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審決分類 審判    B01J
管理番号 1337103
審判番号 無効2014-400004  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-04-28 
確定日 2018-01-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第3133388号「空気の電子化装置」の実用新案登録無効審判事件についてされた平成28年 1月15日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成28年(行ケ)第10047号、平成28年10月31日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯

本件実用新案登録第3133388号に係る経緯の概要は、以下のとおりである。

平成19年 3月22日 実用新案登録出願(実願2007-2789号)
同 年 6月20日 設定登録(実用新案登録第3133388号)
平成25年 7月 5日 実用新案技術評価請求書の提出(他人)(請求人) 同 年11月 5日 実用新案技術評価書の送付(請求人)
同 年11月12日 実用新案技術評価書の送付(被請求人)
平成26年 4月28日 無効審判請求
同 年 6月26日 審判事件答弁書の提出
同 年 8月25日 上申書の提出(審判事件答弁書(追加主張))
平成27年 1月14日 審理事項通知書の送付(請求人、被請求人)
同 年 2月 9日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
同 年 2月 9日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
同 年 2月23日 上申書(1)の提出(被請求人)
同 年 2月23日 口頭審理
同 年 2月27日 上申書(1)の提出(請求人)
同 年 3月 3日 上申書(2)の提出(被請求人)
同 年 3月17日 上申書(3)の提出(被請求人)
同 年 4月 6日 上申書(2)の提出(請求人)
同 年 4月21日 上申書(4)の提出(被請求人)
同 年 7月13日 上申書(5)の提出(被請求人)
同 年 8月 4日 上申書(6)の提出(被請求人)
同 年 8月14日 上申書(3)の提出(請求人)
同 年 8月25日 上申書(7)の提出(被請求人)
同 年11月17日 上申書(4)の提出(請求人)
同 年11月26日 上申書(8)の提出(被請求人)
平成28年 1月15日 審決(請求認容)
同 年10月31日 審決取消訴訟判決言渡(平成28年(行ケ)第 10047号 審決取消)
平成29年10月 6日 上告受理申立て不受理決定

第2 本件実用新案登録

実用新案登録第3133388号の請求項1、2に係る考案(以下、「本件考案1」、「本件考案2」という。)は、願書に添付された実用新案登録請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管の先端に電磁コイルを巻きつけ、その中心部に空気を流し込むことで空気中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる空気の電子化装置。
【請求項2】
請求項1の構造において、電磁コイルから発生する熱を電磁コイルの筒(ボビン)に流れる空気によって冷却するために、ボビンの材質を銅、アルミニウム、スズ、真鍮、亜鉛、チタンなどの熱電導性がよく、磁気を帯びない非磁性体金属で作った空気の電子化装置。」

第3 請求人及び被請求人の主張の概要

1 請求人の主張(概要)は、以下のとおりのものである。

「本件考案1は、甲第1号証に記載された考案であるから、実用新案法第3条第1項第3号に該当し実用新案登録を受けることができないものである、又は、甲第1号証に記載の考案並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載の周知技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、
本件考案2は、甲第1号証に記載の考案及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載の周知技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
よって、本件実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」

請求人は証拠方法として、次の甲第1号証ないし甲第9号証(以下、「甲1」ないし「甲9」という。)を提出している。

[証拠方法]
・審判請求書
甲第1号証:特開2004-224671号公報
甲第2号証:特開昭56-45758号公報
甲第3号証:特開昭57-82106号公報
甲第4号証:特開平9-154272号公報
甲第5号証:特開2005-224083号公報
甲第6号証:特開平8-148331号公報
・口頭審理陳述要領書
甲第7号証:昭和54年度文部省科学研究費総合研究(B):「オゾナ イザの高収率化とオゾン反応の環境科学的適用性に関する 研究」研究報告書、1980年3月、19頁-29頁およ び47頁-51頁(第3章「オゾナイザにおける放電の基礎 過程とオゾン生成反応」)
・上申書(1)
甲第7号証の2:甲第7号証の研究報告書の表紙および目次
・上申書(3)
甲第8号証:平成26年(ワ)第10522号(原告)及び平成26年 (ワ)第11701号(被告)における請求人提出の準備書 面(4)
・上申書(4)
甲第9号証:平成27年(行ケ)第10024号の判決(無効2014 -400005号事件について平成26年12月16日に した審決を取り消す。)平成27年10月22日言渡

2 被請求人の主張は、以下のとおりのものである。

「(1)本件審判の請求は成り立たない。
(2)審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」

被請求人は証拠方法として、次の乙第1号証ないし乙第16号証(以下、「乙1」ないし「乙16」という。)を提出している。

[証拠方法]
・答弁書
乙第1号証:陳述書
添付資料1
1頁 活性酸素の種類 2014.5.30
2頁 酸素分子の励起状態
3頁 活性酸素種
4頁 電子化装置の構造
5頁 酸素分子の電子負荷
添付資料2:第15回資源ものづくりシンポジウム(IM S2010)発表資料 H22.12.2
添付資料3:特許庁 平成23年度 特許出願技術動向調査 報告書(概要) H24.4
添付資料4:本件明細書の添付資料1、2
・上申書(審判事件答弁書(追加主張))
乙第2号証:無効2014-400005号の審理事項通知書
・口頭審理陳述要領書
乙第3号証:無効2014-400005号の審決
乙第4号証:本件明細書の添付資料1、2(乙第1号証の添付資料4)
乙第5号証:メチレンブルーの退色実験
乙第6号証:SODによる過酸化水素生成試験
乙第7号証:計量証明書((株)シモダアメニティーサービス)H26.2.15
乙第8号証:平成17年度 標準技術集 水処理技術
乙第9号証:オゾン利用に関する安全管理規準 H17.3
乙第10号証:論文「促進酸化法による排水中の微量有害有機物質分解 プロセスの開発」2006.2
乙第11号証:「空気の電子化装置」に純酸素を供給して燃えた状況
・上申書(3)
乙第12号証:吉川敏一「フリーラジカルの科学」(1997年5月1 0日)(株)講談社p.3-19
・上申書(5)
乙第13号証:食と健康の情報室 活性酸素の種類
・上申書(6)
乙第14号証:インターネットの「フリー百科事典『ウィキペディア( Wikipedia)』」における「活性酸素」
乙第15号証:実願2009-001629号の実用新案技術評価書作 成の通知書
・上申書(7)
乙第16号証:東京地裁平成26年(ワ)第10522号(被告)及び 同平成26年(ワ)第11701号(原告)における被 請求人提出の第9準備書面

