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審決分類 審判    E05B
審判    E05B
管理番号 1306401
審判番号 無効2014-400007  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-06-19 
確定日 2015-09-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第3183509号実用新案「トラベルケースの錠前装置」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
平成25年 3月 4日:出願(実願2013-1139号)
平成25年 4月24日:設定登録(実用新案登録第3183509号)
平成26年 6月19日:本件審判請求
平成26年 8月11日:被請求人より審判事件答弁書提出
平成26年10月27日:請求人より審判事件弁駁書提出
平成27年 1月28日:審理事項通知書(起案日)
平成27年 3月 4日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成27年 3月 4日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成27年 3月18日:口頭審理
審理終結(第1回口頭審理調書)
なお、平成26年8月11日付けで、被請求人より実用新案法第14条の2第1項の訂正に係る訂正書が提出されている。


第2 本件登録実用新案について
本件実用新案登録の請求項1ないし4に係る考案は、実用新案法第14条の2第1項第2号の規定に基づき平成26年8月11日付けで訂正された実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下、「本件考案1」ないし「本件考案4」という。)

なお、平成26年8月11日付けの訂正は、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とし、また、訂正される請求の範囲の記載と明細書の考案の詳細な説明の記載とを整合させて明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実用新案法第14条の2第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものである。また、当該訂正は、願書に添付した明細書及び実用新案登録請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲においてするものであり、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、同法同条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
そして当該訂正に関し、請求人も争っていない。

「【請求項1】
トラベルケースを開閉するための第1スライドファスナーおよび第2スライドファスナーが並設され、両スライドファスナーは、二つのスライダーを互いに近接させることで当該スライドファスナーが閉鎖され、二つのスライダーを互いに離反させることで当該スライドファスナーが開放されるものとしたトラベルケースの錠前装置であって、第1スライドファスナーの互いに近接させた二つのスライダーの第1引き手それぞれを各挿入する二つの第1挿入部と、第2スライドファスナーの互いに近接させた二つのスライダーの第2引き手それぞれを各挿入する二つの第2挿入部とを一つの箇体に設けて成り、各引き手に開口形成された係止孔に係脱自在となるように各挿入部内側においてスライド可能とし且つ弾性部材によって係止方向に付勢された二つのスライドフックと、弾性部材の付勢力に抗してスライドフックを係止解除方向ヘスライドさせることで係止孔への係止を解除する二つの解除ボタンとを備え、
錠前装置には、一方のスライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するよう一方のキー孔へのキー挿入によって一方の係止片を揺動操作可能とした一方のロック機構と、他方のスライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するよう他方のキー孔へのキー挿入によって他方の係止片を揺動操作可能とした他方のロック機構とを備えて成ることを特徴とするトラベルケースの錠前装置。
【請求項2】
解除ボタンは、錠前装置の側方から操作可能となるよう錠前装置の両端から外方へ向けて突出配置されて成る請求項1記載のトラベルケースの錠前装置。
【請求項3】
複数のダイヤルの回転操作により前記解除ボタンを操作可能または操作不能とするダイヤルロック機構を含み、前記ロック機構は、ダイヤルロック機構のダイヤルの回転操作により解除ボタンが操作可能となった状態で、スライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するよう前記係止片を揺動操作させるものとした請求項1記載のトラベルケースの錠前装置。
【請求項4】
トラベルケースを開閉するための第1スライドファスナーおよび第2スライドファスナ-が並設され、両スライドファスナーは、二つのスライダーを互いに近接させることで当該スライドファスナーが閉鎖され、二つのスライダーを互いに離反させることで当該スライドファスナーが開放されるものとしたトラベルケースの錠前装置であって、第1スライドファスナーの互いに近接させた二つのスライダーの第1引き手それぞれを各挿入する二つの第1挿入部と、第2スライドファスナーの互いに近接させた二つのスライダーの第2引き手それぞれを各挿入する二つの第2挿入部とを一つの箇体に設けて成り、各引き手に開口形成された係止孔に係脱自在となるように各挿入部内側においてスライド可能とし且つ弾性部材によって係止方向に付勢された二つのスライドフックと、弾性部材の付勢力に抗してスライドフックを係止解除方向ヘスライドさせることで係止孔への係止を解除するよう錠前装置の両端から外方へ向けて突出配置されて成る二つの解除ボタンと、一方のスライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するよう一方のキー孔へのキー挿入によって一方の係止片を揺動操作可能とした一方のロック機構と、他方のスライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するよう他方のキー孔へのキー挿入によって他方の係止片を揺動操作可能とした他方のロック機構とを備え、複数のダイヤルの回転操作により前記解除ボタンを操作可能または操作不能とするダイヤルロック機構を含み、前記ロック機構は、ダイヤルロック機構のダイヤルの回転操作により解除ボタンが操作可能となった状態で、スライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するよう前記係止片を揺動操作させるものとしたことを特徴とするトラベルケースの錠前装置。」


第3 当事者の主張
1 請求人の主張及び提出した証拠の概要
請求人は、実用新案登録第3183509号考案の実用新案登録請求の範囲の請求項1?請求項4に係る考案についての実用新案登録を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書、平成26年10月27日付け審判事件弁駁書、平成27年3月4日付け口頭審理陳述要領書、口頭審理において、甲第1ないし4号証を提示し、以下の無効理由を主張した。

[無効理由]
(1)本件訂正考案1及び2は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された考案であるから、実用新案法第3条第1項第3号に該当し、実用新案登録を受けることができないものであるから、本件実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2)本件訂正考案1及び2は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された考案に基づいて、出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるか、又は甲第1号証又は甲第2号証に記載された考案と周知技術とに基づいて、出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、本件実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(3)本件訂正考案3及び4は、甲第1号証に記載された考案と甲第2号証に記載された考案に基づいて、出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により、実用新案登録を受けることができないものであり、本件実用新案登録は、同法第37条1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(4)本件訂正考案3及び4は、甲第2号証に記載された考案と周知技術(甲第3号証及び甲第4号証に裏付けのある周知技術)とに基づいて、出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、本件実用新案登録は、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(具体的理由)
(1)審判請求書22頁26行?23頁14行
つまり甲第1号証には、
A1.スーツケースを開閉するための2つのファスナが上下に設けられ、2つのファスナは、2つのファスナの各々における2つの引き手を互いに近接させることで当該ファスナが閉鎖され、2つの引き手を互いに離反させることで、当該ファスナが開放されるものとしたスーツケースの双方ファスナ錠前であって、
B1.上下における2つのファスナの夫々における互いに近接させた2つの引手の夫々を挿入するキャッチ溝を一つの錠ハウジングに設けて成り、
C1.各引き手孔に係脱自在となるように各キャッチ溝の内側においてスライド可能とし且つ戻しバネによって付勢されたスライドロッドと、
D1.戻しバネの付勢力に抗してスライドロッドが移動するように押されることで、引き手孔に対するロックを解除するボタンと、
を備えて成り、
E1.ボタンは、双方ファスナ錠前の側方から操作可能となるよう双方ファスナ錠前の両端に配置されて成り、
F1.双方ファスナ錠前には、スライドロッドの解除方向への移動を阻止するよう、錠芯への鍵挿入によって押しロッドを揺動操作可能としたロック機構
を備える双方ファスナ錠前が記載されている。

