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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A01G
管理番号 1051728
判定請求番号 判定2001-60081  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案判定公報 
発行日 2002-02-22 
種別 判定 
判定請求日 2001-07-18 
確定日 2001-12-03 
事件の表示 上記当事者間の登録第2065331号の判定請求事件について、次のとおり判定する。   
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「花卉の葉落し機」は、登録第2065331号実用新案の技術的範囲に属しない。
理由 1.請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号図面並びにその説明書に示す装置(以下、「イ号物件」という。)が、請求人所有の実用新案登録第2065331号考案の技術的範囲に属する、との判定を求めるというものである。
ところで、上記登録に係る考案は、その本件登録明細書の請求項1及び2に記載された考案であるところ、本件請求書の記載からみて、本件判定を求めたところの考案は、前記請求項1に係る考案(以下、本件考案という。)と認められる。

2.本件考案
本件考案は、本件登録明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載されたとおりのもので、それを構成要件に分説して記載すると、下記のとおりのものである。

(a):花卉Pを横架してコンベア31により搬送しながら、搬送路に配設された計量部34により重量別あるいは長さ別に選別する選別機Bへ向かって、花卉Pを水平な姿勢で横たわらせて搬送する搬送用コンベア4と、
(b):該搬送用コンベア4に搬送される花卉Pの茎Paの基端部を挟むように配設されてこの基端部に弾性的に摺接し、駆動部18に駆動されて該基端部の葉Pbを摺り落す摺接部材15bを備えた葉落し手段15と、
(c):この葉落し手段15による葉落し時に花卉Pがふらつくのを防止するために、前記搬送用コンベア4に沿うようにこの搬送用コンベア4の上方に配設されて、この搬送用コンベア4で水平な姿勢で搬送される花卉Pを上方からこの搬送用コンベア4に弾性的に押えつける押えつけ部材22とから成ることを特徴とする花卉の葉落し機。

