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審決分類 審判    E04D
審判    E04D
管理番号 1379896
審判番号 無効2020-400004  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-08-19 
確定日 2021-10-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第3197644号実用新案「差し込み屋根材」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 手続について
1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が実用新案登録権者である実用新案登録第3197644号(以下「本件実用新案登録」という。平成27年3月10日出願、平成27年4月30日登録、請求項の数は4である。)の実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし4に係る実用新案登録を無効とすることを求める事案であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

令和 2年 8月19日:審判請求書提出
令和 2年10月12日:審判事件答弁書提出
令和 2年12月11日:審理事項通知(起案日)
令和 3年 1月14日:口頭審理陳述要領書提出(請求人)
令和 3年 1月14日:口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
令和 3年 2月 5日:口頭審理期日延期通知書(起案日)
令和 3年 5月11日:上申書提出(請求人)
令和 3年 5月11日:上申書提出(被請求人)
令和 3年 5月17日:口頭審理中止通知(起案日)
令和 3年 5月17日:書面審理通知(起案日)
令和 3年 7月12日:補正許否の決定(起案日)
なお、上記の両上申書は、本件審理について書面審理を希望するものである。

2 補正許否の決定
令和3年7月12日付け補正許否の決定は、以下のとおりである。

「上記実用新案登録無効審判事件について、審判請求人が令和3年1月14日付けで提出した口頭審理陳述要領書による請求の理由の補正については、実用新案法第38条の2第2項の規定に基づき、下記の通り決定します。


上記口頭審理陳述要領書において、新たに甲第7号証を追加すること、及び甲第7号証により立証しようとする事実に基づく請求の理由の補正(8頁15?24行、10頁18?末行、11頁1?9行)は、実用新案法第38条の2第1項に規定される要旨を変更する補正であって、かつ、実用新案法第14条の2第1項の訂正により請求の理由を補正する必要が生じたものではなく、当該補正に係る請求の理由を審判請求時の請求書に記載しなかつたことにつき合理的な理由があるとも認められないから、許可しない。」


第2 本件実用新案登録について
本件実用新案登録の請求項1ないし4に係る考案(以下、「本件考案1」等といい、全体を「本件考案」という。)は、平成31年4月1日提出の訂正書により訂正された実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
既設のスレート屋根の上下に重なる既設の屋根材の隙間に差し込まれて前記既設の屋根材をカバーする屋根材であって、
前記屋根材は、板状本体の平坦な棟側に配置される一端を差し込み部とし、前記差し込み部に対向する軒先側に配置される他端を屹立片と折り返し片を連接させて断面コ字状の取り付け部とし、
前記屋根材が前記既設の屋根材をカバーした場合、
前記差し込み部は、下側の前記既設の屋根材とその上側の前記既設の屋根材との隙間に差し込まれて前記下側の既設の屋根材の上面をカバーするとともに、前記取り付け部の前記折り返し片を前記下側の既設の屋根材とさらにその下側の前記既設の屋根材との隙間に差し込まれて固定され、
前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部の端部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の端部よりも棟側に位置することを特徴とする屋根材。
【請求項2】
前記板状本体は金属板からなることを特徴とする請求項1記載の屋根材。
【請求項3】
前記折り返し片は、平坦であり、前記板状本体から離れる方向に開拡し、
前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の弾発力により、前記下側の既設の屋根材側に押される、ことを特徴とする請求項1または2に記載の屋根材。
【請求項4】
前記取り付け部の屹立片に水抜け孔を形成したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の屋根材。」


第3 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、登録第3197644号実用新案の実用新案登録請求の範囲の請求項1乃至4に係る考案についての実用新案登録を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、口頭審理陳述要領書参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第7号証を提出している。
【無効理由1】本件実用新案登録の請求項1及び請求項2に係る考案は、本件実用新案登録の出願前に頒布された甲第1号証に記載された考案であるから、実用新案法第3条第1項第3号に該当し実用新案登録を受けることができないものであり、その実用新案登録は同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
【無効理由2】本件実用新案登録の請求項1ないし請求項3に係る考案は、本件実用新案登録の出願前に頒布された甲第1号証及び甲第2号証に記載された考案に基いて、同じく請求項4に係る考案は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された考案、及び甲第2号証ないし甲第6号証で知られる周知技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、その実用新案登録は同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証:特許第3763576号公報
甲第2号証:特開2001-73506号公報
甲第3号証:実願昭47-137991号(実開昭49-93628号)
のマイクロフィルム
甲第4号証:特開2012-102577号公報
甲第5号証:特開2008-57173号公報
甲第6号証:特開2000-257218号公報

なお、口頭審理陳述要領書に添付された甲第7号証(特開2014-37708号公報)の提出は、上記第1の2の補正許否の決定のとおり、許可しないこととなった。

3 請求人の具体的な主張(なお、下線は審判請求書の記載によるもの。)
(1)無効理由1
ア 本件考案1と証拠に記載された考案との対比
本件考案1と甲1考案とを対比する。なお、以下の【請求項1】の記載において下線部で示す本件実用新案登録の請求項1の記載によって特定された構成要件の直後の括弧内の符号付きの構成要件がこれに対応する甲1考案に記載された具体的な構成である。
【請求項1】
既設のスレート屋根(平板スレート瓦2でできた屋根材)の上下に重なる既設の屋根材(平板スレート瓦2)の隙間に差し込まれて前記既設の屋根材(平板スレート瓦2)をカバーする屋根材(金属屋根材11)であって、
前記屋根材(金属屋根材11)は、板状本体(平板部11a)の平坦な棟側に配置される一端を差し込み部(水上側端部(上端部)11b)とし、前記差し込み部(水上側端部(上端部)11b)に対向する軒先側に配置される他端(水下側端部11c)を屹立片(中央部11e)と折り返し片(下板部11f)を連接させて断面コ字状の取り付け部(略角形U字状に折曲された部分)とし、
前記屋根材(金属屋根材11)が前記既設の屋根材(平板スレート瓦2)をカバーした場合、
前記差し込み部(水上側端部(上端部)11b)は、下側の前記既設の屋根材(平板スレート瓦2)とその上側の前記既設の屋根材(平板スレート瓦2)との隙間に差し込まれて前記下側の既設の屋根材(平板スレート瓦2)の上面をカバーするとともに、前記取り付け部(略角形U字状に折曲された部分)の前記折り返し片(下板部11f)を前記下側の既設の屋根材(平板スレート瓦2)とさらにその下側の既設の屋根材(平板スレート瓦2)との隙間に差し込まれて固定され、
前記下側の既設の屋根材(平板スレート瓦2)の上面をカバーする前記屋根材(金属屋根材11)の前記差し込み部(水上側端部(上端部)11b)の端部は、前記上側の既設の屋根材(平板スレート瓦2)の上面をカバーする前記屋根材(金属屋根材11)の前記折り返し片(下板部11f)の端部よりも棟側に位置することを特徴とする屋根材(金属屋根材11)。
本件考案1と甲1考案とは、それぞれが有する各構成要件同士の関係は明らかに一致しており、実質的に同一である。
(審判請求書20頁下から3行?21頁25行、22頁2?9行)