(2)審判請求書26頁13行?28頁4行
甲第2号証の図1?図5には、シリンダ錠であるロック機構が開示されている。すなわち、下記図(甲第2号証の図3及び4)に示すように、当該シリンダ錠には、錠芯の動きを伝える部材(以下、「第2伝動部材」と称する)が連結されており、当該第2伝動部材には、回転分岐部3に設けられたレバー(以下、「第4レバー」と称する)を押圧する押圧部(以下、「第2押圧部」と称する)が設けられている。そして、シリンダ錠の錠芯を回転させると、第2伝動部材がスライドし、第2押圧部が第4レバーを押圧することで、第4レバーが回転分岐部3を動かし、第2レバー5及び第3レバー6がそれに応じて回転し、第1ロック棒16、第2ロック棒17、第3ロック棒23、第4ロック棒24を押圧する位置から離れ、これらのロック棒の移動が可能となる。
このため、甲第2号証には、第1?第4ロック棒の係止解除方向へのスライドを阻止するよう、キー孔へのキー挿入によって、第2伝動部材を揺動操作可能としたロック機構が開示されていると言える。
つまり、甲第2号証には、
A2.スーツケースを開閉するための2つのファスナが設けられ、2つのファスナは、2つのファスナの各々における2つの引き手を互いに近接させることで当該ファスナが閉鎖され、2つの引き手を互いに離反させることで当該ファスナが開放されるものとしたスーツケースの双方ファスナ錠前であって、
B2.一方のファスナの互いに近接させた2つの引き手のそれぞれを各挿入する2つの第1ロック溝と、他方のファスナの互いに近接させた2つの引き手のそれぞれを各挿入する2つの第2ロック溝とを1つのベースに設けて成り、
C2.各引き手に開口形成された孔に係脱自在となるように各ロック溝の内側においてスライド可能とし且つ第1?第4圧縮バネによって係止方向に付勢された第1?第4ロック棒と、
D2.第1?第4圧縮バネの付勢力に抗して第1?第4ロック棒を係止解除方向ヘスライドさせることで第1?第4ロック部を第1?第4ロック溝から離脱させ、孔への係止を解除する第1及び第2ボタンと
を備えて成り、
E2.第1及び第2ボタンは、双方ファスナ錠前の側方から操作可能となるよう双方ファスナ錠前の両端から外方へ向けて配置されて成り、
F2.双方ファスナ錠前には第1?第4ロック棒の係止解除方向へのスライドを阻止するよう、キー孔へのキー挿入によって、第2伝動部材を揺動操作可能としたロック機構
を備えて成り、
G2.複数のダイヤルの回転操作により前記第1及び第2ボタンを操作可能または操作不能とするダイヤル機構
を含む双方ファスナ錠前が記載されている。

(3)審判請求書36頁22?末行
しかし、甲第1号証と同様の双方ファスナ錠前を開示する甲第2号証には、
G2.複数のダイヤルの回転操作により前記第1及び第2ボタン(本件実用新案登録の「解除ボタン」に相当)を操作可能または操作不能とするダイヤル機構(本件実用新案登録の「ダイヤルロック機構」に相当)
について記載されており、甲第1号証に記載された双方ファスナ錠前において、セキュリティ向上のために、甲第2号証に基づき、「ダイヤルロック機構」を付加することは、当業者が通常行う設計変更の範囲内であり、きわめて容易である。

(4)審判請求書37頁26行?38頁6行
しかし、ダイヤルロック機構のダイヤルの回転操作により解除された状態で、ロック機構のキー操作で施錠可能とすることは、例えば、甲第3号証及び甲第4号証に記載されているように一般的な技術である。
このため、錠前装置の技術分野で、セキュリティ向上という極めて一般的な課題を解決するために、甲第2号証においても、ロック機構を、ダイヤルロック機構のダイヤルの回転操作により解除ボタンが操作可能となった状態のときに、スライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するよう前記係止片を揺動操作させるように構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎず、格別な技術的意義はない。

(5)審判事件弁駁書3頁2?23行
本件訂正考案1?4は、次の通りのものである。
[本件訂正考案1]
A.トラベルケースを開閉するための第1スライドファスナーおよび第2スライドファスナーが並設され、両スライドファスナーは、二つのスライダーを互いに近接させることで当該スライドファスナーが閉鎖され、二つのスライダーを互いに離反させることで当該スライドファスナーが開放されるものとしたトラベルケースの錠前装置であって、
B’.第1スライドファスナーの互いに近接させた二つのスライダーの第1引き手それぞれを各挿入する二つの第1挿入部と、第2スライドファスナーの互いに近接させた二つのスライダーの第2引き手それぞれを各挿入する二つの第2挿入部とを一つの筐体に設けて成り、
C’.各引き手に開口形成された係止孔に係脱自在となるように各挿入部内側においてスライド可能とし且つ弾性部材によって係止方向に付勢された二つのスライドフックと、
D’.弾性部材の付勢力に抗してスライドフックを係止解除方向ヘスライドさせることで係止孔への係止を解除する二つの解除ボタンと
を備え、
F’.錠前装置には、一方のスライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するよう一方のキー孔へのキー挿入によって一方の係止片を揺動操作可能とした一方のロック機構と、他方のスライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するよう他方のキー孔へのキー挿入によって他方の係止片を揺動操作可能とした他方のロック機構と
を備えて成ることを特徴とするトラベルケースの錠前装置。

(6)審判事件弁駁書6頁3行?7頁6行
本件訂正書における訂正のうち、構成B’の「二つの第1挿入部」、構成C’の「二つのスライドフック」、構成D’の「二つの解除ボタン」は、甲第1号証及び2号証のそれぞれに開示されたものであるため、無効審判請求書に記載されている通り、本件訂正考案1と甲第1号証に記載された考
案及び甲第2号証に記載された考案とは、構成A、B’、C’、D’において一致する。
一方、構成F’において限定された、二つのスライドフックのそれぞれに対してロック機構を設けることについては、甲第1号証及び2号証には明記はないものの、甲第1号証及び2号証に記載されているに等しい事項に過ぎない。
すなわち、甲第1号証の[0002]には、背景技術として、「通常、フアスナを備えるスーツケース、又はその他の類似するスーツケースには、ファスナが設けられており、ファスナの2枚の引き手をロックすることができる。しかし、現在、多くのスーツケースは、2つの付属ケースを有しており、2つのファスナを用いてロックする必要がある。上述した方式ではコストが高いため、上記の欠陥に対して、本考案者は、双方ファスナ錠前を開発し、当該双方ファスナ錠前は、二つのファスナをまとめてロックすることができ、構造が簡単でコストが低く、さらに、製品のバリエーションが拡大される。」と記載されており、甲第1号証に記載された考案が、二つのファスナに対して二つの錠前装置を設けていたという従来技術の課題を解決するものであることが読み取れる。
また、甲第2号証の[0002]及び[0003]においても、「しかし、スーツケースには、上下2つのファスナがあり、2つの通常のファスナ錠を設けると、スペースが必要であるのみならず、コストが高くなる。従来技術の欠点を克服するために、本考案は、二つのファスナをまとめて施錠可能なファスナ錠前を提供する。」と記載されており、甲第2号証に記載された考案も、同様に二つのファスナに対して二つの錠前装置を設けていたという従来技術の課題を解決するものであることが読み取れる。
このため、構成F’において限定された、二つのスライドフックに対してそれぞれロック機構を設けるとの構成も、当業者が甲第1号証及び2号証に記載されている事項から導き出せる事項であり、本件訂正考案1は、依然として甲第1号証及び2号証に記載された考案である。

