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審決分類 審判    H05B
審判    H05B
管理番号 1369037
審判番号 無効2020-400002  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-05-12 
確定日 2020-11-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第3223995号実用新案「グラフェンヒーター及び発熱製品」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第3223995号の請求項に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件無効審判の請求に係る実用新案登録第3223995号(以下「本件実用新案登録」という。)の請求項1ないし4に係る考案についての出願は、平成30年10月31日に出願した特願2018-205744号の一部を令和1年9月4日に新たに特許出願した特願2019-161384号を、令和1年9月5日に実願2019-3364号として実用新案登録出願に変更したものであって、令和1年10月23日に設定登録がされ、令和2年5月11日(差出日:令和2年5月12日)に、特許業務法人東京国際特許事務所(以下、「請求人」という。)から実用新案登録無効審判の請求がされた。

第2 本件実用新案登録に係る考案
本件実用新案登録の請求項1ないし4に係る考案は、実用新案登録請求の範囲に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである(以下、「本件実用新案登録の請求項1ないし4に係る考案」を「本件考案1ないし4」といい、本件実用新案登録の請求項1ないし4を総称して「本件考案」という。)。
【請求項1】
グラフェンシート部を有するグラフェンヒーターであって、
前記グラフェンシート部は、
裏地と、
該裏地の上に積層されたグラフェン発熱シートと、
該グラフェン発熱シートの上に積層された接着芯と、を備え、
前記グラフェン発熱シートは、グラフェンと二酸化チタンの複合材料を含むことを特徴とするグラフェンヒーター。
【請求項2】
請求項1に記載のグラフェンヒーターを備えることを特徴とする発熱製品。
【請求項3】
電源に接続可能な端子を備える接続プラグと、
入力コードを介して前記グラフェンヒーターと電気的に接続された電源スイッチと、を有し、
前記電源スイッチは、電源コードを介して前記接続プラグに連結されていることを特徴とする請求項2に記載の発熱製品。
【請求項4】
前記発熱製品は、被服、フィルム、掛け布団、敷き布団、毛布、枕、マットレス、座布団、クッション、ソファー、カーペット、腰部サポーター、膝サポーター、靴のインソール、椅子、自動車シート、便座シート、湯たんぽ、弁当袋から選択されることを特徴する請求項2又は3に記載の発熱製品。

第3 請求人の主張
請求人は、本件実用新案登録の請求項1ないし4に係る考案についての実用新案登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として甲第1号証ないし甲第6号証を提出し、次の無効理由を主張する。
(1)無効理由1
本件実用新案登録の請求項1ないし4に係る考案についての実用新案登録は、実用新案法第5条第6項第1号に規定する要件を満たしていない実用新案登録出願に対してされたものであり、同法第37条第1項第4号に該当して無効とすべきである。
(2)無効理由2
本件実用新案登録の請求項1ないし4に係る考案は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された考案に基いて、本件実用新案登録出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、同法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、本件実用新案登録の請求項1ないし4に係る考案についての実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当して無効とすべきである。
<証拠方法>
甲第1号証:実用新案登録第3197738号公報
甲第2号証:中国特許出願公開第105764169号明細書
甲第3号証:実願平4-16492号(実開平5-68093号)の
CD-ROM
甲第4号証:特開2001-237052号公報
甲第5号証:特表2012-524970号公報
甲第6号証:特表2013-512550号公報
(なお、以下、「甲第1号証」ないし「甲第6号証」を、「甲1」ないし「甲6」という。)

