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審決分類 審判    E04H
審判    E04H
管理番号 1345910
審判番号 無効2017-400004  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-11-07 
確定日 2018-10-15 
事件の表示 上記当事者間の登録第3161298号実用新案「防風タープテント」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第3161298号の請求項1ないし2に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 実用新案登録第3161298号の請求項3に係る考案についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その3分の1を請求人の負担とし、3分の2を被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
平成22年 4月27日:出願(実願2010-2816号)
平成22年 7月 7日:設定登録(実用新案登録第3161298号)
平成24年 8月 6日:実用新案技術評価請求
平成24年 9月 5日:実用新案技術評価書(作成日)
平成27年 3月16日:実用新案技術評価請求
平成27年 5月25日:実用新案技術評価書(作成日)
平成29年11月 7日:本件審判請求
平成29年12月 6日:請求書副本の送達通知(答弁指令)(起案日)
平成30年 1月30日:書面審理通知書(起案日)
平成30年 3月 9日:請求人に対し審尋(起案日)
平成30年 4月12日:請求人より回答書提出
平成30年 5月21日:無効理由通知書及び職権審理結果通知書(起案日)
平成30年 5月28日:請求人より意見書提出

上記平成29年12月6日付け請求書副本の送達通知(答弁指令)に対する実用新案法第39条第1項に係る答弁書の提出、及び平成30年5月21日付け無効理由通知書に対する実用新案法第41条で準用する特許法第153条第2項に係る意見書の提出はなされなかった。


第2 本件考案
本件実用新案登録の請求項1ないし3に係る考案は、実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(以下、それぞれ「本件考案1」ないし「本件考案3」という。)。

「【請求項1】
上部天幕および下部天幕の上下二層構造の天幕屋根からなるタープテントであって、前記下部天幕天頂部に前記上部天幕が重ね合わされ、前記上部天幕下部の一部分が前記下部天幕上部に固着され、前記下部天幕天頂部に一または複数の開口部を設けていることを特徴とするタープテント

【請求項2】
請求項1記載のタープテントであって、前記天幕屋根は、天頂部を錐面の頂点とする略四角錐状の外見をなし、前記上部天幕は略四角錐状に形成され、前記下部天幕は略四角錐台状に形成されており、前記上部天幕各側辺が、それぞれ対応する前記下部天幕各側辺に固着されていることを特徴とするタープテント

【請求項3】
請求項2記載のタープテントであって、前記天幕屋根各側辺の内側、および前記天幕屋根各底辺の内側に架設される骨組を備え、前記骨組下部の四隅に、前記骨組を支えるための、地面から立設する支柱を配していることを特徴とするタープテント」


第3 請求人の主張及び提出した証拠
請求人は、実用新案登録第3161298号の実用新案登録請求の範囲の請求項1、2及び3に係る考案についての実用新案登録を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書、平成30年4月12日付け回答書、平成30年5月28日付け意見書を提出するとともに、証拠方法として、甲第1ないし5号証を提示し、以下の無効理由を主張した。

<主張の概要>
無効理由(進歩性欠如)
本件実用新案登録の請求項1ないし3に係る考案は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された考案に基づいて、若しくは甲第1号証ないし甲第3号証に記載された考案並びに周知技術(例えば甲第4号証記載の考案)及び技術常識(例えば甲第5号証記載の考案)に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、同法第37条第1項第2号に該当し、その実用新案登録は無効とすべきである。

<具体的理由>
1 本件考案1について
(1) 本件考案1と甲第1号証に記載された考案とを対比すると、前者の「上部天幕」、「下部天幕」、「天頂部に開口部」、「上部天幕下部の一部分が前記下部天幕上部に固着される。」点は、それぞれ後者の「柔軟カバー」、「カバー体」、「天井部に通気口」、「カバー体と柔軟カバーとの間が連結索で連結される。」点に一致する。(審判請求書5頁5?12行)

(2) 甲第1号証記載の考案では、可撓性連結索16の上端は柔軟カバー14下部に連結されて機能の面で柔軟カバー14下部の一部分を形成し、そして可撓性連結索16の下端がカバー体2の上部に連結されている(ここで「連結」はいずれも「固着」と同義である)。(平成30年4月12日付け回答書2頁4?7行)。

(3) 甲第4号証(周知例)の段落【0015】には「そして、テントの天幕は中央部の開口部の周囲に取着した覆布にて通気隙間が形成され、テント内に強風が吹き込んでも通気隙間から吹き抜け、テントは転倒することがない。」と記載され、さらに段落【0025】には「また、図1において、22は天幕で、前記展開状態の主バー4間の空間形状に近似した略三角形状の天幕片23を縫着してまたは一体に形成して略矩形形状に形成され、この天幕22は前記各主バー4を上方から覆うようになっている。この天幕22の中央部に略矩形形状の開口部24が形成され、この天幕22の開口部24を覆う覆布26がこの開口部24の周囲に通気隙間25を形成するように適宜箇所を縫着などにより止着されている。」との記載があり、本件考案1と略同一の構成を開示されており、したがって本件考案1は周知技術である。(平成30年4月12日付け回答書2頁下から4行?3頁9行)

2 本件考案2について
(1) 本件考案2の屋根形状の特定の意味は定かでなく、また「略四角錐状」の天幕屋根は、甲第1号証に記載された考案のドーム型六角錐状、甲第2号証に記載された考案のドーム型四角錐状と同様であり、公知の屋根形状である。(審判請求書5頁15?21行)

(2) 本件考案2の、上部天幕各側辺が、それぞれ対応する下部天幕各側辺に固着されている構成は、甲第2号証記載の考案の、第4図及び第5図並びに明細書の「換気口(4)に覆い(11)が被せられる。この覆い(11)の各角部には第5図において詳図するようにナス鐶(14)が縫い付けられ、一方これに対向するテント本体(3)には両端に口鐶(15)(15)を有する止具が縫い付けられ、一方の口鐶(15)とナス鐶(14)を掛合させ、他方の口鐶(15)に張り紐(16)の一端に設けたナス鐶(17)を掛合させ」(明細書5頁6?12行)て、覆い(11)の各側辺をそれぞれ対応するテント本体(3)の各側辺に固着している構成から、当業者がきわめて容易に想到できる。
また、甲第1号証記載の考案の、カバー体2と柔軟カバー14及び可撓性連結索16の構成からも、当業者がきわめて容易に想到できる。
また、当該構成は、甲第4号証(周知例)の段落【0025】に「・・・この天幕22は前記各主バー4を上方から覆うようになっている。この天幕22の中央部に略矩形形状の開口部24が形成され、この天幕22の開口部24を覆う覆布26がこの開口部24の周囲に通気隙間25を形成するように適宜箇所を縫着などにより止着されている。」と記載されているように(及び図1参照。)、周知技術である。(平成30年4月12日付け回答書3頁下から8行?4頁14行)

