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審決分類 審判    E01C
管理番号 1393147
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2021-05-24 
確定日 2022-12-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第3222143号実用新案「多色多形態人工芝」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 請求項4ないし10に係る無効審判の請求は、成り立たない。 請求項1ないし3に係る無効審判の請求は、却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯

本件は、請求人が、被請求人が実用新案登録権者である実用新案登録第3222143号(以下「本件実用新案登録」という。請求項の数は10である。)の実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし10に係る実用新案登録を無効とすることを求める事案であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

平成31年 4月26日 出願(実願2019−1527号)
令和 1年 6月19日 設定登録
令和 2年 6月 1日 実用新案技術評価請求
同年11月18日 実用新案技術評価書(作成日)
令和 3年 2月 3日 実用新案法第14条の2第1項の訂正に係る
訂正書提出
同年 5月24日 審判請求書提出(差出日)
同年 9月10日 手続補正書提出
令和 4年 1月21日 審判事件答弁書提出
同年 1月21日 実用新案法第14条の2第7項の訂正に係る
訂正書提出
同年 4月28日 上申書提出(請求人)
同年 5月10日 上申書提出(被請求人)
同年 5月26日 書面審理通知(起案日)

なお、上記の両上申書は、本件審理について書面審理を希望するものである。

第2 本件考案

上記令和4年1月21日提出の訂正書による訂正は、本件登録実用新案の請求項1ないし3を削除するものであるから、本件実用新案登録の請求項4ないし10に係る考案(以下、「本件考案4」等といい、全体を「本件考案」という。)は、実用新案法第14条の2第1項の規定に基づき令和3年2月3日付けで訂正された実用新案登録請求の範囲の請求項4ないし10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項4】
多色多形態人工芝であって、基布(1)、前記基布(1)にタフティングした少なくとも3種類の色の芝糸繊維、および前記基布(1)の裏面に塗布した接着剤を含み、前記芝糸繊維が捲縮ヤーン繊維(3)および/または少なくとも2種の色のストレートヤーン繊維(2)を含むこと、
前記ストレートヤーン繊維(2)と捲縮ヤーン繊維(3)の少なくとも一面に複数の縦方向直線溝(4)が設けられ、前記直線溝(4)の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種であることを特徴とする多色多形態人工芝。
【請求項5】
前記直線溝(4)の断面形状は、頂角が円弧として移行する二等辺三角形であることを特徴とする請求項4に記載の多色多形態人工芝。
【請求項6】
前記ストレートヤーン繊維(2)は、緑色繊維、黄色繊維、茶褐色繊維のうちの2種または3種類であり、前記捲縮ヤーン繊維(3)は、緑色繊維、黄色繊維、茶褐色繊維のうちの少なくとも1種であり、前記緑色繊維が若緑色繊維、濃緑色繊維、浅緑色繊維、黄緑色繊維のうちの1種または複数種であり、前記黄色繊維が米色繊維と茶色繊維のうちの1種または2種であり、前記茶褐色繊維が薄茶褐色繊維、濃茶褐色繊維のうちの1種または2種であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の多色多形態人工芝。
【請求項7】
ストレートヤーン繊維(2)は、浅緑色繊維、濃緑色繊維、黄緑色繊維および茶色繊維を含み、捲縮ヤーン繊維(3)は、浅緑色繊維であることを特徴とする請求項6に記載の多色多形態人工芝。
【請求項8】
前記ストレートヤーン繊維(2)は、リブ付き形状(ribed shape)、S字形、ダブル菱形(Double Diamond)およびオリーブ形状の4種類の横断面形状を用い、前記捲縮ヤーン繊維(3)は、菱形の横断面形状を用いることを特徴とする請求項7に記載の多色多形態人工芝。
【請求項9】
前記ストレートヤーン繊維(2)と捲縮ヤーン繊維(3)は、独立してタフティングされ且つ1行ごとに交互して配列されるか、または混在して前記基布にタフティングされ、あるいは、前記ストレートヤーン繊維(2)と捲縮ヤーン繊維(3)は混在してタフティングされた後に独立してタフティングされたストレートヤーン繊維または捲縮ヤーン繊維と1行ごとに交互して配列されることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1つに記載の多色多形態人工芝。
【請求項10】
前記ストレートヤーン繊維(2)の単繊維繊度の範囲が200dtex−3000dtex、前記捲縮ヤーン繊維(3)の単繊維繊度の範囲が200dtex−3000dtexであることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1つに記載の多色多形態人工芝。

第3 請求人の主張

請求人は、登録第3222143号実用新案の実用新案登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書(令和3年9月10日提出の手続補正書により補正されたもの。以下、単に「請求書」という。)において、おおむね以下のとおり主張するとともに、証拠方法として以下の甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。

1.無効理由の概要
本件実用新案登録の請求項1ないし10に係る考案は、甲第1号証の記載事項から甲第5号証の記載事項に基いて、その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が実用新案登録出願前に、きわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、同法第37条第1項第2号に該当し、本件登録実用新案は無効とすべきである(請求書第36ページ第3〜8行)。

<証拠方法>
提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証 実願平5−34003号(実開平7−4505号)
のCD−ROM
甲第2号証 実願昭52−164203号(実開昭54−93542号)
のマイクロフィルム
甲第3号証 実願昭48−77929号(実開昭50−24871号)
のマイクロフィルム
甲第4号証 特開平3−69704号公報
甲第5号証 中国実用新案第204417960号明細書

2.具体的な理由
請求項1ないし3は本件訂正により削除されたところ、請求人は本件考案4ないし10について次のとおり主張している。
なお、請求人は請求書において、甲第1号証に記載されていると主張する考案を「甲1考案」等と記載しているが(請求書第16ページ第13〜14行等)、以下では「甲第1号証に記載された考案」等という。

(1)主張の概要
ア.本件考案4及び5は、甲第1号証に記載された考案と甲第2号証または甲第5号証の記載内容、または甲第3号証に記載された考案と甲第4号証の記載内容とを組み合わせて、ならびに甲第5号証に記載された考案から、当業者がきわめて容易に想到し得る。

イ.本件考案6ないし8は、少なくとも甲第5号証に記載された考案から、当業者がきわめて容易に想到し得る。

ウ.本件考案9及び10は、少なくとも甲第5号証に記載された考案と甲第1号証の記載内容とを組み合わせて、当業者がきわめて容易に想到し得る。
(請求書第10〜11ページ、「(1)請求の理由の要約」の「理由の要点」の項)

(2)請求項4の分説
本件考案の請求項5ないし10は請求項4を引用しているので、以下では本件考案4に着目して請求人の主張を整理する。
請求人は請求項4を次のとおり分説している(請求書第13ページ第19行〜下から5行)。

A.多色多形態人工芝であって、
B.基布(1)、
C.前記基布(1)にタフティングした少なくとも3種類の色の芝糸繊維、および前記基布(1)の裏面に塗布した接着剤を含み、
D.前記芝糸繊維が捲縮ヤーン繊維(3)および/または少なくとも2種の色のストレートヤーン繊維(2)を含むこと、
I.前記ストレートヤーン繊維(2)と捲縮ヤーン繊維(3)の少なくとも一面に複数の縦方向直線溝(4)が設けられ、
J.前記直線溝(4)の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種であること
A.を特徴とする多色多形態人工芝。

(3)各甲号証の記載
ア.甲第1号証(請求書第15ページ第18行〜第16ページ第25行)
甲第1号証の段落[0002]、[0004]、[0005]、[0007]、[0008]、[0011]及び図2の記載によれば、甲第1号証には、以下の考案が記載されている。