第4 被請求人の主張
当審は、令和2年6月11日に被請求人代理人に対し期間を指定して答弁指令を行ったが、被請求人代理人から何ら応答はなかった。

第5 当審の判断
1 無効理由1(実用新案法第5条第6号第1号)について
(1)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、無効理由1について以下の通り主張している(当審注:下線は参考のため当審で付与したものである。以下同様である。)。
「本件出願の明細書(以下「本件明細書」という。)には、課題として、「良好な発熱性能を示し、単純なプロセスを用いて低コストで量産を行うことが可能なグラフェン発熱シートを備えるグラフェンヒーター及びグラフェン発熱シートを利用した発熱製品」を提供することであると記載されている(段落0011)。
また、本件明細書には、課題解決手段として、本件登録実用新案1ないし4の構成が記載された上で(段落0012ないし0015)、「安定的かつ良好な発熱特性を示す発熱製品を提供することができる」という原特許出願と同様な効果が記載されているが(段落0016)、原特許出願の明細書の記載からも明らかなように、そのような効果は、「エタノール、テトラブチルチタネート、グリセリンを所定割合で反応させて・・・(中略)・・・ナノ二酸化チタンを得る、ナノ二酸化チタン調整工程と、黒鉛粉末を濃硫酸に加えて・・・(中略)・・・乾燥してグラフェンを得る、グラフェン調整工程と、前記グラフェンと脱イオン水を混合し、・・・(中略)・・・分散グラフェンコンポジット生成物を得る、分散グラフェンコンポジット生成物調整工程と、前記分散グラフェンコンポジット生成物を樹脂溶液に分散させ、グラフェン導電性ペーストを得る、グラフェン導電性ペースト調整工程と、前記グラフェン導電性ペーストを基材に接合する接合工程」を含むグラフェン発熱シートの製造方法によって得られるものであって、本件明細書にも、従来のグラフェン発熱シートは通電した際の発熱性能が安定しない旨記載され、当該グラフェン発熱シートの例として、上記製造方法以外で製造されたグラフェン電熱シートが記載されているし(段落0006ないし0010)、上記効果を奏する(安定的かつ良好な発熱特性を示す)グラフェン発熱シートは、上記製造方法によるものである旨記載されている(段落0066)。
ここで、本件登録実用新案1の考案特定事項Cは、「前記グラフェン発熱シートは、グラフェンと二酸化チタンの複合材料を含む」と規定するだけであるから、本件登録実用新案1は、上記製造方法以外で製造された、グランフェン(当審注:「グラフェン」の誤記と認める)と二酸化チタンの複合材料を含むグラフェン発熱シート(例えば、通電した際の発熱特性が安定しない従来のグラフェン発熱シート)を備えるグラフェンヒーターを包含しており、当業者が課題を解決すると認識できない態様の考案を包含している。
そうすると、本件登録実用新案1は、考案の詳細な説明に記載したものではなく、本件登録実用新案1を引用している本件登録実用新案2ないし4もまた、考案の詳細な説明に記載したものではない。」(第11頁第14行-第12頁第28行)

(2)当審の検討
上記主張について検討する。
本件明細書の段落【0010】には、「従来のグラフェン発熱シートは、通電した際の発熱性能が安定せず、その発熱特性の改良が望まれていた。」とある。請求人は、ここでいう「従来のグラフェン発熱シート」は、段落【0006】ないし【0008】に記載されている特許文献1ないし3に記載された二酸化チタン/グラフェン複合材料を用いたグラフェン発熱シートを指すと解釈している、と認められる。
段落【0006】ないし【0008】で開示されている背景技術を検討すると、段落【0006】に記載されている特許文献1は、グラフェン発熱シートに関するものであると認められる。しかし、段落【0007】及び【0008】で開示されている特許文献2及び3は、二酸化チタン/グラフェン複合材料に関するものではあるが、シート材についての言及は無く、また発熱体として用いる点も開示されていない。また、段落【0005】には、「グラフェンと他の物質を組み合わせた複合材料の研究も盛んに行われており、グラフェンと二酸化チタンの複合材料を電熱シート、光触媒、高誘電率材料などに用いることが知られている(特許文献1乃至3)。」と記載されていることから、特許文献1ないし3は、「グラフェンと他の物質を組み合わせた複合材料の研究」の例を開示しているものと認められる。このことからみて、段落【0006】ないし【0008】は、全体として「従来のグラフェン発熱シート」に関する技術開示であるとまではいえない。
また、「従来のグラフェン発熱シート」なる文言が、特許文献1で示される二酸化チタン/グラフェン複合材料を用いたグラフェン発熱シートのみを意図しているともいえない。本件明細書において、特許文献1で示されるグラフェン発熱シートとの性能比較をしていないことからも、そのように解釈できる。
そして、本件明細書の「【0012】前記課題は、本考案のグラフェンヒーターによれば、グラフェンシート部を有するグラフェンヒーターであって、前記グラフェンシート部は、裏地と、該裏地の上に積層されたグラフェン発熱シートと、該グラフェン発熱シートの上に積層された接着芯と、を備え、前記グラフェン発熱シートは、グラフェンと二酸化チタンの複合材料を含むことにより解決される。」の記載からみて、本件考案は、グラフェンヒータをグラフェンと二酸化チタンの複合材料とすることにより課題を解決するものであるから、本件考案が本件明細書に記載された製造方法を特定していない、というのみで、考案の詳細な説明に記載したものではないとまではいえず、本件実用新案登録は実用新案法第5条第6項第1号に規定する要件を満たしていない実用新案登録出願に対してされたものではない。