(3) 本件考案2の屋根形状は、天頂部を錐面の頂点とする略四角錐状の外見をなし、前記上部天幕は略四角錐状に形成され、前記下部天幕は略四角錐台状に形成されているが、甲第2号証に記載の考案から、略四角錐状の屋根形状とすることは当業者がきわめて容易に想到できる。甲第2号証の明細書には「上記およびその他のこの考案の目的、特徴、利点はこの発明の実施例を専らドーム型テントとして例示的に示す添附図面を参照して例示する以下の説明により一層理解されるが、この考案はかまぼこ型、三角形等の各種型式のテントに応用できる。」(明細書3頁14?19行)と記載され、また図面には四角形状のドーム型テントが多数例示されている。(平成30年4月12日付け回答書4頁15?26行)
また、甲第4号証の図1には、斜視図であるが、本件考案2の構成の「天頂部を錐面の頂点とする略四角錐状の外見をなし、上部天幕は略四角錐状に形成され、下部天幕は略四角台状に形成され」た構成が開示されており、したがって、本件考案2の屋根形状は周知技術である。(平成30年4月12日付け回答書4頁27行?5頁1行)

3 本件考案3について
(1) 甲第3号証には、シート7各側辺の内側及びシート7各底辺の内側に架設される棟4及び梁3からなる骨組を備え、該骨組下部の四隅部に、該骨組を支えるための脚を配したレジャーテントが開示されており、本件考案3は、公知のテント構造である。(審判請求書5頁23?28行)

(2) 甲第3号証には、シート7各側辺部の内側、及び前記シート7各底辺の内側に架設される骨組(棟4及び梁3)を備え、前記骨組の下部の四隅に、前記骨組を支えるための、地面から立設する支柱5が開示されており、すなわち骨組の構成は本件考案3と同一で、異なるところは屋根の形状で、本件考案3の屋根は略四角錐状であるが、甲第3号証記載の考案の屋根(シート7)は雨水の流れを予定したなだらかな傾斜の四角形である。(平成30年4月12日付け回答書5頁10?15行)

(3) 甲第5号証(技術常識例)の図1(a)、(b)はそれぞれ本件の図面の図5、図4に対応し、そして甲第5号証の段落【0014】には「図1は・・・地面に立設した状態を示す。この折り畳み式テント1は、大別して、4本の支柱2と、各々の一端部が各支柱2の上端部に回転可能に連結される4本のルーフバー3と、各ルーフバー3が相互に回転可能となるように、各ルーフバー3の他端と連結されるルーフバー連結部4と、4本のルーフバー3上に装着された天幕5と、ルーフバー連結部4の近傍に穿設された開口部を覆うカバー6とで構成される。」との記載があり、本件考案3と同様の骨組及び支柱が開示されており、本件考案3は当業者にとって技術常識である。(平成30年4月12日付け回答書5頁20行?6頁3行)

4 効果について
本件考案1ないし3の効果としている横風、地面からの巻き上げ風に対する防風効果、さらには雨対策についても、甲第1号証及び甲第2号証記載の考案と全く同様であり、格別な作用効果を奏するものとはいえない。(審判請求書5頁29?31行)

[証拠方法]
甲第1号証:特開平9-125747号公報
甲第2号証:実願昭48-97061号(実開昭50-44412号)のマイクロフィルム
甲第3号証:実願平3-53955号(実開平5-6048号)のCD-ROM
甲第4号証:登録実用新案第3013187号公報
甲第5号証:登録実用新案第3159598号公報


第4 当審において通知した無効理由
平成30年5月21日付けで通知した無効理由(以下、「当審無効理由」という。)の概要は以下のとおりである。

本件実用新案登録の請求項1に係る考案は、本件実用新案登録に係る出願の出願前に頒布された刊行物である登録実用新案第3013187号公報(上記甲第4号証。以下「引用文献1」という。)に記載された考案であるから、実用新案法第3条第1項第3号に該当し、実用新案登録を受けることができない。
また、本件実用新案登録の請求項1及び2に係る考案は、引用文献1に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。
よって、本件実用新案登録の請求項1及び2に係る登録実用新案は、実用新案法第37条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。


第5 被請求人の主張
上記第3の請求人の主張する無効理由及び上記第4の当審無効理由に対し、上記第1のとおり、被請求人からは何らの応答はなかった。


第6 当審無効理由についての判断
1 引用例に記載された発明
当審無効理由で引用した引用文献1(登録実用新案第3013187号公報、上記甲第4号証。)には、次の事項が記載されている(審決で下線を付した。以下同様。)。

(1) 「【請求項1】支柱と、この支柱の上端部に回動自在に軸支され放射方向に延在される複数の主バーと、前記支柱に軸方向に移動自在に嵌合された摺動筒と、前記各主バーの中間部に一端部をそれぞれ回動自在に軸支するとともに他端部を前記摺動筒に回動自在に軸支され放射方向に延在される複数のヒンジバーと、前記支柱の上部位置に出没自在に取付けられスプリングにて突出する方向に付勢され前記摺動筒を前記支柱の上側位置に保持して前記各主バーを展開した状態に支持する係合子と、前記各主バーを上方から覆い周縁部を前記主バーの先端部に着脱自在に止着され中央部に開口部を形成した天幕と、この天幕の中央部に形成した開口部を覆ってこの開口部の周囲に通気隙間を形成して止着され中央部を前記支柱の上端部に着脱自在に止着される覆布と、前記支柱の下端部を挿脱自在に支持する支持部と注入口とを有する容器体にて形成した支持台とからなることを特徴とする折畳み形テント。

(2) 「【請求項2】主バーおよびヒンジバーはそれぞれ四本として90°方向に延在させ、天幕は略矩形状としたことを特徴とする請求項1記載の折畳み形テント。」

(3) 「【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の一実施例を示す折畳み形テントを展開した状態の斜視図である。」

