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審決分類 審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許 無効としない A47K
審判 全部無効 発明同一 無効としない A47K
審判 全部無効 1項1号公知 無効としない A47K
管理番号 1083248
審判番号 審判1999-35463  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2003-10-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-08-30 
確定日 2003-09-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第2507154号実用新案「ふろばの回る腰掛け」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 経緯

本件実用新案登録第2507154号は、平成5年6月28日に出願され、平成8年5月30日に設定登録され、平成11年8月30日に川崎化工株式会社より無効審判の請求があり、平成11年12月20日付けで被請求人より審判事件答弁書が提出され、平成12年7月19日付けで請求人より審判事件弁駁書が提出され、平成12年9月22日付けで請求人に対して審尋がなされ、平成12年12月14日付けで請求人より審判事件回答書が提出されたものである。

第2 請求人及び被請求人の主張の概要

1.請求人は、「実用新案登録第2507154号の登録はこれを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」趣旨で無効審判を請求し、請求の理由として、審判請求書、審判事件弁駁書及び審判事件回答書において、甲第1号証ないし甲第18号証を提示して、概要次のように主張する。
(1)無効理由1:本件実用新案登録の請求項1に記載された考案(以下、本件考案という。)は、被請求人が本件実用新案登録の出願前に本件考案に係る物品のパンフレットや取扱説明書を頒布目的で大量に印刷するとともに、本件考案に係る物品の宣伝をTV放送したことにより、その出願前日本国内において公然知られた考案であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当する。
(2)無効理由2:本件考案は、有限会社ケイエスビー四国及び有限会社エイブル企画が本件実用新案登録の出願前に本件考案に係る物品を販売したことにより、その出願前日本国内において公然知られた考案であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当する。
(3)無効理由3:本件考案は、本件実用新案登録の出願前に出願されその後公開された甲第8号証に記載されたものと同一であるから、実用新案法第3条の2に該当する。
(4)無効理由4:本件考案の真の考案者は、株式会社佐藤工業デザイン事務所代表者である佐藤紀雄であり、本件考案は、その考案者でない者であってその考案について実用新案登録を受ける権利を承継しない者の実用新案登録出願に対してなされたものであるから、実用新案法第37条第1項第4号に該当する。
2.一方、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」趣旨で答弁し、答弁書において概要次のように主張する。
(1)無効理由1については、本件考案に係る物品のパンフレットや取扱説明書を、本件実用新案登録の出願後に頒布することを目的として予め印刷しておく行為や、物品の内部構造の技術的特徴を明らかにしないTV放送の行為によっては、公然知られた考案にならない。
(2)無効理由2については、有限会社エイブル企画の具体的な販売事実を立証する証拠が提出されておらず、有限会社ケイエスビー四国の販売は平成5年8月19日以降のことであって、公然知られた考案にならない。
(3)無効理由3については、甲第8号証に記載されたものは、審査段階で甲第8号証を引用して拒絶理由通知がされたが、補正により登録要件を具備するものとして登録されている。本件考案は実用新案法第3条の2に該当しない。