イ 相違点
本件考案1と甲1考案との各構成要件は上記アのようにそれぞれ対応関係を有しているが、相違点を挙げるとすると以下の通りとなる。
〔相違点1〕
本件考案1は「前記屋根材は、板状本体の平坦な棟側に配置される一端を差し込み部」とする一方、甲1考案は、これに相当する部分の差し込み部が折り返されている構成となっている点。
〔相違点2〕
甲1考案が本件考案1における「断面コ字状の取り付け部」の代わりに「略角形U字状に折曲された部分」を有している点。
(審判請求書23頁1?7行、24頁17?19行)

相違点の判断
(ア)相違点1
a 甲1考案のこの折り返しは、平板スレート改修用屋根材を下側の平板スレートに取り付ける際に、この上側の平板スレート改修用屋根材に差し込むにあたって差し込みをし易くするためにわざわざ工夫して形成した折り返し部である。
それ故に、本件考案1の「平坦な棟側に配置される一端からなる差し込み部」の構成では差し込み作業の行い難いところを、甲1考案は工夫してこれを解決し、より施工効率を高めたものであるため、本件登録実用新案の構成は甲1考案の有する作用効果を完全に有していることは明らかである。
また、甲2考案においては、本件考案1の上記差し込み部に対して、本体31の水上側の端部である被挟持部33がこれに相当し、この構成は甲2考案から明らかなように当然に平坦に形成されており、この点で本件考案1と構成上同一となっている。そして、甲2考案もこの構成に基づく作用効果に関して、本件考案1の作用効果と同様の作用効果を有する。
従って、上記相違点1に関して、甲1考案の差し込み部と実質的に同一であるばかりでなく、仮にこの構成の代わりにその形状を変えて甲2考案の差し込み部の形状に転用することに格別の困難性はない。
(審判請求書23頁8?11行、20?33行)

b 甲1考案のように差し込み部の端部を、V字状をなす折曲部とすることでこの差し込み部の端部の剛性を高めた状態で水上側のスレート屋根材の下側面と水下側のスレート屋根材の間に差し込むことで、この差し込み作業を容易に行うことが実際上スレート屋根の改修の施工現場で従来から行われています。
また、V字状の折曲部とすることで、端部から上側面と下側面が幅方向全体に亘って一定の角度のテーパー状となることで、いわゆる楔効果により水上側のスレート屋根材の下側面と水下側のスレート屋根材の間にこれらのスレート屋根材の一部に極端な力をかけることなく差し込むことを可能としています。
本件考案1のように差し込み部が折り曲げられていないと、金属屋根材を保管したり運搬したり、スレート屋根材に取り付けたりする過程において外力が加わって簡単に変形して波打ってしまい、かえってスレート屋根材同士の重なり部分の隙間に差し込むのに手間取ったり、先端のエッジ部分がスレート屋根材を傷つけてしまい、スレート屋根材自体の破損の原因に至る恐れが充分考えられます。
甲1考案については、このような不具合をなくすために上述のような断面係数を大きくして強度を増大させ、金属屋根材の差し込み部分の変形を防止して屋根の改修に際してスレート屋根材自体が傷んだまま回収されてしまうのを防止しています。
(口頭審理陳述要領書3頁7?14行、4頁18?27行)

c 甲1考案の固定部材13とビス15を用いて金属屋根材11同士を結合して平板スレート瓦2(スレート屋根材)を改修する代わりに、甲2考案の段落(0035)において「また、前記実施形態では、リフォーム屋根材30は、釘35で固定されていたが、これに限らず、接着剤や差込みのみで固定されていてもよい。」と記載されたように2つの物体を固着して一体化する周知技術としての接着剤を用いて金属屋根材11を平板スレート瓦2に固着して一体化させることも当然に可能であります。
(口頭審理陳述要領書6頁18?25行)

(イ)相違点2
「断面コ字状」も「略角形U字状に折曲された部分」も互いに共通する構造上の特徴を単に異なる表現で特定したものに過ぎず、本件考案1の作用効果を共に奏するものであり、文言上異なるだけで実質的には同一である。
その上、甲2考案の段落【0015】、【0016】、【0021】及び図2乃至図5には本件考案1の断面コ字状の取り付け部に相当する挟持部32が開示されており、かつ本件考案1と同等の作用効果を奏するものであるので、本件考案1の断面コ字状の用語で特定される構成要件について特別な技術的意義を有していないことは明らかである。
(審判請求書24頁20?29行)


第4 被請求人の主張
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張する無効理由にはいずれも理由がない旨、主張している(審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書参照。)。

2 被請求人の具体的な主張
(1)無効理由1
甲1考案は、平板部11a、水上側端部11bおよび水下側端部11cにより主に構成されており、水上側端部11bは、いわゆる吊子である固定部材13と係り合うために、全幅に亘り上側に側面から見て略V字状に折り返されているのに対し、本件考案1は、平坦な棟側に配置される一端である差し込み部を有するものである。
(審判事件答弁書4頁17?22行)

(2)無効理由2
ア 甲1考案は、本件考案1などの課題である、既設の屋根材に釘を打ち付けることなく固定する、という点が一切考慮されておらず、また、甲1考案は、屋根の軒先側から棟側に向って葺くことが必須であって、本件考案1のように屋根の棟側から軒先側に向って屋根材を葺くことは、一切考慮されておらず、甲第1号証には屋根の棟側から軒先側に向って葺くことに適した屋根材については、一切開示されておらず、示唆もない。
(審判事件答弁書5頁9?11行、24?28行)

