• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効   B23K
管理番号 1206585
審判番号 無効2004-80095  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-07-08 
確定日 2009-11-02 
事件の表示 上記当事者間の登録第2506402号「スポット溶接ロボット用制御装置」の実用新案登録無効審判事件についてされた平成19年10月10日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成19年(行ケ)第10386号平成20年12月24日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。   
結論 登録第2506402号の請求項1に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1.手続の経緯等
1.手続の経緯
平成 3年10月11日 本件実用新案登録出願(実願平3-91512 号)
平成 8年 5月16日 実用新案登録(第2506402号)
平成 9年 2月 7日 異議申立(異議平成9-70524号)
平成 9年 6月20日 訂正請求書の提出
平成10年 4月20日 異議決定(訂正を認めて維持)
平成16年 3月 1日 無効審判請求(無効2004-35120号、 その後取下げ)
平成16年 7月 8日 無効審判請求(無効2004-80095号)
平成17年 4月15日 無効審判第1次審決(無効)
平成17年 5月26日 第1次審決に対する審決取消訴訟(平成17年 (行ケ)10501号)
平成17年 8月22日 第1次訂正審判請求(後にみなし取り下げ)
平成17年 9月 9日 第1次審決の取消決定
平成17年10月 3日 みなし訂正請求
平成18年 1月24日 無効審判第2次審決(訂正を認めて無効)
平成18年 3月 2日 第2次審決に対する審決取消訴訟(平成18年 (行ケ)10093号)
平成18年 5月23日 第2次訂正審判請求(訂正2006-3908 2号)
平成18年10月 2日 第2次訂正審判審決(訂正を認める)
平成19年 1月29日 第2次審決の取消判決
平成19年10月10日 無効審判第3次審決(不成立)
平成19年11月15日 第3次審決に対する審決取消訴訟(平成19年 (行ケ)10386号)
平成21年 1月29日 第3次審決の取消判決
平成21年 8月12日 第3次審決の取消判決に対する上告不受理決定 (平成21年(行ヒ)136号)

2.適用法
本件実用新案登録に係る出願(以下「本件出願」という。)は、平成3年10月11日にされたから、本件実用新案登録の無効審判請求事件については、平成5年法律第26号附則第4条第1項の規定により、なお効力を有するとされ、さらに同条第2項の表(平成15年法律第47号附則第12条による改正後のもの)により読み替えて適用される平成5年法律第26号による改正前の実用新案法(以下「旧実用新案法」という。)が適用される。
本件で関連する旧実用新案法の規定は、次のとおりである。

ア.第37条第1項
「実用新案登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その実用新案登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。
一 その実用新案登録が第3条・・(中略)・・の規定に違反してされたとき。
二 (略)
二の二 その実用新案登録の願書に添付した明細書又は図面の訂正が第39条第1項ただし書若しくは第3項から第5項まで・・(中略)・・の規定に違反してされたとき。
三 その実用新案登録が第5条第4項又は第5項(第3号を除く。)及び第6項に規定する要件を満たしていない実用新案登録出願に対してされたとき。
(以下、略」)

イ.第39条
「実用新案権者は、願書に添付した明細書又は図面の訂正をすることについて審判を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 実用新案登録請求の範囲の減縮
二 誤記の訂正
三 明りようでない記載の釈明
2 (略)
3 第1項の明細書又は図面の訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。
4 (略)
5 第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とする訂正は、訂正後における実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案が実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができるものでなければならない。
(以下、略)

ウ.第3条
「産業上利用することができる考案であつて物品の形状、構造又は組合せに係るものをした者は、次に掲げる考案を除き、その考案について実用新案登録を受けることができる。
一 実用新案登録出願前に日本国内において公然知られた考案
二 実用新案登録出願前に日本国内において公然実施をされた考案
三 実用新案登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された考案
2 実用新案登録出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる考案に基いてきわめて容易に考案をすることができたときは、その考案については、同項の規定にかかわらず、実用新案登録を受けることができない」。

エ.第5条第5項
「第3項第4号の実用新案登録請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 実用新案登録を受けようとする考案が考案の詳細な説明に記載したものであること。
(以下、略)

オ.第41条
「特許法・・(中略)・・第百六十6条から第百七十条まで・・(中略)・・(審決の効果、審判の請求、審判官、審判の手続、訴訟との関係及び審判における費用)の規定は、審判に準用する。」

第2.本件考案について
上記、第2次訂正審判は、訂正を認容する審決が確定しており、それによって訂正された実用新案登録請求の範囲は、以下のとおりである(請求項は1個である。)。

1.訂正後の請求の範囲
「【請求項1】スポット溶接ガンと、該スポット溶接ガンに対向配置された2つのチップの一方のみを駆動する電動式サーボ機構と、該電動式サーボ機構制御部を有するロボットコントローラと、前記電動式サーボ機構により駆動される一方のチップの位置を検出するチップ位置検出器と、ロボット位置を検出するロボット位置検出器とからなり、該ロボットコントローラにより、前記スポット溶接ガンによるスポット溶接が制御され、かつ前記ロボット位置検出器により得られるロボットの位置と、前記チップ位置検出器により得られるチップ位置とに基づいて、前記電動式サーボ機構が前記電動式サーボ機構制御部を介してロボットの1軸として制御されることにより、スポット溶接ガンの前記一方のチップを駆動する電動式サーボ機構が、ロボットの他の軸と同期制御可能とされることで、前記対向配置された2つのチップの間隔がロボットの他の軸の動作中においても無段階的に所望開度に制御されること、およびロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点で前記2つのチップがワークを挟み込むとともに、所定の押圧力で押圧動作するよう制御され、さらに溶接点到達後、前記ロボットコントローラからスポット溶接ガンヘ溶接開始の指示がなされることを特徴とするスポット溶接ロボット用制御装置。」

2.訂正事項の分説
上記、第2次訂正審判における訂正事項を詳述すると、以下のとおりである。

ア.訂正事項(1)
「電動式サーボ機構」に関して、
「該スポット溶接ガンのチップを駆動する電動式サーボ機構」を、
「該スポット溶接ガンに対向配置された2つのチップの一方のみを駆動する電動式サーボ機構」と訂正する。

イ.訂正事項(2)
「チップ位置検出器」と「ロボット位置検出器」に関して、
「前記電動式サーボ機構により駆動される一方のチップの位置を検出するチップ位置検出器と、ロボット位置を検出するロボット位置検出器」を加入する。

ウ.訂正事項(3)
電動式サーボ機構の制御に関して、
「かつ前記電動式サーボ機構が前記電動式サーボ機構制御部を介してロボットの1軸として制御されることにより」を、
「かつ前記ロボット位置検出器により得られるロボットの位置と、前記チップ位置検出器により得られるチップ位置とに基づいて、前記電動式サーボ機構が前記電動式サーボ機構制御部を介してロボットの1軸として制御されることにより」
と訂正する。

エ.訂正事項(4)
スポット溶接ガンのチップの開度の制御に関して、
「スポット溶接ガンのチップを駆動する電動式サーボ機構が、ロボットの他の軸と同期制御可能とされるとともに、ロボットの他の軸の動作中においても無段階的に所望開度に制御されること」を、
「スポット溶接ガンの前記一方のチップを駆動する電動式サーボ機構が、ロボットの他の軸と同期制御可能とされることで、前記対向配置された2つのチップの間隔がロボットの他の軸の動作中においても無段階的に所望開度に制御されること」と訂正する。