3.イ号物件について
(3-1)イ号物件についての請求人の主張
請求人は、イ号物件に関する構成を示すものとして、「判定請求書」、判定請求書に添付の「イ号図面並びに説明書」、「検甲第1号証」及び「検甲第2号証」を提出している。
「判定請求書」には、次のことが記載されている。
(ア)「検甲第1号証(直径3ミリ、長さ11cmのウレタンゴム)および検甲第2号証(直径4ミリ、長さ11cmのウレタンゴム)は、本件判定請求事件に係るイ号装置の葉落し部材である。すなわち、これ(検甲第1,2号証)が被請求人が実際に使用している葉落し部材であり、以下、これを「実物」という。両者はバンドー化学株式会社(以下、「バンドー社」という)製(商品名「バンコード」)である。」(同書3頁12?17行)、
「イ号図面並びに説明書」には、次のことが記載されている。
(イ)「(2)31’は選別機B’の搬送路を構成する無端回動チェン、32’は花卉Pを横架して支持するアーム状の支持部材である。花卉Pはチェン31’の回動により支持部材32’に支持されて搬送され(矢印N3)、搬送路に配設された計量部34’により重量別に選別されて、下方の搬出コンベア35’上に落下する(矢印N5)。」(同1頁15?19行)、
(ウ)「(3)次に葉落し機A’について説明する。葉落し機A’は、花卉Pを選別機B’へ搬送する無端帯3’から成る搬送用コンベア4’と、コンベア4’の側方に配設された葉落し手段15’と、コンベア4’の上方にあって、花卉Pが葉落し時にふらつくのを防止するふらつき防止部6’としての押えつけ部材(ベルト)22’から成っている。葉落し機A’によって葉落しが終了した花卉Pは葉落し機A’から選別機B’の支持部材32’へ自動的に受け渡され(矢印N2)、葉落しに続いて選別が行われる。無端帯3’はスプロケット8’に調帯されている。」(同1頁19行?2頁1行)、
(エ)「(4)図2において、11’は無端体3’に一定ピッチをおいて突設された棒状体から成る花卉Pの位置決め部であり、コンベア4’上の花卉Pは該位置決め部11’に位置決めされ、水平な姿勢で横たわらせて搬送される。」(同2頁2?5行)、
(オ)「(5)葉落し手段15’は、コンベア4’の側方に配設されている。葉落し手段15’は、無端帯3’の上側走行部上を水平な姿勢で搬送される花卉Pの茎Paの基端部を上方と下方から挟むように上下一対設けられている。葉落し手段15’は、モータから成る駆動部18’に駆動されて回転する回転軸40’に摺接部材15b’を突設して構成されている。摺接部材15b’は、ウレタンゴムであって、回転軸からの長さは約10?12cm、直径は3mmまたは4mmである。検甲第1号証と検甲第2号証は、この摺接部材15b’の摺接部材15b’の実物である。
上方の摺接部材15b’と下方の摺接部材15b’は、これらの間を無端体3’で搬送される茎Pbの基端部に摺接し、その葉を落とす。
17’はコンベア4’の側方に配設された回転刃から成るカッターであって、葉落し手段15’で葉落としする前に、茎Paを切断して所定の長さに揃える。」(同2頁16?18行)、
(カ)「(6)図2において、コンベア4’の上方には、ふらつき防止部6’を構成する押えつけ部材22’がコンベア4’に沿うように配設されている。この押えつけ部材22’は弾性を有する細い鋼棒を屈曲させて形成されている。」(同2頁19?22行)、
(キ)「(7)この花卉の選別装置は上記のような構成より成り、次に全体の動作を説明する。図1において、コンベヤ4’上に花井Pを載せると(矢印印N1)、花卉Pはコンベヤ4’により搬送され、カッター17’で茎Paの先端部を切断される。図3において、Kはカッター17’で切断された茎Paの切れ端である。次に花卉Pがコンベヤ4’に搬送されて葉落し手段15’と15’の間に送られてくると、茎Paの基端部の葉は葉落し手段15’により葉落しされる。このとき花卉Pはコンベヤ4’の位置決め部11’に位置決めされており、かつ花卉Pは押えつけ部材22’により上方から弾性的に押えつけられているので、葉落し手段15’が葉落しする際の摺接摩擦力により花井Pがふらついてその姿勢が乱れることはなく、確実に葉落しできる。」(同2頁27行?3頁10行)、
(ク)「(8)葉落し機A’で葉落しされた花卉Pは、図1において選別機B’の支持部材32’に受け渡され(矢印N2)、搬送路を構成するチェン31’により搬送される(矢印N3)。そして計量部34’において重量が計量され、花卉Pが設定重量を有するときは支持部材32’は下方へ回転し(矢印N4)、花卉Pは重量別に選別されて下方の搬出コンベア35’上に落下する(矢印N5)。」(同3頁11?12行)。
(ケ)「押えつけ部材22’は、一方が駆動部18’、他方がハッチングされている部材に支持されている。」(図1)、
(コ)「上方の葉落し部材15b’と下方の葉落し部材15b’とは、それぞれ取付部から直線に延びており、上方の葉落し部材15b’と下方の葉落し部材15b’の回転面が回転軸40’の長手方向にずれており、また、上方の葉落し部材15b’と下方の葉落し部材15b’とは、その対応する側(花卉Pが通過する個所)がオーバーラップしており、押さえ部材22’は花卉Pの葉を押さえているものの、押えつけ部材22’とコンベア4’の上方側無端体3’の上方側との間隔は、花卉Pの茎の直径の数倍あって、押えつけ部材22’と花卉Pの茎Paは直接には接していない。」(図2、図3)。
(サ)「検甲第1号証」は、イ号物件の葉落し部材15b’であって、直径3mmの断面円形の細棒体からなり、この葉落し部材15b’の下端を固定すると、曲がりぐせにより湾曲しているものの、上方へ自立している。
(シ)「検甲第2号証」は、イ号物件の葉落し部材15b’であって、直径4mmの細棒体からなり、この葉落し部材15b’の下端を固定すると、曲がりぐせにより湾曲しているものの、上方へ自立している。

