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審決分類 審判    H01L
審判    H01L
審判    H01L
管理番号 1032411
審判番号 新実用審判1999-40025  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-11-15 
確定日 2000-11-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第3058769号実用新案「CPUアダプタ」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 登録第3058769号実用新案の明細書の請求項1?8に記載された考案についての登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 [1]手続の経緯・本件考案
本件実用新案登録第3058796号の請求項1?8に係る考案(平成10年10月29日出願、平成11年3月10日設定登録。以下、「本件考案1?8」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1?8に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 パーソナルコンピュータ等の情報処理装置のマザーボード上に取り付けられたCPUソケットとCPUとの間に配置するCPUアダプタにおいて、
一方の面にCPUを装着するためのピンソケットを設けた第1の基板と、
前記第1の基板の他方の面側に位置し、前記CPUソケットに装着するためのピンを設けた第2の基板と、を備え、
前記第2の基板は、前記CPUソケットにおけるCPUの取り付け面積と略同じ大きさであるCPUアダプタ。
【請求項2】 前記CPUソケットは、取り付けられたCPUのピンが係合するツメと、
前記ツメに前記CPUのピンが係合した係合状態と係合していない非係合状態とを切り換えるレバーと、を有するとともに、
前記CPUの取り付け面の側部に、前記レバーの支点を保持する突起部を設けた請求項1に記載のCPUアダプタ。
【請求項3】 前記第2の基板に設けたピンは、前記CPUに設けられているピンと略同じ長さである請求項1または2に記載のCPUアダプタ。
【請求項4】 前記第1の基板の一方の面に取り付けたCPUに接続される付加回路を備えた請求項1、2または3に記載のCPUアダプタ。
【請求項5】 前記マザーボードに接続される付加回路を備えた請求項1、2または3に記載のCPUアダプタ。
【請求項6】 前記付加回路は、前記第1および第2の基板上に構成されている請求項4または5に記載のCPUアダプタ。
【請求項7】 前記付加回路は、CPUへの電源電圧を調整するレギュレータ回路である請求項4、5または6のいずれかに記載のCPUアダプタ。
【請求項8】 前記付加回路は、CPUと前記情報処理装置本体との間における信号の電圧レベルを調整する回路を含む請求項4?6または7のいずれかに記載のCPUアダプタ。」

[2]請求人の主張及び証拠方法
これに対し、請求人は、平成11年11月15日付けで本件無効審判の請求をして、本件実用新案登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、以下の理由1?3を挙げて、その実用新案登録は無効とされるべきであると主張し、その証拠方法として甲第1?6号証及び参考資料1?8を提出している。
(理由1)本件考案1?8は未完成考案であるから、その実用新案登録は実用新案法第3条第1項柱書きの規定に違反してされたものである。
(理由2)本件考案1は甲第1号証に記載された考案であるから、その実用新案登録は同法第3条第1項の規定に違反してされたものである。
(理由3)本件考案1?5は甲第1?3号証に記載された考案に基づいて、また、本件考案6は甲第1?4号証に記載された考案に基づいて、また、本件考案7は甲第1?5号証に記載された考案に基づいて、さらに、本件考案8は甲第1?6号証に記載された考案に基づいて、それぞれ当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、その実用新案登録は同法第3条第2項の規定に違反してされたものである。

[3]被請求人の主張及び証拠方法
一方、被請求人は、上記理由1?3に対して、本件考案1?8は、未完成考案ではない、本件考案1は甲第1号証に記載された考案ではない、さらに、本件考案1?8は甲第1?6号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではないから、本件無効審判の請求は成り立たない旨主張し、その証拠方法として乙第1?4号証を提出している。

[4]甲第1?6号証及び参考資料1?8の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証の特開平9-331124号公報には、PGAソケットモジュールに関する考案が、図1?10とともに開示され、さらに、以下の事項が記載されている。

