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審決分類 審判    B42D
審判    B42D
審判    B42D
管理番号 1146417
審判番号 無効2006-40005  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2006-12-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-05-02 
確定日 2006-10-23 
事件の表示 上記当事者間の登録第3110249号実用新案「通帳」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第3110249号の請求項1乃至4に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件実用新案登録第3110249号の請求項1乃至4に係る考案(以下、各請求項に係る考案を、「本件考案1乃至4」という。)は、平成17年2月4日に実願2005-504号として出願され、同年4月27日に実用新案権設定の登録がなされたところ、これに対して、大日本印刷株式会社より平成18年5月2日に本件無効審判の請求がなされた。
これに対して、平成18年6月23日付けで被請求人株式会社笠間製本印刷所より答弁書が提出された。

第2 本件考案
本件考案1乃至4は、実用新案登録願の実用新案登録請求の範囲の請求項1乃至4に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】
通帳の内部紙の地模様が複数の色で表示されていることを特徴とする通帳。
【請求項2】
色は淡色であることを特徴とする請求項1記載の通帳。
【請求項3】
地模様は金融機関の商品又はサービスなどに関する宣伝広告各種の商店、企業の商品又はサービスなどに関する宣伝広告、或いは名所、名物、風景など観光やレジャースポットなどに関する宣伝広告であることを特徴とする請求項1又は2記載の通帳。
【請求項4】
地模様は各頁を通して連続性を有する絵物語に構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の通帳。」

第3 請求人の主張
請求人は、「実用新案登録第3110249号の請求項1乃至4に係る考案についての実用新案登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1乃至6号証を提示し、その理由として、

(1)本件考案1乃至4は、甲第1号証に複写物として示された、本件出願前に使用されていた通帳と同一であり、本件出願前に公然実施された考案であるから、実用新案法第3条第1項第2号に該当し、実用新案登録を受けることができないものであり、実用新案法第37条第1項第2号の規定により、その登録を無効とすべきである、

(2)本件考案1乃至4は、甲第2号証に記載された考案及び甲第3乃至5号証に記載された考案(及び甲第1号証)に基づいて当業者がきわめて容易に考案できたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、実用新案法第37条第1項第2号の規定により、その登録を無効とすべきである、

(3)本件考案3は、地模様として印刷する様々な宣伝広告の内容を構成要件としているが、宣伝広告の内容それ自体は提示される情報の内容のみを特徴とするものであって、情報の単なる提示を主たる目的とするものであるから、実用新案法にいう「技術的思想」には相当せず、実用新案法第3条第1項柱書きの規定により実用新案登録を受けることができないものであり、実用新案法第37条第1項第2号の規定により、その登録を無効とすべきである、旨主張している。

(証拠方法)
甲第1号証:本件実用新案登録出願前に使用されていた通帳のカラー複写物
甲第2号証:特開平9-277748号公報
甲第3号証:特公平2-25329号公報
甲第4号証:特開昭63-81076号公報
甲第5号証:特開2002-67427号公報
甲第6号証:インターネット上の佐賀銀行のホームページの複写物

第4 被請求人の主張
一方、被請求人は、
(1)無効理由1については、本件考案1乃至4が、甲第1号証の通帳と同一ではないから、本件出願前に公然実施された考案ではない、

(2)無効理由2については、本件考案1乃至4が、甲第2号証に記載された考案及び甲第3乃至5号証に記載された考案(及び甲第1号証)に基づいて当業者がきわめて容易に考案できたものではない、

(3)無効理由3については、本件考案3が、実用新案法第3条第1項柱書きの規定を満たしている、旨反論し、それゆえ請求人の提出した証拠方法によっては、本件考案1乃至4を無効にすることができないと主張している。

第5 当審の判断
1.請求人の主張する無効理由(1)について
(1)甲第1号証の認定
甲第1号証は、カラー複写物であり、第1頁?第12頁からなり、第1頁には「トムとジェリーの総合口座通帳」との表示があることから、普通預金と定期預金とが一冊に収納された、一般に各行で「総合口座取引規定」として定められた取引用の通帳をカラー複写したものであることが把握でき、該通帳は表及び裏表紙と、5枚の折り返した印字紙とからなるものであって、さらにそれらの中央部で綴られた構成を有するものであり、詳細には以下のa?k(うち、a?gは主に通帳について、h?kは記帳された内容について)に係る構成を有するものであることが把握できる。

a.第1頁からは、表表紙に「店番」及び「口座番号」を印字する欄、「個人の名前」を記入する箇所、「トムとジェリーの総合口座通帳」の表示、イメージキャラクターである猫とネズミの絵、及び「佐賀銀行」とそのロゴマークの表示が看取できる。同じく裏表紙にはイメージキャラクターである猫とネズミの顔の絵、「THE BANK OF SAGA」の表示が看取できる。さらに、表及び裏表紙には「PAID」のパンチ孔が空けられ、特に裏表紙では磁気ストライプ部分に該パンチ孔が空けられるようにしたことが看取できる。

