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審決分類 審判    E04F
管理番号 1379895
審判番号 無効2020-400006  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-12-10 
確定日 2021-09-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第3207590号実用新案「ジョイントマット」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第3207590号の請求項1ないし3に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件無効審判の請求に係る実用新案登録第3207590号(以下「本件実用新案登録」という。)の請求項1ないし3に係る考案(以下、各請求項に係る考案を「本件考案1」などという。)についての出願は、平成28年9月8日に実用新案登録出願され、同年10月26日にその実用新案権の設定登録がされ、平成29年3月21日に実用新案技術評価書が作成されたものである。
これに対して、令和2年12月10日に請求人である水野勝文、井出真、須澤洋、久松洋輔、冨所剛により、本件考案1ないし3の実用新案登録について実用新案登録無効審判の請求(以下「本件無効審判請求」という。)がされた。令和3年1月5日付けで請求書副本を送達するとともに期間を定めて答弁書提出の機会を与えたが、被請求人からは応答がなかったため、本件の審理は、職権により書面審理とし、同年3月26日付けで、請求人及び被請求人に対して、書面審理通知書を通知した。

第2 本件考案
本件考案1ないし3は、実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
各辺部に、隣り合うジョイントマットと連結するための凹、凸嵌合部が形成された矩形状のジョイントマットにおいて、
発泡性軟質合成樹脂からなるマット本体と、
該マット本体の表面に積層され、合成樹脂からなる化粧フィルム層と、
該化粧フィルム層の表面に積層され、かつ透明または半透明の合成樹脂からなる防滑フィルム層とを備えたことを特徴とするジョイントマット。
【請求項2】
前記化粧フィルム層の素材が2軸延伸ポリプロピレンで、
前記防滑フィルム層の素材が低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1に記載のジョイントマット。
【請求項3】
前記発泡性軟質合成樹脂の素材が、発泡エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂で、
前記化粧フィルム層の表面には木目柄がプリントされ、
前記ジョイントマットの防滑フィルム層側には、エンボス加工が施されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のジョイントマット。」

第3 請求人の主張
1 請求の趣旨、証拠方法
請求人は、実用新案登録第3207590号の実用新案登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として次の甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。
<証拠方法>
甲第1号証:登録実用新案第3074296号公報
甲第2号証:特許第5678553号公報
甲第3号証:特開2002-30811号公報
甲第4号証:実用新案登録第3137684号公報
甲第5号証:特開2007-39576号公報

2 請求人が主張する無効理由
請求人が主張する本件無効審判請求の理由は以下のとおりである。
なお、本件請求書における「本件登録実用新案1」等の表記を、前記「第1」に合わせて、『本件考案1』等と表記するとともに、「甲1-1考案」等の表記(甲〇-●との表記のうち、〇が証拠番号、●が本件登録実用新案の請求項の番号に対応)は、本件請求書における「(4)本件登録実用新案を無効にすべき理由」の記載を参酌し、『甲第1号証に記載された考案』、『甲第2号証に記載された技術的事項』等と表記した。

ア 本件考案1は、本件実用新案登録出願前に公開された甲第1号証に記載された考案及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて、その考案の属する分野における通常の知識を有する者が実用新案登録出願前に極めて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、同法第37条第1項第2号に該当し、本件登録実用新案は無効とすべきものである。
イ 本件考案2は、本件実用新案登録出願前に公開された甲第1号証に記載された考案、甲第2号証に記載された技術的事項及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて、その考案の属する分野における通常の知識を有する者が実用新案登録出願前に極めて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、同法第37条第1項第2号に該当し、本件登録実用新案は無効とすべきものである。
ウ 本件考案3は、本件実用新案登録出願前に公開された甲第1号証に記載された考案、甲第2号証に記載された技術的事項、甲第3号証に記載された技術的事項及び甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて、その考案の属する分野における通常の知識を有する者が実用新案登録出願前に極めて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、同法第37条第1項第2号に該当し、本件登録実用新案は無効とすべきものである。