(4)無効理由4については、本件考案の真の考案者は佐藤紀雄である旨の主張はされているが、その立証はされていない。本件考案の真の考案者は被請求人である。

第3 本件考案

本件考案は、明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「下端面にOリング8を施した下部側の環状裾部3a、該裾部3aから上方へ径小に湾曲形成される環状殻部3bを介して設けた上部側の環状支持部3c、及び該環状支持部3cの内側に一体的に連接されて上下中空状をなし、該中空状の内周面に雌ねじを形成した内筒部からなる本体3と、
中空筒状をなして外周面に前記環状支持部3cの雌ねじに上下方向螺進退可能な螺合嵌挿する上下用雄ねじハを形成した支持中空軸部2a、該支持中空軸部2aの上部側から拡径され、かつ下部側には、軸芯方向へ向けて突出形成し下面に平面歯下ホを形成した内周鍔部2dを設けた中間部2b、該中間部2bの周端部を拡径して受皿状に形成され、該受皿状部分の上面内周側に上向きの下部ボール受け溝ロを形成した受支部2cからなる伸縮用座受け2と、
中心部に上下方向の貫通孔1bを残して平面化された腰掛け面部1a、該腰掛け面部1aの下面内周側に前記下部ボール受け溝ロに対向する下向きの上部ボール受け溝イ、及び前記貫通孔1bの内周部に前記中間部2bの内側に嵌挿され、内周縁部に連結用突起受け部トを形成され、該連結用突起受け部トの上面に所定角間隔を隔てて複数の連結用突起廻り止めチを突出させた内筒部1cからなる回転座1と、
前記平面歯下ホと噛み合う平面歯上ヘを形成し、上面に独立的に撓曲可能な連結用突起ニ、及び該突起ニの上部外面に前記連結用突起廻り止めチに係合させる係合爪6aを突設した環状体からなる連結用部品6と、
前記伸縮用座受け2の下部ボール受け溝ロと、これに対向する前記回転座1の上部ボール受け溝イとの間に介在可能にされ、複数の保持穴を形成し、該各保持穴内に保持されるボール5からなるボールガイド板4とを備え、利用者が、前記回転座1の腰掛け面部1a上に軽く腰掛け、該回転座1への体重負荷を軽減した状態では、連結用部品6の平面歯上ヘと伸縮用座受け2の平面歯下ホとの噛み合いが保持され、回転座1及び伸縮用座受け2間の回動を拘束して、前記本体3に対する回転座1を含んだ伸縮用座受け2の螺進退操作を可能とし、
また、前記回転座1への体重負荷を軽減しない状態では、前記連結用部品6の平面歯上ヘと前記伸縮用座受け2の平面歯下ホとの噛み合いが自動的に解放され、前記伸縮用座受け2に対する前記回転座1の回動操作が優先されて、前記本体3に対する伸縮用座受け2の螺進退を不能にし得るように構成したことを特徴とするふろばの回る腰掛け。」

第4 請求人主張の無効理由についての検討

1.無効理由1について
(1)請求人は、被請求人が本件実用新案登録の出願前に本件考案に係る物品のパンフレットや取扱説明書を頒布目的で大量に印刷するとともに、本件考案に係る物品の宣伝をTV放送したことにより、その出願前日本国内において公然知られた考案であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当する旨主張し、甲第4号証ないし甲第6号証及び甲第10号証ないし甲第12号証を提出する。
(2)以下、検討する。
(ア)甲第4号証及び甲第11号証は、入浴椅子「ユーランド」のパンフレットであり、上部に「今日から安心らくらく入浴 体にやさしい入浴椅子 ユーランド」と記載され、中央左に入浴椅子の外観を示す写真、中央右に入浴椅子の図(左半分は断面図であり、右半分は外形図であり、座面が上下した状態が示され、430mm?310mmの範囲で調節できますと記載されている。)、下部に入浴時の使用状態を表す3図が示され、中央右には「座面が回転し便利です 座の高さ調節自由です 安全設計(滑り止め付)です ¥18,000 実用新案出願中」と記載されている。
(イ)次に、甲第5号証は、株式会社マックスが有限会社ケイエスビー四国に宛てたユーランド取扱説明書の請求書と、ユーランドの取扱説明書であり、ユーランドの取扱説明書には、第1葉の表紙には椅子の外観の写真が示され、第2葉左頁に椅子の外観図(底面部に滑りゴムが設けられ、低くなった状態で32cm、高くなった状態で45cmを示す。)とともに「1 高さ調節 左回し-高くなる 右回し-低くなる 調節巾は32cmから45cmの間 高さの調節は座面と受台を一緒につかんで回して下さい。」と記載されている。