オ.訂正事項(5)
押圧動作の制御に関して、
「および押圧動作するよう制御され」を、
「およびロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点で前記2つのチップがワークを挟み込むとともに、所定の押圧力で押圧動作するよう制御され」と訂正する。

第3.請求人の主張の概要
請求人は、証拠方法として甲第1?11号証を提出し、以下の理由により本件の請求項1に係る登録実用新案は無効とすべきであると主張する(特に、平成19年3月30日付け弁駁書参照)。

1.請求の範囲の記載要件違反及び訂正要件違反
第2次訂正審判によって訂正が請求され、訂正後の実用新案登録請求の範囲に記載された構成において、当該訂正により導入された「およびロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点で前記2つのチップがワークを挟み込むとともに、所定の押圧力で押圧動作するよう制御され」という要件(上記訂正事項(5))は、登録明細書に記載されたものでなく、且つ、この要件を導入する訂正は、願書に最初に添付した明細書または図面に記載された事項の範囲内においてなされたものではない。したがって、本件実用新案登録請求の範囲の記載は、本件実用新案に適用される平成2年改正実用新案法第5条第5項1号の規定に違反するものであり、かつ、上記構成要件を導入する訂正は、実用新案法第14条の2第3項の規定に違反する。

2.進歩性要件違反その1
上記訂正事項(5)は、甲第7号証に開示された事項であり、訂正後の考案は、甲第3号証及び甲第7号証に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものである。

3.進歩性要件違反その2
上記訂正事項(5)は、甲第9号証または甲第10号証に開示された事項であり、訂正後の考案は、甲第3号証、及び甲第9号証または甲第10号証に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものである。

請求人の示した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証 社団法人日本溶接協会誌「溶接技術」1988年第36巻第3号
甲第2号証 特開平3-207580号公報
甲第3号証 ROBOTER technik 1991年版、及び同訳文
甲第4号証 Soudage et techniques connexes NOVEMBRE-DECEMBLE 1989
甲第5号証 国際公開90/14920号パンフレット、及び同訳文
甲第6号証 訂正2006-39082号審決
甲第7号証 特開昭58-177289号公報
甲第8号証 特開平 2-205271号公報
甲第9号証 特開昭64- 15806号公報
甲第10号証 特開昭61-146487号公報
甲第11号証 特開平 3-217906号公報

第4.当審の判断
1.請求の範囲の記載要件及び訂正要件について
訂正事項(5)の内容は、本件の願書に添付した明細書(平成9年6月20日付け訂正請求書に添付された訂正明細書)、図面(以下、「登録明細書等」という。)の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載の「押圧動作の制御」に関して、「押圧動作するよう制御され」の前に、「ロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点で前記2つのチップがワークを挟み込むとともに、所定の押圧力で」を加入することである。
同訂正は、「挟み込む」動作と、「押圧動作」に関するものであるので、これらに関する登録明細書等の記載を検討する。

ア.「挟み込む」について
スポット溶接ガンGに関して、登録明細書等の段落【0011】、【0012】には、以下のとおり記載されている。
「【0011】電動式サーボ機構1は、サーボ増幅器11と電動式サーボモータ12とこのサーボモータ12に結合されているスポット溶接用チップ駆動部(以下、チップ駆動部という)13とからなり、スポット溶接ガンGの本体に適宜手段により保持されている。サーボ増幅器11は、サーボモータを指令値どおりの回転角や回転速度で回転させるためのパワーを供給できる機能を有するものならいかなるものも用いることができ、その構成に特に限定はなく、従来よりサーボ機構に用いられているものを用いることができる。その具体例として、サイリスタ増幅器、トランジスタ増幅器等を挙げることができる。電動式サーボモータ12は、所望の溶接条件に応じてチップ駆動部13を駆動できるものならいかなるものも用いることができ、その構成に特に限定はなく、従来よりサーボ機構に用いられているものを用いることができる。その具体例として、溶接条件が複雑で、一定でないようなときは、ブラシレスDCモータ等を用いることができる。チップ駆動部13は、電動式サーボモータ12の回転軸の先端部に形成された雄ねじに螺合する雌ねじが一端に形成され、他端にはチップ保持部が形成された昇降部材と、この昇降部材を昇降自在に保持する保持部材とから構成されている。この保持部材は適宜手段により電動式サーボモータ12により保持されている。使用するねじは、電動式サーボモータ12の高速回転に対する追従性の良さ、耐久性および精度の点から、ボールスクリューを用いるのが好ましい。なお、チップ保持部の構成は従来の空気式や油圧式のものと同様であるので、その構成の詳細な説明は省略する。
【0012】サーボ機構1はこのように構成されているので、ロボットコントローラ2の指令により、ワークWを挾み込みむと共に所定の押圧力を確保することができる。」

以上の記載によれば、「電動式サーボ機構」は、2つのチップの一方(図3に記載のチップG1)のみを駆動するものであることが示されている。
他方のチップについてみると、スポット溶接ガンGがロボットの先端に、直接取り付けられているから、そのスポット溶接ガンGに固定された他方のチップは、ロボットの各軸の動きとともに移動し、結局、他方のチップはロボットの移動制御に伴って位置制御されているものと考えられる。
これらのチップのワークとの関係についてみると、ロボットの移動制御に伴って、スポット溶接ガンGが、ワークの溶接点に近づいていき、「溶接点に到達」した状態では、他方のチップはワークの裏面の溶接点に接し、「電動式サーボ機構」がロボット全体の動きに「同期制御」されていることにより、一方のチップG1はワークの上面の溶接点に接することを示しているものと考えられる。

そして、図4には、ロボットの各軸(軸1、及び、軸2)の移動速度と、ガン開度について、時間軸に沿ったタイムチャートが示されており、とくに図面の時間軸上に2つ示される「溶接点」のうち、左側、つまり、早い時刻の「溶接点」で示される時刻に関する記載、及び、その直前の記載に着目すると、ロボットの各軸の動きと、ガン開度が、同「溶接点」に向かって収束していくことが示され、同「溶接点」においては、各軸の速度は0、つまり、ロボットは動きを停止しており、ガン開度は0%、つまり、2つのチップがワークを挟み込んでいることが示されている。

一方、訂正事項(5)の内容についてみると、「挟み込む」動作に関しては、「ロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点で前記2つのチップがワークを挟み込む」であり、その意味するところは、「ロボットの動き」、「一方のチップ」の動き、及び「他方のチップ」の動き、合わせて3つの動きが停止するのが、この「時点」において同時であることを意味するものと認められる。
そして、この「時点」は図4に記載の「溶接点」で表される時刻に相当する。

以上のことから、訂正事項(5)の「ロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点で前記2つのチップがワークを挟み込む」動作は、登録明細書等に記載されている事項の範囲内のものである。

イ.「挟み込むとともに所定の押圧力で押圧動作する」ことについて
登録明細書等の段落【0012】には、「サーボ機構1はこのように構成されているので、ロボットコントローラ2の指令により、ワークWを挾み込みむと共に所定の押圧力を確保することができる。」と記載されており、また、所定の押圧力を発生させるためには、チップでワークを挟み込む必要があることは明白である。
ところで、登録明細書等の段落【0016】の記載は、図4のタイムチャートに関するものであり、その中で、前記「溶接点」に関連するのはステップ4であって、それは、
「ステップ4:ロボットが溶接点に達する時点には、チップは所定の押圧力でワークを保持している。」というものである。
この記載は、字義通り解釈すれば、「ロボットが溶接点に達したときには、チップは所定の押圧力を発生している。」となる。