2 無効理由2(実用新案法第3条第2項)について
2-1 甲1の記載等
(1)甲1の記載事項
1a)「【0011】
以下、本考案に係る発熱ライナーの一実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1及び図2に示すように、本考案に係る発熱ライナー1は、身体に装着する装着具の裏地に用いられたり装着具の下に着用されたりすることで身体を温める機能を発揮するものである。装着具としては、身体に装着するものであれば特に限定されず、例えば、衣服、コルセット、装身具、保護具等が挙げられる。本実施形態では、発熱ライナー1として、衣服の下に着用するビブス型のものについて説明するが、これに限定されるものではない。すなわち、ビブス型の発熱ライナー1は、衣服とは異なり単体では身体を温める機能を発揮し難く、衣服の裏地に使用されたり衣服の下に着用されたりすることで身体を温める機能を発揮するものである。
【0012】
発熱ライナー1は、薄手の基材2に、面状の発熱体3をラミネートしたものである。基材2は、身体に装着する衣服等に用いられるもので、例えば、織布、不織布、編物、合成樹脂フィルム等が用いられる。基材2は、1つの基材2からなるものでも2つ以上の基材2からなるものでもよく、また、発熱体3をラミネートする面が平滑性に優れたものであることが好ましい。基材2としては、例えば、合羽等の素材に用いられる3層構造や2層構造のの透湿防水性素材等が用いられる。透湿防水性素材としては、特に限定されず、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の透湿防水性の熱接着性フィルムの表裏に、織布、不織布、編物の繊維基材をそれぞれラミネートしたもの等が用いられる。」

1b)「【0014】
発熱体3は、電力の供給を受けて発熱する面状(フィルム状)の発熱部材であり、例えば、ゲルマニウム等を樹脂に混練したものをフィルム状に形成し、シリコン樹脂で被服したものが用いられる。この発熱体3は、例えば、幅略 mm、高さ略 mmの細長矩形のフィルム状に形成した電圧がDC5V、最大消費電流が150mA以下の発熱コア31を3つを30mm間隔で配置し、これら発熱コア31を、略中央部で第1電極線32で連結し、3つの発熱コア31の一方の端部を連結してから他方の端部を第2電極線33で連結した発熱ユニット30等で構成される。発熱ユニット30の構成は、発熱コア31の種類、形状、数、配置等は、特に限定されない。発熱ユニット30は、基材2の裏側(裏地側)の所望の箇所に1つ又は2つ以上配置されている。例えば、発熱ユニット30は、基材2の前身頃2aの裏側の中央部であって下方よりと後身頃2bの裏側の中央部であって下方よりの2箇所に発熱コア31が上下方向に沿った状態で配置されてラミネートされている。
【0015】
発熱体3のラミネートは、発熱体3をラミネートし得るのであればその方法は特に限定されず、例えば、接着芯等を用いてもよいが、熱接着性フィルム4を用いることが好ましい。熱接着性フィルム4としては、例えば、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PA(ポリアミド)、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート、アルミ箔、セロファン、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等が用いられる。熱接着性フィルム4は、ラミネートする面(ラミネート面)と反対側の面には、織布、不織布、編物の繊維基材がラミネートされていてもよいしされていない単独のものでもよい。」