b.第2頁からは、「店番」、「口座番号」、「個人の名前」及び「マル優限度額」を印字する欄、「お届印1(「1」は正確には○に1。以下、同様。)」欄、「(発行日)」を印字する箇所、「株式会社 佐賀銀行」及びその印、「(口座開設店)」を印字する箇所、「(改印 年月日)お届印2(「2」は正確には○に2。以下、同様。)」欄、「(通帳作成地)株式会社佐賀銀行 佐賀市唐人二丁目7番20号」及び「自動サービスご利用欄」等の表示、及び上記「お届印1」欄には届印を剥がした跡及び剥がす際に破れた保護シールそして認め印らしき印鑑が押された跡が看取でき、上記「(口座開設店)」及び上記「(発行日)」を印字する箇所には、それぞれ「唐津支店 Tel. 0955-72-3111」及び「5年12月27日」と印字されていることが看取できる。

c.第3頁?第8頁からは、頁番号として「1」?「6」の番号が右肩に付された普通預金の出納記録を印字する頁が看取できる。

d.第9頁?第11頁からは、頁番号として「1」?「3」の番号が右肩に付された定期預金の出納記録を印字する頁が看取できる。

e.第12頁からは、「お客様メモ」欄と「さぎん総合口座のしくみ」欄が看取できる。

f.第2頁?第12頁からは、橙色の微小文字により「THEBANKOFSAGA」が繰り返し表示されており、特に普通預金の記入頁である第3頁?第8頁には、緑色でデッサンされた猫とネズミの絵の周りに、緑色の絵の内側部分が白抜きとなるように橙色の「THEBANKOFSAGA」の微小文字が通帳の印字紙のほぼ全面に印刷されており(「年月日」を印字する場所で偶数番号のところだけ橙色の「THEBANKOFSAGA」の微小文字が無く、白地のまま)、かつ差引残高の欄内全体が「THEBANKOFSAGA」の微小文字を形成している橙色よりも濃い橙色であって、その中に前記橙色の「THEBANKOFSAGA」の微小文字と同じ並びで「THEBANKOFSAGA」の微小文字状の白抜きが表示されており、上記緑色及び橙色(濃い橙色を含む)の濃度が通帳記入に用いられる黒色文字の妨げとならない程度に設定されていることが看取できる。

g.第3頁?第8頁における、緑色の猫とネズミの絵を順に連続してみると、猫とネズミが積み木を運び、組み立てて、協力しながら最終的に積み木の家を造る様子が看取できる。

h.上記b及びcにおいて、「繰越」の日である「5-12-27」から「8-3-8」まで全頁にわたって連続的に印字され、かつ差引残高の整合性が認められる。ここで、「繰越」の日である「5-12-27」は上記bにおける「(発行日)」と同日であることが認められる。

i.上記bにおいて、「(口座開設店)」が「唐津支店 Tel. 0955-72-3111」であることが印字されている旨把握できることを示したが(第2頁)、佐賀銀行のホームページから容易に唐津支店及びその電話番号が供覧でき、通帳に印字されてあった唐津支店の存在及びその電話番号については確認ができた。

j.上記bにおいて、「お届印1」欄の届印を剥がした跡がある旨把握できることを示したが(第2頁)、これは従来通帳の見返し面(表表紙の裏側)に口座の届印を押印し(副印)、窓口での印鑑照合に活用する副印鑑制度に則ったものであったけれども、スキャナ等のパソコン周辺機器の性能向上により、上記副印を用いた印影偽造による預金の不正引き出しが横行したこと及び印鑑照会システムの稼働に伴い順次各行で該システムを採用してきたことにより、最近では使用中であるか使用済みであるかを問わず、副印を取り除くことが推奨されていることによって、届印が剥がされているものと看取できる。

k.上記b及びdにおいて、「定期預金」の頁番号の「1」には、「普通預金」の頁番号の「1」の「繰越」の日である「5-12-27」以前の「5-8-25」から「継続」している定期預金を「6-2-25」にさらに「継続」し、「6-3-28」に「解約」したことが認められる。