(ウ)甲第6号証は、株式会社マックスがケイエスビー四国に宛てたユーランドCM制作費、RSKTVCM放送料、パンフレット等の領収書であり、甲第10号証は請求人の得意先元帳(平成4年9月11日?平成5年5月18日分)の写し、甲第12号証は川崎化工株式会社の登記簿の写しであって、入浴椅子「ユーランド」の具体的構造は全く記載されていない。
(エ)甲第4号証、甲第5号証及び甲第11号証から、入浴椅子「ユーランド」は、座面が回転すること、座を回転させることにより座の高さが430mm?310mmまたは32cmから45cmの範囲で調節できること、滑り止めがついていることは理解できるものの、入浴椅子の外観を示す写真や、入浴時の使用状態を表す図からは、座の高さを調節するための具体的構成は全く不明である。また、甲第4号証及び甲第11号証の中央右に示された入浴椅子の図は、全体に不明りょうであって、本件考案の構成要件のうち、
「中心部に上下方向の貫通孔1bを残して平面化された腰掛け面部1a、該腰掛け面部1aの下面内周側に前記下部ボール受け溝ロに対向する下向きの上部ボール受け溝イ、及び前記貫通孔1bの内周部に前記中間部2bの内側に嵌挿され、内周縁部に連結用突起受け部トを形成され、該連結用突起受け部トの上面に所定角間隔を隔てて複数の連結用突起廻り止めチを突出させた内筒部1cからなる回転座1」や、
「前記平面歯下ホと噛み合う平面歯上ヘを形成し、上面に独立的に撓曲可能な連結用突起ニ、及び該突起ニの上部外面に前記連結用突起廻り止めチに係合させる係合爪6aを突設した環状体からなる連結用部品6」
については、記載されているとは認められない。
(オ)以上のように、請求人の提出した甲第6号証、甲第10号証及び甲第12号証には入浴椅子の具体的構造が全く記載されておらず、甲第4号証、甲第5号証及び甲第11号証に記載された入浴椅子「ユーランド」は、本件考案と同じ構成を有するものとは認められず、これらの証拠が本件実用新案登録の出願前に公知であったか否かに拘わらず、これらの証拠から本件考案がその出願前に公然知られたものであったとすることはできない。
(3)請求人は、甲第4号証及び甲第11号証に示された断面図には本件考案の構造が明りょうに記載されている旨、また当該断面図は甲第7号証の添付資料第3号と同一である旨主張する(平成12年12月14日付回答書2頁26行ないし3頁4行)が、上記したように甲第4号証及び甲第11号証に示された断面図に本件考案の構造が記載されているということはできず、また、甲第7号証の添付資料第3号(ないし資料第7号)に記載された「フロイス」は後述(「4.無効理由4について」の項参照)するように、本件考案とは異なる構成となっているのであって、請求人の主張は採用できない。

2.無効理由2について
(1)請求人は、甲第7号証(佐藤紀雄の宣誓書)及び甲第13号証(川崎清志の宣誓書)をもとに、本件考案に係る腰掛けは、本件実用新案登録の出願前に有限会社ケイエスビー四国及び有限会社エイブル企画が日本国内において販売したことにより、その出願前日本国内において公然知られたものである旨主張する。
(2)請求人が、日本国内において販売したと主張する腰掛けは、有限会社ケイエスビー四国及び有限会社エイブル企画が販売したとする、甲第4号証、甲第5号証及び甲第11号証に記載された入浴椅子「ユーランド」のことと理解されるが、「1.無効理由1について」の項で検討したように当該入浴椅子は本件考案と同じ構成を有するものとは認められないことから、当該入浴椅子が本件実用新案登録の出願前に販売されたか否かに拘わらず、当該入浴椅子の販売をもって、本件考案がその出願前に公然知られたものであったとすることはできない。
(3)請求人は、甲第7号証として佐藤紀雄の宣誓書を提出し、同宣誓書において、同人は、平成4年5月21日以降に有限会社エイブル企画(佐藤紀雄が役員)と有限会社ケイエスビー四国が当該入浴椅子を販売した旨記載し、また、販売の事実を佐藤紀雄が証言するとしているが、「1.無効理由1について」の項で検討したように当該入浴椅子は本件考案と同じ構成を有するものとは認められないことから、佐藤紀雄の宣誓書は採用することはできず、また、証言を必要としない。