第4 被請求人の主張
当審は、令和3年1月5日に被請求人代理人に対し期間を指定して答弁指令を行ったが、被請求人代理人から何ら応答はなかった。

第5 当審の判断
1 各甲号証の記載事項等
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証(以下「甲1」という。)には、以下の記載がある。
ア「【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は、床用弾性プラスチックタイルに関し、特に破損し難い、軟くて人を傷付けない床用弾性プラスチックタイルに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に市販の継合せタイルは、弾性プラスチック材を一体油圧発泡成型して造られ(発泡材)、この種従来の継合せタイルはその柔軟な本体が極めて高い振動吸収効果を具えていることから、床の上に敷くと、上下フロアの騒音を有効に隔離できるほか、子供部屋の床面に敷いて、子供がつまずきあるいは転んで怪我するのを防止できる。」
イ「【0005】
上記により、業界で表面に化粧皮膜を張った継合せタイルが開発されたのであり、第3、4図に示す如く、この種継合せタイル1は、弾性プラスチック基材101に木目など模様をプリントしたプラスチック化粧皮膜102を張付けて、該プラスチック基材101と該プラスチック化粧皮膜102の周縁沿いに連続的に凹凸して切込部103,105および凸歯部104,106を形成し、該切込部103,105と該凸歯部104,106により多数の継合せタイル1を所定坪数の柔軟床板に組合せることができて、該プラスチック化粧皮膜102を貼付けた継合せタイル1は灰塵や水が附着しても雑巾で容易に拭く取ることができ、掃除が容易で、上記従来の継合せタイルに比べて拭き掃除が容易である優点があるが、該継合せタイル1のプラスチック化粧皮膜102とプラスチック基材101は同時に凹凸連続の切込部103,105および凸歯部104,106を形成しているため、それぞれ両継合せタイル1が切込部103,105と凸歯部104,106により互いに嵌合して、正常使用の下では、該プラスチック化粧皮膜102周縁にも該プラスチック基材101の切込部103および凸歯部104と互いに貼合せる切込部105および凸歯部106が設けられて、該プラスチック化粧皮膜102が硬質プラスチックであるに対して該プラスチック基材101は軟質プラスチックである上、各継合せタイル1はそれぞれが単一個体なので、出っ張りが多すぎて長期間踏まれると凸凹(でこぼこ)が生じ、それぞれ角107が欠けたりあるいはめくれ上がったりして(第4図に示す如く)、掃除する際に角107’で怪我し易い。」
ウ 図1、図4
「【図1】

【図4】


エ 上記ウの図1の記載から、継合せタイル1は、略正方形状をしていることが看て取れ、上記ウの図4の記載から、プラスチック基材101は、継合せタイル1の本体を構成していることが看て取れる。

オ 甲1考案
上記アないしエによれば、甲1には、次の考案(以下「甲1考案」という。)が記載されているものと認められる。
【甲1考案】
「表面に化粧皮膜を張った略正方形状の継合せタイルであって、
継合せタイル1は、弾性プラスチック基材101に木目など模様をプリントしたプラスチック化粧皮膜102を張付けてなり、該プラスチック化粧皮膜102が硬質プラスチックであるに対して該プラスチック基材101は軟質プラスチックであり、
該弾性プラスチック基材101と該プラスチック化粧皮膜102の周縁沿いに連続的に凹凸して切込部103,105および凸歯部104,106を形成し、該切込部103,105と該凸歯部104,106により多数の継合せタイル1を所定坪数の柔軟床板に組合せることができる、
継合せタイル。」

