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審決分類 |
審判 全部申し立て F16F |
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管理番号 | 1081503 |
異議申立番号 | 異議2000-74016 |
総通号数 | 45 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 実用新案決定公報 |
発行日 | 2003-09-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-10-23 |
確定日 | 2003-06-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 登録第2604241号「粘性液体ダンパー」の請求項1、2に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 登録第2604241号の請求項1ないし2に係る実用新案登録を取り消す。 |
理由 |
[1] 手続の経緯 本件実用新案登録2604241号の請求項1,2に係る考案についての出願は、平成5年1月26日に実用新案出願され、平成12年2月18日に設定登録され、その後、その考案について、異議申立人ポリマテック株式会社により実用新案登録異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年5月15日に訂正請求がなされた後、再度取消の理由が通知されたものである。 [2] 訂正の適否についての判断 1. 訂正の内容 実用新案登録権者が求めている訂正の内容は以下のa?dのとおりである。 ア.訂正事項a 実用新案登録請求の範囲の請求項1の「内部に粘性液体が封入された容器本体と蓋部とから構成される熱 可塑性樹脂 製密閉容器から少なくとも構成された粘性液体封入ダンパーであって、」を「内部に粘性液体が封入された容器本体と蓋部とから構成される熱 可塑性樹脂 製密閉容器から少なくとも構成された粘性液体封入ダンパーであって、容器本体と蓋部は熱融着されており、」と訂正する。 イ.訂正事項b 実用新案登録請求の範囲の請求項1の「容器本体あるいは蓋部に設けられている係合部」を、「蓋部に設けられている係合部」と訂正する。 ウ.訂正事項c 考案の詳細な説明の【0010】の「本件考案の熱可塑性樹脂は、いわゆる熱可塑性エラストマーをも含められる。」を削除する。 エ.訂正事項d 上記訂正事項aの訂正に伴い、考案の詳細な説明の【0012】の「公知の方法を採用することにより製造できるが、通常、」を削除する。 2. 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び実用新案登録請求の範囲の拡張・変更の存否 ア.上記訂正事項a 発明を特定する事項である「内部に粘性液体が封入された容器本体と蓋部とから構成される熱可塑性樹脂製密閉容器から少なくとも構成された粘性液体封入ダンパーであって、」を、これに含まれる事項である「内部に粘性液体が封入された容器本体と蓋部とから構成される熱可塑性樹脂製密閉容器から少なくとも構成された粘性液体封入ダンパーであって、容器本体と蓋部は熱融着されており、」に減縮するもので、「容器本体と蓋部を熱融着されており、」については、願書に添付された段落【0012】に記載されている事項であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 イ.訂正事項b 「容器本体あるいは蓋部に設けられている係合部」を、「蓋部に設けられている係合部」と減縮するものであり、しかも、段落【007】に記載されている事項であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 ウ.訂正事項c 「熱可塑性エラストマーをも含められる。」を削除し、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 エ.上記訂正事項d 上記訂正事項aの訂正にともない、考案の詳細な説明との間の整合性を図るものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3. むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成11年法律第41号)附則第15条の規定による改正後の特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第2項の規定により準用され、同附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 [3] 実用新案登録異議の申立についての判断 1. 