また、請求人は、甲第1号証ないし甲第5号証、参考検甲第1号証ないし参考検甲第3号証を提出し、本件イ号物件は、平成9年60016号(前回判定)のイ号物件とは相違する旨の主張をしている。
甲第1号証:前回判定の判定書写
甲第2号証:前回判定の口頭審理調書写
甲第3号証:前回判定の上申書写
甲第4号証:朝倉機械工学講座10「機械材料」(ウレタンゴムについて)
甲第5号証:前回判定の判定答弁書
参考検甲第1号証:前回判定の実演で用いられた直径3ミリの肌色もしくはくすんだ灰色の葉落し部材の類似物
参考検甲第2号証:直径2ミリのウレタンゴム(バンドー社製のバンコードのマルベルト)
参考検甲第3号証:直径2.5ミリのウレタンゴム(バンドー社製のバンコードのマルベルト)

(3-2)イ号物件についての被請求人の主張
被請求人は、イ号物件に関する構成について「答弁書」に次のような主張をしている。
(ア)「イ号図面および説明書に記載されたイ号装置は、その構成が不明確である。すなわち、ふらつき防止部6’の構造に関し、説明書1頁23?24行では「押え付け部材(ベルト)22」とするのに対し、2頁21?22行では「弾性を有する細い鋼棒を屈曲させて形成」としているが、両者は明らかに異なる構成である。」(2頁8?11行)、
(イ)「被請求人は、直径3ミリや4ミリのウレタンゴムからなる葉落し部材を使用した事実は過去にもないし、将来使用する予定もない。請求人は、イ号図面並びに説明書の1頁12?14行で「イ号図面は、本請求人が下取りした被請求人の製造販売にかかる…装置を、…図面化した」と述べているが、被請求人の装置に使用されている葉落し部材としてのウレタンゴムの直径は2.5ミリ以下であるから、請求人の上記の記述は虚偽といわざるを得ない。」(3頁5?11行)。
また、被請求人は、乙第1号証ないし乙第3号証を提出して、本件判定請求は却下されるべきであり、乙第4号証及び乙第5号証を提出して登録実用新案の技術的範囲も出願当初の明細書、図面に開示された技術事項の範囲を超えないように解釈すべきであると、主張している。
乙第1号証:請求人の「お知らせ」(平成13年7月9日付)
乙第2号証の1:請求人の「速報」(平成12年10月25日付)
乙第2号証の2:請求人の「お知らせ」(平成12年11月29日付)
乙第2号証の3:請求人の「速報」(平成12年10月31日付)
乙第2号証の4:請求人の「警告書」(平成13年2月13日付)
乙第2号証の5:請求人の「警告書」(平成13年2月13日付)
乙第3号証:吉藤幸朔著「特許法概説」550頁(判定の却下について)
乙第4号証:本件出願当初明細書
乙第5号証:参考図1,2

(3-3)イ号物件の認定
(3-3-1)選別機について
上記(3-1)の請求人の主張(イ)及び(ク)によれば、イ号物件は「花卉Pを横架してコンベア31’により搬送しながら、搬送路に配設された計量部34’により重量別あるいは長さ別に選別する選別機B’へ向かって、花卉Pを水平な姿勢で横たわらせて搬送する搬送用コンベア4’」を備えるものであり、被請求人もこの点についての反論はない。したがって、イ号物件の選別機は「花卉Pを横架してコンベア31’により搬送しながら、搬送路に配設された計量部34’により重量別あるいは長さ別に選別する選別機B’へ向かって、花卉Pを水平な姿勢で横たわらせて搬送する搬送用コンベア4’」を備えるものである。