以上を踏まえると、甲第1号証としてカラー複写物の形態で提出された通帳(以下、「甲第1号証に示された通帳」という。)は実在するものであるとの心証を当審では得た。

(2)本件考案1について
本件考案1と甲第1号証に示された通帳とを対比する。
甲第1号証に示された通帳の「印字紙」は、通帳の表裏の表紙の中にある、顧客との金融取引における取引明細の記入が施される紙の綴りのことであるから、本願考案1における「内部紙」に相当する。
そして、本件考案1における「地模様」について、本件明細書には明確な定義がなされていないけれども、「通帳の内部紙となると何れの金融機関の通帳も内部紙に地模様が表示されているものはあるが、単一色の印刷によるもので、顧客は通帳を開くと何か味気ない思いをしているのである。」(【0002】)、「地模様の上に取引明細などが印字されても視認性が妨げられることがない・・・」(【0013】)、「地模様4は取引明細欄3のみならず、内部紙2の各頁に表示されている。又、各頁の地模様4は同一模様であっても良く、頁毎に異なる模様であっても良い。地模様4として文字、図形、各種模様、絵柄などから成り、又、写真やキャラクターなどのイラストが印刷される。」(【0018】)、「図面では取引明細欄3外の上辺部及び下辺部の一定領域は「普通預金」の旨の表示や「ご説明」が既に取引明細欄3と同色で印刷され、地模様4は施されていないが、当然この領域にも地模様4を施すこともできる。そして、取引明細欄3の地模様4の上に取引明細が印字される。」(【0022】)との記載がある。
他方、「地(じ)」が「紙・布などの模様のない部分。」(広辞苑第五版)を意味するものであるから、まだ模様の印刷が施されていない内部紙の状態が前記地の状態であり、その状態から印刷により模様を施すことで地の模様、すなわち地模様が形成されるものと解される。
してみると、本件考案1における「地模様」とは、模様が印刷されていない(地)状態である通帳の内部紙に印刷により形成されるものであって、文字のみに限らず、図形、絵柄、キャラクター等をも含みうることが理解でき、さらに地模様を形成する場所は内部紙の一部(取引明細欄)だけでも、内部紙全面でもよいものであると把握できる。
そうであれば、甲第1号証に示された通帳の内部紙において、緑色でデッサンされた猫とネズミ(イメージキャラクター)の絵の周りに、緑色の絵の内側部分が白抜きとなるように橙色の「THEBANKOFSAGA」の微小文字が紙全体に印刷されてなる模様全体が、本件考案1における「地模様」にほかならないし、甲第1号証に示された通帳の内部紙における上記模様が緑色及び橙色とにより形成されていることから、本件考案1における「地模様が複数の色で表示されている」ことと差異がない。
さらに、同じ橙色でも濃淡が付いているということは、色の3要素である明度、彩度、色相の観点からみた場合に異なる色と認識できるものであるから、甲第1号証に示された通帳の内部紙の地模様に濃淡の橙色が存在するだけでも、「地模様が複数の色で表示されている」ことになることも附記しておく。
よって、本件考案1は、その出願日より前に日本国内で公然実施された考案であるから、実用新案法第3条第1項第2号に該当し、実用新案登録ができないものである。
したがって、本件考案1に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第1項第2号の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項2号の規定により、無効とされるべきである。

(3)本件考案2について
本件考案2は、本件考案1を引用する従属形式の考案であって、本件考案1において、「色は淡色である」ことを限定したものである。
この限定事項について検討すると、
甲第1号証に示された通帳の内部紙における「地模様」を構成する緑色及び橙色(濃い橙色を含む)の濃度は通帳記入された黒色文字の妨げとならない程度であることから、淡色で表示されたものであるということができ、この限定事項は甲第1号証に示された通帳の内部紙がすでに有しているものである。
したがって、本件考案2は、その出願日より前に日本国内で公然実施された考案であるから、実用新案法第3条第1項第2号に該当し、実用新案登録ができないものである。
よって、本件考案2に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第1項第2号の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項2号の規定により、無効とされるべきである。

(4)本件考案3について
本件考案3は、本件考案1又は2を引用する従属形式の考案であって、本件考案1又は2において、「地模様は金融機関の商品又はサービスなどに関する宣伝広告(注:この後の「、」は当審にて付与。以下同じ。)、各種の商店、企業の商品又はサービスなどに関する宣伝広告、或いは名所、名物、風景など観光やレジャースポットなどに関する宣伝広告である」ことをさらに限定したものである。
この限定事項について検討する。
甲第1号証に示された通帳の内部紙には、緑色で表示された猫とネズミ(イメージキャラクター)の絵の周りに、緑色の絵の内側部分が白抜きとなるように橙色の「THEBANKOFSAGA」の微小文字が紙全体に施されているものである。その内部紙の地模様の絵(イメージキャラクター)を見ることで取引先の銀行を思い浮かべたり、その絵(イメージキャラクター)のファンである顧客がその銀行に口座を開設しようと思う動機付けにもなり、絵(イメージキャラクター)がそれ相応の宣伝広告になると想像するに難くない。
そうすると、本件考案3における「地模様が金融機関の商品又はサービスなどに関する宣伝広告」(注:下線は当審にて付与)は「など」の文言があることから、宣伝広告が必ずしも商品又はサービスのみであることを特定しているわけではなく、金融機関自身を想定させるものも含みうるものであると解することができ、それゆえ、甲第1号証に示された通帳の内部紙における地模様の絵(イメージキャラクター)を用いてなされる金融機関自身の宣伝広告は、本件考案3における「地模様が金融機関の商品又はサービスなどに関する宣伝広告」に包含されるものと解することに特段の支障が認められない。
したがって、本件考案3は、その出願日より前に日本国内で公然実施された考案であるから、実用新案法第3条第1項第2号に該当し、実用新案登録ができないものである。
よって、本件考案3に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第1項第2号の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項2号の規定により、無効とされるべきである。