また、請求人は、甲第13号証として川崎清志の宣誓書を提出し、同宣誓書において、同人は、当該入浴椅子「ユーランド」は、川崎化工株式会社が製造した製品で、本件考案の「ふろばの回る腰掛け」と構成が同じであり、平成5年6月27日以前に有限会社ケイエスビー四国で販売した旨記載しているが、上記のように当該入浴椅子は本件考案と同じ構成を有するものとは認められないことから、川崎清志の宣誓書は採用することはできない。

3.無効理由3について
(1)請求人は、本件考案は、本件実用新案登録の出願前に出願されその後公開された甲第8号証に記載されたものと同一であるから、実用新案法第3条の2に該当する旨主張する。
(2)以下、検討する。
(ア)甲第8号証(実願平4-40966号(実開平5-91671号)のCD-ROM)の出願日、出願人及び考案者について
実願平4-40966号は、本件実用新案登録の出願日である平成5年6月28日より前の平成4年5月21日に出願され、平成5年12月14日に出願公開され、出願人は佐藤紀雄及び川崎清志であり、考案者は佐藤紀雄である(以下、この出願を先願という。)。
(イ)先願の明細書又は図面に記載された事項
先願の願書に最初に添付された明細書又は図面には、次の記載が認められる。
(イ-1)実用新案登録請求の範囲の記載
【請求項1】ねじ山が内周面に形成された開口部を中央に有する合成プラスチック等の略円錐台形状の台座部と、前記開口部に螺嵌されるねじ山が外周面に成形された合成プラスチック等の円筒状の軸と、この円筒状の軸と一体に成形され、且つ上面外周部全周にころがり軸受が設けられた円形状の座受部と、この座受部の上面に設けられ、且つ裏面外周部全周にころがり軸受が設けられた円形状の座部と、この座部を係止する抜け止め部材とからなり、前記円筒状の軸と前記座受部の境部分の内周部全周には突部が設けられるとともに、この突部の下面にはつめが全周に設けられ、該つめと噛合するように前記抜け止め部材の上面外周部全周につめが設けられてなることを特徴とするフロ用イス。
(イ-2)考案の詳細な説明の記載
段落番号0001には、「【産業上の利用分野】この考案はフロ用イスに係り、その目的は老人や下半身が不自由な身体障害者等が他の人の手を借りることなく、独りで容易に浴槽に入ったり、上がったりすることのできるフロ用イスの提供にある。」と記載され、
段落番号0007には、「【作用】座部の中央部に座り圧力が加わると、弾性反発力によって円筒状の軸と座受部の境部分の内周部全周に突出された突部の下面に設けられたつめと、抜け止め部材の上面外周部全周に設けられたつめとの噛み合いが外れ、回動自在となる。従って、前記座部の中央部に圧力を加えたままで、前記座部を回動させるのみで容易に浴槽に入ったり、上がったりすることができる。また、座部に圧力を加えないか若しくは座部の側部に圧力が加わると、円筒状の軸と座受部の境部分の内周部全周に突出された突部の下面に設けられたつめと、抜け止め部材の上面外周部全周に設けられたつめとが噛合して固定されるので、安定性に優れたものとなる。」と記載され、
段落番号0009ないし0011には、実施例に関して、「【0009】図1において、フロ用イス(1)は合成プラスチック等からなり、このフロ用イス(1)の台となる略円錐台形状の台座部(2)の中央には、開口部(3)が設けられており、この開口部(3)の内周面には、ねじ山(10)が設けられている。前記開口部(3)には、ねじ山(10)が外周面に設けられた円筒状の軸(5)が螺嵌される。この円筒状の軸(5)と開口部(3)とが螺嵌されることにより、任意の高さに調節することができる。前記円筒状の軸(5)の上端には、円筒状の軸(5)と一体に形成された円形状の座受部(4)が設けられおり、座受部(4)の上面外周部全周には、図2に示すようにころがり軸受(7b)が設けられている。前記円筒状の軸(5)と座受部(4)との境部分の内周部全周には突部(16)が設けられ、この突部(16)の下面にはつめ(6a)が設けられている。前記座受部(4)の上面には円形状の座部(8)が設けられ、その座部(8)の裏面外周部全周には、図3に示すようにころがり軸受(7b)が設けられている。円筒状の軸(5)と座受部(4)との境部分の内空間には、座部(8)を係止する抜け止め部材(17)が設けられており、この抜け止め部材(17)の上面外周部全周には、突部(16)の下面に設けられたつめ(6a)と噛合するつめ(6b)が設けられている。勿論、座受部(4)の上面外周部全周に設けられたころがり軸受(7a)と座部(8)の裏面外周部全周に設けられたころがり軸受(7b)の間にはコロ(9)が設けられている。尚、前記つめ(6a)(6b)、前記ころがり軸受(7a)(7b)は、アルミニウム等の金属であっても良い。
