と甲1考案の「反応器本体」とは、「容器」である点で共通する。
甲1考案の「有機性廃棄物」、「分解生成物」及び「分解生成物の取出口」を閉じる「蓋」は、本件考案の「資材」、「処理物」及び「容器の底部から処理物を取り出すための取出蓋」にそれぞれ相当する。
甲1考案の「回転軸」、「撹拌羽根」及び「駆動装置」からなる、反応器本体内に挿入された原料を攪拌するものは、本件考案の「攪拌装置」に相当する。
また、甲1考案の「脱臭装置や、集塵装置等を設置してもよい通気口」には、脱臭装置や、集塵装置が設けられるのであるから、反応器本体内部からの気体が排出される経路であって、本件考案の「排気管」に相当する。
甲1考案の「原料の装入口」は、本件考案の「資材を投入するための」投入部である点で共通する。
また、甲1考案の「有機性廃棄物を活性酸素と反応させてラジカル分解するバッチ式反応器」と、本件考案の「電子式低温加水分解装置」とは、「分解装置」である点で共通する。

ここで、本件考案の「電子化された空気を密閉容器に吹き込む電子化装置」は、「電子化された空気を密閉容器に吹き込む」ものであるが、技術常識に照らしても、「電子化された空気」とはどのようなものであるのかは、直ちには判然としないものの、本件考案では、「電子化装置」について特段の特定があるとは認められないことから、明細書に記載された「電子化装置41」に限られるものではなく、本件考案の「電子化装置」は、空気に対して電気を用いて何らかの作用をもたらすような装置を全て包含するものというべきである。
また、本件明細書の「本考案は、空気中の酸素分子を電磁的に励起させることにより、スーパーオキシドなどの活性酸素を発生させる空気の電子化装置によって、生ゴミなどの有機廃棄物、野菜くずなどの農産廃棄物、木材や紙、パルプなどのバイオマス資材を低温で加水分解する装置に関する。」(【0001】)という記載に照らせば、本件考案の「電子化装置」は、空気中の酸素分子から活性酸素を発生させる装置を包含するといえる。
そして、甲1考案の「オゾン供給手段」は、活性酸素の発生源であるオゾンを供給するものであって、結果的に活性酸素を供給する手段であるということができることから、甲1考案の「オゾン供給手段」は、酸化反応器本体内部に、活性酸素を供給する手段である点で、本件考案の「電子化装置」と共通する。

そうすると、本件考案と甲1考案とは、
「容器の中に攪拌装置と、容器の上部から資材を投入するための投入部と、容器の底部から処理物を取り出すための取出蓋と、容器から空気を排気するための排気管と、容器内部に活性酸素を供給する手段とを備えた分解装置。」である点で一致し、次の相違点1?3で相違する。
(相違点1)
有機性廃棄物の分解について、本件考案は、「低温加水分解」であるのに対し、甲1考案は、所定の温度に加熱されている、ラジカル分解である点。
(相違点2)
活性酸素を供給する手段について、本件考案は、空気の電子化装置であるのに対し、甲1考案は、無機性廃棄物とオゾン供給手段であって、オゾン供給手段によって供給されるオゾンは活性酸素ではなく、活性酸素の発生源である点。
(相違点3)
容器について、本件考案では、「鉄板などで作られた密閉容器」であり、該「密閉容器」に「投入蓋」を有しているのに対し、甲1考案の反応器は、原料の装入口には、蓋は備えておらず、装入口が常時開放されていて密閉されていない点。
(相違点4)
本件考案は、「密閉容器中の空気を送風機で吸引して密閉容器の底に取付けた多孔管から送り込める空気の循環装置」を備えていて、電子化された空気の密閉容器への吹き込みは、「その循環装置を介して」行われるのに対し、甲1考案は、そのような空気の循環装置は備えておらず、オゾンの供給がどのように行われるのか不明な点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、まず、相違点4について検討する。
(相違点4について)
上記「1.(1)(甲1に記載された考案)」の「摘示事項エの【0022】」及び「摘示事項エの【0024】」について述べたように、甲1考案の活性酸素は、有機性廃棄物中の水に溶解した酸素とオゾン供給手段からのオゾンから生成されるものである。
そして、甲1に、「空気の供給量は、有機性廃棄物の混合物1Kg当たり、一般に、10?500L/分好ましくは 50?100L/分である。10L/分未満では、水に溶解する酸素量が少なく、500L/分より大では、反応混合物の温度を下げ、乾燥させすぎて分解反応を阻害することとなる。」(摘示事項エの【0025】)と記載されていることから、甲1考案では、反応混合物の温度を下げたり、乾燥させすぎて分解反応を阻害することがないような範囲で、有機性廃棄物中の水に溶解された酸素の量をできる限り大きくするように、外部から通気口を介して、十分な量の酸素を含んだ空気及びオゾンを供給するようになっていると解することができる。
そうすると、技術常識に照らせば、反応器の内部の空気を循環させることによっては、反応器内の水に溶ける酸素の量やオゾンの量を増やすものではないことは明らかであるから、甲1考案において、反応器内の空気を循環する空気の循環装置を採用する動機付けは見当たらず、本件考案の相違点4に係る考案特定事項は、当業者がきわめて容易に想到し得たということはできない。