「A1.人工芝生であって、
B1.基布2、
c1.前記基布2に3色以上のパイル糸を使用するパイル繊りで形成したパイル3を含み、
D1.前記パイル糸は捲縮加工を施されており
F1.前記捲縮加工が施されたパイル糸は少なくとも1種の横断面形状を含むこと
A1.を特徴とする人工芝生」

また、次の点も記載されている。
「W1.パイル3を形成するための合成樹脂は、捲縮加工を施された3600デニールである」点。

イ.甲第2号証(請求書第16ページ下から8行〜第17ページ第26行)
甲第2号証の明細書第1ページ第14〜15行、第2ページ第6〜10行、第3ページ第3行〜第4ページ第11行、第5ページ第7〜10行の記載によれば、第3ページ第7〜8行の記載から、スプリットヤーンでない普通の糸としては、当業者であればストレートヤーンを想起するはずであるから、甲第2号証には、以下の考案が記載されている。

「a2.人工芝用であって、
b2.一次基布と、
C2.一次基布に、裏面に塗布する接着剤などで固定され、複数色の着色剤を含有する合成樹脂からなるパイル糸であって、
D2.少なくとも2種の色のストレートヤーンを含むこと、
E2.前記ストレートヤーンは少なくとも2種の断面形状を含むこと。」

ウ.甲第3号証(請求書第17ページ下から7行〜第18ページ第21行)
甲第3号証の明細書第2ページ第7〜10行、第4ページ第4〜12行、第4ページ第13〜18行の記載によれば、第4ページ第13〜18行記載のようにして生成されるパイル糸はストレートヤーンとなるはずであるから、甲第3号証には、以下の考案が記載されている。

「A3.芝生状外観を有するカーペットであって、
B3.パイル糸を植設する基布、
c3.基布に植設されたパイル糸を含み、
D3.パイル糸は少なくとも2種の色のストレートヤーンを含むこと、
E3.ストレートヤーンは少なくとも2種の横断面形状を含むこと
A3.を特徴とするカーペット。」

また、次の点も記載されている。
「V3.人工芝生として好ましいモノフィラメントの繊度は、100〜500デニールであり、ポリエステルの場合は特に150〜250デニールが望ましい」点。

エ.甲第4号証(請求書第18ページ第22行〜第19ページ第27行)
甲第4号証の第1ページ右下欄第8〜12行、第2ページ左上欄第1〜3行、第2ページ右上欄第11〜14行、第2ページ左下欄第17行〜右下欄第6行、第3ページ右下欄第17行〜第4ページ左上欄第5行の記載、及び、第1図や第3図から、カットパイルを地組織に植設することはタフティングによると推定されることによれば、甲第4号証には、以下の考案が記載されている。

「a4.芝生状外観を有するカーペットであつて、
B4.地組織、
c4.地組織にタフティングして表面側に形成されるカットパイル、および地組織の裏面に形成される樹脂層を含み、
d4.カットパイルはスプリットヤーンである、
a4.カーペット。」

また、次の点も記載されている。
「v4.繊度250デニール〜600デニールの扁平状モノフィラメントが、総繊度2000デニール〜5000デニールとなるように束ねられた状態」である点。

オ.甲第5号証(請求書第19ページ下から6行〜第21ページ第16行)
甲第5号証の段落[0011]、[0016]、[0019]、[0037]、[0038]、[0046]、[0048]、[0049]の記載、及び、段落[0019]のような人工芝繊維の製造方法は、ストレートヤーンに対応するはずであることによれば、甲第5号証には、以下の考案が記載されている。

「A5.人工芝生繊維タフトであつて、
B5.底布層、
C5.底布層にタフティングした少なくとも3種類の色の人工芝繊維、および底布層の裏面に塗布した粘着剤を含み、
D5.人工芝繊維が少なくとも2種の色のストレートヤーンを含み、
E5.ストレートヤーンは少なくとも2種の横断面形状を含むこと
A5.を特徴とする人工芝生タフト。」

また、人工繊維の色に関し、次のような特徴も記載されている。

「N5.人工芝繊維の色がオリーブグリーンとエメラルドグリーンとの2種である点。
S5.人工芝繊維が4種の断面形状を有する点。
V5.ストレートヤーンの繊度が1500dtexや2000dtex以上である点。」

(4)甲第1号証に記載された考案を主とする理由(請求書第29ページ最下行〜第30ページ最下行)
ア.本件考案4と甲第1号証に記載された考案とを対比すると、両者は、以下の点で相違する。

(ア)相違点1:「芝糸繊維(パイル)」について、本件考案4は「基布にタフティングした」ものであるけれども、甲第1号証に記載された考案は「パイル糸を使用するパイル織りで形成したもの」である点。
相違点1について検討するに、基布にパイルが林立している状態は、パイルが芝糸繊維をタフティングで植設したものでも、パイル繊りで形成されたものであっても、外観上の差異は認め難くなる。

(イ)相違点2:本件考案4のIの要件は、ストレートヤーン繊維と捲縮ヤーン繊維の少なくとも一面に複数の縦方向直線溝が設けられることについてであるけれども、甲第1号証に記載された考案のパイルには縦方向直線溝が設けられない。
相違点3:本件考案4のJの要件は、Iの要件の直線溝の形状についてであるけれども、直線溝が設けられない甲第1号証に記載された考案のパイルは当然に該当しない。
このような縦方向溝を設ける効果として、本件明細書の段落【0029】には、「このような縦方向直線溝を有する芝糸繊維は、より現実的に天然芝の脈を模倣でき、具体的な使用場所に対して摩擦係数を増大する役割を果たす。」と記載されているけれども、効果の数値的な裏付けは記載されていない。また、段落【0027】に、「芝糸繊維を押出機の金型で押出する過程において、前記縦方向直線溝4を芝糸繊維の長さ方向に沿って芝糸繊維の表面に形成できる。」と記載されており、縦方向直線溝の付加は容易で、設計的事項と言える。Dの要件は、ストレートヤーン繊維を含まずに捲縮ヤーン繊維のみを含む場合を許容する。

イ.以上のような相違点1は、甲2記載事項をまたは甲5記載事項を甲第1号証に記載された考案に組み合せれば解消し、相違点2は設計的事項とみなせる。
したがって、本件考案4は、甲第1号証に記載された考案に甲2記載事項または甲5記載事項を適用して、その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者がきわめて容易に推考し得るものである。

(5)甲第3号証に記載された考案を主とする理由(請求書第31ページ第1〜26行)
ア.本件考案4と甲第3号証に記載された考案とを対比すると、両者は、以下の点で相違する。

(ア)相違点1:甲第3号証に記載された考案で「パイル糸を基布に植設する」のは本件考案4(当審注:請求書に「本件登録考案3」とあるのは「本件登録考案4」の誤記と認めてこのように認定した。)のようなタフティングによるか、また基布の裏面に接着剤層を設けるかは不明である。
相違点1について検討するに、基布にパイルが林立している状態は、パイルが芝糸繊維をタフティングで植設したものでも、パイル繊りで形成されたものであっても、外観上の差異は認め難くなる。

(イ)相違点2:本件考案4のIの要件は、ストレートヤーン繊維と捲縮ヤーン繊維の少なくとも一面に複数の縦方向直線溝が設けられることについてであるけれども、甲第3号証に記載された考案(当審注:請求書に「甲1考案」とあるのは「甲3考案」の誤記と認めてこのように認定した。)のパイルには縦方向直線溝が設けられない。
相違点3:本件考案4のJの要件は、Iの要件の直線溝の形状についてであるけれども、直線溝が設けられない甲第3号証に記載された考案(当審注:請求書に「甲1考案」とあるのは「甲3考案」の誤記と認めてこのように認定した。)のパイルは当然に該当しない。
このような縦方向溝を設けることは、甲第1号証に記載された考案の対比の場合と同様に、設計的事項と言える。Dの要件は、ストレートヤーン繊維を含まずに捲縮ヤーン繊維のみを含む場合を許容する。