(5)本件考案4について
本件考案4は、本件考案1又は2を引用する従属形式の考案であって、本件考案1又は2において、「地模様は各頁を通して連続性を有する絵物語に構成されている」ことをさらに限定したものである。
この限定事項について検討する。
一般に、「絵物語」とは「物語文に絵をさし加えたもの。」(広辞苑第五版)を意味する用語である。
他方、本件明細書には、「絵物語」について明確な定義はなされていないけれども、「顧客は通帳を開いて物語の内容を楽しむことができ、顧客に対するサービスの向上につながる。」(【0011】)、「地模様4は各頁を通して連続性を有する絵物語に構成することもでき、物語の内容を楽しむことができる。絵物語として童話や人気キャラクターが登場する物語などが好適である。」(【0021】)との記載があることから、本件考案4における「絵物語」は各頁を通して連続性を持たせつつ、地模様により構成されていることが把握できる。
ここで、「絵物語」の一般的な意味からすれば絵だけでなく物語文も併存するものと認められるけれども、前記で検討したように容易に物語の内容が把握できることに照らして、特段に物語文を要するものであるといえないので、「絵」による「物語」を意図しているものと解するのが自然である。
仮に「絵物語」を広辞苑にみられるような一般的な意味に捉えたとしても、絵も物語文も表示されている状態は絵本等に見られるとおり、通常の表示の在り方だから、従来からの周知慣用の手法を単に採用したものにすぎない。
そうであれば、甲第1号証に示された通帳の内部紙を連続的に見ると、猫とネズミが積み木を運んで組み立てて最終的に積み木の家を造る様子が看取できることから、本件考案4と甲第1号証に示された通帳とには差異がないことになる。
したがって、本件考案4は、その出願日より前に日本国内で公然実施された考案であるから、実用新案法第3条第1項第2号に該当し、実用新案登録ができないものである。
よって、本件考案4に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第1項第2号の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項2号の規定により、無効とされるべきである。

(6)被請求人の主張に対して
被請求人は、平成18年6月23日に提出した答弁書において、「「地模様がキャラクター印字(印刷の誤植?)部分と地模様部分からなる」との記載は意味不明であり、正確には、「地模様の他に、キャラクター部分の二種類の模様からなる」ことを意味すると解される。」(第2頁第22行?第3頁第2行)、「甲第1号証の通帳では、請求人の記載の通り、「内部紙は薄緑色のキャラクター印字部分と、薄橙色の地模様部分とからなる複数の色で印刷されている。」のであって、当業者間において地模様と認識されていないキャラクター印字部まで地模様に含ませようとしたために、「当該通帳の地模様は、薄緑色のキャラクター印字部分と、薄橙色の地模様部分からなる複数の色で印刷されている。」と、不明瞭な記載に続いて、「また、地模様部分には、薄緑色の銀行のイメージキャラクターである「トムとジェリー」及び、薄橙色の佐賀銀行名が印刷されている。」と矛盾し記載となったものである。」(第3頁第9行?第16行)、「ちなみに、甲第1号証の通帳では「THEBANKOFSAGA」の文字を連続且つ規則的に印刷して地模様を形成している。」(第3頁第17行?第18行)と主張しており、要は甲第1号証に示された通帳における地模様は、薄橙色の「THEBANKOFSAGA」の文字が連続且つ規則的に印刷してある模様のことであって、薄緑色の銀行のイメージキャラクターである「トムとジェリー」は地模様でないから、請求人の主張は妥当でないということである。
しかしながら、上記「(2)本件考案1について」で述べたとおり、「地(じ)」は「紙・布などの模様のない部分。」(広辞苑第五版)を意味するものであるから、まだ模様の印刷が施されていない内部紙の状態が前記地の状態であり、その状態から印刷により模様を施すことで地の模様、すなわち地模様が形成されるものと解するのが自然であり、それゆえ、本件考案1における「地模様」とは、模様が印刷されていない(地)状態である通帳の内部紙に印刷により形成されるものであるから、文字のみに限らず、図形、絵柄、キャラクター等をも含みうるものであると理解すべきである。
したがって、被請求人の主張は採用できない。

2.請求人の主張する無効理由(2)について
2-1.証拠の記載
ア.甲第2号証(特開平9-277748号公報)には、次の事項が記載されている。

ア-1.「顧客との金融取引における取引明細の印字頁であって取引明細印字欄内に、顧客に対して伝達すべき情報を、取引明細の印字色と異なる色により予め印刷したことを特徴とする通帳。」(【請求項2】)