(7)審判事件弁駁書7頁7行?8頁14行
また、本件訂正考案1は、甲第1号証または2号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるということもできる。
すなわち、当業者が、甲第1号証または2号証を参照し、二つのファスナに対して二つの錠前装置を設けていた従来技術から、二つのファスナに対して一つの錠前装置を設ける過程において、錠前装置におけるロック機構をそれぞれのファスナに対応するように二つのまま維持することは、通常発揮し得る創作能力の範囲内であり、適宜設計し得る事項に過ぎない。
本件訂正考案1の効果は、・・・とのことであるが、いずれの効果も、従来の二つのファスナに対して二つの錠前装置を設けたものによって奏する効果と変わらず、当業者が甲第1号証及び2号証に記載された内容から予測し得る効果を超える有利なもの号証及び2号証に記載された内容から予測し得る効果を超える有利なものではない。
さらに、本件登録実用新案公報の段落0002?0005に、特許文献1?3を挙げて記載されているように、二つのスライダーを備えた一つのファスナに対し、一つの錠前装置を設けることについては、周知技術である。
このため、当業者であれば、二つのファスナに対して一つの錠前装置を設けた甲第1号証または2号証を参照し、周知技術に基づいて、それぞれのファスナを個別に管理するべく、一つの錠前装置においてロック機構のみファスナに対応させて二つとすることもきわめて容易である。
したがって、本件訂正考案1は、甲第1号証及び2号証に記載された考案であるか、甲第1号証または2号証に記載された考案(または、甲第1号証または2号証に記載された考案と周知技術と)に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:中国実用新案登録第202596354号公報
甲第2号証:中国実用新案登録第202249309号公報
甲第3号証:特開昭64-62571号公報
甲第4号証:登録実用新案第3170520号公報

2 被請求人の反論及び提出した証拠の概要
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、平成26年8月11日付け審判事件答弁書、平成27年3月4日付け口頭審理陳述要領書、口頭審理において、乙第1号証を提示し、以下の反論を行った。

[無効理由に対する反論]
(1)審判事件答弁書10頁19?20行
本件考案は、甲第1?4号証に基づく実用新案法第3条第1項第3号、第2項(実用新案法第37条第1項第2号)の規定に該当するものではない。

(2)口頭審理陳述要領書5頁21行?6頁7行
既述のとおり、甲第1号証および甲第2号証には、一つの箇体からなる一つの錠前装置に二つのロック機構は記載されていない。既述のとおり、むしろ、甲第1号証および甲第2号証には、請求の範囲、具体的な実施形態の記載や図面には一つのロック機構で二つのファスナのロック・解除を行うことが明記され、特に「本考案者は、双方ファスナ錠前を開発し、当該双方ファスナ錠前は、二つのファスナをまとめてロックすることができ、構造が簡単でコストが低く、さらに、製品バリエーションが拡大される。」(甲第1号証の[0002]段落)、「本考案は、一つのファスナ錠前により、二つのファスナをまとめてロック可能であり、スペースを節約するとともにコストを低減させ」(甲第2号証の[0013]段落)と、一つのロック機構により二つのファスナをまとめてロック・解除することが記載されていることからも、本件訂正考案1のように一つの箇体からなる錠前装置に二つのロック機構を備えるという構成は積極的に排除されているのである。
したがって、仮に、二つのスライダーを備えた一つのファスナに対し、一つの錠前装置を設けることが周知技術だとしても、当業者は、甲1号証および甲第2号証から、それぞれのファスナを個別に管理するべく、一つの錠前装置においてロック機構のみファスナに対応させて二つとすることは想到しえない。

[証拠方法]
乙第1号証:実用新案法第14条の2第1項の訂正に係る訂正書の写し


第4 当審の判断
1 各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、翻訳文は請求人提出のものを採用した。


(翻訳文は以下のとおり)
「技術分野
[0001]本考案は、錠前に関し、特に双方ファスナ錠前に関する。
背景技術
[0002]通常、ファスナを備えるスーツケース、又はその他の類似するスーツケースには、ファスナが設けられており、ファスナの2枚の引き手をロックすることができる。しかし、現在、多くのスーツケースは、2つの付属ケースを有しており、2つのファスナを用いてロックする必要がある。上述した方式ではコストが高いため、上記の欠陥に対して、本考案者は、双方ファスナ錠前を開発し、当該双方ファスナ錠前は、2つのファスナをまとめてロックすることができ、構造が簡単でコストが低く、さらに、製品のバリエーションが拡大される。
考案の概要
[0003]従来技術の欠陥を克服するため、本考案は、構造が簡単でコストが低い双方ファスナ錠前を提供する。」



(翻訳文は以下のとおり)
「[0012]本考案の有益な効果は、本考案が鍵を使用して錠芯を回転させることにより押しロッドを回転させる。これにより、押しロッドがスライドロッドに押圧しなくなり、ボタンを押すことによりスライドロッドを押してロックプレートを移動させ、ファスナの引き手のロックを解錠する。本考案は、構造が簡単、使用が便利であり、生産コストが低下する。」



(翻訳文は以下のとおり)
「具体的な実施形態
[0021]図1?図7を参照し、本考案は、双方ファスナ錠前を開示し、錠ハウジング1と、錠ハウジング1の一方の両側の夫々に設けられるボタン2と、錠ハウジング1の他方の両側の夫々に設けられるキャッチ溝3とを含み、錠ハウジング1内に錠芯座4と、対向するスライドロッド5とが設けられており、スライドロッド5において、キャッチ溝3内に進入してファスナの引き手をロック可能なロックプレート6が設けられ、錠芯座4内に回転可能な錠芯7が設けられ、錠芯7には、夫々が、対応するスライドロッド5を押圧可能である、対向する押しロッド8を設けており、前記ボタン2がスライドロッド5を押して移動させることができ、スライドロッド5と錠ハウジング1との間に、スライドロッド5を位置回復させる戻し機構が設けられ、錠芯7は当該分野の慣用構造であるため、詳述しない。
[0022]図示するように、当該具体的な実施例において、錠ハウジング1の両側の夫々において、2つのキャッチ溝3が設けられ、スーツケースにおける1つのファスナに2つの引き手を備えているため、上下2つのファスナは、それぞれ、両側における2つのキャッチ溝3に対応可能である。錠ハウジング1の他方の両側において、対向するボタン2が設けられ、取付け及び加工の便宜を図るため、錠ハウジング1に収納孔9及び底板11が設けられ、収納孔9にガードボード10が設けられている。前記錠芯座4は、収納孔9内に設けられ、且つ、軸方向に移動するように、ガードボード10及び底板11により制限される。前記錠芯座4の外壁に、テープ状の突条12が設けられ、収納孔9の内壁に、テープ状の突条12に合致する凹状溝13が設けられ、前記錠芯座4では、突条12と凹状溝13との合致によりその軸方向の回転が制限される。錠芯7に、突ブロック14及び連接材15が設けられ、連接材15に連接孔が設けられ、突ブロック14が連接孔に挿設し、前記錠芯7は、突ブロック14が連接孔壁を押し付けることで連接材15を回転させ、押しロッド8の夫々が、連接材15に設けられ、本実施例において、押しロッド8と連接材15とが一体成形されている。
[0023]図示するように、戻し機構は、戻しバネ(未図示)を含み、当該戻しバネの両端面が、それぞれ、スライドロッド5と錠ハウジング1の内壁に押圧する。取付け及び加工の便宜を図るため、スライドロッド5は、第1スライドロッド16と第2スライドロッド17とを含み、前記ロックプレート6が第1スライドロッド16及び第2スライドロッド17の夫々に設けられ、第1スライドロッド16及び第2スライドロッド17に突柱18が設けられ、前記戻しバネの一端部が、突柱18に嵌設される。
[0024]図示するように、ボタン2内に、収納溝19と、第1位置決め部20と、第2位置決め部21とが設けられ、前記スライドロッド5の端部が収納溝19内に設けられている。前記錠ハウジング1に、第1位置決め部20に対して係合する第1止部22と、第2位置決め部21に対して係合する第2止部23とが設けられる。
[0025]当該製品の作動原理は、解錠時、鍵が錠芯7に挿入し、錠芯7を回転させることで、押しロッド8を回転させ、押しロッド8がスライドロッド5に押圧しなくなる。両側のボタン2を押すと、スライドロッド5が移動するように押されることにより、ロックプレート6の移動を連動させ、引き手に対するロックを解除し、引き手をキャッチ溝3内から取り出して、スーツケースを開けることができる。スーツケースを施錠する時、ファスナを締め、ボタン2を押すことでスライドロッド5がロックプレートを引き戻す。引き手の夫々を対応するキャッチ溝3に入れ、ボタン2を離して、戻しバネがスライドロッド5を押して位置回復させることにより、ロックプレート6が引き手孔に挿入し、鍵が錠芯7を回転させることで、押しロッド8を回転させることで位置回復する。これにより、押しロッド8がスライドロッド5を押圧することで、スライドロッド5が移動できなくなり、ロックプレート6が引き手をロックさせる。」