【0010】次に、このフロ用イス(1)の使用状態を説明する。(中略)浴槽の枠に下ろした腰をフロ用イス(1)の座部(8)の中央部まで腰を移動する。すると、図4に示すように今まで円筒状の軸(5)と座受部(4)の境部分の内周部全周に突出された突部(16)の下面に設けられたつめ(6a)と、抜け止め部材(17)の上面外周部全周に設けられたつめ(6b)とが噛合して固定されていた座部(8)が弾性反発力によって図5に示すように噛み合いが外れ、ころがり軸受(7a)(7b))を介して回動自在となる。そして座部(8)の中央部に腰掛けたままで、座部(8)を回動させることによって浴槽から上がることができ、更に脚を下ろすことにより、座部(8)の側部に圧力が加わり、円筒状の軸(5)と座受部(4)の境部分の内周部全周に突出された突部(16)の下面に設けられたつめ(6a)と、抜け止め部材(17)の上面外周部全周に設けられたつめ(6b)とが再び噛合して固定される。また、浴槽に入る場合は、浴槽から上がる場合の逆の動作を行えば良い。
【0011】このように、座部(8)の中央部に圧力が加わると、弾性反発力により噛合して固定されていた円筒状の軸(5)と座受部(4)の境部分の内周部全周に突出された突部(16)の下面に設けられたつめ(6a)と、抜け止め部材(17)の上面外周部全周に設けられたつめ(6b)との噛み合いが外れ、座部(8)が回動自在になり、座部(8)の中央部に圧力を加えたままで、座部(8)を回動させるのみで容易に浴槽から上がることができる。座部(8)の側部に圧力が加わると、円筒状の軸(5)と座受部(4)の境部分の内周部全周に突出された突部(16)の下面に設けられたつめ(6a)と、抜け止め部材(17)の上面外周部全周に設けられたつめ(6b)とが噛合することにより、座部(8)が固定され、安定性に優れたものとなる。」と記載され、
段落番号0012には、「【考案の効果】以上詳述した如くこの考案は、ねじ山が内周面に形成された開口部を中央に有する合成プラスチック等の略円錐台形状の台座部と、前記開口部に螺嵌されるねじ山が外周面に成形された合成プラスチック等の円筒状の軸と、この円筒状の軸と一体に成形され、且つ上面外周部全周にころがり軸受が設けられた円形状の座受部と、この座受部の上面に設けられ、且つ裏面外周部全周にころがり軸受が設けられた円形状の座部と、この座部を係止する抜け止め部材とからなり、前記円筒状の軸と前記座受部の境部分の内周部全周には突部が設けられるとともに、この突部の下面にはつめが全周に設けられ、該つめと噛合するように前記抜け止め部材の上面外周部全周につめが設けられてなることを特徴とするフロ用イスであるから、以下の効果を奏する。 即ち、円筒状の軸と座受部の境部分の内周部全周に突出された突部の下面に設けられたつめと、抜け止め部材の上面外周部全周に設けられたつめとが噛合するように設けられ、前記座部の中央部に圧力が加わると噛み合いが外れ、前記座部が回動自在になるため、前記座部の中央部に圧力を加えたままで、前記座部を回動させるのみで容易に独りで浴槽に入ったり、上がったりすることができる。 また、座部に圧力が加わらないか、若しくは前記座部の側部に圧力が加わると、円筒状の軸と座受部の境部分の内周部全周に突出された突部の下面に設けられたつめと、抜け止め部材の上面外周部全周に設けられたつめとが噛合し前記座部が固定されるため、安定性に優れた効果を奏する。」と記載されている。
(イ-3)そして、図1によれば、フロ用イスの台座部2の下端部にはリング状のものが設けられており、ころがり軸受7a、7bの間にはコロ9が設けられている。また、図3ないし図5を参酌すると、座部8の中央部に設けられた円筒部の下端部には、内周方向に環状の突起(以下、環状の突起という。)が設けられており、一方、抜け止め部材17のつめ6bよりも内側には、円環状の嵌合部(以下、嵌合部という。)が設けられており、この嵌合部は、上記円環状の突起と嵌合されるようになっている状態が示されており、ころがり軸受7a、7bの間にはコロ9が設けられているものの、このコロを保持するためのガイド板の記載は認められない。