ア-2.「請求項2に記載の通帳において、顧客に対して伝達すべき情報は、文言による地紋によって表示されていることを特徴とする通帳。」(【請求項3】)

ア-3.「請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の通帳において、顧客に対して伝達すべき情報は、金融機関の商品又は役務の宣伝広告であることを特徴とする通帳。」(【請求項4】)

ア-4.「さらに、取引明細欄13内の領域には、取引明細欄13と同系色又は淡色等で、上述と同様の伝達情報16が印刷されている。この伝達情報16は、取引明細欄13内の一部の領域に印刷しても、又は略全領域に印刷しても良い。また、一行ごとに異なる情報を印刷したもの、数行を同一内容としたもの、上側頁と下側頁とで別々の情報としたものでも良い。伝達情報16としては、例えば、「普通預金は、水道,ガス又は電気等の公共料金の支払い口座として指定できる」旨、「満期日の異なる複数の定期を、指定した一つの満期日で変更できる」旨、「通帳やキャッシュカードに写真を設けることができる」旨、又は「キャッシュコーナーの利用可能時間の変更の案内」等があげられる。これらの伝達情報16は、文言による地紋によって表示されている。さらに、地紋によってイラストが形成されるようにしても良い。
これにより、金融機関は、全ての顧客に対してサービス内容を知らせることができる。また、顧客は、通帳10を使用することにより、サービス内容を知ることができる。そして、通帳10は、簡単に廃棄したりすることがないので、サービス内容を知らせる媒体として、ダイレクトメール等以上に有効に活用することができる。」(【0009】,【0010】)

ア-5.「端末により取引明細欄13に取引明細を印字するときは、この伝達情報16上に重ねて印字することとなるが、一般にはこの印字は黒色によるものであるので、取引明細の内容が見にくくなることはない。」(【0011】)

イ.甲第3号証(特公平2-25329号公報)には次の事項が記載されている。

イ-1.「1 特に銀行紙幣のような信用発行紙の保安地紋を印刷するためのシート供給又はウエブ供給の多色輪転印刷機であつて、圧胴6と、第1のゴム胴7と、この第1のゴム胴7と共働する、異なつた色を有するインク付け装置9によつてそれぞれがインク付けされ多色画像を得るようにする複数の胴8と、印刷されるべき全模様を現わす印刷版10aを担持する版胴10とこの版胴10と共働する第2の胴11とからなる2つの胴の群とを、具備してなる印刷機において、圧胴6と、版胴10が活版印刷版10aを担持し第2の胴がゴム胴11である前記群の2つの胴10,11とが、合わせ印刷位置とオフセツト印刷位置との間に移動自在に取付けられ、またこの合わせ印刷位置において圧胴6が第1のゴム胴7から離間され前記群の2つの胴10,11の一方の胴10が第1のゴム胴7と接触し他方の胴11が圧胴6と共働しそれにより紙を前記圧胴6に押圧するようになつており、さらに第1のゴム胴7にインク付けする胴がインク付けローラ8,8aに区分されて配列され、さらにまた、オフセツト印刷位置において圧胴6が第1のゴム胴7と共働しそれにより紙を前記第1のゴム胴に押圧するようになつており、前記群の2つの胴10,11が第1のゴム胴7と圧胴6とから離間され、また第1のゴム胴7にインク付けする胴が、印刷版8bを担持する版胴8,8bであることを特徴とする多色輪転印刷機。」(第1欄第2行?第2欄第4行)

イ-2.「本発明は一枚一枚の紙又は一巻きの長い紙に多色印刷をする、特に紙の通貨、例えば銀行紙幣に保安地紋を印刷する輪転印刷機に関するもので、この印刷機は、本来、その周りを印刷される紙が通過するようにされた1つの圧胴と、第1のゴム胴と、分離されたインク付け装置により異種の色のインクが付けられかつ前記ゴム胴に多色の画像を与えるようこのゴム胴と共働する少なくとも2個の版胴と、印刷すべき全模様を表わす活版印刷版が取りつけられた版胴及びこの版胴に接触する第2のゴム胴からなる2つの胴の群とを具備する形式のものである。」(第2欄第7行?同第18行)

イ-3.「意図したように、完成された印刷が銀行紙幣の一側面に、例えば4色の保安地紋が「オルロフ」法による印刷によつて得られ、・・・」(第5欄第31行?第5欄第33行)

ウ.甲第4号証(特開昭63-81076号公報)には次の事項が記載されている。

ウ-1.「地肌濃度値0.1?0.4の低濃度の色を有する紙の上に地肌部と同色で濃度値が0.1?0.3高い線巾100μ以下の地紋を形成し、更にダークグリーン、茶、紫等高精度の複数の色で線巾100μ以下の曲線でピッチ巾を100μ?500μとした地紋を形成し、その上に所要の印刷を施した高精度コピー不能の有価証券の印刷方法。」(第1頁左下欄第5行?同第11行)