第4 当審の判断

1 本件考案について

本件考案は、前記第2に記載のとおりであるところ、本件明細書には、本件考案について、概略、次のとおりの記載がある。
本件考案は、空気中の酸素分子を電磁的に励起させ、一重項酸素などの活性化酸素を発生させるための電子化装置に関する(【0001】)。
空気中の酸素分子は基底状態が三重項状態であり、有機化合物等との反応性は高くない。しかし、紫外線照射、荷電粒子照射、電磁波照射、高電圧照射等によって、反応性が高い活性酸素種に変換することができる。その例として、ヒドロキシ-ラジカル(OH^(・))、スーパーオキシドアニオン(O_(2)^(・-))、一重項酸素分子(^(1)O_(2))が知られている(【0002】)。
これらの活性酸素種のなかで特に注目されているのが、有機物との反応性が高いヒドロキシ-ラジカル(OH^(・))である。ヒドロキシ-ラジカル(OH^(・))は、過酸化水素(H_(2)O_(2))に銅や鉄などの重金属イオンを反応させるフエントン反応によって生成されるが、TiO_(2)の光触媒機構によっても発生する(【0003】)。
従来、高圧電流を流した放電針で紫外線を発光させ、放電筒のなかでマイナスイオンとオゾンを発生させる装置が知られていた(【0008】)。
しかしながら、発生した活性化空気を大気中に放散させると、活性化空気中に残留するオゾンの影響が心配され、環境的に問題となるため、解放的に使用することが難しかった(【0009】、【0011】)。
そこで、本件考案は、オゾンを発生させないで、空気を電子的に電子化させ、磁力を掛けて励起させることによって、一重項酸素などの活性酸素種を生成させる装置を提供することを課題とする(【0011】)。
本件考案は、高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管の先端に電磁コイルを巻き付け、その中心部に空気を流し込み、放電針から発生した自由電子を、電磁コイルの中心部に作用する空気の流れに沿った磁力線の電磁誘導によって、激しく回転させ、空気中の酸素分子と接触させて、酸素分子を電磁的に励起させ、その電子軌道に自由電子を付加させ、一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる空気の電子化装置である(【0012】、【0013】、【0016】、【0017】、【0025】)。
高電圧を流した放電針から発生する電子に磁力線を作用させると、空気中の酸素原子が励起されて、一重項酸素などの活性酸素種が発生することは、一般的には知られておらず、本件考案は、その仕組みを見出す実験の結果から体験的に得られたものである。その仕組みにより発生する活性酸素は、秒単位で消滅する非常に短命なもので、発生と同時に瞬時に消滅するので、オゾンのような有害性はなく、大気中や水中、土中などの開放された環境下でも、環境的に安全である(【0017】、【0025】)。
本件考案の実施形態は、次の図1(縦断面説明図)のとおりである(【0020】、【0029】)。
【図1】

すなわち、放電管1は、非電導性の樹脂で作り、筒状の管内部に放電針2と対面極3を端子4及び端子5で取り付けて固定する。その放電管1の先端部に、電磁コイル7を巻き付けたボビン6を接合して一体化する。電磁コイル7の末端は端子8及び端子9と接合し、外部電源から供給される電流が通電される構造とする。また、ボビン6に巻きつけられる電磁コイル7は、側板10及び側板11で固定する(【0020】)。