図10の説明として、
「【0005】図10にはアップグレード後の状態が示されている。同図において、上側ソケット56及び下側ソケット57間に変換基板58を配置してなるモジュール66が介在されている。リジッドなプリント配線板からなる変換基板58には、多数のスルーホールが形成されている。それらのスルーホールのうち約半数のものには、下側ソケット57側と変換基板58とを電気的に接続するピン59が挿通されかつはんだ付けされている。また、前記スルーホールのうち残りのものには、上側ソケット56の下面から突出するソケット状ピン60がはんだ付けされている。その結果、上側ソケット56の挿通穴には、高機能なPGA61のI/Oピン62が通過可能となっている。また、下側ソケット57の下面側には、ソケット52のソケット状ピン54の挿通穴に対して挿抜可能なソケット状ピン63が突設されている。
【0006】そして、変換基板58において上側ソケット56の存在しない領域には、信号変換用のプログラムが格納されたIC64や、電圧を変換するための抵抗65等が実装されている。従って、このような構成にすると、PGA61をマザーボード53に適合させることができ、PGA61の本来の性能を充分に発揮できるようになっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところが、図10のようなPGAソケットモジュール66を使用した場合、下側ソケット57と変換基板58と上側ソケット56とが必要となることから、必然的に全体が肉厚になる。・・・
【0008】一方、肉厚化等を回避すべくソケット56、57や変換基板58を使用せずにPGA61をそのまま搭載した場合には、信号等の変換がなされなくなり高速化を充分に図ることができなくなる。」

図2の説明として、
「【0028】図2に示されるように、マザーボード41にはあらかじめ固定ソケット42がはんだ付けによって脱着不能に固定されており、モジュール1はこの固定ソケット42の上面側に搭載された状態で使用される。このとき、第1のソケット状ピン6及び外部接続用ピン7は、固定ソケット42の有するソケット状ピン43の挿通穴に挿通される。なお、部品交換を行う際の便宜を図るため、当該接続部位にははんだ付けがなされない。
【0029】一方、使用時に置いてPGA24は、モジュール1を構成するソケット3の上面側に搭載される。このとき、PGA24のI/Oピン31は、ソケット3の有するソケット状ピン6の挿通穴30に挿通される。そして、このときにはPGA24側とマザーボード41側とがモジュール1を介して電気的に接続される。従って、信号等はPGA24とマザーボード41との間を行き交うことが可能となる。その際、信号等がFPC2の電子部品11?13によって適宜変換されることにより、PGA24本来の機能が充分発揮される状態となる。」

実施例の説明として、
「【0036】以下、本実施形態において特徴的な作用効果を列挙する。
(イ)このPGAソケットモジュール1では、PGA24とマザーボード41との間を行き交う信号が、変換基板としてのFPC2において変換されるようになっている。・・・
【0037】(ロ)このモジュール1は、FPC2の上面側のみにソケット3を配置した構成を採っている。従って、変換基板の上下両面側にソケットを配置した従来の構成に比べて全体が肉薄になり、その分だけモジュール1の小型化を達成することができる。」

図6の説明として、
「【0043】(2)図6に示される別例2のモジュール45のように、フレキシブル基材層35aとリジッド基材層35bとからなるFPC35を変換基板として使用してもよい。このモジュール45では、ソケット3の側面よりも張り出した延出領域18の付け根はフレキシブル基材層35aのみとなっており、当該部分がこのFPC35における湾曲可能部位B1となっている。従って、このモジュール45では実施形態と比べて肉厚になるものの、外形寸法については小型化を図ることができる。」

以下、上記第6図及びその説明に関する記載についての考案を「第1の考案」、上記第10図及びその説明に関する記載についての考案を「第2の考案」という。

(2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証の特開平6-301442号公報には、マザーボード上のCPUに代替して処理速度を高速化する高速処理装置に関する考案が、図2とともに開示され、さらに、図2の説明として以下の事項が記載されている。
「【0014】図2は、高速処理装置100の外形を示す正面図である。図2に示すように、高速処理装置100は、数値演算プロセッサ用に用意されたソケット2に装着されるターミナルピンが設けられた信号変換用基板40と、この基板40の上に取り付けられたCPU3およびその周辺回路を搭載した回路用基板50とからなる。信号変換用基板40は、本来数値演算プロセッサ用のソケット2に高速動作可能なCPU3を取り付ける関係で、CPU3のピン配列とソケット2のピン配列に存在する僅かな相違(実施例では3本)を入れ換えるために用いらてれる。
【0015】一方、回路用基板50は、CPU3や後述する周辺回路を構成するPLAやデイジタルデイレイラインさらには抵抗器やジャンパ線等を取り付ける基板である。なお、CPU3には、その上面に、放熱用のヒートシンク60が取り付けられている。
【0016】高速処理装置100の回路構成について説明する。高速処理装置100は、・・・クロック逓倍回路3aと、・・・タイミング制御回路3bと、・・・バス制御回路3cとを備える。」