(4) 「【0001】【産業上の利用分野】本考案は傘状の折畳み可能な折畳み形テントに関する。」

(5) 「【0003】【考案が解決しようとする課題】上記従来のテントでは、テント内に強風が吹き込んだ場合に傘体が煽られて転倒されることがあり、支柱を強固に固定しなくてはならず、テントの設置に手数が掛かる問題がある。」

(6) 「【0014】【作用】請求項1記載の考案の折畳み形テントは、・・・
【0015】・・・テントの天幕は中央部の開口部の周囲に取着した覆布にて通気隙間が形成され、テント内に強風が吹き込んでも通気隙間から吹き抜け、テントは転倒することがない。」

(7) 「【0016】請求項2記載の考案の折畳み形テントは、・・・天幕は矩形状に設置され、複数のテントを並設しても天幕部が連接されて間隙が生じることなく、多人数の集会のテントにも利用でき、また、通路の雨避けとしても利用できる。」

(8) 「【0025】また、図1において、22は天幕で、前記展開状態の主バー4間の空間形状に近似した略三角形状の天幕片23を縫着してまたは一体に形成して略矩形形状に形成され、この天幕22は前記各主バー4を上方から覆うようになっている。この天幕22の中央部に略矩形形状の開口部24が形成され、この天幕22の開口部24を覆う覆布26がこの開口部24の周囲に通気隙間25を形成するように適宜箇所を縫着などにより止着されている。」

(9) 図1は次のものである。


(10) 図1から以下のことが看て取れる。
ア 上記(1)、及び(5)ないし(7)の記載を参酌して、図1から、天幕22が地上面から離間して設けられ、天幕22と地上面との間は開放されていることが看て取れる。
イ 上記(1)、(2)、(7)、及び(8)の記載を参酌して、図1から、天幕22は開口部24を頂面とする略四角錐台状で、覆布26はその下部が天幕22の頂面周囲の各側面上に重なり合う略四角錐状であり、覆布26と天幕22とで天頂部を錐面の頂点とする略四角錐状の外見をなし、四本の主バー4が上記各四角錐の各側辺に位置していることが看て取れる。
ウ 図1には「25通気隙間」という名称とともに引出線が記載され、該引出線の矢印は、略四角錐状の覆布26の図面視右側の2つの側辺間の略中間の位置を指している。

(11) 上記(1)ないし(10)からみて、引用文献1には、次の考案(以下「引用考案」という。)が記載されているものと認める。

「支柱1と、支柱1の支持台35と、支柱1の上端部に回動自在に軸支され四本が90°方向の放射方向に延在される主バー4と、各主バー4を上方から覆い周縁部を主バー4の先端部に着脱自在に止着される略矩形形状の天幕22とを有し、
天幕22は地上面から離間して設けられ、天幕22と地上面との間は開放されている、傘状の折畳み形テントであって、
略矩形形状の天幕22の中央部に略矩形形状の開口部24が形成され、覆布26が開口部24を覆い、
天幕22は開口部24を頂面とする略四角錐台状で、覆布26はその下部が天幕22の頂面周囲の各側面上に重なり合う略四角錐状であり、覆布26と天幕22とで天頂部を錐面の頂点とする略四角錐状の外見をなし、四本の主バー4が上記各四角錐の各側辺に位置し、
開口部24を覆う覆布26は、開口部24の周囲に通気隙間25を形成するように適宜箇所を縫着により天幕22の開口部24の周囲に止着されている、
折畳み形テント。」

2 対比・判断
(1) 本件考案1について
本件考案1と引用考案とを対比する。

ア 本件考案1の「タープテント」がいかなるテントを指すかについて、本件明細書を参照すると、
「【技術分野】【0001】本考案は・・・タープテントに関する。
【背景技術】【0002】・・・タープテントは、側面が開放されていることを特徴とし、開放感が得られるものの、上部に天幕屋根を有しており、その天幕屋根も天頂部から下方に傾斜するのが通常である・・・。」
と説明されている。
すると、引用考案の「傘状の折畳み形テント」は、側面が開放され(「天幕22は地上面から離間して設けられ、天幕22と地上面との間は開放されている」)、テント上部に天幕屋根(「覆布26」及び「天幕22」)を有しており、その天幕屋根が天頂部から下方に傾斜する(「覆布26と天幕22とで天頂部を錐面の頂点とする略四角錐状」)ものであるから、上記本件明細書の説明に沿うものであり、本件考案1の「タープテント」に相当する。

イ 引用考案において、「天幕22」とその「開口部24を覆」う「覆布26」とでテントの天幕屋根が構成されていることは明らかである。また「覆布26はその下部が天幕22の頂面周囲の各側面上に重なり合う」ということは、「覆布26」と「天幕22」との上下二層の構造であるといえる。
よって、引用考案の「覆布26」、「天幕22」はそれぞれ本件考案1の「上部天幕」、「下部天幕」に相当し、そして引用考案の「覆布26」及び「天幕22」を合わせ、本件考案1の「上部天幕および下部天幕の上下二層構造の天幕屋根」に相当する。

ウ 引用考案で「覆布26はその下部が天幕22の頂面周囲の各側面上に重なり合う」ことは、本件考案1で「下部天幕天頂部に上部天幕が重ね合わされ」ることに相当する。

エ 引用考案で、「覆布26はその下部が天幕22の頂面周囲の各側面上に重なり合う」ものであるから、「開口部24の周囲に通気隙間25を形成するように適宜箇所を縫着により天幕22の開口部24の周囲に止着され」る際には、「その下部が天幕22の頂面周囲の各側面上に」に縫着により止着されるものと解される。
よって、引用考案において「覆布26はその下部が天幕22の頂面周囲の各側面上に重なり合」い、「開口部24の周囲に通気隙間25を形成するように適宜箇所を縫着により天幕22の開口部24の周囲に止着され」ることは、本件考案1で「上部天幕下部の一部分が下部天幕上部に固着され」ることに相当する。

オ 引用考案で「略矩形形状の天幕22の中央部に略矩形形状の開口部24が形成され」、「天幕22は開口部24を頂面とする略四角錐台状で」あることは、本件考案1で「下部天幕天頂部に一」「の開口部を設けている」ことに相当する。