2 甲1?甲6に記載された事項

(1) 甲1には、次の記載がある(「発明」は「考案」に書き改めた。また、図面は、明細書中の該当箇所にて記載した。下線は、当審で付したものである。)。

【請求項1】
放電を利用したオゾンの発生方法であって、酸素ガスに放電を行った後に、回転電界もしくは磁界、あるいは回転電界および磁界のかかった空間内に導入することを特徴とするオゾン発生方法。
【請求項2】
放電を利用したオゾンの発生装置であって、酸素ガスを導入して放電を行うイオン化室と、回転電界もしくは磁界、あるいは回転電界および磁界をかけるイオン回転室とを有し、イオン化室をイオン回転室に接続するとともに、イオン化室において放電を受けたガスをイオン回転室に導入することを特徴とするオゾン発生装置。
【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は、放電を利用してオゾンを発生させる方法および装置に関する。・・・
【0002】
【従来の技術】
・・・オゾンの生成方法としては、無声放電を利用したものが多く知られている。・・・
【0003】
また、放電による酸素気体中の放電生成物としては、O_(2)^(+)、O_(2)(W)、O(^(1)D)、O、O_(2)(b^(1)Σg^(+))、O^(-)、O_(2)(a^(1)Δg)、O_(2)^(-)が揚げられる。この内、オゾンの生成エネルギーに近い生成エネルギーを有するO_(2)(b)、O^(-)、O_(2)(a)等の粒子が主にオゾンの生成に関与すると考えられている・・・。
【0005】
【考案が解決しようとする課題】
しかし、多くの方法は、電気放電の制御を行うものであり、放電部分を出たオゾンを含んだガスについては検討がなされてこなかった。
このため、従来の技術においては、・・・オゾンの生成に大きくかかわるO_(2)(b)、O^(-)、O_(2)(a)等の粒子の挙動について、制御は行われず、これらの粒子の多くをそのまま放出しているものである。・・・また、O^(-)をそのまま放出する場合には、酸素分子との衝突確率が非常に小さくなり、オゾン生成に関与することなく排出され、他の物質と反応し、オゾンが生成されないものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本願考案者等は、オゾンの収率を向上すべく、放電後のオゾンを含んだガス中に存在するイオン化された酸素原子の活用を考え、このイオン化した酸素原子を電磁的に誘導して酸素分子との衝突確率を増加させることにより、オゾン収率の向上を目指すものである。そして、イオン化した酸素原子を回転電界により強制的に回転させ、螺旋軌道を描かせることにより、酸素分子との衝突確率を増加させるものである。すなわち、放電による酸素気体中の放電生成物の内、オゾン生成エネルギーを有するO^(-)に着目し、積極的に回転運動を与え、且つ、ガスの自然拡散方向と異なる軌跡を与えることにより、酸素分子との衝突確率を増加させオゾン収率の向上を図るものである。
【0007】
酸素ガスに電気放電を行うことにより生成される物資において、荷電を有する物質を電磁気的に誘導して、未反応物質に衝突させることにより、生成反応を促進して、生成効率を向上させるものである。オゾンの生成においては、酸素分子への衝突確率を増大させるものであり、オゾンの生成効率を向上させるものである。そして、荷電した物質としては、オゾン生成エネルギーを有するO^(-)を利用するものであり、誘導手段としては電磁気により誘導することにより負に荷電した酸素原子を他の物質に接触させることなく、酸素分子に衝突させることができるものである。
【0008】
本考案は次のような手段を用いる。
請求項1に記載のごとく、放電を利用したオゾンの発生方法であって、酸素ガスに放電を行った後に、回転電界もしくは磁界、あるいは回転電界および磁界のかかった空間内に導入する。
【0009】
そして、請求項2に記載のごとく、放電を利用したオゾンの発生装置であって、酸素ガスを導入して放電を行うイオン化室と、回転電界もしくは磁界、あるいは回転電界および磁界をかけるイオン回転室とを有し、イオン化室をイオン回転室に接続するとともに、イオン化室において放電を受けたガスをイオン回転室に導入するオゾン発生装置を構成する。
【0010】
【考案の実施の形態】
・・・
図1は本考案のオゾン収率向上手段を示す模式図である。・・・
【図1】

オゾン収率向上手段は、放電部1と再反応部2により構成されている。放電部1において供給された酸素ガスに放電を行い、オゾンを生成するとともに、未反応のガスを再反応部2に供給するものである。そして、再反応部2において未反応のガスよりオゾンを生成するものであり、特に、未反応の酸素分子と負に荷電した酸素原子とによりオゾンを生成するものである。
【0011】放電部1には、供給管3により酸素ガスが供給され、放電電極4により放電が行われる。これにより、放電部1内において酸素ガスよりオゾンが生成するとともに、負に荷電した酸素原子などが生成する。放電部1に酸素ガスを供給することにより、酸素ガス、オゾンおよび負に荷電した酸素原子は放電部1と再反応部2とを連通する連通孔5より再反応部2に供給される。再反応部2には、排出口6が設けられており、連通孔5より供給された気体は排出口6へと流れるものである。そして、この気体には、放電部1において生成したオゾン、負に荷電した酸素原子、未反応の酸素分子が含まる。そして、この気体中において、負に荷電した酸素原子を電磁気的手法により再反応部2内において誘導することにより、負に荷電した酸素原子を他の気体分子と異なる挙動を取らせ酸素分子に衝突し易くするものである。これにより、オゾンを生成し易くするものである。オゾンを生成するに十分なエネルギーを持った酸素原子と未反応の酸素分子とを接触しやすくすることより、オゾンの生成効率を向上させるものである。負に荷電した酸素原子を電磁気的手法により誘導するので、負に荷電した酸素原子の寿命を長く保つことができ、他の物質との接触を避けながら酸素分子への衝突確率を向上することができる。これにより、再反応部2において効率的にオゾンを生成することができるものである。そして、再反応部2のガスは排出口6より排出される。
【0012】
・・・再反応部2内において、O^(-)に回転電界を与えることにより、O^(-)を再反応部2内において螺旋状の軌道に沿って移動させることができるものである。
図2はO^(-)の軌道の一例を示す図である。負に帯電させたイオンを図2のXY平面上でX軸と45°の角度で再反応部2内に射出する。
【図2】

(この再反応部2にはX軸方向に磁場BをYZ平面上に回転電界Eを印加している。)
この電場において、O^(-)は図2のような回転運動を行う。回転電界によるイオンの回転運動において、回転電界に対応する速度は回転電界と同期するように一意的に決まる。このため、YZ平面上の初速度の全てを電界の回転に使用した場合には、イオンは注入端からX軸方向に真直ぐ螺旋回転して進む。そして、YZ平面上の速度が負になったときは、XY平面において逆方向に進むこととなる。
【0013】
図3は3重電極を有する再反応部2の内部構成を示す斜視図である。
【図3】

再反応部2は前後方向に延出された筒状に構成されており、この再反応部2内に3重電極が配設されている。3重電極は電極11・11・11により構成されており、電極11は、前後方向に、互いに平行に配設されるとともに、正三角形の頂点位置に各電極11が配設された構成となっている。この電極11にそれぞれ、位相が120°ずつ、ずれた周波数の電圧を印加することにより、回転電界を発生させる。この回転電界により再反応部2内に導入されたイオンは螺旋状の軌跡を描きながら進むこととなる。
【0014】
さらに、再反応部2に磁界をかける場合について説明する。図4は磁界をかけた場合におけるO^(-)の挙動例を示す図、図5は同じくYZ平面におけるO^(-)の挙動例を示す図である。電極11の延出方向(図3においてX軸方向)にかける磁界を調節して、O^(-)イオンを回転運動させることが可能である。
【図4】