イ.以上のような相違点1は、甲4記載事項を甲第3号証に記載された考案に組み合せれば解消し、相違点2は設計的事項とみなせる。
したがって、本件考案4は、甲第3号証に記載された考案に甲4記載事項を適用して、その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者がきわめて容易に推考し得るものである。

(6)甲第5号証に記載された考案を主とする理由(請求書第31ページ第27行〜第32ページ第20行)
ア.本件考案4と甲第5号証に記載された考案とを対比すると、両者は、以下の点で相違する。

(ア)相違点1:甲第5号証には、人工芝繊維としてストレートヤーンを示唆する記載はあっても、捲縮ヤーンを示唆する記載はない。しかしながら、Dの要件は、捲縮ヤーンを含まずに、ストレートヤーンのみ含む場合も許容している。

(イ)相違点2:本件考案4のIの要件は、ストレートヤーン繊維と捲縮ヤーン繊維の少なくとも一面に複数の縦方向直線溝が設けられることについてであるけれども、甲第5号証に記載された考案の人工芝繊維には縦方向直線溝が設けられていない。
相違点3:本件考案4のJの要件は、Iの要件の直線溝の形状についてであるけれども、直線溝が設けられない甲第5号証に記載された考案(当審注:請求書に「甲1考案」とあるのは「甲5考案」の誤記と認めてこのように認定した。)の人工芝繊維は当然に該当しない。

イ.このような縦方向溝を設けることは、甲第1号証に記載された考案との対比の場合と同様に、設計的事項と言える。Dの要件は、ストレートヤーン繊維を含まずに捲縮ヤーン繊維のみを含む場合を許容する。
したがって、本件考案4は、甲第5号証に記載された考案から、その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者がきわめて容易に推考し得るものである。

第4 被請求人の主張

被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判請求費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。
そして、上記「第3 2.(2)及び(4)ないし(6)」と同様に本件考案4に着目すると、被請求人は令和4年1月21日付け審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)において、本件考案4について次のとおり主張している。

1.本件考案4の技術的本質(答弁書第5ページ第21行〜第7ページ第5行)
本件考案4の課題は、段落【0003】に記載されているように、「従来の人工芝は、形状および色が少なく、天然芝の外観とは差異があり、そして性能が少なく、様々な場所にうまく適用でき、サッカー場などのプロフェッショナルな運動場所の場合、人工芝に使用される化学繊維の摩擦係数が一般的に天然芝の芝葉より小さいため、サッカーをするときに球の速度が高すぎるようになり運動選手による球の制御が難しくなる」問題を解決することにある。
この課題を解決するために、本件考案4は、「I.前記ストレートヤーン繊維(2)と捲縮ヤーン繊維(3)の少なくとも一面に複数の縦方向直線溝(4)が設けられ、」と「J.前記直線溝(4)の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種であること」という2つの構成要素を有することにより、段落【0038】に記載されているように、「ストレートヤーン繊維と拾縮ヤーン繊維を混在してタフティングし、このように組み合わせることによって、人工芝の支持性と耐摩耗性を良好にし、直線溝を設置することで、転がっている球に対して一定の摩擦力を与え、球の転がり速度が速すぎることを抑制し、このため、サッカー場などの運動場所に滴用できる。」という特有かつ顕著な効果を奏する。
請求人は、この「摩擦力(抑制力)」に関して、数値的な裏付けまで必要とすると主張している。
しかし、例えば、公式のサッカーボールの表面は、複数枚のパネルで構成され、パネルの間には縫い日である凹状直線が存在し、硬式野球のボールは、表面に多数の縫い目が形成されている。
一方、本件考案4の人工芝においては、「I.前記ストレートヤーン繊維(2)と捲縮ヤーン繊維(3)の少なくとも一面に複数の縦方向直線溝(4)が設け」ることにより、人工芝の表面に、直線溝を形成する角状直線が存在する。
そのため、サッカーボール(公式野球のボール)の凹状直線(縫い目)と、人工芝の表面の角状直線とが引っ掛かりを発生する。この引っ掛かりにより、摩擦力(抑制力)を増加させることが本件考案4の技術的思想の主要部である。どの程度摩擦力(抑制力)を増加させるかは実験により見いだせば良く、数値的な裏付けは不要である。また、その実験も困難さを伴うものではなく、明細書において、数値的裏付けまで必要としない。

2.本件考案4の創作非容易性(答弁書第7ページ第6行〜第8ページ第2行)
甲第1号証、甲第2号証、及び甲第5号証には、本件考案4の上記技術的課題が全く記載されておらず、本件考案4の特有かつ技術的効果である、段落【0038】記載の、「直線溝を設置することで、転がっている球に対して一定の摩擦力を与え、球の転がり速度が速すぎることを抑制し、このため、サッカー場などの運動場所に適用できる。」こと、また、段落【0016】記載の、「芝糸繊維の表面に縦方向直線溝が設けられることで、芝糸繊維の摩擦係数を増大して、人工芝の機能的効果を高めることである。」についても全く記載されていない。
すなわち、先行技術において、当業者は当該技術的課題を全く認識しておらず、本件考案4は、全く新しい課題を解決するために成された考案である。
また、請求人も「相違点2」及び「相違点3」で認めるように、本件考案4の主要な構成である、I.及びJ.は、甲第1号証、甲第2号証、及び甲第5号証のいずれにも記載していないから、本件考案4は、甲第1号証、甲第2号証、及び甲第5号証に記載された考案に基づいて、当業者が極めて容易に考案し得たものでなく、実用新案法第3条第2項に該当することはない。

3.甲第3号証及び甲第5号証に記載された考案について(答弁書第8ページ第3行〜第9ページ第14行)
請求人は、甲第3号証及び甲第5号証に記載された考案についても、「相違点2」及び「相違点3」を認めており、上記「(1)及び(2)」と同様の理由により、本件考案4は、甲第3号証、及び甲第4号証に記載された考案に基づいて、又は、甲第5号証に記載された考案に基づいて、当業者が極めて容易に考案し得たものでなく、実用新案法第3条第2項に該当することはない。

第5 当審の判断

1.各甲号証
(1)甲第1号証
ア.甲第1号証には、次の記載がある(下線は当審で付加した。以下同様。)。

(ア)「【0002】
【従来の技術及び考案が解決しようとする課題】
従来からゴルフ練習場のスタンスマット等のマットに使用される人工芝生は、平板状のクッション部材の上に、その一面側にパイルが形成してある基布を接着したものであり、単色(例えば緑色)のものがほとんどである。一部、線が着色してあるもの,異なる色からなる単色のマットを組み合わせて並べたものもある。
しかしながら、単色のものは味気なく、美観に優れない。またその他のものは単純な模様しかなく、複雑な模様を表すことは困難であった。
本考案は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、色によってハイループとロウループとを作り分け、ハイループの先端をカットして形成されたパイルを備えることにより、複雑な模様が形成された人工芝生を提供することを目的とする。」

(イ)「【0004】
【作用】
本考案にあっては、色によってハイループとロウループとを作り分け、ハイループの先端をカットしてパイルを形成してあるので、表面にはハイループを形成した色のみが現れる。そしてどの色をハイループとし、またロウループとするかを模様のパターンに応じて設定すれば、複雑な模様も容易に表すことが可能である。」