本件考案 上記[2]で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1,2に係る考案(以下、本件考案1,2という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 内部に粘性液体が封入された容器本体と蓋部とから構成される熱可塑性樹脂製密閉容器から少なくとも構成された粘性液体封入ダンパーであって、 該密閉容器本体と蓋部は熱融着されており、 該蓋部に熱可塑性樹脂からなり固定部材の空間に押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部が一体に設けられていることを特徴とする粘性液体封入ダンパー。 【請求項2】 該蓋部の粘性液体接触面に凸部が設けられている請求項1記載の粘性液体封入ダンパー。」 2. 引用刊行物に記載された考案 当審が平成13年8月20日付けで通知した取消しの理由で引用した刊行物1,2にはそれぞれ次のとおりの事項及び図面が記載されている。 A.刊行物1:実願昭61-35755号(実開昭62-147747号)のマイクロフィルム (1) 「1.可撓性材料からなり、電気機器のユニットを緩衝的に支持するダンパ本体と、 前記ダンパ本体に取付けられて、ある温度以下にてオンし、ある温度以上にてオフするヒータとを具備してなる電気機器のダンパ装置」(実用新案登録請求の範囲) (2) 「(産業上の利用分野) この考案は、車載用CDプレーヤ等の電気機器において外部振動吸収用に用いられる可撓性材料からなるダンパ装置に関し、低温時に硬くなって緩衝機能が低下するのを防止したものである。」(第1頁第15行?第2頁第2行) (3) 「第1図のダンパ装置22は、ダンパ本体を構成するゴム製のハウジング24と、このハウジング24内に充填されたシリコンオイルや液状ウレタン等の充填材26と、ハウジング24内に取り付けられたヒータ28とで構成されている。 ハウジング24は、上面部24aが薄いゴムを波紋状に幾重にも折り返して、中央部が突出するように構成されている。したがって、この上面部24aは上下、左右、前後のいずれの方向にも動くことができる。上面部24aの中央部には、回路構成のシャーシの一部を挿入支持するための溝部30が構成されている。ハウジング24の底部24bの中央には、電気機器の外装側壁に構成された孔に挿入されて、ダンパ装置22をこの側壁に取り付けるための凸部32が構成されている。また、凸部32の側方には、ダンパ装置22を側壁に取付けた場合に側壁の小孔に挿入されてその回転を防止するための回転防止突起34が構成されている。」(ダンパ本件はダンパ本体の誤記と認定する)(第4頁第12行?第5頁第10行) (4) 上面部とハウジングが同一の斜線に、底部が別方向の線巾の斜線で、第1図(正面)及び第7図に図示されている。 B.刊行物2:特開平4-34239号公報 (1) 「しかしながら、このように第一体と第二体とを接着剤を用いて固着する場合、それらの合わせ面にオーバーフローした高粘性流体により、或いはその他の理由によって合わせ面に付着した高粘性流体により、接着剤の接着反応が阻害され、これにより第一体と第二体とが接着剥離を起こす恐れのある問題があった。」(第2頁右上欄第6行?第12行) (2) 「(作用及び発明の効果) このように本発明は、容器の構成体である第一体と第二体との互いの固着部を硬質樹脂材で形成し、それらの硬質樹脂材同士を固着するようにしたものである。 かかる本発明においては、第一体と第二体との固着手法としては種々の方法を採用することができるが、特にかかる樹脂同士を一旦溶かして互いに固着する溶着手法(熱溶着或いは超音波溶着等)を用いることが可能となる。而してこのような溶着により第一体と第二体とを固着した場合、たとえそれらの合わせ面に高粘性流体が付着したとしても、特に支障なくそれらを強固に固着することができる。」(第2頁左下欄第16行?右下欄第9行) (3) 「第1図において、10は密閉容器状を成す粘性流体封入ダンパーであって(図はダンパーを組立時の向きで表している)、内部に高粘性流体12が封入されている。 このダンパー10は、第一体14と第二体16との分割形態を成し、それらが互いに固着されて容器体、つまりダンパー10が構成されている。尚、この例では第一体14が蓋体として、また第二体16が容器本体として構成されている。 第二体16は、また、ゴム製の第一部材18と、硬質樹脂(熱可塑性樹脂)製の第二部材20とから成っている。ゴム製の第一部材18は、その中央部において容器内方へと突入する攪拌部22を備えている。