(3)甲第3号証の記載事項
甲第3号証の特開平9-320717号公報には、CPUなどの半導体チップをプリント配線基板などに接続するために用いるPGAソケットに関する考案が、図1とともに開示され、さらに、図1の説明として以下の事項が記載されている。
「【0005】半導体チップ12が接続されたPGAソケット1は、プリント配線基板14に接続され、さらにソケット17を介してマザーボード19に搭載される。このとき、PGAソケット1のコンタクトピン3、それに対応するプリント配線基板14の上面のコンタクトホール15及び下面のコンタクトピン16、さらにソケット17に設けられているコンタクトホール18によって、これらの構成要素間の電気的接続が確保される。なお、プリント配線基板14の上には、必要に応じて、他のICチップ21や、半導体チップ12の動作クロックを切替えられるための切り換えスイッチ22などが設けられる。」
さらに、図1には、ソケット17にはレバーと、レバーの支点を保持する突起部に相当するものが記載されている。

(4)甲第4号証の記載事項
甲第4号証の特開平6-266423号公報には、プログラム制御により入出力を制御するシーケンサに関する考案が、図1?4とともに開示され、さらに、CPU基板1の一方の面に取り付けられたCPU4に接続されると共に、基板の外部にある入力装置及び出力装置にも接続される付加回路として、PIO5及び入出力インタフェース6で構成される回路が開示され、そして、この付加回路を構成するPIO5及び入出力インタフェース6のうち,PIO5はCPU基板1上に、入出力インタフェース6はインタフェース基板2上に、それぞれ設けられており、上記付加回路がCPU基板1及びインタフェース基板2上に構成されていること、また、この付加回路が構成されているCPU基板1及びインタフェース基板2が、上下に並んで配置され得ることが開示されている(段落【0020】?【0024】、【0034】参照)。

(5)甲第5号証の記載事項
甲第5号証の実用新案登録第3042946号公報には、CPUグレードアップ用コンセントに関する考案が、図1?3とともに開示され、さらに、電源コネクタ20と、電圧安定器30と、電圧安定集積回路40と、プログラマブル論理制御装置60と、調整スイッチセット70などの付加回路を備えた、CPUアダプタであるCPUグレードアップ用コンセントが開示され、また、これら付加回路のうち、電圧安定器30及び調整スイッチセット70は、CPUへの電源電圧を2.5?5.5Vの間で調整し得るレギュレータ回路を構成していることが開示されている(段落【0008】?【0010】参照)。

(6)甲第6号証の記載事項
甲第6号証の特開平5-341895号公報には、外部からの入力デジタル信号をCPUに入力可能な信号レベルに変換してCPUに入力するコンピュータの信号入力回路に関する考案において、CPUに入力される信号の電圧レベルを調整する回路が、図5とともに開示されている。

(7)参考資料1の記載事項
参考資料1の「MS-DOS/98基礎研究 CPUアクセラレータを知ろう」第27、57、58頁(1995年3月5日 株式会社メルコ発行)には、CPU用ソケットのタイプとして、ロックレバー付(ピンタイプ)とロックレバーなし(埋込タイプ)があり、ロックレバーがある場合は、ロックレバーを引き上げて数値演算プロセッサを外すことが開示されている。

(8)参考資料2の記載事項
参考資料2の「EPSON PC-386GE ユーザーズマニュアル」第116?119頁(1991年6月7日発行)には、数値演算プロセッサをソケットに挿入することが開示されている。

(9)参考資料3の記載事項
参考資料3の「EPSON PC-486MU PC-486MS PC-486MR ユーザーズマニュアル」第83?86頁(1997年7月8日発行)には、ODPソケットの着脱レバーを起こし、ODPを装着してから着脱レバーを倒すことが開示されている。