(3)まとめ
したがって、相違点1?3について検討するまでもなく、本件考案は、甲1考案、甲2記載の技術及び周知・慣用技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案し得たものとすることはできない。

(4)請求人の主張について
上記相違点4に関連して、請求人は次のように主張している。
ア 「甲2には、反応器として発酵槽中の空気を吸引して多孔管から送り込む空気の循環装置を備えた発酵槽が記載されており(第6欄第33行?第40行参照)、甲1の反応器と甲2の発酵槽は、「生ごみ等の有機性廃棄物を収容して堆肥化する容器」として設けられているものである点で共通するから、当業者にとってみれば、甲1の反応器に代えて、甲2の発酵槽中の空気を吸引して多孔管から送り込む空気の循環装置を備えた発酵槽を転用することに格別の困難性はないので、当業者がきわめて容易に想到することができるものにすぎない。」(審判請求書12頁19?26行)
また、「引用考案には、「有機性廃棄物と無機性廃棄物とを混合した後、得られた混合物について、水分の調節を行う・・・(略)・・・水分の存在は必須であが、水分含量が40質量%未満では、反応系が乾燥しすぎて、分解が進行せず、また、80質量%より大では、水分が多すぎ」(段落【0022】)と記載されている。
引用考案は、撹絆羽根(6)によって混合物が撹件されるので、混合物の下層部分と上層部分との保湿分布(水分分布)が極端に不均一となることは少ないとも考えられるが、反応器本体の上部に設けられた装入口(3)及び通気口(9)のみが通気可能な状態にある(段落【0033】)ことから、反応器本体の下層部分のみが湿潤な状況にもなり得る。
したがって、処理槽内の被処理物に均一に空気を供給し、被処理物の保湿分布(水分分布)を均一にして処理反応を均一かつ効率的に起こさせるという技術的な課題は甲2だけではなく引用考案にも存在し、この課題を解決するための手段として甲2記載の発酵槽(槽自体)が適していることは明らかであるから、引用考案に、甲2記載の発酵槽内の空気を送吸気口や送風機54を用いて発酵槽内の空気を循環させる事項を、採用する動機付けが存在することは明らかである。」(口頭審理陳述要領書21頁18行?22頁3行)
イ 「被請求人の代表取締役を務めている平田須美江氏は、請求人の特許出願(特願2010-104362)に対して提出した刊行物等提出書(甲第21号証)において、以下に示すとおり、引用考案に甲2記載の構成を組み合わせることが当業者にとって容易であるとの主張をしている。
・・・(略)・・・
したがって、引用考案に甲2記載の「発酵槽の上部から吸気すると共に発酵槽の底部に設けた給気管から送気して発酵槽内を空気循環させる循環路」を組み合わせることが当業者にとって極めて容易であることは、明白である。」(口頭審理陳述要領書22頁24?23頁末行)

しかしながら、以下のとおり、請求人の上記主張はいずれも採用することができない。
(アに係る主張について)
甲2には、「かかる発酵処理装置にあっては、発酵槽内の上下部に吸気管及び送気管を配置して、発酵槽内を空気循環による好気雰囲気に保持させることにより、アンモニア臭の発生等を防止しつつ良好な発酵処理を行いうる。」(【0003】)と記載されていることから、甲2に記載された発酵処理装置において、発酵槽内を空気循環した理由は、アンモニア臭の発生等を防止しつつ、発酵槽内を好気雰囲気に保持して、微生物による良好な発酵処理を行うためであると認められる。
これに対し、甲1考案は、反応器内において、水に溶解した酸素及びオゾン供給手段からのオゾンから活性酸素を生成するものであって、微生物を利用したものではないことから、反応容器内を微生物の発酵処理に適した好気雰囲気に保持するような課題は存在するとはいえない。
また、甲2に記載された発酵処理装置には、被処理物の保湿分布(水分分布)を均一にして処理反応を均一かつ効率的に起こさせるという技術的な課題が存在するとしても、甲1考案では、装入された混合物は、回転軸に取り付けられた撹拌羽根によって撹拌されていて、反応容器の上部と下部とで、水分分布が極端に不均一になることは想定しにくいことから、甲1考案において、保湿成分(水分分布)を均一にするというような課題が存在するとはいえない。
そして、上記アに係る請求人の主張は、甲1考案と甲2に記載の技術は課題及び目的が共通しているということを前提とするものであるが、上述したように、甲1考案と甲2に記載の技術は、課題及び目的が共通するとはいえないことから、請求人の上記主張は採用することができない。
(イに係る主張について)
上記イに係る主張は、他の特許出願に対する刊行物提出書の記載に基づくものであって、本件考案と当該他の特許出願に係る発明とは同一のものといえない以上、刊行物提出書の記載は当審の判断を左右するものではない。