(3-3-2)葉落し手段について
上記(3-2)の被請求人の主張(イ)によれば、被請求人の装置に使用されている葉落し部材としてのウレタンゴムの直径は2.5ミリ以下と主張しているが、上記(3-1)の請求人の主張(ア)、(オ)、(サ)及び(シ)によれば、イ号物件の葉落し手段15’は、搬送用コンベア4’に搬送される花卉Pの茎Paの基端部の上下に配設され、駆動部18’に駆動されて該基端部の葉Pbを落とす葉落し部材15b’を備え、この葉落し部材15b’は、ウレタンゴムからなり、バンドー化学株式会社製の直径3mm又は4mmの断面が円形の細棒体(商品名「バンコード」)からなると主張しているから、これを採用する。
また、上記(3-1)の請求人の主張(オ)によれば、イ号物件の葉落し部材15b’は、上方の摺接部材と下方の摺接部材からなり、これらの間を無端帯3’で搬送される茎Pbの基端部に摺接し、その葉を落とすと主張しているが、上記(3-2)イ号図面、検甲第1号証(サ)及び検甲第2号証(シ)によれば、イ号物件の葉落し部材15b’は、静止時、該葉落し部材15b’の下端を固定すると、曲がりぐせにより湾曲しているものの、上方へ自立するが、「イ号図面」の図1及び図2の記載から、回転時には、この葉落し部材15b’は直線状となり、上方の葉落し部材15b’と下方の葉落し部材15b’とは、その回転面が回転軸40’の長手方向にずれ、上方の葉落し部材15bと下方の葉落し部材15b’とは、その対応する側(花卉Pが通過する個所)がオーバーラップしていることが分かるから、この葉落し部材15b’は、静止時の曲がりぐせに打ち勝つ程度の高速回転により回転するものであり、イ号物件の葉落し手段は、茎Pbの基端部に摺接しその葉を落とすものではない。
したがって、イ号物件の葉落し手段は「搬送用コンベア4’に搬送される花卉Pの茎Paの基端部の上下に配設され、駆動部18’に駆動されて該基端部の葉Pbを落とす葉落し部材15b’を備えた葉落し手段15’からなり、具体的には、バンドー化学株式会社製の直径3mm又は4mmの断面が円形の細棒体(商品名「バンコード」)からなり、この葉落し部材15b’の一端が回転軸40’に固定され、他端は、自由端となっており、静止時は、該葉落し部材15b’の下端を固定すると、曲がりぐせにより湾曲しているものの、上方へ自立し、この葉落し部材15b’は、回転時に直線状になる程度の高速回転をさせる」ものである。

(3-3-3)押さえつけ部材について
また、上記(3-1)の請求人の主張(ウ)には、「押えつけ部材(ベルト)22’」との記載があるが、イ号物件の図面には明らかに棒体が記載されており、本件考案の審査経過を見ても、当初明細書には、本件考案の押えつけ部材がベルトの実施例のみであったものを平成5年7月1日付け手続補正書13頁3?7行において板ばねを追加しており、該記載をみても板ばねは棒体とは異なる。また、上記(3-2)の被請求人の主張(ウ)「押えつけ部材(ベルト)22’」は、請求人提出の「イ号図面」と対応しないが、上記(3-1)の請求人の主張(カ)及び「イ号図面」をみれば、イ号物件の「押えつけ部材」は、細い鋼棒からなるとすることが妥当である。
つぎに、上記(3-1)の請求人の主張(カ)及び(キ)によれば、イ号物件の「押えつけ部材」は、弾性を有し、花卉Pは押えつけ部材により上方から弾性的に押さえつけるものだとしている。しかし、請求人が「被請求人の製造販売に係る花卉の葉落し機を極力正確に図面化した」(「イ号図面並びに説明書」12?14行参照)とするイ号物件の図2及び図3を参照すると、イ号物件の押えつけ部材22’は、花卉Pの葉を押さえているものの、押えつけ部材22’とコンベア4’の無端体3’との間隔は、花卉Pの茎の直径の数倍あって、押えつけ部材22’と花卉Pの茎は直接には接していない。また、イ号物件の図1を参照すると、押えつけ部材22’が、一方が駆動部18’、他方がハッチングされている部材に支持されていることから、例え、押えつけ部材22’が多少の弾性を有するものであっても、イ号物件の押えつけ部材22’は、花卉Pをコンベア4’に弾性的に押さえつけるものではない。したがって、イ号物件の押えつけ部材22’は、葉落し手段で葉落しをしているときに花弁が不要にがたついたり姿勢がくずれたりしないように、花卉を規制するものであり、少なくとも花卉が不要にがたつきまた姿勢がくずれることがない程度に、又、花卉の搬送が困難あるいは不能になることのない程度に、花卉の葉を押さえるものであり、ふらつき防止部といえるものである。