(ウ)対比
先願の明細書又は図面には、台座部2、座受部4、座部8、抜け止め部材17及びころがり軸受7a、7b等からなるフロ用イスが記載されており、先願に記載された台座部2、座受部4、座部8、抜け止め部材17及びころがり軸受7a,7bは、それぞれ本件考案の本体、伸縮用座受け、回転座、連結用部品及び上下部ボール受け溝に相当するものであり、先願に記載された座部8の環状の突起は、本件考案の回転座の連結用突起受け部に相当し、先願に記載された抜け止め部材17の嵌合部は、本件考案の連結用突起に相当し、先願に記載された抜け止め部材のつめ6b、座受部のつめ6aは、本件考案の連結用部品の平面歯上、伸縮用座受けの内周鍔部の平面歯下に相当するものであるから、本件考案と先願に記載されたものとの一致点及び相違点は次のとおりと認められる。
一致点(注、符号は省略する):
「下端面にリングを施した下部側の環状裾部、該裾部から上方へ径小に湾曲形成される環状殻部を介して設けた上部側の環状支持部、及び該環状支持部の内側に一体的に連接されて上下中空状をなし、該中空状の内周面に雌ねじを形成した内筒部からなる本体と、
中空筒状をなして外周面に前記環状支持部の雌ねじに上下方向螺進退可能な螺合嵌挿する上下用雄ねじを形成した支持中空軸部、該支持中空軸部の上部側から拡径され、かつ下部側には、軸芯方向へ向けて突出形成し下面に平面歯下を形成した内周鍔部を設けた中間部、該中間部の周端部を拡径して受皿状に形成され、該受皿状部分の上面内周側に上向きの下部ボール受け溝を形成した受支部からなる伸縮用座受けと、
中心部に上下方向の貫通孔を残して平面化された腰掛け面部、該腰掛け面部の下面内周側に前記下部ボール受け溝に対向する下向きの上部ボール受け溝、及び前記貫通孔の内周部に前記中間部の内側に嵌挿され、内周縁部に連結用突起受け部を形成された内筒部からなる回転座と、
前記平面歯下と噛み合う平面歯上を形成し、上面に連結用突起を突設した環状体からなる連結用部品と、
利用者が、前記回転座の腰掛け面部上に軽く腰掛け、該回転座への体重負荷を軽減した状態では、連結用部品の平面歯上と伸縮用座受けの平面歯下との噛み合いが保持され、回転座及び伸縮用座受け間の回動を拘束して、前記本体に対する回転座を含んだ伸縮用座受けの螺進退操作を可能とし、
また、前記回転座への体重負荷を軽減しない状態では、前記連結用部品の平面歯上と前記伸縮用座受けの平面歯下との噛み合いが自動的に解放され、前記伸縮用座受けに対する前記回転座の回動操作が優先されて、前記本体に対する伸縮用座受けの螺進退を不能にし得るように構成したことを特徴とするふろばの回る腰掛け。」
相違点1:本件考案の本体の下部側の環状裾部には下端面にOリングが施されているが、先願に記載されたものは、リング状のものが設けられているもののOリングかどうか明確でない点、
相違点2:本件考案の回転座の内筒部には、連結用突起受け部の上面に所定角間隔を隔てて複数の連結用突起廻り止めを突出させているが、先願に記載されたものは、回転座に相当する座部の内筒部の下端に環状の突起が設けられているものの、所定角間隔を隔てて複数の連結用突起廻り止めが設けられていない点、
相違点3:本件考案の連結用部品は、上面に独立的に撓曲可能な連結用突起、及び該突起の上部外面に前記連結用突起廻り止めに係合させる係合爪を突設しているのに対し、先願に記載されたものは、本件考案の連結用部品に相当する抜け止め部材の上面には独立的に撓曲可能な連結用突起が設けられていない点、
相違点4:本件考案は、伸縮用座受けの下部ボール受け溝と、これに対向する回転座の上部ボール受け溝との間には、ボールを保持する複数の保持穴を形成したボールガイド板を備えているのに対し、先願に記載されたものは、ボールガイド板を備えていない点。
(エ)上記相違点について