1c)「【0018】
発熱ユニット30を熱接着性フィルム4でラミネートする際には、発熱コア31を連結した第1電極線32と第2電極線33に予め配線5を接続し、この配線5を接続した状態でラミネートを行うようにすることが好ましい。配線5は、例えば、一端がそれぞれ発熱ユニット30に接続される2本の配線本体51a、51bと、2本の配線本体51a、51bの他端が接続されている電源ジャック52とからなる。一方の配線本体51aは、前身頃2aの発熱ユニット30に接続されている。他方の配線本体51bは、電源ジャック52から前身頃2aの上方に延びてから後身頃2bの上方から下方へ延びて後身頃2bの発熱ユニット30に接続されている。配線本体51a、51b、特に他方の配線本体51bは、基材2に配置(配線)された後にシーリングテープ15や接着芯等でシーリング処理されていることが好ましい。
【0019】
電源ジャック52は、基材2の前身頃2aの裏側の発熱ユニット30の左側に電源ジャック52に例えばUSBコード9等の電源コードが接続可能にシーリングテープや接着芯などで取り付けられている。電源ジャック52にUSBコード9を接続し、このUSBコード9をバッテリ8に接続することにより、バッテリ8から発熱ユニット30の各発熱コア31に電力が供給されて各発熱コア31が発熱されるようになっている。バッテリ8は、各発熱コア31をそれぞれ発熱させることができれば特に限定されないが、衣服の内側等のポケットに収納したり衣服に装着し得る携帯性に優れたもの、例えば、スマートフォンやタブレット端末用の予備電源として用いられる一般的な携帯端末用バッテリ(モバイル用充電電池(リチウム電池、6000m A 定格出力DC5V/1.0A)等)が好ましい。
【0020】
次に、上記のように構成した発熱ライナー1は、薄手の基材2に、面状の発熱体3をラミネートしたものであり、身体に装着する装着具の裏地に用いられたり装着具の下に着用されたりすることができる。例えば、発熱ライナー1をジャケットの下に着用することで、身体を温めることができる。すなわち、発熱ライナー1を身体に装着し、この発熱ライナー1の上にジャケットを着て、ジャケット等に入れたバッテリ8にUSBコード9を介して電源ジャック52を接続する。これにより、バッテリ8から発熱ユニット30の各発熱コア31に電力が供給されて各発熱コア31が発熱され、身体を温めることができる。したがって、発熱ライナー1は、既存の衣服を着用しても身体を温めることができる。」

1d)「【図1】



(2)甲1考案
上記(1)及び図1の図示内容を総合すると、甲1には次の考案(以下、「甲1考案」という。)が記載されている。

「発熱ライナー1であって、
前記発熱ライナー1は、
薄手の基材2と、
発熱コア31からなる発熱ユニット30等で構成され、前記基材2にラミネートされた面状の発熱体3と、
前記発熱体3をラミネートする接着芯と、
一端が前記発熱体3を構成する発熱ユニット30に接続される配線5と、
前記配線5の他端が接続され、かつバッテリ8と接続するUSBコード9と接続する電源ジャック52と、
を備え、
ジャケットの下に着用することで身体を温めることができる
発熱ライナー1。」

2-2 甲2の記載等
(1)甲2の記載事項
2a)「

(特許請求の範囲)」
(当審注:「括弧」内は、当審による翻訳である。以下同様である。
1.グラフェン電熱布の製造方法であって、下記ステップを含む:
1)グラフェンをナノ高分子材料、遠赤外無機ナノ粉末と混合し、グラフェン複合体を得る;
2)グラフェン複合体を樹脂溶液に分散させ、グラフェン変性遠赤外導電ペーストを得る;
3)導電ペーストを絞り染め、スクリーン印刷、塗布の方式で、グラフェン変性遠赤外導電ペーストを基材と一体化させてグラフェン電熱布を得る。
2.請求項1に記載のグラフェン電熱布の製造方法であって、以下を特徴とする:前記グラフェンが単層または多層のグラフェンであること。
3.請求項1または2に記載のグラフェン電熱布の製造方法であって、以下を特徴とする:前記ナノ高分子材料が、ナノ炭素繊維、ナノポリエチレン、ナノポリ塩化ビニルのうち一つまたは複数であること。
4.請求項3に記載のグラフェン電熱布の製造方法であって、以下を特徴とする:前記無機ナノ粉末が、ナノ酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、二酸化チタンのうち一つまたは複数であること。
5.請求項1に記載のグラフェン電熱布の製造方法であって、以下を特徴とする:前記樹脂がポリエステル樹脂またはPU樹脂のうちの一つまたは複数であること。
6.請求項1に記載のグラフェン電熱布の製造方法であって、以下を特徴とする:前記樹脂溶液が樹脂水溶液または樹脂有機溶媒溶液であること。
7.請求項1に記載のグラフェン電熱布の製造方法であって、以下を特徴とする:前記グラフェンとナノ高分子材料、遠赤外ナノ粉末の重量比が(2-7):(10-20):(20:30)であること。
8.請求項1に記載のグラフェン電熱布の製造方法であって、以下を特徴とする:前記基体が純綿布、繊維布または複合布であること。
9.請求項1-8に記載の製造方法が製造するグラフェン電熱布のアプリケーション。
10.請求項9に記載のグラフェン電熱布のアプリケーションであって、以下を特徴とする:前記アプリケーションが電気加熱生活用品、電気加熱暖房装置、放射遠赤外理学療法器と電熱育苗器とするアプリケーションであること。)