(10)参考資料4の記載事項
「モノづくり解体新書 七の巻」第76?79頁(1995年3月20日 株式会社日刊工業新聞社発行) 省略

(11)参考資料5の記載事項
甲第1号証における図6の構成にCPUソケットの突起部を追加した図 省略

(12)参考資料6の記載事項
実用新案登録第3058769号の実用新案技術評価書(平成11年12月21日作成) 省略

(13)参考資料7の記載事項
特開平9-331125号公報 省略

(14)参考資料8の記載事項
特開平5-303989号公報 省略

[5]乙第1?4号証の記載事項
(1)乙第1号証の記載事項
「DOS/Vマガジン」1966年11・15号 省略
なお、乙第1号証については、原本のみ提出され、正本、副本については提出されていない。

(2)乙第2号証の記載事項
乙第2号証の「I・O DATA 主要製品カタログ」平成10年8月号には、CPUのPCアップについて、CPUの横にあるレバーを引き起こして、端の部分をつまむようにしてCPUを取り外すことが、写真とともに開示されている。(III頁参照)

(3)乙第3号証の記載事項
乙第3号証の「I・O DATA 主要製品カタログ」平成10年7月号には、上記乙第2号証と同様の事項が開示されている。

(4)乙第4号証の記載事項
本件実用新案登録第3058769号の実用新案技術評価書(平成11年1月4日作成) 省略

[6]対比・判断
請求人の上記主張の妥当性について、以下検討する。

(1)本件考案1?8の未完成考案について
(1-1)当審の判断
請求人の主張の概要は、本件考案1の、「前記第2の基板は、前記CPUソケットにおけるCPUの取り付け面積と略同じ大きさである」との構成では、本件実用新案登録明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0032】に記載されているような効果を奏し得ないから、本件考案1は実用新案法第3条第1項柱書に規定する「産業上利用できる考案」ではない、というものである。
ところで、本件考案1の第1の目的は「CPUアダプタ」を提供することにあるから、本件考案1が産業上利用できる考案であるか否かの判断は、本件考案1がCPUアダプタとしての機能を奏するに十分な構成を備えているか否かを判断することにより行うべきである。
そこで、以下検討するに、本件考案1の構成をA?Eに分説して示すと次のとおりである。
「A.パーソナルコンピュータ等の情報処理装置のマザーボード上に取り付けられたCPUソケットとCPUとの間に配置するCPUアダプタにおいて、
B.一方の面にCPUを装着するためのピンソケットを設けた第1の基板と、
C.前記第1の基板の他方の面側に位置し、前記CPUソケットに装着するためのピンを設けた第2の基板と、を備え、
D.前記第2の基板は、前記CPUソケットにおけるCPUの取り付け面積と略同じ大きさである
E.CPUアダプタ。」
請求人は、特に、上記の構成Dを問題としているので、構成Dについてさらに検討すると、第2の基板にはCPUソケットに装着するためのピンが設けられており、本件考案1はこのピンがCPUソケットに装着されることを当然の前提としていることから、「第2の基板」がCPUソケットにおけるCPUの「取り付け面積」と略同じ大きさであるからといって(また、その場合、第2の基板の形状がCPUソケットにおけるCPUの取り付け部の形状と略同じであっても、またそうでなくとも)、本件考案1がCPUアダプタとしての機能を奏し得ないとすることはできない。
請求人は、本件考案1の、「前記第2の基板は、前記CPUソケットにおけるCPUの取り付け面積と略同じ大きさである」との構成では、本件実用新案登録明細書の段落【0032】に記載されているような効果を奏し得ない旨主張している。
しかしながら、実用新案登録の範囲には、「実用新案登録を受けようとする考案」を記載することとされており(実用新案法第5条第6項)、本件実用新案権者は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲に実用新案登録を受けようとする考案を記載したのである。
そして、本件考案1の前記構成A?Eによって、本件考案1は、少なくともCPUアダプタとしての機能(技術効果)を奏するための構成を備えているとすることができる程度に具現化され、客観化されているから、本件考案1が、本件明細書の段落【0032】に記載されているような効果を奏し得るような構成を備えていないとしても、これをもって、本件考案1が未完成考案であるとするのは相当ではない。
また、本件考案2?8については、少なくとも本件考案1を引用してさらに構成を付加するものであるから、本件考案1についての上記の判断と同様に、未完成考案であるとするのは相当ではない。
してみると、請求人は、陳述要領書において、本件請求項1における「前記第2の基板は、前記CPUソケットにおけるCPUの取り付け面積と略同じ大きさである」の記載の技術的意義は明確であり、「面積が同一で形状が異なる構成」を含むことは論をまたない旨主張しているが、この主張のとおり、「CPUの取り付け面積と略同じ大きさ」のものが、「面積が同一で形状が異なる構成」を含んでいることは明らかであるにしても、上記(1-1)において述べたように、本件考案1?8は、当業者であれば何人も反復実施してその目的とする技術効果を上げることができる程度まで具現化され、客観化されている。
そうである以上、請求人が上申書において主張するように、本件考案1?8が本件明細書に記載の技術的効果、すなわち、CPUソケットに対してCPUアダプタを略水平に取り付けることができる効果を奏するためには、「第2の基板がCPUソケットにおけるCPUの取付部の形状と略同一である」ことと、[CPUソケットにおけるCPUの取付部の上面から第1の基板の下面までの距離が、CPUソケットにおける突起部の高さよりも長い」ことが、それぞれ必要であるとしても、請求項1?8の記載から明らかなように、本件考案1?8のCPUアダプタが取り付け対象としているCPUソケットは、突起部を備えている場合も備えていない場合も、いずれの場合も含むものであるから、未完成考案とすることはできない。