(3-3-4)むすび
よって、イ号物件である「花卉の葉落し機」は、その構成要件を分説して記載するに、上記(3-3-1)?(3-3-3)において検討したとおり、下記のとおりのものである。

(a'):花卉Pを横架してコンベア31’により搬送しながら、搬送路に配設された計量部34’により重量別あるいは長さ別に選別する選別機B’へ向かって、花卉Pを水平な姿勢で横たわらせて搬送する搬送用コンベア4’と、
(b'):該搬送用コンベア4’に搬送される花卉Pの茎Paの基端部の上下に配設され、駆動部18’に駆動されて該基端部の葉Pbを落とす葉落し部材15b’を備えた葉落し手段15’からなり、具体的には、バンドー化学株式会社製の直径3mm又は4mmの断面が円形の細棒体(商品名「バンコード」)からなり、この葉落し部材15b’の一端が回転軸40’に固定され、他端は、自由端となっており、静止時は、該葉落し部材15b’の下端を固定すると、曲がりぐせにより湾曲しているものの、上方へ自立し、この葉落し部材15b’は、回転時に直線状になる程度の高速回転をさせるものであり、
(c'):この葉落し手段15’による葉落し時に花卉Pがふらつくのを防止するために、前記搬送用コンベア4’に沿うようにこの搬送用コンベア4’の上方に配設されて、この搬送用コンベア4’で水平な姿勢で搬送される花卉Pを上方に設けたふらつき防止部とから成り、このふらつき防止部は、細い鋼棒からなり、搬送用コンベア4’の上方に花卉Pの茎Paの直径の数倍の高さに設けられ、葉落し手段で葉落しをしているときに花弁が不要にがたついたり姿勢がくずれたりしないように、花卉を規制するものであり、少なくとも花卉が不要にがたつきまた姿勢がくずれることがない程度に、又、花卉の搬送が困難あるいは不能になることのない程度に、花卉の葉を押さえる花卉の葉落し機。

4.属否の判断
(4-1)構成要件(a)について
本件考案の構成(a)とイ号物件の構成(a')とは、両者に構成に相違は認められず、イ号物件の構成(a')は、本件考案の構成(a)を充足する。