カ 前記アないしオから、本件考案1と引用考案との間に相違点はなく、本件考案1は引用考案と同一である。
あるいは、本件考案1は、引用考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

(2) 本件考案2について
ア 対比
本件考案2は、本件考案1に対して、さらに、「前記天幕屋根は、天頂部を錐面の頂点とする略四角錐状の外見をなし、前記上部天幕は略四角錐状に形成され、前記下部天幕は略四角錐台状に形成されており、前記上部天幕各側辺が、それぞれ対応する前記下部天幕各側辺に固着されている」という特定事項を加えるものである。
そこで、上記(1)の検討結果を踏まえ、本件考案2と引用考案とを対比する。

上記(1)で述べた対比に加え、引用考案で「天幕22は開口部24を頂面とする略四角錐台状で、覆布26はその下部が天幕22の頂面周囲の各側面上に重なり合う略四角錐状であり、覆布26と天幕22とで天頂部を錐面の頂点とする略四角錐状の外見をなし」ていることは、本件考案2で「前記天幕屋根は、天頂部を錐面の頂点とする略四角錐状の外見をなし、前記上部天幕は略四角錐状に形成され、前記下部天幕は略四角錐台状に形成されて」いることに相当する。

よって、本件考案2と引用考案とは、次の一致点で一致し、下記相違点1で相違する。

[一致点]
「上部天幕および下部天幕の上下二層構造の天幕屋根からなるテントであって、前記下部天幕天頂部に前記上部天幕が重ね合わされ、前記上部天幕下部の一部分が前記下部天幕上部に固着され、前記下部天幕天頂部に一または複数の開口部を設けているテントであって、
前記天幕屋根は、天頂部を錐面の頂点とする略四角錐状の外見をなし、前記上部天幕は略四角錐状に形成され、前記下部天幕は略四角錐台状に形成されているタープテント」

[相違点1]
「上部天幕」と「下部天幕」との固着位置について、本件考案2では「前記上部天幕各側辺が、それぞれ対応する前記下部天幕各側辺に固着されている」のに対し、引用考案では「適宜箇所を縫着により天幕22の開口部24の周囲に止着」するものである点。

イ 判断
引用考案において、覆布26を天幕22に止着する箇所は適宜に選択されるところ、止着箇所として、テントの構造、縫着作業の容易性、通気性の効率を考慮し、天幕22が止着される部材であり、傘状の折畳み形テントの主な横材(バー)である四本の主バー4の位置すなわち覆布26及び天幕22の各側辺を選択することは、当業者がきわめて容易に想到し得たことである。

加えて、上記1の(10)ウのとおり、引用文献1図1には「25通気隙間」という名称とともに引出線が記載され、該引出線の矢印は、略四角錐状の覆布26の図面視右側の2つの側辺間の略中間の位置を指しているから、四角錐の側辺間に通気隙間25を形成することが示唆されているといえ、その示唆に従い、四角錐の側辺間に通気隙間25を形成すべく、略四角錐状の覆布26の側辺と、略四角錐台状の天幕22の側辺とを縫着により止着して、相違点1に係る本件考案2の構成とすることは、当業者がきわめて容易に想到し得ることである。

よって、本件考案2は、引用考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

3 小括
以上のとおり、本件実用新案登録の請求項1に係る考案は、引用文献1に記載された考案であるから、実用新案法第3条第1項第3号に該当し、実用新案登録を受けることができない。
また、本件実用新案登録の請求項1及び2に係る考案は、引用文献1に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。
よって、本件実用新案登録の請求項1及び2に係る登録実用新案は、実用新案法第37条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。


第7 請求人の主張する無効理由について
1 各甲号証の記載事項について
(1) 甲第1号証
本件実用新案登録に係る出願の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平9-125747号公報)には、次の事項が記載されている。

ア 「【0001】【発明の属する技術分野】この発明はキャンプ等において利用されるテントカバーにおいて、その通風構造に関するものである。
【0002】【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来のテントカバー、特にその外周に大きな通路空間が開放されているものにおいては、その通路空間から内側に強い風が入ると、浮き上がって倒れるおそれがあった。
【0003】本発明は、通風構造を改良して、強い風による倒伏を防止することを目的にしている。
【0004】【課題を解決するための手段】後記実施形態の図面(図1?8)の符号を援用して本発明を説明する。本発明にかかるテントカバー(1)においては、折り畳み可能なカバー体(2)の天井部(5)に通風孔(12)を設け、このカバー体(2)には外側から通風孔(12)を開閉可能に覆う柔軟カバー(14)を設け、このカバー体(2)と柔軟カバー(14)との間の通風開口(15)が開いたとき、柔軟カバー(14)がカバー体(2)から一定以上離れないように支える連結索(16)をカバー体(2)と柔軟カバー(14)との間に連結した。
【0005】従って、カバー体(2)の内側に強い風が入って吹き上がると、その風は通風孔(12)に至り、図8(b)(c)に示すように柔軟カバー(14)を浮き上がらせて通風開口(15)からカバー体(2)の外側へ逃げる。このように、柔軟カバー(14)が風によりカバー体(2)から離れて通風開口(15)が開いたとき、柔軟カバー(14)が連結索(16)により支えられてカバー体(2)から一定以上離れない。また、風のないときには、図8(a)に示すように柔軟カバー(14)が通風孔(12)を覆う。」