(1-2)まとめ
したがって、請求人の、本件考案1?8は未完成考案であるとの主張は、採用できない。

(2)本件考案1の新規性について
(2-1)当審の判断
本件考案1と甲第1号証の第1の考案(図6参照)とを対比すると、第1の考案における「ソケット3」、「固定ソケット42」は、本件考案1における「ピンソケット」、「CPUソケット」に相当し、また、甲第1号証の図1に記載された、FPC(フレキシブルプリント配線板)2の幅とソケット3の幅は、いずれも、CPUであるPGA24の幅と略同じ幅となっていることからみて、リジッド基材層35bの幅は、固定ソケット42におけるCPU取り付け部分の幅と略同じ幅であると認められ、また、図6の記載からみて、リジッド基材層35bの長さも、固定ソケット42におけるCPUの取り付け部分の長さと略同じ長さと同じとなっているので、第1の考案のリジッド基材層35bは、固定ソケット42におけるCPUの取り付け面積と略同じ大きさであると認められる。
そうすると、両者は、「パーソナルコンピュータ等の情報処理装置のマザーボード上に取り付けられたCPUソケットとCPUとの間に配置するCPUアダプタにおいて、一方の面にCPUを装着するためのピンソケットを設けた第1の板体と、前記第1の板体の他方の面側に位置し、前記CPUソケットに装着するためのピンを設けた第2の板体と、を備え、前記第2の板体は、前記CPUソケットにおけるCPUの取り付け面積と略同じ大きさであるCPUアダプタ」の点で一致する。
しかしながら、板体が、本件考案1においては「第1、2の基板」であるのに対し、甲第1号証の第1の考案では「フレキシブル基材層35a、リジッド基材層35b」である点で相違する。
そして、上記相違点について検討すると、甲第1号証の段落【0043】には、「フレキシブル基材層35aとリジッド基材層35bとからなるFPC35を変換基板として」と記載され、FPCが2つの基材層を一体化した1つの基板であることを明示し、また、図6に記載のソケット3のソケット状ピン15が固定ソケット42まで挿通していることからみて、フレキシブル基材層35aとリジッド基材層35bとがスルーホールによって接続されていることは明らかである。
してみると、フレキシブル基材層35a、リジッド基材層35bのそれぞれは、元々は独立した基板であるとしても、第1の考案においては、2つの基材層を一体化して1つの変換基板として使用しているから、2つの基材層を、それぞれ本件考案1の第1、2の基板に相当すると認めるのは合理的ではない。
そして、請求人の、陳述要領書における、本件考案1は、第2の基板が第1の基板の他方の面側に位置し、しかも、第1の基板と接着剤等で接着されているような構成も含まれると解される旨の主張は、本件考案1の「第1の基板」が、調書における被請求人の主張のように、ピンが取り付けられていることを前提としていることからみて、採用できない。