しかしながら、スポット溶接においては、ワークを押圧動作したまま溶接点を移動することはありないし、チップがワークを挟み込む前に押圧力を発生することも同様にありえないのは、自明な事項である。
また、厳密にいえば、チップがワークを挟み込んでから所定の押圧力を発生するまでは、たとえ僅かではあっても時間がかかるものであるところ、通常は、その時間は無視されうる程度のものにすぎないことも技術常識から明らかである。
さらに、電動式サーボ機構が制御されることにより、スポット溶接ガンの2つのチップが所定の押圧力で押圧動作するのは、もともと、登録明細書等に記載の事項である。

そして、上記「ア.「挟み込む」について」で検討したように、「ロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点で2つのチップがワークを挟み込む」ことは登録明細書等に記載されている事項であるから、ステップ4に関する前記記載の本来意味するところは、「ロボットが溶接点に達した時点で2つのチップがワークを挟み込んだ直後には、チップは所定の押圧力でワークを保持している。」であると理解するのが自然である。
一方、訂正事項(5)の内容は、「ロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点で前記2つのチップがワークを挟み込むとともに、所定の押圧力で押圧動作するように制御され」であり、前記自明事項を考慮すれば、この記載の意味するところは、「所定の押圧力で押圧動作する」のは、この「挟み込む」の前、あるいは、同時ではありえず、この「挟み込む」の直後しかありえないこととなる。

以上のことから、訂正事項(5)の、「ロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点で前記2つのチップがワークを挟み込むとともに、所定の押圧力で押圧動作する」よう制御されるという事項は、登録明細書等に記載されている事項の範囲内のものである。

ウ.まとめ
上記ア.イ.から、訂正事項(5)は、登録明細書等に記載された事項の範囲内のものである。
なお、判断の根拠とした段落【0011】、【0012】、【0016】、図4の記載は、本件の願書に「最初に」添付した明細書、図面においても同様であるから、同様の理由により、願書に最初に添付した明細書、図面に記載されている事項の範囲内のものでもある。

2.進歩性要件について
ア.本件考案について
本件考案は、上記「第2.本件考案について」の「1.訂正後の請求の範囲」に記載のとおりのものである。

イ.証拠について
イ-1.甲第3号証、及び同訳文
甲第3号証には以下の記載がある。なお、記載事項は訳文を摘示する。
(ア) 訳文第1ページ第1?15行(本文冒頭を第1行とした。)
「ガン内のインテリジェント-数値制御溶接ガンがサイクル時間を改善する
空気圧ガンでは、障害物を衝突することなく迂回するために溶接ガンのガンアームが最大に開くまでロボットは待たねばならない。NCガンではそうでない。これはロボット制御装置から運動情報を受け取り、ガンを最適に適合すると次の溶接スポットに最短時間で接近できる。
フランスの溶接機器メーカー・アロウが、最初のメーカーとして既に早くから、変圧器を一体化したロボット溶接ガンの開発を成功裏に支援し達成した。通常の溶接シリンダの代りに電動機を備えたロボット溶接ガンのプロトタイプが1989年にエッセン「溶接・切断」見本市で紹介され、自動車メーカーの関心を呼び起こした。しかし関心を寄せる多くの者の当時の見解によれば、大量生産態勢で具体的に応用する可能性はまだはるか先のことであった。ほどなく、アロウはいまやハノーバーで同じ2機のNCガンを提示した。一方はKuka ロボットに取り付けられ、その制御装置によって直接に制御される。他方は独自のNC制御装置を有する固定ステーションとして取り付けられ、このNC制御装置によって工作物(ワーク)が作業工程に通される。
こうしてフランスの溶接機器製造会社はロボットの世界とインターフェースも本来の溶接ガンの開発に引き入れた。NC技術における制御方式はロボット製造の厳しい要求条件を満たし、それゆえに特許出願された。」

(イ) 訳文第1ページ第16?22行
「プロトタイプの諸矛盾がいまや取り除かれた
アロウによれば抵抗溶接は、数値制御の利点を利用できないので、他の制御技術に比べてこれまで不利に扱われてきた。Didier Lombard 会長はこう解説する:「ロボットが数値制御のあらゆる利点を提供するのに、ロボットに装着された工具がこの技術への適合不足からその性能を制限されているとはまったくばかげている」。アロウ会長の見解によれば、抵抗溶接技術は、溶接シリンダを備えた従来の溶接ガンと数値制御ガンが並行して利用されるような新しい開発を断固目指して進む。」

(ウ)訳文第1ページ第23行?第2ページ第9行
「Didier Lombard は、「あれかこれかのガン型式の決定は溶接アプリケーションと製造条件によって決まる」と考え、どうして彼がNCガンに輝かしい未来を見るのかを解説する:「自動車メーカーはますます軽量、ますます高性能、ますます安全な車両を製造しなければならない。だから自動車メーカーは、品質向上を保証し、そして当然に最高度の信頼性を保証するあらゆる方法に細心の注意を払います。大抵のメーカーは確かにいまでも新しいガンのテストに大きな関心を寄せてはいるが、しかしわれわれはそれを見合わせねばならなかった。実際的進歩の保証を提供できないプロトタイプを提供する代りに、われわれは、産業界が成熟した製品を提示できるまで実験室での実験と製造を継続する方を優先しました。われわれはごく多くのモータを仕上げたが、しかしガンアーム調整装置(これをわれわれはエッセンではまだ紹介していないが、それは特許出願がまだだったから)、そしてロボットと結び付いた電子制御装置も仕上げました。これはKuka との共同開発品です」。アロウにとって数値制御抵抗溶接は、アウグスブルグのドイツ子会社の取締役Gerd Reimer が確認するように決して実験的試みではない:「この技術に対して、特に産業が高度に自動化の進んだわが国の市場には、われわれの推定によればかなりの需要があります。溶接品質向上の他に、われわれのシステムによってロボット溶接施設への投資支出の償却が肯定的影響を受けます」。

(エ)訳文第2ページ第10?27行
「最初のNC制御溶接ガンが生産ラインに乗るのはいつかとの質問に
Didier Lombard はこう答える:「現在の開発段階でわれわれが達成した性能結果はわれわれの当初の予想をはるかに上まわっています。さらにわれわれはコスト・パフォーマンスを手にしました。従って、生産条件下で実験するための合理的期日は1991年末を十分に予定することができ、1992年末には製造工場でNCガンの投入を開始できます」。
数値制御装置を抵抗溶接に適合する場合主要な困難となるのは電動機の重量と寸法である。この問題は小型ブラシレスモータの投入によって解決された。この型式のモータはロータの慣性モーメントが僅かなため短い加速時間を可能とする。それゆえに電極加圧力の構成は空気圧シリンダを使う場合よりも3倍?5倍速く行うことができる。「・・・但し予めプログラミングされた電極加圧を上まわることなくにであり、このことは特に薄板溶接や板が外側にある場合に重要です」、アロウ技術担当重役Jean-Noel Boyer はそう力説する。電極加圧力と電流との比を同期化し、数値制御装置を利用して溶接プロセスの全持続時間にわたって電極加圧力を厳密に制御すると溶接スポットの品質が高まり従って溶接継手の信頼性が高い。ガンアーム調整装置はやはりシステム適合的に設計されなければならなかった。この機能を機械的構成要素(シリンダ、ばね力)によってではなく数値制御することは、アロウにとって何ら問題ではなかった。解決は新規なカップリングにあったのであり、これがモータ駆動を2つの異なる運動(調整行程と電極行程)に分割し、これらの運動は個々にまたは同時に行うことができ、こうして開放時のガンアーム運動と閉鎖時の心出しとを可能とする。」