イ 甲2考案は、屋根の軒先側から棟側に向って葺くことが必須であって、本件考案1のように屋根の棟側から軒先側に向って屋根材を葺くことは、一切考慮されておらず、甲第2号証には屋根の棟側から軒先側に向って葺くことに適した屋根材については、一切開示されておらず、示唆もない。
(審判事件答弁書6頁4?8行)

ウ ビス15や固定部材13の使用を前提とした屋根の軒先側から棟側に向って葺くことが必須である、課題が大きく異なる甲1考案を出発点として本件考案1に容易に想到できるとは到底いえず、甲1考案は本件考案1の進歩性を否定するための主引例として不適格である。ましてや、本件考案1に想到するために、このような課題の大きく異なる甲1考案に、甲1考案同様、屋根の軒先側から棟側に向って葺くことが必須である甲2考案を組み合わせる動機付けがない。
(審判事件答弁書6頁13?20行)

エ 甲1考案においては、そもそも固定部材13との係り合いにより金属屋根材を固定する目的で設けられた略V字状の水上側端部11bを、甲2考案の被挟持部33に置換した場合、金属屋根材の固定構造が成立しないことになる。すなわち、甲1考案の水上側端部11bを甲2考案の被挟持部33に置換することには、阻害要因がある。
(審判事件答弁書6頁25?30行)


第5 証拠の記載
1 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載
甲第1号証には、以下の記載がある。(下線は審決で付した。以下同様。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の平板スレート瓦に被せて改修する平板スレート瓦改修用金属屋根材に関する。」

イ 「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記構造の屋根材は、既存の平板スレート瓦に働き幅を無視して一定幅の新規屋根材を順次被せる工法であるため、新設同様に葺くことが可能であるが、仕上がり面が高くなり、特に壁との取り合い部における躯体処理や、二階の窓の敷居と一階の屋根の壁の取り合い部との間隔が狭い場合等における躯体処理が難しく、防水性に問題が生ずるおそれがある。また、仕上がり面が高くなるために軒先から滴下する雨が既存の雨樋に入り難くなる。また、既存の平板スレート瓦の段差部とバックアップ材との間に隙間ができる等の問題もある。
【0006】
また、鋼板の大きさを平板スレート屋根材の正規の働き幅に合わせた一定の形状に形成し平板スレート瓦に被せるようにした屋根材もある。しかしながら、一般に既存の平板スレート瓦は、働き幅が一定に保たれていないことが多い。このため、働き幅が一定形状に形成された新規の屋根材を被せる場合施工性が悪く、防水性に問題が発生しやすくなる。また、各取り合い部での収まりが悪く、特に壁との取り合い部での漏水が多くなりやすく、この漏水事故を防止するために躯体を傷めて処理する工法が一般的であり、好ましいことではない。
【0007】
本発明の目的は、既存の平板スレート瓦を利用して改修用の金属屋根材を被せて固定することにより、防水性、固定強度、施工性及び経済性に優れた平板スレート瓦改修用金属屋根材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明に係わる平板スレート瓦改修用金属屋根材は、屋根の野地板上に階段状に重ねられた平板スレート瓦に被せて改修する平板スレート瓦改修用金属屋根材であって、平板をなし、水上側端部が上向きに略V字状に折曲されて被せるべき平板スレート瓦と該平板スレート瓦に重ねられた上側の平板スレート瓦との隙間から挿入され、その端末が前記上側の平板スレート瓦の裏面に弾性を有して当接可能に形成され、水下側端部が下向きに略角形U字状に折曲されて前記被せるべき平板スレート瓦の前端を覆い、その下板部が前記被せるべき平板スレート瓦と該平板スレート瓦が重ねられた下側の平板スレート瓦との隙間から挿入可能に形成されたことを特徴としている。」

ウ 「【発明の効果】
【0020】
本発明によると、既存の平板スレート瓦を利用して改修用金属屋根材を固定することで、既存の屋根の意匠を損なうことなく、しかも、極めて単純な構造で防水性、固定強度、施工性に優れた屋根材を葺成することができる。更に改修用金属屋根材の大幅なコストの低減を図ることが可能となると共に施工性に優れていることと相俟って改修工事費を安く抑えることが可能となり、経済性にも優れている。
【0021】
また、改修用金属屋根材の水上側端部及び水下側端部を既存の平板スレート瓦の段差部の隙間に収めることができ、各取り合い部特に、壁との取り合い部の構造が簡単となり、施工が極めて容易となると共に躯体を傷めることがない。更に、既存の平板スレート瓦の働き幅が多少変わっていても改修用金属屋根材の働き幅の調整が極めて簡単であり、作業性の向上が図られる。また、施工途中で雨が降ってきたような場合でも既存の平板スレート瓦と新規に被せた改修用金属屋根材との間に雨水が浸入することがなく、工事を中断することができる。」

エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係わる平板スレート瓦改修用金属屋根材について図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は、改修用金属屋根材(以下単に「金属屋根材」という)の平面図を示し、金属屋根材11は、平板状をなし、例えば、横の長さ(横幅)が既存の平板スレート瓦2の横幅の2倍(2枚分)よりも僅かに長く、縦の長さ(縦幅)が既存の平板スレート瓦2の働き幅2aよりも僅かに広い横方向に細長い長方形状とされている。
【0024】
図2及び図4に示すように金属屋根材11は、平板部11aの水上側端部(上端部)11bが全幅に亘り上側に側面から見て略V字状に折り返され、水下側端部(下端部)11cが全幅に亘り側面から見て略角形U字状に折曲され、更に平板部11aの左右両側部11dが下側かつ内方に向けて略U字状に折曲されてあざ折部とされている(以下「あざ折部11d」という)。
【0025】
図4に示すように略角形U字状をなす水下側端部11cの中央部(前板部)11eが平板スレート瓦2の板厚よりも僅かに高く形成され、下板部11fが全幅に亘り横方向に沿って波形をなして形成されており、その端末11gが内側に折り返されている。水下側端部11cは、端末11gが折り返されていることで、後述するように階層状に順次重ねられた平板スレート瓦の段差部の隙間に挿入しやすくなっている。
【0026】
尚、平板スレート瓦の軒先の施工には種々の方法があり、例えば、図5に示すように平板スレート瓦が2枚重ねられた構造の場合、当該軒先の平板スレート瓦に被せるべき金属屋根材11は、水下側端部11cの中央部11eがこれに応じて図4に示す場合に比べて2枚分の高に形成されている。
【0027】
かかる形状の金属屋根材11は、金属板例えば、薄板鋼板により形成されており、全面に防錆塗装が施され、かつ表面に所定のカラー塗装が施されている。尚、金属屋根材としては、鋼板に限るものではなく、銅板或いはアルミニウム板でもよい。
【0028】
・・・(中略)・・・
【0029】
図2に戻り固定部材13は、帯状の鋼板を側面から見て略角形U字状に折曲して形成されており、中央部13aが図6に示すように平板スレート瓦2の水下側端部に外装され、上板部13bが既存の平板スレート瓦2と共に野地板1に固定される。下板部13cは、中央部13aと僅かに鈍角をなして延出されており、既存の上下の平板スレート瓦の隙間に挿入されて下側の平板スレート瓦に被された金属屋根材11のV字状をなす水上側端部11bに挿入される。この固定部材13は、所謂吊子と称されており、既存の平板スレート瓦と改修用の金属屋根材11との間に介在されて当該金属屋根板11がずれ落ちることを防止するためのものである。
【0030】
・・・(中略)・・・
【0033】
以下に前記金属屋根材11により既存の平板スレート瓦の屋根を改修する方法について説明する。
【0034】
図6に示すように軒先の1段目の平板スレート瓦2-1に金属屋根材11を載置し、略V字状に折曲された水上側端部11bを2段目の平板スレート瓦2-2の水下側端部との段差部の僅かな隙間Sに押し込みながら下側に略角形U字状をなす水下側端部11cを1段目の平板スレート瓦2-1の水下側端部に被せる。
【0035】
・・・(中略)・・・
【0036】
次いで、1段目の平板スレート瓦2-1に被せた金属屋根材11と2段目の平板スレート瓦2-2との隙間から前記金属屋根材11の水上側端部11b内に固定部材13の下板部13cを挿入し、中央部13aを2段目の平板スレート瓦2-2の水下側端面に当接させ、上板部13bの上部を平板スレート瓦2-2、平板スレート瓦2-1と共にビス15により野地板1に固定する。
【0037】
・・・(中略)・・・
【0038】
1段目の平板スレート瓦2-1と2段目の平板スレート瓦2-2を固定部材13と共にビス15で野地板1に固定することにより、2段目の平板スレート瓦2-2により金属屋根材11のV字状をなす水上側端部11bが押圧され、その端末11g(当審注:「11g」は誤記と認める。)の角部(エッジ)11hが平板スレート瓦2-2の裏面に食い込んで係止される。これにより、1段目の平板スレート瓦2-1に被せられた金属屋根材11がずれ落ちることを防止される。
【0039】
また、何らかの原因で金属屋根材11に下向きに大きな力が作用して当該金属屋根材11がずれた場合には水上側端部11bの折曲部が固定部材13の下板部13cの端面に当接して係止され当該位置に保持される。これより、平板スレート瓦2-1に被された金属屋根材11がずれ落ちることが防止される。また、固定部材13を横長の金属屋根材11の横方向に間隔を存して複数箇所例えば、左右両側近傍の2箇所に設けることで、金属屋根材11がずれ落ちることをより有効に防止することが可能となる。
【0040】
次いで、2段目の平板スレート瓦2-2に金属屋根材11を被せ、水下側端部11cの波形をなす下板部11fを1段目の平板スレート瓦2-1に被せた金属屋根材11と2段目の平板スレート瓦2-2との間の隙間Sに押し込みながら、水上側端部11bを3段目の平板スレート瓦2-3との間の隙間Sに押し込む。
【0041】
水下側端部11cの波形をなす下板部11f及び端末11gは、1段目の平板スレート瓦2-1に被せた金属屋根材11と固定部材13の下板部13cとに弾性状態で当接することで液密性が保持され、隙間Sへの雨水の浸入が防止される。更にV字状をなす水上側端部11bが平板スレート瓦2-3の裏面に弾性状態で当接し、その端末11g(当審注:「11g」は誤記と認める。)の角部(エッジ)11hが平板スレート瓦2-3の裏面に食い込むことで隙間Sに雨水が浸入した場合でも水上側端部11bにより阻止(水返し)されて当該水上側端部11bの上方への浸入が防止される。これにより、既存の平板スレート瓦2と野地板1との間に雨水が浸入することが完全に防止される。」