エ 上記アないしウからみて、甲第1号証には、次の考案(以下「甲1考案」という。)が記載されているものと認める。
「錠ハウジング1と、錠ハウジングの一方の両側の夫々に設けられる対向するボタン2と、錠ハウジング1の他方の両側に夫々設けられる2つのキャッチ溝3を含み、錠ハウジング1内に錠芯座4と、対向するスライドロッド5が設けられた、スーツケースの双方ファスナ錠前であって、
一つのファスナには2つの引き手を備えているため、2つの付属ケースをロックする上下2つのファスナは、それぞれ、2つのキャッチ溝3に対応可能であり、
スライドロッド5には、キャッチ溝3内に進入してファスナの引き手をロック可能なロックプレート6が設けられ、
錠芯座4内に回転可能な錠芯7が設けられ、錠芯7には、夫々が、対応するスライドロッド5を押圧可能である、対向する押しロッド8を設けており、
前記ボタン2がスライドロッド5を押して移動させることができ、スライドロッド5と錠ハウジング1との間に、スライドロッド5を位置回復させる戻し機構が設けられ、
戻し機構は、戻しバネを含み、当該戻しバネの両端面が、それぞれ、スライドロッド5と錠ハウジング1の内壁に押圧し、
解錠時、鍵が錠芯7に挿入し、錠芯7を回転させることで、押しロッド8を回転させ、押しロッド8がスライドロッド5に押圧しなくなり、両側のボタン2を押すと、スライドロッド5が移動するように押されることにより、ロックプレート6の移動を連動させ、引き手に対するロックを解除し、引き手をキャッチ溝3内から取り出して、スーツケースを開けることができ、
施錠する時、ファスナを締め、ボタン2を押すことでスライドロッド5がロックプレート6を引き戻し、引き手の夫々を対応するキャッチ溝3に入れ、ボタン2を離して、戻しバネがスライドロッド5を押して位置回復させることにより、ロックプレート6が引き手孔に挿入し、鍵が錠芯7を回転させることで、押しロッド8を回転させることで位置回復し、これにより、押しロッド8がスライドロッド5を押圧することで、スライドロッド5が移動できなくなり、ロックプレート6が引き手をロックさせることにより、
2つのファスナをまとめてロックすることができ、構造が簡単でコストが低い、
スーツケースの双方ファスナ錠前。」

(2)甲第2号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、翻訳文は請求人提出のものを採用した。


(翻訳文は以下のとおり)
「技術分野
[0001]本考案は、錠前に関し、特に双方ファスナ錠前に関する。
背景技術
[0002]ファスナを有するスーツケース、又はその他の類似するケースは、通常、ファスナ錠を設けている。ファスナの2つの引き手をロックし、且つ、当該ファスナ錠は、複数のダイヤル輪を有することで、使用者がファスナ錠を解錠するために、特定の数字をダイヤルする必要がある。これにより、他人によるフアスナの開放でスーツケースが開けられることは回避可能である。しかし、スーツケースには、上下2つのファスナがあり、2つの通常のファスナ錠を設けると、スペースが必要であるのみならず、コストが高くなる。
考案の内容
[0003]従来技術の欠点を克服するために、本考案は、2つのファスナをまとめて施錠可能なファスナ錠前を提供する。



(翻訳文は以下のとおり)
「[0013]本考案による有益な効果は、次の通りである。すなわち、本考案は、パスワードを入力した後、第1伝動部材が第1レバーを回転させることにより、第2レバー及び第3レバーが回転することで第1ロックアセンブリと第2ロックアセンブリとを押圧しなくなる。第1ボタンと第2ボタンとにより、第1ロック部と第2ロック部とが第1ロック溝と第2ロック溝とから離され、ファスナ錠を解錠する目的が達成する。本考案は、1つのファスナ錠前により、2つのフアスナをまとめてロック可能であり、スペースを節約すると共にコストを低減させ、さらに、ファスナ錠の構造及び種類の多様化に寄与する。



(翻訳文は以下のとおり)
「具体的な実施形態
[0020]図1?図5を参照し、本考案は、双方ファスナ錠前を開示し、当該双方ファスナ錠前は、その特徴として、内部にダイヤル機構を設けてあるベース1と、ダイヤル機構の押圧により移動する第1伝動部材2と、第1レバー4と第2レバー5と第3レバー6とを有する回転分岐部3であって、前記第1レバー4が第1伝動部材の押圧により回転可能である回転分岐部3と、ファスナの引き手をロック可能である共に、第2レバー5に押圧する第1ロックアセンブリと、ファスナの引き手をロック可能であると共に、第3レバー6に押圧する第2ロックアセンブリと、第1ロックアセンブリを押して移動させる第1ボタン7と、第2ロックアセンブリを押して移動させる第2ボタン8と、ベース1内に設けられると共に回転分岐部3を位置回復させる第1弾性部材9とを含む。
[0021]図示するように、当該具体的な実施例では、ダイヤル機構は、ベース1内に設けられ、ダイヤル機構は3つの数字輪10を有し、3つの数字輪10は、使用者がダイヤル可能であるように、ロックケースの孔に挿設すると共に、ロックケース外に露出して形成される。各数字輪10には、内リング11が装着され、内リング11には嵌め溝12が設けられる。第1伝動部材2には、第1押圧部13と嵌めブロック14とが設けられ、当該嵌めブロック14が、対応する内リング11の嵌め溝12内に嵌め込むことができる。第1レバー4は、第1押圧部13の押圧により回転し、さらに、第1伝動部材2とベース1との間に、第1伝動部材2を位置回復させることができる戻しバネ15が設けられる。
[0022]図示するように、第1ロックアセンブリは、第1ロック棒16と、第2ロック棒17と、ベース1に設けられる2つの第1ロック溝18とを含む。当該第1ロック棒16には、第1ロック部19が設けられ、第1ロック部19は、一方の第1ロック溝18に挿入し、又は離れるように構成される。当該第2ロック棒17には、第2ロック部20が設けられ、当該第2ロック部20は、他方の第1ロック溝18に挿入し、又は離れるように構成される。前記第1ボタン7は、第1ロック棒16と第2ロック棒17とを押して移動させることができ、前記第2レバー5は、第1ロック棒16と第2ロック棒17とに押圧可能である。さらに、第1ロック棒16とベース1との間に第1圧縮バネ21が設けられる。前記第2ロック棒17とベース1との間に第2圧縮バネ22が設けられる。前記第1圧縮バネ21と第2圧縮バネ22とは、第1ロック棒16と第2ロック棒17とを移動後に位置回復させることができる。第2ロックアセンブリは、第3ロック棒23と第4ロック棒24と、ベース1に設けられる二つのロック溝25とを含む。第3ロック棒23には、第3ロック部26が設けられ、第3ロック部26は、ベース1における一方の第2ロック溝25に挿入し、又は離れるように構成される。第4ロック棒24には、第4ロック部27が設けられ、当該第4ロック部27は、ベース1における他方の第2ロック溝25に挿入し、又は離れるように構成される。前記第2ボタン8は、第3ロック棒23と第4ロック棒24とを押して移動させることができ、前記第3レバー6は、第3ロック棒23と第4ロック棒24とを押圧可能である。さらに、第3ロック棒23とベース1との間に第3圧縮バネ28が設けられ、前記第4ロック棒24とベース1との間に第4圧縮バネ29とが設けられ、前記第3圧縮バネ28と第4圧縮バネ29とは、第3ロック棒23と第4ロック棒24とを移動後に位置回復させることができる。
[0023]使用者が当該ファスナ錠前を解錠する場合、数字輪10を正確な数字にダイヤルし、ファスナロックを解錠可能な状態にする。この場合、第1伝動部材2が戻しバネ15の作用下で横方向に移動し、第1伝動部材2の嵌めブロック14が、対応する内リング11の嵌め溝12内に嵌め込むと共に、第1伝動部材2における第1押圧部13が第1レバー4を押圧し、第1レバー4が回転分岐部3を動かして回転させ、第2レバー5及び第3レバー6がそれに応じて回転し、第1ロック棒16と、第2ロック棒17と、第3ロック棒23と、第4ロック棒24とを押圧する位置から離れる。この場合、使用者が第1ボタン7と第2ボタン8とを押して、第1ボタン7と第2ボタン8とは、第1ロック棒16と第2ロック棒17と第3ロック棒23と第4ロック棒24とを連動させることで、第1ロック部19と第2ロック部20と第3ロック部26と第4ロック部27とを、第1ロック溝18及び第2ロック溝25から離脱させ、ファスナ錠前を解錠する目的が達成する。
[0024]使用者が当該ファスナ錠を施錠する場合、解錠された状態下で、ファスナの2つの引き手を、対応する第1ロック溝18と第2ロック溝25とに挿入し、この時、第1ロック部19と、第2ロック部20と、第3ロック部26と、第4ロック部27とが、対応するファスナの孔内に挿入し、数字輪10のダイヤルを乱すことにより、第1伝動部材2が横方向に移動し、第1伝動部材2における嵌めブロック14が、対応する内リング11の嵌め溝12から離れると共に、回転分岐部3が第1弾性部材9により動かされ、位置回復し、第2レバー5と第3レバー6とが、第1ロック棒16と第2ロック棒17と第3ロック棒23と第4ロック棒24とを押圧可能であるように位置し、これにより、第1ロック棒16と第2ロック棒17と第3ロック棒23と第4ロック棒24とが移動できなくなり、ファスナ錠前を施錠する目的が達成する。」