エ.甲第5号証(特開2002-67427号公報)には次の事項が記載されている。

エ-1.「【請求項1】 物語の登場事物を示し且つその登場に則して順序性を備えた複数の装飾指定データを記憶する装飾指定データ記憶手段と、前記複数の装飾指定データの中から前記順序性に従って1の装飾指定データを選択する装飾指定データ選択手段と、前記装飾指定データ選択手段によって選択された前記1の装飾指定データによる指定に従って装飾された装飾画像を被印刷媒体に印刷する印刷手段と、を備えたことを特徴とする印刷装置。
・・・
【請求項5】 前記装飾指定データによる指定には、入力された文字列に対して装飾を施す指定が含まれることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項6】 前記文字列は、前記物語のストーリーであることを特徴とする請求項5に記載の印刷装置。
・・・
【請求項12】物語の登場事物を示し且つその登場順に順序性を備えた複数の装飾指定データを記憶し、記憶された前記複数の装飾指定データの中から前記順序性に従って1の装飾指定データを選択し、選択された前記1の装飾指定データによる指定に従って装飾された装飾画像を、被印刷媒体に印刷することを特徴とする印刷方法。」(【特許請求の範囲】)

エ-2.「この印刷装置および印刷方法は、物語の登場事物を示し且つその登場に則して順序性を備えた複数の装飾指定データとして、例えば、昔話「桃太郎」の登場事物である「おじいさん」、「おばあさん」、「もも」・・・の絵柄が組み込まれた「外枠」の装飾などを指定する装飾指定データを記憶している。そして、これらの装飾指定データの中から順序性に従って1の装飾指定データを選択し、選択した装飾指定データによる指定に従って装飾された装飾画像を印刷することができる。すなわち、次に選択される装飾指定データが、順序性に従って一義的に決定できるため、印刷指示毎にそれぞれの装飾(「おじいさん」、「おばあさん」、「もも」・・・の絵柄が組み込まれた「外枠」の装飾など)の指定を必要としない。つまり、順序性を備えた複数の装飾を順番に印刷することができるため、装飾を指定する手間が省け、迅速且つ簡単に印刷を行うことができる。」(【0009】)

エ-3.「装飾の印刷はユーザにより、1回の印刷指示が成されたとき、一枚目は「おじいさん」の装飾、二枚目は「おばあさん」の装飾と続けて印刷されるよう構成してもよいし、1回の印刷指示で、「おじいさん」の装飾が印刷され、2回目の印刷指示で「おばあさん」の装飾が印刷されるよう構成してもよい。また、ここで言う「装飾」とは、上述の「外枠」に限らず、「地紋印刷」なども含むものである。」(【0011】)

エ-4.「【0022】請求項1ないし4のいずれかに記載の印刷装置において、前記装飾指定データによる指定には、入力された文字列に対して装飾を施す指定が含まれることを特徴とする。
この構成によれば、装飾指定データによる指定には、入力された文字列に対して装飾を施す指定が含まれるため、例えば入力された文字列「あいう」に対して、「外枠」や「地紋印刷」などの装飾を対して施すことができる。すなわち、「外枠」のみや「地紋印刷」のみなど、装飾画像のみを指定して印刷するだけでなく、入力された文字列に対して装飾を施すといった指定が可能となる。
請求項5に記載の印刷装置において、文字列は、物語のストーリーであることが好ましい。
この構成によれば、物語のストーリー(お話)を文字列として入力することができる。また、文字列を装飾に合わせて入力することで、「絵本」や「(幼児用の)学習教材」などとして利用可能な印刷物を作成することができる。」(【0022】?【0025】)

エ-5.「グループ「桃太郎」を選択した場合には、図7に示すように、装飾画像50を昔話「桃太郎」の登場人物の登場順に印刷させ(「おじいさん(223)」、「おばあさん(224)」、「もも(225)」、・・・)、更にテキストとして「お話(ストーリー)」を入力することで紙芝居風に利用するなど、(例えば幼児用の)教材としても使用することができる。また、テキスト内容は、変更可能であるため、装飾画像50を参考にお話の内容を変えたり、お話を入力しないで(装飾画像50のみを印刷して)、幼児に物語を考えさせるなど、知育に役立てることができる。」(【0068】)

2-2.無効理由(2)に対する当審の判断
(1)甲第2号証に記載された考案について
摘記ア-1?ア-5及び甲第2号証の明細書及び図面全体から、甲第2号証には、
「顧客との金融取引における取引明細の印字頁であって取引明細印字欄内に、顧客に対して伝達すべき情報を、取引明細の印字色と異なる淡色により予め印刷することができ、上記顧客に対して伝達すべき情報が金融機関の商品又は役務の宣伝広告であり、これらが文言による地紋によって表示されてもよいし、地紋によってイラストが形成されるようにしてもよい通帳。」(以下、「甲2考案」という。)が開示されている。