(ウ)「【0005】
【実施例】
以下、本考案をその実施例を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1は、本考案に係る人工芝生を示す平面図であり、図2は、この模式的拡大断面図である。図2において1は、1辺が1mの正方形であり厚さ2cmの平板状をなし、SBR(スチレンブタジエンラバー)及び塩化ビニル樹脂からなるクッション部材である。このクッション部材1の上には基布2に合成樹脂からなるパイル3を形成したものが貼り付けてあり、パイル3の表面には図1に示す如く、緑地に白色で、ゴルフショット時の、ゴルフクラブを振り上げたとき,ゴルフボールを打つ寸前,打った直後,ゴルフクラブの先端が体の略横に位置するとき,及びゴルフクラブの先端が体の後ろに位置するときの一連のフルスウィング動作を順次示す模様が形成されている。
・・・
【0007】
パイル3を形成するための合成樹脂は、捲縮加工(A.B加工)を施された3600デニールのナイロン6(ユニプラス社製)である。捲縮加工は、まず450デニール×4フィラメントに下撚としてS撚80回/mを施したものを2本用意して、これを双糸として使用し、上撚はZ撚50回/mとしている。そして本実施例ではこれを緑色に着色した糸と白色に着色した糸とをパイル糸として使用し、パイル3を形成している。
【0008】
次に以上の如き構成の人工芝生の製造方法について説明する。
まず基布2にパイル3を形成するための緯糸として、緑色のパイル糸と白色のパイル糸とを基布2の幅方向に交互に多数並べ、基布2の一面側にループを形成しながらこれらのパイル糸を織り込んでいく。このとき所要の模様を形成するためにループ長を加減し、所要位置にて2色のパイル糸の一方をハイループ(13mm)とし、他方をロウループ(3.5mm)として形成しておく。一般にループは、先端に糸を通したニードルを基布2に突き刺し、パイル糸をルーパーに引っ掛けて形成するが、このときの糸送り部におけるパイル糸の張力を変えることによりハイループとロウループとを作り分けることができる。ハイループは、その形成時にその先端をカットする。
【0009】
このようにハイループとロウループとを形成すると、ハイループを形成したパイル糸の色のみが表面化し、ロウループを形成したパイル糸は埋没することになる。図2の左部分は、緑色のパイル3aがハイループをカットしたものであり、白色のパイル3bがロウループである。また右部分は、白色のパイル3bがハイループをカットしたものであり、緑色のパイル3aがロウループである。これにより図2の左部分では緑色が表面化し右部分では白色が表面化する。
そして基布2の搬送に伴って各ステッチ毎に、所要の位置で所要の色のパイル糸を使い分けてハイループとロウループとを形成し、且つハイループの先端をカットしていき、所要の模様パターンを反復して形成する。その後この基布2のパイル3が形成されていない面を前記クッション部材1に接着し、所要大きさに裁断して、例えばスタンスマットとする。」

(エ)「【0011】
上述のようにハイループとロウループとを形成して模様形成を行うと、模様形成のための糸色の配置換え,糸の切断等の作業を行う必要がない。従って各位置における表面色の変換は容易であり、図1に示す如き複雑な模様が形成された人工芝生を容易に製造することができる。そして上述の如く模範的なゴルフスウィングの模様が形成された人工芝生をゴルフ練習場のスタンスマットに使用すれば、ゴルフ練習者がフォームの参考とすることができる。
なお本実施例では2色のパイル3a,3bを形成したが、3色以上の多色であってもよい。また本案に係る人工芝生はスタンスマット以外にも適用可能であることはいうまでもない。またクッション部材は必要に応じて適宜形成すればよい。」

イ.上記「ア.」を総合すると、甲第1号証には次の考案(以下「甲1考案」という。)が記載されている。

(甲1考案)
「クッション部材の上には基布に合成樹脂からなるパイルを形成したものが貼り付けてあり、
パイルを形成するための合成樹脂は、捲縮加工を施されたナイロンであり、
基布にパイル糸を織り込んでいき、
基布のパイルが形成されていない面を前記クッション部材に接着し、
パイルは3色以上の多色であってもよい
人工芝生。」

(2)甲第2号証
ア.甲第2号証には、次の記載がある。

(ア)「近年扁平なヤーンをパイル糸として一次基布に植えつけ、その裏に接着剤を塗布したり、スポンジラバーをはり付けることにより人工芝生が作られている。」(明細書第1ページ第14行〜第2ページ第2行)

(イ)「本考案は、外観、感触共に天然芝に近い合成樹脂製人工芝用パイル糸を提供することを目的とし、着色剤含有合成樹脂からなり、少なくとも1つの比較的太い芯部と少なくとも1つのこれにつながる比較的薄肉の部分とからなり、前記薄肉部の肉厚が100μ以下であり、前記芯部の横断面における内接円の直径が前記薄肉部の肉厚の2倍以上である人工芝用パイル糸を要旨とする。」(明細書第2ページ第6行〜下から2行)

(ウ)「前記芯部の横断面形状は、円形、半円形、方形、菱形、三角形、台形その他任意の形状をとりうる。1つのパイル糸において前記薄肉部と芯部が交互につながつた形状であつてもよい。また本考案パイル糸はスプリツトヤーンであつてもよい。
本考案パイル糸は芯部の横断面における芯部の横断面における内接円の直径を前記薄肉部の肉厚の2倍以上としたから前記芯部が芝の葉脈的存在となり天然芝に近い印象を与えるほか、同一着色剤添加量にもかかわらず厚肉の芯部と薄肉部との存在により色相の濃淡が異なり色調の上からも天然芝に近いものとなる。しかも単一の原料樹脂を単一押出成形したものでも第1−a、1−b図に示したように1つの芯1の両側に薄肉部2の付いたもの、第2−a、2−b図に示すように複数の芯を複数の薄肉部で連結したもの、第3−a、3−b図に示したように複数の芯を複数の薄肉部で連結したものを局部的にスリツトしたものを作ることができ、これらを適当に組合わせ配置して人工芝を作れば一層変化に富み、パイル糸の色の濃淡、硬軟と相まつて従来の人工芝より一層天然感にあふれた外観感触を呈するものとなる。」(明細書第3ページ第3行〜第4ページ第11行)

(エ)「着色剤の色としては緑に限られず、青、黄、赤、黒、白その他好みに応じて使用しうる。異なつた色のパイルヤーンを用いて作つた人工芝生は重量感が出て好ましい。」(明細書第5ページ第7行〜第10行)

(オ)上記「(ア)」の記載によれば、上記「(イ)ないし(エ)」に記載されたパイル糸(パイルヤーン)は、ヤーンをパイル糸として一次基布に植えつけ、その裏に接着剤を塗布した人工芝生に用いることが前提とされているものと認められる。

イ.上記「ア.」を総合すると、甲第2号証には次の考案(以下「甲2考案」という。)が記載されている。

(甲2考案)
「ヤーンをパイル糸として一次基布に植えつけ、その裏に接着剤を塗布した人工芝生であって、
パイル糸は、着色剤含有合成樹脂からなり、少なくとも1つの比較的太い芯部と少なくとも1つのこれにつながる比較的薄肉の部分とからなり、
1つの芯の両側に薄肉部の付いたもの、複数の芯を複数の薄肉部で連結したもの、複数の芯を複数の薄肉部で連結したものを局部的にスリツトしたものを適当に組合わせ配置し、
着色剤の色としては緑に限られず、青、黄、赤、黒、白その他好みに応じて使用しうるものであり、
異なつた色のパイルヤーンを用いて作つた
人工芝生。」