エ 図1?図4をみると、ベース1にはシリンダ錠が設けられ、回転分岐部3において、第1レバーと対向する位置に第4レバーが設けられ、シリンダ錠には、第2伝動部材の一端が連結され、シリンダ錠の回転により、第2伝動部材の他端は第4レバーを押圧可能であることが理解できる。
(なお、「第4レバー」は、「回転分岐部3」に設けられる「第1レバー4」?「第3レバー6」と並ぶ名称を、「第2伝動部材」は、「第1伝動部材」と並ぶ名称を、便宜上付与した。)

オ 上記アないしエからみて、甲第2号証には、次の考案(以下「甲2考案」という。)が記載されているものと認める。
「内部にダイヤル機構及びシリンダ錠を設けてあるベース1と、ダイヤル機構の押圧により移動する第1伝動部材2と、第1レバー4と第2レバー5と第3レバー6とを有する回転分岐部3と、ファスナの引き手をロック可能である共に、第2レバー5に押圧する第1ロックアセンブリと、ファスナの引き手をロック可能であると共に、第3レバー6に押圧する第2ロックアセンブリと、第1ロックアセンブリを押して移動させる第1ボタン7と、第2ロックアセンブリを押して移動させる第2ボタン8と、ベース1内に設けられると共に回転分岐部3を位置回復させる第1弾性部材9とを含む、スーツケースの双方ファスナ錠前であって、
スーツケースには、上下2つのファスナがあり、ファスナの2つの引き手をロックして、他人によるファスナの開放でスーツケースが開けられることを回避可能であって、
第1ロックアセンブリは、第1ロック棒16と、第2ロック棒17と、ベース1に設けられる2つの第1ロック溝18とを含み、当該第1ロック棒16には、第1ロック部19が設けられ、第1ロック部19は、一方の第1ロック溝18に挿入し、又は離れるように構成され、当該第2ロック棒17には、第2ロック部20が設けられ、当該第2ロック部20は、他方の第1ロック溝18に挿入し、又は離れるように構成され、前記第1ボタン7は、第1ロック棒16と第2ロック棒17とを押して移動させることができ、前記第2レバー5は、第1ロック棒16と第2ロック棒17とに押圧可能であり、さらに、第1ロック棒16とベース1との間に第1圧縮バネ21が設けられ、前記第2ロック棒17とベース1との間に第2圧縮バネ22が設けられて、前記第1圧縮バネ21と第2圧縮バネ22とは、第1ロック棒16と第2ロック棒17とを移動後に位置回復させることができるものであり、
第2ロックアセンブリは、第3ロック棒23と第4ロック棒24と、ベース1に設けられる二つのロック溝25とを含み、第3ロック棒23には、第3ロック部26が設けられ、第3ロック部26は、ベース1における一方の第2ロック溝25に挿入し、又は離れるように構成され、第4ロック棒24には、第4ロック部27が設けられ、当該第4ロック部27は、ベース1における他方の第2ロック溝25に挿入し、又は離れるように構成され、前記第2ボタン8は、第3ロック棒23と第4ロック棒24とを押して移動させることができ、前記第3レバー6は、第3ロック棒23と第4ロック棒24とを押圧可能であり、さらに、第3ロック棒23とベース1との間に第3圧縮バネ28が設けられ、前記第4ロック棒24とベース1との間に第4圧縮バネ29とが設けられ、前記第3圧縮バネ28と第4圧縮バネ29とは、第3ロック棒23と第4ロック棒24とを移動後に位置回復させることができるものであって、
回転分岐部3において、第1レバーと対向する位置に第4レバーが設けられ、シリンダ錠には、第2伝動部材の一端が連結され、シリンダ錠の回転により第2伝動部材の他端は第4レバーを押圧可能であり、
当該ファスナ錠前を解錠する場合、数字輪10を正確な数字にダイヤルし、ファスナロックを解錠可能な状態にして、第1伝動部材2が戻しバネ15の作用下で横方向に移動し、第1伝動部材2の嵌めブロック14が、対応する内リング11の嵌め溝12内に嵌め込むと共に、第1伝動部材2における第1押圧部13が第1レバー4を押圧し、第1レバー4が回転分岐部3を動かして回転させ、第2レバー5及び第3レバー6がそれに応じて回転し、第1ロック棒16と、第2ロック棒17と、第3ロック棒23と、第4ロック棒24とを押圧する位置から離れ、この場合、使用者が第1ボタン7と第2ボタン8とを押して、第1ボタン7と第2ボタン8とは、第1ロック棒16と第2ロック棒17と第3ロック棒23と第4ロック棒24とを連動させることで、第1ロック部19と第2ロック部20と第3ロック部26と第4ロック部27とを、第1ロック溝18及び第2ロック溝25から離脱させ、ファスナ錠前を解錠する目的が達成され、
当該ファスナ錠を施錠する場合、解錠された状態下で、ファスナの2つの引き手を、対応する第1ロック溝18と第2ロック溝25とに挿入し、この時、第1ロック部19と、第2ロック部20と、第3ロック部26と、第4ロック部27とが、対応するファスナの孔内に挿入し、数字輪10のダイヤルを乱すことにより、第1伝動部材2が横方向に移動し、第1伝動部材2における嵌めブロック14が、対応する内リング11の嵌め溝12から離れると共に、回転分岐部3が第1弾性部材9により動かされ、位置回復し、第2レバー5と第3レバー6とが、第1ロック棒16と第2ロック棒17と第3ロック棒23と第4ロック棒24とを押圧可能であるように位置し、これにより、第1ロック棒16と第2ロック棒17と第3ロック棒23と第4ロック棒24とが移動できなくなり、ファスナ錠前を施錠する目的が達成されることにより、
1つのファスナ錠前により、2つのファスナをまとめてロック可能であり、スペースを節約すると共にコストを低減させる、
スーツケースの双方ファスナ錠前。」