イ 「【0006】【発明の実施形態】以下、本発明の一実施形態にかかるテントカバーを図面を参照して説明する。
〔図1,2?5,6?7に示すテントカバー1の概略について〕テントカバー1は、折り畳み可能なカバー体2を有している。このカバー体2は、展開状態で、六枚の布製素材3からなる。各素材3は、底辺3aと、この底辺3aの両側から上方へ斜状に延びて頂点で収束する両側辺3bとにより区切られ、互いに隣接する両側辺3bで重ねられて縫製されている。従って、カバー体2は、展開状態で、各側辺3bの頂点が重なる頂部4の外周全体に広がる天井部5と、この天井部5の外周下側から下方へ広がる各側壁部6とにより、椀状に形成されている。
【0007】この頂部4から天井部5を経て各側壁部6の下端側にわたり各側辺3bの重合部分に沿って使用時の連結用支持部7が延設されている。この頂部4の内面側には六本の連結ひも8(図4)が縫製されている。この各支持部7の内面側には複数の連結輪9(図4)が縫製されている。この各支持部8の下端部には連結金具10が取り付けられている。図示しないが、使用状態では、頂部4の内面側に当てがわれて各連結ひも8により結ばれた止め金具の六本脚に六本の伸縮アームの上端部が挿着されるとともに、この各伸縮アームが各支持部7の内面側で各連結輪9に挿通されてこの各伸縮アームの下端部が地面に固定され、各連結金具10が地面上の止め金具に引き掛けられる。
【0008】各側壁部6の底辺3aは、使用状態で接地せず、地面との間で通路空間11を有している。
〔上記テントカバー1に付加した通風構造(特に図8参照)について〕通風孔12は、前記天井部5の中央にある頂部4の外周全体でほぼ正六角形状に形成され、前記各素材3ごとにほぼ二等辺三角形状に区切られてその各区切部分内に網体13を有している。
【0009】柔軟カバー14は、通風孔12に合わせてほぼ正六角形状に形成され、通風孔12をその外側から開閉可能に覆っている。この柔軟カバー14はその中央部で前記頂部4に取着されてこの頂部4から外周全体に広がり、カバー体2上の通風孔12と柔軟カバー14との間に通風開口15が設けられている。この柔軟カバー14の外周縁14aは通風孔12の外周縁12aよりも外側へ突出して重合し、同外周縁12a上に載置可能になっている。
【0010】可撓性連結索16(ゴム等からなる弾性ひも)は、カバー体2の各支持部7でこれと柔軟カバー14の外周縁14aとの間に連結されている。そして、このカバー体2と柔軟カバー14との間の通風開口15が、図8(a)に示す閉状態から図8(b)(c)に示すように開いたとき、柔軟カバー14がカバー体2から上方へ一定以上離れないように可撓性連結索16により支えられる。」

ウ 「【0019】【発明の効果】本発明にかかるテントカバー(1)によれば、カバー体(2)の内側に強い風が入ってもカバー体(2)が浮き上がって倒れるのを防止することができる。また、カバー体(2)の外側から通風孔(12)に至る雨などが柔軟カバー(14)により遮られてカバー体(2)内に入りにくくなる。」

エ 「【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態に係るテントカバーの展開状態を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係るテントカバーの展開状態を示す正面図である。
【図3】同じく平面図である。
【図4】同じく底面図である。
【図5】同じく左側面図である。
・・・
【図8】(a)はカバー体の通風構造において閉状態を示す断面図であり、(b)は同じく開状態を示す断面図であり、(c)は同じく開状態を示す斜視図である。」

オ 図1は次のものである。


カ 図2は次のものである。


キ 図3は次のものである。


ク 図4は次のものである。


ケ 図5は次のものである。



コ 図8は次のものである。


サ 図1ないし図5、及び図8から以下のことが看て取れる。
(ア) カバー体2の布製素材3の底辺3aの両側部は下方に弯曲して連結金具10の位置まで達する曲線状をなしている。
(イ) 連結索16は、カバー体2の各支持部7の上部に連結されている。

シ 上記アないしサからみて、甲第1号証には、次の考案(以下「甲1考案」という。)が記載されているものと認める。

「キャンプ等において利用される、外周に大きな通路空間が開放されているテントカバー1であって、
テントカバー1は、カバー体2を有し、
カバー体2は六枚の布製素材3からなり、
各布製素材3は、底辺3aと、この底辺3aの両側から上方へ斜状に延びて頂点で収束する両側辺3bとにより区切られ、互いに隣接する両側辺3bで重ねられて縫製されて、
カバー体2は、各側辺3bの頂点が重なる頂部4の外周全体に広がる天井部5と、この天井部5の外周下側から下方へ広がる各側壁部6とにより、椀状に形成され、
頂部4から天井部5を経て各側壁部6の下端側にわたり各側辺3bの重合部分に沿って連結用支持部7が延設され、各支持部7の内面側には複数の連結輪9が縫製され、六本の伸縮アームが各支持部7の内面側で各連結輪9に挿通され、
各支持部7の下端部には連結金具10が取り付けられ、各伸縮アームの下端部が地面に固定され、各連結金具10が地面上の止め金具に引き掛けられ、
底辺3aは、接地せず、地面との間で通路空間11を有し、
底辺3aの両側部は下方に弯曲して連結金具10の位置まで達する曲線状をなし、
天井部5にほぼ正六角形状の通風孔12を設け、外側から通風孔12を開閉可能に覆う、通風孔12に合わせてほぼ正六角形状の柔軟カバー14を設け、
カバー体2上の通風孔12と柔軟カバー14との間が通風開口15を形成し、
柔軟カバー14の外周縁14aは通風孔12の外周縁12aよりも外側へ突出して重合し、同外周縁12a上に載置可能になっており
ゴム等からなる弾性ひもの連結索16をカバー体2の各支持部7の上部と柔軟カバー14の外周縁14aとの間に連結し、柔軟カバー14が風によりカバー体2から離れて通風開口15が開いたとき、柔軟カバー14が連結索16によりカバー体2から一定以上離れないように支えられる、
テントカバー1。」

(2) 甲第2号証
本件実用新案登録に係る出願の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(実願昭48-97061号(実開昭50-44412号)のマイクロフィルム)には、次の事項が記載されている。

ア 「2.実用新案登録請求の範囲
テント本体の天頂部に換気口を設けると共に、この換気口に覆いを被せその覆いと換気口との間隙距離を調整自在としたことを特徴とするテント。」(明細書1頁3?6行)

イ 「従つて、テント本体の天頂部に換気口を設定したことによつて、テント室内の熱気、湯気等の対流排出が最も効果的となり、快適なテント生活を維持することができるテントが提供できる。」(明細書2頁11?15行)

ウ 「上記およびその他のこの考案の目的、特徴、利点はこの発明の実施例を専らドーム型テントとして例示的に示す添附図面を参照して例示する以下の説明により一層理解されるが、この考案はかまぼこ型、三角形等の各種型式のテントに応用できる。」(明細書3頁14?19行)