(2-2)まとめ
したがって、本件考案1は、甲第1号証に記載の第1の考案ではない。

(3)本件考案1?8の進歩性について
(3-1)本件考案1について
1)当審の判断
本件考案1と甲第2号証に記載の考案とを対比すると、甲第2号証の図2に記載の高速処理装置100は、マザーボード上に配置された「ソケット2」に装着される「信号変換用基板40」と、この基板40上に取り付けられる、CPU3を搭載した「回路用基板50」とからなるものであるから、甲第2号証に記載の考案における、「ソケット2」、「回路用基板50」及び「信号変換用基板40」は、本件考案1における、「CPUソケット」、「第1の基板」及び「第2の基板」に相当し、本件考案1の「CPUアダプタ」が、引用考案の「信号変換用基板40と回路用基板50を組み合わせたもの」に相当することは明らかである。
また、甲第2号証に記載の「回路用基板50」は、図2の実施例から明らかなように、ピンに相当するものを備えており、本件考案1の「第1の基板」も、被請求人が調書において主張しているように、ピンが取り付けられていることが前提であること、また、「回路用基板50」は、周辺回路を備えているものであり、本件考案1の「第1の基板」も、その実施例においては付加回路を備えているから、「第1の基板」に相当するものである。
また、甲第2号証に記載の「信号変換用基板40」は、CPU3のピン配列とソケット2のピン配列に存在する僅かな相違を入れ替えるためのものであるが、ソケット2に装着するターミナルピンが設けられているから、この「信号変換用基板40」は、本件考案1のCPUソケットに装着するためのピンを設けた「第2の基板」に相当することは明らかである。
さらに、甲第2号証の図2をみると、ソケット2には、本件考案1の実施例に記載されている、CPUソケットに保持されたレバー33に相当するものが取り付けられており、また、それが仮にレバーではないとしても、請求人が提出した参考資料1、3及び被請求人が提出した乙第2、3号証に記載されているように、レバーを備えたタイプのCPUソケットは本件出願前に周知のものであるから、甲第2号証に記載の考案のソケット2をレバーを備えたタイプのものとするようなことは適宜になし得ることである。
そして、レバーを備えたタイプのCPUソケットは、上記参考資料1、3及び乙第2、3号証に記載されているように、CPUソケットのレバーを引き起こしてCPUを取り外すものであることから、「信号変換用基板40」はソケット2に対して取り外し可能であると認められる。
そうすると、本件考案1と甲第2号証に記載の考案とは、「パーソナルコンピュータ等の情報処理装置のマザーボード上に取り付けられたCPUソケットとCPUとの間に配置するCPUアダプタにおいて、一方の面にCPUを装着する第1の基板と、前記第1の基板の他方の面側に位置し、前記CPUソケットに装着する第2の基板と、を備えたCPUアダプタ」の点で一致する。
しかしながら、本件考案1の「第1の基板」が一方の面にCPUを装着するためのピンソケットを設けているのに対し、甲第2号証に記載の考案の「回路用基板50」は、図2の記載からみて、その上面に直接CPU3を搭載している点(相違点1)、及び本件考案1の「第2の基板」がCPUソケットにおけるCPUの取り付け面積と略同じ大きさであるのに対し、甲第2号証に記載の考案の「信号変換用基板40」は、図2の記載をみると、ソケット2の長さよりも長いものの、その面積は、ソケット2におけるCPU3の取り付け面積と略同じ大きさであるか否か不明である点(相違点2)で、それぞれ相違する。
そこで、上記相違点1、2について、以下検討する。

<相違点1について>
甲第2号証に記載の「回路用基板50」は直接CPU3を搭載しているが、基板上にCPUを装着するためのピンソケットを設けることは、甲第1号証に記載のソケット3、上側ソケット56、甲第3号証に記載のPGAソケット1のように、本件出願前に普通に行われていることからみて、この「回路用基板50」上にピンソケットを設けてCPUを装着するようなことは適宜になし得ることである。