(オ)訳文第2ページ第28行?第3ページ第2行
「産業用ロボットに数値制御される溶接ガンを備える構成が使用されており、制御の質によって成否が決まる。これには、まずなによりも溶接経過を支配して確保しなければならず、但しロボットの性能を制限してはならない。解決は拡張された溶接制御装置へモータ制御装置を移すことにある。運動経過および電極加圧力構成のための時間短縮のゆえに、空気圧操作式ガンに比べて高い生産性ファクターを達成できた。」

(カ)訳文第3ページ第3?10行
「あらゆる機能がNC制御される
空気圧ガンではロボットは、知られているように、2つの溶接スポット間の万一の障害物を衝突することなく迂回できるようにガンアームが開くまで移動するのを待たねばならない。他の可能性はガン制御装置をロボット制御装置に一体化することであり、そこではガンが補助軸として制御される。そのことから運転開始時のプログラミングが容易となり、生産性ファクターが向上する利点が得られる。というのもガンの開閉は一部では2つの溶接スポット間の移動と同時に行われるからである。ロボット制御装置は、依然として独自の制御装置を介して行われる溶接電流の制御を除き、すべての操作を引き受ける。」

(キ)訳文第3ページ第11?14行
「溶接プロセス中に溶接ガンのハンドリングをむしろ個別に実現したいと希望するユーザーに対して、アロウは応用に合せて制御機能の分割を可能とする解決を提供する。例えばロボット制御装置がガンの開閉を引き受ける一方、保持時間、電極加圧力および溶接電流の制御は溶接電流制御装置の役目である。」

これらによれば、甲第3号証には、NC制御されるロボット溶接ガンについて、以下の事項が記載されているものと認める。

上記(ア)には、「空気圧ガンでは障害物を衝突することなく迂回するためにガンアームを最大に開くまでロボットは待たねばならないのに対して、NCガンはロボット制御装置から運動情報を受け取り、ガンを最適に適合すると次の溶接スポットに最短時間で接近できる」ものであること、NCガンは、「通常の溶接シリンダの代りに電動機を備えたロボット溶接ガン」であり、「ロボットに取り付けられ、その制御装置によって直接に制御される」ことが記載されている。
上記(エ)には、「数値制御装置を抵抗溶接に適合する」に当たって困難となる点が「電動機の重量と寸法」であったが、それが「小形ブラシレスモータの投入によって解決された」こと、「この型式のモータは・・・短い加速時間を可能とする」ことから「電極加圧力の構成は空気圧シリンダを使う場合よりも3倍?5倍速く行うことができる」こと、「電極加圧力と電流との比を同期化し、数値制御装置を利用して溶接プロセスの全持続時間にわたって電極加圧力を厳密に制御すると溶接スポットの品質が高ま」ること、「ガンアーム調整装置」の機能を「機械的構成要素シリンダばね力によってではなく数値制御すること、その解決は「新規なカップリング」によるものであり、これがモータ駆動を2つの異なる運動調整行程と電極行程)に分割し、これらの運動は個々または同時に行う」ことが可能であることから、「開放時のガンアーム運動と閉鎖時の心出しを可能とする」ことが記載されている。
上記(カ)には、「ガン制御装置をロボット制御装置に一体化する」こと、及び「ガンが補助軸として制御される」こと、それらによって、「ガンの開閉は一部では2つの溶接スポット間の移動と同時に行われる」ことから生産性ファクターが向上すること、ロボット制御装置が「溶接電流の制御を除いてすべての操作を引き受ける」ことが記載されており、そのようにすることで、2つの溶接スポット間の万一の障害物を衝突することなく迂回できるようにガンアームが開くまで移動するのを待たなければならないという空気圧ガンにおける問題点が解決できることが記載されている。

よって、甲第3号証には、以下の考案(以下「甲3考案」という。)が記載されているものと認める。
「スポット溶接ガンと、
該スポット溶接ガンのチップを駆動する電動機と、
該電動機を制御するガン制御装置を有するロボット制御装置とからなり、
該ロボット制御装置により、
溶接電流の制御を除くすべての操作が制御され、
かつ前記電動機が前記ガン制御装置を介してロボットの補助軸として制御されることにより、
スポット溶接ガンのチップを駆動する電動機が、
一部では2つの溶接スポット間の移動と同時に制御可能とされるとともに、ロボットの他の軸の動作中においても開度が制御されること、
および押圧動作するよう制御されるスポット溶接ロボット用制御装置」。

イ-2.甲第7号証
甲第7号証には以下の記載がある。

(ア)特許請求の範囲
「駆動源によりアームを設定位置に移動してプログラムに応じた作業を行なう工業用ロボットにおいて、アームの位置を電気信号で検出する検出手段と、設定位置より手前の所定位置に対応した位置信号を記憶する記憶手段と、上記検出手段および記憶手段からの信号を比較しアームが所定位置に達したときアーム動作と関係なしに位置決め完了信号を出す比較手段とをアーム駆動部に並列的に付加し、アーム動作の途中でプログラムを進行させるようにしたことを特徴とする工業用ロボットの動作制御装置。」

(イ)第1ページ左下欄第16行?第2ページ左上欄第2行
「本発明は、工業用ロボットを動作させるための制御装置に関する。
例えばPTP(ポイントツウポイント)方式の関節型工業用ロボットは、アームを旋回させ、その先端のチャックなどを上下動させることにより、所望の物体を把持して移動させる。この場合の通常の制御方法は、アームを設定の位置まで水平面上で移動させ、完全に停止した後に、アクチュエータ例えば上下動駆動用のエアシリンダを動作させてチャックおよび物体を上下方向に移動させるようにしている。
ところがアームが設定位置に達する直前では、衝撃の防止および位置決め精度の確保のために、アーム駆動用のサーボ系の駆動電圧が低下するので、アームの移動速度が遅くなる。このためアームが設定位置に到達したことを確認してからでは、アクチュエータの起動が遅くなり、工業用ロボットのマシンサイクルの時間が長くなる。
また、アクチュエータの実際の仕事は、起動信号が入力されてから、一般に多少の時間遅れの後に有効となる。しかも実用型の工業用ロボットでは、アクチュエータの動作が他の動作と並行して進行しても、まったく問題のない順序プログラムが多く存在する。
ここに本発明の目的は、この種の工業用ロボツトにおいて、その1サイクル時間を短縮する点にある。」

(ウ)第2ページ右下欄第2?20行
「上記制御回路21は、動作用のプログラムにもとづいてアーム駆動部22に対してデジタル量の指令パルス信号S_(1)を送り込むほか、一連の動作に必要な制御を行なう。またアーム駆動部22は、制御回路21からの指令パルス信号S_(1)を加算入力端に入力し、かつパルス発生器23からの電気信号としての検出パルス信号S_(2)を減算入力端に入力し、それらの偏差を算出する偏差カウンタ26、この偏差カウンタ26のデジタル量の出力つまり偏差信号S_(3)を入力としてアナログ量に変換するD‐A変換器27、およびこのD‐A変換器27の出力信号S_(4)を入力とし、駆動信号S_(6)を発生して例えば第2のアーム8のDCサーボモータ10を駆動するサーボドライブ装置28により構成されている。パルス発生器23は、例えばインクリメンタル型のエンコーダで、DCサーボモータ10と機械的に結合しており、その回転量をパルス列に変換し、それを検出パルス信号S_(2)として偏差カウンタ26の減算入力端に出力している。」