(2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証(以下「甲2」という。)には、以下の記載がある。
ア「【0001】
本発明は、広告宣伝等の目的で装飾された印刷物の表面を保護するための表面保護フィルム、さらに、この表面保護フィルムを印刷シートに圧着してなる装飾シート、特に床用装飾シートに関するものである。」
イ「【0012】
〔表面保護層13〕
表面保護層13は、表面保護フィルム10の最表面となる層であり、電離放射線硬化性樹脂組成物の架橋硬化物により構成する。電離放射線硬化性樹脂組成物は透明であることが好ましい。
本発明においては、表面保護層13の表面上に凹凸形状が存在し、該凹凸形状のJIS B 0601-1982で規定される中心線平均粗さRaが5?20μmであることを要し、好ましくは5?15μmである。中心線平均粗さRaが5μm以上であることを要するのは、表面保護フィルム10の滑り性を適度にして、歩行する人のスリップ防止のためであり、中心線平均粗さRaが15μm以下であることを要するのは、滑り性を適度にすると共に耐擦傷性及び靴底の摩耗性を確保するためである。中心線平均粗さRaが上記の範囲内であれば、滑り過ぎずに適度に滑るという、適度な滑り性が得られる。
・・・
【0013】
凹凸形状の形成方法は、いかなる方法でも良く、特に制限されるものではないが、例えば、熱によるエンボス加工、賦形シートによって表面保護層に転写させる方法などが挙げられる。
・・・」
ウ「【0033】
本発明の第2の発明である装飾シート、特に床用装飾シートは、表面保護フィルム10を印刷シートに圧着してなるものである。
本発明の装飾シートの典型的な構造を、図2を用いて説明する。図2は本発明の装飾シート50の断面を示す模式図である。図2に示す例では、印刷シート30は被印刷体31の表面側に絵柄印刷層32が設けられ、被印刷体31の裏面側に第2粘着剤層33が設けられている。この印刷シート30の絵柄印刷層32表面に、表面保護フィルム10裏面の粘着剤層15が貼着されて装飾シート50が構成される。・・・
【0034】
〔印刷シート30〕
印刷シート30は、装飾(例えば、広告宣伝のための情報)を画像(絵柄)として受容する媒体であり、必要な時(オンデマンド)に所望の印刷法により所望の絵柄を表面に印刷する。すなわち、必要な時がくるまでの間は、印刷しない白紙状態のまま保管しておくものである。この印刷シート30の各層について説明すると次のようである。
【0035】
(被印刷体31)
被印刷体31は、表面に所望の印刷法及びその印刷インキに対する受容性を有することが好ましい。・・・
【0036】
この被印刷体31の材料としては、熱可塑性樹脂、特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナレフタレート、エチレングリコール-テレフタル酸-イソフタール酸共重合体、テレフタル酸-エチレングリコール-1,4シクロヘキサンジメタノール共重合体、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等のポリエステル樹脂、ポリメチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート-ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート-スチレン共重合体等のアクリル樹脂((メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する)、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等が挙げられる。そして、これらの樹脂を必要に応じて、未延伸、1軸延伸或いは2軸延伸したものを用いる。被印刷体31の厚みは20?400μmが好ましい。厚みが20μm以上であれば、エアがみやタルミ等の歪みの発生を好適に防止できる。また、厚みが400μm以下であれば、印刷シート30や装飾シート50の段差が歩行等に影響しにくく好ましい。」

エ 上記アないしウの記載によれば、甲2には、以下の技術的事項が記載されている。
【甲2記載の技術的事項】
「表面保護フィルム10を印刷シートに圧着してなる床用装飾シートにおいて、
印刷シート30の被印刷体31の材料をポリプロピレンとし、必要に応じて2軸延伸したものを用い、
表面保護フィルム10の最表面となる表面保護層13を透明な硬化性樹脂組成物の架橋硬化物により構成し、表面保護層13の表面上にエンボス加工により凹凸形状を形成することで、表面保護フィルム10の滑り性を適度にして歩行する人のスリップを防止する技術。」

(3)甲第3号証の記載事項
甲第3号証(以下「甲3」という。)には、以下の記載がある。
ア「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、リサイクル可能な工事用保護シートに関する。さらに詳しくは、家屋やマンションなどの建築工事において、フローリング等の床材が施工された後その上に仮に貼設して床材を保護するシートであって、容易にリサイクル可能な工事用保護シートに関する。」
イ「【0005】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明のリサイクル可能な工事用保護シートは、織編布とクッション材とを接着層を介して積層した積層体の少なくとも片面に保護層を設けた構成部材の全ての素材がポリオレフィンからなる構成とするものである。」
ウ「【0018】本発明においては、上記積層体の少なくとも片面にポリオレフィンからなる保護層を設けた構成とする。この保護層を形成する方法としては押出ラミネート法が好ましく、保護層の厚みとしては、30?200μmが好ましく、30?100μmがより好ましい。保護層の厚みが30μm未満では、保護層としての機能が不十分となり好ましくなく、200μmを越えると荷重が増加するとともに剛性が増して好ましくない。上記保護層は工事用保護シートの防水性、防汚性、防滑性などを保持するために設けられるもので、少なくとも織編布表面に設けられるのが好ましく、積層体の両面に設けられてもよい。
【0019】上記サンドイッチラミネート法による接着層および押出ラミネート法による保護層に用いられるポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒により製造されたエチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体などのポリエチレン系樹脂、あるいはポリプロピレン、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーなどのポリプロピレン系樹脂等、通常ラミネート法に用いられるポリオレフィンが使用でき、これらは単独または2種以上混合して用いてもよい。」