オ 図2、図4?図6は以下のとおり。
【図2】


【図4】


【図5】


【図6】


(2)甲第1号証に記載の考案
上記(1)からみて、甲第1号証には次の考案(以下「甲1考案」という。)が記載されているものと認める。
「屋根の野地板上に階段状に重ねられた平板スレート瓦に被せて改修する平板スレート瓦改修用金属屋根材(金属屋根材11)であって、
金属屋根材11は、平板部11aの水上側端部(上端部)11bが全幅に亘り上側に側面から見て略V字状に折り返され、水下側端部(下端部)11cが全幅に亘り側面から見て略角形U字状に折曲され、
略角形U字状をなす水下側端部11cの中央部(前板部)11eが平板スレート瓦2の板厚よりも僅かに高く形成され、下板部11fが全幅に亘り横方向に沿って波形をなして形成されており、その端末11gが内側に折り返されており、
固定部材13は、帯状の鋼板を側面から見て略角形U字状に折曲して形成されており、中央部13aが平板スレート瓦2の水下側端部に外装され、上板部13bが既存の平板スレート瓦2と共に野地板1に固定され、下板部13cは、既存の上下の平板スレート瓦の隙間に挿入されて下側の平板スレート瓦に被された金属屋根材11のV字状をなす水上側端部11bに挿入されるものであって、
前記金属屋根材11により既存の平板スレート瓦の屋根を改修する際には、
1段目の平板スレート瓦2-1に金属屋根材11を載置し、略V字状に折曲された水上側端部11bを2段目の平板スレート瓦2-2の水下側端部との段差部の僅かな隙間Sに押し込み、
次いで、1段目の平板スレート瓦2-1に被せた金属屋根材11と2段目の平板スレート瓦2-2との隙間から前記金属屋根材11の水上側端部11b内に固定部材13の下板部13cを挿入し、中央部13aを2段目の平板スレート瓦2-2の水下側端面に当接させ、上板部13bの上部を平板スレート瓦2-2、平板スレート瓦2-1と共にビス15により野地板1に固定することにより、2段目の平板スレート瓦2-2により金属屋根材11のV字状をなす水上側端部11bが押圧され、その端末の角部(エッジ)11hが平板スレート瓦2-2の裏面に食い込んで係止され、これにより、1段目の平板スレート瓦2-1に被せられた金属屋根材11がずれ落ちることを防止され、
次いで、2段目の平板スレート瓦2-2に金属屋根材11を被せ、水下側端部11cの波形をなす下板部11fを1段目の平板スレート瓦2-1に被せた金属屋根材11と2段目の平板スレート瓦2-2との間の隙間Sに押し込み、
水下側端部11cの波形をなす下板部11f及び端末11gは、1段目の平板スレート瓦2-1に被せた金属屋根材11と固定部材13の下板部13cとに弾性状態で当接することで液密性が保持され、隙間Sへの雨水の浸入が防止され、更にV字状をなす水上側端部11bが平板スレート瓦2-3の裏面に弾性状態で当接し、その端末の角部(エッジ)11hが平板スレート瓦2-3の裏面に食い込むことで隙間Sに雨水が浸入した場合でも水上側端部11bにより阻止(水返し)されて当該水上側端部11bの上方への浸入が防止されることにより、既存の平板スレート瓦2と野地板1との間に雨水が浸入することが完全に防止される、
平板スレート瓦改修用金属屋根材。」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証の記載
甲第2号証には、以下の記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、屋根の勾配方向に沿って連設され、かつ、勾配方向下側に配置された屋根材の上端部の上に、勾配方向上側に配置された屋根材の下端部が順次重ねられて設置される複数の屋根材の表面に設けられる改装用屋根材およびその取付構造に関するものである。」

イ 「【0012】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)図1には、本発明の第1実施形態における寄棟屋根1が示されている。この寄棟屋根1は、桁側Kに沿った2つの傾斜面11および妻側Tに沿った2つの傾斜面12を備えている。そして、傾斜面11の境界は棟13とされ、傾斜面11と傾斜面12との境界は、下棟14とされている。これらの傾斜面11、12では、下地材(図示省略)の上に重ねられた屋根材としてのスレート屋根材20(図2参照)と、これらのスレート屋根材20を被覆する改装用屋根材30(以下、リフォーム屋根材30と呼ぶ。)とを含んで構成されている。
【0013】傾斜面11、12は、図4に示すように、桁方向もしくは妻方向に傾斜して配置された野地板41と、この野地板41上に敷設された防水シート42と、この防水シート42上に配置された既設のスレート屋根材20と、これらスレート屋根材20を覆うリフォーム屋根材30とを含んで構成されている。
【0014】スレート屋根材20は、図2に示すように、無機質繊維が用いられ、傾斜面11、12上では、一文字葺きで葺かれている。すなわち、スレート屋根材20は、傾斜面11、12の勾配方向Bと直交する水平方向Hには揃って並べられ、勾配方向Bには互い違いに重なるように配置されている。そして、下側に配置されたスレート屋根材20の上端の上に、上側に配置されたスレート屋根材20の下端が重なった状態で、スレート屋根材20が傾斜面11、12上に順次配置されている。
【0015】リフォーム屋根材30は、金属製の屋根材であり、各スレート屋根材20を覆いながら、勾配方向Bに直交する方向Hに、端縁同士が突き合わされて配置されている。そして、リフォーム屋根材30は、図3?5に示すように、スレート屋根材20の表面を覆う本体31と、スレート屋根材20の下端を表裏から挟む挟持部32と、重ね合わされたスレート屋根材20の上端および下端間に挟まれる被挟持部33とを含んで構成されている。
【0016】本体31、挟持部32および被挟持部33は、1枚の金属製板材を折り曲げて形成されたものである。従って、挟持部32は、スレート屋根材20の厚さ分を確保して、本体31の勾配方向Bの下端部分を折り返して形成される折返し片32Aを含んで構成されている。また、この折返し片32Aには、この折返し片32Aの一部を内部に切り起こした四角板状の当接片32Bが形成され、この当接片32Bは、挟持部32内にスレート屋根材20の下部が挟持される際に、スレート屋根材20の下端面が当接するようになっている。
【0017】さらに、当接片32Bが切り起こされるのに伴って、折返し片32Aには、四角状の開口(孔)32Cが形成され、この開口32Cは、挟持部32に流入した雨水の水抜孔とされている。なお、折返し片32Aの端縁角部は、それぞれ斜めに切り欠かれている。また、本体31の被挟持部33近傍には、釘35(図2参照)を挿通する釘穴32Dが3カ所設けられている。さらに、被挟持部33の端縁角部は、それぞれ斜めに切り欠かれている。
【0018】・・・(中略)・・・
【0019】このような、リフォーム屋根材30は、図4に示すように、スレート屋根材20の下側から、このスレート屋根材20を嵌め込むようにして、スレート屋根材20に取り付けられている。すなわち、まず、スレート屋根材20の下部を挟持部32に収納するとともに、このスレート屋根材20の上端と、このスレート屋根材20の上側に配置されるスレート屋根材20の下端との間に被挟持部33を差し込んだ後、釘35を釘穴32D(図3参照)を通して、スレート屋根材20や野地板41に打ち込んで、リフォーム屋根材30をスレート屋根材20に固定する。そして、このような作業を、勾配方向Bの下端側のスレート屋根材20から、傾斜面11、12の上側に向かって順次行っていく。さらに、下棟14にも改装用の棟包50を、既存の棟包44を覆うように取り付けるとともに、図示しない棟13にも必要に応じて改装用の棟包を被覆して、寄棟屋根1の改装作業を終了する。なお、図5に示すように、被挟持部33から露出する釘35の頭部は、上部に設けられるリフォーム屋根材30の挟持部32によって覆われてしまうので、外側からは視認されないようになっている。
【0020】このような本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
(1)リフォーム屋根材30は、スレート屋根材20を覆う本体31と、スレート屋根材20の下部を挟持する挟持部32と、上下のスレート屋根材20間に挟まれる被挟持部33とを含んで構成されている。このため、挟持部32をスレート屋根材20の下部に嵌め込みながら、被挟持部33を上下のスレート屋根材20間に挟み込むことで、スレート屋根材20にリフォーム屋根材30を容易に取り付けることができる。従って、リフォーム屋根材30を、隣接して配置された他のリフォーム屋根材30に係合させる必要がなく、従来の改装用屋根材に比べて、リフォーム屋根材30の取付作業を容易にすることができる。
【0021】・・・(中略)・・・
【0023】(4)挟持部32の折返し片32Aには、当接片32Bが設けられているので、リフォーム屋根材30をスレート屋根材20に取り付ける際に、当接片32Bをスレート屋根材20の下端に当接させて位置決めすることができる。すなわち、当接片32Bが、位置決めの役割をなすので、リフォーム屋根材30の取付作業が容易になるとともに、リフォーム屋根材30を精度良く配置することができる。
【0024】(5)当接片32Bを設けることで、スレート屋根材20の下端の位置よりも、挟持部32を勾配方向Bの下側に向かって突出させることができる。このため、この突出部分で、勾配方向Bの下側に設けられたリフォーム屋根材30を固定する釘35を覆い隠すことができる。従って、釘35は建物外側からは視認されなくなるので、寄棟屋根1の外観を向上させることができる。
【0025】(6)挟持部32の下端と当接片32Bとの間には、空間が形成されるので、この空間を挟持部32内に流入した雨水を排出することのできる排水用空間として利用することができる。従って、リフォーム屋根材30の排水性能を向上させることができる。」