(エ)第3ページ右上欄第16行?右下欄第6行
「設定位置P_(1)から設定位置P_(2)までの移動に必要な全パルス列すなわち”500”のパルス数が出力された時点で、制御回路21は、比較指令信号S_(8)を出力して比較器25を動作させる。そこで比較器25は位置信号S_(7)と偏差信号S_(3)とのパルス数を比較し、位置信号S_(7)≧偏差信号S_(3)の状態となったとき、位置決め完了信号S_(9)を発生し、これを制御回路21に送り込む。ここで位置信号S_(7)が例えばパルス数“10”に対応していると仮定すれば、位置決め完了信号S_(9)の発生時点は、DCサーボモータ10がパルス数“10”に対応する回転を終える前、つまり第2のアーム8が設定位置P_(2)より距離D’だけ手前の所定位置P_(2)’に到達したときである。同時にこの所定位置P_(2)’の到達時点は、エアシリンダ13の起動時点と対応している。この時点でエアシリンダ13は、制御回路21の下で第2のアーム8の移動途中にかかわらず起動し、上下動軸11を垂直方向Vの下向きに移動させ、動作プログラムを進める。この結果、チャック12の移動軌跡は、滑らかな円弧を描いて、設定位置P_(2)に近づく。その後に偏差カウンタ25の偏差信号S_(3)の内容が“0”になると、DCサーボモータ10が停止するため、第2のアーム8の旋回運動はその時点で停止する。もちろんこの時、エアシリンダ13がまだ下降動作の途中にあれば、エアシリンダ13は引き続き下降動作を進めることになる。このようにしてエアシリンダ13は、第2のアーム8が目標の設定位置P_(2)に到達する以前から起動し始めるため、エアシリンダ13の順次プログラム上での実質的な作動時間は、第2のアーム8の移動完了後に起動する場合と比較して短縮している。」

(オ)第4ページ左下欄第4?8行
「また上記実施例は、いずれも制御対象を上下駆動用のエアシリンダ13として説明してあるが、この制御対象はそれに限らず、例えばチャック12の駆動源の制御その他必要な関連動作の機器にももちろん適用できる。」

以上の記載によれば、甲第7号証には、以下の事項が記載されているものと認める。
「駆動源によりアームを設定位置に移動して、上下駆動用のエアシリンダ、又は、チャックの駆動等の、プログラムに応じた作業を行なう工業用ロボットにおいて、
アームの位置を電気信号で検出する検出手段と、設定位置より手前の所定位置に対応した位置信号を記憶する記憶手段と、上記検出手段および記憶手段からの信号を比較しアームが所定位置に達したときアーム動作と関係なしに位置決め完了信号を出す比較手段とをアーム駆動部に並列的に付加し、アーム動作の途中でエアシリンダの起動、又はチャックの駆動開始をするようにした工業用ロボットの動作制御装置。」

イ-3.甲第9号証及び甲第10号証について
甲第9号証には以下の記載がある。

(ア)特許請求の範囲
「(1)複数軸を有すロボツトの各軸の制御指令を出力する中央処理装置、この中央処理装置の制御指令に応じ、上記各軸に対応してパルス信号を出力するパルス発生部、このパルス発生部からのパルス信号を入力して上記各軸の駆動モータの駆動電流を出力するサーボ制御部を備えたロボツトの制御装置において、上記ロボツトの付加軸に対応するサーボ制御部を上記制御装置から独立して設け、この付加軸対応のサーボ制御部へ上記中央処理装置の制御指令に応じたパルス信号を出力するパルス発生部と、上記付加軸対応のサーボ制御部の制御情報を受信して上記中央処理装置へ出力する制御情報受信部を上記制御装置と一体に設けたことを特徴とするロボツトの制御装置。」

(イ)第2ページ右上欄第1?13行
「第3図は第2図に示す従来の装置に追加の付加軸を設けた場合のロボツトの制御装置を示し、(10)は付加軸、(11)はこの付加軸(10)の駆動モータ(サーボモータ)、(12)は位置検出器(エンコーダ)で、(10)(11)(12)により付加軸の機構部を構成するものである。制御装置(2a)には第2図に示した制御装置(2)に上記付加軸(10)に対応したパルス発生部(4a)、サーボ制御部(5a)が追加されている。この例では、中央処理装置(3)が上記付加軸(10)対応のパルス発生部(4a)に対しても移動指令を与え、サーボ制御部(5a)から上記付加軸(10)の駆動モータ(11)へ駆動電流を出力することにより、上記付加軸(10)はロボツトの標準構成の各軸と同期して駆動制御される。」

以上の記載によれば、甲第9号証には、以下の事項が記載されているものと認める。
「腕関節等を駆動する標準構成の複数軸を有するロボツトの各軸の制御指令を出力する中央処理装置、この中央処理装置の制御指令に応じ、上記各軸に対応してパルス信号を出力するパルス発生部、このパルス発生部からのパルス信号を入力して上記各軸の駆動モータの駆動電流を出力するサーボ制御部を備えたロボツトの制御装置において、上記ロボツトに付加軸を追加すること、その付加軸に対応するサーボ制御部を上記制御装置から独立して設け、この付加軸対応のサーボ制御部へ上記中央処理装置の制御指令に応じたパルス信号を出力するパルス発生部と、上記付加軸対応のサーボ制御部の制御情報を受信して上記中央処理装置へ出力する制御情報受信部を上記制御装置と一体に設け、追加した付加軸はロボットの標準構成の各軸と同期して駆動制御されるロボツトの制御装置。」

甲第10号証には以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
「(1)ハンドまたはアームを垂直方向に上下させうる専用の駆動軸と、水平方向に移動させうる専用の単数もしくは複数の駆動軸を有するロボツトの制御装置において、互いに独立した垂直移動制御回路と水平移動制御回路を持ち、該水平移動制御回路は前記垂直移動制御回路からのタイミング信号を受けて水平移動を開始し、前記垂直移動制御回路は前記水平移動制御回路からのタイミング信号を受けて下降移動を開始することを特徴とするロボツト制御装置。
(2)ハンドまたはアームの下降移動の所要時間を予測する手段と、水平移動を完了するまでの残り時間が前記予測時間より短くなる水平移動速度を計算する手段と、該計算された速度にまで水平移動が減速したことを検出する手段とを持ち、該検出結果を前記水平移動制御回路からのタイミング信号として出力することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のロボツト制御装置。
(3)垂直方向と水平方向とを同時に補間制御する場合は、前記垂直移動制御回路か前記水平移動制御回路のどちらかのみで全軸の移動制御を行うことを特徴とする特許請求の範囲第2項記載のロボツト制御装置。」

(イ)第1ページ右下欄第12?16行
「本発明はハンドまたはアームを垂直方向に上下させうる専用の駆動軸(以下Z軸と呼ぶ)と、水平方向に移動させうる専用の単数もしくは複数の駆動軸(以下XY軸と呼ぶ)を持つロボツトの制御装置に関する。」

(ウ)第1ページ右下欄第18行?第2ページ左上欄第9行
「通常、ロボツトに仕事をさせるためには第1図(イ)に示すごとく、Z軸が上昇し次にXY軸が水平移動を行い、最後にZ軸が下降するといういわゆるピック・アンド・プレイスの動作が必要になる。従来の制御装置では演算機能を内蔵した移動制御回路が単数であったため、前記ピック・アンド・プレイス動作を三動作に分割し、おのおのの動作が完了した後、次の動作に移っていた。すなわちZ軸の上昇が加速・減速・停止した後、XY軸が加速を開始し、これが減速・停止した後、Z軸の下降が始まるという制御を行っていた。」