2b)「


(【0065】実施例5:
【0066】グラフェン電熱布の製造方法は、以下のステップを含む:
【0067】1)グラフェンとナノ高分子材料、遠赤外無機ナノ粉末とを混合し、グラフェン複合体を得る;
【0068】2)グラフェン複合体を樹脂溶液に分散させ、グラフェン変性遠赤外導電ペーストを得る;
【0069】3)導電ペーストを絞り染め、スクリーン印刷、塗布の方式で、グラフェン変性遠赤外導電ペーストを基体と一体化させてグラフェン電熱布を得る;
【0070】前記グラフェンは単層グラフェンとする;
【0071】前記ナノ高分子材料はナノポリエチレンとする;
【0072】前記無機ナノ粉体はナノ二酸化チタンとする;
【0073】前記樹脂はポリエステル樹脂とする;
【0074】前記樹脂溶液は樹脂水溶液とする;
【0075】前記グラフェンとナノ高分子材料、遠赤外無機ナノ粉末の重量比が5:15:26である;前記基体は純綿布である;製造したグラフェン電熱布の総垂直放射率は95%とする。)

(2)甲2考案
上記(1)の内容を総合すると、甲2には次の考案(以下、「甲2考案」という。)が記載されている。
「純綿布からなる基体に、ナノ二酸化チタンを含むグラフェン変性遠赤外導電ペーストをスクリーン印刷または塗布して得られるグラフェン電熱布。」

2-3 甲3の記載等
(1)甲3の記載事項
3a)「【0009】
【実施例】
以下、本考案の実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本考案による電気肩掛けの実施例を示す平面図である。図において、発熱パッド1は使用者の肩部に掛けてその肩を温める本体となるもので、平面形状が例えば長方形とされ、柔軟性を有し防水且つ耐熱性の材料(例えば防水加工されたビニール)で薄い平板状袋体に形成されると共に、その中央部には人の首が入る程度の直径とされた略円形の首孔部2が形成され、且つこの首孔部2に対して一方の短辺から所定幅の切割り3が入れられている。この切割り3は、上記首孔部2に使用者の首を通して発熱パッド1を肩に掛ける際に、その装着を容易とするためのものである。従って、上記発熱パッド1は、あたかもライフジャケットのような形とされている。なお、上記発熱パッド1の各寸法は、例えば縦aが約56cm,横bが約38cm,首孔部2の直径cが約20cm,切割り3の幅dが約3cmとされている。
【0010】
上記発熱パッド1の内部には、図2に示すように、切除された首孔部2及び切割り3の部分を除いて、平板状袋体の全面にわたって電熱用のヒーター線4が設置されている。このヒーター線4は、肩を温めるための発熱体となるもので、例えば細いニクロム線から成り、発熱面積を大きくするために蛇行状に張られている。なお、上記平板状袋体の内部には、保温かつ絶縁性の材料、例えば石綿5が全体的につめこまれており、上記ヒーター線4が互いに接触しないようにされている。
【0011】
そして、上記ヒーター線4の端部には、図1及び図2に示すように、電源コード6が接続されている。この電源コード6は、屋内配線の電源コンセントから上記ヒーター線4に電流を供給するためのもので、その先端部には上記電源コンセントに差し込むプラグ7が接続されている。
【0012】
さらに、上記電源コード6の途中には、温度制御部8が設けられている。この温度制御部8は、上記ヒーター線4に供給する電流を調節して発熱温度を複数段に切り換えるもので、図4に示すように、例えば直方体状のスイッチボックスに形成され、電源投入及び温度切換の押しボタンスイッチ9a,9b,9cと、電源OFFの押しボタンスイッチ9dが設けられている。ここでは、第一の押しボタンスイッチ9aは、一番低い温度に設定する「弱」ボタンであり、例えば青色に着色されている。次に、第二の押しボタンスイッチ9bは、中ぐらいの温度に設定する「中」ボタンであり、例えば黄色に着色されている。次に、第三の押しボタンスイッチ9cは、一番高い温度に設定する「強」ボタンであり、例えば赤色に着色されている。さらに、第四の押しボタンスイッチ9dは、電源を遮断する「OFF」ボタンであり、例えば黒色に着色されている。なお、図4において、符号10は上記第一?第三の押しボタンスイッチ9a?9cのいずれかを押して電源を投入した際に点灯するパイロットランプを示しており、例えば発光ダイオード(LED)から成る。」