ウ 「【0035】さらに、前記実施形態では、被挟持部33には、釘穴32Dが3カ所設けられていたが、このような釘穴32Dは実施の状況に応じて、適宜形成されることが好ましい。また、前記実施形態では、リフォーム屋根材30は、釘35で固定されていたが、これに限らず、接着剤や差込みのみで固定されていてもよい。」

エ 図2?図5は、以下のとおり。
【図2】


【図3】

【図4】


【図5】


オ 上記図3及び図4から、被挟持部33は、平坦であることが看取できる。

(2)甲第2号証に記載の考案
上記(1)からみて、甲第2号証には、次の考案(以下「甲2考案」という。)が記載されているものと認める。
「下地材の上に重ねられた屋根材としてのスレート屋根材20を被覆するリフォーム屋根材30であって、
リフォーム屋根材30は、金属製の屋根材であって、スレート屋根材20の表面を覆う本体31と、スレート屋根材20の下端を表裏から挟む挟持部32と、重ね合わされたスレート屋根材20の上端および下端間に挟まれる平坦な被挟持部33とを含んで構成されており、
本体31、挟持部32および被挟持部33は、1枚の金属製板材を折り曲げて形成されたものであって、
挟持部32は、スレート屋根材20の厚さ分を確保して、本体31の勾配方向Bの下端部分を折り返して形成される折返し片32Aを含んで構成されており、
また、この折返し片32Aには、この折返し片32Aの一部を内部に切り起こした四角板状の当接片32Bが形成され、この当接片32Bは、挟持部32内にスレート屋根材20の下部が挟持される際に、スレート屋根材20の下端面が当接するようになっており、
さらに、当接片32Bが切り起こされるのに伴って、折返し片32Aには、挟持部32に流入した雨水の水抜孔とされている四角状の開口(孔)32Cが形成され、
また、本体31の被挟持部33近傍には、釘35を挿通する釘穴32Dが3カ所設けられたものであり、
リフォーム屋根材30は、まず、スレート屋根材20の下部を挟持部32に収納するとともに、このスレート屋根材20の上端と、このスレート屋根材20の上側に配置されるスレート屋根材20の下端との間に被挟持部33を差し込んだ後、釘35を釘穴32Dを通して、スレート屋根材20や野地板41に打ち込んで、リフォーム屋根材30をスレート屋根材20に固定し、そして、このような作業を、勾配方向Bの下端側のスレート屋根材20から、傾斜面11、12の上側に向かって順次行っていく、
リフォーム屋根材30。」


第6 当審の判断
1 無効理由1
(1)本件考案1
ア 対比
本件考案1と甲1考案を対比する。
(ア)甲1考案において、「平板スレート瓦」には、「改修する」ために「平板スレート改修用金属屋根材(金属屋根材11)」を「被せる」ことから、該「平板スレート瓦」は既設のものといえるので、甲1考案の「平板スレート瓦」が「屋根の野地板状に階段状に重ねられた」もの、「平板スレート瓦」、「平板スレート瓦に被せて改修する平板スレート改修用金属屋根材(金属屋根材11)」は、それぞれ、本件考案1の「既設のスレート屋根」、「既設の屋根材」、「既設の屋根材をカバーする屋根材」に相当する。
そして、甲1考案において、「金属屋根材11」は、「1段目の平板スレート瓦2-1に金属屋根材11を載置し、略V字状に折曲された水上側端部11bを2段目の平板スレート瓦2-2の水下側端部との段差部の僅かな隙間Sに押し込」むものであるから、甲1考案の「屋根の野地板上に階段状に重ねられた平板スレート瓦に被せて改修する平板スレート瓦改修用金属屋根材(金属屋根材11)」は、本件考案1の「既設のスレート屋根の上下に重なる既設の屋根材の隙間に差し込まれて前記既設の屋根材をカバーする屋根材」に相当する。

