• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 訂正を認める。無効としない D05B
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 訂正を認める。無効としない D05B
管理番号 1106048
審判番号 無効2000-35103  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2004-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-02-22 
確定日 2004-07-02 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の登録第2594003号「ミシンの上送り装置」の実用新案登録無効審判事件についてされた平成14年 5月22日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成14年(行ケ)第0321号平成15年 6月25日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。   
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1.手続の経緯の概要
本件登録第2594003号実用新案は、平成5年7月22日に出願され、平成11年2月19日にその実用新案について設定の登録がなされたもので、その後、平成12年2月22日付けで請求人株式会社森本製作所(以下、「請求人」という。)より無効審判の請求がなされ、平成12年6月2日付けで被請求人ヤマトミシン製造株式会社(以下、「被請求人」という。)より審判事件答弁書の提出がなされ、平成12年8月31日付けで請求人より審判事件弁駁書の提出がなされ、平成12年10月24日付けで「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決がなされたところ、この審決を不服として請求人を原告として東京高等裁判所に出訴(平成12年(行ケ)第468号)がなされ、平成13年9月20日に東京高等裁判所において、「審決には、原告の[主張1]及び[主張2]に関し、本件考案の実用新案登録につき実用新案法第5条第5項第2号の規定の違反の有無について判断を遺脱した違法があるというべきであり、この違法は審決の結論に影響を及ぼし得るものである。」との理由で、審決取消の判決がなされ、審理をやり直すように当審に差し戻されたものである。

よって、当審において審理をやり直したところ、平成13年12月10日付けで請求人より上申書の提出がなされ、平成14年2月8日付けで請求人より口頭審理陳述要領書の提出がなされ、同日なされた口頭審理において、請求人及び被請求人の主張と証拠について整理(請求人の無効理由の主張4の取り下げ)と確認(請求人が主張する「実用新案法第5条第5項の規定に違反している」旨の主張は、「実用新案法第5条第5項第1号及び第2号の規定に違反して」の趣旨であること)がなされ、上記口頭審理での当審の求めに応じて、平成14年3月8日付けで被請求人より審判事件答弁書(第2回)の提出がなされ、平成14年4月11日付けで請求人より審判事件弁駁書(第2回)が提出され、平成14年5月22日付けで「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決が再度なされたところ、この審決を不服として、請求人を原告として、東京高等裁判所に再度出訴(平成14年(行ケ)第321号)がなされ、平成15年6月25日に東京高等裁判所において、「本件審決は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1の構成要件E,G及びHの記載につき、誤って考案の構成に欠くことができない事項のみを記載していると判断したものであって、これらの構成要件の記載が、旧法5条5項2号にいう、考案の構成に欠くことができない事項のみを記載していることの理由を示していないことに帰し、この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明かである」との理由で、審決取消の判決がなされ、審理をやり直すように当審に差し戻されたものである。

そこで、当審において、さらに審理をやり直し、平成15年9月3日付けで無効理由通知書を被請求人に送付したところ、被請求人より、平成15年10月29日付けで意見書及び訂正請求書が提出され、これに対して、請求人より平成16年1月29日付けで弁駁書(第3回)が提出されたものである。

2.訂正の適否
被請求人は、平成15年10月29日付け訂正請求書により、本件実用新案登録明細書の訂正を請求しているので、まずこの訂正の可否について検討する。

上記訂正の趣旨は、本件実用新案登録の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項(1)及び訂正事項(2)のとおりである。

(A)訂正の内容
訂正事項(1)
実用新案登録請求の範囲を以下のとおりに訂正する。
「【請求項1】 ミシンアームの内部に主軸と平行をなして送り駆動軸及び送り調整軸を架設し、該送り調整軸を含む送り調整機構を介して前記主軸と前記送り駆動軸とを連結してなり、主軸の回転に応じて所定の上限角度内にて生じる送り駆動軸の反復回動をミシンアームの先端に垂下支持された上送り歯に伝え、ミシンベッド上の縫製生地に上部から送りを加えると共に、前記反復回動の上限角度を前記送り調整軸の回動操作により加減し、前記上送り歯の送り動作量を調整する構成としたミシンの上送り装置において、前記送り調整軸と略直交する面内にて揺動し、この揺動で前記送り調整軸を回動させるように該送り調整軸の一部に係合し、後向きに付勢された送り調整レバーと、該送り調整レバーの下方への延長端にその後端を連結され、前記ミシンアームの外側に前後方向への摺動自在に支承してある送り調整ロッドと、該送り調整ロッドに並設され、該送り調整ロッドに長手方向の相対移動を許容して連結してあり、その操作により前記送り調整ロッドを介して送り調整レバーを揺動させ、前記送り調整軸を回動操作する送り操作軸と、前記送り調整ロッドの長手方向に沿って前記上送り歯の動作位置に面して配設され、該上送り歯の送り動作量を、前記送り操作軸の操作に伴う前記送り調整ロッドの摺動位置の変化を表す目盛り線で表示する目盛り板とを具備することを特徴とするミシンの上送り装置。」

訂正事項(2)
明細書の【0020】段落を以下のとおりに訂正する。
「【0020】
【課題を解決するための手段】
本考案に係るミシンの上送り装置は、ミシンアームの内部に主軸と平行をなして送り駆動軸及び送り調整軸を架設し、該送り調整軸を含む送り調整機構を介して前記主軸と前記送り駆動軸とを連結してなり、主軸の回転に応じて所定の上限角度内にて生じる送り駆動軸の反復回動をミシンアームの先端に垂下支持された上送り歯に伝え、ミシンベッド上の縫製生地に上部から送りを加えると共に、前記反復回動の上限角度を前記送り調整軸の回動操作により加減し、前記上送り歯の送り動作量を調整する構成としたミシンの上送り装置において、前記送り調整軸と略直交する面内にて揺動し、この揺動で前記送り調整軸を回動させるように該送り調整軸の一部に係合し、後向きに付勢された送り調整レバーと、該送り調整レバーの下方への延長端にその後端を連結され、前記ミシンアームの外側に前後方向への摺動自在に支承してある送り調整ロッドと、該送り調整ロッドに並設され、該送り調整ロッドに長手方向の相対移動を許容して連結してあり、その操作により前記送り調整ロッドを介して送り調整レバーを揺動させ、前記送り調整軸を回動操作する送り操作軸と、前記送り調整ロッドの長手方向に沿って前記上送り歯の動作位置に面して配設され、該上送り歯の送り動作量を、前記送り操作軸の操作に伴う前記送り調整ロッドの摺動位置の変化を表す目盛り線で表示する目盛り板とを具備することを特徴とする。」

(B)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び実用新案登録請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項(1)は、請求項1中の「前記送り調整軸の一部に係合し、該送り調整軸と略直交する面内にて揺動する送り調整レバーと、」を「前記送り調整軸と略直交する面内にて揺動し、この揺動で前記送り調整軸を回動させるように該送り調整軸の一部に係合し、後向きに付勢された送り調整レバーと、」と訂正することにより、送り調整軸と送り調整レバーとの係合の態様について、送り調整レバーが「揺動で前記送り調整軸を回動させるように」送り調整軸の一部に係合する旨限定し、また、送り調整レバーが「後向きに付勢され」ている旨限定するとともに、「該上送り歯の送り動作量を、前記送り操作軸の操作に伴う前記送り調整ロッドの摺動位置の変化を媒介として表示する目盛り板」を「該上送り歯の送り動作量を、前記送り操作軸の操作に伴う前記送り調整ロッドの摺動位置の変化を表す目盛り線で表示する目盛り板」と訂正することにより、調整ロッドの摺動位置の変化を表す手段について限定したものである。
したがって、上記訂正事項(1)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記訂正事項(1)は、明細書の【0036】段落の「送り調整ロッド7は、これの後端に接続された送り調整レバー6を介して後向きに付勢されており」、及び「これに応じた送り調整レバー6の揺動により送り調整軸5が回動して」との記載、及び【0038】段落の「前記目盛り板9の下側には、これの長手方向に並ぶ複数の目盛り線が形成され、・・・ナット部材81の係合突起83の端面には、1本の目盛り線が形成されており、これらの目盛り線の整合状態の視認により、・・・ナット部材81と一体的に移動する送り調整ロッド7の摺動位置の変化を媒介として、前述の如く調整される上送り量の確認をなし得る構成となっている」との記載に基づくものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