(3)甲第3号証
ア.甲第3号証には、次の記載がある。
(ア)「本考案は、新規な横断面形状を有する合成繊維をパイルとして植設することにより、曲げ特性、圧縮特性の良好な感触の優れた芝生状外観を有するカーペツトに関するものであり、その特徴とするところは、扁平部とその扁平部の片側にのみ突出した1個または複数個の突起部とよりなる断面構造を有し、扁平部の平均厚さをa、長さをlとするとき、その比l/aが5≦l/a≦30であり、また扁平部の断面積をS、最大突起部の断面積をAとするとき、その比S/Aが5≦S/A≦30であり、さらにその扁平部の略中央を通る線分を円弧としてできる中心角θが0≦θ≦320°の範囲内にある合成繊維を80%以上含有したパイルを使用することにある。」(明細書第2ページ第7行〜最下行)

(イ)「本考案で使用される繊維の横断面構造は、扁平部の片側にのみ突起を有する独特の構造を有しているため、カーペツトが上部より圧縮されたとき、各繊維の変形方向がその断面に特有な一定方向をとり、弾性回復が非常に良好となる。したがつて手で触れたときチクチクした針で刺すような感じはまつたくなく、押しつけるとその加えた力によつて徐々に変形し、力を抜くと手を押し上げるような天然芝、特に高麗芝に非常によく似た感触を与える。」(明細書第3ページ第1〜10行)

(ウ)「本考案で使用される合成繊維は、合成高分子溶融物を、例えば第2図に示すような形状のノズルを用いて紡出した後、空冷もしくは水冷し、続いて延伸、乾燥して得られる繊維から、通常の方法でカーペツトを作ることによつて得られる。第2図に示したノズルの形状は、用いる合成高分子溶融物の種類、溶融粘度、デニールおよび使用目的により決められる。
本考案にいう合成繊維としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリルおよびポリオレフイン系ポリマーから紡糸延伸されて得られる繊維が有効であるが、耐候性、耐久性の点からポリエステルが特に好ましい。また上記ポリマーは酸化チタン、カオリナイトのような艷消し剤あるいは芝生類似の色調を与えるための顔料等を3重量%以下含有していてもよい。
人工芝生として好ましいモノフイラメントの繊度は、100〜500デニールであり、ポリエステルの場合は特に150〜250デニールが望ましい。パイル糸は、2本以上好ましくは2〜6本引揃えて撚糸したもの、あるいは上記撚糸をさらに2本以上合撚したもので好ましくは2本合撚したものがよく、またヨリ数は下撚が60〜300回/m、上撚が50〜150回/mの場合に好ましい結果が得られる。」(明細書第3ページ第16行〜第5ページ第1行)

(エ)「第3図は、第2図の形状を有するノズルから紡糸された本考案に使用されるモノフイラメント横断面の種々の例である。」(明細書第5ページ第12〜14行)

(オ)第3図は次のものである。


イ.上記「ア.」を総合すると、甲第3号証には次の考案(以下「甲3考案」という。)が記載されている。

(甲3考案)
「合成繊維をパイルとして植設する芝生状外観を有するカーペツトであって、
扁平部とその扁平部の片側にのみ突出した1個または複数個の突起部とよりなる断面構造を有するパイルを使用し、
合成繊維は、合成高分子溶融物を、ノズルを用いて紡出した後、空冷もしくは水冷し、続いて延伸、乾燥して得られる繊維であり、
合成繊維としては、ポリマーから紡糸延伸されて得られる繊維が有効であり、ポリマーは芝生類似の色調を与えるための顔料等を含有していてもよく、
パイル糸は、2本以上好ましくは2〜6本引揃えて撚糸したもの、あるいは上記撚糸をさらに2本以上合撚したものがよい
芝生状外観を有するカーペツト。」

(4)甲第4号証
ア.甲第4号証には、次の記載がある。

(ア)「近年、テニス、野球、サッカー、ラグビー等のスポーツを行うコート又はグラウンドを形成するための人工芝生として、第3図に示すように、片撚されたスプリットヤーン(帯状シートに多数の長手方向に延びる切目を設けたもの)が地組織(22)に植設されてカットパイル(23)が形成されたものが多用されている。」(第1ページ右下欄第6〜12行)

(イ)「この人工芝生(21)のカットパイル(23)は、上記したように片撚されたスプリットヤーンの植設に基づき形成されている(第4図参照)。」(第2ページ左上欄第1〜3行)

(ウ)「本発明の上記目的は、繊度250デニール〜600デニールの扁平状モノフィラメントが、総繊度2000デニール〜5000デニールとなるように束ねられた状態で、多数のカットパイルを地組織表面に形成するように植設され、前記カットパイルの先端部だけが表面に現れるように、前記地組織表面上に砂層が設けられていることを特徽とする人工芝生により達成される。」(第2ページ右上欄第11行〜最下行)

(エ)「第1図は、本発明の1実施例にかかる人工芝生を示す。この人工芝生(1)は、複数本の扁平状モノフィラメント(2)が、下撚及び上撚されて束ねられた状態で地組織(4)表面に多数のカットパイル(3)を形成するように植設されている。地組織(4)の裏面には、バッキング処理が施されており、カットパイル(3)の抜け落ちを防止する樹脂層(5)が形成されている。」(第2ページ左下欄第17行〜右下欄第6行)

(オ)「即ち、繊度250デニール〜600デニールの扁平状モノフィラメントによりカットパイルを構成しているので、各モノフィラメントは、パイルの基端部から個々に独立して大きく拡がり、地組織表面に形成されるカットパイルのパイル長を短尺にしても、適度な弾力性及び起立性、並びにこれらに基づく良好な使用感が保証される。」(第3ページ右下欄第17行〜第4ページ左上欄第5行)

(カ)第1図及び第3図は次のものである。


(キ)上記「(ア)及び(エ)」の記載を踏まえると、第1図及び第3図からは、スプリットヤーンがタフティングにより地組織(22)に植設される点を看取することができる。

イ.上記「ア.」を総合すると、甲第4号証には次の考案(以下「甲4考案」という。)が記載されている。

(甲4考案)
「スプリットヤーンがタフティングにより地組織に植設されてカットパイルが形成された人工芝生であって、
地組織の裏面には、カットパイルの抜け落ちを防止する樹脂層が形成されている
人工芝生。」

(5)甲第5号証
ア.甲第5号証には、次の記載がある(括弧内に請求人が作成した日本語訳を付した。)。

(ア)「


([0005] 本発明の高迫真性人工芝生は、底基布、底基布上にタフティングされた人工芝繊維タフトと底基布の背面に塗布された粘着剤層からなり、前記底基布上にタフティングされた人工芝繊維タフトは少なくとも二種類の高さが異なる人工芝繊維タフトを含む。)

(イ)「


([0011] 本考案の高迫真性人工芝生は異なる芝高さと異なる葉幅を有し、階層感がはっきりしているとともに、異なる色を持つことができるだけではなく、季節の移り変わりによって、季節に応じた色の人工芝を加えて、天然芝により近くするようにできる。

(ウ)「


([0016] その中の符号の説明:1−粘着剤層,2−底布層,31−第一階層の人工芝生繊維タフト,32−第二階層の人工芝生繊維タフト,33−第三階層の人工芝生繊維タフト,34−第四階層の人工芝生繊維タフト。)