(イ)甲1考案の「平板部11a」、「1段目の平板スレート瓦2-1」と「2段目の平板スレート瓦2-2の水下側端部との段差部の僅かな隙間Sに押し込」まれる「水上側端部11b」、「略角形U字状」、「水下側端部(下端部)11c」、「水下側端部11cの中央部(前板部)11e」、「水下側端部11cの波形をなす下板部11f及び端末11g」は、それぞれ本件考案1の「板状本体」、「棟側に配置される一端」である「差し込み部」、「断面コ字状」、「取り付け部」、「軒先側に配置される他端」に連接させた「屹立片」、同「折り返し片」に相当する。
してみると、甲1考案の「金属屋根材11は、平板部11aの水上側端部(上端部)11bが全幅に亘り上側に側面から見て略V字状に折り返され、」「1段目の平板スレート瓦2-1に金属屋根材11を載置し、」「2段目の平板スレート瓦2-2の水下側端部との段差部の僅かな隙間Sに押し込」まれる「略V字状に折曲された水上側端部11b」と、本件考案1の「前記屋根材は、板状本体の平坦な棟側に配置される一端を差し込み部とし」たこととは、「前記屋根材は、板状本体の棟側に配置される一端を差し込み部とし」たことで共通する。
また、甲1考案の「全幅に亘り側面から見て略角形U字状に折曲された」「水下側端部(下端部)11c」は、本件考案1の「前記差し込み部に対向する軒先側に配置される他端を屹立片と折り返し片を連接させて断面コ字状の取り付け部」に相当する。

(ウ)甲1考案において、「前記金属屋根材11により既存の平板スレート瓦の屋根を改修する際には、」「平板スレート瓦2-1」及び「平板スレート瓦2-2」に「金属屋根材11を被せ」ることは、本件考案1の「前記屋根材が前記既設の屋根材をカバーした場合」に相当する。

(エ)甲1考案の「1段目の平板スレート瓦2-1に金属屋根材11を載置し、略V字状に折曲された水上側端部11bを2段目の平板スレート瓦2-2の水下側端部との段差部の僅かな隙間Sに押し込」むことは、本件考案1の「前記差し込み部は、下側の前記既設の屋根材とその上側の前記既設の屋根材との隙間に差し込まれて前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする」ことに相当し、甲1考案の「2段目の平板スレート瓦2-2に金属屋根材11を被せ、水下側端部11cの波形をなす下板部11fを1段目の平板スレート瓦2-1に被せた金属屋根材11と2段目の平板スレート瓦2-2との間の隙間Sに押し込」むことは、本件考案1の「前記取り付け部の前記折り返し片を前記下側の既設の屋根材とさらにその下側の前記既設の屋根材との隙間に差し込まれて固定され」ることに相当する。

(オ)上記(イ)で説示したとおり、甲1考案の「1段目の平板スレート瓦2-1」と「2段目の平板スレート瓦2-2の水下側端部との段差部の僅かな隙間Sに押し込」まれる「水上側端部11b」は、本件考案1の「棟側に配置される一端」である「差し込み部」に相当するから、甲1考案の「水上側端部11b」の端部は、本件考案1の「前記屋根材の差し込み部の端部」に相当する。また、甲1考案の「水下側端部11c」の「端末11g」は、本件考案1の「前記屋根材の前記折り返し片の端部」に相当する。
次に、甲1考案において、「固定部材13」の「下板部13cは、既存の上下の平板スレート瓦の隙間に挿入されて下側の平板スレート瓦に被された金属屋根材11のV字状をなす水上側端部11bに挿入されるものであって、」「水下側端部11cの波形をなす下板部11f及び端末11gは、1段目の平板スレート瓦2-1に被せた金属屋根材11と固定部材13の下板部13cとに弾性状態で当接する」ことからみて、水下側端部11cの波形をなす下板部11f及び端末11gが、下側の平板スレート瓦に被された金属屋根材11のV字状をなす水上側端部11bと、固定部材13の下板部13cとの間に挟まれ、かつ、該端末11gは、水上側端部11bの端部であるV字の頂点よりも軒側に位置していることが理解できるから、甲1考案の「金属屋根材11」において、「水上側端部11b」の端部は、「水下側端部11c」の「端末11g」よりも棟側に位置するといえる。
そして、この甲1考案の位置関係は、本件考案1の「前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部の端部」と「前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の端部」との位置関係に即していえば、「前記屋根材の前記差し込み部の端部」は、「前記屋根材の前記折り返し片の端部」よりも棟側に位置するといえるものである。
してみると、甲1考案は、本件考案1の「前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部の端部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の端部よりも棟側に位置する」構成を備えている。

(カ)上記(ア)ないし(オ)からみて、本件考案1と甲1考案とは、以下の一致点及び相違点を有している。
〈一致点〉
既設のスレート屋根の上下に重なる既設の屋根材の隙間に差し込まれて前記既設の屋根材をカバーする屋根材であって、
前記屋根材は、板状本体の棟側に配置される一端を差し込み部とし、前記差し込み部に対向する軒先側に配置される他端を屹立片と折り返し片を連接させて断面コ字状の取り付け部とし、
前記屋根材が前記既設の屋根材をカバーした場合、
前記差し込み部は、下側の前記既設の屋根材とその上側の前記既設の屋根材との隙間に差し込まれて前記下側の既設の屋根材の上面をカバーするとともに、前記取り付け部の前記折り返し片を前記下側の既設の屋根材とさらにその下側の前記既設の屋根材との隙間に差し込まれて固定され、
前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部の端部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の端部よりも棟側に位置する屋根材。

〈相違点1〉板状本体の棟側に配置される一端である差し込み部について、本件考案1は、「平坦」であるのに対し、甲1考案は、側面から見て略V字状に折り返されている点。

イ 判断
(ア)上記アで挙げた相違点1が、実質的な相違点であるかについて検討する。
本件考案1は、上記相違点1に係る構成のように、板状本体の棟側に配置される一端である差し込み部を平坦とすることにより、折り返し辺5が先に差し込まれているとしても、既設のスレート屋根材10とその上側に重なる屋根材10との隙間に差し込み部3を差し込むことができるものであり、そのために、本件特許明細書の段落【0006】に記載される「差し込み屋根材を既設の屋根材の隙間に差し込むだけでスレート屋根の補修ができることから、作業において特殊技能を必要とせず、作業時間も短縮できる。また、従来の方法とは異なり屋根の棟側から軒先側へ順に補修していくことが可能となり、作業員が補修後の屋根に登らずに作業を行うことができるため、補修後の屋根材に傷や汚れがつくことを防止できる。」との効果を奏するものであるから、上記相違点1は、実質的な相違点である。
よって、本件考案1は、甲1考案と同一ではない。