【図5】

回転電界をかけながら、磁界をかけることにより、重ね合わせの理から回転電界による回転とともに磁界による回転運動も行うものである。図5に示す例においては、回転電界により小さな回転を行いながら、磁界により大きな円を描きながら運動するものである。
このように、電界もしくは磁界、あるいは電界および磁界によりO^(-)イオン回転運動を制御してO^(-)イオンの酸素分子への衝突確率を増加させるものである。
【0015】
次に、本考案の実施の形態について図を用いて説明する。
図6はオゾン発生装置の模式図である。図6に示すオゾン発生装置は、酸素ガスに放電を行い、オゾンを生成するとともに、放電により発生した負に荷電した酸素原子を酸素分子に衝突させて、さらにオゾンを生成するものである。
【図6】

オゾン発生装置は、主に、酸素貯蔵部21、ガス流量制御装置22、放電部であるイオン化室23、イオン化室23に接続されたイオン化用高電圧源20、再反応部であるイオン回転室24、高周波三相交流発生器25により構成されている。・・・イオン化室23はイオン化室23内に導入された酸素分子に放電を行うものである。
【0016】
図7はイオン化室の一部側面断面図である。イオン化室23は、筒体29、針電極28、平板電極31、ガス供給管27、高圧ケーブル26により構成されている。筒体29は内側にガラス製容器を装着したステンレス製筒により構成されており、通気孔30が設けられている。筒体29の一端には高圧ケーブル26が接続されており、この高圧ケーブル26に接続する針電極28が配設されている。そして、筒体29の他端には通気孔30が設けられており、通気孔30より針電極28側に平板電極31が配設されている。さらに、筒体29にはガス供給管27が貫通しており、筒体29内部に酸素ガスを供給可能にしている。
【図7】

【0017】
イオン化室23は内部に酸素ガスを導入して、放電によりオゾンおよびイオン化した酸素原子を発生させるものである。イオン化室23において筒体29内にガス供給管27より酸素ガスが供給され、針電極28と平板電極31との間で放電が行なわれる。そして、さらに酸素ガスを筒体29内に供給することにより、放電をうけたガスが通気孔30より筒体29の外へ排出される。イオン化室23より排出されたガスは、イオン回転室24内に導入される。
【0018】
図8はイオン回転室の構成を示す側面断面図である。イオン回転室24は、筒体34の両端を閉じ、一方にイオン化室23を装着し、他方にオゾンガス排出口35を装着したものであり、内部に3重電極33を配設したものである。イオン化室23はイオン回転室24において、筒体34の延出方向に対して約45°の角度で挿入されている。これにより、3重電極33に回転電界をかけて、イオン化室23より排出されたガスに含まれるイオンを回転させ、イオンの進行方向とガスの進行方向をずらすものである。そして、イオン化室23よりガスが供給されることにより、筒体34内のガスがオゾン排出口35より排出されるものである。イオン回転室24内において、荷電した酸素原子を回転運動させて、酸素分子との衝突確率を増加させることにより、オゾンの生成効率を向上させることができるものである。
【図8】

【0019】
オゾン発生装置としては、磁界を利用して荷電した酸素原子を誘導するものを用いることも可能である。図9は磁界を利用するオゾン発生装置を示す図である。図9に示すオゾン発生装置は、酸素ガスに放電を行い、オゾンを生成するとともに、放電により発生した負に荷電した酸素原子を回転電界および磁界により誘導して酸素分子に衝突させて、さらにオゾンを生成するものである。
【図9】

オゾン発生装置は、酸素貯蔵部21、ガス流量制御装置22、放電部であるイオン化室23、イオン化室23に接続されたイオン化用高電圧源20、再反応部であるイオン回転室24、高周波三相交流発生器25、イオン回転室24に巻かれたコイル18および、コイル18に接続した直流電源19により構成されている。
そして、直流電源19よりコイル18に電流を通すことにより、コイル18によりイオン回転室24に磁界が発生し、イオン回転室24内に導入された荷電物質に回転運動をさせることができるものである。そして、これにより、荷電した酸素原子と酸素分子との衝突確率を増加させて、オゾン生成の効率を向上できるものである。
【0020】
【実施例】
・・・
オゾン発生装置は、図6に示した装置に、オゾン濃度計と取り付けて行ったものである。
酸素ガスは、酸素ガスボンベより99.5%の酸素ガスを供給し、ガス流量制御装置として最大流量2L/minのマスフローコントローラを利用した。そして、イオン化高圧電源として最大電流7μAの直流高電圧源を利用した。高周波三相交流発生器においては、周波数を180KHz、電圧を0.6Vとした。オゾン濃度計としては、濃度範囲0?10ppmのものを利用した。
【0021】
・・・放電状態の変化によるオゾン収率変化の確認のために、回転電界を印加することなく、直流高電圧によるイオン化の状態を測定した。実験条件は、供給酸素量50ml/minとし、回転電界をかけない場合と、かけた場合とで、それぞれ3時間ずつ測定し、オゾン濃度の変化を見た。
図10は回転電界によるオゾン濃度の影響を示す図である。図10において、横軸は時間軸であり、3時間目以降において回転電界をかけたものである。図10に示すごとく、回転電界をかけた後には、オゾン濃度が2倍ほどに上昇した。このように、放電を行った後の酸素ガスを、回転電界をかけた筒体内に導入することにより、オゾンの生成効率を向上できるものである。
【図10】

【0022】
【考案の効果】
このように、酸素ガスを導入して、放電によりオゾンを発生するとともに、同時に生成する荷電状態の酸素原子および酸素を利用して、オゾンを発生させるので、放電に用いたエネルギーを効率的に利用して、オゾンを生成できる。さらに、オゾン生成に用いる酸素を効率的にオゾンとすることが可能であるため、高い濃度のオゾンを効率的に生成できる。また、回転電界もしくは磁界を用いて荷電酸素原子の回転運動を制御するので、容易に荷電酸素原子の酸素分子との衝突確率を増加できる。そして、電磁気的手法を用いて荷電酸素原子を誘導するので、荷電酸素原子を容易に扱うことが出来るものである。