また、上記訂正事項(2)は、上記訂正事項(1)に整合させて、考案の詳細な説明の記載を訂正するものにすぎないから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、且つ上記訂正事項(1)の場合と同様に願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(C)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成5年法律第26号附則第4条第2項の規定により読み替えて適用する実用新案法第40条第2項ただし書、及び同附則第4条第2項の規定により読み替えて適用する同条第5項において準用する実用新案法第39条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件考案
上記訂正が認められるので、本件の請求項1に係る考案(以下「本件考案」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1の記載を構成要件毎に分説して示すと次のとおりである。
「A)ミシンアームの内部に主軸と平行をなして送り駆動軸及び送り調整軸を架設し、
B)該送り調整軸を含む送り調整機構を介して前記主軸と前記送り駆動軸とを連結してなり、
C)主軸の回転に応じて所定の上限角度内にて生じる送り駆動軸の反復回動をミシンアームの先端に垂下支持された上送り歯に伝え、ミシンベッド上の縫製生地に上部から送りを加えると共に、
D)前記反復回動の上限角度を前記送り調整軸の回動操作により加減し、前記上送り歯の送り動作量を調整する構成としたミシンの上送り装置において、
E)前記送り調整軸と略直交する面内にて揺動し、この揺動で前記送り調整軸を回動させるように該送り調整軸の一部に係合し、後向きに付勢された送り調整レバーと、
F)該送り調整レバーの下方への延長端にその後端を連結され、前記ミシンアームの外側に前後方向への摺動自在に支承してある送り調整ロッドと、
G)該送り調整ロッドに並設され、該送り調整ロッドに長手方向の相対移動を許容して連結してあり、その操作により前記送り調整ロッドを介して送り調整レバーを揺動させ、前記送り調整軸を回動操作する送り操作軸と、
H)前記送り調整ロッドの長手方向に沿って前記上送り歯の動作位置に面して配設され、該上送り歯の送り動作量を、前記送り操作軸の操作に伴う前記送り調整ロッドの摺動位置の変化を表す目盛り線で表示する目盛り板とを具備することを特徴とするミシンの上送り装置。」

4.請求人の主張及び証拠並びに参考資料
請求人の主張は、整理すると、概略以下の[主張1]?[主張5]のとおりである。

[主張1]請求項1の構成要件Eの不備
請求項1の構成要件Eには「前記送り調整軸の一部に係合し、該送り調整軸と略直交する面内にて揺動する送り調整レバー」と記載されているが、考案の詳細な説明及び図面には、送り調整レバーを送り調整軸の一部に単に係合するのみで、送り調整レバーを送り調整軸と略直交する面内で揺動できるものは記載されていない。
送り調整軸5の一部に係合させる箇所として、送り調整レバー6の回転中心位置よりずれた位置で係合していることを意味しているのであれば、単なる係合では、図1に示される機構からして、送り調整レバー6を送り調整軸5と略直交する面内で揺動させることはできない。
考案の詳細な説明の【0032】段落の記載によれば、送り調整レバー6と送り調整軸5との係合は、単なる係合ピン63の外径と同じ径よりなる孔の係合ではなく、上下方向に適宜の長さを有して形成された係合孔61による係合によって、送り調整レバー6を送り調整軸5と略直交する面内で揺動できるようにしているものである。
そうすると、構成要件Eは、本来、上下方向に適宜の長さを有して形成された係合孔61による係合によって、送り調整レバーを送り調整軸と略直交する面内にて揺動させることができるようにしているものであるところ、その必須要件を欠いて、単に係合ということだけを記載しているものであるから、上記請求項1は、まずこの必須要件(上下方向に適宜の長さを有して形成された係合孔61による係合)を欠いている点が、実用新案法第5条第5項第1号及び第2号の規定に違反しているものである。
また、訂正された構成要件Eは、登録時の「送り調整軸の一部に係合し、」の記載を削除したものであるから、”送り調整レバーが送り調整軸と略直交する面内にて揺動し得るための係合形態”の必須の構成を欠いているので、実用新案法第5条第5項第2号の規定の違反を解消しているものではない。

[主張2]請求項1の構成要件Gの不備
請求項1の構成要件Gには「該送り調整ロッドに並設され、該送り調整ロッドに長手方向の相対移動を許容して連結してあり、その操作により前記送り調整ロッドを介して送り調整レバーを揺動させ、前記送り調整軸を回動操作する送り操作軸」と記載されているが、考案の詳細な説明及び図面には、送り操作軸を送り調整ロッドに長手方向の相対移動を許容するように連結した場合、この連結のみで、送り操作軸の操作により、送り調整ロッドを介して送り調整レバーを揺動させ、送り調整軸を回動操作できるようにしたものは記載されていない。
考案の詳細な説明の【0036】段落の記載によれば、送り操作軸8を送り調整ロッド7に長手方向の相対移動を許容するように連結した場合、送り調整ロッド7を、その後端に接続した送り調整レバー6で後向きに付勢させることではじめて、送り操作軸8の操作により、送り調整軸5の回動操作が可能になることが記載されているのである。
そうすると、構成要件Gは、本来、送り調整ロッド7の後端に接続した送り調整レバー6で送り調整ロッド7を後向きに付勢することで、送り調整ロッド7の長手方向の移動、送り調整レバー6の揺動、及び送り調整軸5の回動操作を可能にしているものであるところ、その必須要件を欠いて、単に送り操作軸を「送り調整ロッドに長手方向の相対移動を許容して連結してあり、その操作により前記送り調整ロッドを介して送り調整レバーを揺動させ、前記送り調整軸を回動操作する」と記載しているものであるから、上記請求項1は、この必須要件(送り調整レバー6で送り調整ロッド7を後向きに付勢する)を欠いている点も、実用新案法第5条第5項第1号及び第2号の規定に違反しているものである。
また、訂正された構成要件Eで加入された「後向きに付勢された」送り調整レバーの「後向き」は、どの向きのことを記載しているのか実用新案登録請求の範囲上ではまったく特定できず、また、後向きに付勢させるための構成や、どのような技術的意義をもつ構成なのかも実用新案登録請求の範囲上ではまったく特定できず、不明瞭な記載であって、明細書の考案の詳細な説明に記載された必須の構成を記載しているとは認められないので、実用新案法第5条第5項第2号の規定に違反しているものである。

[主張3]考案の詳細な説明における【0036】段落の記載について
考案の詳細な説明の【0036】段落には、「送り調整ロッド7は、これの後端に接続された送り調整レバー6を介して後向きに付勢されており、」と記載されているが、いったいどのようにすれば送り調整レバー6を介して送り調整ロッド7を後向きに付勢できるのか、その具体的な構成が全く記載されていない。
このような抽象的な記載だけでは、当業者は容易に実施することができず、当業者が容易に実施することができる程度に構成を記載しなければならない記載要件を欠いているものであるから、実用新案法第5条第4項の規定に違反しているものである。

[主張4]考案の詳細な説明における【0043】段落の記載について
上記平成14年2月8日の口頭審理において、請求人は、無効理由の主張から主張4を取り下げた。

[主張5]請求項1の構成要件Hの不備
請求項1の構成要件Hには「前記送り調整ロッドの長手方向に沿って前記上送り歯の動作位置に面して配設され、該上送り歯の送り動作量を、前記送り操作軸の操作に伴う前記送り調整ロッドの摺動位置の変化を媒介として表示する目盛り板」と記載されているが、「上送り歯の送り動作量を、前記送り操作軸の操作に伴う前記送り調整ロッドの摺動位置の変化を媒介として表示する目盛り板」とは、いったいどのような目盛り板の構成になっているのか特定できず、抽象的すぎて、不明りょうである。
目盛り板が、単に目盛りを付けただけの目盛り板で、送り操作軸の操作に伴う送り調整ロッドの摺動位置の変化を媒介として表示できるものならともかく、そのような目盛り付きの目盛り板だけでは、送り調整ロッドの摺動位置の変化を媒介として表示することができないのであるから、現在の抽象的な構成要件Hの記載では、不明りょうであり、実用新案法第5条第5項第1号及び第2号の規定に違反しているものである。
また、訂正された構成要件Hでは、「摺動位置の変化を表示する目盛り板」が「摺動位置の変化を表す目盛り線で表示する目盛り板」と訂正されたが、抽象的すぎて、構成が特定できず、依然として実用新案法第5条第5項第2号の規定に違反しているものである。