(2)本件考案1について
(2-1)本件考案1と甲2考案との対比
i)甲2考案の「印字頁」と本件考案1の「内部紙」とは、通帳の表裏の表紙の中にある、顧客との金融取引における取引明細の記入が施される紙の綴りのことであるから、両者の差は表現上の差異でしかない。
ii)「地紋」には「各種製作品の地模様。」(広辞苑第五版)との意味があることから、「地紋」と「地模様」とはほぼ同義であり、甲第2考案の「地紋」は本件考案1の「地模様」に相当する。
iii)甲2考案の印字頁における「取引明細印字欄」内には、顧客に対して伝達すべき情報を淡色により予め印刷することができ、これらが文言による地紋によって表示されてもよいし、地紋によってイラストが形成されても良いものであるところ、本件考案1の内部紙では「模様で複数の色で表示され」るものであるから、両者は内部紙に地模様が表示されている点で共通する。
してみると、本件考案1と甲2考案とは、
「通帳の内部紙に地模様が表示されている通帳。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]内部紙に表示されている地模様について、本件考案1では地模様が「複数の色」で表示されているのに対し、甲2考案では地模様があるものの、その色の数が特定されていないものである点。

(2-2)判断
[相違点]について検討する。
本願出願当時、銀行紙幣や有価証券等の紙よりなる金融関連物品に多色で地紋の印刷を施すことが周知技術である(上記甲第3号証のイ-1?イ-3及び上記甲第4号証のウ-1参照)。
してみると、地模様が複数の色で表示されることは、甲2考案及び甲3号証並びに甲第4号証に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものである。
また、本件考案1の作用効果は、甲2考案及び甲第3号証並びに甲第4号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に予測しうる程度のものである。
したがって、本件考案1に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項2号の規定により、無効とされるべきである。

(3)本件考案2について
本件考案2は、本件考案1を引用する従属形式の考案であって、本件考案1において、「色は淡色である」ことを限定したものである。
この限定事項について検討すると、
甲2考案における「顧客に対して伝達すべき情報」が、「文言による地紋によって表示されてもよいし、地紋によってイラストが形成される」ものであってよく、それらが「淡色により予め印刷」されているものであるから、この限定事項は甲2考案にすでに開示されているものである。
したがって、本件考案2は、上記「2-2.」の「(2-1)本件考案1と甲2考案との対比」、「(2-2)判断」で検討した理由及び上記したことから、甲2考案及び甲第3号証並びに甲第4号証に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものである。
また、本件考案2の作用効果は、甲2考案及び甲第3号証並びに甲第4号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に予測しうる程度のものである。
したがって、本件考案2に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項2号の規定により、無効とされるべきである。

(4)本件考案3について
本件考案3は、本件考案1又は2を引用する従属形式の考案であって、本件考案1又は2において、「地模様は金融機関の商品又はサービスなどに関する宣伝広告、各種の商店、企業の商品又はサービスなどに関する宣伝広告、或いは名所、名物、風景など観光やレジャースポットなどに関する宣伝広告である」ことをさらに限定したものである。
この限定事項について検討すると、
甲2考案における「顧客に対して伝達すべき情報」が、「金融機関の商品又は役務の宣伝広告であ」り、それらが「文言による地紋によって表示されてもよいし、地紋によってイラストが形成されるようにしてもよい」ことから、この限定事項は甲2考案にすでに開示されているものである。
したがって、本件考案3は、上記「2-2.」の「(2-1)本件考案1と甲2考案との対比」、「(2-2)判断」、「(3)本件考案2について」で検討した理由及び上記したことから、甲2考案及び甲第3号証並びに甲第4号証に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものである。
また、本件考案3の作用効果は、甲2考案及び甲第3号証並びに甲第4号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に予測しうる程度のものである。
したがって、本件考案3に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項2号の規定により、無効とされるべきである。

(5)本件考案4について
本件考案4は、本件考案1又は2を引用する従属形式の考案であって、本件考案1又は2において、「地模様は各頁を通して連続性を有する絵物語に構成されている」ことをさらに限定したものである。
この限定事項について検討する。
既に上記「1.請求人の主張する無効理由(1)について」の「(5)本件考案4について(特に、「一般に、「絵物語」とは「物語文に絵をさし加えたもの。」(広辞苑第五版)を意味する用語・・・従来からの周知慣用の手法を単に採用したものにすぎない。」の部分)」で検討したように、本件考案4における「絵物語」は地模様により構成されるものだから、従来からの周知慣用の手法を単に付加したものにすぎない。
そして、万が一、従来からの周知慣用の手法を単に付加したものでなかったとしても、本件考案4における各頁を通して連続性を有する絵物語は、絵本や甲第5号証(エ-1?エ-5)に記載されているとおり周知な技術であるから、本件考案4は、上記「2-2.」の「(2-1)本件考案1と甲2考案との対比」、「(2-2)判断」、「(3)本件考案2について」で検討した理由及び上記したことから、甲2考案及び甲第3号証並びに甲第4号証、甲第5号証に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものである。
また、本件考案4の作用効果は、甲2考案及び甲第3号証並びに甲第4号証、甲第5号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に予測しうる程度のものである。
したがって、本件考案4に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項2号の規定により、無効とされるべきである。