4.無効理由2について
(本件考案と甲2考案との対比・判断)
(1)対比
本件考案と甲2考案とを対比する。
甲2考案の「攪拌翼18」、「有機廃棄物」及び「空気循環機構5」は、本件考案の「攪拌装置」、「資材」及び「空気の循環装置」にそれぞれ相当する。
そして、本件考案では、「密閉容器」に関して、「鉄板などで作られた」という限定があるものの、該限定は、「密閉容器」を作る素材として「鉄板」を例示したものにすぎないと認められ、「密閉容器」について特段、特定しているものとは認められないことから、甲2考案の「密閉状の発酵槽1」は、本件考案の「鉄板などで作られた密閉容器」に相当する。
また、甲2考案は、「第1送吸気管3」及び「第2送吸気管4」は、それぞれ、「送吸気パイプ35に複数設けられた第1送吸気口38」及び「送吸気パイプ45に複数設けられた第2送吸気口48」を備えており、「送吸気パイプ35」及び「送吸気パイプ45」のいずれも、「密閉状の発酵槽1」の底部に位置した時に、複数の送吸気口によって、空気8の送気を行うものであるから、甲2考案の「送吸気パイプ35」及び「送吸気パイプ45」は、本件考案の「密閉容器の底に取り付けた多孔管」に相当する。
そして、甲2考案の「外気導入により余剰となった余剰空気8bを発酵槽1及び循環路53で形成される空気循環系外に排出して、発酵槽1への送気量を適正に保持する余剰空気排出路59」は、発酵槽1には直結されていないものの、結果的には、「密閉状の発酵槽1」から余剰空気を排出するものであるから、本件考案の「密閉容器から空気を排気するための排気管」に相当する。

そうすると、本件考案と甲2考案とは、「鉄板などで作られた密閉容器のなかに攪拌装置と、密閉容器の底に多孔管と、密閉容器中の空気を送風機で吸引して密閉容器の底に取付けた多孔管から送り込める空気の循環装置と、密閉容器から空気を排出するための排気管を備える装置」である点で一致し、次の相違点1の2及び2の2の点で相違する。
(相違点1の2)
本件考案は、「電子式低温加水分解装置」であって、「循環装置を介して電子化された空気を密閉容器に吹き込む電子化装置」を備えているのに対し、甲2考案は、有機廃棄物の発酵処理装置であって、本件考案のような電子化装置は備えていない点。
(相違点2の2)
本件考案は、「密閉容器の上部から資材を投入するための投入蓋と、密閉容器の底部から処理物を取り出すための取出蓋」を備えているのに対し、甲2考案は、被処理物及び処理物を給排するための共通の開閉口しか備えていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、まず、相違点1の2について検討する。
(相違点1の2について)
上記「3.(1)」で述べたように、本件考案の「電子化装置」は、空気に対して電気を用いて何らかの作用をもたらすような装置を全て包含するものというべきである。
そして、甲2考案の有機物の発酵処理は、有機物を酸化して分解することを包含するものであって、本件考案の「電子式低温加水分解」が、甲2考案の発酵処理と同様に、有機廃棄物を酸化して分解することを含むとしても、甲2考案における発酵処理は微生物による処理であって、本件考案の「空気の電子化装置」のような空気に対して電気を用いて何らかの作用をもたらすような装置による処理ではなく、本件考案の「電子式低温加水分解」と、甲2考案の「発酵処理」とは、有機物を分解する機序が明らかに相違する。
そして、甲2考案は、「上下部に吸気管及び送気管を配置して、空気循環機構5によって発酵槽1の内部の空気を循環して好気雰囲気に保持させて、アンモニア臭の発生等を防止して、有機廃棄物を好気性微生物により発酵処理してコンポストを得る有機廃棄物の発酵処理装置」であって、「発酵槽1の内部」を「好気雰囲気に保持」することで、「好気性微生物」によって有機物の発酵処理を行うことを前提とするものであるところ、上記「1.(3)(甲3記載の技術)」で述べたように、甲3記載の「空気の電子化装置」は、「空気中の酸素を励起して、活性化酸素を発生させるものであり、発生した活性酸素は、有機物を酸化し、分解するもの」であるから、甲3記載の「空気の電子化装置」によって発生する活性化酸素によって、「好気性微生物」が有機物の発酵処理を行うことができるような「好気雰囲気」が保持されるかどうかは明らかではない。
また、請求人の提示した証拠からは、甲2考案に甲3記載の「空気の電子化装置」を用いたとしても発酵処理が行えるという程度のことが認定できるにとどまり、甲3記載の「空気の電子化装置」は、「好気性微生物」が有機物の発酵処理を行うことができるような「好気雰囲気」を保持することができるものであるという根拠は見出せない。
したがって、甲2考案において、発酵槽1の内部を好気雰囲気に保持することを前提とする発酵処理に加えて、有機物を分解する機序が異なり、しかも、好気雰囲気を保持することが明らかではない甲3記載の「電子化装置」を用いることについての動機付けが存在するということはできない。
したがって、上記相違点1の2に係る本件考案の考案特定事項は、甲2考案及び甲3記載の技術に基いて、当業者がきわめて容易に想到し得たということはできない。