攪拌部22には、行止り穴形態の穴部24が設けられており、この穴部24に、支持部材又は被支持部材から延び出す軸体が嵌入されるようになっている。 攪拌部22は、これを取り巻くように配された可撓部26によって浮動状態に弾性的に支持されている。可撓部26は薄肉の部分であって、攪拌部22と容器本体における周壁部との間の部分が断面V字状を成すように、容器内方に屈曲さ せられている。 第一部材18は、この可撓部26に連続する部分が厚肉部28とされており、この厚肉部28により円筒状部30が延び出している。そしてその円筒状部30を取り囲むようにして、同じく円筒形状に形成された前期第二部材20がこの円筒状部30に嵌合され、固着されている。 この第二部材20は、基端部が外方に突出する鍔状部32とされ、この鍔状部32が、硬質樹脂(熱可塑性樹脂)にて形成された第一体14に固着されている。 このダンパー10は、容器本体としての第二体16を第1図に示す向き、即ち開口が上側にくる向きに配して、その内部に高粘性流体12を充填し、しかる後蓋体としての第一体14を第二体16の上に乗せて固着することにより一体に組み付けることができる。ここで第一体14と第二体16とは、様々な手法により固着することができるが、それらを樹脂同士の固着により、例えば熱溶着或いは超音波溶着により固着した場合、次の種々利点が生ずる。 即ち先ず第一に、高粘性流体12が第一体14と第二体16の合せ面に付着したとしても、それらを強固に固着することができる。 第二に、第一体14と第二体16とを例えば超音波溶着した場合、固着に要する時間は数秒程度で足り、短時間で能率的に第一体14と第二体16とを組み付けることができる。その他、樹脂同士の溶着によれば、接着剤を必要とせず且つそのための接着面の洗浄作業や塗布作業も必要としない。従ってダンパーの製造工程が簡単となり、ダンパーのコストも安価となる。 尚、ゴム製の第一部材18と硬質樹脂製の第二部材20とから成る第二体16は、例えば第二部材20を金型内に予めセットしておいて、ゴム材料を金型内に注入して成形することにより、容易に製造することができる。」(第3頁左上欄第14行?右下欄第12行) (4) 「この例のダンパー44は、第一体46が容器本体として、また第二体48が蓋体として構成されている。更に第二体48は、ゴム製の第一部材50と、硬質樹脂性の第二部材52から成っており、そしてその第一部材50の側に攪拌部22と可撓部26が設けられている。 一方第二部材52は、比較的に厚肉のリング状の固着部とされ、この固着部が、容器本体としての硬質樹脂の第一体46の鍔状部54に固着されている。 この例のダンパー44の場合、第一体46を上向きに配して、内部に高粘性流体12を充填し、しかる後に第二体48を第一体46の開口を閉鎖するように配して樹脂同士、具体的には第一体46の鍔状部54と第二体48の第二部材52とを、適宜の固着手段、望ましくは超音波溶着により固着することにより、容易に構成することができる。」(第3頁右下欄第15行?第4頁左上欄第11行) これらの記載事項及び図面によれば、刊行物1には車載用CDプレーヤ等の電気機器のダンパに関して、以下のとおりの発明が記載されていると認められる。 「内部にシリコンオイルや液状ウレタン等の充填剤が充填されたハウジングと底部から構成されるゴム製ダンパ本体から少なくとも構成されたダンパ装置であって、 該ハウジングの底部に、電気機器の側壁に構成された孔に挿入されて取り付けられる中央の凸部と凸部の側方の回転防止用突起が一体に設けられているダンパ装置。」の考案(以下、刊行物1の考案という。)が記載されていると認められる。 3. 対比・判断 本件考案1と刊行物1の考案を対比する 両者は、別部材の固定手段を使用することなく取付け可能な粘性液体封入ダンパーであって、 刊行物1の考案の「シリコンオイルや液状ウレタン等の充填剤」「ハウジング」「底部」「ダンパ本体」「電気機器の側壁に構成された孔」「挿入されて取り付けられる中央の凸部と凸部の側方の回転防止用突起」は、 本件考案1の「粘性液体」「容器本体」「蓋部」「密閉容器」「固定部材の空間」「押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部」に相当し、 両者は、 「内部に粘性液体が封入された容器本体と蓋部とから構成される密閉容器から少なくとも構成された粘性液体封入ダンパーであって、 該蓋部に、固定部材の空間に押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部が一体に設けられていることを特徴とする粘性液体封入ダンパー。」の考案で一致し、下記の(1)(2)の点で相違する。 (1) 本件考案1では、密閉容器の材料は熱可塑性樹脂製であって、本体と蓋部が熱融着して接合されるのに対して、刊行物1の考案ではゴム製であって、接合手段が記載されていない点。 (2) 蓋部及び押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部の材料が、本件考案1では熱可塑性樹脂製であるのに対して、刊行物の1考案ではゴム製である点。 上記相違点(1)を検討すると、熱可塑性樹脂の容器本体と蓋体とを熱溶着して密閉容器を構成することは周知であり、刊行物2には粘性液体封入ダンパーを熱溶着して構成する点について、上記[3]2.B:刊行物2 (3)に、「第一体14が蓋体として、また第二体16が容器本体として構成されている。第二体16は、また、ゴム製の第一部材18と、硬質樹脂(熱可塑性樹脂)製の第二部材20とから成っている。」、「この第二部材20は、基端部が外方に突出する鍔状部32とされ、この鍔状部32が、硬質樹脂(熱可塑性樹脂)にて形成された第一体14に固着されている。」、「それらを樹脂同士の固着により、例えば熱溶着或いは超音波溶着により固着した場合、次の種々利点が生ずる。」との記載があり、刊行物1の考案におけるゴム製のハウジングを熱可塑性樹脂の密閉容器とし、本体と蓋部が熱融着されたものとすることは、きわめて容易に推考できることと認められる。 上記相違点(2)を検討すると、上記[3]2.B:刊行物2 (3)の、「この例では第1体14が蓋体として、また第2体15が容器本体として構成されている。」と「硬質樹脂(熱可塑性樹脂)にて形成された第1体14に」と、容器本体に対する蓋体を熱可塑性樹脂製とすることが開示されており、さらに、同一部材として一体に形成される部材を同一樹脂で構成することは、技術常識であり、刊行物1におけるゴムで形成された一体の部材を、熱可塑性樹脂製とすることは、引用例2の記載からきわめて容易に推考できることと認められる。 なお、権利者は、平成13年8月20日付けの実用新案異議意見書の〈本件考案1と各刊行物1との対比について〉の欄で「つまり、刊行物1の係合機構は、ゴムの弾性を利用した、単なる孔への押し込みであって、押し込むだけでしっかりと固定部材へ固着することを意味する「嵌着」とは異なるものであります。」旨主張しているが、刊行物1における中央の凸部と凸部の側方の回転防止用突起は、第1図(正面)又は第7図から明らかなように、孔に挿入するだけで、ダンパ装置を抜けないようにし且つ回転を防止して固定する点で、本件考案1の係合部の嵌着と同様の機能を備えており、このような主張は採用することはできない。 本件考案2と刊行物1の考案を対比する 本件考案2では、蓋部の粘性液体接触面に凸部が設けられている点で、刊行物1の考案からさらに相違するが、上記[3]2.B:刊行物2 (4)には、第二体の蓋体48に攪拌部22と可撓部26とを設けた構成が記載されており、これらは本願考案2の凸部に相当する部材であり、刊行物1及び刊行物2に記載された考案は、粘性液体封入ダンパーで共通するものであるから、これらを寄せ集めることで、刊行物1の考案において、蓋部の粘性液体接触面に凸部を設けた構成とすることは、きわめて容易に推考することができたものと認められる。 なお、権利者は、平成13年8月20日付けの実用新案異議意見書の〈本件考案2と各刊行物との対比について〉の欄で「攪拌部と可撓部の谷間となる部分には、当然気泡が入り込み逃げ場を失うことは明白であります。従って、この攪拌部と可撓部が連続して構成されている凸部は、本件考案2における凸部のように、容器本体と蓋体を熱融着する際の気泡の混入を防止するための機能を果たし得ないものであります。」旨主張しているが、実用新案登録請求の範囲の請求項2には、単に凸部を設けることが記載されているのみで、凸部を「容器本体と蓋体を熱融着する際の気泡の混入を防止する」とした格別の構成を記載していないのであるから、このような主張は採用することができない。 [4] 以上のとおりであるから、本件考案は、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。 したがって、本件考案についての実用新案登録は拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してされたものと認める。