2 対比・判断
(1)本件考案1について
ア 甲1考案との対比
本件考案1と甲1考案を対比する。
(ア)甲1考案の「スーツケース」は、その構成及び機能からみて、本件考案1の「トラベルケース」に相当し、以下同様に、
「2つのファスナ」は、「第1スライドファスナ」及び「第2スライドファスナ」に、
「双方ファスナ錠前」は、「錠前装置」に、
「上下2つのファスナ」の「2つの引き手」は、「第1引き手」及び「第2引き手」に、
「錠ハウジング1の他方の両側の夫々に設けられる2つのキャッチ溝3」は、「第1挿入部」及び「第2挿入部」に、
「錠ハウジング1」は、「筐体」に、
「引き手孔」は、「各引き手に形成された係止孔」に、
「戻しバネ」は、「弾性部材」に、
「スライドロッド5」は、「スライドフック」に、
「ボタン2」は、「解除ボタン」に、
「対向する押しロッド8」は、「一方の係止片」及び「他方の係止片」に、
「錠芯7」は、「ロック機構」に、それぞれ相当する。

(イ)甲1考案において、上下2つのファスナは、2つの付属ケースをロックするものであるから、スーツケースを開閉するためのものであることは自明であり、また1つのファスナには、2つのスライダーがあって、2つのスライダーを互いに近接させることでファスナが閉鎖され、2つのスライダーを互いに離反させることでファスナが開放され、当該スライダーに引き手が設けられていることも自明である。
そうすると、甲1考案の「一つのファスナには2つの引き手を備えている」「2つの付属ケースをロックする上下2つのファスナ」を備える「スーツケースの双方ファスナ錠前」は、本件考案1の「トラベルケースを開閉するための第1スライドファスナーおよび第2スライドファスナーが並設され、両スライドファスナーは、二つのスライダーを互いに近接させることで当該スライドファスナーが閉鎖され、二つのスライダーを互いに離反させることで当該スライドファスナーが開放されるものとしたトラベルケースの錠前装置」に相当する。

(ウ)甲1考案の「一つのファスナには2つの引き手を備えているため、上下2つのファスナは、それぞれ、錠ハウジング1の他方の両側に夫々設けられる2つのキャッチ溝3に対応可能であり、」「引き手をキャッチ溝3内から取り出し」、「引き手の夫々を対応するキャッチ溝3に入れ」ることは、本件考案1の「第1スライドファスナーの互いに近接させた二つのスライダーの第1引き手それぞれを各挿入する二つの第1挿入部と、第2スライドファスナーの互いに近接させた二つのスライダーの第2引き手それぞれを各挿入する二つの第2挿入部とを一つの箇体に設けて成」ることに相当する。

(エ)甲1考案において、「ロックプレート6が引き手孔に挿入」することができるので、ロックプレート6は、引き手孔に係脱自在であることは自明である。
そうすると、甲1考案の「両側のボタン2を押すと、スライドロッド5が移動するように押されることにより、ロックプレート6の移動を連動させ、引き手に対するロックを解除し、引き手をキャッチ溝3内から取り出し」、「ボタン2を押すことでスライドロッド5がロックプレートを引き戻し、引き手の夫々を対応するキャッチ溝3に入れ、ボタン2を離して、戻しバネがスライドロッド5を押して位置回復させることにより、ロックプレート6が引き手孔に挿入」することは、本件考案1の「各引き手に開口形成された係止孔に係脱自在となるように各挿入部内側においてスライド可能とし且つ弾性部材によって係止方向に付勢された二つのスライドフックと、弾性部材の付勢力に抗してスライドフックを係止解除方向ヘスライドさせることで係止孔への係止を解除する二つの解除ボタンとを備え」ることに相当する。

(オ)甲1考案において、錠芯7にはキー(鍵)が挿入され、キー(鍵)を回転することによって、押しロッド8が回転することは、自明な事項である。
そうすると、甲1考案の「鍵が錠芯7を回転させることで、押しロッド8を回転させることで位置回復し、これにより、押しロッド8がスライドロッド5を押圧することで、スライドロッド5が移動できなくな」ることと、本件考案1の「錠前装置には、一方のスライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するよう一方のキー孔へのキー挿入によって一方の係止片を揺動操作可能とした一方のロック機構と、他方のスライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するよう他方のキー孔へのキー挿入によって他方の係止片を揺動操作可能とした他方のロック機構とを備えて成ること」とは、「錠前装置には、一方及び他方のスライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するようキー孔へのキー挿入によって一方及び他方の係止片を揺動操作可能としたロック機構を備えて成ること」で共通している。

(カ)以上のことから、本件考案1と甲1考案とは、
「トラベルケースを開閉するための第1スライドファスナーおよび第2スライドファスナーが並設され、両スライドファスナーは、二つのスライダーを互いに近接させることで当該スライドファスナーが閉鎖され、二つのスライダーを互いに離反させることで当該スライドファスナーが開放されるものとしたトラベルケースの錠前装置であって、第1スライドファスナーの互いに近接させた二つのスライダーの第1引き手それぞれを各挿入する二つの第1挿入部と、第2スライドファスナーの互いに近接させた二つのスライダーの第2引き手それぞれを各挿入する二つの第2挿入部とを一つの箇体に設けて成り、各引き手に開口形成された係止孔に係脱自在となるように各挿入部内側においてスライド可能とし且つ弾性部材によって係止方向に付勢された二つのスライドフックと、弾性部材の付勢力に抗してスライドフックを係止解除方向ヘスライドさせることで係止孔への係止を解除する二つの解除ボタンとを備え、
錠前装置には、一方及び他方のスライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するようキー孔へのキー挿入によって一方及び他方の係止片を揺動操作可能としたロック機構を備えて成るトラベルケースの錠前装置。」の点で一致し、そして次の点で相違している。
(相違点1)一方及び他方のスライドフックのスライドを阻止するように、一方及び他方の係止片を揺動操作可能とするロック機構が、本件考案1は、ロック機構が2つあり、それぞれ一方のキー孔へのキー挿入及び他方のキー孔へのキー挿入によって行われるのに対し、甲1考案は、ロック機構が1つであって、1つのキー孔へのキー挿入で行われる点。

イ 甲2考案との対比
本件考案1と甲2考案を対比する。
(ア)甲2考案の「スーツケース」は、その構成・機能からみて、本件考案1の「トラベルケース」に相当し、以下同様に、
「上下2つのファスナ」は、「第1スライドファスナ」及び「第2スライドファスナ」に、
「双方ファスナ錠前」は、「錠前装置」に、
「上下2つのファスナ」の「2つの引き手」は、「第1の引き手」及び「第2の引き手に、
「一方の第1ロック溝18」と「他方の第1ロック溝18」は、「二つの第1挿入部」に、
「一方の第2ロック溝25」と「他方の第2ロック溝25は、「二つの第2挿入部」に、
「ベース1」は、「筐体」に、
「ファスナの孔」は、「各引き手に開口形成された係止孔」に、
「第1圧縮バネ21」と「第2圧縮バネ22」と「第3圧縮バネ28」と「第4圧縮バネ29」は、「弾性部材」に、
「第1ロック棒16」と「第2ロック棒17」及び「第3ロック棒18」と「第4ロック棒19」は、「二つのスライドフック」に、
「第1ボタン7」及び「第2ボタン8」は、「二つの解除ボタン」に、
「第2レバー5」と「第3レバー6」は、「一方の係止片」及び「他方の係止片に、
「シリンダ錠」は、「ロック機構」に、それぞれ相当する。