(4-2)構成要件(b)について
本件考案における「摺接」、「摺り落とす」の意味を検討するために、「摺る」の文言上の意味を検討するに、「版木又は活版等の面に墨をつけ之に紙をあて其上を摩擦して版の文字図書を写しとること」(「大字典」(普及版)編纂者 上田万年 外4名 昭和55年1月20日第18刷 株式会社講談社発行)が、「摺る」本来の意味であり、それから派生して、「摺る」は、「する。」、「こする。」(角川最新「漢和辞典」鈴木修次 外2名編 昭和50年12月20日初版 株式会社角川書店発行)の意味をも有しているものである。このことから、本件考案における花卉の茎の基端部に「摺接」するとは、文言上、花卉の茎の基端部に接して摩擦しながらこすることであり、花卉の茎の基端部の葉を「摺り落とす」とは、花卉の茎の基端部を摩擦しながらこすり、葉を落とすことと解される。
また、本件登録明細書においては、「葉落とし手段15が花卉Pに摺接して葉落としする際の摺接摩擦力により花卉Pがふらついて」(同公報第3欄第36?37行)、「第3図において、上方のコンベア12aの葉落し部材15は、その下側走行部において茎Paの基端部の上面にその長さ方向に沿って末端部方向(イ)すなわち上記コンベア4の搬送方向N(第2図参照)と交差する直交方向に摺動し、また下方のコンベア12bの葉落し部材15は、その上側走行部において茎Paの基端部の下面に摺接して同方向(イ)へ摺動し、その際両葉落し部材15により茎Paの基端部の葉Pbを落とす。この摺動方向(イ)は茎Paの上端の花部Pc方向へ延出する葉Pbの延出方向(ロ)と逆方向であり、該方向(イ)へ葉落し部材15を摺動させることにより、葉Pbをその付け根から確実に落とすことができる。」(同第4欄第50行?第5欄第11行)、「第3図において、カム38の回転によりコンベア12aが上方へ回動して両コンベア12a,12bの間に間隔Tが確保された状態で、花卉Pはコンベア4に搬送されて両コンベア12a,12bの間に進入する。そこで上方のコンベア12aは下降して茎Paは上下のコンベア12a,12bの葉落し部材15に上下から挟持され、葉落し部材15が茎Paに沿って摺動することにより葉落としされる。この場合、葉落し部材15は茎Paの末端部方向(イ)へ向かって摺動するので、上記方向(ロ)に延出する葉Pbを難なく且つ確実に落すことができる。」(同第6欄第21?30行)と記載されている。
これらの記載事項からみても、本件考案における花卉の茎の基端部に「摺接」するとは、前記文言上の意味と同様に、花卉の茎の基端部に接して摩擦しながらこすることであり、花卉の茎の基端部の葉を「摺り落とす」とは、花卉の茎の基端部を摩擦しながらこすり、葉を落とすことと理解される。
してみれば、本件考案の摺接部材15bが花卉Pの茎Paの基端部に「弾性的に」摺接するとは、摺接部材15bが、花卉の茎の基端部に接することにより変形し、該基端部を摩擦しながらこすり、葉を落としたのちには元の状態に復帰することを意味する。
一方、イ号物件における「葉落し部材15b’」は、「バンドー化学株式会社製の直径3mm又は4mmの断面が円形の細棒体(商品名「バンコード」)からなり、この葉落し部材15b’の一端が回転軸40’に固定され、他端は、自由端となっており、静止時は、該葉落し部材15b’の下端を固定すると、曲がりぐせにより湾曲しているものの、上方へ自立し、この葉落し部材15b’は、回転時に直線状になる程度の高速回転をさせるもの」である。
そこで、このようなイ号物件の「葉落し部材15b’」が本件考案の「摺接部材15b」を充足するものであるか否か検討するに、イ号物件の「葉落し部材15b’」は、本件登録明細書に記載された本件考案のいずれの実施例にも構成上該当しないもの(前記「回転ひも」に関してはその具体的な構成が把握できないので比較できない。)である。そして、該葉落し部材15b’を低速回転させた場合、花卉の茎の基端部又は該基端部の葉を滑るだけで、花卉の茎の基端部の葉を落とすことができなく、該葉落し部材15b’を高速回転して初めて、葉落としができることから、イ号物件の「葉落し部材15b’」の自由端が葉に高速で当たることにより、葉落としができるものである。この際に、イ号物件の「葉落し部材15b’」は、花卉の茎の基端部を多少、摩擦して接することがあるとしても、イ号物件の「葉落し部材15b’」は、基本的には、花卉の茎の基端部の葉を叩いて落とすものであって、本件考案の花卉の茎の基端部を弾性的に摺接し該基端部の葉を摺り落とす摺接部材とは、葉落としにおける基本的作用において異なる。
そうすると、イ号物件の構成要件(b')は、本件考案の構成要件(b)を充足しない。