(6)被請求人の主張に対して
被請求人は、平成18年6月23日に提出した答弁書において、「甲第2号証には、「顧客に対して伝達すべき情報を、取引明細の印字と異なる色により印刷する」のみが伝達情報の色に関する記載であり、また、地紋については文言によるものやイラストを形成することは記載されているけれども、それら地紋自体の色については全く記載されず、色彩について何らかを示唆する言及もない。ハ)さらに、甲第3号証(特公平2-25329号公報)は銀行紙幣のような信用発行紙の保安地紋を印刷する輪転印刷機に関するものであり、また甲第4号証(特開昭63-81076号公報)は有価証券の印刷方法に関するもので、本件の銀行等の通帳とは印刷の目的が相違し、その手法・内容は各々独特のものを有し、互いに転用する慣例等は存しないものである。」(第4頁第13行?第22行)と主張している。
しかしながら、上記「2-2.」の「(2-2)判断」で述べたとおり、甲第2号証に記載された通帳の地模様を印刷するに際し、周知技術である甲第3号証及び甲第4号証に記載された多色の印刷技術を適用して、本願考案のように構成することはきわめて容易に考案することができるものであるし、甲第2号証に記載された地模様を印刷するに際し、周知技術である甲第3号証及び甲第4号証に記載された多色の印刷技術を適用できない特段の事情があるものとも認められない。
したがって、被請求人の主張は採用できない。

3.請求人の主張する無効理由(3)について
実用新案法第2条の規定によれば、考案とは自然法則を利用した技術的思想の創作をいう。
そして、実用新案法第3条第1項柱書きの規定によれば、実用新案登録を受けることができる考案とは、産業上利用できる考案であって物品の形状、構造又は組み合わせに係るものでなければならない。
したがって、実用新案登録を受けることができる考案であるためには、自然法則を利用した技術的思想の創作であって、かつ産業上利用可能な物品の形状、構造又は組み合わせに係るものであることを必要とする。
そこで、本件考案3をみるに、「地模様が金融機関の商品又はサービスなどに関する宣伝広告、各種の商店、企業の商品又はサービスなどに関する宣伝広告、或いは名所、名物、風景など観光やレジャースポットなどに関する宣伝広告であること」を特徴としていることが把握できるけれども、このことは提示される情報の内容にのみ特徴を有するものであって、情報の提示を主たる目的としている情報の単なる提示に該当し、技術的思想であるとは認められないものであって、本件考案3は技術的思想でない構成により特徴づけられたものである。
しかしながら、本件考案3は本件考案1又は2を引用する考案であり、たとえ技術的思想でない構成により特徴づけられていたとしても、本件考案3により追加特定された事項はそれ自体が本件考案3を何ら特定するものではないから、本件考案3は少なくとも本件考案1又は2に該当する通帳の考案であると解すべきである。
してみると、そのような通帳は、上記「1.請求人の主張する無効理由(1)について」及び「2.請求人の主張する無効理由(2)について」の項で述べたように、甲第1号証に示された通帳と同一であり、かつ甲2考案及び甲第3号証並びに甲第4号証に記載された考案とから当業者がきわめて容易に考案することができるものである。
そうであるから、本件考案3が技術的思想でない構成により特徴づけられている考案であるということのみをもって、本件考案3が実用新案法で規定する考案に該当しないという無効理由を形成することはできないこととなり、請求人が主張する無効理由(3)を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1乃至4に係る考案は、本件出願の出願日前に公然実施された考案であるから、実用新案法第3条第1項第2号に該当し実用新案登録を受けることができないものであり、また同法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、同法第37条第1項第2号により、その登録は無効とすべきものである。
審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2006-08-28 
結審通知日 2006-08-31 
審決日 2006-09-12 
出願番号 実願2005-504(U2005-504) 
審決分類 U 1 114・ 121- Z (B42D)
U 1 114・ 112- Z (B42D)
U 1 114・ 1- Z (B42D)
最終処分 成立    
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 藤井 靖子
藤井 勲
登録日 2005-04-27 
登録番号 実用新案登録第3110249号(U3110249) 
考案の名称 通帳  
代理人 竹林 則幸  
代理人 高木 千嘉  
代理人 結田 純次  
代理人 三輪 昭次  
代理人 宮田 正道  

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