(エ)第2ページ右上欄第8?16行
「本発明は複数の移動制御を並列して実行することによりロボツトの高速化を実現したものであり、第l図(ロ)に示すごとく、Z軸の上昇が終了しないうちにXY軸の移動を開始し、それが終了しないうちにZ軸の下降が始まるといった動作を行う。従って第2図(ロ)に示すごとくロボツトのアームは途中で停止することなくピック・アンド・プレイス動作を行い、作業時間の大幅な短縮化が可能である。」

(オ)第2ページ右上欄第18行左下欄第20行
「第3図は本発明による制御装置内における駆動制御部全体の構成例を示したものである。
同図において、1の移動指令を受けて3の垂直移動制御回路はZ軸の上昇パルス6を出力し、8のパルス選択回路を経てZ軸駆動パルス9として12のサーボ駆動回路に入る。一方2の水平移動制御回路は1の移動指令を受けても水平移動パルスを出力せず、3の垂直移動制御回路から出力される水平移動開始タイミング信号4を受けてX軸駆動パルス10とY軸駆動パルス11の出力を開始する。パルス10、11はともに12のサーボ駆動回路に入力され、12は13のX軸モータ、14のY軸モータ、15のZ軸モータを駆動する。3の垂直移動制御回路はZ軸上昇パルスの出力終了後、2の水平移動制御回路からの下降移動開始タイミング信号5を受けてZ軸下降パルスを6に出力する。下降パルスは上昇パルスと同様に8のパルス選択回路を経てZ軸駆動パルス9に出力され、12のサーボ駆動回路に入力される。8はXYZ同時補間制御の場合、Z軸駆動パルスが2の水平移動制御回路からZ軸駆動パルス7に出力されるので、12のサーボ駆動回路へ入力される信号を6か7かに選択するためのものである。」

以上の記載によれば、甲第10号証には、以下の事項が記載されているものと認める。
「ハンドまたはアームを垂直方向に上下させうる専用の駆動軸と、水平方向に移動させうる専用の単数もしくは複数の駆動軸を有するロボツトの制御装置において、互いに独立した垂直移動制御回路と水平移動制御回路を持ち、該水平移動制御回路は前記垂直移動制御回路からのタイミング信号を受けて水平移動を開始し、前記垂直移動制御回路は前記水平移動制御回路からのタイミング信号を受けて下降移動を開始するロボツト制御装置であって、サーボ駆動回路によって制御される垂直方向駆動軸と水平方向駆動軸とが同時並列的に駆動されること。」

イ-4.甲第8号証または甲第11号証について
甲第8号証には、スポット溶接装置において
「固定電極及び該固定電極に対して移動可能な可動電極を有する溶接ガンと、該溶接ガンを移動させる移動手段と、及び、前記溶接ガン及び移動手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段からの制御信号に基づき、移動手段は、溶接ガンを移動させ、該溶接ガンが所定の打点位置にあるときに、前記溶接ガンの固定電極及び可動電極は、両側からワークを挟んで該ワークに加圧接触し、ワークのスポット溶接を行うスポット溶接装置において、
前記固定電極及びワークに接続されており、固定電極とワークとの当接を検出する当接検出手段が設けられており、
前記移動手段による溶接ガンの移動中に、溶接ガンの固定電極とワークとの当接が当接検出手段により検出されると、前記制御手段は、移動手段による溶接ガンの移動を停止させ、その後、固定電極に対して可動電極を移動させるように構成されているスポット溶接装置。」
が記載されているものと認める。

甲第11号証には、「多関節形ロボットの制御方法」において、
「6軸を超え12軸以下の多関節形ロボットの制御方法において、
前記軸を6軸以下の2区分とし、区分点に対し基準点側を冗長軸、手先側を基本軸とする第1のステップと、区分点を第1の制御点、手先を第2の制御点として、第1の制御点を補間制御し、補間制御された第1の制御点を新たな基準点とみなして第2の制御点をさらに補間制御する第2のステップとを有する多関節形ロボットの制御方法。」
が記載されているものと認める。

ウ.対比
本件考案と甲3考案を対比すると、その技術的意義からみて、甲3考案の「ロボット制御装置」は、本件考案の「ロボットコントローラ」に相当し、甲3考案の「ガン制御装置」は、溶接ガンのチップを駆動する電動式機構を制御するものであることからみて、本件考案の「電動式サーボ機構制御部」と「電動式機構制御部」である限りで一致する。
また、甲3考案の「電動機」は、本件考案の「電動式サーボ機構」と、スポット溶接ガンのチップを駆動する「電動式機構」である限りにおいて一致し、更に、溶接スポット間の移動はロボットの軸によって行われることは明らかであるから、甲3考案の「一部では2つの溶接スポット間の移動と同時に制御可能」は、本件考案の「ロボットの他の軸と同期制御可能」と、チップを駆動する電動機構が「ロボットの他の軸の動作に応じて制御可能」である限りにおいて一致する。
してみれば、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「スポット溶接ガンと、
該スポット溶接ガンのチップを駆動する電動式機構と、
該電動式機構制御部を有するロボットコントローラとからなり、
該ロボットコントローラにより、
前記電動式機構が前記電動式機構制御部を介して制御されることにより、
スポット溶接ガンのチップを駆動する電動式機構が、
ロボットの他の軸の動作に応じて制御可能とされるとともに、
ロボットの他の軸の動作中においても開度が制御されること、
および押圧動作するよう制御される
スポット溶接ロボット用制御装置。」

<相違点1>
本件考案は、電動式機構がスポット溶接ガンの、「2つのチップの一方のみを駆動する」のに対し、甲3考案は、スポット溶接ガンがそのようなものであるのか不明である点。
<相違点2>
本件考案は、溶接ガンのチップを駆動する電動式機構が「電動式サーボ機構」であるのに対し、甲3考案の電動式機構が、「電動式サーボ機構」であるか不明である点。
<相違点3>
本件考案は、スポット溶接ガンにおいて「電動式サーボ機構により駆動される一方のチップの位置を検出するチップ位置検出器」を備えるのに対して、後者は、そのようなチップ位置検出器を備えるのか不明である点。
<相違点4>
本件考案は、「ロボット位置を検出するロボット位置検出器」を備えるのに対して、甲3考案は、そのようなロボット位置検出器を備えるのか不明である点。
<相違点5>
本件考案は、ロボットコントローラにより、「スポット溶接ガンによるスポット溶接が制御」されるのに対し、甲3考案は、「溶接電流の制御を除くすべての操作が制御され」る点。
<相違点6>
本件考案は、「電動式サーボ機構」が制御部を介して「ロボットの1軸として制御される」のに対して、甲3考案は、「ロボットの補助軸として制御される」点。
<相違点7>
本件考案は、チップを駆動する電動式サーボ機構がロボットの他の軸の動作に応じて制御される際に、「ロボットの他の軸と同期制御可能」であるのに対し、甲3考案は、「一部では同時に制御可能」であるものの、ロボットの他の軸と同期制御可能であるかは不明である点。
<相違点8>
本件考案は、チップを駆動する電動式サーボ機構が、「無段階的に所望開度に制御される」のに対し、甲3考案は、チップ開度の制御について不明である点。
<相違点9>
本件考案は、「溶接点到達後、ロボットコントローラからスポット溶接ガンへ溶接開始の指示がなされる」のに対し、甲3考案は、溶接開始の指示について不明である点。
<相違点10>
本件考案は、「ロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点で2つのチップがワークを挟み込むとともに、所定の押圧力で押圧動作するよう制御され」るのに対し、甲3考案は、チップがそのように制御されるのか不明である点。
なお、この相違点10は、請求人が主張する進歩性要件違反の理由(上記第3の2、3参照)の「訂正事項(5)」に相当する。