(2) 甲2には、次の記載がある。

「被反応気体に電界を印加して無声放電もしくはコロナ放電を発生させる放電装置と、前記被反応気体に磁界を印加して気体分子間で化学反応を生じさせる磁石装置を具備してなることを特徴とする気体反応装置。」(特許請求の範囲(1))
「この発明は反応させるべき気体に電界を印加して無声放電もしくはコロナ放電を発生させ同時に磁界を印加して気体に化学反応を生じさせるよう構成した気体反応装置である。」(第2ページ右上欄第3行?6行)
「このオゾン生成装置は、第1図に示すように、空気もしくは酸素ガス(1)が流通する円筒状の電極(2)と、この電極の内部に配設されている中心電極(3)と、この中心電極(3)と上記円筒電極(2)との間に、無声放電もしくはコロナ放電をこの円筒内で発生するように電圧を印加する放電用電源(4)と、円筒(2)の周囲でかつ中間位置に設けた超電導磁石装置で構成された磁石装置(5)とで主に構成されている。」(第2頁右下欄第12行?20行)
「次にこの装置の動作について説明する。まず円筒電極(2)と中心電極(3)との間に電圧を印加し円筒内を流通する空気(1)中で無声放電もしくはコロナ放電を発生させておく。次に磁石装置(5)を動作させて円筒内に磁界を印加する。円筒内を流通する空気中の酸素ガスからオゾンが生成され、円筒出口よりオゾン(12)を得る。」(第3頁左上欄第13行?19行)

1被反応気体、2円筒の電極、3中心電極、5磁石装置

(3) 甲3には、次の記載がある。

「対置した電極に高圧電流を印加して放電を行う既存構成の各種放電装置を、適宜の磁石の磁界中に設置し、該放電装置による放電現象に磁石の磁束を作用させて、もって、電極間を通過する空気中の酸素を活性化して、多量の活性酸素及び活性オゾンを生成するようにしたことを特徴とする、活性酸素生成装置。」(特許請求の範囲)
「平板電極方式の放電装置を採用した場合の本発明装置の具体的構成例につき説明すると、平板状の放電電極板(2)を、2枚乃至複数枚、等間隔に、間隔(3)をおいて対面設置し、各放電電極板(2)の導線(4)を高圧電源(例えば、トランス(5))に接続し、2枚乃至複数枚の放電電極板(2)からなる放電装置(1)を構成し、該装置(1)を、該装置(1)に近接して適宜設置した磁石(6)の磁界中に適宜設置する。
磁石(6)は、適宜の永久磁石(6)a、(6)b等を放電装置・・・の一側又は両側等に適宜設置する。また、電磁石の使用も当然に可である。・・・上記構成に於て、放電電極板(2)に高圧電流を印加し、また、各放電電極板間に空気を通すと、該放電板(2)間に放電が発生するが、該放電は同時に磁石(6)の磁界中において発生するため、磁束の作用を受け、ために、通過空気中の酸素が活性化されて多量の活性酸素及び活性オゾンが生成されるものである。」(1頁右下欄第15行?2頁左上欄第18行)

1放電装置、2放電電極板、3電極板の間隔、4導線、5トランス、6磁石

(4) 甲4には、次の記載がある。

「【請求項1】 可動子側の磁極部と該磁極部に巻回されるコイルとの間に前記磁極部より熱伝導率が高い非磁性のコイル冷却用部材を介在させ、該コイル冷却用部材を冷却液を介して冷却する冷却手段を備えたことを特徴とするリニアモータの冷却構造。」

「【0011】可動子1aは電磁鋼板を積層して形成されたヨーク5を備えており、該ヨーク5はスライダ4への取り付け部をなす板状のスライダ取付部6と、該スライダ取付部6から突出する複数の突磁極部(可動子側磁極部)7とを有する。尚、この実施の形態では、突磁極部7をスライダ取付部6の長手方向(スライダ4の移動方向)に沿って6極並設しているが、突磁極部7の数は特に限定されない。各突磁極部7には、それぞれボビン(コイル冷却用部材)8を介してコイル9が巻回されている。
【0012】ボビン8は、突磁極部7より熱伝導率が高いアルミニウム或いは銅等の非磁性金属で筒状に形成されて該突磁極部7に外挿されており、外周部にはコイル9との電気的絶縁のための絶縁塗装等が施されている。また、ボビン8のスライダ取付部6側の端部には、図3及び図4に示すように、フランジ11が形成されており、該フランジ11の両側にはそれぞれブロック状の冷却部材(冷却手段)10がスライダ取付部6の幅方向両側に位置して設けられている。フランジ11及び冷却部材10は、ボビン8と同様に突磁極部7より熱伝導率が高いアルミニウム或いは銅等の非磁性金属で形成されている。この場合、ボビン8、フランジ11及び冷却部材10の素材として非磁性金属に代えて合成樹脂を採用することもできるが、非磁性金属の方が合成樹脂に比べて突磁極部7に対する熱伝導性が良いので、冷却効果をより期待するためには非磁性金属が好ましい。また、ボビン8、フランジ11及び冷却部材10は同一素材で一体に成形或いは加工してもよく、又は同一若しくは異なる素材を互いに溶接接合してもよい。尚、図4において符号14は、ボビン8の材質として非磁性金属を用いた場合に、コイル9に電流を流した際にボビン8に二次電流が流れるのを防止すべくボビン8の外周部を軸方向に沿って切断するスリットである。」

(5) 甲5には、次の記載がある。

「【請求項1】
コイルボビンにコイルが巻回され、これがケースに収容されたモータ構造において、前記コイルボビン及びケースが熱伝導性の非磁性材料で形成されてなるモータ構造。」