(3)まとめ
よって、相違点2の2について検討するまでもなく、本件考案は、甲2考案及び甲3記載の技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案し得たものとすることはできない。

(4)請求人の主張について
請求人は、上記相違点1の2に関連して、次のように主張している。
ア 「動機付けについて検討すると、甲第3号証には、「本考案に関わる空気の電子化装置は、発生する活性酸素を活用してヒドロキシ-ラジカルを生成することができるので、極めて酸化力が強いヒドロキシ-ラジカルを活用して有機物を酸化し、分解するラジカル反応装置として工業的に利用することが可能である。従って炭化水素の重合、縮合、酸化などの化学反応や有機物の加水分解、発酵促進、低分子化、ガス化、脱臭、殺菌、脱色など、産業上の利用可能性を有する。」(段落【0028】・・・)との記載がある。
甲第3号証に記載の空気の電子化装置を、有機物を酸化・分解するラジカル反応装置として利用し、有機物の加水分解に用いるには、加水分解を起こさせるための水分調整を行う必要があるから、水分を閉じ込めるための反応槽と、水分を均一に保つための機構が必要になる。この点について、甲第2号証には、「このような密閉型の発酵槽を使用して、発酵槽の上部から吸気すると共に下部から送気するようにした場合、送吸気による空気循環が継続されるに伴って、発酵槽内における被処理物の下層部分と上層部分との保湿分布(水分分布)が極端に不均一となり、発酵、醸成を効果的に行い得ないといった問題があった」(段落【0004】)との技術的な課題が記載され、反応槽内全体の保湿分布を均一に保つことができる構成が開示されている。
以上のとおり、甲第3号証には、空気の電子化装置をラジカル反応装置として利用することの示唆がされており、ラジカル反応装置として利用する際の課題と甲第2号証に記載の発酵槽との解決課題とが共通しているから、甲第3号証に記載の「電子化装置」を甲第2号証に記載の発酵槽において空気循環機構5に設けることの動機付けが存在していることは、明らかである。」(口頭審理陳述要領書26頁5?26行)
イ 「仮に、甲第3号証に記載の考案は、ラジカル反応を利用するものであって、甲第2号証に記載の発酵処理とは、有機物分解処理の機序が異なるとしても、有機性廃棄物の分解処理としての技術分野は共通している上、被処理物に均一に空気を供給して処理槽内の保湿成分を均一に保つことができる処理槽としては、ラジカル反応槽であっても発酵槽であっても技術的な差異はない。」(口頭審理陳述要領書26頁27行?27頁2行)
ウ 「本件登録実用新案の考案者の一人である平田俊道氏は、平成21年7月中部異業種間リサイクルネットワーク協議会研究会の講演資料である「SRRによる有機物の分解と減容化」(甲20号証)において、本件登録実用新案に係る装置を「市販の生ごみ発酵機にSRRエンジンを取り付けたような構造の反応器を作ります」(2頁2行)と紹介している。この「SRRエンジン」とは、甲第3号証に記載の「空気の電子化装置」のことであるから、本件考案は、甲第3号証に記載の「空気の電子化装置」を、生ごみ発酵機(例えば、甲第2号証に記載の「有機廃棄物の発酵処理装置」)に取り付けるだけで、きわめて容易に得られることが示されている。
したがって、本件登録実用新案は、甲第2号証及び甲第3号証に記載の考案に基いて実用新案登録出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。」(口頭審理陳述要領書27頁3行?27頁14行)
エ 「甲第3号証には「本考案に関わる空気の電子化装置は・・・(略)・・・有機物の加水分解、発酵促進、低分子化、ガス化、脱臭、殺菌、脱色など、産業上の利用可能性を有する。」(段落【0028】、下線は請求人が付した)との記載があり、甲第3号証に記載の「電子化装置」を甲第2号証に記載の発酵槽に組み合わせることの示唆がなされている。
甲第17号証の段落【0027】にも、甲第3号証に記載の「電子化装置」を有機物の処理槽である密閉容器に組み合わせることの示唆がなされている。」(平成26年10月2日付け上申書2頁5?12行)