3b)「【図1】



3c)「【図2】



3d)「【図4】



(2)甲3考案
上記(1)及び図1、2および4の図示内容を総合すると、甲3には次の考案(以下、「甲3考案」という。)が記載されている。
「電気肩掛けであって、
電源コンセントに差し込むプラグ7と、
ヒーター線4の端部と前記プラグ7とに接続された電源コード6と、
電源投入及び温度切換押しボタンスイッチ9a、9b、9cと、電源OFFの押しボタンスイッチ9dが設けられた温度制御部8とを有し、
前記温度制御部8は、前記電源コード6の途中に設けられている
電気肩掛け」

2-4 甲4の記載等
(1)甲4の記載事項
4a)「【0024】本発明の面状発熱体の用途は、特に限定されるものではなく、平面状あるいは曲面状の加熱部分を備えた加熱装置、例えば保温プレート、ヒータ、道路,屋根等の凍結防止或いは融雪装置、床,壁,カーペット,毛布等の加熱装置、防寒衣、運動衣服、作業着、靴の中敷、保温腰巻、保温ポシェット等の保温装置など広く利用することができる。また、上述したように、低電圧の電池でも発熱可能にできるため、後述する実施形態に示したような携帯可能な殺虫器や発香器などにも利用することができる。」

4b)「【0045】図12(A)(B)は本発明の面状発熱体を保温腰巻として利用した場合を示す。
【0046】図12(A)に示す保温腰巻18は袋状の本体22の上縁に開閉口23を有し、その開閉口23からは発熱部19を出し入れ自在に挿入するようになっている。この腰巻本体22の両端にベルト24が取り付けられ、体に装着できるようになっている。
【0047】図12(B)は腰巻本体22に挿入される発熱部19を示す。発熱部19は、面状発熱体10を布製の台20に3列平行に並べて貼り付け、面状発熱体10の各電極2に電池12をリード線3を介して接続し、その回路をスイッチ13で開閉するように構成されている。
【0048】発熱部19は、面状発熱体を貼り付けた布製の台20をシリコーン製のラミネート材21でラミネートされている。
【0049】上記構成からなる保温腰巻は電池による低電圧の印加で十分な保温性を発揮し、冬季の外出時に防寒用として使用でき、室内で使用すれば暖房の補助となる。また、体質や健康上の理由で腰部の保温が必要な場合にも使用できる。」

4c)「【図12】



2-5 甲5の記載等
(1)甲5の記載事項
5a)「【0069】
また、本発明は、前述した発熱フィルム;及び前記発熱フィルムに電圧を印加することができる電圧印加装置を含む発熱製品に関する。
【0070】
このような本発明の発熱製品は、例えば車両発熱シート、乳母車用発熱シート、携帯用座布団、携帯用マット、衣類(例えば、ジャンパー、コート、パーカなど)、携帯用椅子または携帯用ベッドなどであることができる。」