(エ)「

・・・


([0019] ポリエチレン、草色のカラーマスター、助剤などを帯状茎形の型から押し出して、DTEX 6000/3Fで、幅が1.5mmであるエメラルドグリーンの人工芝繊維を製造する。押出成形温度は210℃で、熱処理の温度は110℃である。
・・・
[0022] 上記人工芝生繊維を、行ピッチ3/8インチのタフティング機で、芝高さ60mm、ステッチレート14針/10cmで、人工芝生半製品としてタフティングして、粘着剤を塗布してから、オーブン上部の温度を150℃、オーブン下部を120℃として、最終的に図1に示すような人工芝生を得る:第一層の薄黄緑色の人工芝繊維の高さが57mmで、葉幅が1.1mmであり、第二層の草色の人工芝繊維の高さが60mmで、葉幅が1.5mmである。)

(オ)「


([0037] ポリエチレン、薄黄色のカラーマスター、助剤などを橄欖形の型から押し出して、DTEX 1500/2Fで、幅が0.7mmである人工芝繊維を製造する。押出成形温度は210℃で、熱処理の温度は100℃である。
[0038] ポリエチレン、薄緑色のカラーマスター、助剤などを橄欖形の型から押し出して、DTEX 1500/2Fで、幅が0.7mmである人工芝繊維を製造する。押出成形温度は210℃で、熱処理の温度は100℃である。)

(カ)「


([0046] ポリエチレン、薄黄緑色のカラーマスター、助剤などを橄欖形の型から押し出して、DTEX 2000/4Fで、幅が0.5mmである人工芝繊維を製造する。押出成形温度は210℃で、熱処理の温度は110℃である。)

(キ)「


([0048] 上記人工芝生繊維を、行ピッチ3/8インチのタフティング機で、芝高さ50mm、ステッチレート14針/10cmで、人工芝生半製品としてタフティングして、粘着剤を塗布してから、オーブン上部の温度を150℃、オープン下部を110℃として、最終的に図3に示すような人工芝生を得る:第一層のエメラルドグリーンの人工芝繊維の高さが38mmで、葉幅が1.5mmであり、第二層のオリーブグリーンの人工芝繊維の高さが43mmで、葉幅が1.2mmであり、第三階層のオリーブグリーンの人工芝繊維の高さが46mmで、葉幅が0.9mmであり、第四階層のエメラルドグリーンの人工芝繊維の高さが50mmで、葉幅が0.5cmである。
[0049] このような人工芝生によれば、貯水温度低減型人工芝繊維、形状が天然芝とより似たV形人工芝繊維、成長により幅が一様ではなく高さも揃わない人工芝繊維を組み合わせたことになり、機能性がより強く、階層感がよりはっきりしており、模擬性能がよりよくなる。)

(ク)図3は次のものである。


(ケ)上記「(キ)」の記載から、第一層及び第四階層の人工芝繊維がエメラルドグリーンであり、第二層及び第三階層の人工芝繊維がオリーブグリーンであることが理解できる。

(コ)上記「(キ)」の記載を踏まえると、図3の人工芝生は、第一層ないし第四階層の人工芝繊維がそれぞれ異なる断面形状を有する点を看取することができる。

イ.上記「ア.」を総合すると、甲第5号証には次の考案(以下「甲5考案」という。)が記載されている。

(甲5考案)
「底基布、底基布上にタフティングされた人工芝繊維タフトと底基布の背面に塗布された粘着剤層からなり、
ポリエチレンなどを帯状茎形の型から押し出して、人工芝繊維を製造し、
人工芝生繊維を、タフティング機で、人工芝生半製品としてタフティングして、粘着剤を塗布してから、オーブン上部の温度を150℃、オーブン下部を120℃として、最終的に人工芝生を得るものであり、
第一層及び第四階層の人工芝繊維がエメラルドグリーンであり、第二層及び第三階層の人工芝繊維がオリーブグリーンであり、
第一層ないし第四階層の人工芝繊維がそれぞれ異なる断面形状を有する
高迫真性人工芝生。」

2.甲1考案を主引用考案とする場合
(1)本件考案4について
ア.対比
(ア)甲1考案の「基布」は、本件考案4の「基布(1)」に相当する。

(イ)甲1考案の「パイル」は、「クッション部材の上には基布に合成樹脂からなるパイルを形成したものが貼り付けてあ」るから基布に形成されたものであり、また、「3色以上の多色であってもよい」ものである。一方、甲1考案の「パイル」は、「基布にパイル糸を織り込んでい」くものであって、タフティングするものではない。
そうすると、甲1考案の「クッション部材の上には基布に合成樹脂からなるパイルを形成したものが貼り付けてあ」るものである当該「パイル」と、本件考案4の「前記基布(1)にタフティングした少なくとも3種類の色の芝糸繊維」とは、「基布に設けた少なくとも3種類の色の芝糸繊維」の点で共通する。

(ウ)甲1考案は「基布のパイルが形成されていない面を前記クッション部材に接着」するところ、このような「接着」の際には「基布」の「クッション部材」側の面に接着剤が塗布されるものと認められる。そして、甲1考案のこの点は、本件考案4の「前記基布(1)の裏面に塗布した接着剤を含み」に相当する。

(エ)甲1考案の「人工芝生」は、「パイルは3色以上の多色であってもよい」から、「多色」を呈することは明らかである。そうすると、甲1考案の当該「人工芝生」と、本件考案4の「多色多形態人工芝」とは、「多色人工芝」の点で共通する。

(オ)以上を総合すると、本件考案4と甲1考案とは、
「多色人工芝であって、基布、基布に設けた少なくとも3種類の色の芝糸繊維、および前記基布の裏面に塗布した接着剤を含み、前記芝糸繊維が捲縮ヤーン繊維を含む、
多色人工芝。」
で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
人工芝が、本件考案4においては「多形態」であるのに対して、甲1考案においては「多形態」といい得るか明らかでない点。

(相違点2)
芝糸繊維が、本件考案4においては基布に「タフティングした」ものであるのに対して、甲1考案においてはそのようなものでない点。

(相違点3)
本件考案4は「ストレートヤーン繊維(2)と捲縮ヤーン繊維(3)の少なくとも一面に複数の縦方向直線溝(4)が設けられ、前記直線溝(4)の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種である」のに対して、甲1考案はそのような構成を有さない点。

イ.検討
事案に鑑み、まず相違点3について検討する。

(ア)甲2考案は、「パイル糸」が「少なくとも1つの比較的太い芯部と少なくとも1つのこれにつながる比較的薄肉の部分とからなり、1つの芯の両側に薄肉部の付いたもの、複数の芯を複数の薄肉部で連結したもの、複数の芯を複数の薄肉部で連結したものを局部的にスリツトしたものを適当に組合わせ配置」するものであるが、「少なくとも一面に複数の縦方向直線溝が設けられ、前記直線溝の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種である」ものではない。

(イ)甲5考案は、「第一層ないし第四階層の人工芝繊維がそれぞれ異なる断面形状を有する」ものであり、甲第5号証の図3(上記「1.(5)ア.(ク)」)には各層(階層)の人工芝繊維の具体的な断面形状が図示されているが、いずれも「少なくとも一面に複数の縦方向直線溝が設けられ、前記直線溝の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種である」ものではない。

(ウ)そうすると、「ストレートヤーン繊維と捲縮ヤーン繊維の少なくとも一面に複数の縦方向直線溝が設けられ、前記直線溝の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種である」点は、甲第2号証及び甲第5号証のいずれにも記載されておらず、示唆もない。

(エ)そして、本件考案4は相違点3に係る構成を備えることにより、本件明細書の段落【0029】に記載の「より現実的に天然芝の脈を模倣でき、具体的な使用場所に対して摩擦係数を増大する役割を果たす。」という効果を奏するものと認められる。