エ.判断
以下、相違点について検討する。

<相違点1について>
溶接ガンにおいて、対抗配置された2つのチップの一方のみを駆動するガンは、本件出願前周知(例えば、「数値制御による抵抗溶接機およびこの抵抗溶接機の運転方法」に係る特開昭63-199086号公報を参照)であり、甲3考案において、溶接ガンとして、周知の対抗配置された2つのチップの一方のみを駆動するガンを用いることは、当業者がきわめて容易に想到し得たものである。

<相違点2について>
電動式機構として、電動式サーボモータを用いることは、例をあげるまでもなく本件出願前周知であり、甲3考案において、チップを駆動する電動式機構として、周知の電動式サーボ機構を用いることは、当業者がきわめて容易に想到し得たものである。

<相違点3について>
「機械工学便覧」と題する書籍(1987(昭和62)年新版発行)のB2-176には「9.6.1 数値制御工作機械一般」との見出しの下に、「回転検出器を用いてサーボモータあるいは送りねじの回転角を検出し、この信号をフィードバックして指令値との誤差を補正する方式は、セミクローズドループ・・・制御と呼ばれる。これは機構的にもそれほど複雑ではなく、また制御精度もよいので、今日の数値制御工作機械に多く用いられている」との記載があり、「回転角検出器を用いてサーボモータあるいは送りねじの回転角を検出することが開示されている。

上記特開昭63-199086号公報には、以下の記載がある。
「第1図において、数値制御頭部1を備えた抵抗溶接の定置機械を示す。この場合において、機械は点溶接機械であり、さらに2枚の溶接板2を示し、これは可動電極3および定置電極4の間で押圧される。数値制御頭部1は構造板のモータ5を備えるが、同様の性能を示す全く別のタイプのモータであってもよい。モータ5は溶接頭部の制御ボックス6によって制御される。」(第6ページ左上欄第5?12行)
「第2図では、数値制御頭部1の実施例の詳細を示す。可動電極3は滑動部18に設けられた電極ポート17に固定され、柔軟な電気接続部19によって溶接トランスの附属品に接続されている。この滑動部18は、案内鍔21によって、滑動部20の支持で軸方向に動き、雄ねじ23に掛合された雌ねじ22を連動させる。この雄ねじは継手36によって、数値制御モータ5の出口軸24に連結されている。また、軸24および雄ねじ23の回転は雌ねじ22および滑動部18および電極3を軸方向に動かすことが明らかである。」(第7ページ左上欄第14行?右上欄第4行)
上記のとおり、上記公開特許公報には、「抵抗溶接機の対向配置された2つの電極のうちの一方のみをモータにより駆動するものであって、送りねじにより可動電極3を軸方向に動かす構成」が記載されている。

これら2つの刊行物によれば、本件出願時において、抵抗溶接機の対向配置された2つの電極の一方を駆動するに当たり、送りねじ機構を用いること及び送りねじ機構において回転角検出器を用いてサーボモータあるいは送りねじの回転角を検出することは、いずれも周知の技術であったものと認められる。

そうすると、甲3考案において、スポット溶接ガンのチップを駆動する機構として、周知の送りねじ機構を用いることは当業者が適宜なし得た程度のことであり、その際にチップの位置を検出するため、周知の技術であるモータ又は送りねじの回転角を検出する回転角検出器を備えるようにすることも、当業者が適宜なし得た程度のことにすぎない。
したがって、相違点3に係る本件考案の構成は、甲3考案に周知技術を適用することにより、きわめて容易に想到し得たものである。

<相違点4について>
甲第7号証記載事項(上記イ-2.参照)の「アームの位置を電気信号で検出する検出手段」は、「ロボット位置を検出するロボット位置検出器」に相当する。してみれば、上記相違点4は、甲第7号証に記載の事項である。
適切な制御のためには、位置の検出が望ましいことは当然である。
したがって、相違点4に係る本件考案の構成は、甲3考案に甲第7号証記載の事項を適用することにより、きわめて容易に想到し得たものである。

<相違点5について>
スポット溶接における、溶接条件が、溶接電流、通電時間、加圧力の3者を指すことは技術常識であり(例えば、手塚敬三 他 著「溶接講座 溶接の現場技術」東京電機大学出版局発行 昭和42年8月30日第1版発行 p.172-173を参照)、また、甲第3号証の「溶接プロセス中に溶接ガンのハンドリングをむしろ個別に実現したいと希望するユーザーに対して、アロウは応用に合せて制御機能の分割を可能とする解決を提供する。例えばロボット制御装置がガンの開閉を引き受ける一方、保持時間、電極加圧力および溶接電流の制御は溶接電流制御装置の役目である。」(上記イ-1.(キ)参照)との記載からすれば、甲3考案における「ロボット制御装置により、スポット溶接ガンによる溶接電流の制御を除くすべての操作が制御され」は、その制御に、保持時間、電極加圧力という溶接条件に関する制御が含まれるものと解するのが相当である。
一方、本件考案は、ロボットコントローラにより、「スポット溶接ガンによるスポット溶接が制御され」るものであるが、本件登録明細書等の記載をみても、ロボットコントローラにより制御される「スポット溶接ガンによるスポット溶接」の制御される範囲について、特段の限定はなされていない。
してみると、甲3考案における「ロボット制御装置により、スポット溶接ガンによる溶接電流の制御を除くすべての操作が制御され」ることと、本件考案における「ロボットコントローラにより、スポット溶接ガンによるスポット溶接が制御され」ることとの間には、実質上の相違があるとすることができない。

<相違点6、7について>
まず、相違点6について検討する。
甲第3号証の「そこではガンが補助軸として制御される。そのことから運転開始時のプログラミングが容易となり、生産性ファクターが向上する利点が得られる。というのもガンの開閉は一部では2つの溶接スポット間の移動と同時に行われるからである。ロボット制御装置は、依然として独自の制御装置を介して行われる溶接電流の制御を除き、すべての操作を引き受ける。」(上記イ-1.(カ)参照)との記載からすれば、甲3考案における「補助軸として制御される」は、ロボット制御装置によりガンの開閉を2つの溶接スポット間の移動と同時に行う制御と解するのが相当である。
一方、本件登録明細書等の「ロボットの1軸としてスポット溶接ガンをロボットと同期制御できること」(段落【0007】)との記載からすれば、本件考案の「1軸として制御される」は、ロボットと同期制御することと解するのが相当である。
したがって、相違点6は、相違点7と実質上同じ相違点である。
そうすると、甲第3号証の「ガン内のインテリジェント-数値制御溶接ガンがサイクル時間を改善する
空気圧ガンでは、障害物を衝突することなく迂回するために溶接ガンのガンアームが最大に開くまでロボットは待たねばならない。NCガンではそうでない。これはロボット制御装置から運動情報を受け取り、ガンを最適に適合すると次の溶接スポットに最短時間で接近できる。」(上記イ-1.(ア)参照)との記載、及び、NC機能を備えたロボットにおいて、そのすべての軸を同期制御させることは、例をあげるまでもなく周知技術であることからすれば、甲3考案における「ロボットの補助軸として制御される」及び「一部では2つの溶接スポット間の移動と同時に制御可能」とされる構成を、必要に応じて、ロボットの補助軸を1軸として制御することにより、溶接スポット間の移動の間において、補助軸を他の軸と同期制御させ、相違点6、7に係る構成とすることは、当業者がきわめて容易に想到し得たものである。