〈証拠方法〉
甲第1号証;実用新案登録第2594003号の実用新案登録公報

〈参考資料〉
【平成14年2月8日付けで提出された請求人の口頭審理陳述要領書に添付された参考資料】
参考資料1;VCF&VFFクラス 上下差動送り機構付き偏平縫ミシンシリンダーベッドタイプ 平ベッドタイプ 1993年11月5日発行のカタログ
参考資料2;新規性喪失の例外の証明書提出書
参考資料3;「JIAM’93」GENERALCATALOGUE
参考資料4;「JIAM’90 TOKYO」出品機器総合カタログVFF2408 1990年5月発行のカタログ
【平成14年4月11日付けで提出された審判事件弁駁書(第2回)に添付された参考資料】
参考資料1;FDE-B271,FD4-B272 片面飾り・両面飾り縫ミシン 昭和62年5月発行のカタログ 及び FD4-B271シリーズの上面写真、正面写真、上面写真(上のカバーを開いた状態)、背面写真
参考資料2;MH-481-3-2・3-4 自動糸切装置つきミシン 1990年発行のカタログ 及び MH-486シリーズの上面写真、正面写真、背面写真、背面拡大写真
参考資料3;「’84 大阪ミシンショー出品機種のご案内」 糸切りミシン・シリーズのカタログ 及び 457シリーズの上面写真、正面写真、上面写真(上のカバーを開いた状態)、背面写真
参考資料4;W600 シリンダーベッド2・3本針ミシン 1988年発行のカタログ 及び W600シリーズの上面写真、正面写真、上面写真(上のカバーを開いた状態)、背面写真
参考資料5;VF2400・VF2500クラス 超高速度平2・3本針ミシン 昭和63年11月21日発行のカタログ 及び VF2500シリーズの上面写真、正面写真、上面写真(上のカバーを開いた状態)、背面写真
参考資料6;Uシリーズ 上飾り機構付上下差動送り2・3本針偏平縫いミシン 1977年1月21日発行のカタログ 及び VUFシリーズの上面写真、正面写真、上面写真(上のカバーを開いた状態)、背面写真
参考資料7;WX/LXシリーズ 2001年6月発行のカタログ 及びWX8803シリーズの上面写真、正面写真、上面写真(上のカバーを開いた状態)、背面写真
参考資料8;工業用ミシンメーカー各社のメーカー別各寸法表

5.被請求人の主張
これに対して、被請求人は、審判事件答弁書を提出して、請求人の主張はいずれも失当であるから、本件無効審判は理由がないとの審決を求める旨主張している。

6.当審の判断
[主張1について]
(構成要件Eについての、実用新案法第5条第5項第1号違反の主張について)
請求人は、構成要件Eは明細書の考案の詳細な説明に記載されていないと主張するので検討する。
訂正された構成要件Eは、「E)前記送り調整軸と略直交する面内にて揺動し、この揺動で前記送り調整軸を回動させるように該送り調整軸の一部に係合し、後向きに付勢された送り調整レバーと、」である。
そして、考案の詳細な説明の【0020】段落には、「該送り調整軸と略直交する面内にて揺動・・・送り調整レバー」との記載があり、【0032】段落には、「送り調整レバー6と送り調整軸5との係合は、後者の端部に固着された係合板62の上部に軸長方向外向きに突設された係合ピン63を、前者の下方への延設部の中途に、上下方向に適宜の長さを有して形成された係合孔61に嵌入せしめ、送り調整軸5の回動が、送り調整レバー6の揺動の向きと逆向きに生じるようになしてある。」との記載があり、【0036】段落には「送り調整ロッド7は、これの後端に接続された送り調整レバー6を介して後向きに付勢されており」との記載がある。
これらの記載より、考案の詳細な説明には、送り調整レバーが送り調整軸と略直交する面内にて揺動すること、送り調整レバーは送り調整軸と係合しているが、該係合は送り調整レバーの揺動により送り調整軸が回動するような態様の係合であること、送り調整ロッドが送り調整レバーにより後向きに付勢されていることから、送り調整レバー自体も後向きに付勢されていることが記載されていると認められるから、考案の詳細な説明には、送り調整軸と略直交する面内にて揺動し、この揺動で前記送り調整軸を回動させるように該送り調整軸の一部に係合し、後向きに付勢された送り調整レバーが記載されていると認められるので、構成要件Eが記載されていると認められる。
なお、構成要件Eは、送り調整レバーと送り調整軸との係合態様について、「この揺動で前記送り調整軸を回動させるように」と、機能的に記載しているが、一般に、請求項は、考案の詳細な説明に記載された一又は複数の具体例に対して拡張ないし一般化して記載することが許されるものであるから、必ずしも具体例どおり記載する必要のないものである。
したがって、請求人の主張1における、実用新案法第5条第5項第1号違反の主張は採用できない。

(構成要件Eについての、実用新案法第5条第5項第2号違反の主張について)
一般に、軸と略直交する面内で揺動するレバーの揺動運動を、軸の回動運動に変換する係合手段には、係合ピンと長孔を含む機構、係合板とフォークを含む機構等、種々の機構が周知技術として知られている。
したがって、構成要件Eは、かかる周知技術及び技術常識を前提として、当業者に理解可能であり、自明な事項まで、「実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項」として、実用新案登録請求の範囲に記載されるべきであると言うことはできない。
なお、訂正された構成要件Eは、登録時の「送り調整軸の一部に係合し、」の記載を削除したものでないことは、訂正された構成要件Eに、「該送り調整軸の一部に係合し、後向きに付勢された送り調整レバー」との記載があることから明らかであるから、訂正された構成要件Eは「送り調整軸の一部に係合し、」という必須の構成要件を欠くので、本件考案が実用新案法第5条第5項第2号に違反する旨の請求人の主張は理由に欠けるものである。
よって、請求人の主張1における、実用新案法第5条第5項第2号違反の主張は失当であり、採用できない。

[主張2について]
(構成要件Gについての、実用新案法第5条第5項第1号違反の主張について)
構成要件Gは、「該送り調整ロッドに並設され、該送り調整ロッドに長手方向の相対移動を許容して連結してあり、その操作により前記送り調整ロッドを介して送り調整レバーを揺動させ、前記送り調整軸を回動操作する送り操作軸と、」である。また、訂正された構成要件Eによれば、送り調整レバーは、後向きに付勢されている。
そこで検討すると、考案の詳細な説明の【0034】段落には、「このように支承された送り調整ロッド7の一側には、これと平行するように送り操作軸8が並設してある。」と記載され、【0035】段落には、「送り操作軸8は、前半部の外周にねじ部を備えたねじ軸であり、このねじ部には、ナット部材81が螺合せしめてある。・・・即ちナット部材81は、・・・前記操作つまみ80の操作により送り操作軸8を回転せしめた場合、ねじ部の送り作用により前後に移動する。」と記載され、【0036】段落には、「送り調整ロッド7は、これの後端に接続された送り調整レバー6を介して後向きに付勢されており、・・・ナット部材81を前方に移動せしめた場合、送り調整ロッド7は長孔70を介して前方に引かれ、これに応じた送り調整レバー6の揺動により送り調整軸5が回動して、」と記載されている。
これらの記載より、考案の詳細な説明には、送り調整ロッドと送り操作軸とが併設されていること、送り操作軸は送り調整ロッドと相対移動可能なこと、送り操作軸の移動により、後向きに付勢された送り調整レバーが揺動し、送り調整軸が回動されることが記載されていると認められるから、考案の詳細な説明には、構成要件Gが記載されていると認められる。
そして、一般に、請求項は、考案の詳細な説明に記載された一又は複数の具体例に対して拡張ないし一般化して記載することが許されるものであるから、必ずしも具体例どおり記載する必要のないものである。
したがって、請求人の主張2における、実用新案法第5条第5項第1号違反の主張は理由に欠け、採用できない。