2-6 甲6の記載等
(1)甲6の記載事項
6a)「【0014】
図1は本発明による発熱パッドの全図である。
【0015】
図示のように、本発明の発熱パッド40は、コントローラー20が連結された発熱体10の外部に表皮材30が形成されてなるもので、前記発熱体10は表皮材30によって隠蔽されているので、実際に外観から見られるものは表皮材30とコントローラー20である。
【0016】
このような発熱パッド40は前記表皮材30によって内部の発熱体10が保護されるので、表皮材30の種類によって防水性、耐久性、絶縁性及び耐火学性が向上するものであり、前記コントローラー20から発熱体10に電源が印加されれば発熱体10が発熱するもので、前記表皮材30を介して熱伝導がなされて発熱パッド40の全体に対して温熱作用が起こるものである。
【0017】
このような本発明の発熱パッド40は多様なサイズへの製作が可能であって用途の制限を受けなく、前記表皮材30によって内部の発熱体10が保護された状態であるので、前記のような発熱パッド40を普段の製品のように単独でも使うことができるものである。
【0018】
これにより、前記発熱パッド40を用途に合うように適当なサイズに製作し、これをベビーカーのシート部、あるいは自動車、線舶、汽車または航空機などの座席に載せて使うこともできるはずであり、車椅子、カーシートまたは乳児用キャリアに載せて使うこともできる。
【0019】
また、前記発熱パッド40をもっと大きく製作し、これをベッドカバー、ソファーカバー、カーペット、あるいは多様なマット、毛布、床シート、布団、寝袋、テントなどの底面に載せて使うとか底面に敷いて使うこともできるので、温熱作用が必要なほとんどの製品に適用することができるものである。
【0020】
特に、前記のように発熱パッド40を別の製品の上下側に載せるとか敷いて使うものではなく、前記製品の内側に直接挿入して固定状態での使用も可能なものであり、ベストなどの衣服の場合には、別のポケットを形成しこれに挿入して使うとか衣服の内外側に縫着または別の固定手段で固定して使うこともできる。」

6b)「【図1】




2-7 本件考案1について
(1)対比
本件考案1と甲1考案とを対比する。
甲1考案の「発熱ライナー1」は発熱体として機能するものであるから、本件考案1の「グラフェンシート部を有するグラフェンヒーター」とは、いずれも「ヒーター」である限りで一致している。
甲1考案の「基材2」は、本件考案1の「裏地」に相当する。
甲1考案の「発熱コア31からなる発熱ユニット30等で構成され、前記基材2にラミネートされた面状の発熱体3」は、基材2にラミネート(積層)されていることから、本件考案1の「該裏地の上に積層されたグラフェン発熱シート」と、「該裏地の上に積層された」「発熱シート」である限りで一致している。
甲1考案の「発熱体3をラミネートする接着芯」は、発熱体3にラミネート(積層)するものであるから、本件考案1の「グラフェン発熱シートの上に積層された接着芯」と、「発熱シートの上に積層された接着芯」である限りで一致している。
甲1考案の「発熱ライナー1」は、基材2と発熱体3と接着芯との3層の積層体であるから、本件考案1の、「裏地」と「グラフェン発熱シート」と「接着芯」の3層の積層体である「グラフェンシート部」とは、「裏地」と「発熱シート」と「接着芯」からなる「シート部」である限りで一致している。

そうすると、本件考案1と甲1考案との一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「シート部を有するヒーターであって、
シート部は、
裏地と、
裏地の上に積層された発熱シートと、
該発熱シートの上に積層された接着芯と、
を備えるヒーター」

[相違点1]
本件考案1の発熱シートは、グラフェンと二酸化チタンの複合材料を含む「グラフェン発熱シート」であるのに対し、甲1考案は、発熱シートにグラフェン及び二酸化チタンを含むか不明な点。

(2)相違点1についての判断
上記相違点1について検討する。
甲2考案は、「純綿布からなる基体に、ナノ二酸化チタンを含むグラフェン変性遠赤外導電ペーストをスクリーン印刷または塗布して得られるグラフェン電熱布」であって、グラフェンと二酸化チタンとを含む導電ペーストを基体に塗布して得られるグラフェン電熱布を開示しており、甲1考案とは面状発熱体である点で共通している。
そして、甲1考案においても、発熱シートとして、甲2考案のグラフェンと二酸化チタンとを含む導電ペーストを利用することは当業者がきわめて容易になし得たことである。
したがって、本件考案1は、甲1考案と甲2考案とに基いて、本件実用新案登録出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、同法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