しかしながら、以下のとおり、請求人の上記主張は採用することができない。
(アに係る主張について)
甲3には、「空気の電子化装置」を、ラジカル反応装置として利用することが可能であり、有機物の発酵促進等に用いることが記載されている(摘示事項クの【0028】)ものの、有機物の発酵促進に用いる場合に、反応槽(発酵槽)のような限定的な空間内での発酵に対して「空気の電子化装置」を用いることについての記載や示唆があるとは認められない。
そして、甲3には、「本考案は、・・・その仕組みにより発生する活性酸素は秒単位で消滅する非常に短命なもので、発生すると同時に瞬時に消滅するのでオゾンのような有害性はない。したがって、大気中や水中、土中などの開放された環境下での有機物の分解、脱臭、脱色などの化学操作として活用するに都合がよいものである。」(摘示事項カの【0017】)と記載されていることから、甲3の「空気の電子化装置」は、有機物の発酵促進に用いる場合であっても、反応槽内の発酵というよりも、むしろ、解放された環境下での発酵促進に使用されることが意図されているというべきである。
そうすると、請求人の主張は、甲3の「空気の電子化装置」の利用には、水分を閉じ込めるための反応槽が必要であることを前提とするところ、上述したように、甲3の「空気の電子化装置」は、反応槽内の発酵に使用されることを意図したものとはいえないことから、請求人の上記主張(ア)は採用することができない。
なお、甲17の【0027】にも、甲3の「空気の電子化装置」についての記載があるが、これを有機物の発酵処理槽に用いることについての記載も示唆も見出すことができない。
(イ?エに係る主張について)
甲2考案は、発酵槽1に、有機廃棄物と好気性の発酵菌とを、被発酵原料の性状(含水量等)に応じて、所定の配合比率で供給され(摘示事項コの【0027】)、発酵槽1内への送気量を適正に維持しつつ発酵,醸成に最適な好気雰囲気を確保して(同【0029】)、発酵槽1を反転させることによって、反転前後における発酵、醸成条件を変化させない(同【0033】)ようにすることで、有機物の発酵処理を好適に行うようにしたもの(同【0026】)ということができる。
そうすると、仮に、請求人が主張するように、甲2考案の発酵処理と甲3のラジカル反応が、有機物の分解処理としての技術分野が共通し(イ)、甲2考案に甲3の「空気の電子化装置」を取り付けることが可能であって(ウ)、甲3の「空気の電子化装置」によって電子化された空気が発酵処理を促進する(エ)ものだとしても、甲2考案の発酵、醸成に最適な好気雰囲気を確保し、発酵、醸成条件を変化させないようにした発酵槽1内に、発酵処理を促進させることで、発酵、醸成条件を変化させることが明らかな、甲3記載の「空気の電子化装置」による空気を送り込むことを採用することには、動機付けがないばかりか、阻害要因があるというべきである。
したがって、請求人の上記主張(イ?エ)は採用することができない。

5.まとめ
以上のとおり、請求人の主張する上記無効理由1、2には、いずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては本件考案を無効とすることはできない。
また、他に、本件考案を無効とすべき理由を発見しない。
審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

平成26年12月16日

審判長 特許庁審判官 河原 英雄
特許庁審判官 川端 修
特許庁審判官 大橋 賢一」
審理終結日 2016-10-27 
結審通知日 2016-11-01 
審決日 2016-12-01 
出願番号 実願2009-1629(U2009-1629) 
審決分類 U 1 114・ 121- Z (B09B)
最終処分 成立    
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 中澤 登
萩原 周治
登録日 2009-04-30 
登録番号 実用新案登録第3150628号(U3150628) 
考案の名称 電子式低温加水分解装置  
代理人 大嶋 勇樹  
代理人 大嶋 芳樹  
代理人 中野 圭二  
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