(構成要件Gについての、実用新案法第5条第5項第2号違反の主張について)
請求人が、本件考案の必須の構成として主張する、「送り調整レバー6で送り調整ロッド7を後向きに付勢すること」について、訂正された構成要件Eで、送り調整レバーが後向きに付勢されている構成が加入された。
そして、この加入された構成と、構成要件Gとを勘案すると、請求人の主張する上記構成は、実質的に実用新案登録請求の範囲に記載されていると認められる。

なお、請求人は、訂正された構成要件Eで加入された「後向きに付勢された」送り調整レバーの「後向き」は、どの向きのことを記載しているのか実用新案登録請求の範囲上ではまったく特定できず、また、後向きに付勢させるための構成や、どのような技術的意義をもつ構成なのかも実用新案登録請求の範囲上ではまったく特定できない旨主張するので検討する。
まず、「後向き」について検討すると、一般にミシンは、縫製作業時に作業員に面する側を、その正面とするのが技術常識であるから、正面から見て、手前側及び奧側をその前後方向とすることは、当業者にとって自明なことである。そして、かかる技術常識に照らして、構成要件Eの、「後向きに付勢された」送り調整レバーの「後向き」とは、正面から見てミシンの奧側の方向を意味することは、合理的に理解できることである。
なお付記すると、構成要件Fの「前後方向への摺動自在に支承してある送り調整ロッド」の「前後方向」も、同様に、技術常識的に、正面から見てミシンの手前側及び奧側の方向を意味することは明らかである。
次に、送り調整レバーを後向きに付勢する手段について検討すると、一般に、揺動可能なレバーを一方向に付勢する技術手段として、バネ等の種々の手段が周知であり、当業者は、かかる周知技術手段と技術常識とを前提として、容易にこの構成を理解できるものである。
したがって、請求人の主張2における、実用新案法第5条第5項第2号違反の主張は失当であり、採用できない。

[主張3について]
請求人は、明細書の【0036】段落の、「送り調整ロッド7は、これの後端に接続された送り調整レバー6を介して後向きに付勢されており、」との記載では、いったいどのようにすれば送り調整レバー6を介して送り調整ロッド7を後向きに付勢できるのか、その具体的な構成が明細書に全く記載されていない旨主張している。
そこで、検討すると、一般に、揺動可能なレバーを一方向に付勢する技術手段として、バネ等の種々の手段が周知であることから、送り調整レバーを後向きに付勢する具体的手段は、明細書に格別記載が無くとも、バネ等の種々の周知技術手段を適宜採用することにより、当業者にとり容易に実施可能であることは明らかである。そして、後向きに付勢された送り調整レバーに、送り調整ロッドの後端が接続する具体的な構成も、明細書の【0036】段落の記載に、同様に周知技術手段を勘案することにより容易に構成することができるから、結局、送り調整レバー6を介して送り調整ロッド7を後向きに付勢する構成は、当業者が容易に実施できる程度に、明細書の考案の詳細な説明に記載されていると認められる。

なお、請求人は、平成14年2月8日付けの口頭審理陳述要領書で、概略「上送り装置の装備を前提としないミシンであってもミシンアームの内部に後付けすることが可能なミシンを提供しようとする際に、せまいミシンアームの内部にどのようにすれば調整レバー6の揺動が確保できる状態で密閉することができるか」わからない旨主張している。
これに対して、被請求人は、平成14年3月8日付けの審判事件答弁書(第2回)で、参考図1?5を示し、ミシンアーム内に調整レバー6を内部に揺動自在に装備させた構成(参考図1,2)と、送り調整ロッド7を後端に接続された送り調整レバー6を介して後向きに付勢させる構成(参考図3,4,5)を図解している。
被請求人の示した上記参考図1?5を参酌すれば、調整レバー6をミシンアーム内に収容すること、及び、送り調整ロッド7を後端に接続された送り調整レバー6を介して後向きに付勢させることは、当業者であれば明細書の考案の詳細な説明に記載された技術事項及び図面から理解される調整レバー6の配置構成から、格別の困難なく実施することができる程度のことであると認められる。
ところで、請求人は、審判事件弁駁書(第2回)で、従来のミシンアームの形状(参考資料1?8)から、ミシンアーム内に送り調整レバー6を収容できない旨主張しているが、送り調整レバー6を設けた場合には、ミシンアームも送り調整レバー6をミシンアーム内に収容できるような形状(参考図1,2参照)としなければならないものであって、そのために、例えば参考図3?5に示すような調整ロッド7を後向きに付勢させる構成を採用して、本件考案を実施することは当業者にとり容易なことである。

よって、段落【0036】の記載は、実用新案法第5条第4項に違反するものではなく、請求人の上記主張3は採用することができない。

[主張4について]
上記平成14年2月8日の口頭審理において、請求人は、無効理由の主張から主張4を取り下げたので、主張4についての判断は、これを要しない。

[主張5について]
(構成要件Hについての、実用新案法第5条第5項第1号違反の主張について)
訂正された構成要件Hは、「前記送り調整ロッドの長手方向に沿って前記上送り歯の動作位置に面して配設され、該上送り歯の送り動作量を、前記送り操作軸の操作に伴う前記送り調整ロッドの摺動位置の変化を表す目盛り線で表示する目盛り板とを具備することを特徴とするミシンの上送り装置。」である。

考案の詳細な説明の段落【0038】には、「図示の如く、送り調整軸8(「送り操作軸8」の誤記と認める)を支持する前記目盛り板9の長孔90の下側には、これの長手方向に並ぶ複数の目盛り線が形成され、また、この長孔90に係合するナット部材81の係合突起83の端面には、1本の目盛り線が形成されており、これらの目盛り線の整合状態の視認により、長孔90に対するナット部材81の移動位置の変化、即ち、ナット部材81と一体的に移動する送り調整ロッド7の摺動位置の変化を媒介として、前述の如く調整される上送り量の確認をなし得る構成となっている。・・・目盛り板9は、図1に示す如く、・・・前記上送り歯の動作位置に面してミシンアームの下部外側に配設することができ」との記載があり、【0034】段落には、「このように支承された送り調整ロッド7の一側には、これと平行するように送り操作軸8が並設してある。」と記載されている。
これらの記載より、目盛り板が送り操作軸8の長手方向に沿って設けられること、及び、送り操作軸には送り調整ロッドが平行するように並設されていることが認められるから、目盛り板は送り調整ロッドの長手方向に沿って配設されていることが認められる。また、目盛り板は、上送り歯の動作位置に面して配設されていることが認められ、さらに、目盛り板は、送り調整ロッドの摺動位置の変化を、目盛り線の整合状態の変化によって表すことが記載されていると認められるから、考案の詳細な説明には、構成要件Hが記載されていると認められる。
そして、一般に、請求項は、考案の詳細な説明に記載された一又は複数の具体例に対して拡張ないし一般化して記載することが許されるものであるから、必ずしも具体例どおり記載する必要のないものである。
したがって、請求人の主張5における、実用新案法第5条第5項第1号違反の主張は理由に欠け、採用できない。

(構成要件Hについての、実用新案法第5条第5項第2号違反の主張について)
一般に、移動する部材に沿って目盛り板を設け、該部材に設けた目盛り線と、目盛り板に設けた目盛り線との整合状態によって、該部材の位置の変化を表示するようにした表示手段は、機械的な表示手段として周知なものであるから、構成要件Hは、請求人の主張するように抽象的すぎるものではなく、かかる周知技術及び技術常識を前提として、当業者が容易にその構成を理解し、特定することのできるものである。
したがって、請求人の主張5における、実用新案法第5条第5項第2号違反の主張は、採用できない。