エ 上記アないしウの記載によれば、甲3には、以下の技術的事項が記載されている。
【甲3記載の技術的事項】
「床材を保護するシートにおいて、保護シートの防水性、防汚性、防滑性などを保持するために積層体の少なくとも片面にポリオレフィンからなる保護層を設け、保護層に用いられるポリオレフィンとして低密度ポリエチレンを使用する技術。」

(4)甲第4号証の記載事項
甲第4号証(以下「甲4」という。)には、以下の記載がある。
ア「【0002】
幼児の遊び場等においては、転倒時の衝撃を吸収する目的で、弾力性を有するジョイントマットが床の上等に敷かれる場合がある。このジョイントマットは、同一の他のジョイントマットと繋げられて敷き詰められるように構成されている。・・・」
イ「【0043】
このジョイントマット16は、気泡を含むポリマー成形体からなる。基材ポリマーとしては、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、天然ゴム及び各種合成ゴムが例示される。2以上の基材ポリマーが併用されてもよい。成形容易の観点から、熱可塑性樹脂が好ましい。焼却処分されたときに有害物質が発生しないとの観点から、ポリオレフィン系樹脂(エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン等)が好ましく、形状復元力に優れるエチレン酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。
【0044】
このジョイントマット16は気泡を含んでいるので、幼児や老人が転倒した場合でも衝撃が吸収される。気泡を含むジョイントマット16は断熱性に優れるので、人に温もり感を与える。・・・」

ウ 上記ア及びイによれば、甲4には、以下の技術的事項が記載されている。
【甲4記載の技術的事項】
「同一の他のジョイントマットと繋げられて敷き詰められるジョイントマットにおいて、ジョイントマット16は、気泡を含むポリマー成形体からなり、基材ポリマーとしては、形状復元力に優れるエチレン酢酸ビニル共重合体が特に好ましいとする技術。」

(5)甲第5号証の記載事項
甲第5号証(以下「甲5」という。)には、以下の記載がある。
「【0003】
床面に貼着して使用されるシートにあっては、その上を人が歩行するので、表面の滑りが良すぎても、また滑り難さが高すぎても好ましくなく、したがって適度な防滑性を有するとともに、耐摩耗性が良好であり、かつ表面が汚れ難いことが要求されるが、これらの特性を同時に満たすことは容易ではない。・・・」

2 対比・判断
(1)本件考案1について
本件考案1と甲1考案とを対比すると、
甲1考案における「略正方形状の」「継合せタイル」は、本件考案1における『矩形状』の『ジョイントマット』に相当し、
甲1考案の「略正方形状の」「継合せタイル」において、継合せタイルを構成するプラスチック基材101とプラスチック化粧皮膜102の「周縁沿いに」「多数の継合せタイル1を所定坪数の柔軟床板に組合せることができ」るように「連続的に凹凸して切込部103,105および凸歯部104,106を形成」することは、本件考案1の『矩形状のジョイントマット』において、『各辺部に、隣り合うジョイントマットと連結するための凹、凸嵌合部が形成され』ることに相当し、
甲1考案における「弾性プラスチック基材101」は「軟質」プラスチックであること、前記「1(1)ア」の段落【0002】に「一般に市販の継合せタイルは、弾性プラスチック材を一体油圧発泡成型して造られ(発泡材)」との記載があることから「発泡材」であると解するのが自然であり、「継合せタイル1の本体」を構成していることを踏まえると、甲1考案における「弾性プラスチック基材101」は、本件考案1の『発泡性軟質合成樹脂からなるマット本体』に相当し、
甲1考案において、「木目など模様をプリントしたプラスチック化粧皮膜102」が「弾性プラスチック基材101」に「張付け」られることは、本件考案1において、『合成樹脂からなる化粧フィルム層』が『該マット本体の表面に積層され』ることに相当する。