<相違点8について>
甲第3号証の「ガン内のインテリジェント-数値制御溶接ガンがサイクル時間を改善する
空気圧ガンでは、障害物を衝突することなく迂回するために溶接ガンのガンアームが最大に開くまでロボットは待たねばならない。NCガンではそうでない。これはロボット制御装置から運動情報を受け取り、ガンを最適に適合すると次の溶接スポットに最短時間で接近できる。」(上記イ-1.(ア)参照)の記載からすれば、次の溶接スポットに最短時間で接近するために、チップの開度は、障害物の高さに応じ、その障害物を避けるに十分なだけの開度とすれば良いことは、当業者であればきわめて容易に想到することのできるものといえる。そして、上記イ-1.(カ)における、補助軸をNC制御するという観点に立てば、チップの開度を任意に無段階的に所望開度に制御することは可能なのであるから、これら甲第3号証の記載事項を勘案して、甲3考案におけるチップを駆動する電動機の制御を、相違点8に係る構成とすることは、当業者がきわめて容易に想到し得たものである。

<相違点9について>
上記<相違点5について>で述べたとおり、甲3考案においては、「ロボット制御装置により、スポット溶接ガンによる溶接電流の制御を除くすべての操作が制御され」るものである。してみれば、相違点9に係る構成は、甲3考案においても備えている構成であり、同相違点9は実質上の差異ではないことは、上記<相違点5について>と同様である。

<相違点10について>
甲第3号証は、上記イ-1.(ア)及び(カ)によれば「空気圧ガンではロボットは・・・2つの溶接スポット間の万一の障害物を衝突することなく迂回できるようにガンアームが開くまで移動するのを待たねばならない」のに対して、NCガンでは「ガン制御装置をロボット制御装置に一体化することにより「ガン」を「補助軸として制御」し、それによって「ガンの開閉は一部では2つの溶接スポット間の移動と同時に行われる」結果、「生産性ファクターが向上すること、すなわち、NCガンは空気圧ガンと比較して短時間で次のスポット溶接を可能とすることが記載されているから、甲第3号証には、ガンの開閉をロボット制御装置に一体化して数値制御可能とすることにより、次の溶接スポットの溶接を短時間で行い得ることが示唆されているといえる。
そして、甲第8号証に従来技術として、「スポット溶接装置は、溶接ガンが所定の打点位置にあるときに、溶接ガンの一対の電極が両側からワークを挟んで該ワークに加圧接触し、ワークのスポット溶接を行うもの」(第2ページ左上欄第6?9行)と記載されているように、「スポット溶接装置」が、溶接ガンの一対の電極が両側からワークを挟んで加圧接触して溶接を行う手順を有するものであることは、本件出願時の当業者にとって技術常識であったものと認められるから、当業者であれば、甲3考案のようなスポット溶接装置が、所定のスポット位置にスポット溶接ガンを位置づけるとともに、スポット溶接ガンの2つの電極(チップ)をワークに当接、加圧させた後に通電して溶接する手順を有することは当然認識していたことである。
そうすると、スポット溶接装置において所定の溶接スポットを溶接するには、ガンを所定のスポット位置に位置づけるとともに、対向する電極によりワークを挟み、押圧することが必要であるから、ガンのスポット位置への移動と対向する電極の挟み込み・押圧の動作とを同時に行うように制御する場合において、対向する電極がワークを挟む時点とガンが所定のスポット位置に到達する時点とが同時になるように制御すれば、ガンが所定のスポット位置に到達した時点以降に電極がワークを挟むように制御するよりも、次のスポット位置での溶接を早く開始することができることは、当業者が何らの困難なく認識し得たことといえる。
以上に説示したところを総合すると、当業者であれば、甲第3号証の記載事項並びに技術常識及びそれに基づいて認識し得た事項に基づいて、相違点10に係る本件考案の構成をきわめて容易に想到し得たものである。

相違点10に係る本件考案の構成は、さらに、甲第3号証及び甲第7号証によっても、きわめて容易に想到し得たものである。
理由は、以下のとおりである。

甲第7号証には、上記イ-2.のとおりの「工業用ロボツトの動作制御装置」が記載されている。
そして、上記イ-2.(エ)の「チャック12の移動軌跡は、滑らかな円弧を描いて、設定位置P_(2)に近づく。その後に偏差カウンタ25の偏差信号S_(3)の内容が“0”になると、DCサーボモータ10が停止するため、第2のアーム8の旋回運動はその時点で停止する。もちろんこの時、エアシリンダ13がまだ下降動作の途中にあれば、エアシリンダ13は引き続き下降動作を進めることになる。このようにしてエアシリンダ13は、第2のアーム8が目標の設定位置P_(2)に到達する以前から起動し始めるため、エアシリンダ13の順次プログラム上での実質的な作動時間は、第2のアーム8の移動完了後に起動する場合と比較して短縮している」との記載に照らしてみれば、甲第7号証記載の動作制御装置は、第2のアームが移動中にエアシリンダの移動を開始することで作動時間を短縮するものであるが、最も作動時間が短縮されるのは第3図に記載の円弧に沿って動作が完了する場合すなわち第2のアームの旋回運動が停止した時点でエアシリンダの下降動作が完了する場合であることはきわめて容易に理解し得るところである。
そうすると、甲第7号証に接した当業者であれば、ロボットにおいて同時に複数の動作を行うように動作制御する場合に、一方の動作の終了時点と他方の動作の終了時点が一致するように制御すれば、最も動作時間を短縮できることを容易に理解し得るものと認められるから、甲第7号証には「ロボットにおいて同時に、複数の動作を同時に行うように動作制御する場合に、一方の動作の終了時点において他方の動作を終了するように重ねて制御すれば、最も動作時間を短縮することができる」との技術事項が開示されているといえる。
そして、上記イ-1.(ア)、(イ)の甲第3号証の記載事項及び当業者が技術常識から当然に認識し得た事項を考慮すれば、甲3考案に甲第7号証記載の動作時間短縮についての技術事項を適用して相違点10に係る本件考案の構成とすることは、当業者がきわめて容易に想到し得たものである。

オ.まとめ
また、これら各相違点を総合勘案しても、格別な技術的意義が生じるとは認められない。
したがって、本件考案は、甲3考案、甲第7号証記載事項、及び周知技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

第6.むすび
以上のとおり、本件考案は、旧実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件考案についての実用新案登録は、旧実用新案法第37条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、旧実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2005-03-31 
結審通知日 2005-04-04 
審決日 2006-01-24 
出願番号 実願平3-91512 
審決分類 U 1 113・ 121- Z (B23K)
最終処分 成立    
前審関与審査官 川端 修  
特許庁審判長 小椋 正幸
特許庁審判官 千葉 成就
佐々木 一浩
登録日 1996-05-16 
登録番号 実用新案登録第2506402号(U2506402) 
考案の名称 スポット溶接ロボット用制御装置  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 松尾 和子  
代理人 曽々木 太郎  
代理人 竹内 英人  
代理人 大塚 文昭  
代理人 曽々木 太郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