「【0044】
図13は、コイルがボビンに巻回されたステータに対してロータが回転自在に臨んでいる状態を示している模式図である。(1)はその概略平面図であり、(2)はその概略側面図である。ここで、ボビン16A及びケースを熱伝導性を優先した非磁性導電性材料体であるアルミ材等を用いた場合、渦電流が発生しロータ負荷を来たす。符号1Aは渦電流発生領域である。なお、図13にいて16Bはボビンに巻かれた導体を示し、矢印はロータ14(永久磁石20)の回転方向を示している。」

【図13】

(6) 甲6には、次の記載がある。

「【請求項1】 真空または減圧の雰囲気下で用いる電磁石において、該電磁石のコイル導線が樹脂を充填してモールディングされてなることを特徴とする電磁石。」
「【0007】
【作用】ボビンは通常プラスチック等の非金属絶縁物が用いられているが、コイルから樹脂を通して受けた熱をボビン支持体へ逃すには熱伝導度の高い金属製とする方が効果的である。ボビンを金属製とした場合、コイル導線の巻線の工程で導線の被覆を破り導線をボビンへ電気的に短絡させる可能性があるためボビンの表面、特に巻線と接する面を絶縁物とすると短絡の可能性をなくすことができる。このためにはボビンの表面に絶縁物を塗布してから巻線を行なう方法あるいは金属製ボビンに表面処理を施して絶縁層を形成する方法を適用すればよい。たとえば、ボビンの材料にアルミニウムを用いる場合、アルマイト処理を施せば容易に絶縁層が形成できる。」

3 甲1に記載された考案について

(1) 甲1考案の認定

ア 前記2(1)から、以下の事項が認められる。

甲1の図6に記載されたオゾン発生装置は、「酸素貯蔵部21、ガス流量制御装置22、放電部であるイオン化室23、イオン化室23に接続されたイオン化用高電圧源20、再反応部であるイオン回転室24、高周波三相交流発生器25により構成され」(【0015】)たものであって、「放電による酸素気体中の放電生成物の内、オゾン生成エネルギーを有するO^(-)に着目し、積極的に回転運動を与え、且つ、ガスの自然拡散方向と異なる軌跡を与えることにより、酸素分子との衝突確率を増加させオゾン収率の向上を図るものである」(【0006】)。
(ア)ここで、O^(-)を生成させる放電は、高圧ケーブル26に接続された針電極28と平板電極31との間で行われ(【0016】?【0017】)るものであって、このような針電極と平板電極との間の放電は、針電極から電子が放出されるものであるから、甲1のオゾン発生装置においては、O^(-)を生成させる放電について、高電圧を流した針電極28から電子が発生されるものといえる。
(イ)また、「イオン化室23は内部に酸素ガスを導入して、放電によりオゾンおよびイオン化した酸素原子を発生させるものであ」(【0017】)り、「放電による酸素気体中の放電生成物としては、O_(2)^(+)、O_(2)(W)、O(^(1)D)、O、O_(2)(b^(1)Σg^(+))、O^(-)、O_(2)(a^(1)Δg)、O_(2)^(-)が揚げられ」(【0003】)、これらの放電生成物は、酸素ガスを励起したものであるから、イオン化室23は、イオン化室23に流し込まれた酸素ガスを励起して、O_(2)^(+)、O_(2)(W)、O(^(1)D)、O、O_(2)(b^(1)Σg^(+))、O^(-)、O_(2)(a^(1)Δg)、O_(2)^(-)を生成させるものであるといえる。
(ウ)そして、「イオン化室23より排出されたガスは、イオン回転室24内に導入され」(【0017】)、「イオン化室23より排出されたガスに含まれるイオンを回転させ、イオンの進行方向とガスの進行方向をずらすもの」(【0018】)であるから、甲1のオゾン発生装置は、イオン化室23の先端にイオン回転室24を設けたものであるといえる。
(エ)また、「図6に示すオゾン発生装置は、酸素ガスに放電を行い、オゾンを生成するとともに、放電により発生した負に荷電した酸素原子を酸素分子に衝突させて、さらにオゾンを生成するものであ」(【0015】)り、「イオン回転室24内において、荷電した酸素原子を回転運動させて、酸素分子との衝突確率を増加させることにより、オゾンの生成効率を向上させることができるものである」(【0018】)から、甲1のオゾン発生装置は、イオン回転室24において、生成したイオンに対し、回転運動を与え、酸素分子と衝突させてオゾンを生成するものであるといえる。
(オ)そこで、上記イオン及びイオンを回転運動を与える手段がどのようなものであるかについて検討する。
甲1のオゾン発生装置について、その課題は、従来の無声放電を利用したオゾンの生成方法では、オゾンの生成に関わるO_(2)(b)、O^(-)、O_(2)(a)等の粒子の多くが、オゾン生成に関与しないまま放出されており、オゾンの収率が低いことであって(【0002】、【0003】、【0005】、【0006】)、甲1のオゾン発生装置は、放電による酸素気体中の放電生成物のうち、オゾン生成エネルギーを有するイオン化された酸素原子O^(-)に着目し、これを回転電界により強制的に回転させ、ガスの自然拡散の方向と異なる螺旋軌道を描かせることにより、酸素分子との衝突確率を増加させ、オゾン収率の向上を図ったものである(【0006】)と認められる。
また、甲1には、O^(-)を回転させる具体的な手段として、<1>再反応部であるイオン回転室に設けられた3重電極のそれぞれに、位相が120°ずつ、ずれた高周波の電圧を印加して発生した回転電界をかけること(【0009】、【0012】、【0013】、【0015】、【0018】)、<2><1>に加えて、イオン回転室に巻かれたコイルに直流電源から電流を通して発生した磁界をかけること(【0009】、【0012】、【0014】、【0019】が開示されている。
以上によれば、甲1のオゾン発生装置においては、放電による酸素気体中の放電生成物のうち、O^(-)以外のものは、回転運動を与える対象とされていないといえる。