(4-3)構成要件(c)について
本件考案の「押えつけ部材」を検討するために、本件登録明細書(実公平6-29956号公報に対応)をみるに、「コンベア4に搬送される花卉Pを押えつけ部材22より上方から弾性的に押えつけることにより、葉落し手段15が花卉Pに摺接して葉落としする際の摺接摩擦力により花卉Pがふらついてその姿勢が乱れることはなく、確実に葉落としできる。」(3欄34?38行)、「花卉Pはベルト22により上方から弾性的に押えつけられているので、葉落し部材15が花卉Pに摺接して葉落しする際の摺接摩擦力により花卉Pがふらついてその姿勢が乱れることはなく、確実に葉落しできる。」(6欄32?36行)、「葉落し手段15により葉落しする際には、押えつけ部材22により花卉Pを上方から弾性的に押えつけるので、葉落し手段15の摺接摩擦力により花卉Pが不要にふらつくことはなく、花卉Pの姿勢を正しく保って葉落しすることができる。」(6欄49行?7欄3行)と一貫して記載されているように、本件考案の「押えつけ部材」は、あくまで、上記相違点1で挙げた「搬送用コンベア4に搬送される花卉Pの茎Paの基端部を挟むように配設されてこの基端部に弾性的に摺接し、駆動部18に駆動されて該基端部の葉Pbを摺り落す摺接部材15bを備えた葉落し手段15」による摺接摩擦力により花卉Pがふらついてその姿勢が乱れることを防止するためのものである。このことは、平成5年7月1日付け意見書2頁7?13行「本願考案は、花卉Pを水平な姿勢で搬送しながら、茎Paの基端部に葉落し手段15を摺接させて葉落しするため、この摺接摩擦力により花卉Pがふらついてその姿勢が乱れることから、押さえ付け部材22により上方から弾性的に押えつけてふらつかないようにするという技術思想を有するものです。」という請求人の主張、及び、平成5年11月1日付け手続補正書実用新案登録請求の範囲において、葉落し手段を花卉Pの茎Paの基端部に弾性的に摺接し、該基端部の葉Pbを摺り落とす摺接部材15bを備えたものと補正することにより公告決定された経緯からも裏付けられる。
一方、イ号物件の「葉落し手段」は、上記のとおり、「静止時は、該葉落し部材15b’の一端を固定すると、曲がりぐせにより湾曲しているものの、上方へ自立し、この葉落し部材15b’は、回転時に直線状になる程度の高速回転をさせるもの」であって、本件考案の「葉落し手段」のように、花卉Pの茎Paの基端部に弾性的に摺接し、該基端部の葉Pbを摺り落とすものを対象とするのではない。したがって、イ号物件のふらつき防止部は、本件考案のように、花卉Pを弾性的に押えつける押えつけ部材ではなく、花卉が不要にがたつきまた姿勢がくずれることがない程度に、又、花卉の搬送が困難あるいは不能になることのない程度に、花卉を規制するものである。
さらに、本件考案の実施例を参照すると、「ふらつき防止部6は、プーリ21に無端ベルト22を調帯して構成されており、ベルト22はプーリ21に沿って回動する。・・・ベルト22はゴムベルトのような伸縮自在な弾性ベルトであり、コンベア4上に横架された花卉Pの茎Paは、葉落し時にふらつかないように、ベルト22により上方から無端帯3上に押えつけられる(第5図参照)。この場合、ベルト22は弾性を有するので、上方から花卉Pを弾性的にしっかりと押えることができ、かつ花卉Pを強く押えてもこれを痛めることはない。すなわちこのベルト22は、花卉Pがふらつかないように上方から押えつける押えつけ部材となっている。」(本件公告公報6欄4?18行)、さらに、当初明細書に「・・・茎Paの基端部もふらつき防止装置6によりしっかり保持されているので、確実に葉Pbは落とされる。またふらつき防止装置6をベルトコンベアにて構成することにより、花卉Pをコンベア4とともに前方へ搬送しながら、茎Pbをしっかり位置決めして、確実に葉落しすることができる」(11頁11?17行)と記載されているように、本件考案のふらつき防止部は、例えば無端ベルトからなり、ふらつきの大きい摺接摩擦力に対抗するため、花卉Pの茎Paを直接押さえつけるものであるから、イ号物件のように、鋼棒からなり花卉Pの葉Pbを上方から緩く規制するふらつき防止部とは明らかに相違する。
なお、平成5年7月1日付け手続補正書により新たに追加された事項であるが、本件登録明細書には、「押えつけ部材の具体的形状や構造は本実施例に限定されるものではなく、例えば弾性を有する長板状の板ばねを配設して、この板ばねにより花卉Pを上方から弾性的に押えつけてもよいものである」(公告公報6欄36?39行)と記載されているが、イ号物件の「ふらつき防止部」は、鋼棒からなり、両端を固定されたものであって、花卉Pを上方から弾性的に押えつけるものでもないから、本件考案のような、弾性を有する長板状の板ばねに相当するものではない。
したがって、イ号物件の構成要件(c')は、本件考案の(c)を充足しない。