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第7項の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第3条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【考案の名称】 粘性液体ダンパー (57)【実用新案登録請求の範囲】 【請求項1】 内部に粘性液体が封入された容器本体と蓋部とから構成される熱可塑性樹脂製密閉容器から少なくとも構成された粘性液体封入ダンパーであって、該密閉容器本体と蓋部は熱融着されており、該蓋部に、熱可塑性樹脂からなり固定部材の空間に押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部が一体に設けられていることを特徴とする粘性液体封入ダンパー。 【請求項2】 該蓋部の粘性液体接触面に凸部が設けられている請求項1記載の粘性液体封入ダンパー。 【考案の詳細な説明】 【従来の技術およびその問題点】 【0001】 【産業上の利用分野】 本考案は、内部に粘性液体が封入されており、振動減衰作用をなす粘性液体ダンパーに関し、とくに、音響機器あるいは精密機器の防振に有用な粘性液体ダンパーに関する。 【0002】 【従来の技術およびその問題点】 例えばCDプレイヤー等の音響機器を、自動車等に搭載する場合には、自動車の走行中、あるいは一時停止時に振動が発生するので、振動に極めて弱い前記音響機器の防振対策を十分に行う必要がある。 該音響機器の防振対策として、容器内に粘性液体が封入され、粘性液体内に突入する攪拌部を設けたゴム製密閉容器と該容器、特に容器側壁の変形を防止すると共に該密閉容器を固定するゴム製ホルダーとから構成される粘性液体ダンパーを用いる技術が広く採用されている。 【0003】 このゴム製ダンパーは、振動減衰能に優れ、比較的簡単な構造であるので、随所に使用されているものである。ところが、このダンパーを構成する素材が主としてゴムであり、該ダンパーの製造に要する時間が長いという問題点があった。 また、このダンパーを固定部材に固定する方法も、ボルト締め、接着剤の使用などの方法が採用されているが、それぞれの方法は特徴があるものの、固着操作法が煩雑であり、固着に要する時間が長いという問題点も残っていた。 【0004】 【考案の目的】 そこで、本考案は、上記問題点を解消するために提案されたものであり、製造時の組立てに要する時間が短く、しかも、簡単な方法で短時間に固着することができる粘性液体封入ダンパーを提供することを目的とするものである。 【0005】 【問題点を解決するための手段】 本考案は、前記目的を達成するために提案されたものであり、粘性液体封入ダンパーの密閉容器を構成する素材として熱可塑性樹脂を採用することにより、振動吸収能に優れ、かつ成形性にも優れた粘性液体ダンパーが短時間で得られるという知見と、該ダンパーを爪などの係合部を備えた装着具を利用し、固定部材の係合部を押し込むだけで、簡単にしかも強固に粘性液体封入ダンパーを固定部材へ固定することができるという知見に基づくものである。 【0006】 【考案の具体的な説明】 以下、本考案を粘性液体封入ダンパーの一例を示す図1を用いて具体的に説明する。 本考案の粘性液体封入ダンパーは、粘性液体が封入された熱可塑性樹脂製密閉容器(1)と熱可塑性樹脂製の係合部を備えた装着部(2)とから構成されている。該密閉容器は、攪拌部(14)、薄肉可撓部(11)、側壁(12)および蓋部(13)から構成されている。攪拌部には、被支持体のピンを挿入する孔が予め形成されていることが好ましい。 また、前記蓋部の粘性液体との接触面に凸部(15)を形成させておくことがより一層好ましい。この凸部が形成されていることにより、蓋部を容器本体に接着させる際に粘性液体内に気泡の混入を防止することができる。 【0007】 本考案においては、前記粘性液体封入ダンパーを固定部材に固定するための装着部が予め形成されている点に重要な特徴が存在する。 すなわち、粘性液体封入ダンパーの蓋部に係合部を備えた装着部を設け、固定部材に前記係合部に対応する空間部を形成させておき、該係合部を該固定部材の空間部に押し込むだけで嵌着させることができ、ダンパーを簡単に固定することを可能としたものである。 例えば、図2を用いて説明すると、装着部(2)は、固定部材(3)内の空間部(4)に嵌着される。より具体的には粘性液体ダンパーの装着部は空間内に押し込まれ、装着部の先端に形成された爪(31)が空間部を形成する壁の凸部(41)に固定される。 また、図2の爪(31)の代わりに、図3に示される形を有する爪(31)を用いてもよい。 【0008】 さらに、図4で示されるような装着部を採用することもできる。すなわち、装着部(2)は、凸部(34)が形成された直方体(33)から少なくとも構成されるものである(図4-a) 該装着部を有する粘性液体ダンパーを、固定部材内にに予め形成された空間部に押し込み、次いで該ダンパーを90°回転させると、前記凸部(34)は、空間部内に形成された溝に沿って移動し、凹部(43)内に到着し、該凹部にて嵌着され(図4-b、c)、前記粘性液体ダンパーが固定されるものである。 