また、甲1には、「回転電界もしくは磁界、あるいは回転電界および磁界」(【請求項1】、【請求項2】、【0014】)、「回転電界もしくは磁界を用いて」(【0022】)との記載があり、文言上、O^(-)を、電界及び磁界により回転させることのほか、電界のみ又は磁界のみによって回転させることが示されている。
しかしながら、甲1には、上記記載以外に、O^(-)に、電界をかけず、磁界のみをかけることにつき、実施例を含む具体的な記載はない。むしろ、磁界を利用するオゾン発生装置を示す図である図9は、オゾン発生装置の模式図である図6に、コイルと、コイルに接続された直流電源を加えたものであることを考え併せると、甲1のオゾン発生装置において、O^(-)に、3重電極により発生する電界をかけず、コイルにより発生する磁界のみをかけることは、想定されていないと解される。
そして、甲1には、図6に示した装置のオゾン生成結果についての記載はある(【0020】、【0021】)ものの、O^(-)に磁界のみをかけた装置によるオゾン生成結果についての記載はなく、O^(-)に磁界のみをかけた場合にも、現実的な装置設計の範囲内で、3重電極により発生する電界をかけた場合と同程度のオゾンの収率が確保できるのかは明らかではなく、他にこの場合のオゾンの収率を推定し得る技術常識を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、甲1のオゾン発生装置は、イオン回転室24において、生成したO^(-)に対し、3重電極33及びコイル18によって発生した回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え、酸素分子と衝突させてオゾンを生成するものといえる。

イ 以上のことから、特に、オゾン生成エネルギーを有するO^(-)によるオゾン発生に着目すると、甲1には、以下の考案が記載されていると認められる(以下、「甲1考案」という。)。

「高電圧を流した針電極28から電子を発生させるイオン化室23の先端に、内部に3重電極33が配設され、コイル18が巻かれたイオン回転室24を設け、
イオン化室23の中に流し込まれた酸素ガスを励起して、O_(2)^(+)、O_(2)(W)、O(^(1)D)、O、O_(2)(b^(1)Σg^(+))、O^(-)、O_(2)(a^(1)Δg)、O_(2)^(-)を生成し、イオン回転室24において、生成したO^(-)に対し、3重電極33及びコイル18によって発生した回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え、酸素分子と衝突させてオゾンを生成する酸素ガスのオゾン発生装置。」

4 本件考案1と甲1考案の対比

(1) 甲1考案の「針電極28」は、本件考案1の「放電針」に相当し、甲1考案の「高電圧を流した針電極28から電子を発生させるイオン化室23」は、本件考案1の「高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管」に相当する。

(2)ア 本件考案1は、「一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる」空気の電子化装置であるところ、このうち、「一重項酸素などの」という部分は、その文言上、「活性酸素種」の例示であって、「活性酸素種」の内容を限定するものではない。
前記第4の1のとおり、本件明細書には、紫外線照射、荷電粒子照射、電磁波照射、高電圧照射等によって、空気流の酸素分子が、反応性が高い活性酸素種に変換されるところ、その例として、ヒドロキシ-ラジカル(OH^(・))、スーパーオキシドアニオン(O_(2)^(・-))、一重項酸素分子(^(1)O_(2))が知られている(【0002】)ことが記載されているが、本件明細書中に、前記以外に、ヒドロキシ-ラジカル(OH^(・))、スーパーオキシドアニオン(O_(2)^(・-))、一重項酸素分子(^(1)O_(2))以外のいかなる物質が「活性酸素種」に含まれるものかについての記載はない。
イ そして、乙1添付資料第1頁、及び、乙13、乙14によれば、一般に、「活性酸素」には、「狭義の活性酸素」と「広義の活性酸素」があり、オゾン(O_(3))は、狭義の「活性酸素」ではないが、広義の「活性酸素」であることが認められる。
また、本件明細書の記載中にも、例示された一重項酸素以外で前記「活性酸素種」に含まれるのは、どのような物質か、前記「活性酸素種」は、狭義の活性酸素を意味するのか、広義の活性酸素を意味するのかについて、明確な記載はなく、また、前記「活性酸素種」に含まれる物質を認定するに足りる証拠はない。
そうすると、前記第4の1のとおり、本件明細書に、「オゾンを発生させないで、空気を電子的に電子化させ、磁力を掛けて励起させることによって、一重項酸素などの活性酸素種を生成させる」(【0011】)、「その仕組みにより発生する活性酸素は、・・・オゾンのような有害性はなく、・・・環境的に安全である。」(【0017】、【0025】)旨の記載があるとしても、本件考案1の「活性酸素種」につき、一重項酸素及び二重項酸素のみに限られると解することはできず、狭義の活性酸素に限られると解することもできないのであって、結局、オゾンを含む広義の活性酸素全部を含むものと解するほかない。
ウ 以上によれば、本件考案1で生成される「一重項酸素などの活性酸素種」と、甲1考案で生成される「オゾン」は、本件考案1に係る請求項の「活性酸素種」、すなわち、広義の活性酸素種である点において共通する。

(3) 本件考案の請求項1には、「空気中の酸素分子を励起させることによって」活性酸素種を生成させることのできる空気の電子化装置であることが記載されているところ、この「空気中の酸素分子を励起させる」ことについては、本件明細書には、高電圧を流した放電針から発生する自由電子に、電磁コイルにより発生する磁力線を作用させて激しく回転させ、酸素分子と接触させることにより、「空気中の酸素分子が励起する」のであって、その結果、空気中の酸素分子の電子軌道に自由電子が付加して、「活性酸素種」が生成される旨記載されているといえる(【0012】、【0013】、【0016】、【0017】、【0025】)。

そうすると、本件考案における「空気中の酸素分子を励起させる」とは、放電針から発生した電子が、電磁コイルにより発生する磁界によって激しく回転する状態となり、空気中の酸素分子の電子軌道に付加されることを意味するものであるといえる。