ウ.請求人の主張について
(ア)請求人は、縦方向直線溝を設ける効果について、概略、本件明細書に上記「(イ)」に摘記した記載はあるものの、効果の数値的な裏付けは記載されていない旨主張する(上記「第3 2.(4)ア.(イ)」)。
しかしながら、「天然芝」は一般に厚みが一様ではないから、当業者は、縦方向直線溝を設けることにより、人工芝がこのような天然芝に近い形状になることを理解することができる。また、「具体的な使用場所に対して摩擦係数を増大する役割を果たす」との記載に関して、本件明細書の段落【0038】には「ストレートヤーン繊維と捲縮ヤーン繊維を混在してタフティングし、このように組み合わせることによって、人工芝の支持性と耐摩耗性を良好にし、直線溝を設置することで、転がっている球に対して一定の摩擦力を与え、球の転がり速度が速すぎることを抑制し、このため、サッカー場などの運動場所に適用できる。」と記載されているところ、当業者は、このような明細書の記載も参酌すれば、縦方向直線溝を設けることにより、人工芝と球との間の摩擦係数が増大すると理解することができる。
以上のとおりであって、当業者は、効果の数値的な裏付けについての記載がなくとも、本件考案4が本件明細書記載の上記効果を奏することを理解できるから、請求人の主張は採用することができない。

(イ)また、請求人は、本件明細書の段落【0027】の「芝糸繊維を押出機の金型で押出する過程において、前記縦方向直線溝4を芝糸繊維の長さ方向に沿って芝糸繊維の表面に形成できる。」との記載を挙げて、概略、縦方向直線溝の付加は容易で、設計的事項と言える旨主張する(上記「第3 2.(4)ア.(イ)」)。
しかしながら、請求人は、どのような理由で、縦方向直線溝の付加が容易であり、設計的事項と言えるかについては、何ら具体的に説明していない。
そこで、請求人の上記主張において、本件明細書の「押出機の金型で押出する過程」との記載への言及があることから、「押出機の金型で押出する」という手段が本件考案の出願前に公知又は周知である旨を主張するものであると解して検討すると、そもそも、芝糸繊維に縦方向直線溝を形成することは、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証のいずれにも記載も示唆もない。
そうすると、甲1考案において芝糸繊維に縦方向直線溝を形成すること自体が当業者がきわめて容易になし得たことではないと認められるから、縦方向直線溝を形成するための手段が公知又は周知であるか否かにかかわらず、甲1考案において芝糸繊維に縦方向直線溝を形成することは、当業者がきわめて容易に想到することができたものではない。
以上のとおりであるから、請求人の上記主張は採用することができない。

エ.小括
以上のとおりであるから、本件考案4は、甲1考案並びに甲2考案及び甲5考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。

(2)本件考案5について
本件考案5は、本件考案4の構成をすべて含みさらに限定したものであるから、上記「(1)」と同様の理由により、甲1考案並びに甲2考案及び甲5考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。

3.甲3考案を主引用考案とする場合
(1)本件考案4について
ア.対比
(ア)甲3考案は「合成繊維をパイルとして植設する芝生状外観を有するカーペツト」であるところ、「カーペツト」という名称や「合成繊維をパイルとして植設する」ことからみて布状の基材を有していることは明らかであって、甲3考案の当該基材は、本件考案4の「基布(1)」に相当する。

(イ)甲3考案は「合成繊維をパイルとして植設する」ものであるから、上記「(ア)」の検討を踏まえると「パイル」が基材に植設されることは明らかであるものの、植設がタフティングによるものか否かは明らかでない。
また、「合成繊維としては、ポリマーから紡糸延伸されて得られる繊維が有効であり、ポリマーは芝生類似の色調を与えるための顔料等を含有していてもよい」から、甲3考案の「パイル」は「芝生類似の色調」を有していると認められるものの、複数種類の色の「パイル」を用いるか否かも明らかでない。
そうすると、甲3考案の当該「パイル」と、本件考案4の「前記基布(1)にタフティングした少なくとも3種類の色の芝糸繊維」とは、「基布に植設した芝糸繊維」の点で共通する。

(ウ)甲3考案は「合成繊維をパイルとして植設する」ものであり、「合成繊維は、合成高分子溶融物を、ノズルを用いて紡出した後、空冷もしくは水冷し、続いて延伸、乾燥して得られる繊維であ」るから、当該「合成繊維」はストレートヤーンであると解するのが自然である。
そうすると、甲3考案の「パイルとして植設する」「合成繊維」がストレートヤーンである点と、本件考案4の「前記芝糸繊維が捲縮ヤーン繊維(3)および/または少なくとも2種の色のストレートヤーン繊維(2)を含むこと」とは、「芝糸繊維がストレートヤーン繊維を含むこと」で共通する。

(エ)甲3考案は、「合成繊維は、合成高分子溶融物を、ノズルを用いて紡出した後、空冷もしくは水冷し、続いて延伸、乾燥して得られる繊維であ」るから、「合成繊維」はノズルによって形成される均一な断面形状を連続的に有すると認められる。そして、甲3考案の「パイル」は、このような「合成繊維をパイルとして植設する」ものであって、「扁平部とその扁平部の片側にのみ突出した1個または複数個の突起部とよりなる断面構造を有する」から、「突起部」はパイルの縦方向に直線状に形成されるものと認められる。
また、上記「1.(3)ア.(イ)」の記載によれば、ノズルの形状としては第2図に示したものを用いることができ、上記「1.(3)ア.(ウ)」の記載によれば、第2図の形状を有するノズルから紡糸されたモノフィラメント横断面は、第3図に示されたものであると理解できる。
そこで、上記「1.(3)ア.(エ)」の第3図〔ロ〕をみると、「複数個の突起部」と当該「複数個の突起部」間に形成される部位を看取することができ、上記のとおり当該「複数個の突起部」は縦方向に直線状に形成されるから、「複数個の突起部」間に形成される部位も縦方向に直線状に形成されるものであって、溝といい得るものであると認められる。
そうすると、甲3考案において「パイル」が「扁平部とその扁平部の片側にのみ突出した1個または複数個の突起部とよりなる断面構造を有する」点と、本件考案4において「前記ストレートヤーン繊維(2)と捲縮ヤーン繊維(3)の少なくとも一面に複数の縦方向直線溝(4)が設けられ、前記直線溝(4)の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種である」点とは、「ストレートヤーン繊維の一面に複数の縦方向直線溝が設けられる」点で共通する。

(オ)甲3考案の「芝生状外観を有するカーペット」と、本件考案4の「多色多形態人工芝」とは、「人工芝」の点で共通する。

(カ)以上を総合すると、本件考案4と甲3考案とは、
「人工芝であって、基布、前記基布に植設した芝糸繊維を含み、前記芝糸繊維がストレートヤーン繊維を含み、
前記ストレートヤーン繊維の一面に複数の縦方向直線溝が設けられる人工芝。」
で一致し、次の点で相違する。

(相違点A)
人工芝糸が、本件考案4においては「多色多形態」人工芝糸であるのに対して、甲3考案においてはそのようなものでない点。

(相違点B)
芝糸繊維が、本件考案4においては基布に「タフティングした」ものであるのに対して、甲3考案においてはそのようなものでない点。

(相違点C)
直線溝が、本件考案4においては「断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種である」のに対して、甲3考案においてはそのようなものでない点。