エ 「テント本体(3)を保持するために、図例では2本のビーム(13)(13)をアーチ状に曲成しており、・・・フレームを構成している。
このフレームにテント本体(3)を保持させ、そのテント本体(3)の周縁をペグ等で止めて設営することが可能であり、換気口(4)に覆い(11)が被せられる。この覆い(11)の各角部には第5図において詳図するようにナス鐶(14)が縫い付けられ、一方これに対向するテント本体(3)には両端に口鐶(15)(15)を有する止具が縫い付けられ、一方の口鐶(15)とナス鐶(14)を掛合させ、他方の口鐶(15)に張り紐(16)の一端に設けたナス鐶(17)を掛合させ、この張り紐(16)の他端をペグで止めることによつて全体の設営が概ね完了し、第4図においては上記の口鐶(15)等を利用してフライ(18)を付設した場合が例示・・・してある。」(明細書4頁下から4行?6頁1行)

カ 「4.図面の簡単な説明
・・・第3図はこの考案テントの分解斜視図、第4図はその組立斜視図、第5図は第4図V部の拡大図・・・」(明細書7頁10?14行)

キ 第3図は次のものである。


ク 第4図は次のものである。


ケ 第5図は次のものである。



(3) 甲第3号証
本件実用新案登録に係る出願の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(実願平3-53955号(実開平5-6048号)のCD-ROM)には、次の事項が記載されている。

ア 「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】チーズやエルボーなどの継手とパイプを用いて方形や円形状の小屋組を形成し、振出方式の脚を挿着してなる骨組構成にシートを覆せ、或いはシートを覆せられるようにしてなるレジャーテント。」

イ 「【図面の簡単な説明】
【図1】本考案レジャーテントに係る一例で、上部の小屋組を直線構成にしたときの例を示す斜視図である。
・・・
【図4】使用状態の一例を示す斜視図である。」

ウ 「【0001】【産業上の利用分野】海水浴、釣り、キャンプなどのレジャーに於いて使用するテントに関するものである。
・・・
【0004】【課題を解決するための手段】図1および図2は上記課題に基づいて解決した本考案の一例を示す斜視図で、図1は上部の小屋組を直線構成、図2は曲線構成にした例である。図に於いて、上部の小屋組はチーズ(1)・エルボー(2)と称する継手、および梁(3)と棟(4)を形成するパイプから構成されている。・・・(5)は振出方式の脚であり、蝶ネジ(6)などを用い、任意の高さで止着出来るようになっている。
【0005】【作用】・・・骨組構成した後は、図4に示す如く、その上面にシート(7)を覆せ、所期のテントを形成する事が出来る。なお、脚(5)は振出方式になっているので、設置場所の環境条件に応じ、任意の高さや角度で設営できる作用がある。設置場所が傾斜地の場合にも上面を水平に設営する事が出来る。また逆に、設置場所が平坦地の場合には上面を傾斜させ、前面の開けた設営や、太陽の位置に対する対応などを講ずる事の出来る作用がある。」

エ 図1は次のものである。


オ 図4は次のものである。


カ 図1及び図4から以下のことが看て取れる。
(ア) 梁3により方形の小屋組の底辺となる4辺が形成され、該4辺の略4隅に脚5が挿着され、該4辺の対向する2辺のほぼ中央間に棟4が渡されている。
また、シート7は方形の小屋組を覆う略方形をなし、該略方形の4辺の、各内側に梁3が位置し、対向する2辺のほぼ中央下に棟4が位置している。
(イ) レジャーテントの側面は開放されている。

キ 上記アないしカからみて、甲第3号証には、次の考案(以下「甲3考案」という。)が記載されているものと認める。

「梁3と棟4を形成するパイプを用いて方形の小屋組を形成し、振出方式の脚5を挿着してなる骨組構成にシート7を覆せた、
脚5が振出方式になっていることにより、設置場所の環境条件に応じ、任意の高さや角度で設営できる、
海水浴、釣り、キャンプなどのレジャーに於いて使用する、レジャーテントであって、
梁3により方形の小屋組の底辺となる4辺が形成され、該4辺の略4隅に脚5が挿着され、該4辺の対向する2辺のほぼ中央間に棟4が渡され、
シート7は方形の小屋組を覆う略方形をなし、該略方形の4辺の、各内側に梁3が位置し、対向する2辺のほぼ中央下に棟4が位置し、
側面は開放されている、レジャーテント。」

(4) 甲第4号証
甲第4号証(登録実用新案第3013187号公報、上記引用文献1。)に記載されている事項は、上記第6の1のとおりである。

(5) 甲第5号証
甲第5号証(登録実用新案第3159598号公報)は、本件実用新案登録に係る出願の出願後に頒布された刊行物(発行日:平成22年5月27日)である。

2 本件考案3について
(1) 対比
本件考案3と甲1考案とを対比する。

ア 本件考案3の「タープテント」がいかなるテントを指すかについて、本件明細書を参照すると、
「【技術分野】【0001】本考案は・・・タープテントに関する。
【背景技術】【0002】・・・タープテントは、側面が開放されていることを特徴とし、開放感が得られるものの、上部に天幕屋根を有しており、その天幕屋根も天頂部から下方に傾斜するのが通常である・・・。」
と説明されている。
すると、甲1考案の「テントカバー1」は、側面が開放され(外周に大きな通路空間が開放されているテントカバー1」であり、「底辺3aは、接地せず、地面との間で通路空間11を有し」ている。)、テント上部に天幕屋根(「柔軟カバー14」及び「カバー体2」)を有しており、その天幕屋根が天頂部から下方に傾斜する(「カバー体2は、各側辺3bの頂点が重なる頂部4の外周全体に広がる天井部5と、この天井部5の外周下側から下方へ広がる各側壁部6とにより、椀状に形成され」ている。)ものであるから、上記本件明細書の説明に沿うものであり、本件考案3の「タープテント」に相当する。

イ 甲1考案において、「カバー体2」と、その「天井部5」の「通風孔12」を「開閉可能に覆う」「柔軟カバー14」とでテントの天幕屋根が構成されていることは明らかである。また「柔軟カバー14」は「外側から通風孔12を開閉可能に覆う」ものであって、「柔軟カバー14の外周縁14aは通風孔12の外周縁12aよりも外側へ突出して重合し、同外周縁12a上に載置可能になって」いるということは、「柔軟カバー14」と「カバー体2」との上下二層の構造であるといえる。
よって、甲1考案の「柔軟カバー14」、「カバー体2」はそれぞれ本件考案3の「上部天幕」、「下部天幕」に相当し、そして甲1考案の「柔軟カバー14」及び「カバー体2」を合わせ、本件考案3の「上部天幕および下部天幕の上下二層構造の天幕屋根」に相当する。