<相違点2について>
甲第2号証に記載の「信号変換用基板40」は、上述したように、CPU3のピン配列とソケット2のピン配列に存在する僅かな相違を入れ替えるためのものであるから、「信号変換用基板40」のターミナルピンのピン配列は、CPUのピン配列とソケット2のピン配列の双方のピン配列に対して、ほぼ同様のピン配列になっているものと解するのが相当である。そして、ソケット2のピン配列を有する領域の面積、すなわち、ソケット2のピン配列の面積がCPUの取り付け面積にほぼ対応することになるから、「信号変換用基板40」のターミナルピンのピン配列の面積はソケット2のピン配列の面積とほぼ同じ大きさということになる。
そして、「信号変換用基板40」は、少なくともターミナルピンのピン配列の面積を確保すれば、CPU3のピン配列とソケット2のピン配列に存在する僅かな相違を入れ替えることができることは明らかであるから、「信号変換用基板40」の面積を、「信号変換用基板40」のターミナルピンのピン配列の面積と略同じ大きさとすること、すなわち、ソケット2のピン配列の面積と略同じ大きさとするようなことは適宜に設計しうることである。
ところで、被請求人は、答弁書において、本件考案1は、突起部を備えたCPUソケットに対しCPUアダプタを略水平に取り付けることができる効果を有するとの主張をしているが、請求項1の記載から明らかなように、本件考案1のCPUアダプタが取り付け対象としているCPUソケットは、必ずしも突起部を備えるものではないし、突起部を備えていなければ、CPUアダプタを略水平に取り付けることができることは明らかであり、被請求人の主張する効果は格別のものではない。
また、被請求人の、陳述要領書における、甲第2号証の図2に記載の「信号変換用基板40」は、ソケットのような着脱機能を持っていないから、該基板40を甲第1号証の第2の考案に適用すると、ソケット52に対して着脱できなくなる旨の主張についても、上記(3-1)1)において述べたように、「信号変換用基板40」はソケット2に対して取り外し可能であり、ソケット2に対しても着脱できるものと認められる。

2)まとめ
したがって、本件考案1は、甲第2号証に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

(3-2)本件考案2について
本件考案1を引用する本件考案2は、本件考案1の構成に、さらに、「前記CPUソケットは、取り付けられたCPUのピンが係合するツメと、前記ツメに前記CPUのピンが係合した係合状態と係合していない非係合状態とを切り換えるレバーと、を有するとともに、前記CPUの取り付け面の側部に、前記レバーの支点を保持する突起部を設けた」点の構成を付加したものである。
しかしながら、この点については、甲第2号証の図2をみると、ソケット2には、本件考案2のレバーや突起部に相当するものが取り付けられており、また、それらが仮にレバーや突起部ではないとしても、請求人が提出した参考資料1、3及び被請求人が提出した乙第2、3号証に記載されているように、レバーや突起部を備えたタイプのCPUソケットは本件出願前に周知のものであるから、甲第2号証に記載の考案のソケット2をレバーや突起部を備えたタイプのものとするようなことは適宜になし得ることである。
そして、レバーや突起部を備えたタイプのCPUソケットは、上記参考資料1、3及び乙第2、3号証に記載されているように、CPUソケットのレバーを引き起こしてCPUを取り外すものであることから、CPUソケットのレバーにより、CPUソケットのツメにCPUのピンが係合した係合状態と係合していない非係合状態とを切り換えているものと認められる。
したがって、本件考案2は、甲第1?3号証に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

(3-3)本件考案3について
本件考案1、2を引用する本件考案3は、本件考案1、2の構成に、さらに、「第2の基板に設けたピンが、CPUに設けられているピンと略同じ長さ」点の構成を付加したものである。
しかしながら、甲第1号証の図9には、PGA51のI/Oピン55をソケット52に挿通させている記載があるから、図10の第2の考案において、ソケット52に挿通させている、「下側ソケット57」に設けたソケット状ピン63の長さは、CPUであるPGA61に設けられているピン62と略同じ長さであると認められる。
そうしてみると、甲第2号証に記載の考案において、ソケット2に挿通させている「信号変換用基板40」のターミナルピンの長さとCPU3のピンの長さを略同じ長さとするようなことは、甲第1号証に記載のものからきわめて容易に設計できたものである。
したがって、本件考案3は、甲第1?3号証に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