本件考案と先願に記載されたものとは上記相違点1ないし4において相違していると認められ、特に相違点2及び3に係る構成ついては、風呂場の腰掛けにおいて周知の技術的事項ではなく、また、本件考案は上記相違点2及び3に係る構成としたことによって明細書に記載されたように、「利用者が両足を洗い場の床面で支えたまま、回転座1の腰掛け面部1a上に軽く腰掛け、該回転座1への体重負荷を軽減させることで、回転座1の連結用突起廻り止めチに対する連結用部品6の係合爪6aとの係合、ひいては連結用部品6の平面歯上ヘと伸縮用座受け2の平面歯下ホとの噛み合いが保持され、回転座1及び伸縮用座受け2間の回動が拘束されることになる。この結果、本体3に対する回転座1を含んだ伸縮用座受け2の利用者自身による螺進退操作、つまり、回転座1の上下高さ位置の調節(上昇、下降)が可能になる。また、両足を洗い場の床面に伸ばす等で回転座1への体重重荷を十分に加えることで、平面化した腰掛け面部1aが下方へ弾性的に撓曲され、該撓曲に伴って回転座1の連結用突起受け部トも下方へ押し下げられることになる。この結果、回転座1の連結用突起受け部トと係合爪6aを介して係合されている連結用部品6も自重で下方へ移動し、連結用部品6の平面歯上ヘと伸縮用座受け2の平面歯下ホとの噛み合いが自動的に解放されることになり、伸縮用座受け2に対する回転座1の回動操作が優先されて、本体3に対する伸縮用座受け2の螺進退操作を不能にするのである。」(段落番号0021、0022)という先願に記載されたものが奏し得ない作用効果を奏することができると考えられる。
つまり、先願に記載されたものは、廻り止めやこれに係合される係合爪に相当する構成を有さないため、座部8への体重負荷を軽減させた状態で、座部8を回転させて座部の上下高さを調節する場合には、座部の環状の突起と抜け止め部材の嵌合部とが相対的に滑って、軸5の螺進退に支障を来すおそれがあるが、本件考案はそのようなおそれがなくなると考えられる。
(3)まとめ
したがって、本件考案は、先願に記載されたものとは構成を異にし、当該構成の差異は単なる構成上の微差とすることもできないので、本件考案は実用新案法第3条の2に該当するものとすることはできない。

4.無効理由4について
(1)請求人は、本件考案の真の考案者は、株式会社佐藤工業デザイン事務所代表者である佐藤紀雄であるとして甲第7号証(佐藤紀雄の宣誓書)を提出するとともに、佐藤紀雄を証人申請し、甲第7号証において佐藤紀雄は、添付した資料第3号ないし資料第7号に記載された「フロイス」(以下、添付資料のイスという。)は佐藤紀雄が考案し、川崎清志と連名で実用新案登録出願(実願平4-40966号)したものであって、本件考案と全く同じ構成となっている旨宣誓している。
(2)そこで、佐藤紀雄の企画を、同人の指示により、佐藤匠及び米沢泰之が図面にしたとする資料第3号ないし資料第7号を検討する。なお、図面には平成4年2月から同年5月にかけての日付が記載されている。
(ア)資料第3号には、「THEMEフロイス CORD組図」として風呂椅子の組み立てた状態の正面図(右側半分は断面図)と平面図が示されており、座面の高さが310(最小)から420(最大)まで調節できる状態が示されている。ここにおいて、請求人は、平面図には、甲第15号証において符号4で示すようにボールガイド板が記載されている旨主張する。
(イ)資料第4号には、「THEMEフロイス CORD座面」として下部に座面の正面図(右側半分は断面図)、上部に平面図、中央左側に平面図のZ矢視図が示されており、これらの図によれば、座面中央に設けられた円筒部下端部には外側に向かった突起が2個設けられ、この突起の上面には中央左側の平面図のZ矢視図に示されたように山形の凹凸が形成され、円筒部下部には複数のスリットが設けられ、さらに、平面状に広がった上部の下面には円環状の溝が形成されていると認められる。
(ウ)資料第5号には、「THEMEフロイス CORD本体2」として下部に本体2の正面図(右側半分は断面図)、上部に平面図、中央左側に平面図のZ矢視図が示されておりが示されており、本体2の中央部には円筒部が形成され、上下方向中間部に内側に向かって円環状の突起が設けられ、その下面には中央左側に平面図のZ矢視図に示されたように山形の凹凸が形成され、さらに、平面状に広がった上部の上面には円環状の溝が形成されていると認められる。
(エ)資料第6号には、「THEMEフロイス CORD本体1」として本体1の正面図(右側半分は断面図)と平面図が示されており、本体1の中央には内周面にネジが設けられた円筒部が認められる。