7.むすび
以上のとおり、請求人の主張1,2,3,5はいずれも採用することができないので、請求人の主張する理由及び証拠によっては、本件実用新案の登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
発明の名称 (54)【考案の名称】
ミシンの上送り装置
(57)【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 ミシンアームの内部に主軸と平行をなして送り駆動軸及び送り調整軸を架設し、該送り調整軸を含む送り調整機構を介して前記主軸と前記送り駆動軸とを連結してなり、主軸の回転に応じて所定の上限角度内にて生じる送り駆動軸の反復回動をミシンアームの先端に垂下支持された上送り歯に伝え、ミシンベッド上の縫製生地に上部から送りを加えると共に、前記反復回動の上限角度を前記送り調整軸の回動操作により加減し、前記上送り歯の送り動作量を調整する構成としたミシンの上送り装置において、前記送り調整軸と略直交する面内にて揺動し、この揺動で前記送り調整軸を回動させるように該送り調整軸の一部に係合し、後向きに付勢された送り調整レバーと、該送り調整レバーの下方への延長端にその後端を連結され、前記ミシンアームの外側に前後方向への摺動自在に支承してある送り調整ロッドと、該送り調整ロッドに並設され、該送り調整ロッドに長手方向の相対移動を許容して連結してあり、その操作により前記送り調整ロッドを介して送り調整レバーを揺動させ、前記送り調整軸を回動操作する送り操作軸と、前記送り調整ロッドの長手方向に沿って前記上送り歯の動作位置に面して配設され、該上送り歯の送り動作量を、前記送り操作軸の操作に伴う前記送り調整ロッドの摺動位置の変化を表す目盛り線で表示する目盛り板とを具備することを特徴とするミシンの上送り装置。
【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、ミシンベッド内部の送り歯(下送り歯)に同期した送り動作をなす送り歯(上送り歯)をミシンベッドの上部に配し、両送り歯により縫製生地の上下に送り力を加えて針落ち位置に送り込むようになしたミシンの上送り装置に関し、更に詳しくは、前記上送り歯による送り動作量の調整構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
ミシンによる縫製は、一般的には、ミシンベッド上に供給される縫製生地をミシンアームから垂下された押え金により針落ち位置の前後に亘って挾持し、ミシンベッドに内蔵された送り歯により送りを加えて行われる。該送り歯は、ミシンアーム内部の主軸に公知の伝動機構を介して連結されており、ミシン各部の動作に連動して所定の送り動作を行う。この送り動作は、前記送りの方向に沿う略鉛直な面内での長円運動であり、この運動軌跡の上半部においてミシンベッド上に突出する間に前記縫製生地に送りを加えるようになしてある。
【0003】
ところが以上の如き縫製においては、例えば、滑り易い素材からなる縫製生地を重ねて縫着する場合等、前記送り歯により送りが付与される下側の生地と、押え金に沿って滑動する上側の生地との間にずれが生じ易く、縫いずれのない良質な縫製品を安定して得るためには、針落ち位置の前側において作業者の手加減による微妙な送り調節を要する不都合がある。
【0004】
そこで各種の工業用ミシンにおいては、ミシンベッド内部の本来の送り歯(下送り歯)に加えて、これと同期した送り動作をなす上送り歯をミシンベッド上部に配し、針落ち位置前の縫製生地を上下の送り歯間に挾持して、縫製生地の上下両側に送り力を付与する構成とした上送り装置が装備されることがある。
【0005】
図4は、上送り装置を備えたミシンの針落ち位置近傍の側断面図である。図中Aはミシンアーム、Bはミシンベッドであり、ミシンアームAの下方に対向するミシンベッドB上には針板Cが架設されている。このミシンでの縫製は、図中に白抜矢符にて示す向きに針板Cの上面に沿って送られる縫製生地W_(1),W_(2)に対して行われる。
【0006】
ミシンアームAは、縫製生地W_(1),W_(2)の送り方向前後に並び、共に針板Cに向けて鉛直下方に垂下された針棒10及び押え棒20を備えている。これらは、ミシンアームAに嵌着固定した各別のブッシュ11,21に上下方向への摺動自在に嵌挿され、送り方向前側の針棒10は、ミシンアームA内部の図示しない主軸からの伝動に応じて上下動し、また後側の押え棒20は、エアシリンダ等の図示しないアクチュエータの動作に応じて上下動するようになしてある。
【0007】
針棒10の垂下端には、針止め12を介して針1が固定してあり、針棒10の上下動に伴って針1は、針板Cの上下に亘る所定ストロークの昇降動作をなす。押え棒20の垂下端には、押え金2が取付けてあり、該押え金2は、押え棒20の上下動に伴って昇降し、下降時に縫製生地W_(1),W_(2)に弾接して、該縫製生地W_(1),W_(2)を針板Cとの間に挾持する。
【0008】
針板C下側のミシンベッドBの内部には、前後一対の下送り歯13,13が配してある。これらは、公知の伝動機構を介して主軸に連繋され、該主軸の回転に応じた針1の昇降動作に同期して、前記縫製生地W_(1),W_(2)の送り方向に沿う略鉛直な面内にて長円形の軌跡を描く送り動作を行うようになしてある。即ち、下送り歯13,13は、図示の如く針1が上昇している間には、各別の送り溝14,14内で針板C上に突出し、押え金2下に挾持された縫製生地W_(1),W_(2)を持ち上げつつ送り力を付与する一方、針1が下降し、縫製生地W_(1),W_(2)の縫い合わせが行われている間には、針板Cの下側に退入して、次なる送りに備えて前方への復帰動作をなす。
【0009】
押え棒20の後側のミシンアームAの下部には、縫製生地W_(1),W_(2)の送り方向と直交する略水平な軸回りに回動自在に円柱形の保持筒31が枢支され、該保持筒31にその軸心を直交させて嵌着保持されたブッシュ32に、軸長方向への摺動自在に上送り軸30が嵌挿されている。ミシンアームAの内部に延設された上送り軸30の上端は、後述の如く主軸に連繋させてあり、該主軸の回転に応じて上送り軸30は、縫製生地W_(1),W_(2)の送り方向に沿う略鉛直な面内にて、保持筒31を枢軸としてブッシュ32と共に揺動し、またブッシュ32に対して軸長方向に摺動するようになしてある。
【0010】
ミシンベッドBに向けて垂下された上送り軸30の下端には、送り歯ホルダ33が固定され、該送り歯ホルダ33から前方に延びる送りアーム34の先端には、上送り歯35が、鋸歯状をなす歯部を下向きとし、押え金2の前部に形成された送り溝22内で前側の下送り歯13に対向するように固設してあり、上送り軸30の前述した動作、即ち、保持筒31を枢軸とする揺動とブッシュ32に沿う摺動とを、送り歯ホルダ33及び送りアーム34を介して上送り歯35に伝達し、該上送り歯35に送り動作を行わせる上送り装置を構成している。
【0011】
上送り歯35の送り動作は、下送り歯13のそれと同一の面内にて、逆回りに、上下逆の位相にて生じる長円運動である。即ち、針1が上昇している間、上送り歯35は、押え金2の送り溝22を介して縫製生地W_(1),W_(2)に上側から押し付けられつつ後方向に移動し、該縫製生地W_(1),W_(2)に送りを付与する一方、針1が下降して、縫製生地W_(1),W_(2)の縫い合わせが行われている間には、押え金2の上方に離反して、次なる送りに備えて前方への復帰動作をなす。即ち、ミシンベッドB上の縫製生地W_(1),W_(2)は、上送り歯35の動作により上側から、下送り歯13,13の動作により下側から送り力を付与されつつ針落ち位置に送り込まれ、縫いずれのない良質な縫製品が高い生産性にて得られるようになる。
【0012】
また、以上の如き上送り装置を備えたミシンにおいては、上送り歯35の送り動作量(上送り量)を調整し、下送り歯13,13の送り動作量(下送り量)と差異を持たせることにより、いせ込み縫い等の特殊な縫いを作業者の手作業に頼ることなく行えるようにしてある。
【0013】