ウ 甲1考案で「柔軟カバー14」は「外側から通風孔12を開閉可能に覆う」ものであって、「柔軟カバー14の外周縁14aは通風孔12の外周縁12aよりも外側へ突出して重合し、同外周縁12a上に載置可能になって」いることは、本件考案3で「下部天幕天頂部に上部天幕が重ね合わされ」ることに相当する。

エ 甲1考案において、「ゴム等からなる弾性ひもの連結索16をカバー体2の各支持部7の上部と柔軟カバー14の外周縁14aとの間に連結し」ということは、すなわち柔軟カバー14の外周縁14aがカバー体2の各支持部7の上部に連結索16を介して連結されているということであるので、本件考案3で「上部天幕下部の一部分が下部天幕上部に固着され」ることとは、「上部天幕下部が下部天幕上部に連結される」点で共通している。

オ 甲1考案で「カバー体2」の「天井部5にほぼ正六角形状の通風孔12を設け」ていることは、本件考案3で「下部天幕天頂部に一」「の開口部を設けている」ことに相当する。

よって、本件考案3と甲1考案とは、次の一致点で一致し、下記相違点AないしCで相違する。

[一致点]
「上部天幕および下部天幕の上下二層構造の天幕屋根からなるタープテントであって、前記下部天幕天頂部に前記上部天幕が重ね合わされ、前記上部天幕下部が前記下部天幕上部に連結され、前記下部天幕天頂部に一または複数の開口部を設けていることを特徴とするタープテント。」

[相違点A]
天幕の形状について、本件考案3では「前記天幕屋根は、天頂部を錐面の頂点とする略四角錐状の外見をなし、前記上部天幕は略四角錐状に形成され、前記下部天幕は略四角錐台状に形成されて」いるのに対し、甲1考案では「柔軟カバー14」は「ほぼ正六角形状」、「カバー体2」は「六枚の布製素材3」からなる「腕状」である点。

[相違点B]
上部天幕と下部天幕との連結について、本件考案3では「上部天幕下部の一部分が前記下部天幕上部に固着され」るものであり、かつ「上部天幕各側辺が、それぞれ対応する前記下部天幕各側辺に固着されている」のに対し、甲1考案では「ゴム等からなる弾性ひもの連結索16をカバー体2の各支持部7の上部と柔軟カバー14の外周縁14aとの間に連結し、柔軟カバー14が風によりカバー体2から離れて通風開口15が開いたとき、柔軟カバー14が連結索16によりカバー体2から一定以上離れないように支えられる」ものである点。

[相違点C]
骨組及び支柱について、本件考案3では「天幕屋根各側辺の内側、および前記天幕屋根各底辺の内側に架設される骨組を備え、前記骨組下部の四隅に、前記骨組を支えるための、地面から立設する支柱を配している」のに対し、甲1考案では「カバー体2」を構成する六枚の各「布製素材3」の各「側辺3b」の重合部分に沿って下端部が地面に固定される「伸縮アーム」である点。

(2) 判断
ア 相違点Cについて
事案に鑑み、相違点Cより検討する。
甲第3号証には、上記1(3)キに記載したとおり、
「梁3と棟4を形成するパイプを用いて方形の小屋組を形成し、振出方式の脚5を挿着してなる骨組構成にシート7を覆せた、
脚5が振出方式になっていることにより、設置場所の環境条件に応じ、任意の高さや角度で設営できる、
海水浴、釣り、キャンプなどのレジャーに於いて使用する、レジャーテントであって、
梁3により方形の小屋組の底辺となる4辺が形成され、該4辺の略4隅に脚5が挿着され、該4辺の対向する2辺のほぼ中央間に棟4が渡され、
シート7は方形の小屋組を覆う略方形をなし、該略方形の4辺の各辺内側に梁3が位置し、対向する2辺のほぼ中央間に棟4が位置し、
側面は開放されている、レジャーテント。」(甲3考案)が記載されている。
甲3考案の梁3は、シート7各底辺の内側に架設される骨組であるといえ、また「方形の小屋組の底辺となる4辺」の略4隅に挿着される脚5は、「小屋組」を支えるために、地面から立設させるものといえる。
そして、甲3考案の「キャンプなどのレジャーに於いて使用する」「側面が開放されたレジャーテント。」と、甲1考案の「キャンプ等において利用される、外周に大きな通路空間が開放されているテントカバー1」とは、キャンプ等において利用される、側面が開放されている形式のテントという点で共通の技術分野に属する。

しかしながら、甲1考案の、「底辺3aの両側部は下方に弯曲して連結金具10の位置まで達する曲線状」をなす「六枚の布製素材3」から構成される「カバー体2」に対し、甲3考案の「シート7」は「方形の小屋組を覆う略方形」のものであり、
また、甲1考案の、「伸縮アーム」が、「頂部4から天井部5を経て各側壁部6の下端側にわたり各側辺3bの重合部分に沿って」延設される連結用支持部7の内面側に設けられ、「下端部が地面に固定」される構成に対し、甲3考案の骨組は、「梁3と棟4を形成するパイプを用いて方形の小屋組を形成し」、そこに、小屋組とは別体の「振出方式の脚5を挿着」する構成である。
このように、甲1考案と甲3考案とでは、天幕の形状が大きく異なり、それに応じた骨組(及び支柱)の構成も大きく異なっている上、仮に、甲1考案の各布製素材3の底辺3a内側に骨組(梁)を適用することを検討したとしても、底辺3aは、「両側部は下方に弯曲して連結金具10の位置まで達する曲線状をなし」ているものであるから、その底辺3aの内側に骨組を架設しても、相違点Cに係る本件考案3の構成のように「天幕屋根各底辺の内側に架設される骨組を備え、前記骨組下部の四隅に、前記骨組を支えるための、地面から立設する支柱を配」する構成にならないことは明らかである。
よって、甲1考案のテントカバー1に、甲3考案を適用して相違点Cに係る本件考案3の構成とすることは、技術的に困難であり、当業者がきわめて容易に想到できるものではない。