(オ)資料第7号には、「THEMEフロイス CORD回り止メ」として中央に回り止メの正面図、上部に平面図、下部に平面図のZ矢視図が示されており、この回り止メは、全体形状は円環状であって、4個所において立ち上がった部分と、上面にZ矢視図に示されたように山形の凹凸が形成された部分とが交互に設けられていることが認められる。
(3)対比・判断
添付資料のイスと本件考案とを対比すると、添付資料のイスに請求人主張のようにボールガイド板が設けられているとすれば、当該椅子の本体1、本体2、座面、回り止メ、ボールガイド板は、本件考案の本体、伸縮用座受け、回転座、連結用部品、ボールガイド板にそれぞれ相当すると認められる。
ここで添付資料のイスの本件考案の回転座に相当する座面は、資料第3号及び資料第4号によれば、座面中央に設けられた円筒部下端部には外側に向かった突起が2個設けられ、この突起の上面には中央左側の平面図のZ矢視図に示されたように山形の凹凸が形成され、円筒部下部には複数のスリットが設けられているのであって、円筒部の下部の内周面には、本件考案の連結用突起受け部やその上面に所定角間隔を隔てて設けられた複数の連結用突起廻り止めに相当する形状ののものは何ら設けられていない。
また、本件考案の連結用部品に相当する回り止メは、資料第3号及び資料第7号によれば、全体形状は円環状であって、4個所において立ち上がった部分を有しており、この立ち上がった部分は、座面の中央に設けられた円筒部下端部の内側に挿入されるようになっている。
したがって、本件考案と添付資料のイスとは少なくとも次の点で相違していると認められる。
本件考案の回転座の内筒部には、内周縁部に連結用突起受け部が形成され、連結用突起受け部の上面に所定角間隔を隔てて複数の連結用突起廻り止めを突出させているが、添付資料のイスは、回転座に相当する座面の内筒部の内周縁部には連結用突起受け部や複数の連結用突起廻り止めが設けられていない点。
したがって、本件考案と添付資料のイスとは異なる構成となっている。
(4)請求人は、本件考案の真の考案者は佐藤紀雄であり、本件考案は、その考案者でない者であってその考案について実用新案登録を受ける権利を承継しない者の実用新案登録出願に対してなされたものである旨主張するが、請求人の主張は、本件考案と添付資料のイスとが同一の構成であることを前提とするものであって、上記のように本件考案と添付資料のイスとは異なる構成となっているのであるから、仮に添付資料のイスが本件実用新案登録の出願前に佐藤紀雄によって考案されたものであって、当該イスはボールガイド板を有するものであるとしても、請求人の主張はその前提において間違っており、請求人の主張は採用できない。
なお、佐藤紀雄は、添付資料のイスは実願平4-40966号として出願した考案と同じ構造をしている旨主張するが、実願平4-40966号は「3.無効理由3について」の項で検討した先願であって、先願に記載されたものと本件考案とは異なる構成となっていることは、当該の項において記載したとおりであって、先願に記載されたものをもととして、本件考案は佐藤紀雄が考案したとする請求人の主張も採用できない。

第5 まとめ

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることはできない。
また、審判費用の負担については、実用新案法第41条の規定により準用し、特許法第169条第2項の規定によりさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2001-02-20 
結審通知日 2001-03-06 
審決日 2001-03-21 
出願番号 実願平5-46341 
審決分類 U 1 112・ 111- Y (A47K)
U 1 112・ 152- Y (A47K)
U 1 112・ 161- Y (A47K)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 藤田 年彦西田 秀彦  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 杉浦 淳
鈴木 憲子
登録日 1996-05-30 
登録番号 実用新案登録第2507154号(U2507154) 
考案の名称 ふろばの回る腰掛け  
代理人 清原 義博  
代理人 川崎 隆夫  

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