イ.検討
事案に鑑み、まず相違点Cについて検討する。

(ア)甲3考案の「パイル」は「扁平部の片側にのみ突出した1個または複数個の突起部」を有するものであるが、「突起部」の断面形状は特定されていないから、「複数個の突起部」間に形成される「溝」についても、その断面形状は明らかでない。
また、甲第3号証の「1.(3)ア.(オ)」の第3図からも、当該「溝」の断面形状を長方形、三角形、半円形、半楕円形とした点を看取することはできない。
そして、甲第3号証の上記「1.(3)ア.(イ)」の記載によれば、甲3考案は「扁平部の片側にのみ突出した1個または複数個の突起部」を有することにより、「カーペツトが上部より圧縮されたとき、各繊維の変形方向がその断面に特有な一定方向をとり、弾性回復が非常に良好となる」という作用を生じ、「天然芝、特に高麗芝に非常によく似た感触を与える」という効果を奏すると認められるところ、このような作用及び効果が「突起部」を特定の断面形状としたことによって生じるものではないことは明らかであるから、甲3考案の「パイル」において「直線溝の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種である」ようにする技術的必要があるとも認められない。

(イ)また、甲4考案は「カットパイル」を備えるものであるが、その断面形状は明らかでない。

(ウ)そうすると、「直線溝の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種である」点は、甲第3号証及び甲第4号証のいずれにも記載されておらず、示唆もない。

(エ)そして、本件考案4は相違点Cに係る構成を備えることにより、本件明細書の段落【0029】に記載の「より現実的に天然芝の脈を模倣でき、具体的な使用場所に対して摩擦係数を増大する役割を果たす。」という効果を奏するものと認められる。

(オ)また、請求人の主張(上記「第3 2.(5)」)については、上記「2.(1)ウ.」と同様のことがいえる。

エ.小括
以上のとおりであるから、本件考案4は、甲3考案及び甲4考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。

(2)本件考案5について
本件考案5は、本件考案4の構成をすべて含みさらに限定したものであるから、上記「(1)」と同様の理由により、甲3考案及び甲4考案から当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。

4.甲5考案を主引用考案とする場合
(1)本件考案4について
ア.対比
(ア)甲5考案の「高迫真性人工芝生」は「第一層及び第四階層の人工芝繊維がエメラルドグリーンであり、第二層及び第三階層の人工芝繊維がオリーブグリーンであ」るから、多色を有するものであり、「第一層ないし第四階層の人工芝繊維がそれぞれ異なる断面形状を有する」から多種類の形態を有するものである。
そうすると、甲5考案の当該「高迫真性人工芝生」は、本件考案4の「多色多形態人工芝」に相当する。

(イ)甲5考案の「底基布」は、本件考案4の「基布(1)」に相当する。

(ウ)甲5考案の「人工芝繊維」は「第一層及び第四階層の人工芝繊維がエメラルドグリーンであり、第二層及び第三階層の人工芝繊維がオリーブグリーンであ」るから、2種類の色を有するものの、少なくとも3種類の色を有するものではない。
そうすると、甲5考案の「底基布上にタフティングされた人工芝繊維タフト」と、本件考案4の「前記基布(1)にタフティングした少なくとも3種類の色の芝糸繊維」とは、「基布にタフティングした芝糸繊維」の点で共通する。

(エ)甲5考案の「底基布の背面に塗布された粘着剤層」は、本件考案4の「前記基布(1)の裏面に塗布した接着剤」に相当する。

(オ)甲5考案の「人工芝繊維」は「ポリエチレンなどを帯状茎形の型から押し出して、人工芝繊維を製造」するものであるから、当該「人工芝繊維」はストレートヤーンであると解するのが自然である。また、上記「(ウ)」のとおり、甲5考案の「人工芝繊維」は2種類の色を有するものである。
そうすると、甲5考案のこの点と、本件考案4の「前記芝糸繊維が捲縮ヤーン繊維(3)および/または少なくとも2種の色のストレートヤーン繊維(2)を含む」とは、「前記芝糸繊維が2種の色のストレートヤーン繊維を含む」点で共通する。

(カ)以上を総合すると、本件考案4と甲5考案とは、
「多色多形態人工芝であって、基布、前記基布にタフティングした芝糸繊維、および前記基布の裏面に塗布した接着剤を含み、前記芝糸繊維が2種の色のストレートヤーン繊維を含む多色多形態人工芝。」
で一致し、次の点で相違する。

(相違点a)
芝糸繊維が、本件考案4においては「少なくとも3種類の色」のものであるのに対して、甲5考案においてはそのようなものでない点。

(相違点b)
本件考案4は「ストレートヤーン繊維(2)と捲縮ヤーン繊維(3)の少なくとも一面に複数の縦方向直線溝(4)が設けられ、前記直線溝(4)の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種である」のに対して、甲5考案はそのような構成を有さない点。

イ.検討
事案に鑑み、まず相違点bについて検討する。

(ア)上記「2.(1)イ.(イ)」で検討したとおり、甲5考案は「第一層ないし第四階層の人工芝繊維がそれぞれ異なる断面形状を有する」ものであり、甲第5号証の図3(上記「1.(5)ア.(ク)」)には各層(階層)の人工芝繊維の具体的な断面形状が図示されているが、いずれも「少なくとも一面に複数の縦方向直線溝が設けられ、前記直線溝の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種である」ものではない。

(イ)そうすると、「ストレートヤーン繊維と捲縮ヤーン繊維の少なくとも一面に複数の縦方向直線溝が設けられ、前記直線溝の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種である」点は、甲第5号証には記載されておらず、示唆もない。

(ウ)そして、本件考案4は相違点bに係る構成を備えることにより、本件明細書の段落【0029】に記載の「より現実的に天然芝の脈を模倣でき、具体的な使用場所に対して摩擦係数を増大する役割を果たす。」という効果を奏するものと認められる。

ウ.小括
以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件考案4は、甲5考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。

(2)本件考案5ないし8について
本件考案5ないし8は、本件考案4の構成をすべて含みさらに限定したものであるから、上記「(1)」と同様の理由により、甲5考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。

(3)本件考案9及び10について
ア.対比
本件考案9及び10は、本件考案4の構成をすべて含みさらに限定したものであるから、本件考案9及び10と甲5考案とは、少なくとも上記「(1)ア.(カ)」の相違点a及びbにおいて相違する。

イ.検討
事案に鑑み、まず相違点bについて検討する。

(ア)甲5考案については、上記「(1)イ.」で検討したとおりである。

(イ)また、上記「2.(1)ア.」で対比したとおり、甲1考案も、「少なくとも一面に複数の縦方向直線溝が設けられ、前記直線溝の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種である」ものではない。

(ウ)そうすると、「ストレートヤーン繊維と捲縮ヤーン繊維の少なくとも一面に複数の縦方向直線溝が設けられ、前記直線溝の断面形状が長方形、三角形、半円形、半楕円形のうちの少なくとも1種である」点は、甲第5号証及び甲第1号証のいずれにも記載されておらず、示唆もない。

ウ.小括
そうすると、本件考案9及び10は、甲5考案及び甲1考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。

第6 むすび

以上のとおり、本件考案4ないし10に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものではないから、請求人の主張する無効理由及び証拠方法によっては、本件考案4ないし10に係る実用新案登録を無効とすることはできない。
請求項1ないし3に係る無効審判の請求は却下する。
審判に関する費用については、実用新案法第41条の規定において準用する特許法第169条第2項の規定によりさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。

審判長 住田 秀弘
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
審理終結日 2022-06-20 
結審通知日 2022-06-23 
審決日 2022-07-29 
出願番号 U2019-001527 
審決分類 U 1 114・ 121- Y (E01C)
最終処分 02   不成立  
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 前川 慎喜
居島 一仁
登録日 2019-06-19 
登録番号 3222143 
考案の名称 多色多形態人工芝  
代理人 瀬戸 麻希  
代理人 弁理士法人コスモス国際特許商標事務所  
代理人 廣瀬 峰太郎  
代理人 坪内 康治  

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