上送り量は、上送り歯35の駆動軸である上送り軸30の揺動角度を加減することにより調整できる。上送り軸30の上部は、ミシンアーム内部の送り駆動軸に公知のリンク機構を介して連結され、該送り駆動軸に所定の上限角度内にて生じる反復回動を上送り軸30の揺動に変換する構成となっている。前記送り駆動軸は、後に詳述する如く、ミシンアーム内部の主軸と平行をなして架設され、該主軸の中途部に装着された偏心カムに送り調整機構を介して連結してあり、上送り量を決定する送り駆動軸の上限角度は、前記送り調整機構に含まれ、主軸及び送り駆動軸と平行をなす送り調整軸の回動操作により加減できる。
【0014】
そこで従来においては、いせ込み縫い等の特殊な縫製に対応するため、前記送り調整軸の一端部をミシンアームの外側に延設し、この延設端に回転力を加えるべく送り操作手段を構成して、上送り量を決定する送り調整軸の回動調節を外部から行い得るようになす一方、前記延設端にこれと略直交する面内にて揺動する送り操作レバーを取り付け、該送り操作レバーの端部を、例えば、作業者の膝により押圧操作される膝レバーに連結して、該膝レバーの操作に応じて前記送り操作手段による調整を解除できるようになし、縫製中に前記膝レバーの操作,非操作を繰り返して、上送り量と下送り量とが異なる特殊な縫いの中途に、上下の送り量が相等しい通常の縫いを適宜に組み込んだ縫製を連続的に実行できるようにしてある。
【0015】
【考案が解決しようとする課題】
さて、上送り量調整のための前記送り操作手段は、送り調整軸の延設端に送り調整つまみを取り付け、この送り調整つまみの操作により前記送り調整軸に直接的な回転力を加える構成により簡素に実現できる。ところが、前記送り調整軸はミシンアーム内部の主軸と平行をなして配設されており、該送り調整軸の延設端に取り付けた前記送り調整つまみは、ミシンアーム一側(基端側)の端面に位置することになる一方、上送り量の調整を実際に行う縫製作業者は、ミシンの正面側に位置するのが一般的であり、上送り量の調整に際し、このためだけにミシンアームの基端側への回り込みを強いられるという煩わしさがある。
【0016】
また前記送り調整つまみには、これの操作による上送り量調整の結果を示すべく目盛り板を付設する必要があるが、この目盛り板もまたミシンアームの基端側端面に配設されることから、縫製作業中に現状の上送り調整量を確認することが難しく、誤った設定のまま縫製が実施されて、不良縫製品が排出される虞が生じる。
【0017】
そこで、送り調整軸の端部に軸心に直交して前方に延びる揺動アームを取り付け、該揺動アームの前端の上下方向への揺動操作により送り調整軸を回動せしめる構成とし、更に、前記揺動アームの前端の移動経路に沿わせた目盛り板をミシンの正面に向けて付設し、上送り調整量に対応する前記送り調整軸の回動操作量を、前記揺動アームの前端の動きを媒介として前記目盛り板に表示する構成とした上送り装置が実用化されている。
【0018】
この構成においては、上送り量の調整が、前記揺動アームの操作によりミシンの正面側から実施でき、またこの調整の結果が、前記目盛り板上にてミシンの正面側から確認できるようになり、前述した難点は解消される。ところが一方、上送り装置は、これの装備を前提とせずに設計されたミシンに後付けされることがあり、このようなミシンにおいては、ミシンアームの内部空間が限定されることから、送り駆動軸及び送り調整軸を主軸の近傍に配設せざるを得ず、ミシンアームの外側への送り調整軸の延設端における前記揺動アームの取り付け、又は、該揺動アームの揺動空間の確保が、同側への主軸の突出部との干渉により困難となる場合が多く、前述した構成を採用し得ないという問題があった。
【0019】
本考案は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、正面側からの上送り量の調整及び調整結果の視認が可能であり、また前記調整及び視認のための手段の配設位置を適宜に設定でき、ミシンの種類によらずに適用可能な上送り装置を提供することを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本考案に係るミシンの上送り装置は、ミシンアームの内部に主軸と平行をなして送り駆動軸及び送り調整軸を架設し、該送り調整軸を含む送り調整機構を介して前記主軸と前記送り駆動軸とを連結してなり、主軸の回転に応じて所定の上限角度内にて生じる送り駆動軸の反復回動をミシンアームの先端に垂下支持された上送り歯に伝え、ミシンベッド上の縫製生地に上部から送りを加えると共に、前記反復回動の上限角度を前記送り調整軸の回動操作により加減し、前記上送り歯の送り動作量を調整する構成としたミシンの上送り装置において、前記送り調整軸と略直交する面内にて揺動し、この揺動で前記送り調整軸を回動させるように該送り調整軸の一部に係合し、後向きに付勢された送り調整レバーと、該送り調整レバーの下方への延長端にその後端を連結され、前記ミシンアームの外側に前後方向への摺動自在に支承してある送り調整ロッドと、該送り調整ロッドに並設され、該送り調整ロッドに長手方向の相対移動を許容して連結してあり、その操作により前記送り調整ロッドを介して送り調整レバーを揺動させ、前記送り調整軸を回動操作する送り操作軸と、前記送り調整ロッドの長手方向に沿って前記上送り歯の動作位置に面して配設され、該上送り歯の送り動作量を、前記送り操作軸の操作に伴う前記送り調整ロッドの摺動位置の変化を表す目盛り線で表示する目盛り板とを具備することを特徴とする。
【0021】
【作用】
本考案においては、上送り量を決定する送り調整軸に、これと直交する面内にて揺動する送り調整レバーを係合し、また、ミシンアーム外側の適宜位置に前後方向への摺動自在に送り調整ロッドを支承して、該送り調整ロッドの後端を送り調整レバーの下方への延長端に連結した構成とし、送り調整ロッドを前後に摺動させて送り調整レバーを揺動させ、送り調整軸を回動せしめて上送り量を調整する。送り調整レバーは、軸長方向の適宜位置にて送り調整軸に係合させることができ、また送り調整ロッドの支承位置は、送り調整レバーの下方、即ち、前記主軸、送り駆動軸及び送り調整軸を内蔵するミシンアームの下部外側に適宜に設定できる。このような送り調整ロッドの先端をミシンアームの前側にまで延設し、これに並設された送り操作軸に連結して、該送り操作軸の操作により送り量の調整を可能とする。また送り操作軸の操作に伴う送り調整ロッドの摺動位置の変化を、これの長手方向に沿って延設され、上送り歯の動作位置、即ち、縫製位置に面して配した目盛り板に表示させる。これにより、ミシンアームの下部前側での送り操作軸の操作により上送り量の調整が可能であり、調整の結果は、前記目盛り板の読み取りにより縫製作業中に容易に確認することができる。更に、送り調整ロッドと送り操作軸とが、送り調整ロッドの長手方向の相対移動を許容して連結されており、縫製作業中の適宜のタイミングにて他の手段により送り調整レバーを揺動させることにより、上送り量を一時的に変更することができ、上送り量を2種に変更しての縫いを実現し、いせ込み縫い等の特殊な縫いへの対応を可能とする。
【0022】
【実施例】
以下本考案をその実施例を示す図面に基づいて詳述する。図1は、本考案に係る上送り装置の特徴部分の斜視図である。図中Sは、ミシン各部の駆動源となる主軸であり、該主軸Sの後側(図においては左奥側)には、これと平行をなして送り駆動軸4及び送り調整軸5が架設されている。主軸Sは、図示しないミシンモータからの伝動により軸心回りに回転駆動されており、また送り駆動軸4及び送り調整軸5は、ミシンアームの内部に夫々の軸心回りでの回動可能に支承されている。
【0023】
送り駆動軸4は、主軸Sの回転を前記上送り軸30(図4参照)に伝えるための伝動軸である。送り駆動軸4の軸長方向一側には、主軸Sからの伝動のための伝動アーム40が、また他側には、上送り軸30への伝動のための伝動フォーク41が夫々嵌着固定してあり、主軸Sからの伝動により送り駆動軸4に後述の如く生じる反復回動が、前記伝動フォーク41に係合する角駒41aに連設された図示しないリンク機構を介して前記上送り軸30に伝達され、該上送り軸30の下端に取り付けた上送り歯35(図4参照)に前述した送り動作を行わせる構成となっている。
【0024】
主軸Sの中途には、送り駆動軸4への伝動のためのカムリング42が装着してあり、該カムリング42から後下方に突設されたカムロッド43の先端と、送り駆動軸4に基端を嵌着された前記伝動アーム40の先端とは、前記送り調整軸5を含む送り調整機構を介して連結されている。この送り調整機構は、相等しい長さを有し、夫々の一端部が連結ピン52により連結された一対のリンク部材50,51を備えており、前記伝動アーム40の先端は、一方のリンク部材50の他端部に連結ピン53を介して連結され、また前記カムロッド43の先端は、リンク部材50,51を相互に連結する前記連結ピン52に嵌着されている。