以上によれば、本件考案1と甲1考案とは、以下の一致点、及び、相違点を有する。
【一致点】
各辺部に、隣り合うジョイントマットと連結するための凹、凸嵌合部が形成された矩形状のジョイントマットにおいて、
発泡性軟質合成樹脂からなるマット本体と、
該マット本体の表面に積層され、合成樹脂からなる化粧フィルム層と、
を備えるジョイントマット。
【相違点1】
本件考案1は、「該化粧フィルム層の表面に積層され、かつ透明または半透明の合成樹脂からなる防滑フィルム層」を備えるのに対し、甲1考案は、かかる防滑フィルム層を備えていない点。

上記相違点1について検討する。
甲5によれば、床面で使用されるシートにあっては、その上を人が歩行するので、表面の滑りが良すぎても滑り難さが高すぎても好ましくなく、適度な防滑性が要求されるところ(前記「1(5)」参照)、甲1考案の「継合せタイル」においても、多数の継合せタイル1を組み合わせて柔軟「床板」として使用するものであるから、表面の滑りが良すぎないよう適度な防滑性が要求されることは自明である。
そうすると、甲2記載の技術的事項は、床用装飾シートにおいて、最表面となる層を、透明な硬化性樹脂組成物の架橋硬化物により構成し、その表面上に凹凸形状を形成することで滑り性を適度にする技術であり、当該「凹凸形状」が形成された「透明な硬化性樹脂組成物の架橋硬化物」は、上記相違点1に係る構成における「透明の合成樹脂からなる防滑フィルム層」に相当するところ、甲1考案と甲2記載の技術的事項は、床面上で使用されるシートである点で技術分野が共通し、表面の滑りが良すぎないようにすることを解決課題としている点で共通しているから、甲1考案において、甲2記載の技術的事項を採用し、甲1考案の「プラスチック化粧皮膜102」の表面に「凹凸形状」が形成された「透明な硬化性樹脂組成物の架橋硬化物」を積層することで上記相違点1に係る本件考案1の構成とすることは、当業者がきわめて容易になし得たことである。

したがって、本件考案1は、甲1考案及び甲2記載の技術的事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

(2)本件考案2について
本件考案2は、本件考案1の考案特定事項において、「化粧フィルム層」について、素材が「2軸延伸ポリプロピレン」であるとの限定、及び、「防滑フィルム層」について、素材が「低密度ポリエチレン」であるとの限定をさらに付したものであるところ、甲1考案は当該特定事項を備えるものではないから、本件考案2と甲1考案とは、「防滑フィルム層」に係る上記相違点1を踏まえると、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
【相違点2】
本件考案2では、「化粧フィルム層の素材が2軸延伸ポリプロピレン」であるのに対し、甲1考案では、プラスチック化粧皮膜102の素材が明らかでない点。
【相違点3】
本件考案2では、「該化粧フィルム層の表面に積層され、かつ透明または半透明の合成樹脂からなる防滑フィルム層」を備え、「防滑フィルム層の素材が低密度ポリエチレンである」のに対し、甲1考案は、そもそも防滑フィルム層を有していない点。

上記相違点2について検討する。
目的に応じた好適材料の選択は、当業者が適宜になし得ることであり、甲2記載の技術的事項は、表面保護フィルムを印刷シートに圧着してなる床用装飾シートにおける「印刷シート」の材料を「ポリプロピレン」とし、必要に応じて「2軸延伸」したものを用いるものであるところ、当該「印刷シート」と甲1考案の「プラスチック化粧皮膜102」とは、床面上で使用されるシートにおいて、模様が印刷(プリント)される層である点で共通するから、甲1考案の「プラスチック化粧皮膜102(化粧フィルム層)」の素材を「2軸延伸ポリプロピレン」として、上記相違点2に係る本件考案2の構成とすることは、当業者が適宜になし得たことである。