(4) 上記(2)で述べたことを考慮すれば、甲1考案の「オゾンを生成する酸素ガスのオゾン発生装置」と、本件考案1の「一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる空気の電子化装置」とは、「活性酸素種を生成させることができる装置」である点で共通する。

(4) 以上によれば、本件考案1と甲1考案の一致点及び相違点は、以下のとおりであると認められる。

【一致点】
高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管を有し、活性酸素種を生成させることができる装置。

【相違点】
本件考案1は、空気中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる空気の電子化装置であって、励起の手段が電磁コイルであるのに対して、
甲1考案は、イオン化室23に流し込まれた酸素ガスを励起して生成したO^(-)に対し、イオン回転室24において、3重電極33及びコイル18によって発生した回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え、酸素分子と衝突させてオゾンを生成する酸素ガスのオゾン発生装置である点。

5 新規性について(相違点の検討)

前記4のとおり、本件考案と甲1考案は、励起の対象として流し込まれるガスが空気(本件考案)か酸素ガス(甲1考案)か、回転運動をさせる対象となる荷電粒子が電子(本件考案)かO^(-)(甲1考案)か、課題解決手段が磁界(本件考案)か回転電界及び磁界(甲1考案)かという点で相違するのであって、これらの相違点は、いずれも実質的なものと認められるから、本件考案が新規性を欠くとは認められない。

6 容易想到性について

(1)ア 前記2の(2)、(3)のとおり、甲2及び甲3のいずれにも、空気又は酸素ガスに電界と磁界を同時に印加してオゾン等を発生させる装置が記載されていることが認められるものの、磁界のみを単独で印加することは記載されていない。
また、甲2又は甲3に基づき、磁界のみを単独で印加してオゾン等を発生させるという周知技術が存在するとは認められない。
そうすると、甲1考案と甲2及び3から認められる周知技術を組み合わせても、「回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え」るという構成が、磁界のみをかけて回転運動を与えるという構成になるとは認められない。
イ また、前記3のとおり、甲1の記載から、O^(-)に磁界のみをかけた場合にも、現実的な装置設計の範囲内で、3重電極により発生する電界をかけた場合と同程度のオゾンの収率が確保できるのかは明らかではなく、他にこの場合のオゾンの収率を推定し得る技術常識を認めるに足りる証拠はないことを考え併せれば、甲1考案の3重電極33を省略する動機付けは認められない。
ウ さらに、回転させる対象を、O^(-)から電子に替える場合には、それに伴い、甲1考案の3重電極33を省略する動機付けがあるかにつき、別途検討する必要があると解されるので、この点につき検討するに、前記3のとおり、甲1考案は、オゾン生成エネルギーを有する酸素原子O^(-)に着目し、これを回転電界により強制的に回転させ、ガスの自然拡散の方向と異なる螺旋軌道を描かせることにより、酸素分子との衝突確率を増加させ、オゾン収率の向上を図る(【0006】)ことを課題解決手段とするものであって、甲1の記載中に、回転運動の対象となる荷電粒子を、O^(-)から電子に変更することにつき、示唆があると認めることはできず、他に前記変更についての動機付けの存在を認める足りる事実はない。
エ 以上のとおりであって、甲1考案において、励起の対象が「酸素ガス」であり、その励起手段が「3重電極」及び「コイル」であるという構成に替えて、励起の対象が「空気中の酸素分子」であり、その励起手段が「電磁コイル」であるという構成を適用することは、動機付けを欠き、本件考案1は、甲1考案並びに甲2及び3に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとはいえない。

(2) 容易想到性についての請求人の主張について

請求人は審判請求書第8頁において、「甲2号証及び甲3号証に記載されているように、本件実用新案登録の出願前に、高圧電流を印加した電極から放電させる円筒状の放電装置に、円筒状の電磁石を適宜に配置して、放電装置内を通過する空気中の酸素を励起させて活性酸素種を生成する技術は、周知技術として当業者に広く知られていた。」と主張している。
しかしながら、上記6(1)で検討したとおり、甲2又は甲3をみても、本件考案1のように、磁界のみを単独で印加してオゾン等を発生させるという周知技術は認められないから、高圧電流を印加した電極から放電させる円筒状の放電装置に、円筒状の電磁石を適宜に配置して、放電装置内を通過する空気中の酸素を励起させて活性酸素種を生成する技術は周知技術であるとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

7 本件考案2について

本件考案2は、前記第2のとおり、本件考案1の構造に、電磁コイルの筒(ボビン)の材質を非磁性体金属で作ることを構成要件として付加するものであるところ、本件考案1が、甲1考案並びに甲2及び3に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとはいえないことは、前記認定のとおりである。そして、前記2の(4)?(6)のとおり、甲4はリニアモータの冷却構造、甲5はモータ構造、甲6は電磁石の発明であり、甲4、甲5及び甲6には、いずれも、「空気中の酸素分子」を「電磁コイル」で励起するという構成についての記載はないから、本件考案2が、甲1考案及び甲4?6記載の周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたともいえない。

8 まとめ

以上のとおり、本件考案1は、甲1考案と同一ではなく、また、甲1考案並びに甲2及び3に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとはいえない。
また、本件考案2は、甲1考案及び甲2ないし甲6に記載された周知技術に基づいてきわめて容易に考案をすることができたとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由(実用新案法第3条第1項第3号及び第2項)には理由がなく、本件実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2017-11-29 
結審通知日 2017-12-04 
審決日 2017-12-18 
出願番号 実願2007-2789(U2007-2789) 
審決分類 U 1 114・ 121- Y (B01J)
最終処分 不成立    
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 原 賢一
井上 能宏
登録日 2007-06-20 
登録番号 実用新案登録第3133388号(U3133388) 
考案の名称 空気の電子化装置  
代理人 中野 圭二  
代理人 大嶋 勇樹  
代理人 大嶋 芳樹  

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