(イ)請求人は、「本件考案1の『平坦な棟側に配置される一端からなる差し込み部』の構成では差し込み作業の行い難いところを、甲1考案は工夫してこれを解決し、より施工効率を高めたものであるため、本件考案1の構成は甲1考案の有する作用効果を完全に有していることは明らかである。」、「上記相違点1に関して、甲1考案の差し込み部と実質的に同一である」等主張する(上記第3の3(1)ウ(ア)a)。
しかしながら、甲1考案は、略V字状に折曲された水上側端部11bを、1段目の平板スレート瓦2-1と2段目の平板スレート瓦2-2との僅かな隙間Sに押し込むことができるものの、甲第1号証には、該隙間Sに下板部11f及び端末11gを先に押し込んだ状態で、平板スレート瓦2-2と下板部11f及び端末11gとの間に水上側端部11bを差し込むことは記載されていないから、本件考案1のように、屋根の棟側から軒先側へ順に金属屋根材11で補修することができるものではない。
よって、本件考案1と甲1考案とは、それぞれ平坦な差し込み部と略V字状に折曲された水上側端部とにより、その補修の手順が相違することとなるので、上記相違点1は実質的な相違点であり、請求人の主張は採用できない。

(2)本件考案2
本件考案2は、本件考案1の構成を全て含み、さらに限定を加えた考案であるから、上記(1)で説示した理由と同様の理由により、甲1考案と同一ではない。

2 無効理由2
(1)本件考案1
ア 対比
本件考案1と甲1考案を対比すると、上記1(1)ア(カ)に記載した一致点及び相違点1を有している。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア)甲第2号証をみると、上記第5の2(2)で示した甲2考案が記載されている。
甲2考案の「1枚の金属製板材を折り曲げて形成された」「リフォーム屋根材30」の「平坦な被挟持部33」は、本件考案1の「板状本体の平坦な棟側に配置される一端を差し込み部とし」たものに相当するから、甲2考案は、上記相違点1に係る構成を備えている。
そこで、甲1考案に甲2考案の上記「被挟持部33」の構成を適用できるかについて検討する。
甲1考案は、「水上側端部11b」が「全幅に亘り上側に側面から見て略V字状に折り返され」ているところ、固定部材13等を用いて金属屋根材11及び平板スレート瓦を固定するに際して、該「折り返され」た「水上側端部11b」に関して、甲1考案は「前記金属屋根材11の水上側端部11b内に固定部材13の下板部13cを挿入」するとの構成を備えるものであり、また、該V字状に折り返した構成により、V字状をなす水上側端部11bの端末の角部(エッジ)11hが、平板スレート瓦2-2の裏面に食い込んで係止されることや、平板スレート瓦2-3の裏面に食い込むことで隙間Sに雨水が侵入した場合でも水上側端部11bにより阻止(水返し)されて当該水上側端部11bの上方への侵入が防止されること、さらには、「また、何らかの原因で金属屋根材11に下向きに大きな力が作用して当該金属屋根材11がずれた場合には水上側端部11bの折曲部が固定部材13の下板部13cの端面に当接して係止され当該位置に保持される。これより、平板スレート瓦2-1に被された金属屋根材11がずれ落ちることが防止される。」(【0039】)との作用効果を奏するものであるから、これらの固定の構成や作用効果を勘案すると、「水上側端部11b」の「略V字状に折り返され」たことを、甲2考案のような「平坦」なものに替える動機付けは存在しない。
したがって、甲1考案に甲2考案を適用することにより、上記相違点1に係る本件考案1の構成とすることは、当業者がきわめて容易になし得たことではない。
なお、甲第3?6号証は、本件考案4の水抜け孔に対する周知例として提出された証拠であって、既設のスレート屋根材をカバーする屋根材に関するものでもなく、補修に用いる上記相違点1に係る構成については記載も示唆もない。
よって、本件考案1は、甲1考案及び甲2考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。

(イ)請求人は、甲1考案の金属屋根材11の固定に、甲2考案のリフォーム屋根材30の固定に用いられる周知の接着剤を用いることも可能である旨を主張する(上記第3の3(1)ウ(ア)c)が、周知の接着手段を用いることができたからといって、そもそも、上記(ア)で説示したように、甲1考案の固定の構成や作用効果を勘案すると、「水上側端部11b」の「略V字状に折り返され」たことを、甲2考案のような「平坦」なものに替える動機付けは存在しないのであるから、請求人の主張は採用できない。

(2)本件考案2ないし4
本件考案2ないし4は、本件考案1の構成を全て含み、さらに限定を加えた考案であるから、上記(1)で説示した理由と同様の理由により、甲1考案及び甲2考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。

(3)付加的検討
上記第1の2のとおり、口頭審理陳述要領書に添付された甲第7号証(特開2014-37708号公報)の提出は、上記第1の2の補正許否の決定のとおり、許可しないこととなったが、付加的に、甲第7号証に記載の考案の適用について検討しておく。
甲第7号証には、「既設の屋根に取り付けられることで屋根の表面を改装する改装用屋根材に関」(段落【0001】)し、「改装用屋根材21」の軒側端部が平坦となっている(図3、図4)が、上記(1)イ(ア)で説示したことと同様に、甲1考案の固定の構成や作用効果を勘案すると、「水上側端部11b」の「略V字状に折り返され」たことを、甲第7号証に記載の形状のものに替える動機付けは存在しないから、甲1考案に甲第7号証に記載された構成を適用することにより、上記相違点1に係る本件考案の構成とすることは、当業者がきわめて容易になし得たこととはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本件考案1ないし4に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第1項第3号及び第2項の規定に違反してなされたものではないから、請求人の主張する無効理由によって、本件考案1ないし4に係る実用新案登録を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、実用新案法第41条の規定において準用する特許法第169条第2項の規定によりさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。



審理終結日 2021-07-12 
結審通知日 2021-07-15 
審決日 2021-08-16 
出願番号 実願2015-1103(U2015-1103) 
審決分類 U 1 114・ 113- Y (E04D)
U 1 114・ 121- Y (E04D)
最終処分 不成立    
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 土屋 真理子
住田 秀弘
登録日 2015-04-30 
登録番号 実用新案登録第3197644号(U3197644) 
考案の名称 差し込み屋根材  
復代理人 西村 公芳  
代理人 小松 悠有子  
代理人 清水 善廣  
代理人 宮川 宏一  

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