上記相違点3について検討する。
甲3記載の技術的事項は、床材を保護する保護シートの表面に防滑性を含む防水性、防汚性を保持するために設けられる保護層の材料として「低密度ポリエチレン」を使用するものであり、技術常識を踏まえると「低密度ポリエチレン」は「透明または半透明の合成樹脂からなる」ものといえるから、甲3記載の技術的事項における「保護層」は、上記相違点3に係る構成における「透明または半透明の合成樹脂からなる」「素材が低密度ポリエチレンである」「防滑フィルム層」に相当するところ、甲1考案における「継合せタイル」においても表面の滑りが良すぎないよう適度な防滑性が要求されることは自明であるから、甲1考案において甲3記載の技術的事項を採用し、甲1考案の「プラスチック化粧皮膜102」の表面に「低密度ポリエチレン」を材料とする「保護層」を積層して、上記相違点3に係る本件考案2の構成とすることは、当業者がきわめて容易になし得たことである。

したがって、本件考案2は、甲1考案、甲2記載の技術的事項及び甲3記載の技術的事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

(3)本件考案3について
本件考案3は、本件考案1又は本件考案2の考案特定事項に「前記発泡性軟質合成樹脂の素材が、発泡エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂で、前記化粧フィルム層の表面には木目柄がプリントされ、前記ジョイントマットの防滑フィルム層側には、エンボス加工が施された」との限定をさらに付したものである。
本件考案1に上記限定事項を付した本件考案3についてみると、甲1考案における「木目など模様をプリントしたプラスチック化粧皮膜102」は、上記限定事項における「表面には木目柄がプリントされ」た「前記化粧フィルム層」に相当するから、本件考案3と甲1考案とは、本件考案1との相違点である上記相違点1に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
【相違点4】
本件考案3は、「発泡性軟質合成樹脂の素材が、発泡エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂である」のに対し、甲1考案では、発泡性軟質合成樹脂の素材が発泡エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂であることは特定されていない点、
【相違点5】
本件考案3では、「ジョイントマットの防滑フィルム層側には、エンボス加工が施され」ているのに対し、甲1考案は、そもそも防滑フィルム層を有していない点。

上記相違点1については、上記(1)で述べたとおりである。

上記相違点4について検討する。
目的に応じた好適材料の選択は、当業者が適宜になし得ることであり、甲4記載の技術的事項は、甲1考案と同様のマットにおいて、気泡を含むポリマー成形体からなり、基材ポリマーとしては、形状復元力に優れるエチレン酢酸ビニル共重合体が特に好ましいとするものであるから、甲1考案における「弾性プラスチック基材101(マット本体)」の素材を「発泡エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂」として、上記相違点4に係る本件考案3の構成とすることは、当業者が適宜になし得たことである。

上記相違点5について検討する。
甲2記載の技術的事項は、表面保護フィルムの最表面である表面保護層の表面上にエンボス加工により凹凸形状を形成することで、表面保護フィルムの滑り性を適度にして歩行する人のスリップを防止する技術であり、当該「表面保護層」は、上記相違点5に係る構成における「エンボス加工が施され」た「防滑フィルム」に相当するところ、甲1考案における「継合タイル」においても表面の滑りが良すぎないよう適度な防滑性が要求されることは自明であるから、甲1考案の「プラスチック化粧皮膜102」の表面に「エンボス加工」により凹凸形状を形成した「表面保護層」を積層するようにして、上記相違点5に係る本件考案3の構成とすることは、当業者がきわめて容易になし得たことである。

したがって、本件考案3は、甲1考案、甲2記載の技術的事項及び甲4記載の技術的事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

第6 まとめ
以上のとおりであって、本件考案1ないし3に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、実用新案法第41条において準用する特許法第169条第2項の規定で更に準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2021-07-05 
結審通知日 2021-07-08 
審決日 2021-07-26 
出願番号 実願2016-4387(U2016-4387) 
審決分類 U 1 114・ 121- Z (E04F)
最終処分 成立    
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 森次 顕
長井 真一
登録日 2016-10-26 
登録番号 実用新案登録第3207590号(U3207590) 
考案の名称 ジョイントマット  
代理人 白井 重隆  

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