【0025】
また、他方のリンク部材51の他端部は、リンク部材50の逆側に配された揺動板54に連結ピン55を介して連結してある。この揺動板54は、前記リンク部材50,51と等長の2辺を、連結ピン55の嵌着部位の両側に有する2等辺三角形をなす部材であり、一方の辺の他端部に嵌挿された支軸56に、これの軸心回りでの揺動自在に支持されている。揺動板54の他方の辺の他端部には、角駒57が装着してあり、この角駒57は、前記送り調整軸5の一端部に、半径方向外向きに突設されたフォーク58に係合させてある。
【0026】
図2及び図3は、以上の如く構成された伝動系の動作説明図である。主軸S中途のカムリング42は、該主軸Sに嵌合する偏心カムを内蔵しており、カムリング42に突設されたカムロッド43は、主軸Sの中心回りに所定の偏心円に沿って生じるカムリング42の動作に応じて、主軸Sの回転毎に一回の進退動作を行うようになしてある。カムロッド43に進退動作が生じた場合、これの先端に嵌着された連結ピン52が押し引きされ、更に、リンク部材50を介して連結ピン53が押し引きされて、これに伴う伝動アーム40の揺動が送り駆動軸4に伝達される結果、送り駆動軸4は、伝動アーム40の揺動角度に対応する角度範囲内にて、主軸Sの回転毎に一回の反復回動を行う。
【0027】
このとき、リンク部材50両側の連結ピン52,53の内、伝動アーム40との連結側の連結ピン53は、送り駆動軸4の軸心を中心とし、伝動アーム40の有効長さを半径とする円弧D上に拘束される一方、リンク部材51との連結側の連結ピン52は、リンク部材51の他方の連結ピン55を中心とし、該リンク部材51の有効長さを半径とする円弧E上に拘束される。ここで、円弧Eの中心となる連結ピン55は、固定的に支持されたものではなく、該連結ピン55の支持位置は、フォーク58及び角駒57を介して伝達される送り調整軸5の回動により、支軸56を揺動中心として生じる揺動板54の揺動に応じて変化する。
【0028】
而して、送り調整軸5を回動操作して揺動板54を揺動せしめ、リンク部材51の揺動中心、即ち、円弧Eの中心となる連結ピン55を、連結ピン53が拘束される円弧Dの周上に位置させた場合、図2に示す如く、リンク部材50,51が円弧Eの半径線上にて重なり、両リンク部材50,51を連結する連結ピン52は、円弧Dの周上に中心を有する円弧Eの周上に拘束される。この結果、前記カムロッド43の進退動作により作用する押し引き力は、連結ピン53,55を中心とする円弧Eの周上にて生じる連結ピン52の移動により吸収され、リンク部材50は、連結ピン53の軸心回りに揺動するのみであり、伝動アーム40に何らの作用も及ぼさず、送り駆動軸4の回動は生じない。
【0029】
一方、送り調整軸5を更に回動操作して揺動板54を他の揺動位置に拘束した場合、リンク部材51の揺動中心たる連結ピン55が円弧Dの周上から離反し、図3に示す如く、リンク部材50とリンク部材51とに食い違いが生じる。従って、カムロッド43の進退動作により両リンク部材50,51を連結する連結ピン52が押し引きされた場合、リンク部材50の他側の連結ピン53は、前記円弧Dの周上に沿って変位するようになり、図3(a),(b)に示す如く、この変位が伝動アーム40を介して送り駆動軸4に伝達されて、該送り駆動軸4は、カムロッド43の進出時に一方向に、退入時に他方向に夫々回動する動作を、主軸Sの回転毎に反復するようになる。
【0030】
このとき、送り駆動軸4の反復回動は、円弧D上での連結ピン53の最大変位を上限とする角度範囲内にて生じるが、この上限角度の大小は、カムリング42に内蔵された偏心カムの偏心量と共に、リンク部材50とリンク部材51との間の食い違い角度の大小に対応し、この食い違い角度の大小は、送り調整軸5の回動角度の大小に対応する。また一方、このように生じる送り駆動軸4の反復回動は、前述した如く、上送り軸30を介して上送り歯35に伝達され、該上送り歯35の送り動作が生じる。従って、上送り歯35の送り動作量(上送り量)は、送り調整軸5を回動せしめ、送り駆動軸4の反復回動の上限角度を加減することにより、下送り歯13,13の送り動作量(下送り量)から零までの範囲で自在に調整でき、いせ込み縫い等、上下の送り量を異ならせた状態で行われる特殊な縫いに対応できる。
【0031】
さて、本考案に係る上送り装置の特徴は、上送り量の調整のために送り調整軸5を回動操作する操作機構の構成にある。図1に示す如く、送り調整軸5の他側は、L字形をなす送り調整レバー6に係合させてある。送り調整レバー6は、送り調整軸5と平行をなす枢支ピン60により、L字の角部をミシンアームの内部に揺動自在に枢支して取付けてあり、下方及び後方に延びるL字の両辺は、図示しないミシンアームの下側及び後側外部に夫々適長突出せしめてある。
【0032】
送り調整レバー6と送り調整軸5との係合は、後者の端部に固着された係合板62の上部に軸長方向外向きに突設された係合ピン63を、前者の下方への延設部の中途に、上下方向に適宜の長さを有して形成された係合孔61に嵌入せしめ、送り調整軸5の回動が、送り調整レバー6の揺動の向きと逆向きに生じるようになしてある。即ち、後端部の下方への引っ張り、又は下端部の前方への引っ張りにより、送り調整レバー6を反時計回りに揺動させた場合、送り調整軸5は時計回りに回動し、上送り量は増加する。
【0033】
送り調整レバー6の後方への延設端は、これに係止された連結チェーン64を介して、例えば、作業者の膝により押圧操作される膝レバーに連結してあり、該膝レバーの操作が行われた場合、送り調整レバー6の後端が下方に引かれて、前述した如く、上送り量が増すようになっている。
【0034】
一方、送り調整レバー6の下方への延設端は、送り調整ロッド7の一端に連結されている。送り調整ロッド7は、細幅板状をなす部材であり、長手方向を前後に向け、送り調整レバー6との連結部を後端として、図示しないミシン本体の一部に、送り調整レバー6の下端部が突出せしめられたミシンアームの下側に位置して前後方向への摺動自在に支承されている。このように支承された送り調整ロッド7の一側には、これと平行するように送り操作軸8が並設してある。該送り操作軸8は、ミシンアームの一部に固定された目盛り板9に軸心回りでの回動自在に枢支されており、目盛り板9の前部に突出する送り操作軸8の先端には操作つまみ80が固定され、該操作つまみ80の操作により送り操作軸8を正逆両方向に回転させ得るようにしてある。
【0035】
図示の如く送り操作軸8は、前半部の外周にねじ部を備えたねじ軸であり、このねじ部には、ナット部材81が螺合せしめてある。一方、送り調整ロッド7の前部には、長手方向に沿って長孔70が形成してあり、また目盛り板9には、一部を破断して示す如く、送り操作軸8の前半部に整合する位置に長孔90が形成してあり、これらの長孔70,90には、ナット部材81の両側に突設された係合突起82,83が係合させてある。即ちナット部材81は、長孔70,90との係合により回転を拘束されており、前記操作つまみ80の操作により送り操作軸8を回転せしめた場合、ねじ部の送り作用により前後に移動する。
【0036】
送り調整ロッド7は、これの後端に接続された送り調整レバー6を介して後向きに付勢されており、ナット部材81の係合突起82は、図示の如く、前記長孔70の前端に押し付けられている。而して、操作つまみ80の操作により送り操作軸8を回転させ、ナット部材81を前方に移動せしめた場合、送り調整ロッド7は長孔70を介して前方に引かれ、これに応じた送り調整レバー6の揺動により送り調整軸5が回動して、上送り量が増量側に調整される一方、操作つまみ80を逆方向に操作し、ナット部材81を後方に移動せしめた場合、送り調整レバー6は、送り調整ロッド7による引っ張りの解除に伴って逆向きに揺動し、上送り量が減量側に調整される。
【0037】