(イ)ファスナにおいて、二つのスライダを有し、その機能として、二つのスライダを、互いに近接させることでファスナが閉鎖され、離反させることでファスナが開放されることは、一般的に自明な事項であるから、甲2考案の「上下2つのファスナがあり、ファスナの2つの引き手をロックして、他人によるファスナの開放でスーツケースが開けられることを回避可能であ」る「スーツケースの双方ファスナ錠前」は、本件考案1の「トラベルケースを開閉するための第1スライドファスナーおよび第2スライドファスナーが並設され、両スライドファスナーは、二つのスライダーを互いに近接させることで当該スライドファスナーが閉鎖され、二つのスライダーを互いに離反させることで当該スライドファスナーが開放されるものとしたトラベルケースの錠前装置」に相当する。

(ウ)ファスナにおいて、上記(イ)で説示した点、及び引き手はスライダーに設けられていることも自明であるから、甲2考案の「上下2つの」「ファスナの2つの引き手を」挿入する二つの「第1ロック溝18」と二つの「第2ロック溝25」が「ベース1に設けられる」ことは、本件考案1の「第1スライドファスナーの互いに近接させた二つのスライダーの第1引き手それぞれを各挿入する二つの第1挿入部と、第2スライドファスナーの互いに近接させた二つのスライダーの第2引き手それぞれを各挿入する二つの第2挿入部とを一つの箇体に設けて成」ることに相当する。

(エ)甲2発明の「第1ロック棒16には、第1ロック部19が設けられ、第1ロック部19は、一方の第1ロック溝18に挿入し、又は離れるように構成され、当該第2ロック棒17には、第2ロック部20が設けられ、当該第2ロック部20は、他方の第1ロック溝18に挿入し、又は離れるように構成され、前記第1ボタン7は、第1ロック棒16と第2ロック棒17とを押して移動させることができ、」「さらに、第1ロック棒16とベース1との間に第1圧縮バネ21が設けられ、前記第2ロック棒17とベース1との間に第2圧縮バネ22が設けられて、前記第1圧縮バネ21と第2圧縮バネ22とは、第1ロック棒16と第2ロック棒17とを移動後に位置回復させることができるものであり、」「第3ロック棒23には、第3ロック部26が設けられ、第3ロック部26は、ベース1における一方の第2ロック溝25に挿入し、又は離れるように構成され、第4ロック棒24には、第4ロック部27が設けられ、当該第4ロック部27は、ベース1における他方の第2ロック溝25に挿入し、又は離れるように構成され、前記第2ボタン8は、第3ロック棒23と第4ロック棒24とを押して移動させることができ、」「さらに、第3ロック棒23とベース1との間に第3圧縮バネ28が設けられ、前記第4ロック棒24とベース1との間に第4圧縮バネ29とが設けられ、前記第3圧縮バネ28と第4圧縮バネ29とは、第3ロック棒23と第4ロック棒24とを移動後に位置回復させることができるものであって、」「第1ロック部19と、第2ロック部20と、第3ロック部26と、第4ロック部27とが、対応するファスナの孔内に挿入」することは、本件考案1の「各引き手に開口形成された係止孔に係脱自在となるように各挿入部内側においてスライド可能とし且つ弾性部材によって係止方向に付勢された二つのスライドフックと、弾性部材の付勢力に抗してスライドフックを係止解除方向ヘスライドさせることで係止孔への係止を解除する二つの解除ボタンとを備え」ることに相当する。

(オ)一般的に、シリンダ錠は、キー(鍵)をシリンダ錠のキー孔に挿入し、かつ回転することにより、伝動部材を揺動操作可能とするものである。また、甲2発明において、「シリンダ錠の回転により第2伝動部材の他端は第4レバーを押圧可能であ」るが、第4レバーは回転分岐部3の一部であるから、第4レバーが回転すると、回転分岐部3の第2レバー5及び第3レバー6も回転することが理解できる。
そうすると、甲2考案の「前記第2レバー5は、第1ロック棒16と第2ロック棒17とに押圧可能であり、さらに、第1ロック棒16とベース1との間に第1圧縮バネ21が設けられ、前記第2ロック棒17とベース1との間に第2圧縮バネ22が設けられて、前記第1圧縮バネ21と第2圧縮バネ22とは、第1ロック棒16と第2ロック棒17とを移動後に位置回復させることができるものであり、」「第3レバー6は、第3ロック棒23と第4ロック棒24とを押圧可能であり、さらに、第3ロック棒23とベース1との間に第3圧縮バネ28が設けられ、前記第4ロック棒24とベース1との間に第4圧縮バネ29とが設けられ、前記第3圧縮バネ28と第4圧縮バネ29とは、第3ロック棒23と第4ロック棒24とを移動後に位置回復させることができるものであって、」「第2伝動部材の一端が連結され、シリンダ錠の回転により第2伝動部材の他端は第4レバーを押圧可能であ」る「シリンダ錠」と、本件考案1の「一方のスライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するよう一方のキー孔へのキー挿入によって一方の係止片を揺動操作可能とした一方のロック機構と、他方のスライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するよう他方のキー孔へのキー挿入によって他方の係止片を揺動操作可能とした他方のロック機構」とは、「一方及び他方のスライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するようキー孔へのキー挿入によって一方及び他方の係止片を揺動操作可能としたロック機構」で共通している。

(カ)以上のことから、本件考案1と甲2考案とは、
「トラベルケースを開閉するための第1スライドファスナーおよび第2スライドファスナーが並設され、両スライドファスナーは、二つのスライダーを互いに近接させることで当該スライドファスナーが閉鎖され、二つのスライダーを互いに離反させることで当該スライドファスナーが開放されるものとしたトラベルケースの錠前装置であって、第1スライドファスナーの互いに近接させた二つのスライダーの第1引き手それぞれを各挿入する二つの第1挿入部と、第2スライドファスナーの互いに近接させた二つのスライダーの第2引き手それぞれを各挿入する二つの第2挿入部とを一つの箇体に設けて成り、各引き手に開口形成された係止孔に係脱自在となるように各挿入部内側においてスライド可能とし且つ弾性部材によって係止方向に付勢された二つのスライドフックと、弾性部材の付勢力に抗してスライドフックを係止解除方向ヘスライドさせることで係止孔への係止を解除する二つの解除ボタンとを備え、
錠前装置には、一方及び他方のスライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するようキー孔へのキー挿入によって一方及び他方の係止片を揺動操作可能としたロック機構とを備えて成るトラベルケースの錠前装置。」の点で一致し、そして次の点で相違している。
(相違点2)一方及び他方のスライドフックのスライドを阻止するように、一方及び他方の係止片を揺動操作可能とするロック機構が、本件考案1は、ロック機構が2つあり、それぞれ一方のキー孔へのキー挿入及び他方のキー孔へのキー挿入によって、行われるのに対し、甲2考案は、ロック機構が1つであり、1つのキー孔へのキー挿入で行われる点。

ウ 相違点1,2の検討
相違点1及び相違点2は、同様のものであって、請求人が対比した相違点とも同様であるので、請求人の主張を中心に、両相違点を同時に検討する。
(ア)まず、上記相違点1及び相違点2に対して、請求人は以下の主張を行っている。
「構成F’において限定された、二つのスライドフックのそれぞれに対してロック機構を設けることについては、甲第1号証及び2号証には明記はないものの、甲第1号証及び2号証に記載されているに等しい事項に過ぎない。
甲第1号証に記載された考案が、二つのファスナに対して二つの錠前装置を設けていたという従来技術の課題を解決するものであることが読み取れる。
甲第2号証に記載された考案も、同様に二つのファスナに対して二つの錠前装置を設けていたという従来技術の課題を解決するものであることが読み取れる。
このため、構成F’において限定された、二つのスライドフックに対してそれぞれロック機構を設けるとの構成も、当業者が甲第1号証及び2号証に記載されている事項から導き出せる事項であり、本件訂正考案1は、依然として甲第1号証及び2号証に記載された考案である。」(上記第3 1(具体的理由)(4))