さらに甲第2号証及び甲第4号証に記載された事項について検討しても、まず甲第2号証に記載されたテントは、甲1考案のような側面が開放されている形式のテントではない上、その骨組あるいは支柱の構造も、上記(2)エの摘記及びキの図面に示されるように、「2本のビーム(13)(13)をアーチ状に曲成」した「テント本体(3)を保持する」フレームであり、相違点Cに係る本件考案3の構成のように「骨組下部の四隅に、前記骨組を支えるための、地面から立設する支柱を配」するものでも、「天幕屋根各底辺の内側に架設される骨組を備える」ものでもない。

次に甲第4号証(引用文献1)記載のテントには、天幕23の各底辺の内側に骨組を備えることの記載はなく(また、甲第4号証記載のテントは傘状に折畳む折畳み形であることから、備えていない蓋然性が高い。)、さらに仮に天幕23の各底辺内側に骨組を備える構成が記載されていたとしても、上述のように、甲1考案の「両側部は下方に弯曲して連結金具10の位置まで達する曲線状をなし」ている底辺3a内側に骨組を架設して相違点Cに係る本件考案3の構成とすることは、技術的に困難であり、当業者がきわめて容易に想到できるものではない。

また甲第5号証は、本件実用新案登録に係る出願後に頒布された刊行物であり、いわゆる公知文献ではない。

ここで、上記第3の1(3)に記載したように、請求人は、甲第5号証(技術常識例)には本件考案3と同様の骨組及び支柱が開示されており、本件考案3は当業者にとって技術常識である旨主張している。
しかしながら、甲第5号証は本件実用新案登録に係る出願後に頒布された刊行物であり同出願時における技術常識を直ちに示すものとはいえない上、甲第1号証ないし第4号証を参照しても、相違点Cに係る本件考案3の構成が技術常識であるとまではいえない。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

このように、相違点Cに係る本件考案3の構成を得ることは、当業者がきわめて容易に想到できることではない。

イ 相違点Bについて
甲第4号証には、上記第6の1(11)に記載したとおり、「覆布26はその下部が天幕22の頂面周囲の各側面上に重なり合」い、「開口部24の周囲に通気隙間25を形成するように適宜箇所を縫着により天幕22の開口部24の周囲に止着され」る「傘状の折畳み形テント」である引用考案が記載されている。
そして、引用考案の「傘状の折畳み形テント」は、甲1考案の「外周に大きな通路空間が開放されているテントカバー1」とは、側面が開放されている形式のテントという点で共通の技術分野に属する。

しかしながら、相違点Bに係る甲1考案の構成は、上記1(1)イに摘記したように「【0005】・・・カバー体(2)の内側に強い風が入って吹き上がると、その風は通風孔(12)に至り、図8(b)(c)に示すように柔軟カバー(14)を浮き上がらせて通風開口(15)からカバー体(2)の外側へ逃げる」ためものであり、すなわち上記1(1)コに摘記した図8にも示されるように、カバー体2の内側に強い風が入って吹き上がったとき、連結索16の長さ分、柔軟カバー14の外周縁14a全体がカバー体2から離れて浮き上がり、風を外側へ逃がすものである。
これに対し、引用考案の覆布26を天幕22に縫着する構成では、少なくとも縫着箇所において、覆布26が天幕22から浮き上がるものではない。
そうすると、引用考案の覆布26を天幕22に縫着する構成を適用し、甲1考案を、連結索16による連結ではなく、柔軟カバー14をカバー体2に縫着することは、上述の連結索16の長さ分カバー体2の外周縁14a全体が浮き上がりとそれに伴う外側へ風を逃がす効果を減じることになり、動機付けがあるとはいえない。
よって、甲1考案に引用考案を適用して相違点Bに係る本件考案3の構成とすることは、当業者がきわめて容易に想到できるものではない。

同様に、甲第2号証記載の覆い(11)に係る構成も、甲1考案に適用して相違点Bに係る本件考案3の構成とする動機付けがあるとはいえない。
また、甲第3号証には、上部天幕と下部天幕に関する構成は記載されていない。

ここで、上記第3の1(2)に記載したように、請求人は、「甲第1号証記載の考案では、可撓性連結索16の上端は柔軟カバー14下部に連結されて機能の面で柔軟カバー14下部の一部分を形成し、そして可撓性連結索16の下端がカバー体2の上部に連結されている(ここで「連結」はいずれも「固着」と同義である)。」と、相違点Bに係る本件考案3の構成について甲第1号証に記載されている旨主張している。
しかしながら、相違点Bに係る本件考案3の構成は「上部天幕下部の一部分」と「下部天幕上部」とが固着されているものであって、連結索16という中間の部材に対しそれぞれが固着されているというものではなく、また甲1考案におけるカバー体2と柔軟カバー14との関係をみても、カバー体2の各支持部7の上部に対し、柔軟カバー14の外周縁14a全体が浮き上がることができる関係であり、固着(「かたくしっかりとつくこと。一定の場所に留まって移らないこと。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版])といえる関係ではない。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

このように、相違点Bに係る本件考案3の構成を得ることは、当業者がきわめて容易に想到できることではない。

(3) 小括
以上のことから、相違点Aについて検討するまでもなく、本件考案3は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された考案に基づいて、若しくは甲第1号証ないし甲第3号証に記載された考案並びに周知技術(例えば甲第4号証記載の考案)あるいは技術常識に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められない。

第8 まとめ
以上のとおり、本件実用新案登録の請求項1に係る考案は、甲第4号証に記載された考案であるから、実用新案法第3条第1項第3号に該当し、実用新案登録を受けることができないものである。
また、本件実用新案登録の請求項1及び2に係る考案は、甲第4号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
よって、本件実用新案登録の請求項1及び2に係る考案についての実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号の規定に該当するから、無効とすべきものである。

一方、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によって、本件実用新案登録の請求項3に係る考案についての実用新案登録を無効とすることはできない。

そして、審判に関する費用については、実用新案法第41条の規定で準用する、特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第64条の規定により、その3分の1を請求人が負担し、3分の2を被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2018-08-21 
結審通知日 2018-08-23 
審決日 2018-09-05 
出願番号 実願2010-2816(U2010-2816) 
審決分類 U 1 114・ 113- ZC (E04H)
U 1 114・ 121- ZC (E04H)
最終処分 一部成立    
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 小野 忠悦
前川 慎喜
登録日 2010-07-07 
登録番号 実用新案登録第3161298号(U3161298) 
考案の名称 防風タープテント  
代理人 藤木 重一  

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