5.均等論について
請求人は、請求書8頁(5)において、「本件実用新案の特徴は、実用新案登録請求の範囲を含む明細書全体の記載に照して、葉落し部材(特にその材質)にあるのではなく、実用新案登録請求の範囲の後段の構成、すなわち葉落し時に花卉がふらつくのを防止するための押えつけ部材を設けたことにある。換言すれば、葉落し部材が如何なる材質のものであるかは、本件考案の本質とは無関係である。よって、・・・仮に葉落し部材が相違するにしても、葉落し部材は均等なものと見なすべきであり、したがって均等論の観点から、イ号装置は本件考案の技術的範囲内に属する。」と主張している。
しかし、本件考案の本質部分は、上記で述べたように、本件考案の作用効果及び出願経過からみて、花卉の茎の基端部に弾性的に摺接し該基端部の葉を摺り落とす摺接部材を備えた葉落し部材による摺接摩擦力により、花卉Pがふらついてその姿勢が乱れることを防止するため、花卉Pを上方からこの搬送用コンベアに弾性的に押えつける押えつけ部材を設けたことにある。
一方、イ号物件の「葉落し手段」は、摺接するものではないから、葉落し部材による摺接摩擦力は無いか、あったとしても、無視し得るほどのものであり、イ号物件の「ふらつき防止部」は、葉落し部材による摺接摩擦力に対向しなくとも、花卉Paが搬送路から飛び出さない程度に規制すれば足りるものである。
そして、イ号物件の「ふらつき防止部」は、両端を支持された鋼棒からなり、本件考案のようなコンベアや板ばねなどからなり花卉Pを搬送コンベア4に弾性的に押さえつける押えつけ部材ではない。
したがって、両者の「ふらつき防止部」は構成が相違し、両者は、本質的なところで相違するから、均等を判断するための他の要件を判断するまでもなく、イ号物件が本件考案と均等であるということはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲

判定日 2001-11-20 
出願番号 実願昭63-67639 
審決分類 U 1 2・ 1- ZB (A01G)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 郡山 順  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 鈴木 寛治
村山 隆
登録日 1995-06-09 
登録番号 実用新案登録第2065331号(U2065331) 
考案の名称 花卉の葉落し機  
代理人 平木 道人  
代理人 高松 利行  
代理人 田中 香樹  

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