(イ)しかしながら、上記本件考案1の相違点1及び相違点2に係る構成は、それぞれ甲第1号証及び甲第2号証には、明確に記載されておらず、また甲第1号証及び甲第2号証に、従来技術として二つのファスナに対して二つの錠前装置が設けられていたことが記載されていたとしても、甲1考案及び甲2考案のロック機構を2つとすることを示唆するものではない。
したがって、上記相違点1及び相違点2は、実質的な相違点である。

(ウ)また、請求人は、以下の主張も行っている。
「本件訂正考案1は、甲第1号証または2号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるということもできる。
すなわち、当業者が、甲第1号証または2号証を参照し、二つのファスナに対して二つの錠前装置を設けていた従来技術から、二つのファスナに対して一つの錠前装置を設ける過程において、錠前装置におけるロック機構をそれぞれのファスナに対応するように二つのまま維持することは、通常発揮し得る創作能力の範囲内であり、適宜設計し得る事項に過ぎない。
さらに、本件登録実用新案公報の段落0002?0005に、特許文献1?3を挙げて記載されているように、二つのスライダーを備えた一つのファスナに対し、一つの錠前装置を設けることについては、周知技術である。
このため、当業者であれば、二つのファスナに対して一つの錠前装置を設けた甲第1号証または2号証を参照し、周知技術に基づいて、それぞれのファスナを個別に管理するべく、一つの錠前装置においてロック機構のみファスナに対応させて二つとすることもきわめて容易である。」(上記第3 1(具体的理由)(4))

(エ)請求人が上記(ア)および(ウ)で主張するように、2つのファスナに対して2つの錠前装置を設けていたことは、甲第1号証及び甲第2号証の従来技術に記載されている様に、公知な技術であり、また1つのファスナに対して1つの錠前装置を設けることも、本件登録実用新案公報に挙げられた特許文献1?3に記載されている様に、従来より周知な技術ではある。
しかしながら、甲1考案は「2つのファスナをまとめてロックすることができ、構造が簡単でコストが低い」ことを特徴とする考案であるから、甲1考案において、1つである錠芯7を、当該特徴に反するように、錠芯7を2つに増やした上で、それぞれが別々に、対応するスライドロッド5を押圧するものに替えて、構造を複雑にすることは、当業者がきわめて容易に思い付くことではない。
同様に、甲2考案は、「1つのファスナ錠前により、2つのファスナをまとめてロック可能であり、スペースを節約すると共にコストを低減させる」ことを特徴とする考案であるから、甲2考案において、1つであるシリンダ錠を、甲2考案の特徴に反するように、シリンダ錠を2つに増やした上で、それぞれが別々に、第1?4ロック棒16,17,23,24を押圧するものに替えて、構造を複雑にすることは、当業者がきわめて容易に思い付くことではない。
よって、請求人が主張するように、甲第1号証または甲第2号証を参照し、二つのファスナに対して二つの錠前装置を設けていた従来技術から、二つのファスナに対して一つの錠前装置を設ける過程において、錠前装置におけるロック機構をそれぞれのファスナに対応するように二つのまま維持したり、二つのファスナに対して一つの錠前装置を設けた甲第1号証または2号証を参照し、周知技術に基づいて、それぞれのファスナを個別に管理するべく、一つの錠前装置においてロック機構のみファスナに対応させて二つとすることが、当業者がきわめて容易になし得たということはできない。

(オ)そして、本件考案1は、被請求人が審判事件答弁書(6頁13?末行)で主張するとおりの、
「一方のロック機構のみをロック解除して第1スライドファスナーを開き、他方の第2スライドファスナーは閉じて他方のロック機構をロックした状態に維持することができる。例えば、トラベルケースの第1スライドファスナー側に頻繁に出し入れする物を収納してアンロックし、トラベルケースの第2スライドファスナー側に重要な物を収納してロックすることで、第1スライドファスナー側から物を出している間に、第2スライドファスナー側から重要なものが第三者に取られることを防止できる。
・・・
このように、二つのスライドファスナー用の二つのロック機構を一つの筐体に集約するとともに、一方のロック機構をアンロックし、他方のロック機構をロックしてロック・アンロックを異なる状態にすることができる。」という効果を発揮することができる。

エ 本件考案1のまとめ
以上のことから、本件考案1は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された考案とは認められず、また甲第1号証又は甲第2号証に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められず、さらに甲第1号証又は甲第1号証と周知技術とに基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとも認められない。

(2)本件考案2について
本件考案2は、本件考案1の構成をすべて含み、さらに「解除ボタンは、錠前装置の側方から操作可能となるよう錠前装置の両端から外方へ向けて突出配置されて成る」との構成を付加するものである。
そうすると、本件考案1が、上記(1)ウ及びエで説示したとおりであるから、本件考案1の構成をすべて含み、さらに限定を加えた本件考案2も、同様に、甲第1号証又は甲第2号証に記載された考案と認められず、また甲第1号証又は甲第2号証に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められず、さらに甲第1号証又は甲第2号証と周知技術とに基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとも認められない。

(3)本件考案3について
本件考案3は、本件考案1の構成をすべて含み、さらに「複数のダイヤルの回転操作により前記解除ボタンを操作可能または操作不能とするダイヤルロック機構を含み、前記ロック機構は、ダイヤルロック機構のダイヤルの回転操作により解除ボタンが操作可能となった状態で、スライドフックの係止解除方向へのスライドを阻止するよう前記係止片を揺動操作させるものとした」との構成を付加するものである。
そうすると、甲第2号証に、「複数のダイヤルの回転操作により解除ボタンを操作可能または操作不能とするダイヤルロック機構」が記載されているとしても、上記(1)ウで説示したように、本件考案1の相違点1及び相違点2に係る構成とすることが、当業者にとってきわめて容易に想到し得るとはいえないことから、本件考案3は、甲第1号証に記載された考案と甲第2号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められない。
さらに、甲第3号証及び甲第4号証は、「ダイヤルロック機構のダイヤルの回転操作により解除された状態で、ロック機構のキー操作で施錠可能とすることが一般的な技術であること」の根拠として示されたものであるが、当該技術が一般的なものであるとしても、上記(1)ウで説示したように、本件考案1の相違点2に係る構成とすることが、当業者にとってきわめて容易に想到し得るとはいえないことから、本件考案3は、甲第2号証に記載された考案と周知技術(甲第3号証及び甲第4号証に裏付けのある周知技術)とに基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められない。

(4)本件考案4について
本件考案4は、独立形式ではあるものの、実質的に、本件考案1を引用する本件考案3と同じ考案である。
そうすると、本件考案3が、上記(3)で説示したとおりであるから、本件考案4も、同様に、甲第1号証に記載された考案と甲第2号証に記載された考案に基づいて、さらに甲第2号証に記載された考案と周知技術(甲第3号証及び甲第4号証に裏付けのある周知技術)とに基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められない。


第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によって、本件考案1ないし4に係る実用新案登録を無効とすることはできない。

そして、審判に関する費用については、実用新案法第41条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
審決日 2015-05-21 
出願番号 実願2013-1139(U2013-1139) 
審決分類 U 1 114・ 121- YA (E05B)
U 1 114・ 113- YA (E05B)
最終処分 不成立    
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
門 良成
登録日 2013-04-24 
登録番号 実用新案登録第3183509号(U3183509) 
考案の名称 トラベルケースの錠前装置  
代理人 下田 容一郎  
代理人 特許業務法人R&C  
代理人 下田 憲雅  
代理人 奈良 如紘  
代理人 野崎 俊剛  

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