このように本考案に係る上送り装置は、操作つまみ80を操作して送り操作軸8を回転させ、これに連結された送り調整ロッド7を前方に引っ張り、送り調整レバー6を揺動させて、ミシンアームの内部に支承された送り調整軸5を回動操作し、この回動操作に応じて加減された上送り量を得る構成となっている。この構成において、送り調整軸5と送り調整レバー6との係合は、送り調整軸5の軸長方向の適宜位置にて実現でき、また送り調整ロッド7の配設位置は、これの後端が連結された送り調整レバー6の下端が突出する図示しないミシンアームの下部外側において、他の構成部品に干渉しない範囲で適宜に設定できる上、前後に延びる送り調整ロッド7に並設された送り調整軸8の前端に最終的な操作端となる操作つまみ80が取り付けられているから、このような操作系を、例えば、ミシンアームの基部を支持する脚フレームの内側面(縫製位置に対向する側面)に構成することにより、正面側からの上送り量の調整が行えるようになる。
【0038】
図示の如く、送り調整軸8を支持する前記目盛り板9の長孔90の下側には、これの長手方向に並ぶ複数の目盛り線が形成され、また、この長孔90に係合するナット部材81の係合突起83の端面には、1本の目盛り線が形成されており、これらの目盛り線の整合状態の視認により、長孔90に対するナット部材81の移動位置の変化、即ち、ナット部材81と一体的に移動する送り調整ロッド7の摺動位置の変化を媒介として、前述の如く調整される上送り量の確認をなし得る構成となっている。ここで前述した操作系の配置により目盛り板9は、図1に示す如く、前記送り駆動軸4の一端部に上送り歯への伝動のために設けられた前記伝動フォーク41の側、即ち、前記上送り歯の動作位置に面してミシンアームの下部外側に配設することができ、この目盛り板9に形成された目盛り線は、上送り歯による送り動作が行われる縫製位置からの視認が可能であり、前述の如く調整される上送り量は、縫製作業中に容易に確認することができる。
【0039】
また目盛り板9には、前記長孔90の下側に前後に並べて一対の長孔91,92が形成してあり、これらには、送り調整ロッド7の所定位置に突設された目盛り突起71とストッパ突起72とが夫々嵌合させてある。目盛り突起71の突設位置は、前述した如く行われる上送り量調整に際し、長孔91に沿う目盛り突起71の移動が、長孔90に沿うナット部材81の係合突起83の移動と略一致して生じるように設定してある。目盛り突起71の先端面には、前記係合突起83の端面におけるそれと一致するように1本の目盛り線が形成してあり、この目盛り線と長孔90下側の複数の目盛り線との整合により、送り調整ロッド7の摺動位置が直接的に表示されるようになしてある。
【0040】
一方、前記ストッパ突起72の突設位置は、これの長孔92への嵌合位置が、前記目盛り突起71の長孔91への嵌合位置に対応するように設定してある。前記長孔92には、ストッパ突起72の嵌合位置よりも前側の適宜位置にねじ止め固定可能にストッパねじ93が取り付けてある。この構成によりストッパ突起72は、送り調整ロッド7の前方への摺動に伴って長孔92に沿って移動するとき、ストッパねじ93に当接して、送り調整ロッド7の前方への摺動、即ち、上送り量の増量を制限する作用をなす。
【0041】
また本考案においては、送り調整ロッド7と送り操作軸8とが、前者に形成された長孔70に後者に螺合するナット部材81の係合突起82を係合せしめ、送り調整ロッド7の長手方向の相対移動を許容して連結されている。従って、操作つまみ80の操作により上送り量の調整を行い、この状態での縫製の実施中に、送り調整レバー6の後端に連結された膝レバーの押圧操作が行われた場合、前記送り調整レバー6を前記長孔70の長さ範囲内にて揺動させて上送り量を変更(増す)ことができる。このとき、送り調整レバー6の揺動により送り調整ロッド7が前方に押圧されて移動するが、この移動は、前記長孔70の全長に亘って生じるのではなく、前記ストッパ突起72と前記ストッパねじ93との当接により制限される。つまり、ストッパねじ93の固定位置を変えることにより、膝レバーの操作に伴う上送り量の増量範囲を制限することができる。
【0042】
膝レバーの操作は、例えば、いせ込み縫いに際して、所定のいせ込み量を与えるべく行われるものであり、この操作による上送り量の変更の程度がストッパねじ93の締め付け位置に応じて適宜に設定できる。なお、この締め付け位置は、上送り量の調整を行った後、膝レバーを押圧程度を加減しつつ操作し、本来一致すべき目盛り突起71の目盛り線と係合突起83の目盛り線との間に所望のずれが生じた位置にて、前記ストッパ突起72との当接が生じるように決定すればよく、この後においては、通常時には、操作つまみ80の操作により設定された上送り量での縫製が行われ、膝レバーの操作がなされている間には、前記上送り量を所定量だけ増した状態での縫製が行われるようになり、2種の異なる上送り量を適宜に組み合わせての縫製が可能となる。このような縫製は、送り調整ロッド7と、これに並設された送り操作軸8との連結が、後者に対する前者の前方向への相対移動を許容してなされていることにより実現される。
【0043】
なお、送り調整レバー6の形状、及び、送り調整レバー6と送り調整軸5又は送り調整ロッド7との連結構造は、本実施例に示すものに限らず、同様の機能を果たし得るものであれば他のいかなる構成を採用してもよい。また本実施例においては、送り操作軸8の回転をねじ機構により直線運動に変換し、送り調整ロッド7を前方に引っ張り操作する操作手段を構成してあるが、例えば、送り調整ロッド7の前端に直接的な引っ張り力を加え、適宜の位置にて拘束する等、他の構成の操作手段を採用してもよい。
【0044】
【考案の効果】
以上詳述した如く本考案に係るミシンの上送り装置においては、上送り量を決定する送り調整軸に、これと直交する面内にて揺動する送り調整レバーを係合し、この送り調整レバーの下方への延長端に送り調整ロッドの後端部を連結して、上送り量の調整のための前記送り調整軸の回動操作が、前記送り調整ロッドの前後方向への操作により行われる構成としたから、ミシンアームの下部前側、即ちミシンの正面側での上送り量の調整が可能である。また、前記送り調整ロッドに長手方向の相対移動を許容して送り操作軸を連結し、この送り操作軸により送り調整ロッドを操作する構成としたから、上送り量を調整した後の縫製作業中に他の手段により送り調整レバーを揺動させて上送り量を一時的に変えることができ、2種の上送り量を組み合わせた縫製が可能であり、いせ込み縫い等の特殊な縫いへの対応が可能となる。更に、前述した調整により得られる上送り量を、送り調整ロッドの長手方向に沿って、上送り歯の動作位置に面して配された目盛り板上に表示する構成としたから、縫製作業中に上送り量の確認が容易に行え、誤った調整下での縫製を未然に防止できる等、本考案は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本考案に係る上送り装置の特徴部分の斜視図である。
【図2】
上送り装置への伝動系の動作説明図である。
【図3】
上送り装置への伝動系の動作説明図である。
【図4】
上送り装置を備えたミシンの針落ち位置近傍の側断面図である。
【符号の説明】
4 送り駆動軸
5 送り調整軸
6 送り調整レバー
7 送り調整ロッド
8 送り操作軸
9 目盛り板
30 上送り軸
35 上送り歯
42 カムリング
43 カムロッド
50 リンク部材
51 リンク部材
54 揺動板
56 支軸
60 枢支ピン
62 係合板
70 長孔
71 目盛り突起
72 ストッパ突起
80 操作つまみ
81 ナット部材
93 ストッパねじ
S 主軸
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2000-09-27 
結審通知日 2000-10-13 
審決日 2000-10-24 
出願番号 実願平5-40162 
審決分類 U 1 112・ 534- YA (D05B)
U 1 112・ 531- YA (D05B)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 松縄 正登  
特許庁審判長 鈴木 美知子
特許庁審判官 山崎 豊
鈴木 公子
登録日 1999-02-19 
登録番号 実用新案登録第2594003号(U2594003) 
考案の名称 ミシンの上送り装置  
代理人 河野 登夫  
代理人 河野 登夫  
代理人 鈴江 正二  
代理人 鈴江 孝一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