2-8 本件考案2について
(1)対比
本件考案2と甲1考案とを対比する。
甲1発明の「発熱ライナー1」はジャケットの下に着用するものであり、「発熱ライナー1」が「発熱製品」であると認められる。
したがって、本件考案2は、本件考案1についての検討を踏まえると、甲1考案と甲2考案とに基いて、本件実用新案登録出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、同法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

2-9 本件考案3について
(1)対比
本件考案3と甲1考案とを対比する。
甲1考案の「バッテリ8と接続するUSBコード9と接続する電源ジャック52」は、バッテリ8を電源とし、電源ジャック52が当該バッテリに(USBコード9を介して)接続するものであるから、本件考案3の「電源に接続可能な端子を備える電源プラグ」に相当する。
そうすると、本件考案3と甲1考案とは、上記相違点1に加えて、以下の相違点2を有する。
[相違点2]
本件考案3は、「入力コードを介してグラフェンヒーターと電気的に接続された電源スイッチを有し、前記電源スイッチは電源コードを介して接続プラグに連結されている」のに対し、甲1考案は電源スイッチを有しているか不明な点。

(2)相違点2についての判断
上記相違点2について検討する。
甲3考案は、「電気肩掛けであって、電源コンセントに差し込むプラグ7と、ヒーター線4の端部と前記プラグ7とに接続された電源コード6と、電源投入及び温度切換押しボタンスイッチ9a、9b、9cと、電源OFFの押しボタンスイッチ9dが設けられた温度制御部8とを有し、前記温度制御部8は、前記電源コード6の途中に設けられている電気肩掛け」であって、前記温度制御部8は、電源投入及び温度切換押しボタンスイッチ9a、9b、9cと、電源OFFの押しボタンスイッチ9dを備えていることから、本件考案3の「電源スイッチ」に相当する機能を備えるものである。
そして、甲1考案においても、電源ジャック52の抜き差しによらないヒーターのON/OFFを可能とするために、甲3考案に倣って、配線5の途中に温度制御部を設けることは当業者がきわめて容易になし得たことである。
したがって、本件考案3は、甲1考案ないし甲3考案に基いて、本件実用新案登録出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、同法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

2-10 本件考案4について
(1)対比
本件考案4と甲1考案とを対比する。
甲1考案の発熱ライナーは、ジャケットの下に着用するものであるから、本件考案4の「被服」に相当する。
なお、本件考案4の他の用途について、面状発熱体を各種用途に用いることは、例えば甲4の記載事項(2-4(1)4a)を参照:カーペット,毛布等の加熱装置、防寒衣、運動衣服、作業着、靴の中敷、保温腰巻が例示されている。)、甲5の記載事項(2-5(1)5a)を参照:車両発熱シート、乳母車用発熱シート、携帯用座布団、携帯用マット、衣類(例えば、ジャンパー、コート、パーカなど)、携帯用椅子が例示されている。)、甲6の記載事項(2-6(1)6a)を参照:ベビーカーのシート部、あるいは自動車、線舶、汽車または航空機などの座席に載せての使用、車椅子、カーシートまたは乳児用キャリア、ベッドカバー、ソファーカバー、カーペット、あるいは多様なマット、毛布、床シート、布団、寝袋、テントが例示されている、)からみて、本件実用新案登録出願前周知の技術的事項であったと認められる。
したがって、本件考案4は、甲1考案ないし甲3考案に基いて、また、必要に応じて周知の技術的事項も勘案して、本件実用新案登録出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、同法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

3 小括
以上のとおり、本件考案1ないし4に係る実用新案登録は、甲1考案ないし甲3考案および周知の技術的事項に基いて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものである。

第6 まとめ
以上のとおりであるから、無効理由2により、本件考案1ないし4に係る実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号の規定に該当するので、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、実用新案法第41条において準用する特許法第169条第2項の規定で更に準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。

審理終結日 2020-09-24 
結審通知日 2020-09-29 
審決日 2020-10-15 
出願番号 実願2019-3364(U2019-3364) 
審決分類 U 1 114・ 121- Z (H05B)
U 1 114・ 537- Z (H05B)
最終処分 成立    
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 槙原 進
川上 佳
登録日 2019-10-23 
登録番号 実用新案登録第3223995号(U3223995) 
考案の名称 グラフェンヒーター及び発熱製品  
代理人 角渕 由英  
代理人 福士 智恵子  
代理人 秋山 敦  

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