(3-4)本件考案4について
本件考案1?3を引用する本件考案4は、本件考案1?3の構成に、さらに、「前記第1の基板の一方の面に取り付けたCPUに接続される付加回路を備えた」点の構成を付加したものである。
しかしながら、甲第2号証の図2に記載された「回路用基板50」は周辺回路を搭載していることから、CPU3に接続する付加回路を有することは明らかであり、上記の点で、本件考案4と甲第2号証に記載の考案に相違は認められない。
したがって、本件考案4は、甲第1?3号証に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

(3-5)本件考案5について
本件考案1?3を引用する本件考案5は、本件考案1?3の構成に、さらに、「前記マザーボードに接続される付加回路を備えた」点の構成を付加したものである。
しかしながら、甲第2号証の図2に記載された「回路用基板50」は周辺回路を搭載していることから、「回路用基板50」は、「信号変換用基板40」を介してマザーボードに接続する付加回路を有することは明らかであり、上記の点で、本件考案4と甲第2号証に記載の考案に相違は認められない。
したがって、本件考案5は、甲第1?3号証に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

(3-6)本件考案6について
本件考案4、5を引用する本件考案6は、本件考案4、5の構成に、さらに、「前記付加回路は、前記第1および第2の基板上に構成されている」点の構成を付加したものである。
しかしながら、甲第2号証に記載の考案の「信号変換用基板40」は、数値演算プロセッサ用のソケット2に高速動作可能なCPU3を取り付ける関係で、CPU3のピン配列とソケット2のピン配列に存在する僅かな相違を入れ替えるためのものであり、基板40上には、当然に配線が設けられており(必要ならば、甲第1号証に記載の(信号)変換基板2、35、58、特開平10-261758号公報に記載の(信号)変換基板2、32、42参照)、この配線により信号変換用の回路が構成されているものと認められる。そして、この信号変換用の回路は付加回路に相当するものであるから、上記の点で、本件考案6と甲第2号証に記載の発明に相違は認められない。
したがって、本件考案6は、甲第1?3号証に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

(3-7)本件考案7について
本件考案4?6を引用する本件考案7は、本件考案4?6の構成に、さらに、「前記付加回路は、CPUへの電源電圧を調整するレギュレータ回路である」点の構成を付加したものである。
しかしながら、甲第5号証には、CPUアダプタであるCPUグレードアップ用コンセントが備える付加回路のうち、電圧安定器30及び調整スイッチセット70は、CPUへの電源電圧を調整するレギュレータ回路を構成していることが開示されているから、このようなレギュレータ回路を、甲第2号証に記載の周辺回路として搭載することはきわめて容易なことである。
したがって、本件考案7は、甲第1?3、5号証に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

(3-8)本件考案8について
本件考案4?7を引用する本件考案8は、本件考案4?7の構成に、さらに、「前記付加回路は、CPUと前記情報処理装置本体との間における信号の電圧レベルを調整する回路を含む」点の構成を付加したものである。
しかしながら、甲第第6号証には、CPUに入力される信号の電圧レベルを調整する回路が開示され、しかも、このような調整回路はCPUと密接な関係がある回路であるから、係る回路を、甲第2号証に記載の周辺回路として搭載することはきわめて容易なことである。
したがって、本件考案8は、甲第1?3、5、6号証に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

[7]むすび
以上のとおりであるから、本件考案1?8に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第37条第1項第2号の規定に該当し、これを無効とするものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2000-08-16 
結審通知日 2000-08-25 
審決日 2000-09-20 
出願番号 実願平10-8540 
審決分類 U 1 111・ 1- Z (H01L)
U 1 111・ 121- Z (H01L)
U 1 111・ 113- Z (H01L)
最終処分 成立    
特許庁審判長 関根 恒也
特許庁審判官 酒井 正己
影山 秀一
登録日 1999-03-10 
登録番号 実用新案登録第3058769号(U3058769) 
考案の名称 CPUアダプタ  
代理人 加藤 光宏  
代理人 下出 隆史  
代理人 小森 久夫  
代理人 市川 浩  
代理人 五十嵐 孝雄  

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