【0009】 本考案の粘性液体ダンパーを使用する具体例を説明する。 前記ダンパーを用いて、例えばCDプレイヤーを保持する一例を、要部断面図である図5を用いて説明すると、CDプレイヤー(5)の本体に設けられているピン(51)と前記粘性液体ダンパー(10)の攪拌部の孔に嵌入され保持されている。 粘性液体ダンパーの装着部が固定部材の空間部に嵌着され固定される。 支持部材が、例えば自動車の振動により揺れても、前記粘性液体ダンパーにより、支持部材の振動は殆ど吸収されてしまう。 【0010】 本考案の粘性液体ダンパーは、密閉容器および装着部が熱可塑性樹脂製であることが重要である。 該密閉容器の攪拌部、薄肉可撓部、側壁および蓋部、また装着部がすべて同じ熱可塑性樹脂から構成されることができるが、薄肉可撓部は熱可塑性エラストマーを使用することが好ましい。 【0011】 熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリアセタールなどがあり、熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系ブロックコポリマー、スチレン-ジエン系ブロックコポリマー、エチレン-プロピレン系コポリマー、熱可塑性ポリウレタンなどが例示できる。 【0012】 本考案のダンパーは、攪拌部、薄肉可撓部および側壁が一体成形された容器本体を予め製造しておき、該容器本体内に粘性液体を満たし、次いで蓋部を前記容器本体に熱融着させることにより製造される。 【0013】 【考案の効果】 本考案により、加えられた振動が十分に吸収され得る粘性液体ダンパーを提供することが可能となった。しかも、本考案の粘性液体封入ダンパーは熱可塑性樹脂から構成されているため、簡単に成形することができる。さらに、該粘性液体封入ダンパーを固定部材に固定する際にも、ダンパーに一体に形成されている係合部を備えた装着部を固定部材内に設けられた空間部に押し込むだけで嵌着させることができ、簡単な操作にて、強固に固定することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本考案の粘性液体ダンパーの一例の断面図である。 【図2】 本考案の粘性液体ダンパーの異なる例の断面図である。 【図3】 本考案の粘性液体ダンパーの異なる例の断面図である。 【図4】 本考案の粘性液体ダンパーの異なる例の断面図である。なお、図4-aは粘性液体ダンパーの断面図、図4-bは前記ダンパーを90°回転させた時の装着部の断面図、図4-cは同じくダンパーを90°回転させた時のダンパーの部分拡大断面図である。 【図5】 本考案の粘性液体ダンパーを用いてCDダンパーを支持する一例の要部断面図である。 【符号の説明】 1 密閉容器 2 装着部 3 固定部材 4 空間部 5 CDプレイヤー 10 粘性液体ダンパー 11 薄肉可撓部 12 側壁部 13 蓋部 14 攪拌部 15 蓋部表面に形成された凸部 31 爪 33 直方体 34 直方体表面に形成された凸部 41 空間部を形成する壁の凸部 43 空間部の凹部 51 ピン |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 ア.訂正事項a 実用新案登録請求の範囲の請求項1の「液体封入ダンパー」を、「容器本体と蓋部を熱融着によって一体化されたもの」と訂正する。 イ.訂正事項b 実用新案登録請求の範囲の請求項1の「容器本体あるいは蓋部に設けられている係合部」を、「蓋部に設けられている係合部」と訂正する。 ウ.訂正事項c 考案の詳細な説明の【0010】の「本件考案の熱可塑性樹脂は、いわゆる熱可塑性エラストマーをも含められる。」を削除する。 エ.訂正事項d 上記訂正事項aの訂正に伴い、考案の詳細な説明の【0012】の「公知の方法を採用することにより製造できるが、通常、」を削除する。 |
異議決定日 | 2001-08-31 |
出願番号 | 実願平5-1653 |
審決分類 |
U
1
651・
121-
ZA
(F16F)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 窪田 治彦 |
特許庁審判長 |
内藤 二郎 |
特許庁審判官 |
田良島 潔 相馬 多美子 |
登録日 | 2000-02-18 |
登録番号 | 実用新案登録第2604241号(U2604241) |
権利者 |
北辰工業株式会社 神奈川県横浜市鶴見区尻手2丁目3番6号 |
考案の名称 | 粘性液体ダンパー |
代理人 | 大竹 正悟 |
代理人 | 庄子 幸男 |
代理人 | 庄子 幸男 |